怪文書(アーキテクト)

Last-modified: 2019-12-12 (木) 17:03:03
幸せの青いアキちゃん

司令部もかつて私が着任した当時からだいぶ大所帯になり賑やかになっていた
そしてこういう集団には雑多なものから物騒なものまで大小さまざまな噂話が決まって広まるものだ
人形達も例に漏れずそういった類が好物らしく最近はグリフィン七不思議なるものが広まっていた

 

地下11階の肉屋そっぷもっどだの屋上で変身ポーズを試行錯誤するRO635だの倉庫のバッテリーを横領するRFBだの多くは大したこと無い噂話であるがその中の一つに私の興味は吸い寄せられた

 

「幸せの青いアキちゃん」

 

何でも司令部内にごくまれに青いアーキテクトが現れそれに遭遇したものは幸運に恵まれるとのこと
しかしアーキテクトはウサギの巣作戦に出向く度にOPストーリーでトンプソンに棒状の物を咥えさせられる仕事が終わった後16Labに移送された筈…
真相を突き止めるため私はK2製造で枯渇した資源から目を背け聞き込み調査に向かった

 

聞き込みなら人が多く集まる場所だろうと食堂に向かうと450gステーキを満面の笑みで頬張るアキちゃんが目に留まった
まずは彼女に聞いてみることにしよう
「幸せの?青い?私が?私青くなんて無いじゃん!指揮官も私と同じバカになっちゃったの?お揃いだね!」
そういってお代わりを取りに行ったアキちゃんを見送ったが結局振り出しに戻ってしまった
本人が違うというならそうなんだろうがしかしこの噂の出所は…?

 

他の人形に聞こうとしたがみなそわそわと何かを探している様子で何とも声が掛けづらい
そしてよく見ると皆が思い思いの色のペンキ缶を携えていた
一体何が始まると言うんだ…?

 

その時通路の奥から何やら泣き喚く声が聞こえてきた
私が振り向くより先に人形達は我先にとペンキ缶片手に駆け出す
通路から走ってきた悲鳴の主は全身色とりどりのペンキを被ったデストロイヤーであった
人形達は寄ってたかって彼女に手持ちのペンキをぶつけ思い思いの色に染め上げていく
言葉こそ無いものの皆の意思が一つに纏まった感動的な空間がそこにあった

 

そんな中遠巻きにカメラを回すものが一人ーーカルカノの姉の方がいた
ちょうど13時のチャイムが鳴ると人形達は一斉に散り散りになりデストロイヤーは泣きながら彼女に近づいていく
彼女は待ってましたとばかりに巨大な白紙を広げるとデストロイヤーはその上に大の字に倒れ込んだ
一部始終を眺めた人形達から歓声と拍手が広がる
三枚目のステーキに手を着けたアキちゃんと私はただ呆然とその様子を眺めていた

 

何でもカルカノ姉はアート作品の依頼を受けたらしくそこにデストロイヤーの人拓を閃いたらしい
ただ作るのでは詰まらないので人形達にペンキを掛けさせ思いもよらない色彩を作ることにしたのだそうだ
人形達には今日の13時を期限としデストロイヤーにペンキを浴びせたら報酬を与えるとして釣ったらしい
デストロイヤーは二つ返事で了承したらいきなり青のペンキを掛けられて彼女に問いただしに行ったが彼女の余りにまぶしい笑顔と作品への期待を受け断るに断れなくなってしまったらしい
つまりは青のペンキを浴びたデスちゃんにペンキを浴びせれば報酬が貰えるという話が婉曲して伝わったのだろう
デスちゃんを慰めながらシャワーを浴びに行ったカルカノ姉を見送りながら私はペンキがぶちまけられた通路に目をやった
誰が掃除するんだこれ

やさしいかもしれないアキちゃん
 

あたしはバカだが無能ではない。
既に死んだものとして鉄血のネットワークから切り離されたのか、オーガスに接続できないがそれでもやれることはやってる。
そう思って決めた目標は指揮官だ。今となっては何の思い入れもないが頑張って作ったジュピター基地を台無しにしてくれた張本人が同じ施設の中にいるのだ。
少し仕返しをするくらい、可能なら戦略的効果のある策をと思うのは当然だろう。
鉄血にいた頃、グリフィンの指揮官は人形性愛の変態らしいと聞いていた。
それならば、アタシに惚れさせて言いなりにさせるのもできるのでは。
やるつもりは毛頭ないが、そんなことも考えていた。
そうしている間に、基地の指揮官があたしと面会する時がきてしまった。
せっかくだし、一芝居うってみようじゃない。
みてなさいよエージェント。こいつを落としてあたしを見捨てた事後悔させてやるから。

 

指揮官が入室してくるが、護衛の人形はいない。
各モジュールに制限をかけられてはいるが、機会があればそのまま手に掛けられるのに何を考えているのか。
椅子に座り深く息を吐くと、そのまま無言の時間が流れる。
「…あんた疲れてるの?顔色悪いよ?ちゃんとご飯食べてる?」
我慢ならずにあたしから切り出した。
すると指揮官は、雷に撃たれたかのように目を見開いて固まった。
「…いや、めちゃくちゃ暗いしなんか大変そうだなーって…」
固まったままの指揮官が涙を流した。
「えっ…ちょっと、急に泣かないでよ…」
急展開すぎてどうしていいか分からない。混乱した電脳に任せて抱きしめて落ち着かせた。すると、あたしに抱きついたままずっと泣いていた。
よく見れば四肢の動きがぎこちないし、怪我でもしているのだろう。
弱った人間の相手は経験がない。デストロイヤーにしてたように頭を撫でることしかできなかった。
「何があったか知らないけど、元気だしなよ。基地の偉い人がそんなんじゃだめだよ?」
あたしを見つめる指揮官の瞳には、大切なものを見つけたような、そんな光が宿っていた。
一応敵なんですけど…そんな目で見られても困るっていうか。

 

それからしばらく経った。
あたしは処分も拷問もされず、質問に答えるだけの生活をしていた。
仕事はなく、知ってることを話すだけで寝食には不自由しない。鉄血にいた頃よりいい環境。
それに、あの指揮官がたまに雑誌やゲームと一緒にアイスを持ってきてくれる。
ささやかながら娯楽もあるし、これは最高の居場所じゃないかとすら考え始めている。
「うちの人形が転属する時置いていったやつでな、これがなかなか難しいんだぞ?」
時代を感じる対戦ゲームだ。
エリート人形の動作や処理速度の精確さは人間の相手になれない程なのに、指揮官はあたしと遊んでる。
そろそろいいかな…無限コンボ。
「ぁ゛ー……、アーキテクトは強いな!」
指揮官は楽しそうに笑っている。それにつられて、あたしも笑ってしまう。
「人間が人形に電子ゲームで勝てるわけないじゃん!…へへ、また来なさいよね。」
「ちくしょう…次は勝つからな」
いつの間にか平然とまた今度、次は、と遊ぶ約束をする仲になっていた。
なかなかどうして、悪くない

 

そうして一月が過ぎた頃。
夜も遅い時間に指揮官が独房を訪ねてきた。
「こんな事を頼むのはどうかと思うんだが、ここで一晩寝かせてくれないか」
えっ、それはつまりそういう…
思わず指揮官を見つめてしまう。いやあたし人形だし!できるけど!人形だし!!そういえば人形性愛の変態だって…
ふと、見えるものに違和感を感じた。
よく見れば首を絞められた跡があるし、左腕は力なくぶら下げたままで微塵も動かしていない。
前々から気になってはいたが、基地内で暴力を振るわれているのだろうか。
今の指揮官に必要なのは本当の意味での休息だ。
期待したあたしバカみたいじゃん…。
「…ゆっくり休むといいよ、あたしがみててあげる。」
また指揮官は声を上げずに泣いた。
「ありがとう…」
そうして夜は更けていく。
もしエルダーブレインが行動を起こさなければ。
人と共に暮らし、彼を守る事ができたかもしれない。それが、ほんの少し悔しかった。

添い寝アキちゃん

「指揮官~今日の奉仕活動終ったよ~……?」
私がデータルームに入ると、グリフィンの人形達から何かと慕われてる指揮官と呼ばれる士官は、今にも倒れそうな顔で仕事をしていた。
「顔色が悪いよ?ちょっと休も?」
室内のソファーに座りながらポンポンッと慣れた手つきで膝を叩くと、指揮官は私の膝に頭を載せながら申し訳なさそうに私を見つめてきた。
「ごめんアキちゃん…」
「いいって~いいって~」
私がグリフィンに投降した日…こちらでは低体温症と呼ばれる作戦から指揮官は激務続きのようだ。お偉いさんの会合に作戦指揮をやりながら人形達の相手。とにかく激務続きで気が休まる時間が無さそうだ。
「……何で敵の私にも優しくしてくれるの?」
「アキちゃんは悪い子じゃなさそうだから…」
ちょっと気になる事を聞いてみた。
一応は敵だ、捕虜扱いだけど私が困らない程度には自由はあるし、他の人形達と扱いは対して変わらない。
本来なら敵同士な筈の私を、同じ人形だからと平等に接してくれる。他人からは人形愛好者の変態だと馬鹿にしてる輩もいるようだが、これがグリフィンの人形達から慕われてる由来だろう。私も悪い気はしない。

 

ふと、指揮官が握っていたタブレットが目に入り、それをそっと手から抜き取る。特殊な認証機構は組み込まれてはいないようで、これを持ち帰ればエージェント辺りは大層喜ぶだろう。
「今は仕事の事なんか考えないで休みなって!」
端末をそっと机の上に置きなおしたら、だんだん指揮官の呼吸は深くなり、ついには寝息に変わっていった。
少しの間だけでも一時の間はグリフィン・鉄血関係なく、平等な関係でいたいと、無防備な寝顔を晒す人間を見つめながら心に思った。
指揮官の頬に手を添え、唇にそっと唇を重ねた。今の光景をグリフィンの人形達に見られたら面白いだろうなーと内心ワクワクしながら、愛おしそうに額を撫でる。
「ゆっくり休んでね。今は私が側にいるから」
目覚めるまでは私が守ってあげよう、起きたら一緒にコーヒー飲むのもいいかも。
それまで、暫く寝顔でも見てようかな。
私の嫌いじゃない、変わった指揮官さん。

バイトの後に

「へー、夜のプールも悪くないもんだねー」
隣にはサメコスプレのアーキテクト…ではなく、黒を基調にした水着姿が水面をパチャパチャと揺らしている。いつその水着用意したんだ。
「これー? すくないバイト代で貯めたんだ~ほれほれ~?似合ってる~?」
一応捕虜だって事は忘れないでね、とは言ったが浮かれ気味のアーキテクトは聞く耳を持たない。ちょっと泳いでくるーと発言して立ち上がっと思ったら隣に座って体を預けて来た。アキちゃん近い近い。
「ねぇ指揮官~似合ってるか教えてよ~」
腕を肩に回しながら更に密着してくるアーキテクト。そうはぐらかしても言葉を必死に考えるが答えは見つからない。こちらを見つめて来るアーキテクトに負け、思わず本音が出てしまった。
……似合ってる。
「そっかそっか~いや~嬉しいかも」
パーッとアーキテクトに笑顔が花開き、満面の笑みが溢れる。そのままアーキテクトは上目遣いで更に近づいて来て、彼女の柔らかい感触が腕に伝わった。
「……触って確かめても、いいよ?」
そういうとアーキテクトはそっと手を重ね、合わせて唇を近づけてk

除夜の無礼講 その後

あ、指揮官じゃん。えぇっと、メリークリスマス? 何か外は騒がしいようだけどまた襲撃?
ふーん、ダイナゲート達がプレゼントをねぇー…あ、ごめんね部屋汚くて。
この独房を少しでもクリスマスっぽくしようとしたんだけど私絵心無くてこんな感じに…図面考えたりするのは好きなんだけどねーハハ…
でさ指揮官、その包みはー私にプレゼント?
中身は……毛布じゃん。私が寒そうにしてたから…?
捕虜の私なんかにプレゼントしちゃっていいのかな~変な噂立っても知らないよ~。
まぁいいや、貰ってあげる!後ケーキがあったら~……って何で用意してんの……気配りの達人か何か目指してる訳?
……まぁいいけど、せっかくだからありがたく頂くわ、お人好しの指揮官さん!
ここ退屈だからまた私に仕事降ってね!

 

……ねぇゲーガー、私プレゼント二つ貰っちっゃた。
案外さ捕虜生活も悪くないかも。