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澄姫が遊びに来た その五

Last-modified: 2018-08-17 (金) 11:13:59

 冬の日。
 澄姫が私の家へ遊びに来るという驚くべき事が起こった日のこと。
 澄姫と、文ちゃん、私の三人。
 炬燵でひと笑いして、まったり蜜柑を食べている時。
「とこよ様。お茶をお持ちしました」
 襖の向こう、廊下から小烏丸ちゃんの声がした。
「はーい。ありがとー」
「失礼いたします」
 襖が開くと小烏丸ちゃん、なんだか今日はやけに丁寧だ。
 わざわざ冷たい廊下に両膝をついて、丁寧にお辞儀までしている。
 そんなことしなくていいのに……って、あっ、ひょっとして澄姫がいるからかな?
 澄姫だけど、一応お客様だもんね。澄姫だけど。
「……何よ?」
 なるほどね。なるほど。
「何? 何か言いたげね」
「ううん、そういえば澄姫ってお客様だったなって」
「まあ、一応そうなるわね。そんな風に思われてる気はしないけど」
「そりゃあ澄姫がお客様だなんて、私も今まで忘れてたくらいだし」
「澄姫様、どうぞ」
 小烏丸ちゃん、湯飲みにお茶を注ぐのも湯のみを澄姫に差し出すのもとっても丁寧だ。
「ありがとうございます」
 澄姫ったら畏まっちゃって。面白いなあ。 
「とこよ様、どうぞ」
「小烏丸ちゃんありがとー」
「まあ、とこよに気を使われても気持ち悪いし、私としても気を使われないくらいで丁度いいわよ」
「ふふっ」
「文さんもどうぞ」
「ありがとうございます」
 あれ? お盆が空だ。
 湯飲みがひとつ足りないぞ……?
「ねえ小烏丸ちゃん」
「はい」
「小烏丸ちゃんのは?」
「私の?」
 首を傾げられてしまった。
「うん。小烏丸ちゃんの分のお茶がないなって」
「あっ、そういうことでしたか。いえ……私は隣の部屋に控えておりますので」
「ええ!? 控えてるって、一人で!?」
「はい」
 そんなの当然って感じの顔だ!
「だめだよ、そんなの。小烏丸ちゃんも一緒に炬燵で、あったかーいお茶を飲もうよ」
「いえ、私は」
「蜜柑もあるよ?」
「お茶は隣室でも飲めますし、蜜柑も隣室で頂きたいと思います」
「むぅ……。誰も居ない部屋に一人じゃ寒いよ」
「隣の部屋にも炬燵はありますから大丈夫です」
「そうじゃなくて、一人じゃ……」
「いえ私一人で十分かと。何か御用とあらば、いつでもすぐにお呼びつけください」
「それじゃあ話し相手もいないよ」
「常にとこよ様の話し声は伺っておりますので、むしろ誰かと話すことなく静かにしていた方がよいでしょう。何か御用とあらばすぐ駆けつけられます!」
「うう……」
 さすが刀式姫、護りの構えに入ったら鉄壁だ。なんて。
 とはいえ。
 いつもはこんな頑なに遠慮したりしないのに。
 なんだかんだと言っても私がお願いしたら、とこよ様がそうおっしゃられるのでしたら……、って感じで聞いてくれるのになあ。
 どうして今日は……って、ひょっとして澄姫が……お客様がいるから……?
 おのれ澄姫め。
「なによ……。……はぁ、はいはい」
 え、何? どうしたの澄姫?
「ねえ、小烏丸。私は気にしないから、もしあなたがよければだけど、一緒にお茶を飲んでくれないかしら」
「それは……」
「わ、私の思いが澄姫に通じた!?」
 もしや、澄姫も文ちゃんみたいに伝心の術で私の心を!?
「あなたねぇ……。人をあんな責めるような目で見ておいて、そういうこと言う?」
「あ、なんだそういうことか。てっきり私の心を読んだのかなって」
「ゴフッ!! ゴフッ!!」
「そんなはずないでしょ。そしてなんで文が血を吐いてるのよ」
「だって澄姫のせいかなって思って」
「私のせいってなによ。……いや文が血を吐いてるんだけどそれはいいの?」
「わ、私はお気になさらず、ゴホッ……それより、け、喧嘩をなさらないで下さい、ゴフッ」
「あ、文もそれでいいのね……」
「いつものことだよ」
「い、いつものことです」
 うんうん。
 ん? 澄姫が黙って小烏丸ちゃんを見ている?
「ええと、澄姫様。その、文さんが血を吐くのは本当にいつものことで、なので、その、何といいますか」
「小烏丸がそう言うのならそうなのね。なら、私も気にしないことにするわ」
「小烏丸ちゃんの言うことなら信じるんだね」
「そりゃあ。小烏丸だもん」
「そうだね。小烏丸ちゃんだもんね」
 確かにそうだ。うんうん。
「え、ええと」
 わたわたしてる小烏丸ちゃんかわいいなあ。
 真面目で、真っ直ぐで、嘘なんて言いそうにもないもんね。
「でも……」
「ん?」
 澄姫が小烏丸ちゃんを見て小首を傾げている。
「どうしたの澄姫」
「あ、あの。私、何か不手際をしてしまいましたでしょうか」
「ううん、そうじゃないの。ただ、なんだかこう……柔らかいわね。あなた」
「へ? 柔らかい……ですか?」
 きょとんとしてる小烏丸ちゃんもかわいいなあ。
 まあ私もきょとんだけどね澄姫。
「ああ、確かに。少しずつ柔らかくなってきましたね」
 文ちゃんは分かってる!?
「澄姫に私の小烏丸ちゃんの何が分かるっていうのー」
 何が柔らかいと言うんだー。
 顔かー。ほっぺたかー。
「と、とこよしゃま、ひゃ、ひゃめてふだはい」
「いえ、とこよさん。そういう触って柔らかいといった話では無いと思います。あと小烏丸さんが困っていますよ」
「何してるのよ……」
「ほっぺたが柔らかいのかなと思って」
「やめてあげなさい」