も~~うす~~ぐみん~~なは~~~~ ふ~ふふ~ふふ~
「うーん、長閑な村にしか見えないね。そしてあやかしの姿も見えない」
(そうですね。……でも、付近にあやかしの気配はあるようです。気を付けて下さい)
「ほんと? どこかな?」
うーん、見当たらない。
(気配はあるのでどこかにはいるはずですが……)
「なら、いつでも戦えるよう気を抜かずにいないとだね」
(はい。油断は禁物です)
「よーし、あやかしを退治するぞー!」
あやかしどこかなー。
む、あれは……!
「ねえねえ文ちゃん……」
(あやかしを見つけましたか?)
「あっちに桜の木が見えるよ文ちゃん!」
(桜の木ですか……? ええと……はい、こちらからも見えます。まだまだ綺麗に咲いていますね)
「せっかくだしちょっと見ていこうかな~。桜~桜~」
(おや。寄り道ですか?)
「えへへ。せっかくだからちょっとだけ桜、見にいきたいなって思って」
(少しくらいなら構わないと思いますが……。ただ、あまり遠征地に長居をすると、三善先生が心配されるかもしれませんよ?)
「大丈夫大丈夫、ちょとだけだから」
(それに、あまり時間を掛けてしまうと討伐失敗となってしまいますよ? ……あやかしに食べられてしまったとみなされて)
「食べられたとみなされちゃうの!?」
初めて聞いた! 食べられたってみなされたら、どうなるんだろう……?
(いえ、冗談です)
「冗談だった!? ……え~っと、文ちゃん?」
(こほん。……いえ。あまり時間を掛け過ぎると、途中帰還しないといけないことは本当ですから。三善先生が心配されるのもきっと本当です)
むむむ。
「……でも、そうだねえ。八重さんは心配するだろうから、あまり時間を掛け過ぎないようにしないとだね」
心配するだろうし。時間が掛かった理由が寄り道ってばれたら叱られるだろうし。
(はい、その通りです。再びとこよさんを遠征地に転送しないといけなくなったら二度手間になりますし)
むむむ?
「……。それが本音だね文ちゃん?」
(……ゴフッ!!)
「わわっ! ……誤魔化した?」
(……はて、なんのことでしょう?)
誤魔化したね。うん。
(ですが。陰陽師としてのとこよさんの体力は勿論、方位士としての私の体力も無尽蔵という訳ではありませんから。二度手間の行動を惜しむのは間違いではありません)
「そう言われると、そっか。私はともかく文ちゃんの体力も考えないとだね」
吐血もするし。
(ええはい。それはもう。私の体力は無尽蔵どころか、無、と言っていいほどですから)
「無かあ」
(と、強く言ってしまいましたが。無駄に遠征を繰り返したりしなければ、全く大丈夫ではありますので。あまり心配されないでください。それに、遠征地を探索して採掘や釣りをすることも、陰陽師として鍛冶、裁縫、工芸と料理をおこなうためには大切なことですから)
「うん、分かったよ文ちゃん」
(まあ、この村はあまり広くないようですので。ちょっとの寄り道くらいで時間切れになることはなさそうですが」
「そうなの?」
(はい。でも、いずれはもっと広いところへ遠征することも出てくるかと思いますので、その時は気を付けてくださいね? せっかく方々歩き回ったのに、寄り道のし過ぎで最終目的地点まであと一歩……という所で時間切れ。と、なってしまうかもしれませんから)
「そっか。これから、色んな場所に遠征にいくんだもんね。……ありがとう! 気を付けるよ!」
(いえいえ。そうしていただけたら私の負担も減るというだけですから。……まあ、転送の陰陽玉というものがあったりもしますが)
「転送の……玉?」
(それについては後々に。実際に実物を見つけたときに説明をしますね」
「ふうむ? よく分からないけど……うん、分かったよ! その時はよろしくお願いします」
ぺこり。
(はい。その時はこちらこそよろしくお願いします)
「……ふふふっ」
(ふふっ)
「と、話している間に、とうちゃ~く! ほら見て文ちゃん! 桜、近くで見てもやっぱり綺麗だね文ちゃん!」
(はい、こちらからも見えています。とても綺麗ですね……あっ! とこよさん! あやかしの気配が近くにあります!)
「えっ!? どこどこ! って、いつの間にか道の向こうに動く案山子が!?」
それも道の真ん中に堂々と、あやかしっぽい案山子が二人……二本? 二個? にょこにょこ動いている。あ、二個とも止まった。
う~ん。桜の木ばっかり見てたから全然気づかなかったや。
(すみません……、気づくのが遅れていまいました。とこよさんとのお話しに夢中になってしまっていたようです……)
「ええ!? 文ちゃんのせいじゃなくて、私が桜ばっかり見てたからだよ!」
(いえ。あやかしの気配へと常に注意を向けるのが方位士としての私の役割ですので)
「それを言ったら私も……じゃあ二人とものせいだね」
(え、ええと、そう言われると……そうですね。二人とものせいですね)
「うんうん。二人とものせいだよ」
(……とこよさんは、周囲の警戒を怠っていたこと、ちゃんと反省しています?)
「も、もちろんだよ! そんなことより、今は目の前のあやかしだよ文ちゃん!」
(そ、そうでした。……確認できるあやかしの姿はその二体だけですね。周囲のあやかしの気配も、今のところその二体だけのようです)
「うん、ありがとう。あのあやかしは……あれは……案山子のあやかし」
(化け案山子のようてすね)
「……化け案山子。いよいよ私の、陰陽師になってからの初のあやかし退治の相手……」
化け案山子は……まだこちらのことには気づいてないみたい?
こうして見てる分にはただの案山子にしか見えないかも。田んぼの中じゃなくて、道の真ん中に立ってるってことを除けば……。
(危なくなったらこちらですぐに帰還させますので、とこよさんは戦闘に集中してください)
「うん! ありがとう文ちゃん!」
(いえ。それが方位士としての私の役割ですから。でも、気をつけてくださいね?)
「うん!」
さてさて。いよいよだ。
型紙も……ちゃんと懐に入れてある。指に触れてみれば、型紙から、式姫の気配が伝わってくる。
薄く、でも、しっかりとした触り心地で、ほんのり暖かいような。それがとっても頼りになる。
大丈夫。私は一人で戦うわけじゃない。
文ちゃんが見ていてくれる。
それに式姫……この子達もいる。
あ、指先で撫ぞった型紙が、大丈夫だよって応えてくれた気がする。
あっでもひょっとしたら、いつでもいけるぞー! って言ったのかも?
それとも、私がお守りいたします。かな?
ふふっ。
「よーし……!」
……せっかくだし。何か掛け声をかけながら呼び出してみようかな?
おいで━━は、私にしては大人しめかな?
召喚! ━━って叫ぶのは、流石におてんばすぎるかな?
「うーん……」
(……戦闘されないのですか?)
「あ、それがね……なんて言って呼び出そうか━━━━」
急に、強い風が吹いて。
思わず目を細めた。
細めた視界いっぱい。
強い風で、桜の花びらが次々に舞い流れて。
景色が桜の花びらに、目の前の景色を全て、視界が、幾重にも桜の花びらで覆い尽くされていくように。
「わあぁ……!」
さああ、と流れていく。
そして、それもひと時のこと。
風はすぐに止んで。
あとにはまた、長閑な日和だった。
そして、広々と晴れた道の先。
(すごい桜吹雪でしたね)
「うん、すごかったね」
……あ。化け案山子が動き出した。
(とこよさん!)
「うん! 文ちゃん!」
懐に入れた型紙を、もう一度だけ指でさっと触れて、指先ではさみ、それから思い切り、春の空へ向けて━━━━
~~陰陽師の日々 はじまりはじまり
シャキン
ペテテヘペテテペテテペテテン サアアアア……
デンッ デデデデッ デン デン デッデッデッデッ デッデデーン