クロスオーバー製作所/鹿方剛助の小説/憎しみは災禍を生む/第九話

Last-modified: 2023-03-20 (月) 20:41:42

かつてパルデアの生態系が危機に瀕していた時、ハルトが疎の元凶たる人物と戦っていたエリア、ゼロラボ。…今やそのゼロラボの奥地は上部に歪な穴が開き。その周囲はそこかしこにパソコンのテクスチャーの様な物が見えるありさまとなっている。…そんなゼロラボにて…食材としてあるまじき姿をしたサンドイッチと、これまた飲料としてあるまじき姿をしたナニか…いや、かろうじてコーヒーと分かるソレの入ったコップを置き、黒い鎧の様な物に身を包んだデジモン…アルファモンがそれを嗜んでいた。

『…。ポケモンの世界、というのもなかなかに乙な物、だな。デジタルワールドとは違った食材で、ここまでに風味豊かで芳醇な味わいを引き出すとは…。特にアッキの実という木の実とリュガの実という木の実…そしてそれにワサビを加えた時の味と言ったら…。ううむ、とても美味なものだな。』

 どこかの外国のお菓子をほうふつとさせるような、見た目からして食べることをためらうような様相を呈しているサンドイッチ、それを食しアルファモンが贅に浸る。…そこへ、茶色い鎧を着こんだデジモン…ドゥフトモンがやってきた。

『アルファモンよ、お前はデジタルワールドが平和だった時代からそうだったな。…私は言ったはずだ。食材はそれらをうまく組み合わせて料理することでこそ、光り輝くものだ、と。』
『ドゥフトモン、帰ってきていたのか。…それはそうとこれは私なりの食材の活かし方だ。…それで、此処での働きはどのような具合だ?』
『…。まあいい。報告をしよう。ポケモンという生き物達を滅ぼして行っているさなか、人間の男と出会い戦った。…だがこの私に手も足も出ないまま負けて逃げ帰っていったぞ。…奴の繰り出した孔雀みたいな見た目の生き物を完膚なきまでに叩きのめしたがな。』

 人間との戦い、それをドゥフトモンがアルファモンに対し、そう伝える。一方のアルファモンは映像ならばモザイクをかけるほどにすさまじい惨状となってしまっているサンドイッチを器に乗せ。カップに入っている辛うじてコーヒーと分かる飲料物の香りを堪能しつつ…ぽつりとごちた。

『フン、所詮は人間共の操り人形…。実力はその程度か。…まあその程度ならば、楽にいたぶれるだろう。噂に聞く"裁判にかけられ、理不尽な裁きを受けたデジモンの中で死んでいった仲間達"の仇も…楽に取れるだろうな。』

 アルファモンは思い返す。デジタルワールドにポケモンなる生き物が現れ、デジモンたちを襲ってきた日々の事を。…その時まだドルモンだったアルファモンは。その時のことを鮮明に覚えていた。
 シャンデリアのような姿の生き物が吐く強い炎によって焼き殺されゆく植物型デジモン。耳の長い黄色い体の生き物の放った電撃によって一撃の内に葬られてしまった鳥型のデジモンや鳥人型のデジモン…それに水生動物のようなデジモンやサイボーグ型のデジモンもまた、あの黄色い生き物の放つ電撃でやられて行き…その姿を消して行ってしまった。
 周りのデジモンたちが次々とあのポケモンなる生き物達にやられゆく中、のちのアルファモンであるドルモンは死に物狂いで逃げ出した。死に物狂いだったがためか、ほかのデジモンたちの事など気にかけてる暇はなく。断末魔が聞こえ行く中でもドルモンは構わず…自分の命のみが大切であったがために逃げるほかなかった。
 ただ、逃げたことに後悔がないわけでもなかった。焼き尽くされた枯れ木の下で悔し涙を流したり、空を見つめ犠牲になったデジモンたちの事を思い返したこともあった。…その中で合流したのが…のちのリーダーとなるロードナイトモン…その幼年期のカプリモン。
 ポケモン達の事についてドルモンとカプリモンは情報を共有し合い…ともにポケモン達に対する逆襲を誓い合う。

――あれから幾日もの時が経ち、私達は究極体になったころ合いを見て、ポケモンの住む土地への襲撃を始める計画を立てた。…それと同時に、あの珍妙不可思議な格好をした人間が生放送の様な物を始めたがために、我々はそれに仲間達を紛れ込ませ。あの人間の欲望を強く強く刺激するような事をし…しばらくして影響が強くなったタイミングで、デジタルワールドのフォルダ大陸に似たこの地域へと転移することに成功し。…そこから侵略を始めた。

 かつての事を思い返すアルファモン。…侵略を開始し始めた時にかつてデジタルワールドを襲撃したのちに和平協定を結んだスパイラルも同行させ。ゲートを通った先にある街を襲撃したことも、アルファモンはどこか懐かしそうにしていた。
 そんなアルファモンに…金色のよろいに身を包んだデジモン…マグナモンが声をかける。

『…アルファモン。我々デジモンがこんなことを強いられるようになった事の発端ともいえるポケモン被襲撃事件…それについて調べてみたんだが、どうもにおうんだ。』
『…。あの事件はポケモンを引き連れた少年が言い放った、でっち上げの事件じゃなかったのか?』

 寝耳に水、ともいえるマグナモンからの言葉。…あの時デジタルワールドに襲撃を仕掛けて来た少年の言い放った、"ポケモンたちがデジモンたちによって傷つけられた"という言葉。マグナモンはそれがでっち上げではない、とも取れるような言葉を発したのだ。

『完全なでっち上げではない。…今から六百年から五百年ほど前、臙脂色のカクテルドレスなるものを身に包んだ妖艶な女性が起こした、というのが本当の物らしくてね。デジモンの歴史書にはそんなこと書かれてなかったから…恐らくその女性が何らかの怪しの術を使いポケモン達に襲撃を仕掛けていった…とその情報には乗せられている。…一部学者界隈ではその魔女の正体も割れてはいるんだが、いかんせん文字が掠れていて…わかっている部分だけだと災厄〇〇〇〇〇ル〇シア、としか解読できなかった。』

 マグナモンからの情報を聞き、アルファモンは纏う空気を変える。…同時に、アルファモンの心の奥底から、何やらどす黒いものが顔をのぞかせていた。

――…。今まであの少年のでっち上げた事件だと思っていた事柄に、真犯人がいた…?という事は…あの少年は、その事を捻じ曲げて…!

 静かに怒りに震えるアルファモン。そのデジモンは、さらに復讐の炎をたぎらせて行く。


 ところ変わってテーブルシティにあるアカデミーの保健室。そこに手酷くやられた様子のウェーニバルがベッドの上に寝かされ。その嘴には人工呼吸器の様な物が取り付けられ…胴体部分にはパッドのようなものが張り付けられていた。
 保健室に響くは心電図の音のみ。一時期は"テテテテッ、テテテテッ"という異常を知らせるような音が聞こえていたのだが。今は規則正しい無機質な音だけが響いている。
 そこに表情を曇らせウェーニバルのそばにいるのは、ウェーニバルのトレーナーたるハルト。彼の元へと、一人の女性…保健室の先生であるミモザがやってきた。

「…ネモちゃんやペパー君が心配してたよ。勉学に身が入っていないように見えた…って。…コサジタウンで起こったことは、私もネモちゃんから聞いた。…彼女にしては沈んだような様子だったよ。」
「…。あんな格好悪い所を…。」
「ううん。ハルト君、貴方は…一生懸命に戦ったと思うよ。だけど、相手がそれ以上…圧倒的な力を持っていただけの事。ポケモン達では、歯が立たないような…そんな敵が現れたという事ね。」

 ミモザの言葉を聞き、ハルトはどこか悔し気に歯噛みをする。

「ミモザ先生、ポケモンをどんなに強くしても歯が立たないというんだったら…どうすればいいんですか?テラスタルでも、あのデジモンという生き物には…歯が立たなかったんです。いったいどう戦えというんですか…。」
「…。あの生き物達ははっきり言って、これといった対策が取れるまではどんな方法も無効…そう思った方が良いわ。それに、目的の物はちゃんとクラベル校長に渡して訳も話したのでしょう?」
「はい。表情を厳しくしていました。」
「だったら…貴方の目的は完了したも同然よ。ポケモン達がすべて倒れたのにもかかわらず貴方はよく我慢して此処までその魔女狩りの資料を持ってきてくれたわ。…それでよく聞いて。今、ネモちゃんは…貴方の力になれるよう、うんと努力してる。バトル学のキハダ先生からより高度なポケモンバトルの技術を学ぼうとしたり、はたまたボタンちゃんに協力してもらってネット上にあるポケモンの理論などから学ぼうとしたり…。それはそれはものすごい努力をしてるわよ。」

 自分の為にネモが努力している。その事を聞いたハルトは顔を白くさせる。

「…。彼女が…。僕の力に…?」
「うん。…彼女、貴方の成長をとてもとても喜んでくれていたから、そして、互いに成長し合えるライバルができたから、そのライバルの為を思ってのことだと思うわよ。でも話だと…。恐竜のような姿をしたデジモンにこっぴどくやられてしまったようね…。」
「…。僕の勘からすると、あの恐竜のような姿のデジモンにやられているようでは…僕が戦ったあのデジモンと戦ったとしても…歯が立たないと思う。」

 自分の勘でしかないことをミモザに伝えるハルト。それを聞いてミモザは無言で頷く。

「…そうね。このウェーニバルのやられ方からして、相手は相当の強さを誇るとみていいと思う。…ハルト君は彼女が無茶をしないよう、見守ってあげて。」
「分かりました。ウェーニバルの事、よろしくお願いします。」

 一言そういって保健室を後にしたのち。ハルトはグラウンドへと向かっていく。…そこにはやはりともいうべきか。彼の探していた人…ネモの存在があった。
 眼鏡をかけ、ファイルの様な物を手にしたネモ。彼女が足音に気が付き振り返る。

「ネモさん!僕なんかの力にならなくたっていいよ!その気持ちだけで良いから!」
「ハルト…。ううん。私、ハルトのバトルを後ろから見て、わたしとの力の差を知らされちゃったんだ。…相手を実らせて、対等なライバルにすることだけに熱中しすぎて、私、自分を実らせることを…忘れてた。あのデジモンっていう生き物、たぶん私が本来の本気を出したとしても…きっと勝てっこない。だから、自分の本気をさらに磨くために…勉強をしてたんだよ。」

 そう言って微笑みかけるネモ。…そんなネモに対してハルトは歩いていき。彼女の片腕をぎゅ、と握る。

「あんな不甲斐ない姿を見せちゃってごめん。これからは、共に成長していこう。」
「…でもハルト、ウェーニバルは…。」
「ウェーニバルの為にも、だよ。…僕達で成長して、デジモンたちからみとめてもらおう。戦いつつ話をすれば…きっと彼らはわかってくれる。」

 ハルトからのその言葉を聞き、頷くネモ。…その後二人は、アカデミーの寮のそれぞれの部屋へと戻っていった。
 それからいくばくかの時が過ぎ。ウェーニバルのいた穴にキョジオーンを入れ、ハルトは支度を終える。

――…。ウェーニバル、また元気で、バトルを愉しもう。

 かつてクワッスだったころにピクニックの時に撮った写真。それを見て決意を固めた後…ハルトは異常な光景へと変貌したパルデアの大地へと赴く。…そこにはペパーにボタン、そしてネモの姿があった。

「ハルトー!あとはお前だけだぜー!」
「お待たせ―!…さあ、行こう!」

 パルデアを襲った大異変、それを解決するため、ハルトはテーブルシティを発っていった。