Book42:ある男の手記。不老不死を求めて<妖精の血>を飲んだが、効果は得られなかったと告白している。

Last-modified: 2009-01-03 (土) 23:33:09

 ついには、この儂にも冥界からの呼び声が聞こえてくるようになった。
 この老いさらばえた身体を見よ。
 いままで、不老不死を手に入れんがため、儂はありとあらゆる手を講じて来たものだが、その苦労もついに報われることはなかった。不死どころか、不老すら、儂はつかむことができなかった。やはりそれは、人には決して手に入れられぬ望みということか。

 今なら儂も、もはや死を怖れるものではないぞ。だから云おう。儂は<妖精の血>を飲んだ。一滴などではなく、大量に、何度もな。
 だが、伝説に云われとるような徴は、なにひとつあらわれなかった。
 はじめて<妖精の血>を口にした時は、なにやら身体が軽くなり、全身が生命の悦びに満ちあふれたものだった。
 だがそれだけのこと。傷や病が癒えることもなく、飲み続けていたらついには腹をこわす始末。
 ありがたいことなど、ちっともありゃせん。
 飲んだら死刑だなんて云われとるが、ありゃ駄目だ。<妖精の血>なんてのは、ただのデマよ。
 ほかにもシルフェラの秘薬だの、シャクラーマの秘術だのといろいろ試してみたが、やはりどれもいんちきだった。
 虚しい。何とも虚しいあがきの連続だったわい。

 儂が飼っていた妖精の娘も、自分の血では人間に不老も治癒もあたえることはできんとか云っとったが、あれは嘘ではなかったようだ。
 しかし今にして思うと、あの娘の話は<妖精の血>では駄目だが、他にもっとすごいなにかがあると云っとるようにもとれる。
 なんとしてもそれを知りたいところだが、さすがに時間切れのようだ。今更よぼよぼになって生きながらえても、楽しくなぞない。

 これからはせいぜいあの世のために、豪勢な墓でもつくっておくか。
 ま、儂はあの世なんてものは信じとらんがな。
 馬鹿どもに金を残すくらいなら、朽ちぬ墓碑でもうちたてたほうが、まだ意味があるというものだ。

 儂の築いた王国なぞ、儂が死ねば何年つづくものやら。
 まったく、人の命も人の築いた都も名誉もなにもかも、すべてはいずれ死にのまれるが運命か。