クロスオーバー製作所/鹿方剛助の小説/憎しみは災禍を生む/第六話

Last-modified: 2023-02-25 (土) 10:34:27

厄災の出どころは、強欲

 チャンプルタウンから如何にかして逃げ延びたハルト達は。アカデミーのある町…テーブルシティへとたどり着くことができた。
 そんな彼らを待ち受けていたのは各町のジムリーダー、七人。
 そう、ジムリーダーは七人。…どう考えても一人、足りない。ナッペ山のジムを担当するグルーシャ、ベイクタウンのジムを担当するリップにフリッジジムを担当するライム。カラフシティを担当するハイダイ、ハッコウシティを担当するナンジャモ、ボウルタウンを担当するコルサ、セルクルタウンジムを担当するカエデ。この場にいたジムリーダーはたった七人だけだった。

「ハルトさん!ご無事でしたか!?」
「ジムリーダーの皆さん!…アオキさんは!?」
「チャンプルタウンの有様をお前さんは知っとるだろう!?アオキはあそこに居たままで戻ってきてないんじゃ!それに連絡もろくにつかないし…如何せん消息が不明なんだい!」
「…ニュースによれば、あのポケモンではないような謎の生き物達…あれらは全てチャンプルタウン南にあるゲート…パルデアの大穴に続く門から出現した、と聞くよ。…サムい結果にはならないでほしい所なんだけど。」

 自身の言葉に帰ってきたハイダイの言葉。…それに続くグルーシャの言葉を聞いて、ハルトの頭の中を悪いイメージがかけていく。

――まさか。まさか、まさか、まさか。そんなそんなそんな。

 心臓の音が止まらない、止まらない、止まらない。その最中。奇抜な髪色の少女…ナンジャモがどこか沈んだような様子でスマホロトムの画面をハルトに見せる。…そこにうつされるは、あの水色の線がひかれた橙色の体の、恐竜のような姿をした…デジモン、と名乗った生き物。その生き物はドータクン目掛けて赤熱した火球を吐き。それが命中したドータクンが炎上しつつ倒れ行く。…そのドータクンの元へ駆け寄るはドータクンの持ち主、と思われる少女…ポピー。
 その少女はドータクンをボールへと戻すと。その代わりとしてかショッキングピンクの体に大きなハンマーを持ったポケモン…デカヌチャンを繰り出した。
 その画面を見て疑問符を浮かべるハルト。少しして、表情を曇らせたナンジャモが声を絞り出すように発する。

「申し訳ありませんハルト氏…。この事態の発端はこの僕、ナンジャモにあるんです。」
「ナンジャモにある…って、どういう事?よくわからないんだけど…。」

 ナンジャモからの突然の謝罪の言葉。それを聞いてもイマイチはっきりとしないハルトに。カエデがその理由を話し始める。

「それに関しては、私から説明しますね。…ナンジャモちゃん、いつもの通りに企画動画の配信を進めていたの。その最中でサンドイッチを作る配信をしていたのだけど…。その時に不可思議な文字を名前に使ったリスナーたちがポンポンポンポン、マリナードタウンのセリにつぎ込むようにお金を送っていたのよ。それに味を占めたナンジャモちゃんがその不思議な文字を名前に使ったリスナーたちと交流を始めて…最後にそのリスナーさん達、こう言っていたらしいのね?…"ミ ン ナ デ ア ソ ビ ニ イ ク ネ"って…。」
「凸者に関しては…ボクの方もポケモンバトルでなら歓迎していたんだ。…だけど、それがこのような結果を生む、なんて…。」

 自身の行いを後悔するような様子のナンジャモ。自戒するような様子の彼女に対し、ハルトは首を横に振って彼女の罪を否定した。

「ナンジャモ、君は悪くないよ。…確かに君は、リスナーからの支援金をもらって心が躍って欲が出てしまったかもしれない。…けどね。ナンジャモが悪い、と決めつける説は…ナンジャモがあの生き物達をこのパルデアへと招いたことが決定づけられたうえで、さらにもう一つ。…ポケモンたちに対して"悪意のみで襲撃を仕掛けて来た"場合に限られるんだ。だけど、ナンジャモは今起こっているこの事件が自分の所為だ、と思ってるだけなんだよね?」
「…。ううん。それに関しては、絶対的な証拠があるんだ。…パルデアの大穴の中心部。そこから投げ銭してくれたリスナーたちが来たことが…ポケモンリーグの技術部によって判明されたんだよ…。」
「…それにしても、だ。ナンジャモが悪いと決定づけるにはあとひとつ。…あの生き物達…デジモンっていうんだけど、それらがポケモンたちに理由もなしに悪意だけを持って襲撃を仕掛けて来た場合、という者が足りないんだ。」

 ナンジャモの言葉に返したハルトの言葉。それに食い付くはグルーシャ。

「どういう事?ハルト。…デジモンっていう名前も初耳なんだけど。…ポケモンとは、別の生き物なの?…それに、ハルトの口ぶりから察するに…そのデジモンたち、訳アリみたいなんだけど。」
「うん。…説明するね。」

 グルーシャの言葉に応えるように、ハルトは説明した。デジモンたちが遭ってきた悲しき境遇を。被った、被害を。
 そのすべてを話し終えた後。グルーシャは頭を抱え、氷のように冷たい眼差しをハルトへとむける。それは見るだけで体の芯から凍り付かせられるようなもの。

「…。何それ、何かの冗談?ポケモン引き連れた少年が、何の罪もないデジモンたち…っていえばいいのかな。その生き物達を、ポケモンを使って虐げた?それが本当の話だとしたら、許せない話、なんだけど。」
「…。グルーシャさん、残念ながら、本当の話だよ。…それを聞いた時、僕も悲しくなった。…でも、現実でこんなことが起こっているんだよ。…僕達は、そんなデジモンたちの心を救ってあげたい。じゃないと、彼らの恨みの念は…この先ずっと、積もり積もっていくと思うから。」

 悲しみで震えているのだろう。震え声でハルトが話し終えた後。文章にしがたい言葉をライムが言い放つ。

「〇〇〇〇!!なんだい其腐った根性持った少年は!そんな風に生き物を扱っていたら強く恨むのも相当じゃないか!今すぐその少年の性根を叩きなおしに行ってやりたいね!」
「ライムさん落ち着くんだ!こんなアカデミーのある街の真ん中でそんな言葉叫んだらライムのイメージが悪くなっちまうよ!気持ちはわかるけども!」

 怒り狂うライムを抑えるはハイダイ。その様子に苦笑いを浮かべつつ。ハルトは心の中で…チャンプルタウンにいると思われるアオキの事を心配していた。

天秤はあまりにも重すぎるものを乗せたまま。~unreasonable judgment~

 赤と白のツートンカラーのボールのマーク。それが特徴的な旗が四方に飾られた、厳めしい様相を漂わせる部屋の中。…そこにアグモン…今のグレイモンはいた。
 そのアグモンが立っているのは、告訴された側が立つ席…被告人席といわれる場所。…そう、ここは法廷。…裁判をするところである。
 裁判所で弁護人が立つべき場所には誰一人としておらず。逆に、検察が立つべき場所にはこれでもか、というくらいの生き物と…数人の人間がいる。そして裁判長の立つべき場所には、黄色い肌にモヒカン頭の謎の人物。

――僕は捕まってから、人間達やポケモン、と名乗る生き物達にやったこともない罪を攻め立てられ続けた。関東、ほうえん、じょうと。そんな名前の地域、聞いたこともない。だというのに、あの人間達は僕の言葉なぞまるで聞くこともなく。僕達は…裁判の日を迎える。

 幾度となく行われる裁判。その中でアグモンは何度もあきらめることなく、罪を否定し続けようと…した。そう、罪を否定しようとしたのだ。だが、裁判の長たる人物がそれを許さなかった。アグモンが否定をしようとするたびにならされる木槌。それはアグモンが罪を否定することを許さない、という裁判の長たる人物の心の表れでもあった。…そしてそれは、アグモン達の暮らしていた場所の管理人たる黒龍にも向けられた。

――僕達の棲んでいるところの主である黒龍。彼の言葉にさえもあの人間は耳を傾けてくれない。耳障りの良い言葉しか受け入れないのか。

 理不尽にも続けられ行く裁判。…そして、その偏った考えによる判決が下される。
 アグモンを含めたデジモン達に下された判決。それは裁判の長たる人物が所属する組織の奴隷となり。一切の反抗を許さない、という事。…それとは別として黒龍にも死刑、の判決が下された。
 あんまりだ、あんまりだ、あんまりだ。泣きわめくアグモン。それを四本の腕を持った筋肉質なポケモンが抑え込み。法廷の外へと連れ出されゆく。…その後の事は…グレイモンにとって思い出すだけで吐き気を催すほどの所業であった。
 ポケモンという存在を。人間という存在を。恨みに恨み続け。アグモンはグレイモンとなってポケモンのパルデア地方…その町の中の一つ、チャンプルタウンにて暴れはじめた。
 結果としてグレイモンはトレーナーのいるポケモンたちから攻撃を受け続ける。…だがしかしそんなもの、今のグレイモンにとっては痛くもなかった。…その今のグレイモンの瞳に宿すは、恨むべきポケモン、そして恨むべき人間達。

 …理不尽な裁判の招いた災い。…それはパルデアを侵食し続け行く。