クロスオーバー製作所/鹿方剛助の小説/憎しみは災禍を生む/第十七話

Last-modified: 2023-11-10 (金) 23:54:09

"誠実"の少女は悪夢をえぐられる

自分の精神の中、そこで目の前で起こっている出来事に…ボタンは目をそむけたくなっていた。…何故なら目の前で起こっているのは、一方がもう一方を虐げている、という物。…それ等の話している内容から察するに、デジモンたちがポケモン達の住む場所を襲撃した、という体でデジモン達に謝罪を要求しているのだろう。…だがしかして、すでに事の次第を知り尽くしているボタンにとっては…どちらが正しいかはもうすでに明白な事だった。

(ピカチュウたちは何を言っているんだ。ウチらはもうすでにその真実を知っている。…デジモンなる生き物達は、ポケモンの世界を襲撃していない。…むしろポケモン達が、デジモン達の棲み処を襲撃して…デジモン達に対して危害を加えていった。…むしろ謝罪するべきはポケモン達、なのだろうけど。たぶんウチがここで言ったとしても、それはあのポケモン達、そしてデジモン達には届かない。届きやしない。…もう、過去の出来事。それをウチに見せてきているだけなのだから。…正直、目の前の出来事から、目を背けたい。…自分のトラウマが蘇ってくるから、目を背けたい。だけどもそれをしたとしても…それは叶わないのだろう。)

いやがおうにも聞こえてくる怒声と下卑た笑い。現実を直視すればほら、下卑た笑みを浮かべピカチュウがガイオウモン、と呼ばれたその生き物に謝罪を要求する声が聞こえ、それがボタンの精神を追いつめ行く。
もう見せるな。そう思っていたとしても、それらの声がはっきりと聞こえてくる。…やがてボタンが再び前を見た時には。ガイオウモンがどこか悔しそうな様子を見せつつ…ピカチュウの方を見ていた。

『どうだ?そろそろ、謝罪する気になったか?…謝罪して大人しく…我々と平和協定を結べ。そうすればお前達は我々ポケモン達の傘下に下り、素晴らしい平和が約束される。』
『っ、だれが結ぶものか…!平和などという言葉にはつられない…!そしてお前達を許すこともできないからな…!何もしていない我々の事を…!』

怒りを孕んだ目でピカチュウの事を見るガイオウモン。…その首のあたりに、鋭い刀が付きつけられる。…それが意味するのは命を奪うも奪わないもピカチュウ達の自由だ、という事。…その持ち主、西洋の騎士の鉄仮面を思わせるような頭部を持つロボットが言葉を発する。

『未だ自分の立場が分かってないようでござるなぁ。子のデジモンは。…イロスマ軍が直々にお前達の罪を許してやる、と言っているのでござるよ?甘えようとは思わないのでござるか?』
『キリキザンにタブンネ、ケンホロウやナゲキにルカリオ…。それらポケモンを好き放題惨殺してくれたくせして、よくそのような口が吐けたものだ。…お前にもあのロードナイトモンとかいうやつと同じ罰を与えてやろう。…"10万ボルト"!』

にらみつけるガイオウモンへと纏うオーラの違うピカチュウがでんきタイプの攻撃を放つ。…その技はガイオウモンに直撃し。叫び声が上がった。

――もうこれ以上、やめて、やめて。

ボタンが耳をふさぎ、目をつむる。…そして次に目を覚ました時には。ペパー、ネモ、そしてハルトの三人の顔がボタンの目の前に飛び込んできていた。

知恵を祭る町で起きる少女

セルクルタウン。そのバトルコートの付近で倒れた少女…ボタンを心配そうに見ていたハルトは。彼女の目が覚めたことを知って安堵の表情を浮かべる。

「ボタンさん、起きたんだね。良かった…。突然倒れるから、何事かと思ってたんだ。」
「あ…。ハルト…?そうか、ウチ…ハルトからペンダントを受け取った後…気を失ってたんだ…。」
「ボタン、大丈夫ちゃんか?…何なら途中でピクニックして、サンドイッチを食べるのもいい手だと思うぜ?」
「ペパー…。ううん。ウチは大丈夫。…ただ、眠っている間…デジモンたちがピカチュウとその仲間と思われるロボット達に…謝罪を強要されている場面を見たんだ。…謝罪をしなかったら、ほかの世界を襲撃するとか言ってて…。」

ペパーの言葉の後に帰ってきた、ボタンの言葉。それを聞いてネモとハルト、そしてペパーは顔を見合わせる。

「…ボタンの言っているのってもしかして…私の知る魔女狩りの伝承にあったポケモンの世界を襲撃した魔女…ア――ネシ―に関することかな。…カントー、ジョウト、ホウエン、の三つの地域を襲撃し、少年への自身の欲求を満たそうとした…えんじ色のカクテルドレスに茶色のウェーブがかった長髪が特徴的な…妖艶な魔女。」
「…恐らくはそれだと思うぜ。その魔女ちゃんがポケモンの棲み処を襲撃したのを…ボタンが見た夢の中に現れたポケモン達は何処かで事実を歪曲し、デジモンたちがポケモン達を襲ったことにしている。」
「…。ペパー、ネモ、ボタン、…次に向かおう。たぶんボウルタウンにあると思うから。」

ハルトの言葉を聞き、一同が同時に頷く。…そして。まず最初に一度テーブルシティへと戻り…そこからハルト達はボウルタウンへと向かっていった。
…デジモンたちが無事に安らかに眠れること。…その事だけを思いつつ。