:怪文書/ハカセ

Last-modified: 2023-07-12 (水) 12:11:12

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ハカセの膝枕

車掌? なんだまだ起きていたのか
…眠れない? ふふ、キミも存外子どもっぽいところがあるんだな
そうだ膝枕でもしようか? 何、気にしなくてもいい
テンシンもうちに来た頃はよく甘えに来たものだよ
あの子も張りつめた糸のようだったから―安心できる場所が欲しかったんだろう
さあ遠慮はいらない お休み 車掌

ハカセの水着

テンシンとシャンハイ連れて海へ行くことになったハカセは泳ぎもしないのに水着はいらないと説明するがそこを何とかと自らデザインした水着を着てほしいと懇願するテンシンの熱意に負けてまぁ着るだけならとOKを出しさぁ当日というところでハカセ水着着てくれましたか何で上からパーカーを?いやどうせ泳ぎはしないし日陰で本でも読んでるから楽しんでおいでみたいになぁなぁで送り出された二人を後目にアンサーキャンサーの同人読んでたら偶然あらわれた車掌に困惑水着見たいなぁという彼の言葉にオトメなハカセは全く仕方ないなキミはと着ていたパーカーがするりと砂地へ落ちていった

ハカセの着替え

どうした車掌?…これを着てくれって?またテンシンが…
違う?なんだキミ自身の頼みなのか
変な衣装でもないし着るのは構わないんだが…まったく、私は着せ替え人形じゃないんだからな?
……まさか着替えてるところも見たい、なんて言うわけじゃないだろうね

ハカセの麻雀

こうして麻雀の卓を囲んでいると、故郷にいた時のことを思い出すな
パパやママ…んんっ、父や母はとても忙しい人だったけれど、時間がある時は、テンシンを加えてよく遊んだものだよ
テンシンがルールを覚えないものだから、しょっちゅうカモにしてさ…遊びとはいえ、当時の私は悪いヤツだったな
こうして時が流れた今でも、こうして遊びに興じられることがどれだけ恵まれていることか…私はとんだ果報者だと、軍に入って現実を目の当たりしてから実感したものだ
こんな時間が当たり前となっていつまでも続くように、共に尽力していこうじゃないか
…おっと、それを捨てたのは悪手だったね車掌、また私の勝ちだ
なに?3人でずっと俺のことを狙い撃ちにしていなかったか、だって?人聞きの悪い事を言わないでもらいたいね、気のせいだよ、気のせい
約束通り、最下位の人にはみんなの提案を一つずつ飲んでもらうよ、さて、どうしたものかな…?

ハカセのピザ

これがピザというものか、いや、シャンハイのやつが一時期やたらこれを食べたがっていた時期があってね、何かのアニメの影響でも受けていたんだろうけどね
小麦粉を生地の上にトマトソース、チーズ、肉、香草などを乗せて焼き上げたものか、確かにいい匂いがして美味しそうだ
ふむ…それはあくまで一例であって魚介類や果物を乗せる物もあるというのか、私もまだまだ異国の食文化に関しては見識が浅いな
故郷の食べ物にも、果物を入れるか入れないかで時に論争に発展する物があってな…いや、関係がなかったな、すまない
みんな早く食べたいという顔をしているからね、冷めてしまっては味気ないことだし、おしゃべりはこの辺にしようか、では、いただきます

ハカセのナポリタン

ふむ、これがナポリタンというものか…
ヴェルフォレット特有のパスタという麺にトマトを主原料としたソースをあえたもの…簡単な作りで腹を満たしやすい、まさに家庭料理といった風情だな、夜食にぴったりだ
こんな出で立ちをしているが実はニシキの食べ物だというのが面白い話だね、我が故郷の食べ物も、諸外国に持ち込まれた際には様々な試行錯誤が及んだと聞いているよ
本来の在り方にこだわることより、現地の人々にどうすれば受け入れられるかを考えた結果、形を変えて出す事が選ばれていったのだろう
私はそういう考え、あり寄りのありだと思う、せっかく食べるのなら、美味しく味わえるに越した事はないしね
こういった柔軟な考えが食事以外のところでも発揮出来れば、もう少し世界は平和になっていけるのかも知れないな
おっと、余計な講釈が入ってしまったね…冷める前にいただくとしようか、それでは、いただきます

ハカセの手袋

テンシン、久しぶりの外出で気分が高揚しているのは分かるけど、これは任務なんだからあんまりはしゃぐんじゃないの
ほら、手袋を作ってみたからつけてみな、手のサイズは合わせてあるから
寒い環境というのはそれだけで体力を奪う要因になるからね、軍の支給品も当然あるけど、それより暖かいはずだ
テンシンは素手で戦う事もあるから、脱がなくても素手と同等の能力で戦えるようにしておいたよ、一瞬の手間が命取りになりかねないのが戦場というものだからな
本当は私もついて行ってやりたいけど、最初から戦闘が織り込まれている今回のような任務では、私では足手まといになりかねない、こうして見送ってやることが精いっぱいだ…
何度も言っているけど、現場の指揮官のいう事をしっかり聞いて、味方をしっかり守ってあげるんだよ、もちろん、テンシン自身の命もね
じゃあこの手袋はお守り代わりに大切にとっておくって? おいおいそれは使ってもらうために作ったんだぞ?
…行ってしまったな、絶対に無事で帰ってこいよ、テンシン…

シーイェン誕祝ハカセ

誕生日おめでとうシーイェン
テンシンがあんなに誰かと楽しそうに出来る子と出会えた事が、私としてはとても嬉しい
ささやかだけど私からもプレゼントを用意した、修行用のサポーター一式と、私が選んだおすすめの漫画だ
それでこっちはテンシンからのプレゼントだ、どうやら君とテンシンが初めて出会った時の話を漫画にしたようだね、ずいぶんと張り切って作業していたし、よほど筆がノったんだろう
…言っておくが、くれぐれも漫画で描かれている事を真似しようとか考えるんじゃないぞ
ん? テンシンなら任務でいないよ、少なくとも今日は帰って来られないだろう
なに? それなら今日は私と組手がしてみたいだと? テンシンがあんなに慕っている人が弱いはずがないから?
こういうノリは苦手なんだが…彼女にとってはこれが最良のプレゼントというわけか
仕方ない、今日くらいは付き合ってやるか…どうぞ、おてやわらかにね

ハカセの残業

やはり安請け合いなどするものじゃないな…身体中痛くて仕方ない
とはいえ仕事はしなくては…案件が溜まってきてしまっている
この資料は確かあの辺りに…もう、ちょっと…! 届かない…!?
梯子はどこに…うっ、なんであんな資材の山に混じって…?
整理整頓には気を配って欲しいと言ってたおいたのに…
…今日はこのマッサージ機から動かないぞ
うん、それがいい、あり寄りのありだ

ハカセの心配

最近、シャンハイが不審な人物の気配を感じているらしい
アイゼングラート軍は派閥争いが絶えないと聞く…幸いまだそういう出来事には遭遇していないが、影響力のあるシャンハイを疎ましく思う者も当然いるのだろう
常に網は張っておかないと手遅れになってからじゃ遅い、私もあの子も、政治劇なんて興味はないんだけどな…
まあシャンハイのところは雇われた護衛に囲まれているし、あれだけ厳重ではネズミ一匹通しはしないだろうけど…あの子が息のつまる思いをしているのも想像はついてしまう
私なんかといて何が楽しいんだか分からないけど、求められている事にはなるべく答えてあげないとね
おっと、噂をすれば…かな?
今日はテンシンも帰ってくると連絡があったし、久しぶりに2人の体でも洗ってあげようかな

ハカセに質問

自らの死んだあとの扱いを想像した事があるか…だって?
正直に言えばまったくないな
別に歴史の教科書に乗りたいとか、自分の名前を冠した賞が作りたいだとか、そういう理由でやっている事じゃないからね
自分のやりたいことしかやらない私のような人間に、そんな扱いをされても、かえって困ってしまうよ
そもそも私は、まだそんな事を考えるほどの大きな何かを成したことなんてないしね
目の前の困っている人達が私の働きで救われるのなら、それ以上に求めるものなんかない
死後どのような扱いになっていようと、それは自らの生き方の結果にすぎないのだから、生きているうちに気にしていたってどうしようもないさ
私には君も同類に見えるがどうかな、車掌?

ハカセと苺

やあ、おはよう車掌
なんでも今日は「苺の日」というそうじゃないか…テンシンがしきりに語っていたよ
記念日だから苺が食べたい食べたいってね…シャンハイまで一緒になって
まったく、こんな妙な知識…一体どこから仕入れているんだか
ん? そうか、シブヤが…フフ、君も大変だな
苺といえば我が祖国アイゼングラートでの生産量が世界一と言われているな…特に私やシャンハイの地元の地域だけで全世界の3分の1以上を賄っている
テンシンが食べたがるのも頷けるよ…私はあまり好みじゃないんだが
最近シャンハイの偏食が酷くなってきているから野菜を食べるノルマを課しているんだが…
やれフライドポテトは野菜に含むのかだの、スイカは野菜を食べたうちに入るのかだの…しょっちゅう屁理屈を捏ねてきて参るよ
苺はどうやら野菜でもあり果物でもある特殊な立ち位置にあるものらしいが…君なら子育てする上で、苺は野菜に含むかい?
私はもう面倒になったから、シャンハイには嫌いな食べ物、その食べ物に含まれている栄養素、その栄養素が含まれている食べ物…それぞれのリストを作成するように言うつもりだ
こうすれば無理に嫌いなものを食べさせず、なおかつ不足しがちな栄養素が一目で分かるから補いやすいだろう?
ところで、さっき話してた苺を食べようという話だが…
シャンハイがせっかくならと、ホールケーキなんて買ってきてしまったんだ…車掌も一緒に食べてもらえないだろうか?
なぜって…3分割より、4分割のほうがやりやすいだろう?

ハカセと枕

やあ、おはよう車掌
…ああすまない、あまりに気持ち良さそうに昼寝していたものだから起こすのも忍びなくてな
ところで今日は「枕の日」というそうじゃないか
懐かしいから昔テンシンのために作った発明品をついつい倉庫から引っ張り出してきてしまった
そうそう、今君が枕にしているソレだよ
名付けて「睡眠学習枕」
眠ったまま勉強ができるという夢のようなアイテムだ
よく昼寝をするテンシンのためにならないかと開発してみたんだが…
覚えたい単語を録音してタイマーをセットしておけば、寝ている間にスピーカーからアルファ波とシータ波に変換された特殊な音声が再生される
ノンレム睡眠とレム睡眠…聞いたことくらいはあるだろう?
ざっくりいうと睡眠にも2種類あって、深い眠りと浅い眠りに分けられる
ノンレム睡眠が深い眠り、レム睡眠が浅い眠りだ
そのうちレム睡眠は脳が情報の処理を行う時間と言われていて、夢を見るのもこのレム睡眠の時間帯だ
そこにさきほどの周波を当てることで効率よく、眠ったまま記憶を刻み込むことができるのではないかと、そういう実験だ
え? 効果? …はは、もしこれが成功していたら今頃この機械は倉庫で眠ってはいなかっただろう
まあサブリミナル効果に近いというか…科学的根拠などない空想さ、当然成果は得られずテンシンはいつも通りだよ
ただまあ、たまにはこうして過去の作品を楽しんでみるのも一興だろう
たとえば君にその枕を添える直前…私のある声を吹き込んでおいたんだが、どうかな?
私を見てなにか感じることはないかい…? そうか
やはり実験は失敗だな、少し残念だが…
え? どんな言葉を入れたか…だって?
フフ、それは秘密だ
もしかしたら数年越しに効果が表れる…なんてことがないとも言い切れないからな

ハカセと七草

やあ、おはよう車掌
なにやら興味深い歌が聴こえてきたからな…つい来てしまった
唐土の鳥がどうとか、ニシキの鳥がどうとか…
ああ、そうだ…唐土というのはアイゼングラートの…それも私の故郷の地域のことを指す言葉だ
歌詞の意味はよく分からないが、七草の歌だということは知っているよ
そもそも1月7日に七草を食べる風習は私の地元が発祥だからな…意外か?
そうだな、ニシキ独自の文化と思っている人も少なくない
昔、私が住んでいた地域では正月の1日を鶏の日、2日を犬の日、3日を猪の日
4日を羊の日、5日を牛の日、6日を馬の日として、その日対応する動物の殺生を禁じる風習があったんだ
そして7日目に当たるのが「人の日」
…なにか言いたそうだな?
そうだ、人を殺さないなんて当たり前の話だろう
だがこれが刑罰にも当て嵌っていてな、その日だけは死刑の執行が避けられていたんだよ
そして7日の「人日」には7種類の野菜をスープにして飲むという習慣がある
これがニシキには粥という形に変化して伝わったんだろう
…ところで、7日は「爪切りの日」とも言われていてだな
七草を浸けた水で爪をふやかして切るというおまじないがあるんだ
特に他人に切ってもらうとおまじないの効果が強まるとも
そこでだ、車掌…君さえ良ければ私の爪を切ってはもらえないだろうか
お返しはするさ、君の爪も私が切ろう

ハカセと賭博

やあ、おはよう車掌
朝からなにやら景気の良い話をしているな…そうか、賭け事…
賭けといば、私が住んでいた地域でも盛んに行われていたな…最近は多くが違法として取り締まられるようになってしまったが
中でも闘蟋は大人気だった…聞き慣れないだろう
リングの上でコオロギを戦わせてその結果を賭けるというユニークな賭博さ
子供の遊びのようだが…ルールや道具、育成法に至るまでかなり研究されていて意外と奥が深い
一大ムーブメントを巻き起こしただけはあるな
しかしまあ、アイゼングラートの賭博を語るならばアレは欠かせないだろう
国家最古のボードゲーム「六博」
このゲームの「博」の字が「賭博」という語の語源になっているほど、古代アイゼングラートではポピュラーな遊びだったそうだ
今ではそのルールなど失伝されているものも多いが…ちょっと興味が湧いたので再現させてみた
遊んでみるかい? しかしただ遊ぶだけでは面白くない、ここは1つ賭けをしようじゃないか
ただし現金は扱わない…どれだけ信頼関係がある間柄でも現金が絡むと破綻するものだ
両親の仕事の都合上、金のやり取りはいくつも見てきた…金の汚さや人の怖さも嫌と言うほどな
だからこうやってワンクッション挟む…奢りや労働であれば後に引かない、健全な賭けになる
というわけで私が勝ったら君にマッサージでもしてもらおうか、徹夜明けで疲れているんだ
さて、君が勝ったら…私にどうしてほしい?

ハカセのコミケ

車掌
今年の年末12月30(木)、31日(金)に開催されるコミックマーケット99にて我が三ストトレインガールズのグッズが発売されることはもう知っているな?
そこで販売される『三ストトレインガールズ コンプリートBOX』に、なんとヴェルニゲローデのSレイヤーが手に入るシリアルコードが同封されているそうだ
これはもう絶対手に入れなくてはならないな
しかし今年のコミックマーケットはいつもと一味も二味も違う…注意点が多いから気をつけろ

まず当日の入場券の販売は『存在しない』
事前にチケットペイなるサイトでチケット購入の申し込みをしておかなければならない
30、31日の二日間、それぞれ日付ごとにチケットが別だから、行ける日付と申し込む日付が間違っていないか確認するんだ
それから、今回は販売ブースが東エリアと南西エリアに分かれておりチケットもまた別
基本的に各エリア間の行き来は『不可能』だから注意しろ
三ストレグッズが置いてあるKMSブースは『南展示棟4F 企業ブースNo.532』
つまり『南西エリア』のチケットを持っていないと入ることができない…間違って東エリアのチケットを購入してしまわないように
一般入場チケットの種類は全部で
『12月30日東エリア』『12月31日東エリア』
『12月30日南西エリア』『12月31日南西エリア』
の4種類というわけだ

一般入場チケットの申し込み期日は2021年12月13日
明日までだからまだ申し込んでいないなら急いだ方が良い
そして入場券の数には限りがあるから、申し込み数が多い場合は抽選という形になる
もし抽選に外れてしまった、という場合は諦めず12月22日にサイトのほうに張り付こう
キャンセルが出た場合、そこで先着順の二次販売を行っているはずだからな

更に、当日入場するためにはチケットの他に『新型コロナウィルスワクチン接種済証明書』或いは『PCR検査陰性証明書』が必要
接種済証明書の再発行の方法は各地域によって多少異なるが、即日発行してくれる場合などほとんどないため今のうちから事前に準備しておこう
手数料もかからない場合が多いから、行く予定があるなら迷わず手続きしておけ
PCR証明書は各病院で検査を受け発行してもらう必要があるが、そこそこ値段が張るからやはりワクチンをしっかり接種することを推奨する
もちろんその書類と一緒に身分証明書も提示しなければならないので運転免許証、マイナンバーカード、保険証など本人確認の取れるものも持っていくこと

現在のところSヴェルニゲローデは『会場限定』とも『先行入手』とも言われていない
通販で売られる可能性、あとでゲーム内で交換できる可能性等もある
もちろんない可能性もあるが…
そこら辺はまあ、自己判断で頼むよ
それじゃあ…頑張ってSヴェルニゲローデを入手してあげてくれ

こんぷれめんたりぃ☆からぁ

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ペイジンたちが運営する孤児院…通称「秘密基地」では、明日催される誕生会の用意が着々と進められていた。

主役は10歳になる男の子。特に接点があるわけでは無かったのだが、準備を手伝って欲しいと頼まれれば断る理由もない。

快く了承し、ペイジンたちと部屋の飾り付けに勤しんでいた。

う~ん…うぅぅぅぅん?

すると、隣で絵を描いていたテンシンから呻き声のような吐息が聞こえてきた。

絵を描いていた、とはいっても決してサボっている訳ではない。

誕生日プレゼントとしてイラストを渡すことにしたのだが、直前に任務が入ってしまい描く時間が確保できなかったのだ。

そのため前日の今になって完成させようとしていたようなのだが…あの様子ではどうやら行き詰まってしまったらしい。

どうした? テンシン。イラストで悩むなんて珍しい

あまりにも長考するテンシンを見かねたペイジンが背後から声をかけるが…極まった集中が周囲の音を遮断しているのか、一向に気づく気配がない。

ペイジンの呼びかけが聞こえないほど集中しているところは初めて見た。体を叩くなどして物理的な刺激を加えれば解けるかもしれないが、そこまでしても良いものなのか逡巡する。

う~ッ。ここは…こうでぇ…

…こら、テンシン

———しかしペイジンはこちらの躊躇いを吹き飛ばすように、両手でテンシンの頭を掴み取りぐりんぐりんと左右に揺さぶった。

ぐわぁぁぁぁっ!? な、なんでしょうか!?

冷や水をかけられた猫のように飛び上がるテンシン。

さすがというか…2人の遠慮のないこの距離感はまだまだ真似できそうにない。

そうやって机を睨んでいてもシワが増えるだけだ。行き詰まったら遠慮なく周りの人に相談しなさい

…ペイジンもよく資料を睨みつけながら唸っているところを目撃するのだが。ここで口を出すのは野暮というやつだろうか。

あ…そ、そうですね。これは失礼しました!

それで、どうしたの?

実は…イラストの線画までは上がったんですけど、色塗りに難儀してまして

いつも勢いに任せ、猛スピードで傑作を仕上げてしまうテンシンとしては非常に珍しい。

オリジナルのロボットだとかヒーローを描いてみたんですけど…男の子が喜びそうな色合いというものがイマイチ思いつかなくて

中々に難しい質問だ。絵のことなど到底分からないし、色に関しても素人同然だ。

今まで感覚で描いてきたテンシンの筆が止まるようなイラストに対して、的確なアドバイスなどできそうにない。

ペイジンも絵のことは専門外だろう…そう思って彼女の方に目を向けるが、顎に手を当てて少しの間思考を巡らせたのち、小さく口を開いた。

ふむ、色か…。それなら『補色』を意識してみると良い

補色…ですか?

聞き慣れない単語に首を傾げるテンシン。

かくいう自分も、全く意味は分からないのだが。

そうだ。色の組み合わせの中には、互いの色を引き立て高め合う相乗効果が期待できるものもある

そ、そんな組み合わせがあるんですか!? 知りませんでした…

むしろ、知らずに自身のセンスだけであそこまで綺麗な画を仕上げていたことに驚愕するのだが…。

例えばほら、こうやって黄色と紫色を足してみると…

ペイジンが筆を手に取り白紙の紙に思い思いの線を塗りたくる。

すると、少し薄められた紫と黄のコントラストが上手く調和し、印象に残る不思議なレールの画が浮かび上がってきた。

今までは自分のインスピレーションに任せて描いていたんだな…。勢いも大切だけど、こういった知識も蓄えて自分の中に理論と理屈を持てば表現の幅も広がるし、もっと自由に絵が描けるようになると思うよ

な、なるほど

もちろん補色は、ただ使えば良いというものでもない。「反対色」とも呼ばれるくらい、本来真逆の要素を持つ色同士の組み合わせだからね

でも、色の具体例がいくつかあるだけでもかなり作業が捗りますね! 組み合わせは他にどんなものがあるんですか?

そうだね…て、こっちも時間が押してるんだった。資料を渡すから自分で調べなさい

そういうとペイジンは、自室から一冊の本を持ってきてテンシンに手渡した。

ありがとうございます! 頑張って完成させますね!

うん、頑張って。さて、車掌。そろそろ準備に戻ろう

早足で部屋を去るペイジンの後を追いかけ、こちらも出入り口のドアをくぐり抜ける。

去る間際テンシンのほうに目を向けると、また先程のように目の前の画用紙に夢中になっていた。

 

 

パーティの準備もいよいよ大詰めを迎え、残すところ天井に貼り付けるリースだけとなった。

ふぅ…思ったより時間がかかってしまったな。しかしこれで最後だ

大きく息を吐いたペイジンは手に持った派手なリースをこちらに見せつけながら、膝を少し曲げしゃがむようなジェスチャーを向けてきた。

すまないが、私を肩車してくれないか。このままでは天井に届かない

ああ…確かに。この部屋には脚立がないので、どちらかが台代わりにならなければならない。

ペイジンの指示に従い、その場にしゃがもうと膝に手をつくと―――

完成しましたよーッ!!!

———そこに、興奮した様子のテンシンが大きな画用紙を持ちながら突っ込んできた。

うわっ!? 急に大きな声を出さないでくれ!

すみません! でもほら、見てください! とってもキレイに仕上がりました!

そう言ってテンシンが広げた画用紙には、赤と緑を基調とした彩り豊かな世界が広がっていた。

…む、綺麗に仕上がってるじゃないか。頑張ったね、テンシン

はい! ハカセのおかげですよ! 補色、奥が深いものですがなんとか形にできたと思います!

いつにも増して自信ありげにイラストを見せびらかすテンシンの表情は、年相応の無邪気な笑顔になっていた。

どうやら、スランプからは完全に脱することが出来たようだ。

これであの子も喜んでくれると良いのですが…

クオリティも高いけど、それだけじゃない。テンシンの真心が籠っていることが伝わってくる。きっと喜んでくれるよ

そう言ってペイジンが眺めるイラストを改めて見てみると、ふととある既視感が意識の奥底から湧いてきた。

この淡い赤と緑の色相の組み合わせ…どこかで見たことがある気がするのだが…どこだったか。

さて、プレゼントの用意も終わったことだし、テンシンも手伝ってくれ。天井にリースを付けるから、肩車を頼むよ

え? あ、はい! お任せください!

2人が手を触れ合えるほどの距離に近づいた瞬間、既視感の正体に気づいた。

この赤と緑の配合は…ペイジンとテンシン、2人の髪の色と同じ色相なのだ。

ちょ、テンシン! そんな力任せに持ち上げないでくれ!

えへへへ…ハカセを持ち上げるの、すごく久しぶりな気がして。ちょっと嬉しくなってしまいまして

…なるほど。正反対の性質を持つからこそ、その組み合わせは互いを強調し、支え合い、高め合う。

この2人の関係性こそがまさに「補色」。コンプレメンタリーカラーと言えるのかもしれない。

車掌! 君も見ていないで支えてくれ。テンシン1人ではやっぱり不安だ

そんな~

生まれも才能も性格も、なにもかもが正反対と言える2人。

デコボコで、歪で、不安定。

しかしそれでも、躊躇いなく手を繋げる。笑い合える。命を預けられる。

信頼。そのたった一つのピースが揃えば、例え世界の反対側にいる人間とも繋がることができる。

目の前にいるたった2人の小さな少女から…そんな無限の可能性を感じ取ることができた。

ハカセとハチミツ

さっそく、食堂ではハチミツを使った料理が出来ているようだね、甘い匂いがついているよ
ああ、私が持って来たんだ、大量にあって処理しきれないんでな
もう養蜂はやめたんじゃなかったって? ああ確かに、私のところでははもうやってないよ。しかし、せっかく得たノウハウを途絶えさせるには惜しいし、知り合いに譲ったんだよ
研究というものは幾多の失敗の上に成り立つものだ、やめる勇気と同じくらいに、転んでもタダでは諦めない判断が求められる事もあるという事だね
これか? これはビワと言う果物だ、これもたくさん採れたからって、分けてもらった
養蜂をするにはミツバチの餌となる花が必要になる、だから季節ごとにこういった植物と一緒に栽培するんだ。春にはウメやサクラ、夏にはカキや栗…と言った具合にね
ミツバチは餌を得て蜂蜜を作り、植物は受粉を促進させて果実を実らせる…こうして両者が得をする環境を築いて維持してやるのが養蜂家の役割というわけだ

ところで車掌は、ハチミツを赤子に食べさせてはいけない理由を知っているかな?
ハチミツの中にあるボツリヌス菌というものがあってな、これを摂取してしまうと赤子の体内で菌が増殖して、筋肉が弛緩するなどの症状が起きる
大人になれば腸内の細菌が菌を撃退するから問題にならないけど、赤子はまだ腸の環境が整っていないから、食べさせてはいけないというわけだ
菌ならば加熱すればいいのではないかと考えるかも知れないけど、ボツリヌス菌は熱や乾燥に強くて、100度に加熱しても死滅しないから、結局のところ与えないのが一番無難ということだな

どうしてこんな話をしたのかって?
……あっ……
ま、まあ、いいじゃないか、将来役立つかも知れないぞ、うん

ハカセのスピーチ

あ、あー…マイクテスト…よし、大丈夫そうだな
特鉄隊に所属する諸君、本日はよく集まってくれた
本日の企画の主催となったペイジンだ、以前から通知していた通り、本日はここ学園で競技大会を行う事と相成った
競技を通じて、トレイソナイト間の交友、ひいては五大国間での確固たる連携と恒久的な友好の輪を築く礎とならん事を願って…さしずめ五輪大会といったところか
日夜幻霧との戦いで命を賭けている君たちにとっては物足りない内容になっているかもしれないが、今日は息抜きだと思って気楽に参加してくれ
なお、今回の大会においてはシャ…スポンサーたっての希望で、競技大会用の衣装を用意したので、全員それに着替えてほしい
開会宣言は以上だ、細かい規則などについては――

はぁ、緊張した…やはり人前で話すのは苦手だ、どうして私にこんな役割が回ってきたのか
他の案では最悪死人が出かねなかったし、私の案なら安心出来るって? フフ…そういってくれるだけでもありがたいな
ああ、それは確かに競技用の衣装だが…私は着ないのかだと? 私は参加者ではないし、これからも色々と運営の準備があってとても忙しいんだ
…テンシンも今回は参加者側で近くにいない、もし誰かが一緒に付き添ってくれたなら、時間の余裕が出来るかも知れないね…?

ハカセと絵本

ああ君か車掌、この絵はなんだって?
テンシンが突然子ども達に自分で作った絵本を読ませてあげたいなんて言いだしてな、これはその絵本に使うイラストなんだよ
元気で活発な少女が、クールな女の人から助言を受けたり、泣き叫ぶ迷子の女の子を助けてあげたり、強力なライバルの少女と出会って絆を深めたりしながら、悪い魔物に捕まった王子様を助けに行くお話だそうだ
こういうお話はか弱い女の子の元に白馬に乗った王子様が助けに来るのがお約束というものだろうに、まるで誰かさんの精神が乗り移ったみたいだろう?
特にこの女の人、あの子からはこんな風に見えているんだと思うと…ああ、ここはボツだな、こそばゆくて耐えられない

それで、台詞をこれから入れるわけだけど、なにしろ子どもに読み聞かせるものだからね、表現には最大の注意を払わないといけない
これから色んな知り合いに読んでもらって感想をもらおうとしていたところなんだ、絵と合わせて読んでみてくれ
ふむ、そういう事なら実際に読み聞かせてみた方がいいんじゃないかって?
口に出して読みやすいかという視点は抜けていたかも知れないな…ありがとう、参考にさせてもらうよ
…なんだいその目は、別に私が読むわけじゃないんだが…
はぁ、しょうがないな
ほら、こっちに来い
ん? 読み聞かせとはベッドでやるものだろう?

ハカセと朝食

ふぁ…おはよう車掌、隣、失礼するよ
君の朝食は今日もパン1個か、やはり最近小食気味のようだな、別にダイエットが必要な体ではないはずだけど
あまり食欲が湧いてこないって? それはよくないな…君の体調に影響が出たら巡り巡ってみんな困る事になる、食事くらいはしっかりしてほしいものだな
ここでじっくり朝食の必要性を説いてもいいところだけど、理屈を聞いて食事が喉を通るようになるのなら苦労はしないからな、そういう話は後にしよう
それでは、いただきます

――ごちそうさまでした
いや待たせてしまったな、すまない
そっちは朝からよくそんなに食べられるなって? もっと食べる子なんていくらでもいるし、別に私が特別なんてことはないと思うが…
それより君の事だ、せめて栄養分だけでも補う必要があるだろう、部屋に健康用のサプリメントがあるから持っていくといい
私は食事も楽しみたいと思っているから、こういう錠剤にはあまり頼りたくないけどね
十分な食事をして栄養を得ることで初めて満足な思考と働きが出来る、人間とはそういう風になっているんだよ
それを聞いたらなんだか急に腹が減ってきた気がするって? よく分からないがそれは何よりだ
それなら…少し早いけど、部屋でこっそりランチにでもするとしようか? ふふ…

ハカセとコーヒー

目が覚めたか車掌、実験のデータはまとめたところだし、今度は人のベッドで一晩ぐっすり寝た感想でも聞かせてもらおうかな?
はは、別に怒ったりなんかしてないよ、君があんまりよく眠っているものだから、起こすのは悪いと思って放っておいただけだからな
(昨夜の実験とは別に、貴重なデータも取れた事だしね…)
いや…何でもないよ、うん
ちょうどコーヒーを淹れていたとこ草原で放牧生活を送っていた少年が、ある日飼っているヤギが興奮しているのを見つけた
辺りに自生していた真っ赤な果実を摂取した事が原因だと分かり、自らも食べてみると、とても気分がよくなり、元気に仕事が出来るようになった
そこを偶然通りかかった僧侶が実の効力に驚き、仲間の元に持ち帰ったところから、商人たちの間にも広まり世界中に伝わっていったという
コーヒーが人々に知れ渡っていく起源と言われている説の一つだ
当時はこの死にかけの大地にも豊かな大地が存在していて、人々の交流も盛んだったという話なのだろう
私の家は商人の家系だからな、こういう昔話はいくつも残っているんだ
子ども達が安心して草原を駆けまわれる世界、人が世界を自由に旅出来る世界
創作でも昔話でもなく、私達の生きているこの時に実現させたいものだろだから、目覚めの一杯に飲んでいくといい
美味しかったからもう一杯欲しい?
残念だが豆を切らしてしまった、テンシンにはこの前補充しておいてと言っておいたんだけどな…
…それは私の飲みかけだぞ?

ハカセと鯉のぼり

今日はニシキの文化で子どもの日だそうだな
私の故郷では来月の出来事だし、国によっては4月だったり10月や11月だったりする
いずれにしても子どもたちの成長を祝う日であり…大人となってからは子ども達の未来を考えるための日でもある
まあ…君にこんなことを言ってもそれこそ自分の師に論を説くようなものだろう、君はいつだって人々のために動いているんだからな
ところで…君はこのこいのぼりというものを知っているか?
巨大な滝を多くの魚が登ろうと試みるも鯉だけが登りきったという伝説になぞらえて、私の故郷において鯉は出世の象徴となったんだ
それがニシキでも広まっていて更にこんな旗になっているとは知らなかった、いいデザインだったものだからつい買ってしまったよ
しかしちょうどいいところに来てくれたね車掌、こいのぼりを飾るのを少し手伝ってくれないか? 思った以上に大きくて一人では大変でな…
もちろん…タダでとは言わないよ

ハカセとダイエット

よく来てくれた、今日は折り入って相談があってな
最近、特鉄隊の子たちからダイエットに使えるお薬とかありませんか? なんて相談が多くてな
日頃みんなと接している車掌なら分かると思うが…彼女たちは至って健康体だし食事だって管理されている、特別ダイエットなどする必要はないと言っていい
私もそういう話が来るたびに言ってはいるんだが…中々聞き入れてもらえない
過剰なダイエットの行きつく先は食事そのものの拒絶だ
業務に支障が出たり、いざと言う時に力が出ないなんて事になったらとりかえしがつかない
そうなってはもはや個人の問題では済まないことだし、そうなる前に車掌からも言ってもらいたいんだ
そうか…助かるよ
年頃の少女がこういう事で悩むのはよくある事というのは理解しているんだけど、私はそういう事で悩んだ経験がなくてな…
……? なんだい、人の身体をジロジロと
(…ああなるほどな、彼女たちが本当に気にしているのは…)
いや…なんでもないよ
それじゃ、頼んだよ…

ハカセと体温計

おはよう車掌
早速ですまないが…ちょっと額を出してみてくれ
これは新型の体温計だよ
対象の体に触れることなく、表面から発せられる赤外線を読み取って体温を測定する
利点は色々あるけど…接触型のものと比べて早く計測出来る事が特に大きいな
接触型の体温計だと1人測るのに5分から10分程度かかるが、これなら10秒ほどで終わる
流行病で患者がとにかく多い時とか、現場での作業を円滑に進めるのに役立つことだろう
問題点としては…表面の温度を短時間で測る事から、外気や部屋の暖房などの影響を受けやすいところだな
便利な道具には違いないが未だ改良の余地ありと言ったところか
まあ…物は試しだ
…36.3℃、健康そうで何よりだ
今度は何をしているんだって?
見ての通り体温を測っている、直に触れて測った時との差も調べておきたいんだ
なに、本職の医者ほどではないが私もそれなりに人の身体を診てきている、体温くらい触れればだいたい分かるさ
…少々熱っぽいようだな、よく見ると顔も赤くなっている
急に身体が熱を帯びてきているようだが…いったいどうしたんだ?

ハカセとセミ

セミの食べ方が知りたいだと? 何故いきなりそんなことを
あぁそういえば… テンシンが昔セミを食べた事があるという話をしていたな… 確か揚げ物にすると美味いんだとか
成虫の身体はスナック類のような食感がするとか… 幼虫は弾力があって食べごたえがあるとか… まあ具体的な感想を色々聞いたものだ
その時は生理的な嫌悪感でついそんな話はしなくていいと口走ってしまったものだが… 思い返せば、酷い対応をしてしまったな…
生きるためにやむを得ずやっていたことだということくらい、簡単に想像出来ただろうにな
こんな風にあの子はいつも自分に足りないものに気付かせてくれる… ふふっ、いい助手だろう?
ところで… なんだ、その… カゴに入った蠢くものは……
実食してみたくて……? まだそんな季節でもないのに……? 自ら出向いてわざわざ……?
やめろ! 見せなくていい! そういうことは食堂にでも行って頼むんだ… いいな!?

ハカセのヒマワリ

向日葵が背が高く成長しがちな植物とは聞き及んでいたが、まさか私や車掌の背丈より遥かに大きくなってしまうとはな…
それで畑に足を踏み入れた子ども達が今度は迷子になってしまうとは想定外だった
アイゼングラートは寒くて向日葵を育てるには適してはいない…とは言え、そこは手段を模索するのが私の仕事だ
温室を用意して適した環境にしてやるか、品種改良を施して寒さに耐えうるようにしてやるか、これくらいならそう難しいことではない
種を譲り受けたものだから、せっかくだし育ててみようかと思ってやってみたのだが…これは今後どうするか考え直さなくてはいけないな
それにしたって20メートル越えは明らかに大きすぎる?
む…新しく作ってみた肥料の実験と同時にやったのがまずかったかな…?

なんだこの揺れは…地震か?
…種が落下した衝撃でこうなったのか、直撃すれば命に関わるだろうな
通常向日葵の種は自分から落ちる事はなく、捕食者によって遠くに運ばれることで地面に落ちるのだが…あまりにも大きすぎて重さを支え切れていないのだろうか?
向日葵の種は食せば健康にいいと聞くが…これだけ大きいと収穫も容易ではないだろうな…うん
まあ…例え撤去するにしても調査は必要だ、これだけ大きいと時間がかかってしょうがないがな
また子ども達が入ってきてしまっては危ないから鍵もちゃんと閉めてきた、鍵はこうして私の手元にあるし、誰も入れはしない
今回は屋内でやってしまったために子ども達を大変な目に遭わせてしまったが、使い方を間違えなければ、この向日葵は観光資源に出来るし、肥料も食糧不足の解消に役立つかもしれない
仮に失敗だとしても、データをとっておくことはとても重要なんだ
とはいえ…今日はもうすぐ日も落ちるし、ここまでだな

どうしたんだ車掌、さっきから同じところを回っている気がする?
これは確かに、さっき調査中に落下してきた種だな…直撃すれば命に関わると言った
もうすぐ暗くなるから外に出ようと考えていたはずだが…
まさか、子どもやシャンハイのようなやつならいざ知らず、大の大人が二人もいて迷うなんてことが…?
な、なに…最悪テンシン辺りが探しに来るはずだ、心配はいらないさ…

ハカセのマンゴー

どうだ車掌、これは新しく整備したマンゴーの畑なのだが…上手く出来ていると思うか?
む…そうか、世界中を回って色々な物を見ている車掌に判断してもらうのがベストだと思っていたよ
子ども達にせがまれるし私も一度食べてみたいと思っていたので、どうにかなりませんかハカセ、なんて頼まれてな
本来はフレイマリンやニシキのような温暖な気候で栽培するのが一般的なようだが、どうやら上手くいったようでよかった
あとはみんなが満足してくれればいいんだけど…
このマンゴーからは生産者の優しい気持ちが伝わってくる、きっと大丈夫だろう?
なんだその歯の浮くような台詞は、聞いているこっちが恥ずかしくなってくるぞ

まあその、なんだ…せっかくだから一つ食べてみるとしよう
私は…これでいいか
言いたい事は分かる、その実はまだ青いと言いたいのだろう
確かに赤くなるまでおいておけば甘味の強い果実になるが、別に青くても食べる方法はあるんだ
僅かに香るマンゴー特有の甘味と強い酸味、固めのポリポリした食感が特徴だ
皮を剥いてそのまま食べてもいいし、サラダに加えたり酢漬けにしたりしてもいい、粉末に加工すれば酸味を加える調味料にもなる
苦手だからといって一切手をつけないより、研究してどうにか口に合う食べ方を模索する方が楽しいだろう?
ちなみに、熟す前の青い状態で収穫すると追熟させても甘くはならない
甘いものが食べたいのなら、君は定石通り弾力があり赤みがかっている物を選ぶことだ

選び終わったか、どれ、貸してみろ
マンゴーの実の中心部分には大きな種がある、それを避けるためにまず縦に三等分に切って、種の部分を取り除く
そして種の無い端の部分をこうやって賽の目状に切って、皮の方から軽く押して反らしてやると…ほら、店で出てくるような切り方の完成だ
コツは賽の目状に切るところで皮を切ってしまわないことだ、その方が盛りつけた時の見栄えが綺麗になる
私は得意な味ではないが、これはまさに食べごろといった状態だろう、案外君には目利きの才能があるかも知れないな?
…なんだい、その餌をせがむ小鳥のようなしぐさは
まさか、このまま私に食べさせて欲しい、なんて言う気じゃないだろうね…?

時に車掌、君はバナナンマンゴーという名を聞いた事がないか?
知らないか… いや、変なことを聞いて悪かったな
図鑑でそういう果実があるというのを見かけて、少し気になってな…君なら何か知らないかと思ったのだが
これからフレイマリンで任務なのだろう? 余計な雑念を抱かせるのも悪い、忘れてくれ
同行して手助けしてやりたい気持ちは山々だが、私には締切間近の原稿…んんっ、少し疲れてしまったのでな
そうだ、マンゴーの花には「甘いささやき」なる花言葉がある
花占いという訳でもないが、甘言に惑わされることのないよう、気をつけるといい
日頃多くの美人に囲まれている君のことだ、これは余計なお世話だったかな、ふふ…

ハカセと虹

どうした車掌、いきなり空なんか指差して
ああ、虹か…少し前まで雨も降っていたし条件も整っているな、それがどうかしたのか?
確かにくっきりとかかっているが…ずいぶんと嬉しそうじゃないか、セントイリスで虹は珍しいものなのか?
簡単に言えば空気中の水分に太陽の光が反射されればいいのだから、決して複雑な条件ではないはずだが
なんだったら霧吹きでもホースでもあれば簡単に…そういう話ではない? わ、悪かった…

今日は副虹も見えるな、ほら、くっきり見えている虹の少し上辺りだ
虹は普通赤・黄・緑・青・紫と見えるのが一般的だが、副虹というのは水分の中で発生する光の反射回数が1回多いから、その反対になるんだ
普通の虹と比べて色が薄いのも反射した回数が多いからで…うん? 虹の色は赤・橙・黄・緑・青・紫の6色ではないかって?
ああ…この辺の感覚は国によって異なると聞いたことがあるな、実際に見えている虹の色合いが地域によって違うというわけではないよ
それを観測した人の感覚が違うだけだ、実際、虹の色を赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の7色だと最初に定義したのはセントイリスの学者だと言われているしね
ニシキ辺りの子に聞いてみれば7色だと返事が来るんじゃないかな?
色彩の話ではないけど、私の地域ではこの二本の虹を空想上の生物になぞらえて、雌雄があるとされていたなんて話もある。虹が雄で副虹が雌、なんて風にね
発生の原理も解明された現在となっては、私のような人間が無粋な講釈を垂れてしまうものだが、昔の人々は虹を見る度に、様々な解釈を交え、思いを馳せていたのだろうな

なに? 今度は龍が空を飛んでいる?
何を言い出すかと思えば…疲れているのか?
虹は龍に例えられたという話もあるが、龍なんてあくまで空想上の生き物であって…そうではない?
確かに本物なら大発見だが、幻霧の影響にしか思えないぞ…ともかく、すぐにデータを取らなければな
む…? なんか、こっちに向かってきているような……

――案の定、正体はミストモンスターだったな…
肉体労働は苦手なんだが…特鉄隊の端くれとしては幻霧を見過ごすわけにもいかないし、仕方があるまい…
そうこうしている間に、虹は見えなくなってしまったな
なに、肩を落とす事はないぞ、実は写真を撮っておいた、これでいつでも今日の虹を見返すことが出来るだろう
確かに技術が発展したことで失われてしまったものはある、理論が確立されるということは想像の介入する余地がなくなるということだからな
だからと言ってそれまでの仮説や想像が無意味だったとは思わないし、技術の発展から生みだされていく新たな可能性はいずれ人々の暮らしも心も豊かにしていく、とも私は信じている
疲れているところに長話などしてすまなかった、眠くなってしまったんだろう? 遠慮なく休むといい
車掌一人抱えて移動するくらいなら何とかなるが、救助が来るまでこの寝顔を眺めているのも悪くは…んんっ、体力を温存しておくのもあり寄りのあり、といったところ
さて、これからどうしたものかな…

ハカセの新刊

どうした車掌、私の具合が心配で見にきた?
ふ、フフフ……何を言い出すかと思えば、私は至って健康体だ
この特製ドリンク「赤い衰勢打破」を飲む事で、私の脳は眠気を吹き飛ばし活性化、通常の3倍もの速度で作業を進める事が可能となるんだ
もう丸3日は寝ていないし、テンシンは1日目で既にダウンしてしまったようだが…今はアイデアが湯水のように湧き上がってくるんだ! 今眠ってしまうのはとても愚かな行為という他ないだろう…!
何故そんなに必死になっているのか、だと…愚問だな
このカレンダーを見ろ、もう印刷所の受付…つまり締切間近だ!
読者のみんなが待っている、この修羅場を乗り越えるまで、この筆を動かす手を止まるわけにはいかないぞ…!
フフ、ハハハハハハ……!

 

――同人サークルテソシソペイジソから、読者の皆さまへの大事なお知らせ――

テソシソ及びペイジソ両名の急病につき、イベントへの参加が困難であるため、次回参加予定イベントでの新刊配布は中止となりました

ごめんなさーい!(ペイジソ)

ハカセとかき氷

他の国々はこの時期とにかく気温が高く暑いと聞いたから、暑さに苦しむみんなへのささやかなプレゼントをと思って氷の彫刻を持ってきたら、思いのほか反響があってな
職人が手間暇かけて作ったいい氷だからな、向こうまで透き通って見えるだろう
寒さなど人を苦しめるばかりでなんの取り柄にもならないと思っていたが、こうして喜んでもらえているところを見ると、少しはあの国にも存在意義はあるのかも知れないと思えてくる
まあ…彫刻のテーマが他ならぬ君だから、個人的に欲しいという子が多いだけかもしれないけどね
なしかし、かき氷か…そのアイデアはいいんじゃないか?
眺めているより食べた方が身体も冷えるというものだろうしな
ニシキの伝統的な甘味のことだろう? 知識としては知っている
…しかし、甘味というからには、当然甘いものだよな…ん? いや、なんでもないぞ
さっそく氷を用意してくるから、少し待っているんだんだ、恥ずかしいのか? 君ならいずれセントイリスの中央辺りに銅像が立つんだろうし、予行演習だとでも思えばいいんじゃないか?
む? 氷は食べても問題ないはずだが…あれを食べる気か? あれはあのままにしておくべきだと思うぞ、色々な意味でな

どうした車掌…少し離れている間にそんなに汗だくになって
あそこにいるのは…ニシキの子だな
彼女の住む地域で流行っている甘くないかき氷のレシピ…か
トマトとチーズ、豆腐とわさび、じゃがいもなどの野菜を使ったソース等々…
確かにこれなら食べられそうだが…これをわざわざ聞いて回っていたのか?
私の味覚の問題でしかないのだから、そこまでしてくれなくてもいいのに
せっかく貰ったんだし、これから作ってみるさ

――ごちそうさまでした
ああ、美味しかったよ、デザートというより一つのおかずを食べているような感覚だな、いいことを知れたよ
ありがとう車掌、彼女にも礼を言っておいてくれ
礼は自分で言いに行った方がいい、だと?
たしかにその通りかも知れないが…私は、その…面識のない相手と接するのがあまり得意ではないから
彼女もコミュニケーションが得意ではないが、私のような見ず知らずの人間のために、頑張って思い出してくれた…
そうだったのか…まだ顔も合わせてはいないが、きっと…優しい子なのだろうな
ふむ…類は友を呼ぶとでも言うのかな、君のような者がリーダーだから、君を慕って集まる子の性質も似ていくのだろうか?
…私も、そうなれるだろうか
分かった、上手く話せるか自信はないが…私もなるべく善処するとしよう
ただ…君がそばにいてほしい、それくらいは、いいだろう…?

ハカセの誕生日 前夜

やあ車掌 明日の生放送は楽しみだね
今年も1年キミは頑張ってきたからな
きっと次の1年も頑張れるような――って違う?
……私の誕生日? よく覚えていたね
まあそういう細やかなところがトレインナイトたちの心を掴む要因なのだろうね
しかし当日ならともかく前の日に来てお祝いでもしてくれるのかい?
ふふっ冗談だよ車掌 これでもわかっているつもりさ
こんな夜更けに来て……これから「一番最初に」誕生日プレゼントをくれるつもり…なんだろう?

ハカセの誕生日

おはよう車掌
突然だが今日は一日、私が厨房に立ち、みんなに料理を振る舞わせてもらう
いつでも好きなだけ食べられるようにというのがコンセプトだ、君も何かリクエストがあったら言うといい
普段ここで食べているものより美味しいかは分からないが…少なくとも不味くはないはずだ
今日が何の日か知っているのかって? もちろん知っているとも、ご老人を敬う日だ
人生の先達はいつでも敬っていいものだけど、今日はよりいっそう敬意をもって接するといいだろう
む…なんだその顔は、私が老人に見えるとでも言う気か、私はまだ老人扱いされるつもりはないぞ?

ああ…なんだそんなことか
自分の誕生日くらい覚えているよ、幸いにも覚えていられる環境で育ってきたのだからな
これは私なりの誕生日祝いだ、元は私の地域での習わしだけどな
中心に立って祝われるより、こうして隅で手を動かしている方が性に合うというもの
ふふ…食べ盛りの子が多いからな、一人では手が休まる暇もない
いいんだよこれで
私の仕事で誰かが幸せを感じてくれることが、何よりも私の心を満たしてくれる
軍人としての仕事が出来なくなったら、こういう場所で働くのもアリ寄りのアリ、かもな
ここにいると、お誕生日おめでとうございますとか、声をかけてくれる子も多いんだ
祝ってくれなんて、言った覚えはないのにな
……別に、祝われるのが嫌と思っているわけではないんだ
みんなに特別祝われるようなことなどした覚えがないから、むず痒い気持ちになるだけでな

……強いて言うのなら
君が迷惑でなければでいい
この祝いの席が終わったら、そのあと、二人で……

ハカセと梅雨

やあ車掌 今日は外回りが多かったのかい?
いやキミの服が湿っているようだったからそうじゃないかと思ってね
この季節になると大変だな 私は基本的に籠ることが多いからここまで汗をかくということは無いが…
しかし…これは一度さっぱりしたほうが良いかも知れないね
一度濡れて微妙に乾いた衣服だと動きづらいだろう
匂い? ああそれは良いんだ匂いなら…いや誤解しないでほしい別に気にしてない…いや気にしてないわけじゃない…
ああもう!モヤモヤしてきたから私もひと汗かきたくなってきたよ
車掌? 付き合って…くれるだろう?