Book20:ある女性の日記。聖公爵の婚約について個人的な疑問をなげかけている。

Last-modified: 2008-12-26 (金) 21:27:44

黄金龍の月2日

 

聖公爵閣下が、聖龍王陛下と婚約した。
今日知ったけど、すごい驚き。正直、信じられない。
ほんとに、王陛下を愛してるの?
愛せるのかしら?

愛情なんてものは、ああいうひとたちの結婚には関係ないのかもしれないけど……
イオ教授だって、婚約者がいたはずだし。
でもあのひとが、そういう人並みの関係を受け入れるってのが信じられない。

あのひとは絶対、イオ教授が好きなんだと思ってた。
でなきゃ、教授のためにあんな顔をしたりしない。
あんなに、何もかも投げ出そうとするわけがない。
わたしだって、自分の恋人のためにそこまで出来るかって訊かれたら、ちょっと自信がない。かなりかも。

だいたい、あのひとはイオ教授以外の人なんて、まったくどうでもいいと思ってるようにみえた。
教授への愛が報われないからって、他の人を選ぶようには思えない。それくらいなら、一生独身とか。
そっちのほうがわかるし、何かそんな感じのことを云ってた気もする。
それとも、聖龍王陛下だけは別ってことかしら。
誰の支配も受けず、誰にも屈しないようなひとでも、アウロスの代理人の求婚は断れないってこと?それとも、よっぽど魅力的とか……?

あのひとと一緒にいたのはずいぶん前だし、もうわたしのことなんか忘れてるだろうけど、わたしは今でも時々、あの日々のことを夢にみる。
今となっては、イオ教授よりも聖公爵閣下のことのほうが、忘れられないような気さえする。
へんなの、同性には興味ないのに。さすがにあそこまで綺麗だと、毎回みとれはしたけど。

ああ、でも考えてみると、あのひとはあんまり女っぽい感じがしなかった。
女とか男というより、人って感じがしなかったな。
神聖王家の王族で、半妖精というにしても、あまりにわたしたちと違いすぎた。だから余計、結婚の話が信じられないのかも。
あのひとが男の人相手に脚ひろげたりって、ちょっと想像つかないわ。
ほんと、あんな精霊か女神のようなひとでも、恋をすれば妥協もするのね。
なんとなく、がっかりしたような気持ち。

もし、いまもう一度、あのひとにイオ教授のことを訊いたら、なんて云うだろう。やっぱり、あの時と同じこたえをするのかしら。
「ただ、わたしの命よりも大事なだけ」
まるであたりまえのことを口にするみたいに、あのひとはさらりと云った。
それがまぎれもない真実だって、あの時のわたしには、はっきりとわかった。