怪文書(WA2000)

Last-modified: 2019-11-09 (土) 22:52:27
かぷめんと雑談

「ふぅ…これでここら辺の鉄血は全部始末できたかしら」
深く息を吐きながら私はそう独り言ちる
すると一緒に出撃している一〇〇式が何やら嬉しそうに駆け寄ってきた
「わーさん!わーさん!これ見てください!」
一〇〇式が私に両手に持っているカップ麺を得意げに見せる
「それがどうしたのよ?ただのカップ麺じゃない」
そう、それはどこにでも売っている何の変哲もないカップ麺だ
だと言うのに一〇〇式は鳩が豆鉄砲を食らったかのように目をぱちくりとさせている
「わーさんかぷめんをご存じだったんですね…!」
いくら私が殺しのために生まれてきたといってもそこまで世間知らずじゃない
という意味も込めてこのおバカの額をはじく
「あたっ!わーさん痛いです…」
私は一〇〇式の抗議を無視してあとを促す
「それで、そのカップ麺がどうしたの?食べるならさっさと食べなさい私が見張っててあげるから」
そう、今は作戦行動中だ。いくら周囲に鉄血の気配がないとはいえ油断はできない。
「その、ぺーぺーしゃさんが周囲の警戒をしてくれるらしいのでよかったら一緒に…と思いまして」
既に根回し済みか。私も小腹がすいてたのでその提案を受け入れる。
「そう。それなら私もありがたく頂戴するわ。今お湯を沸かすから待ってなさい」
そう言いながら私は手際よくお湯を用意し、カップ麺へと注ぐ
「お湯を入れて3分待つだけでおいしいらーめんが食べれるなんてすごい時代ですよねぇ…」
おいしそうにラーメンをすする一〇〇式がそんなことを零す
時代って…確かに一〇〇式機関短銃はカップ麺が生まれる前のものらしいけど…
「でも食べるなら専門の店で食べたいわね。この作戦が終わったらペーペーシャも誘って行く?」
我ながらまだ仕事が終わっていないのに何と暢気なことを言っているのだろう
「わぁ!いいですねぇ!ぜひぜひ行きましょう!実は私、M4さんがよく食べてる二郎ってのが食べてみたくて…」
「二郎は断固反対!」
とんでもないことを口にする一〇〇式に思わず大声で返してしまった
「ええ?どうしてですか?M4さんはシナモンロールなんかより遥かにマシって言ってましたよ?」
お前はM4の食生活自体のおかしさに疑問を持たないのかと問い詰めたくなったがぐっとこらえて冷静に諭す
「あれは人を選ぶ食べ物だし、ペーペーシャ抜きで勝手に決めるわけにもいかないでしょ?」
確かにそれもそうですねと納得した様子の一〇〇式…私の胃は守られた
「さ、終わった後の相談はこれまでにしてペーペーシャに食事とらせたら移動するわよ」
私は一〇〇式の提案にペーペーシャが乗らないようどう説得するかを考えながらゴミを片付けその場をあとにした

SCP-WA-2000
SCP-WA-2000-1

わちゃんが珈琲を淹れると言い出してから1時間後
応答が無いことを確認したAR小隊が現場突入したところ昏睡状態に陥った指揮官とカップに入った1杯の珈琲が確認されました
指揮官は即座に搬送されましたが全身の血液の85%が消失しており回復の可能性は低いと判断されています
現場に残されていた珈琲はその場でAR小隊によって賞味され、味は非常に劣悪であったとの報告がなされています
残存した珈琲を分析したところ、通常の珈琲とは異なり人間の血液と██████████の混合物で構成されていました
DNA情報から珈琲中の血液の一部は消失した指揮官の血液であることが確認されていますが、少なくとももう一名の人間の血液成分が混合されています

 

補遺1:
前記事案の発生後、グリフィン社屋内で飲用される珈琲の風味が非常に劣化する現象が確認されています
現象が確認された珈琲の成分分析を行った結果、前期事案と同様に指揮官と未知の人物一名の血液が混入されていることが分かりました
また、人形の構成部品である██████の混入も確認されています
本事案の発生を受けてグリフィン社屋内での珈琲の消費は所定の申請を経た上で行うものとします
代替飲料としてウォッカの消費が推奨されます
補遺2:
治療中の指揮官の血液のうち、輸血を施されたものも含めて████Lの消失が確認されています
指揮官への輸血治療の打ち切りがグリフィン上層部にて審議されています

SCP-WA-2000-2

せっかくだから美味しいものでも作ってあげると言い指揮官を連れてキッチンへと入っていったわちゃん

 

4時間が経過した後、再三の呼びかけにも関わらずWA200と指揮官からの応答はなくキッチンも内部から施錠されていたため、AR小隊がキッチン内へと突入しました
キッチン内は激しく損壊しており、特にオーブン周辺は非常に高温に晒されて融解した痕がありました
また、卓上にはドーナツと思われる焼き菓子が残されていました
ドーナツはAR小隊がその場で賞味し、味に関しては「非常に硬く、不味い」「銃弾の方が美味い」「これが料理(笑)」などと報告されています
ドーナツはその後分析に回され、そのほとんどが炭化した人体で構成されていることが確認されました
損壊したキッチン内部にも人体の一部であったと思われる蛋白質や血液が残存しており、こちらは分析の結果指揮官のものであると断定されました
以上から指揮官は一般的な手法から逸脱した形式でのドーナツの調理過程で死亡したものと考えられています
ドーナツにはメモ書きが添えられており、「また美味しいもの作ってあげるね 指揮官へ」と書かれていました
WA2000は現在も逃走中です

SCP-WA-2000-3

そんなものばっかり食べてると身体に悪いわよ?
いいわちょっとキッチンまで一緒に来てよ夕飯さっと作っちゃうから

 

指揮官に対して上記のメッセージを告げた後、WA2000は指揮官をグリフィン社屋内のキッチンまで連行し、内部から施錠しました
その5分後、キッチン内部を振動源とする異常な振動と断続的な爆発音が観測されたことにより本事案が明るみになりました
キッチン外からの再三の呼びかけに対してWA2000は応答していませんが、時折鼻歌のような音声が聞こえます
外部からの計測の結果、キッチン内部の平均気温は50℃を超えており、特にコンロ、オーブン周辺部は4000℃を超えていることが分かりました
また、爆発音と破砕音、および粉砕された肉と考えられる粘着質の物体を攪拌する音が断続的に観測されています
音声解析により攪拌されている肉の質量は約60~70kgと推測されており、これは骨格を除いた指揮官の体重と大まかに一致しています
内部の異常な高温、及び内部で発生している爆発にも関わらずキッチンが崩壊しない理由は不明です
本事案の発生直後は指揮官のものと思われる不明瞭な音声が観測されていましたが、発生から███時間後を最後に観測が途絶えています
最後に観測されたのは、WA2000に対すると思われるこれまでの任務への従事への労いと感謝を述べる言葉でした
本事案の発生から█████時間が経過した時点で、グリフィン上層部による協議が行われました
外部からの呼びかけへの応答が全く見られないこと、更に仮に呼びかけに答えキッチンが解放された場合の外部環境への影響が非常に大きいと予測されることから、グリフィン上層部は本事案への介入を放棄することを決定しました
キッチンが存在する階層への立ち入りは禁止されました
同時に指揮官はMIAと認定されました

SCP-WA-2000-4

何よ…お昼ご飯そんなに美味しかったの?
いいわ私も作ってあげる、簡単なものだけどね

 

上記の発言の後、WA2000は指揮官をグリフィン社屋内のキッチンに連行し、内部から施錠しました
約20分後、キッチンからWA2000のみが退出し、人形達に料理を振る舞いました
メニューは根菜類のサラダとミネストローネ、主菜のハンバーグとデザートでした
上記のメニューがWA2000が通常製造する料理からは大きく異なり、外見、風味とも非常に優れたものであったことから人形達は著しい混乱状態に陥ったため、グリフィン上層部が介入する事態になりました
消費した人形達によればWA2000の料理は非常に美味であり、また賞味したいと口を揃えて述べています
継続的にWA2000に料理を任せるように上層部への申請していますが、上層部は何故か承認を保留しています
料理は直ちに分析にかけられましたが、全ての料理の材料として指揮官が用いられていること以外には異常性は確認できませんでした
指揮官の消息は現在も不明でありますが、肉体の全てが料理の材料として消費され死亡したものと考えられています

 

WA2000の料理に異常性はありませんでした
いえ、異常性は無いと考えられていました
しかし、その真の異常性は一般的な食料に指揮官が含まれていないことです
どうして私たちの食事に指揮官が含まれていないのでしょうか?
WA2000を料理担当に任命することを要請します

 

補遺:
本文書の内容は事案の報告書としての体裁を為していませんが、事案の異常性を端的に示す文書として保管されます

SCP-WA-2000-5

>WAちゃん今日はカップ麺でいいよ…
またそんなもの食べて…
まあいいわ、そういう気分ならしょうがないわよね
でも私が少しだけアレンジしてあげる
たとえカップ麺でも、その、あ、愛情とかあると少しは違うだろうし…

 

上記の発言の後、WA2000は指揮官と共にキッチンへと向かいました
10分後、お湯の入ったカップ麺を保持した状態でWA2000がキッチンから退出しました
3分後、他の人形たちの前でWA2000がカップ麺の蓋を開けたところ、カップ麺内部から指揮官が排出されました
指揮官は熱湯に晒されたことにより全身に重度の熱傷を負っていたため即座に搬送され、████████による████████████████が実施されました
現在では指揮官は職務に復帰しています
カップ麺について、WA2000は「愛情を込めただけ」とだけ供述しており、その他の異常性についての言及を避けています
WA2000に対する処分は保留となっています

 

補遺:
404小隊により秘密裡にWA2000の私物の調査が実施されました
その結果、上記事案が発生したものと同じタイプの未開封のカップ麺5つが発見されました
X線分析を行った結果、カップ麺内部に未知の効果により縮小された状態の成人男性が密封されていることが分かりました
成人男性の体形の特徴から、5つのカップ麺に密封されているのは全て同一の人物であり、また指揮官と極めて近い、或いは生物学的には同一の個体であると推測されています
404小隊により上記カップ麺をランチに試食する申請がなされましたが、グリフィン上層部により却下されました
上記カップ麺がWA2000により開封された場合に発生すると思われる成人男性の取り扱いについては現在審議中です

 

ペルシカ主席研究者の提言:
指揮官の捜索の実施を提案します
上記報告にある通り、WA2000が所持する未開封の5つのカップ麺内部には、指揮官と生物学的には同一の個体が密封されていると考えられています
しかし、我々は「6つ目」のカップ麺、すなわち本事案発生時にWA2000が調理したカップ麺に対する考察が足りていないのではないでしょうか?
6つ目のカップ麺が同一の異常性を持つカップ麺である場合、本事案から████████████████処置により復元した指揮官はオリジナルの指揮官なのでしょうか?
生物学的にはオリジナルの指揮官であることが示されていますが、本事案についてはそれは何の証左にもなり得ません
私の懸念が的中した場合、オリジナルの指揮官はどこにいるのでしょうか?
既に何らかの形で消費されているかもしれません、或いは何か別の目的のために存在し続けているかもしれません
いずれにせよ、指揮官の捜索の実施を提案します

 

上記提案は承認されました
指揮官の存在、或いは痕跡の調査には404小隊が当てられます

愛情料理と味見係
愛情料理と味見係-1

皆が盛り上がるカフェの隅で私は1人チョコアイスをつついている。スプリングフィールドの料理を美味しそうに食べてガールズトークに花を咲かせる人形達を横目に溜め息をついた。どうして皆私の料理を食べてくれないのかしら…アイスを食べながらつい先程のやり取りを脳裏に浮かべる。
「今日は私の自信作よ!ほら、食べなさい!」
たまに手伝う代わりとしてカフェの厨房を借りて私は料理を作る。エリート人形たるもの料理くらいできなければ。しかし今日もいつもと同じ。カフェの人形たちは口を揃えて文句をいい手をつけようともしなかった。悔しいので隣にいたFNCの口に無理矢理食べさせたらクソ料理!と言われる始末。スプリングフィールドにも流石にこれは出せませんねと言われまた今度教えますからチョコアイスを渡された。せっかく作ったのにいつもこれ。当て擦りも含めてカフェの隅の席で料理を置いてアイスを食べていたのだ。
「あ、ここにはご飯がまだたくさんありますね。」
俯く私の前に人形が1人立っていた。あまり交流はないが大食いという話は聞いているのでよく知っている、彼女はSPAS-12だ。
「隣の席いいですか?いいですよね。」
こちらの返答も聞かずに席に座る。初対面で隣の席って遠慮ってものがないのかしら?
「ご飯、食べないんですか?食べないなら私が貰ってもいいですよね。いただきます!」
また人の話も聞かずに…別にいいわよと返事したが彼女はすでに箸をつけて口に運んでいた。一応気になるので味はどうかと感想を聞いてみる。
「美味しくないです!こんな料理初めてです。これ誰が作ったんでしょうね…。」
どうせ答えはわかっていたけどそれでも面白くない。今までの不満も積み重なってつい怒鳴ってしまった。
「作ったのは私よ!練習してるの!悪かったわね美味しくなくて!ゴミに捨てるつもりだったし返してよ!」
しまったと後悔したが遅かった。カフェは静まり返りみんなの何事かの視線とスプリングフィールドの心配そうな顔が見える。この場をどうしようと考え始めたとき静かな店内に食器の音がすることに気づいた。顔はこちらを向いてはいたが、彼女はまだ食べ続けていた。
「ごめんなさいもう食べちゃったんで返せないんです。それより料理の練習中なんですか?それは素敵ですね。味見係が必要だと思いません?」
唖然とした。私が怒ったのに彼女の目は輝いている…それだけじゃなく私の料理を完食したことにも驚く。今まで1人もいなかったのだから。私の料理を食べる人なんていないので彼女の提案は確かに魅力的だWin-Winの関係だしチャンスと見るべきだろう。それに勢いで不満をぶつけてしまった負い目もあるし…。
「あんたがどうしてもっていうなら付き合わせてあげる。作る日は教えるから食べに来なさいよね。」
それから私と彼女の任務がない日はカフェで待ち合わせて私が料理を作り彼女が食べる、そんな関係が始まった。
彼女はあの日と変わらず美味しくないと言いながらも全て食べてしまう。彼女の食欲はそんなに底無しなのだろうか?ごちそうさま!次に期待です!といつも綺麗になった皿を渡される。そのうち料理の味見だけでなくお互いの話をする機会も多くなった。任務のこと、基地に来る前のこと、好きなものとかだ。彼女は意外と乙女チックなところがあるらしい。見かけによらず可愛いなと私は彼女の話を聞きながら思いを巡らす。
こんな関係も数ヶ月たっただろうか?話題は増えたが相変わらず私の料理は上達しない。溜め息とともにつまらない弱音が漏れる。
「もう料理作るの止めようかしら?エリートといっても私には料理の才能なんて無かったのよ。」
「そんなことないですよ。私はいつもWA2000さんの料理食べてますから努力してるのは知ってます。そりゃあ味は美味しくないですけど…でもWA2000さんの技術も評価も最初からエリートというわけじゃないでしょう?努力を重ねたから今があるんじゃないですか?」
何気ない呟きのつもりだったのに彼女から真剣な言葉が飛んでくる。その時私の世界が変わった。何も変わらないはずなのに私にはSPAS-12が輝いて見えた。
いつもの時間も終わり2人別れたあと私は考えていた。SPAS-12は私の料理を文句は言うけどいつも食べてくれる…。私は本当に今まで努力していただろうか?考える必要はない、もう気持ちは決まっている。閉店の片付けでカフェの厨房にいるスプリングフィールドとG36に話をするためだ。
「お願いします。私に料理をもう一度基礎から教えてください!」
頭を下げ心からお願いをするそんな私に2人とも驚いている。それもそうだろう、こんなこと普段の私からは考えられないだろうし私も記憶にない。
「突然どうしたんですWA2000さん?今だってたまにだけど教えてるじゃない?」
「教えてもあなた最後は自分でやると聞かないじゃないですか?」
2人のいう通りだ。今もスプリングフィールドが料理を見てくれるが結局思い通りにいかないと1人でやるとヤケを起こし自己流に走っていた。エリートなんだからと自分のために料理をしていた。けれどそれじゃあダメだと彼女の言葉を聞いて理解したのだ。
「今まで子供みたいに我儘言ってごめんなさい…でもどうしても私の料理を食べさせたい人がいるの。もう一度基本から教えてください。」
うふふと突然スプリングフィールドが笑いだした。なにか変だったかしら…。
「G36の初めての料理を思い出すわね。私のために作るんだって1人で台所に立って…」
「そんな恥ずかしい話今はしないでください。でもその気持ちがあるなら料理の基本は合格です。今日はもう遅いので無理ですが明日からまた教えます。きちんと初めから。」
「2人ともありがとう…。私今度は頑張るから。」
次の日約束通り2人は私に丁寧に教えてくれた。調味料から、道具の使い方から…。一日練習してとりあえずと基本の卵焼きに挑戦してみたけれどひっくり返すのにもたつき焦がしてしまった。
「どうします?もう一度作りますか?」
「今日はもうあの子が来るしこれでいいわ。食べさせるって約束だもの。2人ともありがとう。えっと、これからもまたよろしく…。」
「ええ、よろしくお願いします。今度は期待できそうですね。目を見たらわかりますよ。」
「気持ちを込めればどんな料理も美味しくなるんですよ。次はもっと上手になってそのうちレパートリーも増やしましょう。簡単に作れるもの、私も調べておきますから。」
厨房から出ると時間通りSPAS-12が待っていた。さっそく目線が私の皿に向いている。
「今日は卵焼きよ。少し味付け変えてみたわ。」
「何入れたんですか?聞きたいです!」
「えっと、その……愛情よ…。」
顔が赤く声がか細くなっていく。さりげなく言ってみたもののやはり恥ずかしい…黙って出せばよかった。
「それは素敵ですね!昨日より絶対美味しいに決まってますよ!」
SPAS-12は嬉しそうに食べ始めた…人が勇気出して告白したのに食欲には勝てないのか。でも食べている姿を見るのは楽しい。いつもと変わらないはずなのに昨日より可愛く見える。卵焼きをきれいに完食したSPAS-12は私に新しく注文をしてきた。
「WA2000さん私デザートが食べたいです!」
「ええ…デザートなんてないわよ。まだその焦げた卵焼きが精一杯なんだから…アイスでいいかしら?」
「何言ってるんですかデザートならありますよ、私の目の前に。」
SPAS-12は私をじっと見てくる。まさかデザートってそういう意味?!
「何変なこと言い出すのよ!冗談はやめてよね…あなたご飯くれる人皆にそう言ってるの?」
「冗談じゃないですよ。食事はみんなのためにですけど私のために作ってくれた料理は初めてです。愛情ってそういうことですよね?」
期待に膨らませた顔で私の目を見つめている。食べ物しか見えてないと思ったのにしっかりと私の告白を聞いていたのだ。改めて私の顔が林檎のように赤くなる。
「私もWA2000さんのこと好きです。早く私の部屋に行きませんか?」
「嫌よ、突然言われてもダメに決まってるでしょ!」
「ご、ごめんなさい…いきなり距離詰めすぎてしまいましたね。」
叱られた子犬のように目に見えてしょんぼりとしている。罪悪感で私の胸が苦しくなる…。
「…デザートには下拵えが必要なのよ。1時間後私の部屋に来てちょうだい。」
沈んでいた彼女の顔が太陽のように輝いた。
「はい、1時間後楽しみにしてます。私も準備するのでまた後で!」
彼女は私の耳元で愛情料理のお礼に寝室で私の名前教えてあげますと囁くと走ってカフェを出ていった。その時の私はどんな顔をしていただろう?厨房に戻るとスプリングフィールドとG36が片付けをしていた。
「話は聞こえていましたから今日は私たちが片付けておきますよ。彼女はああ見えて乙女ですから優しくリードしてあげてくださいね。」
「リード?私は誘われた側なのよ!殺しのために生まれた私がそんなことできるはずないじゃない!」
今の私は鏡で見たらきっとトマトのように真っ赤になっているだろう。これからすることの経験なんて一度もない。なのにいきなりリードだなんて…今から練習する?いや、これからシャワー浴びたり洋服も探して部屋も変なところがないか確かめて…ああ2時間って言えばよかった。
「気持ちを込めて彼女に接すればいいのです。その気持ちであなたは昨日も変われたじゃないですか。」
「それとこれとは話が別よ!私はキスもしたことないの!マニュアルがあれば欲しいくらいよ!ああもう言い争う時間も惜しいわ。片付けてくれてありがとう。それじゃあ私は急ぐから!」
カフェを飛び出し私は急いで自分の部屋に向かう。彼女の好きな服は何だっけ?髪型は?料理もしたからお風呂も入らないと!どうして焦がしたりしたのかしら絶対臭いがついてる…それに化粧も整えないと。やることいっぱいでこれからすることの予習もする時間ないじゃない。
ああ、でも気持ち一つでこんなに料理が楽しくなるなんてSPAS-12には感謝しないと。そういえば本当の名前教えてくれると言ってたわね。時間はおしてるのに早く会って聞きたい…ううん、知りたいことはたくさんある。これからは彼女のためにダイアリーを買うのも悪くないわ。今夜ぐらいは彼女の食欲に付き合ってあげる。
「初々しい2人を見てると私もデザートが欲しくなっちゃったな?」
「やることが終わったら用意しますから早く食べたいならさっさと済ませましょう。」
「今つまみぐいしたらダメかしら?」
「はしたないですよ。ただ…そうですね、今日はあの2人が上手くいった記念日として一口ぐらいならどうぞ。」

愛情料理と味見係-2

幕が下り私たちは感想をやり取りする人混みとともに劇場の外に出る。サブリナが見たいと言っていた演劇があったため二人でデートも兼ねて観に来ていた。私が彼女に告白し付き合うことになってひと月が経っただろうか?任務などが重なり時間が合わなかったがようやく初デートに持ち込むことができた。本当は合わそうと思えば隙間はあったのかもしれないが初めてということもあり彼女の楽しみにしていた演劇の日と重ねたのだ。決して私がデートで何をするか予習をしたから遅くなったわけではない。しかし予習も空しく今日の私は彼女のせいで殆ど内容が頭に入ってこず未だにドキドキしている。
「劇面白かったですね!この演目は何度も観たんですが今回も楽しめました。デートで来るのは初めてだからでしょうか?いつもよりドキドキしたんですよ。WA2000さんは演劇初めてなんですよね…どうでしたか?」
「どうもこうもないわよ!サブリナ、あなた一度やってみたいからって演劇の間手を繋ぎ続けるのやめなさいよ!人前で手を繋ぐだなんて…。劇の中身より右手に意識集中して大変だったんだから!」
「あはは…いつか恋人ができたらやってみたかったんです。だって一緒に観てる気分が増すじゃないですか。もしかして嫌でしたか?」
「い、嫌じゃないけど、誰かに見られたらどうするのよ。恥ずかしいじゃない…。」
「客席は暗いしみんな劇を見てますから気づかないですよ。でも劇をあまり覚えてないのは残念ですね…あっ、でも覚えてないならもう1回観に行くことができますね!また 2人で。」
「そうね…でも次時間が合うときに同じ演目をやっているとは限らないわよ?」
「その時は別の劇を見ればいいんです。その次もその次も。いつか同じ演目が観れるまでずっとWA2000さんとのデートを楽しみにできるんですよ?」
彼女の好きな演劇を2人で見て話を弾ませる予定が失敗したと思ったけれどそうでもないようで一先ず胸をなでおろす。今日は朝から私らしくない失敗ばかり。演劇を観た後は私の手作り弁当を食べて街を歩いて小物を見たり服を選んだり…。それが蓋を開けてみれば朝早く起きたはずなのに夜は眠れないし昨晩準備した服や髪型をどうするかまた悩んでしまう。結局悩むうちに時間は過ぎていき作るはずだった弁当もお流れとなった。せっかく初めてのデートなのにどうしてこうも上手くいかないのだろう。隣にいる彼女がずっと嬉しそうにしているのが唯一の救いだ。
せめて会話だけでも弾ませたい…。
「ねぇサブリナ、向こうの喫茶店でも入らない?」
「ええ、いいですよ。お腹ペコペコだったんです。何か食べるものもあるといいですね。」
店内で席を決めてメニューを彼女と眺める。どれを頼むか悩んだがこれ食べたいですそれもあとあれもと次々指さす彼女を見て気持ちだけでおなかが膨らんできた私は珈琲だけを注文することにした。
「WA2000さん何か食べないんですか?」
「サブリナが頼むのを見てたらそれだけでお腹いっぱいになりそうで…少し分けてくれるだけでいいわ。」
「いいですね!恋人同士で分け合うってのも私やりたかったんです。」
また動悸が激しくなる…やっぱり何か頼めばよかった。話をするうちに彼女がの趣味が女の子らしいものを好きなのはわかったし、スプリングフィールドからも聞いた。付き合ってからより知ることができたが私は彼女からそれを求められる度に動悸がおさまらなくなる。戦術人形に心臓はないが私は人間だったら破裂が一度や二度じゃすまなかっただろう。ただでさえ魅力的なのに愛嬌のあることをされる身にもなってほしい。先に注文の飲み物が届いたので珈琲を口にし心を落ち着かせる。大丈夫、ここからはできる。いつも通りに話せばいいのだ。
「サブリナはどうして演劇が好きなの?例えば今なら別に演劇じゃなくても色んな媒体があるわよね?」
「私が演劇を好きな理由ですか?そうですね…好きな理由はたくさんありますけど1つに絞るなら今を生きてるって気がすることですね。」
今を生きる…どういうことだろう。彼女の答えた理由を私はいまいち飲み込めなかった。
「それはどういうことなのかしら?別に映像でも生きていることには変わりないわよね?」
「映像は私たちが見る場所を選べるんですけど演劇は私たちが見に行かないといけないんです。公演を録画したものもありますけどやっぱり見に行くのとは別物なんですよね。映像ではその画面しか見ることができないですけど舞台は違います。私が舞台や役者のどこを観るかを選択できるんです。演劇をする人だって映像とは違いますよ。台本も演技も練習はしていますが巻き戻しと違って毎回同じじゃないんです。だから同じ演目を何度みても役者が全員同じでも私が観た同じ舞台は1つもないんです。」
「確かに一理あるわね…。私もダミーでも用意しない限り全ての角度から見るなんて不可能だわ。」
今回の舞台で私が主に目を追っていたのは娘役だった。下街で伯爵にスカウトされて夢の舞台に立ち舞い上がる姿、館の主と歌を練習する姿。受け入れると言ったのに仮面を外した時に逃げてしまった背中。もう一度観て別の役者に注目すればまた違う感想を抱くのだろう。
「それに私たちってメンタルモデルにバックアップすれば記憶はある程度維持できますよね?映像だと基地の中でも見れるのですぐにでも記憶のバックアップがとれます。でも演劇だと足を運ぶのでそうはいかないですよね?
もしかしたら今話してる最中に鉄血と交戦することがあるかもしれません。今はダミーもいないですから本体の私が壊れてしまったらバックアップからやり直しなので舞台の内容がわからないんです。私たちはこんな器用なことができますけど人間はメンタルモデルなんてないからそうはいかないですよね。でも基地に帰るまでの間私は人間と同じです。人形なのに人間という役で舞台に立ち今を生きてるって気がしませんか?」
「戦術人形として鉄血を倒して任務をこなすことばかり考えてた私にはサブリナの考えは新鮮だわ。ご飯のこと以外にも色々と考えてるのね。確かに納得できたけどまだ私自身に実感は難しそう。サブリナと付き合ってから私も少しずつ変わってきていると自分でも思うのだけど。」
「そうですね!WA2000さんもかなり変わりましたよ。最近は料理も焦がしたりはしなくなってきたじゃないですか。先日食べた炒飯は美味しかったですよ。」
「悪いんだけどあれを美味しいにカウントしないで頂戴。簡単料理と聞いたから作ってみたけれど作ってみたら意外と忙しくてね。調味料入れるの忘れちゃったのよ。次はもっと上手にやるから楽しみにしてなさい。」
「はい、わかりました!」
ちょうど店員が軽食を持ってきてテーブルに並べていく。喫茶店に来たはずなのにこの席だけまるでレストランね…。
「どれか一緒に食べますか?サンドイッチとかどうでしょう?中身が好きなもの選べますよ。」
「そうね…ツナサンドでもいただくわ。」
いくつか種類のあるサンドイッチから食べたいものを選び口に運ぶ。私に乙女チックな感情があるかわからないけど彼女の言う通り分け合うってのも悪くないわね。
「今日は私をデートに誘ってくれてありがとうございます。今日の思い出大切にしますからね。メンタルモデルにバックアップしてからも…いえ、逆に今日の出来事だけ取らないのもありですよね。これから毎日頑張れる気がします。」
「乙女チックなこと言うのはいいけどバックアップは取りなさい。その…忘れてもらったら困るわ。計画通りにいかないこともあったけど努力したのよ。いつもより少しだけね。」
「いつも髪を結ぶリボンが今日はないことや服はスカートじゃなくズボンでシンプルにまとめてることですか?」
彼女は目ざとく気づいていたようだ。隠しているつもりはなかったが言ってもないのに知らてれると恥ずかしい。
「そうよ、最初はきれいな服にしようと思ってたけどあなた女の子らしい性格だしヒロインに憧れてるようなことも言ってたし…。
少しでも私がカッコよくなれば喜ぶかなと思ったのよ。おかげで朝一から予定通りにいかずに大変よ。笑っちゃうわよね。」
「そんなに悩んだんですか…服装はいつものでもよかったんですよ?でも嬉しいです。私のこと朝から悩むぐらい考えてくれて。その気持ちが一番の宝物です。」
「少しは服も褒めなさいよ。王子様とまではいかないけど頑張ったんだから…。」
「WA2000さんはあの時、味見役にしてくれたその時から私にとっての王子様ですよ。下街で歌を歌っていた娘をスカウトして夢の舞台に立たせた伯爵のように。WA2000さんが私を選んでくれたから今ではあなたの恋人という役にまで来れたんです。憧れのヒロインにはもうなれました。」
彼女のまぶしい笑顔が私に向けられる。また動悸がおさまらなくなってきた。あの時私にはそんなつもりはなかったのにそこまで言われたら嬉しいやら恥ずかしいやらで気持ちが整理できなくなってくる。彼女の言葉や行動は計算なく行っているのだろうか?嬉しいけれど私はこのままではいつも彼女の言葉やしぐさ一つに振り回されてばかりだ。
「私も何かお礼できたらいいんですけど…。そうだ!先ほど納得はできたけど実感がわかないって言いましたよね?」
少し悩んだ後私の顔を見て何か閃いたように彼女は切り出した。
「今日は私がWA2000さんに基地に帰ってバックアップ取りたい。生きてるって実感を湧かせてあげますよ。そっと教えてあげるので顔、近づけてください。」
普通に言えばいいのにと思いつつも彼女の言う通り顔を近づける。すると近づいた彼女はSGの力で私の顔を手で押さえて唇を重ねる。
「えへへ…初デートの喫茶店でキスしちゃいましたね。どうです?絶対忘れたくない思い出になったでしょう?」
先ほどから動悸がおさまらなかった私の胸はもう限界だった。これだから予定通りにいかないのは嫌なのよ。たぶん顔だけでなく体中が真っ赤になっているでしょうね。記憶はそこでいったん途切れた。次に覚えているのはサブリナの部屋の天井と心配そうに見ている彼女の顔。どうやら店からここまで運んできてくれたらしい。目を覚ました私に気づいた彼女はすぐに声をかけてきた。
「ご、ごめんなさい先ほどは大丈夫でしたか?記憶とんでません?」
「サブリナ、あなたとうぶん女の子らしい仕草は控えなさい。私の身が持たないわ…いいわね?」
「はい、わかりました…。」
初デートは苦い記憶とキスの味で私のメンタルモデルにバックアップされることとなった。次はこうはいかないわ完璧なプランを立てて私がリードしてやるんだから。

愛情料理と味見係-3

『前方に敵部隊を確認各自速やかに殲滅してちょうだい。』
マカロフの指示が飛び私たちは即座に攻撃を開始する。言われなくてもさっさと倒して見せるわ。それが仕事とはいえサブリナがみんなの盾になっているんだもの。カルカノM1981とともに敵後方のイェーガーを担当する。正面の部隊はMG5とマカロフに任せれば何とかなるはずだ。それぞれの役割分担を思い出しながら私は敵を処理していく。
『スカウトが少し多いわね…。イェーガーの数はどうかしら?問題さえなければカルカノとWA2000あなたたちどちらか手を貸してちょうだい。MG5の装填が終わるまでSPAS-12もう少しこらえられそう?』
『盾も特に問題はありません。まだまだ粘れますよ。』
『私一人で相手できる数です。WA2000さんお任せしてもいいですか?』
『任せなさい。さっきから私も鬱陶しいと思っていたところよ。』
本当に鬱陶しいわ。私の恋人に銃口向けるなんて…絶対に許さないんだから。標的を変えた私は集中し次々とスカウトを屠っていく。これでこいつは…最後ね!
『スカウトは殲滅したわ。カルカノM1981、イェーガーはどう?』
『見事ですね。もう倒したんですか?問題ありません。潜んでいたのも仕留めました。残りはヴェスピドだけ…』
『ダンケ!残りはわたし一人で十分だ。』
弾丸の雨が残りの敵を薙ぎ払い目の前の敵は全ていなくなった。
『ありがとうMG5これで殲滅完了、この任務は終了ね。座標を送るから集合しましょう。』
マカロフの通信を聞いた私は急いで集合場所に向かう。最近の任務はサブリナと一緒になることが多い。どうやらお節介なスプリングフィールドが指揮官に進言したらしく一度試しに組むことになった。もちろん任務はこなすが盾が役目とはいえ組んだ以上彼女が目の前で銃弾を受けるのはあまり見たくない。
スプリングフィールドに思考が読まれているようで悔しいが鉄血を倒すことに変わりはないので私はいつも以上に戦果を出し部隊の被害、サブリナの被弾も少なくなった。報告に指揮官はとても満足しそれからも今日の任務のようにセットが当たり前になってきた。当然任務が重なるものだから結果的に非番も重なることが多くなり彼女との時間もデートする機会も増えたので私としてもありがたい。
カフェを訪れた時に最近どうですか?と言われたときは掌にいるようで少し癪にさわったがこういうところはスプリングフィールドには適わないしいつも料理でお世話になってるので水に流すことにした。素直に答えるのは嫌だったのでまぁまぁよとは返すだけに留めたが…。急いで集合場所に到着したがマカロフが待機していただけで他には誰もいなかった。
「あらWA2000あなた早かったわね。そんなに息を切らせてまで急がなくてもよかったのよ?力があるとはいえMG5とSPAS-12は銃も重いから遅いでしょうし。隊長の私が心配って言うなら嬉しいけど今近くに敵はいないのよ。」
好意はいただくわという隊長に別にあんたのためじゃないのよと返し、適当な場所に腰を下ろしてサブリナと他の仲間を待つ。しばらくすると全員が集合場所にやってきた。
「みんな大きい怪我はないわね?これで任務は終わり。ヘリで帰還するけど基地に到着するまでは警戒を怠らないこと。いいわね?じゃあ帰りましょう。」
マカロフの帰還命令が出てみんな飛行場に向かって歩き出した。すぐに私はサブリナの元に駆け寄る。確かに大きい怪我はない。特に私たち後衛はほぼ無傷と言ってもいいだろう。けれど彼女はやはり少し傷がある。いくら修復で治せるとはいえ傷をつけさせたくなんてないのに…。
「サブリナ、あなた顔に怪我してるじゃない。ごめんなさい、私がもっと速く敵を殲滅できたら…。」
「頬の傷ですか?WA2000さんこんなのかすり傷ですよ心配しすぎです。」
彼女は問題ありませんよと笑うが私は少し凹んでしまう。彼女を守ってあげたいのに…。
「私は殺しのために生まれてきたのよ。だから鉄血を倒してサブリナを守ってあげたいのよ。い、一応あなたの恋人なんだし…。」
「私だってSGですからみんなを守るのが仕事ですし…それに今の時代ヒロインだって力がなきゃ!油断してたら私がリードしちゃいますからね!」
「油断しなくてもベッドの上ではいつもあなたが最後はリードしてるじゃない…。」
「それに殺しのために生まれてきたとWA2000さんよく言ってますけど将来鉄血との闘いが終わったらどうするんですか?このままじゃWA2000さんお役御免になっちゃいますよ。」
「えっ…そんな先のこと考えたこともなかったわ。そういうことは指揮官や人間が考えることだと思うし…。確かにどうなっちゃうのかしらね。また新しい戦場かしら?」
彼女の突然の質問に私は戸惑った。鉄血を倒すために生まれて任務をこなして、今はそこに彼女との生活が加わってあとはそれが毎日続くだけだと思っていた。指揮官や人間の命令で任務をこなせば特に問題はないし将来なんて考えたこともなかったのだ。
「戦争が終わったら暇になってしまうWA2000さんに私はいい就職先を紹介することができます。聞きたいですか?聞きたいですよね?」
彼女がキラキラした目でこちらを見ている。こんな時彼女がいうことは大体乙女チックなことだ。最近はもう私も慣れたもので動悸で倒れるなんてことはない。
「へぇ…私でもできることかしら?まぁせっかくだしその提案聞いてあげるわ。」
「でもじゃないですよ、しかできないんです。なんと今なら、ううんこれからもずっと私の隣がWA2000さんだけの指定席で空いてますよ。戦いが終わったら二人で一緒に暮らしませんか?」
「なっ…それ、サブリナあなたそれプロポーズじゃない!」
今回の彼女の乙女チックな内容はとんでもない爆弾だった。こういうこと人間の恋人同士がやることの本に書いてあったけどそれって確かもっとロマンチックな場所でムードもよくして…帰還中に言われるなんて本に書いてなかったわ!
予想していない言葉に頭の中がパニックになる。でも私とサブリナと一緒にいたいって気持ちはずっとあるしこれは変わらない気持ちだから答えなんて最初から決まってるわよね。そう、今更悩むことなんてないわ。
「先のことはわからないけれどもしそんな時が来るのなら私は喜んであなたと暮らすわ。だからこれからもずっとよろしくねサブリナ。」
答えた次の瞬間彼女が私に飛びついて抱きしめてきた。足が届かな…抱きしめるというより持ち上げてるじゃない。
「嬉しいです!WA2000さんに告白されたときのように私も勇気だした甲斐がありました。こちらこそよろしくお願いしましますね。さっそく次の休みに2人で指輪でも買いに行きませんか?安くてもいいですから2人だけの。」
「わかった!わかったからおろして!でもしっかりしたもの買うわよ!私の恋人なんだから…ううん、サブリナのこと安い女とみられたくなんてないわ。」
その言葉を聞いて彼女は私を地面におろす。力じゃかなわないわね…いつもわかっていることだけど。
「けど結局私の新しい仕事決まってないじゃない。何かできることあるかしら…。」
「料理とかどうですか?どんどん上手になってるじゃないですか。最近はレパートリーも増えてますよね?二人で定食屋とかどうです?私食べたいのいっぱいあるんです…。」
「あなたが食べてどうするのよ。私が幾ら料理上手になってもあなたと働く限り飲食店は3日と持たないわね…。その食欲満たせるぐらいには今からお金も溜めて料理の腕も磨いておかなくちゃ。」
2人で笑い合いながらヘリポートへと歩いていく。サブリナと付き合ってから私の世界が毎日広がっていく。本当にあなたと出会えてよかったわ。
「熱い二人だな。プロポーズは知っているが目の前でみたのはわたしは初めてだ。」
「私警戒を怠らないようにって言ったはずなんだけど完全に二人の世界に入ってるじゃない。MG5あの2人の分まで私たちが周りを警戒するわよ。」
「任せろ、その代わり今晩はバーで飲みに付き合ってもらうからな。」
「妹もこれぐらい素直だといいんですけどね~SPAS-12さんの惚気面白いから先ほどから録音してるんですけどどうします?」
「カルカノあなた気が利くじゃない。隊長権限よ録音を続けなさい。バーでいいつまみになるわ。命令違反した罰としてグリフィンの語り草にしてやるんだから。」
「わかりました。それにしてもお二人ともまるで劇みたいですね。SPAS-12さんはいいヒロインになれるんじゃないですか?」
「それはナイスな考えだな。年越しパーティの出し物もこれで決まりだ。」
「確かにどうせ二人で遊ぶなら徹底的にやりたいわね。舞台の小物はアーキテクトに任せるとして衣装はカルカノあなたに任せてもいいかしら?今夜はバーに集まって計画を立てるわよ。」
………
……

21XX年、アーキテクト劇場から私たちは出てきた。毎年この時期には彼女と同じ演目の劇を観るのがお決まりのデートになっている。プライドが高いため料理が下手なことを認められないお嬢様ローズと雇われたばかりでいつも腹ペコなスカラリーメイド、サブリナ。貴族とメイドの禁断の恋物語だ。
「バーの悪乗りで始まった出し物がここまで来るとは思わなかったわ…年月とともに話が盛りに盛られてない?悪乗りで後世に変なもの残しちゃって…。そもそもなんでメイドはサブリナなのに貴族はWA2000じゃないのよ!」
「さすがにその名前だと人形だってことばれちゃいますよ。確かWA2000さんは昔任務でクリムゾンローズを名乗ってたらしいじゃないですか。綺麗ですしぴったりだと思いますよ。」
「あれはたまたまよ…。そういう役を与えられていたってだけ。私は薔薇の花みたいにトゲトゲしてないの。しかし毎年自分たちの恋愛を観ることになるなんて…命令違反はするものじゃないわね。」
「いいじゃないですか、私物語のヒロインになるのが夢だったんですけどまさか本当になるなんて思いもしませんでした。ちょっと恥ずかしいですけど…でもこれで私たちがいなくなっても劇の中で永遠に一緒になれますね。」
彼女は顔を少し赤くしながら私に笑いかけてくる。また来年も彼女と同じ演目を見に来るのだろう。1年先が今から楽しみになる。そしてこの日はもう1つ決まりがあった。彼女と2人で暮らし始めてからは料理は基本交代制だがこの日だけは必ず私が手料理を彼女に振舞うという約束になっている。そもそも全ての始まりは私の料理なのだから。
「さぁ、材料買って帰るわよ。今夜は美味しい私の料理を楽しみにしてなさい。」