読者を欺く(驚かす)ということ、その分類と構造説明

Last-modified: 2016-03-15 (火) 07:23:03

読者はミステリに騙されたがっているのか??
それとも読者はミステリを暴こうと躍起になっているのか??

気持ちよく騙された事が印象に残るミステリもあれば、自らの推理で気持ちよく真相を暴けたことで心に残るミステリもある。
今回は、この前者の騙される・してやられたといったミステリの騙しの構造を分析してみるとともに、自分の感情をみつめ、どういう騙しが好ましいかも考えてみたい。

思うに、だまし(隠匿)とは非常に厄介極まりないものである。言い換えるならそれは、『作者が用意した真相に読者が辿り着けないようにする仕掛け。』ということになるが、
わかるわけないじゃん!!や、そんな風に隠されていたなら見つけられるわけがない、ずるいというように”ほぼ気づけない”レベルだと非難されるだろうし、気づきやすいレベルだと逆に簡単すぎて、謎の評価を貶める。


別記事で書いたが、推理とは以下のプロセスで構築されており、このどれかを錯誤・隠匿することで論理の誤りを引き起こし、真相に辿り着けないようにするのでアル。
前提 ここにいるメンバー全員にアリバイがある
推論 ここにいるメンバーに犯行は行えない。
結論 メンバーの中に犯人はいない。


例えば、アリバイトリックが用いられており、アリバイのないメンバーがいる。あるいは、メンバーに隠れてや二人一役などで、自由に動ける別の人間がいたなど、前提を誤認させるケースや、
電話しながら殺害を行う。早業の殺人を行うといったアリバイがあっても犯行可能な状況を作り、推論で誤認させるケースもある。
あるいは、メンバーに犯行は行えないかもしれないが、共犯として事後処理や事前に被害者を誘導したりと、共犯関係の犯人はいることもあり、導かれた結論が誤らせるケースもある。



仕掛けの種類は様々あるが、基本的にはこの3点に関わる騙しや隠匿である。
例えば、叙述トリック等は、Aの性別や年齢を”勘違い”させたり、全く気づかせなかったりするような前提に関わるものである。
上述のように”アリバイトリック”などでは、どの点でも騙し隠匿ができる。一方、物理トリックや密室トリックなどは、前提は明確だが推論(方法)を考えさせるパターンが大半である。




錯誤・隠匿は次のような手法をとる。
錯誤

  • 違う意味にとれるような情報にする。
  • 曖昧な情報にし、判断解釈の余地を残す。
  • 嘘を言わせる。(嘘の発言と推量できるようにしておく)



隠匿

  • 必要な情報を、極力表現しない。露出度を減らす。
  • 多くの情報を描き、必要な情報を埋もれさせる。
  • 情報を分割・小分けにして、収拾結合しないと解釈できないようにする。
  • 迂遠な情報を提供して、解読・推測をしなければ必要な情報に変換できないようにする。







騙し・隠匿のパターン別の所感

上述の錯誤・隠匿を3点に施した場合を分類して検討してみる。

  • 前提を騙す、隠匿する。
    • 前提を見落としていた為、犯人を絞り込めなかったケース(見落とし)
    • 前提をわからないと、そもそも推理・推論もたてられないようなケース。物語真相系ミステリ



前者と後者のケースがあり、物語性に重きを置いた場合だと後者のケースが多くなり叙述トリックがそのまま真相になる。
実は別人だと思っていた人が最後に同一人物と分かるなど、言い換えるなら、事件を解く、推理するのではなくて、この物語の本当の意味や裏側を知ることが出来たか?というミステリである。
一方前者は、彼は眼が悪い(色の区別がつきにくい)等を微妙に隠しつつ、現場に色に関する痕跡を残す事で、AとBのうち色に関して鈍いほうが犯人であるという風に、
犯人条件の1項目を隠匿するパターンである。犯人は○○だった(いた)という嘘のアリバイを用意させるのもここに当てはまるし、多くのトリックのパターンともいえる。



叙述トリックはキライのページでも散々書いたが、叙述トリックに代表されるこの後者の騙し・隠匿は好きではない。
普通に問題なく読んだ後に、最後に、本当の物語は別にありましたといわれても、はぁそうですかと騙し云々以前に、
騙されてすらいない。考えてすらいないから、いきなり問題と答えを同時に見せられたみたいなもので、謎として面白くもなんともない。



例えば、人形がしゃべっている映像を見て、スピーカーでも内臓しているのかとおもったら、機会音声を発声できるお兄さんがしゃべってましたという場合、
どちらでも成立するのだから別段驚くかないだろう。一方、マジシャンがそうするようにタネも仕掛けもありません(当然、なにかがあるわけだが・・・)、を事前に見せ、
問題提起と注意喚起をされたのに、気がつけなかった=おぉ!騙された!わからなかった!となるのだと思う。



推論や結論部分に関わる錯誤隠匿も論じようと思ったが、錯誤・隠匿のミステリ美学(留意点)が書いていく上で整理されたので、枝葉末節は捨てその点をまとめて終わることする。
”錯誤・隠匿”をエンターテイメントにしているマジック(見せ方やショーの演出等の大枠も含めて)はミステリを書く上で参考になる点が多いように思った。






錯誤と隠匿(仕掛け)をするうえでの留意点。

何か仕掛けのある問題を出題し、読者が気持ちよいようにその問題に欺むかれるには、以下を注意する。

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  • タネも仕掛けもないと明示する
    本当は当然あるので、安直に同じ状況を実現可能とする方法が用いられていないことを明示する。

  • 問題を提示する。事件が起きる
    だれが、いったい、なぜ、どうやってと。概要を把握させる。問題点を浮き彫りにする。


  • 読者の認識には残るが、意味解釈に結び付けないような情報を提供する
    ここにちっちゃく書いてますよ。等の認識さえ出来ない(されない可能性の高い)形式は避ける。わかった上で、欺かれることも重要。つまり、錯誤系の真か偽か、1か0かの気づく気づかないより、隠匿系。そしてその中でも2、3,4番目が望ましいと思う。





凶器や侵入ルート、被害者と揉めた人物・・・。事件に関わる様々な情報がある中で、事件現場の校舎体育館トイレで発見された濡れた1本の傘。
何気ないものかもしれないが、学生なら校舎を通って傘など使わずにこれるので、なにか理由があるとか、
自前で用意したものか盗んだものかとか、盗んだものにせよ、後で追及されてもいいよう2本持って登校した人物はいないかとか。
1本の傘という存在を認識できていても、そこから隠れた意味は一見わからない。
そういう意味があったのか! そういう解釈ができるのか! という風に、
欺くというのは、真相や真実、意味をできるだけ多層的に変換・分割をし、純然たるが非常に矮小で些細な事実にまで分割・昇華させることなのだと思う。