クロスオーバー製作所/鹿方剛助の小説/憎しみは災禍を生む/第十六話

Last-modified: 2023-11-10 (金) 23:53:25

"誠実"の少女が見る惨劇

ダンベル…いや、鉄アレイを真横から見たような形の模様が刻まれたペンダントをハルトから受け取ったボタンは。少しして原因不明のめまいに襲われた。
ハルトやペパー、ネモの三人がボタンの名を呼び掛ける中、ボタンの意識は暗闇の中へと引きずり込まれゆく。その暗闇の中。ボタンはボールを取り出しポケモンを繰り出そうとするも…かつてのパルデアの大穴の時と同じように、ボールは開こうともせず宙を漂うのみ。

(此処は一体、何処だって言うの…?モンスターボールを投げてもポケモンが出てこないし…。)

彼女の心の中を支配し始める恐怖感。その彼女の耳に、ハルトと戦っていたデジモン…カブテリモンのモノに似た声が聞こえてくる。

『知恵の紋章はジブンに渡ったんやなあ…。やったら、わてらデジモンの記憶のひとかけらを見せたるわ。』

ひとりでに彼女の懐へと戻っていくボール。直後、彼女の左手を何者かが一方へと引き込むかのように引っ張っていく。
その引っ張られるような感触に慌てるボタン。…その時の感触はといえば、何やら爬虫類のようなぶよぶよとしたもの。その感触にボタンが戸惑う間に…暗闇は急に晴れ。気づけば彼女は何処かのビルの正面玄関の前にある広場のようなところへと出ていた。
突然の出来事に驚くボタン。彼女の前には、なにやら纏う空気の違うピカチュウと、忌々し気にそのピカチュウを見る、ピンク色のよろいに身を包んだ謎の人物の姿。…その人物の頭部には、頭部がその大部分を占めていようかという体の割合の3頭身の青いボディのロボットの脚部が乗っけられている。

『マスターピカチュウ様お許しくださいは?お許しくださいって言うでござるよ。』
『っ…!我々の棲み処を突然襲撃して理不尽な裁きを下したくせに…!何を言っているんだ…っ!がっ!』
『口のきき方がなっていないでござるなぁ。なーにがロイヤルナイツでござるかぁ?ロイヤルっていう肩書がついているならば、それ相応の礼儀作法も身についているはずでござるよ。』

偉そうな態度で言葉を放ちつつ、脚部の先でピンク色の鎧に身を包んだ謎の人物の頭部をぐりぐりと踏みつける青いボディのロボット。そのロボットはその口調こそ時代劇にでも出てきそうなものだったが、外見はその口調に似つかわしくない、中世ヨーロッパの物語に出てきそうな騎士の鉄仮面をほうふつとさせるものだった。…そのそばで、先がとがった白いボディのロボットが笑い声をあげる。

『この場でこの私に謝罪の言葉を述べることができれば…エースコンバットとかいうところの世界へ行ってその歴史を変えることをやめてやる。…ただ、その姿勢をこれからも貫こうものならば…エースコンバットの世界は悲惨なものになるだろうな?』
『っ、卑怯、者おっ!!!』

異様なオーラをまとうピカチュウを、ピンク色の鎧をまとった人物が罵倒する。…その人物に次に襲い掛かったのは、ピカチュウの覚える技の一つ、十万ボルト。…だがしかし見た目こそ普通の十万ボルトと同じだったが、そのピカチュウの放った十万ボルトは…普通の物よりも威力が段違いなものだった。
絹を切り裂かんとするような叫び声。十万ボルトが三十秒は浴びせられたころだろうか。ピンク色の鎧をまとった謎の人物はピクリとも動かなくなる。…仕方もないことだろう。強烈な電撃を長い間浴びせられ続けたのだ。…死んでいてもおかしくはない。
動かなくなったその人物を脚部の先でけり始めるは赤と白のツートンカラーが特徴的なロボット。そのロボットは動かなくなった謎の人物を見下しながら、言葉を発する。

『おいおい、何も言わずに動かなくなったぜ?おい、動けよ。…そして謝罪の言葉を述べろ。…許すかどうかは、マスターピカチュウ様が選ぶんだがなぁ?…何せポケモンの世界を襲撃したんだ。…ただで許されるはずはないよなぁ?』

ゲスな言動を繰り返す、謎のロボット達。…それを見ていたボタンの目じりからは、自然と涙がこぼれ。その目の焦点は定まらずにいた。
だが、ボタンの前で起こる悲劇は無情にも続いていく。…両脇を頭身の低いロボットに押さえられ出て来たのは…その全身を武士が着るような鎧に包まれた生き物。その生き物はピンク色の人物を見て、声を上げる。

『ロードナイトモン!!』

見るも無残な姿になり果てたピンク色の鎧を着た人物の方へと向かおうとする生き物。その生き物を…両脇にいたロボット達が押さえる。

『貴様ら!ロードナイト門に手を出して、何様のつもりだ!!デジタルワールドを襲い!我々の仲間が住む場所を奪い!理不尽な裁きを下し!…我々にこれ以上何をしてくるというんだ!!!許さない、許さないぞ!』

生き物が咆える、咆える、咆える。だがしかしてその声を聞いても。異様なオーラを放つピカチュウは表情一つとして動かさない。

『…。許さない?それはポケモンの世界を襲撃された、こちらの言葉なんだがなあ?加害者のくせして、そのような言葉が吐けるとは…驚きだよ。ガイオウモン。』

ゲスい笑みを浮かべ生き物…ガイオウモンの元へと近づいていく、ピカチュウ。

…ボタンの精神の中で行われている目の前のやり取り。…それは一体、なんだというのか。