クロスオーバー製作所/鹿方剛助の小説/憎しみは災禍を生む/第十三話

Last-modified: 2023-05-12 (金) 21:24:14

悲しみを背負った知恵の甲虫との戦い

 四天王のチリと似たような言葉を話すカブテリモンとの戦い。それをハルトは優位に進めていっていた。
 現状として相手のビビヨンを戦闘不能にし、二匹目のポケモンと戦っているハルト。…しかしてそのポケモンもまた、背中の方に黒い物体が埋め込まれているかのように思える。

――立て続けに謎の黒い物体の埋め込まれたポケモンを繰り出してきた…。戦闘不能にさせれば相手のポケモンの背中から霧散していくみたいだけど、それ以外に何か手立てはないのか。

 歯噛みするハルト。少しして一つ息を吐き。ハルトはタイカイデンに対し次の指示を出す。

「タイカイデン!ぼうふう!」

 ハルトの指示に従うかのようにタイカイデンがその翼を激しくはばたかせ、すさまじい風を生み出す。その風はウルガモスの事を包み込み。ウルガモスにダメージを与えていった。
 効きが良かったためか大きなダメージを負ったような様子を見せるウルガモス。それを見てか、カブテリモンはどこかにやつくかのような様子を見せる。

『ほんま、弱点を突くことに関してはかなりのテクニックを持ってるようやな。…ポケモンを従えてるポケモントレーナー?のくせに、生意気やで。"アタックチャージフィールド"!!』

 カブテリモンの放った技。それによってウルガモスの能力が底上げされる。それを見たハルトは次の攻撃を警戒しての指示をタイカイデンに対して出す。

「相手は能力を上げる技を使ってきた…!タイカイデン!回避できるように準備をして!」

 ハルトの指示が聞こえてか、タイカイデンが鳴き声を上げる。…と、そのタイカイデンに対してウルガモスが炎の球体の様な物を打ち出してきた。
 またも見たことのないような攻撃。タイカイデンはそのほのおタイプの技と思われる謎の攻撃に対して回避行動を取る。それのおかげか、ほのおタイプの技、と思われるその技はタイカイデンから狙いを外し。あさっての方向へと飛んでいく。
 先ほどのキョジオーンと似たような事態にならずに済んだことに対して胸をなでおろすハルト。しかしてそれを見てもカブテリモンは纏う様子を変えてはいない。

『ほーん?ちゃんと回避できるんやなぁ…。』
「…。チャンプルタウンにいた恐竜みたいな生き物から大体の事情は聞いたよ。君達があってきた出来事に関しては…君達に対して可哀そうだ、と思うほかない。だけど、ポケモンをそうやって苦しませる必要性は…あるのかな。戦っておいてなんだけど、僕はそこに、疑問を覚えてるんだ。」

 カブテリモンに対して言葉を発するハルト。そのハルトの言葉を聞き、カブテリモンの様子が剣呑なものへと変わりゆく。

『…。自分に分かるわけないやろ。デジタルワールドで平和に暮らしておって。その日常を突然ぶち壊されて。原因を聞けば、わてらデジモンのやってもいない罪をやったと決めつけての襲撃で。こっちがいくら弁解しとっても…あのポケモン達は、ポケモントレーナー…そん時はまだテイマーやと思っとったあの人間は!わてらデジモンの言葉を!聞き入れてくれなかった!わてらデジモンは…わてらデジモンは…!あのポケモン達に好き放題荒らされゆくデジタルワールドを、逃げ惑いながら見ていくほかなかったんや!そないな目に遭ったら、これほどまでに恨むのも仕方ないやろ…っ!』

 想いを吐露するカブテリモン。そのカブテリモンの様子を見て、ハルトは表情を曇らせる。

「…これが…ポケモン達に対する罰、だとでもいうの?ポケモントレーナーがたった一人…悪い行いをしたっていうだけで…ポケモン達が…そしてポケモントレーナーたちが…。」

 ぎゅうっと握られるハルトの拳。そんな彼に、ネモが言葉をかける。

「…。ハルト、私が癒えた事じゃあないとは思うんだけどさ。…これが世の中、なんだと思うよ。その罪を償うために、私達は私たちなりに頑張るほかない。…それが今の私達ポケモントレーナー達に課せられたことなんだと思う。ハルト、今は…目の前のバトルに集中して。…相手のポケモンを戦闘不能にすればきっと、ポケモンの事を救えるはずだから。…頑張って、ハルト。」
「ネモさん…。」

――これが世の中、なのか。これが…加害者ともいえるだろうポケモンを使役するトレーナー達が背負うべき責だとでもいうのか。ならば自分は。こんな責を背負う事になった原因である…ポケモントレーナーを許さない。

 ネモの言葉を聞き決意を固めるハルト。…彼は真っ直ぐに前を向き。タイカイデンへと指示を出す。

「…。この責は、この罪は…そう、ポケモントレーナーという役職についてしまった穢れは…僕がその罪の元であるトレーナーを倒すことで晴らしてみせる。…そう、心に決めたよ。でもまずは、目の前の戦いに勝利するのが先だ!タイカイデン、"ブレイブバード"!!」

 決意を固めたハルトの出した指示。その思いに応えるかのようにタイカイデンがその翼を折りたたみ。高速でウルガモスへと突っ込んでいく。直撃したその攻撃は効果があったのか。ウルガモスを一撃の内に仕留めることに成功した。…が、無論その代償はタイカイデンの方にも被ってくる。
 ダメージを負うタイカイデン。…ビビヨンの時のダメージもまた蓄積していたのか。タイカイデンはその動きが鈍くなってしまっている。

「…。タイカイデン、ダメージを回復させるから、おいで。」

 二本の足でよたよたとハルトの元へと近づきゆくタイカイデン。そのタイカイデンに、ハルトはまんたんの薬を使い…タイカイデンの傷を回復させる。元の元気を取り戻したタイカイデン。物のついでにハルトはキョジオーンの傷も回復させる。
 その後、立て続けにカブテリモンの繰り出す三匹のポケモンと戦いゆくハルト。ハッサムとの戦いのときはスコヴィランを繰り出してオーバーヒートで一撃の内にハッサムを倒し。続くエクスレッグとの戦いではタイカイデンのぼうふうで退けることに成功する。そして、ヘラクロスとの戦いでもタイカイデンの技で一撃の内に仕留めることに成功し。残るカブテリモンの手持ちは一匹。…そこでカブテリモンは突如として笑い始める。

『はっはっはっは…。やりまんなあジブン。ここまで5匹のポケモンを前に…一匹も減らすことなく戦い抜くなんてなあ…。やけど、その快進撃もそこまでや。知恵をつかさどる戦い…それを締めくくるはこのワテ、カブテリモンやで!』

 ハルトにとって思いも知らなかった事態。今の今までポケモンに指示を出していたものがポケモンとの戦いの場に出る、という出来事は、ハルトにとってもテレビの中の夢幻の物語でしかなかったこと。…しかして、実際問題それが…今現実のものになろうとしている。

「…。君自体が最後のポケモンなんてね。…だったらこっちは、切り札を使わせてもらおうかな。」

 ハルトが懐から取り出すはテラスタルオーブ。自分のポケモンにテラスタル、と呼ばれる現象を引き起こさせるそれを…ハルトは躊躇なくポケモンへと投げていく。…と。場に出ていたポケモン…タイカイデンが飛行のテラスタルを身に纏った。
 それを見てカブテリモンも…背中のあたりから何かを取り出す。…それは、ダンベルを真横から見たような形の模様が付いた、紫色のテラスタルオーブ。…見たことのないそのオーブを見て、ハルトは目を見開く。

『この地域のルールっちゅうもんはすでに履修済みやで!ワテの智略を前に…今すぐ去ねっ!!』

 そう言ってカブテリモンがそのテラスタルオーブを真上へと投げる。…と。何という事だろうか、カブテリモンの胴体がポケモンと同じようにテラスタル化し。頭部に開かれた本のような物体がくっついたではないか。
 前代未聞のテラスタルを成し遂げたデジモン…カブテリモン。知恵の単語を口にするそのデジモンに、ハルトは打ち勝てるか。