Book1:<私>によって書かれた言葉。<私>は「あのひと」を出し抜こうとしているようだが、その計画がどのようなものかはわからない。

Last-modified: 2008-11-14 (金) 21:57:36

ここで目覚めると、私はいつもすべてを喪っている。
おそらく、あのひとがそうさせているのだろう。
夢の中で、私は確かにここではない世界を見たのだけれど、今思い出せるものは何一つないのだ。
ならば、この紙の上に何を書いたところでむだかもしれぬ。
どんな言葉を残したところで、あのひとの望まぬものはこの世界には残らないのだろうから…。

 

いや、そうとばかりも云いきれないはずだ。あのひとには、できないことがあるのを思い出した。

 

人間とそれがつくりだした物を毀すだけは、あのひとにゆるされていない。
つまり、それだけが私の手の中に残りうるものなのだ。

 

それを使うことはできないだろうか?
たとえば、たわいない愛の言葉もわが血によって真実を語るような…。
悪くはないだろう。
ただし、真実は一度に語られてはならない。
分散され慎重に隠されなければ。
あからさまな道筋は、あのひとによって書き換えられてしまうだろう。
ひとつに繋げてはじめて正しい道筋になるように、嘘と誤解の小さな隙間に、少しずつ記憶を隠すのだ。

とは云え、あのひとを出し抜くのは容易ではない。そもそも、そんなことが可能なのかもわからない。
あの剣を手にとるまえに、隠された真実を見つけだし、私の求める答えにたどりつかねば、おそらくすべては無に帰すだろう。
あの剣は、あのひととわたしを繋ぐものだから。
それでも、この永遠の螺旋から抜け出そうと願うなら、どんなことでも試みるしかないのだ。