Book22:<黒き龍の野望>の本。聖公爵家の息女を殺した邪悪な黒き龍が、暴虐の末、自らの息子によって滅ぼされる物語。

Last-modified: 2008-12-27 (土) 22:44:26

<黒き龍の野望>

 

その昔、アウロラの聖公爵家にたいそう美しい姫君がおうまれになりました。
姫君はアウロスの定めし聖龍王の花嫁であり、なんびとも穢すことはゆるされぬ高貴なお方でした。
しかし、強大な黒き龍があらわれ、この姫君に邪な欲望をいだいたのです。

黒き龍は、偽りの麗しい姿で言葉巧みに姫君を誘い出し、無理矢理にわがものとしました。
姫君は恐怖と絶望のあまり、それからほどなく息をひきとられました。人々は深い悲しみにつつまれました。
ところが、姫君はこのときすでに、黒き龍との子を身ごもっておられたのです。
アウロスは、この子に罪はないとして、子のお命をお救いになり、ひそかに育てるよう妖精王にお命じになりました。

さて、姫君亡き後、姫君に宿っていた聖なる力をもわがものとした黒き龍は、更に勢いをましユーフラニアの地すべてにその支配の翼をひろげようとしていました。
聖龍王はこれになんとか抗おうとなさいましたが、姫君の聖なる力を奪われた今、強大な黒き龍を鎮めるのは並大抵のことではありませんでした。
戦いは、何年も続きました。
そして、ついには聖龍王も力つき、ユーフラニアを暗黒がおおうかと思われたのです。

このとき、黒き目と髪をもつ若者がいずこからともなくあらわれ、ただひとりで黒き龍に挑んだのです。
驚いたことに若者の手には、アウロラの聖公爵家に伝わる<銀竜の剣>がにぎられておりました。
黒き龍は無謀な若者をせせら笑いましたが、それもはじめのうちだけでした。
いざ戦いがはじまると、黒き龍は、この若者がただものではないことを知らされました。
なぜか黒き龍がどれほど痛めつけても、若者にはかすり傷ひとつ負わせることができないのです。
おそるべき黒き龍の力も、この若者にはまるで通用しませんでした。

実はこの若者こそ、姫君がみごもっていた黒き龍の子でありました。
若者はアウロラの聖域で、アウロスの力にまもられ、妖精たちに育てられたのでした。
そして皮肉なことに、その身に流れる黒き龍の血が、父親のあらゆる攻撃から若者をまもっていたのでした。
黒き龍に、もはやなすすべはありませんでした。

若者はやすやすと黒き龍の攻撃をかわすと、その心臓に<銀竜の剣>をふかぶかと突き立てました。
黒き龍は破れさりました。同時に、黒き龍の体よりまばゆい白い光がほとばしり、荒廃した大地に聖なる雨をふらせました。
それは、亡くなった姫君より奪われた力でした。悪しきものはすべて打ち砕かれました。
かくてユーフラニアは、おそるべき黒き龍の支配より解きはなたれたのです。

聖龍王をうしなったアウロラでは、この若者に王になってくれるようにとたのみました。けれど、若者はそのたのみを断り、何処へともなく去ってしまいました。
ある噂では、若者は父親を殺した罪により、神の都に留まることはできなくなってしまった、ということでした。
その後、アウロラでこの若者の姿をみることはなかったといいます。