The Trickcal/第4章

Last-modified: 2025-06-28 (土) 16:10:59

thebegining.jpg

第4章 荒野の王様

1. 方舟(1)

メイールは多くの話をしてくれた。
彼女はアセリンとは違い、記憶の空白を抱えていなかった。だから今に至るまで一体何が起こったのか、はっきりと知ることができたのだ。

古代妖精の誕生と、エルドルが目覚めたときのこと、そして斧の事件まで──本当にたくさんのことを聞いた。

「眠りから覚めて荒野で初めて目を開けたときは、試練だと思っていました。私が何か間違えたのだから、その罰を受けているのだと。しかし、その試練があまりにも長かったのです」

メイールの口調は落ち着いていた。まるで地上で見かける信徒のように、ひそかに品格を感じさせる話し方をしている。しかし、どれだけ丁寧に語ろうとも、その言葉に染みついた憎しみは隠しきれなかった。

「試練を突破するための啓示など、一切ありませんでした。ただ死んだ大地に落ちているだけ。近づこうとしても、許されなかったのです。エルドル様が何を望んでいるのか、私の償いがどれほど果たされたのか、私はいまだに知らないままです」

「エルドル様を信じていないのか?」

「私の姿をご覧ください。私は自分を失っていません。もちろん戦闘で傷ついたことがないからこそですが、何ひとつ諦めなかったからです」

「つまり、信じているんだな?」

「『信じる』という言葉一つでは表せません。あの方は私のすべてだからです。私の信仰はもちろん、疑念や怒り、愛や憎しみ──そのすべてをあの方が抱えていらっしゃるのです」

「……それ、ちょっと怖いな」

熱狂的な信者は大体そんなタイプではないかと、レインは距離を置いた。メイールはそれに気づきながらも表情を変えず、長い廊下を歩き続けた。廊下の突き当たりには、アセリンの洞窟で見たのと似た石扉があった。メイールがそっと手をかざすと、軽く扉が開いた。

外には暗い荒野の景色が広がっていた。レインにはその光景が見慣れているはずなのに、どこか不自然に見えた。一歩踏み出すと、不自然さの正体がわかった。ここは高い要塞の手すりだったのだ。

「こうして私は、神に近づく方法を考えました。それがこの方舟です」

「方舟? さっき部屋でここを『方舟』と言ってたけど、どう見ても要塞か城じゃないか」

「エルドル様は、生きとし生けるものの接近を許されませんでした。生きた存在は自らの足であの方に近づけない。しかし、この方舟は石でできています。どんな命であろうと、この石の内部にいれば、あの方がいる森へ届くでしょう」

「本当に?」

「長い歳月でした。実験には十分すぎるほどの時間です」

Zaark.webp

レインは信じられないといった様子で手すりにもたれ、周囲を見渡した。よく見ると、少し船の形をしているようだった。前方が船首のように尖り、甲板もきちんとあった。

「とりあえず船だってことにしよう。どう動かすんだこれ?」

「我々に残された魔力で動かします」

「お前ら、魔法なんてようやく使える程度じゃなかったのか? こんな大きなのを動かせるのか?」

「小さくとも、力が集まれば十分可能なのです」

「ああ、なんとなくわかった。どうしてお前らが怪物化した住民を集めたのかも」

「怪物になったからと言って魔力が失われるわけではありません。それに、我々以外の住民はともかく、怪物は意外と多くのことができます。特にアセリンが連れている太古の精霊たちは、莫大な魔力を持っているのです」

「太古の精霊?」

「ここがまだ森だった頃、西の山に住み、我々に魔法を教えてくれた存在。あの方が最初に創造した生命であり、この地で最初に堕落した怪物です」

「怪物か……。お前の話を聞いていると、誰が本当の怪物かわからなくなるな」

レインの挑発的な言葉に、メイールは少し間を置いてから答えた。

「お気に召しませんでしたか。お詫びします。お気持ちは理解します。レイン様が私を見る視線は、ほとんどの住民と同じでしょうから」

「……」

「覚悟はできています。言葉だけで皆を説得することはできませんでした。仕方なく強硬手段を用いたのです。私の償いを果たすには、そうするしかなかったのです」

「斧を燃やしたくらいで、そんな大罪なのか……」

「神の言葉を歪め、誤った行動をしたのですから、大きな罪です」

メイールは言い終えると、レインと同じように手すりにもたれた。再び鋲打ちの黒い鎧に覆われた視線は何を見ているのかわからなかったが、目に意識を集中してむかいの大樹があることに気づいた。

吹きすさぶ荒野の風を感じながら、メイールは口を閉ざした。レインは先ほどの挑発を謝ろうか迷ったが、さらなる怒りを抑えられずやめた。誘拐された身なのだから、謝る必要などないと思い直したからだ。

しばらくの沈黙の後、メイールが再び口を開いた。

「なぜあなたがレインであるか、おわかりですか?」

「お前らの夢に出てきた救済者だから?」

「いいえ、その答えは違います。私たちは夢に出た救済者が誰かわかりません。レインという名前も確かではない。ただ、願う感情だけがあるのです」

「はあ……また何を言おうってんだ?」

「実は、私たちが見る夢は神の響きにすぎません。あの方の子だからこそ、あの方の願いを私たちが夢として見るにすぎないのです。知らない救済者の夢を、なぜ見るのでしょう? あなたを待っているのは、私たちではありません。神なのです」

「……ふざけんな、クソが■■」

「今のお言葉の意味はわかりませんが、かなり恐ろしい響きでした」

レインは返事をせずに黙り込んだ。メイールの言葉が真実のようでもあり、違うようでもあった。ただ、その落ち着いた言葉の奥に隠れた憎悪だけは、確かに感じ取れた。

「私の目的がわかりましたか? なぜあなたが協力すると信じたのか、おわかりでしょう?」

「わかりすぎて頭が割れそうだ」

「あはは! あの樹こそ、あなたをここに落とし、私たちを閉じ込めた張本人です。あなたは荒野を救いたい、私は同胞に贖罪したい。これ以上に明確な共同の理由があるでしょうか?」

「方法論には違いがあるだろ」

「ここまで来てそのようなことをおっしゃらないでください。力で荒野を統一しようとしたのではありませんか? 明確な目的のもと、力の抑圧は必要悪です」

「利用するのと助けるのじゃ話が違う。ちゃっかり同列に並べるんじゃねえよ?」

レインは手を伸ばし、メイールの胸の鎧をつかんだ。硬い鉄甲の隙間に、指先が軽く沈むだけだった。

「おい。俺が助けてやる気があるなら、お前も俺を助けろ」

「私がいなければ、あの方のもとへは行けないでしょう?」

「俺がいなくても行けねえよ」

「その通りです」
「俺はこの荒野の住民を全員助ける。この方舟なら、みんなを乗せられるんだろ?」

「可能です。そうするために作ったのですから」

「一人残さず、怪物であろうと地に倒れていようと、全員を乗せろ」

「承知しました」

「体が壊れようと怪物化しようと、差別せず食糧を配れ。生きているなら、生きていると感じられるように」

「それも従います」

レインはメイールの胸を握っていた手を離した。メイールはすぐに手に気づき、恥ずかしげに引っ込めた。その落とされた手をレインがつかんだ。

「約束だ。小指をかけるところだが、その鎧が厚そうだから握手でいい」

「あはは。いいでしょう、約束しましょう」

こうしてレインはメイールを信じることにした。何を隠しているかわからないが、エルドルへの怒りだけは真実だった。メイールの怒りも、決して負けてはいなかった。

方舟は荒野を巡り回った。レインの要望通り、住民を一人残らず乗せた。方舟の噂を聞きつけ、自ら集まる者もいれば、そうでない者を探し出して全員を乗せた。

方舟には驚くほど多くの食糧が備蓄されていた。全員を乗せ、しばらく航行してもまったく減らないほどの量だ。

その間、レインはメイールの依頼をこなした。方舟には鍛冶場があり、武器と鎧を作った。荒野の地下で見つけた鉱石で作ったというが、魔力を知らないレインでも不思議な力を感じた。メイールもその正体はわからないという。

ともあれ、そこに魔力を注ぎ込んでほしいと頼まれた。救済者の力が世界樹の力を拒むからだと。レインはその作業をしながら、自分の持つ力を肉体以外に使う方法を学んだ。たとえば魔法のように力を放ったり、超常現象を起こしたり──。

初めての経験だったが、難しくはなかった。力は既に備わっており、意志を込めるだけでよかった。レインはどこかでこの感覚を覚えがある気がしたが、あえて忘れることにした。

やがて方舟は最後の住民を乗せ終えた。アセリンの村にも立ち寄り、地下洞窟の怪物まで全部乗せた。

レインはメイールとの会話を思い出しながら怪物を探した。太古の精霊が堕落した怪物たちは、まさに彼女の言うとおりの姿だった。

しかし、アセリンが乗っていないことに気づいた。彼女は村の住民を乗せた高層区画ではなく、動力区画の下層で感じられたはずだ。

「アセリンは?」
「女王様はレイン様と一緒に出発なさったのでは?」
「村へ戻ってこなかったのか?」
「出発以来、一度もお目にかかっていません」

村人の証言に、レインは焦りを感じた。なぜアセリンの存在を忘れていたのか。自分が商人に倒された後で丁寧に移されたように、アセリンも同じ扱いを受けたのだろうと推測した。

レインは最近学んだとおり、力を集中してみた。アセリンを思い浮かべ、その存在を力で探ろうとした。こんな使い方は初めてだったが、すぐに慣れた。

しばらくして、アセリンを見つけ出した。すでに方舟に乗っていた。ただし、住民たちがいる上層区画ではなく、動力を担う下層区画にいた。

「……」

いやな予感がした。レインは動きを止め、急いで下層区画へ向かった。彼女を阻む者はいなかった。救済者を塞ぐ存在が方舟にいるはずがないと知っているからだ。しかし、最下層に達したとき、彼女は足を止められた。

「入ってはなりません」
「どけ。俺が誰かわかってねえのか?」
「隊長様が、どんなに救済者様でもお通ししてはならないと」
「メイールの命令か? なら絶対に通さないってことだな? 会話しても無駄ってわけか? 入る方法は片っ端からぶち倒すしかねえってことか?」

躊躇した門番たちは、お互いに目配せをした。命令とはいえ救済者の通行を阻むのは重い責任だ。それに、救済者の力がどの程度かは承知している──いくら阻んでも無駄だと。

しばらく悩んだ末、彼らは入口を開けた。レインはためらわず、最下層区画へ足を踏み入れた。

内部は土の山で満たされていた。まるで大地と直結しているように感じられる。その中に、アセリンの気配があった。

レインは何かに取り憑かれたかのように、手で土を掘り始めた。スコップを使うより非効率だったが、彼女は救済者の力で土を容赦なく掘り払った。

「う……うぅ……」

かすかな呻き声が、方舟の轟音を突き抜けてレインの耳に届いた。確かに誰かの声だった。考えが次第に確信へと変わる。土を掘る手がさらに速くなった。

しばらく掘り進めたところで、レインの手が止まった。誰かの手が土から飛び出していた。その手はまるで生きているかのように、もがいている。

驚いたレインは土を慎重に掘り進めた。その中から出てきたのは、方舟と一体化するように埋もれている住民だった。顔には小さな管が繋がれたマスクが付いている。それを外すと、甘い果汁のような香りが溢れた。住民たちが食糧としている果実の匂いだった。

「アセリンじゃない……」

ここに埋まっていたのは、その住民だけではない。アセリンを探すためではなく、命を救うために力を行使したが、無数の命が彼女の感知に引っかかった。

レインは歯を食いしばった。メイールが集めた同胞や怪物たち──彼らの力で動いているというのは、こういうことだったのだ。

「あ」

短い感嘆が口を突いて出た。怒号にも似た感情が溢れ出し、レインは再びアセリンの気配を探した。そして心を抑えきれず土を掘り続けた。やがて埋もれていたアセリンを掘り出し、彼女を抱きしめて泣き崩れた。

「レ……イン?」
「ごめん! ごめんね、アセリン……」

謝る言葉以外、何も出てこなかった。土の匂いにまみれたそのやせ細った身体を抱きしめて泣くしかできなかった。別れる前よりも怪物に近づいたような感触があった。

そのとき、背中に温かな手が触れた。

「無事で……よかった。私は、平気……」

平気なはずがない。レインはアセリンをさらに土から引き出し、繋がっていた器具を救済者の力で取り除いた。

アセリンを抱えたままレインは立ち上がった。次の目的ははっきりしていた。

「メイール」

ガン!

レインの手がメイールの鎧を砕き、彼女の胸元に迫った。レインはメイールの喉元をつかんで押し込んだ。

「メイール!!!」

「ああ、ようやくお気づきのようですね。お話ししますので、どうか落ち着いてください、救済者様」
「黙れ! 何で、いや、なぜこんな真似を……!」

「すでにお話ししましたでしょう? この方舟を動かすには多くの力が必要なのです。まだ正常な者はあの森へ赴き、新世界と戦ってもらわねばなりません。だから、正常でない者を動力として使うのが最も効率的ではありませんか?」

「この野郎!」

レインは怒りに任せて拳を振るったが、かろうじてメイールの顔には当たらなかった。だが拳が当たった壁は完全に砕け散った。

「修理には相当時間がかかりそうですね」

ほんの擦っただけで、兜が真っ二つに割れて落ちた。素顔を晒されたメイールに、動揺は見えなかった。今しがた頭を殴られかけたにもかかわらずだ。

「魔法で動かすって言っただろ! だから住民を説得して集めたんじゃないか! 生きた同胞を地中に埋める必要なんてなかったんだよ!?」

「我々の資源は有限です。効率を最大限に高めて、我々の目的を達成しなければなりません」

「俺がどれだけの者を説得したか知ってんのか? みんなで生きられるって……怪物だろうと瀕死だろうと、みんな生きられるって言ったんだぞ……」

「生きていますよね? 方舟の動力となっても死にはしません。ただ、自我を失うだけです。最初から自我を失った者は構いませんし、どうせ失う者たちなのですから。何をそんなにお怒りなのか理解できません」

「だからってアセリンまで……ちゃんとしたアセリンまで埋めたのか?」

「女王の魔力は特に強大です。一度は我々を導いた者ですから、最強の魔力を有しています。その資源を活用しない理由などありません。覚醒しているたびに私に反対する女王──彼女を利用する唯一の方法が動力源だったのです」

「お前、頭おかしいんじゃないのか!」

「私自身は正気だと思っていますが、その言葉を何度か聞いた経験を振り返ると、可能性は否定できませんね。ですが、私が狂っていようと、我々の目的を達成することに対して、私が狂っているという事実は問題ではありません。むしろ、狂っているほうが都合がいいのです」

「なに……?」

「そうすれば皆が私を憎むでしょうから」

レインは力を抜き、掴んでいた手を緩めた。メイールはそのまま床に転げ落ちた。メイールは平然と尻をさすりながら椅子を直し、その上に腰かけた。レインはじっとその様子を見つめた。

「お前、マゾか何かか? 他人に憎まれるのを楽しむ変態か?」

「初めて聞く言葉ですが、意味はわかる気がします。違いますので、どうか落ち着いてお話をお聞きください」

「落ち着くのは俺が決める。何でお前の頭を割らずに済むか、よく説明しろ」

唇をかみしめたメイールは、短く息を整えた後、口を開いた。

「世界樹が守る森には結界があります。魔法で近づく生命体が内部に入るのを防ぐためのものです。しかし、これはレイン様の力で破ることができます。問題は世界樹そのものです」

「……」

レインは黙って話を聞く構えを見せた。メイールもそれを求めていたわけではないため、話を続けた。

「私たちが計画どおり新世界に到達したとしても、世界樹の力には太刀打ちできません。あの方はこの世界の創造主であり、私たちの親なのです。その力は計り知れません。ですから、この方舟を世界樹に叩きつけるつもりです」

「……?」

「正確には、方舟に吸収された魔力で世界樹の生命を断つ──つまり、方舟と一体化して世界樹を殺すつもりです」

メイールの壮大すぎる計画に、レインは思わず息を飲んだ。世界樹を殺すだと?
一体どれほどの年月をかけてこの計画を練ってきたのか。まったく変わらぬメイールの美しい容貌が、その歳月を物語っていた。

レインは血さえ通わないほど握りしめた拳の力を抜いた。

「それじゃあ、お前はどうなるんだ?」

「おそらく、レイン様のおっしゃる死に近い状態になるでしょう」

「……」

「この事業を設計・実行できるのは私だけです。そして私はどうせ消える存在。私が同胞の恨みを背負ったまま消えれば、残された同胞たちは互いをより信頼し、支え合うでしょう」

メイールは深く息を吐き、話を一度切った。割れた兜の下、初めて見る疲労の色がその素顔に浮かんでいた。

「私は斧を燃やしたゆえに、すべてを見捨てられました。荒野を生み出した張本人は私です。同胞すべてに罪を犯しました。だから、せめてこのようにして贖罪しなければなりません。すべては同胞のためです」

「……」

「私が消えれば、同胞は私を恨むでしょう。欺いたのですから。それだけレイン様を慕うでしょう。その過程で、かつての女王アセリンの存在は、むしろ障害にすぎませんでした。彼女の魔力も欲しかったのですが、実は存在そのものが問題だったのです」

「助けなど求めた覚えはない」

「はい。私の独断でした。罪を背負おうとしたのは私だけ。レイン様は何も知らず、残酷な私はレイン様を欺いて嘲笑しました。罪を背負うのはメイールただ一人です」

「……」

エルドルの言葉を勝手に曲解し、同胞を苦しめ、その結果として同胞をこの捨てられた大地に閉じ込めた。メイールはずっとその罪悪感を抱え続けてきた。

だからこそ、どうしてあのような覚悟ができたのか。一日も休まず走り続けてきた彼女の思いが胸に迫った。

「あなたは我々の光です。捨てられた我らに与えられた唯一で最後の救済者。あなたはすべての希望を集めなさい。恨みは私が一手に引き受けましょう」

「あ……」

レインは顔を手で覆った。しばらくそのまま動けなかった。話を聞いている間、激しく湧き上がっていた感情が静まっていった。

メイールの話は驚きに満ちていたが、冷静になる理由にもなった。こんな物語はレインにとって決して目新しいものではないのだった。

すべての罪を背負って死ぬというお決まりのクライマックス──まるでマンガや小説の定番シーンだ。

「恥ずかしくて……たまらないよ」

鳥肌が立ち、全身がぞわぞわした。途中からは、自分の顔まで熱く感じるほどだった。

「なあ、メイール。昔、俺がいる世界で見たことがあるんだよ。いかにも格好つけたくて、すべての罪を引き受けるとかなんとか言う悪役がさ。正直、あれがすごく……恥ずかしいんだ」

「……何をおっしゃっているのですか?」
レインは手を振りながら、顔を覆ったまま続けた。

「あのね、うーん……お前の覚悟はわかった。でもさ、ずっと大罪を背負うヒーロー気取りって、ちょっと……ねえ? 」

「……」

「ちょっと整理する時間を……」

レインは自分の頬を平手でパシパシ叩き、赤くなった頬をさらに赤くした。照れを落ち着け、言葉を選んでから口を開いた。

「嫌いな教師が一人いたんだ。生徒一人のミスでクラス全体を罰した教師。そしたら、みんなその問題児を責めるんだ。面白いだろ? 何も悪くない生徒を罰したのは教師なのに」

「……?」

「俺の言いたいのは、神って奴は教師と何が違うのかってことだ。なあ! もしお前が悪けりゃお前だけ罰すりゃいいのに。なんで他のみんなをここに閉じ込めたんだ? そんな奴は、斧を焼かなくても何かケチつけて罰したに決まってるだろ!」

レインはそのまま歩み寄り、ぽかんとするメイールの両肩を強くつかんだ。

「だから、同胞がこんな目に遭ったのは、お前のせいじゃないって言ってるんだ! 悪いのは斧を奪って焼いたことだけだ! あとは、あのクソみたいな木が悪いんだよ! わかったか!?」

「は、はい?」

「くそっ、このバカ! こんな言い方してもわからねえか? あの樹を責めろって言ってるんだよ! 信仰だの何だの、同胞を見捨てた木がまともか? どの親が子を罰して捨てる? そんな奴に親の資格はねえわ!」

「えっと、レイン様? そろそろ落ち着いて……」

「子は期待に応えられないだけで捨てられ、子供は罪を背負い続ける……何言ってんだよ? 落ち着くわけねえだろ!?」

レインに掴まれたメイールは、その迫力に圧倒され、動けなくなっていた。最初に会ったときとは逆に、レインは至近距離でメイールを詰め寄った。

「人のせいにすんな! 勝手に背負うなんざやめろ! くそっ! こんな馬鹿に騙されてたなんて!」

レインはメイールの頭を軽くはたくと、壊れた椅子にどかりと腰を下ろした。手を椅子の背もたれにかけ、くつろいだ様子で腰かけているその姿は、どこか自然体だった。

空気が重く沈んでいた。凶暴な表情と鋭い眼光だけでなく、レインという存在そのものがメイールを圧倒しているようだった。

「お前に非は……なかったわけじゃないが、全部お前のせいでもない。だからそんな無駄な殉教精神は捨てろ。残りは俺がなんとかする」

メイールはぼんやりとした表情で頷いた。普段なら方舟は止めてはいけないとか、怪物を乗せる必要はないとか反論したはずだ。しかし今はそんな考えさえ浮かばなかった。

救済者の言葉が、彼女の長年の罪悪感を粉々に打ち砕いたのだ。

「ああ~恥ずかしいのは全部俺のせいだな。俺も、いったい何してるのかわかんねえや」

本当に何をしようとしているのか、自分でも想像さえつかなかった。