怪文書(スケアクロウ)

Last-modified: 2019-11-12 (火) 19:34:47
ハロウィン

指揮官の部屋がノックされた。誰かは知らないが用事はわかっている今日はハロウィンなのでお菓子をねだりに来たのだろう。
その日の事務作業に追われドアを見ることもなく入っていいぞと返事をする。ドアが開き足音が机の前でピタリと止まった。
黒く長い靴に黒のスカート…はてどこかで見た覚えはあるが思い出せない。僅かに視線を上げると黒の腕。思い出した!こいつは鉄血の
「トリック・オア・トリート、グリフィンの指揮官。お菓子を貰いに来たよ。」
スコーピオンを尋問しM4A1の居場所を突き止めた鉄血人形SP65スケアクロウが私の目の前に立っていた。
いつのまに、いやどうやってこの基地に侵入したのか。副官も今はハロウィンのパーティに参加させたためこの場には私1人。
この場を切り抜ける方法を頭の中で駆け巡らせた時、スケアクロウは突然吹き出し、笑い始めた。
「やだなぁ指揮官あたしだよ、M950A。どう?この仮装似合ってるでしょ?」
止まった息を全て吐きだし安堵する。ハロウィンは仮装もするということをすっかり忘れていた。なんでもない彼女は鉄血ではなくキャリコだったのだ。
「似合っているなんてもんじゃない。まるでスケアクロウ本人じゃないか…おかげで心臓が止まるかと思ったぞ。」
「まぁねハロウィンでは仮装をするらしいから模範となるようしっかりと作りこんだの。毎日スケアクロウのイメージトレーニングまでしたんだから…
それでグリフィンの指揮官、ハロウィンには何をするかご存じ?」
どうやらキャリコはこの日のために演技の練習までしていたようだ。彼女の几帳面な性格で肝を冷やすことになるとは思ってもいなかった。
確かに髪型は少し似ているが仮装のために黒に染めるなんて…メイドの任務の時に髪を染めてると言ったこと気にしているのだろうか?
あの時キャリコは怒っていたし改めて謝る必要があるかもしれないな。いつもと違う口調もスケアクロウを意識してのことだろう。
今日はお祭りなのだからたまにはキャリコに付き合うのもいいのかもしれない。
「鉄血もハロウィンをするなんて知らなかったよ。人間の文化にも詳しいようだ。お菓子を渡せば命は助けてくれるのか?」
「あいにく敵から物を貰うつもりなんてありませんわ。ちょうどグリフィンの人形たちはパーティで浮かれあなたは1人で絶好の機会、
私からは"イタズラ"を差し上げますわ。寝室に向かいましょう1年に1度しかできないのですから…。」
どうやらキャリコは仮装したまますることが目的だったらしい。1年に1度だなんて大げさなと心の中で笑った。
初めから基地にいたわけではないがキャリコとの付き合いは長い。確かスコーピオンと同じぐらいだったか…しかし人形の中で唯一指輪を渡した仲なのでそういうこともたくさんしている。
わざわざ夜、皆がいない時間に訪れたのもこれが目的なら仕方ない。気合の入った仮装なのだから皆に見せればいいのに勿体ないと思う。
キャリコに誘われるまま寝室に向かいベッドに2人並んで腰を下ろした。
「する前に聞いておきたいんだけど最中はやっぱりキャリコと呼んだほうがいいよね?スケアクロウと呼ばれても雰囲気は出ないだろう?」
演技とはいえ、女性と体を重ねるときに他の女の名前を呼ばれても気まずいだけだろう。第一そこまで徹底できるか自信はない。しかしキャリコの返答は意外なものだった。
「スケアクロウって呼んで。あたしが演技するのは今夜だけなの仮装ができる今夜だけ…。」
よほど練習をしたのだろうキャリコはいつも以上に真面目な顔をしていた。
「そうだな演技の練習したんだもんな今夜は付き合うよ。ただし後で浮気したとか怒るなよ?」
「練習…そう練習したんだよ凄くたくさんね。さぁ始めましょうグリフィンの指揮官。名前だけは間違えないように…私の名前はスケアクロウ。
まずは愛の言葉を紡いで口付けを交わしてもらいますわ。今宵は私の全てをみせるのだから…。」