謎のプリンス/16~20章

Last-modified: 2021-09-22 (水) 05:55:18
 

16章

ムフニャ

■日本語版 16章 p.15
「ムフニャ?」みかんの皮を剥きながら、コックリコックリしていたおじさんが言った。

■US版 p.
“Mphf?” said Mr. Weasley, whose head had been nodding over the satsuma he was peeling.

■試訳
「んん~?」みかんの皮を剥きながら、居眠りをしていたおじさんが言った。

■備考

  • ウィーズリー家でセレスティナ・ワーベックの歌が流れているシーン。
  • Satsumaを「さつまいも」と訳さなかっただけマシ…なのか?
  • しかし「ムフニャ?」はやめてほしいな。
  • 「ムフニャ」もひどいが、「コックリコックリしていた」ってのも幼稚園児向けの本みたいでなんとも…
  • ちなみに、Satsuma(日本のみかんと同じ)はイギリスのスーパーや八百屋でほぼ一年中いつでも買える。(旬はもちろん冬)
    オレンジとかより簡単に皮がむけるから、Clementine(Satsumaとオレンジをかけあわせたもの。みかんと同じような大きさで、もっと甘みがつよい)や、
    バナナ、りんご等と並んでよくランチボックスに入れられたりする。
    クリスマスイブにはプレゼントを届けてくれたサンタクロースの為にミンスパイ(ドライフルーツがフィリングになってるクリスマス用の小さなパイ)と
    グラスに入れたポート酒と一緒にSatsumaを暖炉の前に置いておく習慣もあるぐらいイギリス人にとってすごく身近な果物。


誤逮捕

■日本語版 16章 p.15
『三件逮捕』と言えば『三件誤逮捕して釈放』より聞こえがいい

■US版 p.
‘three arrests’ sounds better than ‘three mistaken arrests and releases’

■試訳
『三件逮捕』と言えば『三件誤認逮捕して釈放』より聞こえがいい

■備考

  • 「誤逮捕」は「誤認逮捕」の事だよな。


17章

目をグリグリさせた

■日本語版 17章 p.47
ハーマイオニーは、先に立って込み合った談話室に入りながら、呆れ顔で目をグリグリさせた。

■UK版 p.329
said Hermione, rolling her eyes as she led the way into the packed common room.

■試訳
呆れたように目を天井に向けた。

■備考

  • ハーマイオニーの「目グリグリ」は、ロンでおなじみのrolling one's eyes(呆れたように目を天井に向ける)の誤訳。


コロコロ笑い

■日本語版 17章 p.47
ハーマイオニーはコロコロ笑い、

■UK版 p.329
Hermione gave a tinkling laugh and said,

■備考

  • 「コロコロ笑う」と訳されたのは、tinkling laugh.
    tinkling はベルの音だけど、高い声で小さく笑う感じか。
  • かわいらしい笑い声を「鈴をふるような」ということがある。
    あと屈託なく朗らかに笑うことを「ころころ笑う」ということがある。
    「鈴のようにころころ笑う」はそれらを混ぜてしまった変な感じだよ。
  • ハーマイオニーはロンとラヴェンダーが抱き合うのを見て
    わざと声を上げて笑ったんだと思う。
    まあ「コロコロ」くらい見逃せなくはないが、
    その前後も微妙な訳ばかりだからこれも目につくんだね。
  • ころころ笑うのは、屈託ない感じで響きが良い笑い声を表現するのが普通だから
    このシーンでは相応しくないような・・・昭和な感じもするし
    「かん高い声で笑い」とかの方が雰囲気に合ってると思うけど。
    「まあチリンチリン」と笑ったとか訳されるよりはマシか…


ロックをかけ合っている

■日本語版 17章 p.48
ロンとラベンダーが、レスリング試合よろしく立ったままロックをかけ合っているのを(略)

■UK版 p.329
Leaving Ron and Lavender locked in a kind of vertical wrestling match,

■試訳

  1. 締めつけ合っている
  2. 固く抱き合ってる

■備考

  • 「ロックをかけ合ってる」は lock をそのままカタカナにした訳。
    自然に訳すなら「締めつけ合っている」や「固く抱き合ってる」だろう。


ハーマイオニー、だめかな

■日本語版 17章 p.48
「あのさ、ハーマイオニー、だめかな――?」

■UK版 p.329
‘Look, Hermione, can't you-?’

■試訳
「ねえ、ハーマイオニー、頼むから――」

■備考

  • 「ウォンウォンはどうだったの?」とハーマイオニーに聞かれて、ハーマイオニーとロンの冷戦状態に困ったハリーが仲直りして欲しくて何度も言うセリフ。
  • 「だめかな?」じゃ何のことかわかんないね。
    「ねえ、ハーマイオニー、頼むから――」とかすれば仲直りを懇願してるとわかりやすかったのじゃないかな。


ヒョー!

■日本語版 17章 p.54
「ヒョー!」シェーマスは驚いたように声を漏らした。

■UK版 p.333
“Whoa!” whispered Seamus,

■試訳
「すげえ!」

■備考

  • フリットウィックの授業中のシーン。
  • シェーマスの「ヒョー!」は‘Whoa!’ 「すげえ!」みたいな間投詞。
  • ヒョーはないヒョーは。いつの時代だ。


18章

二月が三月に近づいた

■日本語版 18章 p.102
二月が三月に近づいたが、天気は相変わらずだった。

■US版 p.
February moved toward March with no change in the weather except

■試訳
二月も後半になり、もうすぐ三月だというのに、(略)

■備考

  • 「二月が三月に近づいた」は他の本では聞いたことがない表現。
    「二月も後半になり、もうすぐ三月だというのに、天気は相変わらずだった。」の方がしっくりくる。


19章

夕方だった

■日本語版 19章 p.118
夕方だった。窓にはカーテンが引かれ、静かな病棟にランプが灯っている。

■UK版 p.374
It was evening; the hospital wing was quiet, the windows curtained, the lamps.

■試訳

  1. 日はすっかり暮れていた。
  2. 夜だった。

■備考

  • 毒入りの蜂蜜酒を飲んで病棟に運ばれたロンの元に双子が訪れるシーン。
  • ハリーたちが入れてもらえたのは8時。双子が来たのはさらに10分後。
  • ホグワーツは日照時間が四季によって大きく違うスコットランドにあるらしいが、この日(ロンの誕生日)は春分に近い3月1日。
  • 8時といえばとっくに日が暮れているはず。「夕方だった」とするのは変。
    eveningはだいたい「日の入りから就寝」までの時間をさす言葉。ここは「日はすっかり暮れていた」「夜だった」としていいと思う。
  • 電子版では「その日の夜。」に修正されている。


バッチイやつら

■日本語版 19章 p.148(地の文とドビーのセリフは省略)
「バッチイやつらがつかみ合い。パックンバックン、ポックンボックン――」
「――ケッポレ、カッポレ!」
「ヒッパレ、ツッパレ!」

■UK版 p.393(地の文とドビーのセリフは省略)
‘Look at the ickle creatures squabbling, bitey bitey, punchy punchy ―’
‘―kicky, scratchy!’
‘Tweaky, pokey!’

■備考

  • ピーブスがドビーとクリーチャーのケンカをはやし立ててるシーンだが、邦訳だと伝わってこない。
    「ケッポレ、カッポレ」に至ってはどういう意味かさえ分からない。
  • ickle creatures squabbling=チビどもの小競り合い
    bitey=biting(咬む) punchy=punching(殴る) kicky=kicking(蹴る)
    cratchy=scratching(ひっかく) tweaky=tweaking(つねる) pokey=poking(突く)
  • チビどもがババッチイって言葉になったって事ですか…


ハーフネルソン

■日本語版 19章 p.149
「うん」ハリーは、クリーチャーの萎びた腕をハーフネルソンに締め上げながら言った。

■UK版 p.394
‘Yeah,’said Harry, twisting Kreacher's wizened arm into a half-nelson.

■試訳
「うん」ハリーは、クリーチャーの萎びた腕をねじ上げて羽交い締めにした。

■備考

  • ドビーとクリーチャーのケンカを煽るピーブズを、ハリーが呪いで黙らせる場面。
  • ハーフネルソンって何?
  • half-nelsonていうのはレスリングの技らしい。
    腕を背後から相手のわきの下に入れて、手を首の後ろに持っていく技(ジーニアスより)
    full-nelsonやquarter-nelsonていう技もあって、nelsonシリーズは首固めらしい。
  • …でもこんなこと、格闘技に詳しい読者じゃないと普通は知らないよねえ。
  • ハーフネルソンは日本語では通常「羽交締め」という了解でいいのでは。
    これを調べなかったのはやっぱり訳者の怠慢ぽいな。
  • 読書の途中でわからない言葉が出てくると現実に引き戻されて白けてしまう。
    ハーフネルソンだのフリー・エージェントだの単語をカタカナにしただけじゃ翻訳にならないよ。
    わかんなきゃ検索しろはあんまりだよ。
    なるべく誰にでもすぐわかるような言葉に置き換えてくれないと。
  • 電子版では「「うん」ハリーは、クリーチャーの萎びた腕を羽交締めに締め上げながら言った。」に修正されている。


20章

文章の弱いところ

■日本語版 20章 p.158
ハーマイオニーは答えずに、ハリーの文章の弱いところを、大儀そうに削除していた。

■UK版 p.399
She did not answer, but merely crossed out a few of his feebler sentences in a weary sort of way.

■試訳
ハーマイオニーはただ面倒そうな様子でハリーの文のまずいところに線を引いて消していた。

■備考

  • 言いたいことはわかるけど、文章が弱いとは言わないでしょう。
  • 「文章が弱い」は説得力がないみたいな意味で使わなくはないと思うが「まずい」とかの方がわかりやすいかもね。
    ここは読者のわかりやすさを考えずfeebleを直訳したような感じもある。
  • あとmerely(ただ)やcrosseed out~ sentences(横線を引いて消す)とかの語の意味もできるだけ省略しない方が様子がわかっていいと思うけどなぜか訳出されていないね。
    いい加減な仕事って感じがする。


悪文

■日本語版 20章 p.186
「(略)わたくしが見てきた世の中では、わたくし流の魔法より愛のほうがはるかに強いものだという、あなたの有名な見解を支持する者は皆無だった」

■UK版 p.415
‘(略)But nothing I have seen in the world has supported your famous pronouncements that love is more powerful than my kind of magic,(略)’

■試訳

  1. 「(略)私が調べたところによると、魔法より愛のほうがはるかに強いものだと言う、あなたの有名な見解を支持する物は皆無だった」
  2. 「(略)私が得意とするような魔法より愛の方が強い、それがあなたの有名な説でしたね。でも私が見てきた限り、この世の中にその説を裏付けるようなものはありません」

■備考

  • ヴォルデモートが教職を求めてダンブルドアの所に来る場面。
  • 意味不明な文。わたくし流はどこにかかるのか。
  • 原文ではnobodyじゃなくてnothingだから、「支持する者」じゃなくて「物」となるはず。
  • 「支持する者は皆無」としたのはいい加減訳というかほとんど誤訳というか。
    支持する「人」ならダンブルドアのまわりにたくさんいるのは明らかなわけで。
  • 二つ以上の関係代名詞(省略されているのもあるが)で繋いでいるような複雑な英文は
    二つに分けたほうが訳しやすいし意味も通るものになりやすいと思うのだが。
  • 電子版では「わたくしが見てきた世の中では、わたくしが頼みとする魔法より愛のほうがはるかに強力だとするあなたの有名な見解を裏づけるものは、何もありませんでした」に修正されている。


博識ですね

6巻における代表的な誤訳を参照。


できることならそうしてやりたい……できることなら……

■日本語版 20章 p.189
しかし、トム、わしはできることならそうしてやりたい……できることなら……

■UK版 p.417
But I wish I could, Tom, I wish I could...

■試訳
しかし、トム、わしはできることなら今でもそうしてやりたい……

■備考

  • 原文は単純な仮定法が使われています。
  • トムに無理やり罪を償わせることができた時代は遠くなってしまったけど
    「(今でも)それ(償わせること)ができたらよかった(でもできない)」というのがダンブルドアのセリフの意味です。
  • 邦訳もあながち間違いではないですが、日本語の文章力のある人なら内容をわかりやすくするため「そうしてやりたい」の前に「今でも」を入れたと思います。


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