怪文書(G36)

Last-modified: 2019-04-24 (水) 17:31:43
G36

「ご主人様朝でございます」
いつも通りの朝気持ちよさそうに眠る主人に声をかけるとまだ眠いとでも言うように身をよじりシーツに隠れてしまう…折角寝顔が見られるのに隠れてしまうのは意地悪です
「朝食の準備も済んでいます早く召し上がっていただかないと冷めてしまいます」
先日美味しいと言ってくれたソーセージを用意したのに…またあの笑顔を見せて欲しい
「ご主人様起きてください……起きてあなた」
まだ起きないだろうと油断してつい言ってしまった…私の顔は真っ赤になっているだろう…お願いまだ起きないで…
祈りながら目線を下げると彼はまだ夢の中にいるようだった
ほっとしたのもつかの間よせば良いのに意地悪心が出てきてしまう
「起きてくれないと…キス…しちゃいますよ」
昨日36Cに見せられた漫画のせいだろう本当に柄でも無い台詞を言ってしまった…
彼は…良かったまだ寝ている…後ろを向いて気持ちを落ち着かせていると不意打ちのように言葉が投げかけられた
「まだ寝てるのにキスしてくれないのか?」
私は振り向きもせず逃げ出した

電話

 空調の稼働音と時折聞こえる寝息、それ以外に目立った音の聞こえない静まりかえった部屋。それだけに突然鳴ったコール音はよく響いた。G36は最初に今が何時かを確かめた。少々手狭になっているベッドの脇に置かれている時計に目をやれば、夜が明けるまでにまだしばらくかかりそうな数字がデジタル表示されていた。
 「……」
 G36は眠たげに目をこする。人間が寝起きに目をこするのは俗に言う目やにを取るためだが、人形にはそんな物は出ない。それらしさ、人間っぽさを演出するためのモーションにすぎないソレをしながら、ベッドから静かに立ち上がる。空調が効きすぎているのか、下着姿では肌寒く、ベッドの下に落ちていたサイズの大きいシャツを羽織った。
 ベッドから聞こえる寝息の主を起こさないように静かに歩く。休眠から目覚めたばかりで負荷がかかっているのか、上手く働かない頭で、書類の束や読みかけの書籍が転がりごちゃごちゃとしている机の上を探る。
 ──たまにはあまり散らかさないように言うべきかもしれない。机に備え付けのスタンドライトを点けると、鳴っているコール音の正体は小型の内線用の端末だと分かった。手に取り、こんな時間にかかってきた用件を聞くべく、G36は少しばかり不機嫌な声色で通話に出た。
 「はい、G36です。ご用件をお伺いします」
 「……あれ?」
 そう聞こえたっきり、十数秒間ほど無言の状態が続く。最初にそれを破ったのはG36の「……あの、ご用件を」という声で、その後に何故か慌てたような声で「と、取り込み中なようですのでまたかけ直します!」と聞こえた直後に通話が切られた。用件は、と聞いただけなのにと釈然としないながらも、相手がああ言っていたのだから良いのだろう。そう思いながら端末を机の上に置いた。ふと目をやれば、飲み終わったコーヒーのカップが3つほど積み重なって、書類の間に置かれていることに気がつく。
 「この人は……まったく」
 ──洗う前に別のを出さないでと言ったのに。
 G36はカップを片付けようと手を伸ばすも、今が何時かを思い出して手を引っ込めた。また明日すればいい。どうせあともう少しでまた起きることになるのだから、と。スタンドライトを消し、ベッドに戻り、シーツを被った。瞳を閉じ、再び眠りにつこうとしている間に、起きてからやることを脳内にリストアップしていく。まず起きて服を着替え、自分の部屋に戻って……主が寝ているのを良いことに、その腕を枕にしながら、G36はまどろんでいった。
  
 
  
 「M1911、どうでした? 射撃場の許可は指揮官から貰えました?」
 「……イングラム」
 「おや、やはりダメでしたか? まぁいくら眠れないからと言って、こんな時間に撃たせてはくれませんか……」
 「……よ」
 「は?」
 「撃ちまくるよ!!!!!」