- 「ここは……」
- 「お目覚めになられましたか?」
- 「ミシェル――」
「私は、どうしたのだろう。夢をみていたのかな……」- 「いいえ、夢ではございません。ルシーヌ様が二十歳におなりあそばしたので、王が、ルシーヌ様の運命をお示しになったのです」
- 「ああ、そういうことか……。そうだ……思い出した。私は、自分で運命を選ぶとあのひとに云ったんだ」
- 「それで、王は<ルシーヌの記憶>をすべてあなたさまにお返しになられたのだと思います。あなたさまが、ご自分でなすべきことを決断なさるように、と」
- 「そうだね。あのひとがすべてを告げたかはともかく、いくつかのことは思い出した。あなたが私の叔母ではないことも、なぜ私に両親がいないのかも、私が何者なのかも――」
- 「はい。わたくしは、ルシーヌ様につかえるために王が遣わされた守人でございますから、ルシーヌ様の血族ではございませぬ。ご両親のことは……それも、思い出されましたの?」
- 「うん……。これは<ルシーヌ>の宿命だな。最初の餌は常に、自分の親となった者たちだ……。あのひとも、使う道具はもっと選べばよいものを」
- 「それで……ルシーヌ様は、これからどうなさいますの?」
- 「アウロラは?」
- 「四世紀以上前に滅びました」
- 「そう……」
- 「この地だけは人を拒み続けておりますが、かつての<聖域>も、今では人々に怖れられる<魔の森>。そして外界はそれ以上に混迷を深め、荒廃の道を辿っているようです」
- 「では私は、その外界に行かなくてはならないのだろうな」
- 「人の世に触れれば、<ルシーヌ>を押さえておくことは難しくなりましょう。<銀竜の剣>はここには無く、<聖域>を出れば、もはや王とあなたさまを繋ぐものは何ひとつありませぬ」
- 「それでも、ここで朽ちるために私は生まれたのではない。それに、探したい者もいるのだ。しばらくは、<黒龍の剣>が私を制してくれるだろう。それもままならなくなった時には……」
「その剣で私の心を壊して、<ルシーヌ>をあのひとのもとに還すよ」- 「そうならぬよう、わたくしが全力でお守りいたします」
- 「一緒に来てくれるの?」
- 「わたくしは、あなたさまにお仕えするための存在ですから」
「それに、たとえわたくしの本当の姪ではなくとも、ルシーヌ様はやはりわたくしにとって愛する家族なのです。このような云い方を許して頂けるのでしたら」
- 「わたくしは、あなたさまにお仕えするための存在ですから」
- 「ありがとう、ミシェル。私も、あなたのことを家族だと思っている」
- 「もったいないお言葉ですわ。ご出立は、いつになさいますか?」
- 「すぐにでも。ミシェルに延ばす理由があれば、別だけれど」
- 「では、すぐに支度をしてまいります」
このようにして私は目覚め、この地をあとにした。その先につづいた数々の出来事は、また別の物語である。