波の音が聞こえる………
海よりも深い所か…月よりも高い所か…
赤城………
赤城………
…君は今、何処にいる…?
…あの時君は…私に何と云っていたんだ…?
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カチ… カチ…
時計の針の音で目が醒めた。
どうやら少し微睡んでしまっていたらしい。
窓から見える外はまだ昏い。
壁に寄り掛かるように座していた私だったが、体を起こそうとすると向かいに1人、
部屋の闇の中に誰かが立って、こちらを見つめているのに気が付いた。
龍驤
「起きたんやね」
「…」
龍驤
「今何時やと思う?」
「…」
龍驤
「〇四一〇。この時期なら、もうそろ夜明けっちゅーところやな…」
「…」
カチ… カチ…
静寂に時計の針の音だけが響いている…
龍驤
「…いつ来ても殺風景な部屋やね… 机も、椅子も、書類棚も、なんにもあらへん…あるのは壁の時計だけ…」
「扉に「執務室」って書いてなければ、物置と間違えるところや」
「…」
龍驤
「あの写真だって燃やしてしまって…」
「もうあれから2ヶ月経つんよ…?気持ちはわかるけど、そろそろ何とかしないと、皆にだって―」
「赤城は見つかったのか」
龍驤
「へ?」
「赤城は見つかったのか、と訊いたんだ」
龍驤
「…司令官…」
「見つかっていないのなら、現在の水準より更に強力な艦娘と邂逅でき――」
龍驤
「何言うてんのや!」
「…」
龍驤
「まだ… まだあんなこと……!」
「もう…この鎮守府は空母機動部隊ちゃうんやで…?!」
「…」
龍驤
「…」
「…空母機動部隊に、作戦の失敗は許されない…」
その声は、自分で聞いても酷く虚しいものだっただろう。
龍驤
「…せやな。でも…2ヶ月前の、他の鎮守府との共同の大規模作戦で…
空母機動部隊の大部分を損失したんや。赤城や、加賀も…みんな沈んだ…」
「そしてこの鎮守府は…空母機動部隊の肩書きを失ったんや…」
「開発部だ!開発部が碌な装備も開発せずにいたからだ!」
「あいつらが…あの口先だけの連中が赤城を見殺しにしたのも同然なんだ!」
龍驤
「…装備だけの問題やあらへん…。敵さんのあの動き…司令官も見てたやろ?あれにはもっと作為的な…」
「…」
龍驤
「…」
「…私は…敵に囲まれる赤城を為す術なく見ていたんだ。沈む、その、瞬間も…!」
龍驤
「…」
「赤城は最後に私に何か言っているように見えた。私は…私は赤城を助けてやることも、何か一言、言ってやることさえできなかった…」
龍驤
「…」
「…そして私は空母機動部隊を失った…」
龍驤
「…せやね。そんで、今は…夜戦強襲隊の司令なんてことをやってる」
「二度と失敗は許されない。…赤城たちを失った今、この手持ちの少ない戦力で戦果を上げる必要がある」
「最小の戦力で戦果を上げるには、夜戦しか無い…」
「戦果さえ挙げれば、いずれ空母機動部隊も元に―」
龍驤
「そのためだけに!今!たった1人で…、たった1人で司令官のために出撃してる艦娘だっておるんや!」
「その子たちに、あんたは… あんたは何かしてやったんか?!」
「…私は、全てこの鎮守府のために…」
龍驤
「…嘘や…」
「…」
龍驤
「…あんたは…赤城の…」
「…」
龍驤
「…」
「…」
龍驤
「…そろそろ、あの子が帰ってくる頃やね…」
「…」
龍驤
「司令官… やっぱり最近司令官は…変わったね…」
「昔はもっと…皆のために笑って…泣いて…ほんのちょっぴりえろかもしれんところもあって…」
「何というか、人間味ちゅーのかな?それがあったんかな…」
「…」
龍驤
「ちゃんとあの子と話すんやで。そんで…ちょっとでいいから…褒めてやってや…」
「…」
龍驤
「邪魔したね…ほな…」
ギィィ… バタン。
執務室の扉が重苦しい音を立てて開かれる。
龍驤は振り返らず、部屋を出て行った。
「あの時君は…私に…」
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海軍○○部 中将××
夜戦強襲隊司令ノ任ヲ解ス
尚、△△鎮守府ハ解散ヲ命ズ
某月某日