クロスオーバー製作所/鹿方剛助の小説/憎しみは災禍を生む/第七話

Last-modified: 2023-03-04 (土) 10:39:44

あふれ行く災厄、制動のきかぬ侵食~獅子騎士、降臨~

 ポケモンではない謎の生き物…デジモンと遭遇した翌日。ハルトはアカデミーの寮にある自分の部屋の中で学生服に着替え外に出ようとしたその時。褐色の肌に黒髪のポニーテールといういでたちの女子…ネモが自身の部屋に入ってきたことに驚いた。

「!?ね、ネモさん!?」
「おはよう、ハルト…じゃなかった!スマホロトムにあったニュース見た!?あの異変、さらに大変なことになってるよ!?」

 彼女らしくもない、あわただしい様子。そんな様子のネモを見てハルトは只事じゃない、と事態を察したのち。スマホロトムでニュースの記事を読む。…そこにはチャンプルタウンが発端となった怪奇現象が浸食をしはじめ、ナッペ山のほとんどやハッコウシティ、ベイクタウンにコサジタウンなど、パルデア地方のほぼ全域が怪奇現象に飲み込まれてしまっている、という者だった。
 あまりの情報に驚くハルト。ネモも状況が状況なためにどこか深刻そうな面持ちをしている。

「たった一夜の内にこんな風になってしまう、なんて…さすがの私でも、この事態には尻込みしちゃうな…。」
「…。たぶんパルデアの大穴…エリア・ゼロにこの事件を起こした首謀者がいるはずなんだ。…その首謀者と話し合って…如何にかこの異変を解決しないと。」

 ハルトの言葉を聞いてか、ネモも無言で頷く。…その直後、スマホロトムから着信音が鳴り響いた。

「はい、ハルトです。」

 スマホロトムを操作し、電話に出るハルト。…その相手は、アカデミーの校長こと、クラベルだった。

『ハルトさん。前代未聞の事態になりましたね。こんな事件はパルデア史上初めての事です。恐らくですが…貴方方がパルデアの大穴で体験した出来事よりも大ごとかと思われます。あのオレンジ色の生き物に対して私達は戦い続けましたが…あの生き物、水タイプの技を受けたとしてもあまりダメージを与えることができず、それどころか返しの火球攻撃で大きなダメージを与えて来たのです。…ハッサク先生のドラゴンテラスタルしたセグレイブが倒れた段階で私達は全員避難してきました。…もちろん、チャンプルタウンの住民たちも避難させてきましたよ。』
「あのデジモン…そこまで強いんですか?」
『成程、あの生き物は…デジモンという者なのですか。…コホン、そのデジモン、とやらはやたらと強く、ポケモンたちでは歯がなかなか立ちません。それに…ポケモンたちに対して何やら強い敵対心を向けているようでして…まるでハブネークとザングースの敵対関係のように恨みを感じるような攻撃をしてきたのですよ。…あまりにも異常でした。』

 クラベルからの言葉を聞き歯噛みをするハルト。…彼は少しの間クラベルと話をしたのちに電話を切った後…ネモの方を向く。

「ネモさん、悪いんだけどミライドンに乗ってくれる?…僕が運転するから。」
「ハルト…。うん、わかった。…何をしに行くの?」
「ネモさんの家に魔女狩りについての資料があるんでしょ?…それを借りに行くんだ。…クラベル校長に、事態の説明をするための資料だよ。…大丈夫。何があったとしても、僕のポケモンたちで解決して見せるから。」

 任せろ、とでも言いたげなハルトの様子を見て、ネモはどこかハッとした風な様子を見せる。…そう、ハルトはバトルの腕に関してはネモよりも上なのだ。

「そうだったね…。ハルト、君は私が相手でも手加減することなく、いつも全力を出して向かってくれて…勝ちを攫って行っていた。…君ならきっと、あの生き物達が相手でも…何とかしてくれる。私、信じてるから。」

 アカデミーの外へと、ハルトとネモの二人が繰り出し行く。そしてどこかパソコンの中のテクスチャーのような状態になっているフィールドへ出ると同時に。ハルトは空高く一つのモンスターボールを投げた。
 そのモンスターボールから出て来たのは…ミライドン。かつてのパルデアの大穴での戦いで窮地に陥ったハルトの事を救ってくれたポケモンだ。

「頼んだよミライドン!今日は二人乗りだ!」

 ミライドンの細い角の部分をハルトが握ってその背に乗り込み。その後ろへとネモが飛び乗る。その後に彼女はハルトの腰へと手をまわした。…密着するような姿勢になったのである。

「ネモさん、しっかりつかまってて。…行くよ!」

 女性がしがみついているのにもかかわらず、平静を保ちハルトはミライドンを飛ばし行く。ミライドンはプラトタウンを通過し。コサジタウンを目指して南下していった。
 その道中で見られたのは、様々な姿の見たことのない生き物達がレベルの低いポケモンたちを次々と蹂躙していくもの。その生き物達の目つきたるや、正しくハブネークを目の前にしたザングースの様な物。
 フクロウのような姿の生き物がヤヤコマたちに襲い掛かり。ひどく傷ついたヤヤコマに対しても恰も止めを刺すように追撃をしていく。…そういった光景を見て我慢ならなくなったのか。ハルトはポケモンの入ったボールをつかみ…放り投げる。そのボールから現れたのは、タイカイデンだ。

「タイカイデン、頼んだ!…エレキボール!!」

 ハルトの命が下された直後、それに従うようにタイカイデンが雷をまとったボールをそのフクロウのような姿をした生き物目掛け放つ。…そのエレキボールが命中した生き物はダメージを負ったかのような様子を見せた後…タイカイデンの方を見た。
 ヤヤコマたちが此方の方を見る。その内の一匹は手酷く痛めつけられたのか、地面に倒れ動かなくなっていた。

「この生き物はこっちで相手するから、君達は早く逃げるんだ!」

 ハルトの言葉にピチクリ言いながらもヤヤコマたちが動かなくなってしまったヤヤコマを残しどこかへと飛んでいく。…その様子を見てか、生き物はハルトの方を見据え始めた。

『人間、あじな真似をやってくれたね。僕達デジモンの復讐の相手を…今までの恨みを込めてじっくりといたぶり続けてやったっていうのに。』
「っ…。君、デジモンでしょ?…君達がどんな目に遭ってきたかっていうのは別のデジモンから聞いたよ。…だからと言って此処パルデアのポケモンたちは関係ないよ。…何故なら悪いのは、君達の事を襲撃してきた人間と…その人間の連れていたポケモンだけなんだから。」

 未だに怒りを込めたかのような目をハルト達に向ける、デジモンと推測される生き物。その生き物は翼の先にあるツメのような部分を光らせると…タイカイデンへと襲い掛かってきた。

『ポケモンとかいうやつらは皆どうせ同じだ!"スクラッチスマッシュ"』
「タイカイデン!回避してエレキボール!」

 デジモンと推測される生き物の、突進攻撃。それをタイカイデンは避け…ほぼ至近距離から生き物に対してエレキボールを放った。
 相手の生物へと直撃するエレキボール。それで感電してか相手の生き物は地面に倒れこむ。

「お疲れ様、タイカイデン。」

 戦う気力がないとみてハルトがタイカイデンをボールへと戻す。そのハルトの様子を見てか。生き物は息も絶え絶えに、言葉を発した。

『人間…っ、もう終わらせるのかよ…!』
「…もう君、戦えないでしょ?僕達の間では一度戦闘不能になったポケモン相手には戦わないことにしてるんだ。…僕達はこれから用事があるから。」

 ハルトが生き物に対して言葉を発したのち。再びミライドンを飛ばしてコサジタウンへと向かう。…そしてコサジタウンにたどり着いたのち。ハルトはネモの家の前でミライドンを止めた。

「到着…っと。ネモさん、付いたよ。」
「あ、うん。…さっきのハルト、なんだか格好良かったよ。」
「そう?…痛めつけられているのを見て、我慢ならなくなったから、さ。…とりあえずネモの家に入るよ。」
「そうだね。…私が案内してあげる。」

 ネモとともに家の中へと入っていくハルト。その家の中でネモに案内され。ハルトは書斎へと入っていった。
 ずらりと並ぶ難解そうな本の入った本棚。その中から、ネモは一冊の本を取り出す。…そこには、茶色のウェーブがかった髪の妖艶な女性があくどそうな笑みを浮かべた絵が描かれている。

「これだよ、ハルト。私が昨日言ってた魔女狩りの伝承の本。…これを見せて、併せてデジモンと言っていたあの生き物から教わったことも教えてあげれば…クラベル先生、納得してくれると思う。」
「ありがとう、ネモさん。…ネモさんの母親に早く言って、クラベル先生の元に持っていこう。…クラベル先生、この事態について上手く呑み込めてないと思うから。」

 ハルト、そしてネモが会話を交わしたのち。ネモの母親に事情を話してその伝承を借りた後…外へと出る。…と、何処からともなく獅子のような姿の茶色を基調とした謎の生き物がハルト達の目の前に現れた。
 その生き物の身長たるや二階にまで届きそうなほどに高いもの。その生き物の姿を見たハルトは思わず身構える。

『ほぉう。此処にも人間がいたか。…雪山や漁村のようなところ以外にも…人間がいようとはな。』
「っ、君は一体…!多分デジモンだ、という事だけはわかるけど…!」
「気配から何だか強い生き物だっていう事はわかるけど…。なんの様なの?」

 ハルト、そしてネモがその生き物に対し言葉を発する。その生き物はどこか苛立たしげな様子を見せた後に。ハルトに対して言葉を発した。

『ほう…。我が名を知らぬとはな。私はドゥフトモン。…ロイヤルナイツの中の一体にして…イグドラシルの命に従うもの。我がデジタルワールドに…人間、そしてポケモンなる生き物が襲撃を仕掛けて以降、我々デジモンは…ポケモンたちに対して復讐することを誓った。…そぉして今、その復讐を、果たす時が来た。…もう謝っても遅い。もう助けを希っても遅い!私達はすでに決めたのだ!人間達を、そして私達の仲間を次々と殺していったポケモン達を滅ぼすと!…さあ、この場で消え去るがいい、人間よ!そして、ポケモンよ!』

 憎悪をハルト達に向ける生き物…ドゥフトモン。そのデジモンを相手に、ハルトは相手の属性を推測してか、ハンマーを持ったポケモン…デカヌチャンを繰り出す。

 コサジタウンにて突如として現れた威厳のあるデジモン、ドゥフトモン。その実力は…ハルト達の想像をはるかに上回るものだった。