2020320

Last-modified: 2010-03-21 (日) 06:52:29

【島国大和】日本のゲーム開発は海外より遅れているのか?
http://www.4gamer.net/games/000/G000000/20100320001/

 今年も開催されたゲーム開発者の祭典「Game Developers Conference 2010」。世界中からゲームの開発者が集まり,最新のテクノロジーや,ソーシャルゲームなど時代のニーズを捉えたものなど,いろいろなテーマが語られるイベントです。
 ゲームの世界は日進月歩。ゲーム屋の端くれの私としても,ゲーム業界の最新動向には興味津々! ……忙しくてなかなか現地まではいけませんけれど。

 そして,こうした欧米中心の大規模な業界イベントなど海外勢の勢いに「日本のゲーム(ゲーム開発者)が押されている」という話がそこかしこから聞こえてくるのも,近年のゲーム業界のトピックの一つだと思います。

 というわけで,今回のお題はコレ。
 最近の国産ゲームが,海外のゲームに押されていることに対して。

曰く,
日本のゲームがイカンのは,海外と比べて技術が足りんからだ。
日本のゲームが弱いのは,海外のようにスクリプトを使わないからだ。
日本のゲームがダメなのは,海外のように資産を有効活用しないからだ。
日本のゲームがカスなのは,プランナーがプログラムに弱いからだ。
日本のゲームがクソなのは,プログラマが海外のプログラマに劣るからだ。

 こんな言説をアチコチで見かけますね。さらにそれを見た人から,「実際のところどう?」とか聞かれるわけです。
 でも個人的には,「そんな単純な話じゃねーだろう」って思うわけで。今回は,この場を借りて,いろいろと書かせて頂きたいと思っております。よろしくお願いします。

まず言い切っておくけれど

 現在,ゲーム産業というものを俯瞰的に見た場合に,日本と海外との一番大きな差は,「市場規模」の差と「賃金/雇用形態」の差。ちょっと落ちて「職務形態」の差だと考えています。

 これは,もう言い切って間違いないと思います。

 だから,欧米との差は技術云々の話じゃないし,もし技術に差があるとしても,それは上記のような理由に起因するものだと思います。では,それぞれ書き出してみましょう。

市場規模の違い

 かつて日本がゲームで世界を席巻していたのは,日本に大きなゲーム市場があったから。日本人向けにゲームを作れば十分採算が取れるという下地のもと,日本でヒットしたものが海外「でも」売れるという環境がありました。
 今はそうじゃないですね。世界全体で見れば,英語圏のほうが市場が大きいし,オンラインゲームなどは,中国が世界最大の市場になっています。

 日本は,少子化がガンガン進んでいる国なので,いわゆる「ゲーム人口」がこの先増える見込みは正直ありません。それに比べてアメリカは,未だに人口が増え続けてる。中国も,世界最大の人口を誇り,その経済成長とともに娯楽産業へのニーズが高まっています。 ホームグラウンドでの商売がし辛い国としやすい国……,商売をする環境の差で,日本のゲーム屋が(相対的に)厳しくなっているのは確かです。

 というわけで,これから先ゲームを作って“大きな稼ぎ”を期待するなら,日本のゲーム業界は海外市場を目指さざるを得ないわけなのですが,これに関しては,日本の企業の多くに,海外でウケるものに対する蓄積がない。そして,今からそれを蓄積する予算もないという状況です。
 客観的に見て,日本風のRPGやシューティング,格闘ゲームを作るなら,今でも日本の開発力は世界一だと思います。なぜなら,そこには莫大な経験の蓄積があるから。
 しかし悲しいかな,今やそれは海外では受けにくい「ニッチな」ジャンルです。人気なものもありますが,それは昔から続く一部のブランドのみです。
 一方で,海外で受けるFPSやTPSなどのアクション,リアルタイムシムを作るには蓄積が足りない。なかなか悩ましいところです。

 そもそも最近では,1本のゲームを作るのに,100億かけて初週の売上で120億とか,もう何だかわからない金の動かし方をするわけですが,日本のメーカーのほとんどはそんな開発方式に慣れていません。
 というか,「100億かけてゲーム作りましょう!」なんてこと自体,誰も言いだしません。そんなお金どこにもないし。10億かけたら超大作だった時代が,ついこの間まであったわけです。

 これはもう当たり前の話ですが,ゲーム会社がゲームを作るというのは商売です。商売というのは,買ってくれる人がいてこそ成り立ち,市場の規模が作品の規模に直結します。
 日本のゲームが弱って見える,それは買ってくれる人の総数が減ったからです。売れなければ,売れないなりの作り方をしなくちゃいけない。

 まとめると,

・日本向けに作ったゲームがそのまま海外「でも」売れる時代ではなくなった
  >最近は最初から“海外向け”を意識するわけですが,
  >外人に受けるゲームは外人のほうが分かっています

・欧米でゲーム市場の規模が大きくなるにつれ,欧米のゲーム会社が
 ゲーム制作に大きな予算を使えるようになっていった
  >その結果,潤沢な資金で人員や高い技術を駆使できるようになり,
  >豪勢なゲーム制作が可能になった
 
こんな感じ。こういった状況で海外勢と一騎打ちするのはちょっと厳しい。しかも日本のお客さんは,洋ゲーっぽいゲームは嫌いとおっしゃる。もう日本のゲームシーン,相当にキッツイわけです。

賃金の差,雇用形態の差

 賃金差の話をすると頭が痛くなります。
 年収40万円で食うことが出来る国とガチで価格競争をするのは,普通に考えて無理でしょう。
 あと,アジアや東欧などのデベロッパの中には,税金面などでの優遇や投資を多分に受けているところが少なくありません。外貨獲得手段として,オンラインゲームなどは優れてますからね。
 半面,日本の税金の高さは洒落になってません。この前提で国家的な投資を受けている会社と勝負なのですから,まともに戦っていたら勝てやしませんね。

 雇用形態の差の話も頭が痛いです。
 例えばアメリカは,人材の流動性が高い。言い方を変えると簡単に雇って簡単にクビに出来る。
 何十億もかけた巨大タイトルを作れるのは,まずこの環境が大きいと思います。日本では,正社員のクビを簡単には切れないので,ビックタイトルを作るからと言って大量に人を雇うというのは大変難しいことです。短期的に集中して雇用し,開発が終わったら解雇が出来る(つまり,その規模の人材を抱え込まずに済む)アメリカやアジアだからこそ,ハリウッド映画的な莫大な規模のゲームの開発が可能なんです。
 雇えるし解雇も出来るので,モデルだけ,テクスチャだけ,グラフィックエンジンだけ,レベルデザインだけ,ムービーだけ,と各パートのエキスパート,ほかのことは知らないって人をガーっと集めてゲームを作れます。
 日本の場合雇用の流動性が低いので,こうはいきません。「**だけしか出来ない人」を大量に作ると,その後の会社が回らないから困るわけです。派遣社員に対する扱いでこれだけ多くの問題が叫ばれる中で,首切り前提の募集をかけるのは無茶だし,それこそブラック会社でしょ。

 また,そうした雇用形態の違いを差し置いて,仮にこのアメリカ的分業体制を真似するとしても,このやり方では,ディレクターの仕事が大変重くなります。本当に超大変だと思う。
 各専門家,作業員の間をとり持たなければなりませんし,その作業量も膨大です。だから彼らは高給取りなんですね。日本では,そのレベルの金額を出せる会社は少ないです。
 ともあれ,こういった複雑な事情のうえにゲーム開発の現状があるわけで,その一端だけ拾って,「日本のディレクターは駄目だ」「プログラマは能力がない」「企画がプログラム組めない」「絵描きがオタク絵しか描けない」とか言ってみたって仕方がないと思うわけです。

日本の開発者をなめんなよ

 そんなわけで,日本のゲーム開発は「市場規模」の差と「賃金,雇用形態」の差で,かつてない劣勢に追い込まれつつあります。業界で飯を食う身としては,「マジで勘弁してほしい」というのが本音でしょう。

 気合の入ったゲームは,大金を使ってハリウッド式に作ってくるアメリカに勝てず,安く手堅いゲームでは,安く手堅く作ってくるアジア勢に勝てない。
 さらに日本人が得意だった,作りこまれたゲームも,利益率では,もっと簡易なブラウザゲームなどに押されている有様です。
 そんな状況のなかで,気がつけば大手が合計で1000人のリストラをやっているとか。泣くに泣けないし,人員を絞ってたところで新しい何かが生まれるわけでもない。
 だけども,ここは声を大にして言いたい。

 日本の開発者自体が駄目なわけじゃない。

独創的な世界観や巨像によじ登るという独特のゲーム性が,海外で大いに評価された「ワンダと巨像」
 日本の開発者は,日本で生まれて日本で生きている。この単純な事実が役に立つことだってあるわけです。ゲームにしても,絵にしても,オタク文化にしても,そこには少なからず「バックグラウンド」や「歴史の積み重ね」というものがあります。そんなものに価値があるのか? というかもしれないけど,日本で生きていること,日本人であること。これから先は,逆にそこに価値を見出すことで,切り拓かれる何かがあると思うんです。

 写実系のグラフィックスでは,コストパフォーマンスでアジアの安いデザイナーに勝てなくなってきてはいる。でも,デフォルメ系では全然強い。ゲームシステムのデフォルメ(ルールの抽象化)も,実は日本のゲームデザイナーはかなり強い。
 今までこなしてきた数,見てきた数が多い分だけ,やり方を知っている。「こういう風にすると面白いでしょ」というのを肌感覚として,大量に知っている。なぜなら,彼らは呼吸するようにゲーム文化に触れてきているから。

 すべての映画がハリウッド映画にならないように,すべてのゲームが洋ゲーに,あるいはアジアっぽいオンラインゲームになるわけじゃない。日本の特殊性には,まだまだ海外から見ても「ギョッ」とするようなヘンなゲームを産み落とす力があると思います。
 この大量生産方式,ハリウッド方式が幅を効かせる現代において,家内制手工業のようなスクラップビルドを繰り返して作られるゲームは,製品ではなく,“作品っぽい香り”を持って現れたりするわけです。

 そしてそういうゲームは,やはり驚きと拍手で迎えられる。

まとめ

 プレイヤーの視点だと,ゲームの開発費も工程も知ったこっちゃないんですけどね。開発費が1億だろうが100億だろうが,払う金額も一緒ですし。
 でも,日本産のゲームは,日本人の肌に合うポイントってのは外さないから,日本人としてはつい期待しちゃう。

 もし,今の状況をただ悲観するだけならば,それは「ゲームシーンは移り行く。今と昔では違う」という事実を認識できないロートル開発者,デベロッパーの問題でしょう。
 昔のやり方,昔の成功法則を繰り返すだけではジリ貧です。問題山積み。普通にやってたら絶対海外に勝てない。ニッチすらも取れない。
 実際のところ,状況は本当に厳しいけれど,いろいろと逃げ道や突破口もあるわけで。それに,いま厳しいのはゲームだけじゃないですから,こんなところで弱音は吐けない。
 かつての自動車産業やエレクトロニクス産業が,小型化や信頼性,独特の品質管理など,欧米企業にはなかった独特の強みでもって国際競争力を確立していったように,日本のゲーム産業も,独自の持ち味と魅力を真正面から考えるべき時期になったのだと思います。

 その意味では,ちゃんと考えて闘っている人たちは,そう簡単に負けないと思っています。頑張れニッポンの開発者。どうしても思い入れのある分,偏って応援(自分自身への鼓舞も込めて)してしまいますけども。贔屓の引き倒しでないような結果が出てくるといいなと思います。

 柄にもないことを言ってみたところで,今回はこの辺で。ご静聴どうもありがとうございました。

■■島国大和■■
有名ゲーム系Blog「島国大和のド畜生」の管理人で,不景気の波にもがく,正体はそっとしておいてほしいゲーム開発者。最近はやたらと仕事で疲れ気味だという島国氏だが,そんな同氏曰く「物語るアクションゲームとしては,ヴァルケンが出色の出来だよなぁ」とのこと。確かに「ヴァルケン」とその後に続く「ガンハザード」は,2Dロボットアクションの傑作中の傑作でしたよね。軽快なアクション性に燃えるストーリー展開,そして熱いBGM!! ……なんだかバーチャルコンソール版を買いたくなってきました