つらら女〔アナザーヘブン〕

Last-modified: 2018-08-22 (水) 00:02:37

キャラシート

【クラス】ランサー
【真名】つらら女〔アナザーヘブン〕
【容姿】白い和服と、対比になるような長い黒髪を揺らす女性。
   見るものが見れば、ひと目で異質な霊基をしていることがわかる。
【英雄点】35(ステ22点/スキル13点):令呪一画(宝具一画)
【HP】55 / 55
【筋力】A :5
【耐久】EX:8(10)
【敏捷】E :1
【魔力】A :5
【幸運】E :1
【合計】22点
 
【スキル1】幻霊複合体(ファントム・コンプレックス) EX
5:交戦フェイズごとに1回まで、
  自分の手番に自身のHPを{耐久値D6}点回復し、付与されているデバフを解除する。
 
【スキル2】深淵の叡智 B
5:キャラシート作成時、英雄点5点を得る。 魔術防御時、補正値5を得る。
 
【スキル3】魔力放出(霧氷&炎) B
3:魔術攻撃時、補正値5を得る。
 
【宝具1】『陽光凍結式・古に連なる白夜への旅路(アンチペリスタシス・エルダーエフェクト)』 1/1
【ランク・種別】EX:対己宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
【効果】HPが0になった時、HPを{5D6}回復して復活する。
   またその後の交戦フェイズ中、HPを0にした攻撃と同じ種類(物理・魔術・奇襲)の攻撃に対する防御時、補正値5を得る。

【宝具2】『始源終末式・深淵に揺蕩う恋焔の氷柱(アンビガトゥンソース=アウルゲルミル)』 1/1
【ランク・種別】EX:対己(界)宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
【効果】キャラシート作成時、令呪を一画消費する。
   この宝具は宝具1を使用していないと発動できない。

   交戦フェイズ中の自身の手番時に任意宣言。
   その交戦フェイズ中のみ現在HPと最大HPを15点増やし、自身の筋力と魔力値をA++(7)として扱う。
   また自身に神性、超巨大、天属性を付与する。

【その他】人型/女性/中立・中庸/(神性)/(超巨大)/地属性/(天属性)
    真名看破は「つらら女」「ゲルヒルデ」「メガラニカ」「エラスト・B・ムペンバ」のどれでも可。
 

【キャラクター詳細】
 耐えた痛みが、私を解かすなら――それは渇望の氷。
 焚いた火がまだ私を焦がすから――それは後悔の炎。
 
 まだ終われないから。
 また――炎が猛り出す。
 
 それは凍れる色彩無きの焔。
 渇望によって狂気を束ねし氷炎の理――。
 
【パラメーター】

筋力耐久EX
敏捷魔力
幸運宝具EX

 
【クラス別スキル】
 ○対魔力:B
  魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
  大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
 
  『つらら女』はその性質上自然現象が意思を持った精霊種に近しく、
  『ゲルヒルデ』はその設定上ヴォータンら神格たちの娘であり、
  『メガラニカ』、『エラスト・B・ムペンバ』はこのスキルを保有していないが、
  複合体となっている今に在って比較的高密度の神秘を纏っていることから、このスキルを高ランクで保有している。
 
 ◯領域外の生命:C
  『メガラニカ』のスキル。
  領域外――即ち外宇宙、外なる法則にて産まれ落ちた生命、あるいはそれを取り込み内包している事を表すスキル。
  その出自故に地球の法則とは異なる異星法則により動いているため、
  既存の法則に当て嵌まらず、歪み、あるいは侵して、異なる結果を出力させる。
  極大規模ともなれば時空そのものが発狂しているとしか言う他ない程の異常極まりない非ユークリッドな歪みを見せるが、
  サーヴァントと在ってはその器に見合った極小規模に収まる。
  その性質上、『相異法則性防御』とも言うべき一種の耐性能力を備える。
 
  観測宇宙の大原則として、
  観測可能な宇宙とは数的な系に然程差異はない。
  差異が大きく、物理定数が違えばそもそもとして観測ができないからだ。
  それでもそれを認識するということは、ある種の特別な才が必要であるということ。
  例えばそもそもとして高次の生命体であったり。 例えば、並行世界を扉を開けるように行き来する者であったり。
  あるいは――あちらから、観測を可能にしたり、など。
 
【保有スキル】
 ○幻霊複合体:EX
  ファントム・コンプレックス。
  幻霊接続(ファントム・コネクト)に連なるスキル。
  幻霊接続スキルが英霊の能力を引き上げるために幻霊を装備するスキルなら、
  こちらは幻霊たちが英霊の域に至るために自身たちを接続し、複合体となっている事を表すスキルである。
 
  元来幻霊とは歴史が足りず、信仰に至らぬが故に英霊に届かぬ存在で、
  必然、霊基数値が足りずサーヴァントとしては成立しない存在であるとされる。
  その性質上、近代の物語の登場するような架空の人物であったり、
  都市伝説(アーバン・レジェンド)の類がこの幻霊という存在として分類されることが多い。
 
  このスキルのランクは規格外(計測不能)として評価されるが、
  複数の存在が融和している事によって、接続された幻霊の内のどれかの側面が強く出てしまったり、
  情報(記憶や感情等)の希釈、属性の変容等のデメリットも引き起こされる。
 
 ◯魔力放出(霧氷):B
  『つらら女』のスキル。
  武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
  彼女の場合は冷気として出力され、周囲を凍てつかせられる他、氷の精製等を可能とする。
 
  本来ならば『魔力放出(氷)』であったはずのスキルだが、幻霊融合を行った影響で変質を来している。
 
 ◯魔力放出(炎):B
  『ゲルヒルデ』のスキル。
  武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
  彼女の場合は炎として出力され、ルーンによってこれを高めることも可能としていた。
 
  ゲルヒルデがこの能力を持ち得るのはその死因故。
  ゲルヒルデ自体に炎を操る記録は存在せず、またその最期も作中にて詳細に描かれてはいない。
  だがヴァルハラの最期――即ち、ブリュンヒルデの炎による神々の黄昏。 これに巻き込まれたと見るに相違はないと思われる。
 
  この時、彼女が抱いたのは怒りではなく――後悔。
  ヴァルトラウテのようにもしか、姉さん(ブリュンヒルデ)と会っていたら。
  何も変わらなかったかもしれないけれど、それでも、と。
  荘厳の宮殿を燃え上がらせる炎に巻き込まれながら。 何もできなかった自分を、己を焼く炎を――そのもしもを、その後悔を、抱え続けた。
  その想い、その結果が、己の身より噴き出される終末の幻想――蒼く白い、黄昏の焔である。
 
 ◯無辜の怪物:C+
  『メガラニカ』のスキル。
  人々の南極に対するイメージや、それに付随する都市伝説。
  即ち未だ未知が存在する数少ない大陸であるが故に集まった無辜の念、あるいは邪推、あるいは憶測、あるいは憧憬が、
  想像上の仮説大陸メガラニカと結びついたことで発現したスキルであり、ある種幻霊であるメガラニカを支えるスキル。
  人々の様々な想念によって分厚く頑丈な氷河(にくたい)を構築している。
  先住民や原住民が存在しない、人の信仰が目覚めぬ地はしかし、それ以外の地より信仰を、あるいは憧憬を受け止めていた。
 
 ◯深淵の叡智:B
  『エラスト・B・ムペンバ』のスキル。
  幻霊接続時に偶発的に変質、あるいは発現したスキル。
  人が知ってはならぬ星の智慧。 摂理より外れた外法。 狂気なりし異端の知識。
  このスキルを持つものは漏れ無く正気を削られることになるが、
  複合体として在る今にあっては領域外の法則を取り込んでいる事によってこれを防いでいる。
 
  物理法則どころか魔術法則すら外れた、
  ある種神代の法則が如き不可思議を小規模ながら行使できる。
  例えば――そう、高温であればあるほど凍りつく、といったような。
 
【絆Lv.1で開放】
 身長/体重:153cm・49kg
 出典:民話、楽劇「ニーベルンゲンの指環」、都市伝説、史実、北欧神話
 地域:日本、南極、北欧、タンザニア
 属性:中立・中庸
 性別:女性
 
 身体的特徴は基となったつらら女のもの。
 
【絆Lv.2で開放】
 『つらら女』とは、日本の民話に登場する人間の女性と化したつららのこと。
 その物語には地方によって諸説入り乱れているがおおよそ、
 人と関係を持とうとするが最後には悲劇に終わる、という事が共通している。
 
 例えば、男の願いを聞き美しい女性となって結婚するが、
 春になると女はいなくなってしまい、男はこれを悲しみつつも再婚。
 再び冬となって男の元へ戻った女はこれを知り、怒りのあまり元のつららとなって男を刺殺する、といったものや。
 例えば、大雪の夜に夫婦の家を尋ねこれに泊まれることになったが、
 この夫婦からの入浴の勧めを断りきれずこれに入って溶けてしまい、夫婦は風呂に浮かぶ氷の欠片を見つける、といったものもある。
 
 雪女と混同されがちで、事実似通った話もあったりする。
 時期も同じくする口伝伝承であるので良くある話であり、霊基情報としても雪女を一種の冬の精として定義するのならば、
 冬の寒さによって形作られるつらら及びつらら女にその要素が幾らか混じっていてもおかしくはないだろう。
 
 『ゲルヒルデ』とは、リヒャルト・ワーグナーが書き起こした楽劇『ニーベルングの指環』に登場するワルキューレの一人。
 作中に於いては大神ヴォータン(オーディン)と知恵の女神エルダ(ヨルズ)との間に生まれた九姉妹の内の一人であり、かのブリュンヒルデの妹である――とされる。
 実際の所彼女はワーグナーオリジナルのワルキューレであり、
 楽劇の大本たる北欧神話のエッダやサガ等に於いてその存在を探すことはできない。
 
 本来のワルキューレたちと機能は似通っているが、
 原典が楽劇であるために些か違った形質を得ている。
 ヴァルトラウテが愛憎の焔を抱えるように。 彼女が抱えるは青白き後悔の焔。
 荘厳の宮殿を。 天上の御館を。 大神の軍庫を。 彼女たちが住まわう、御園を。
 終末の幻想――黄昏の焔が焼き尽くし、彼女たちをも焦がし、故にそれを後悔の象徴として抱えた。
 
 ――そして、どちらも。
   英霊には届かぬ幻霊である。
 
 
【絆Lv.3で開放】
 幻霊とは即ち歴史や信仰、あるいは他の要因もあって英霊には届かぬ存在で、
 例えば近代の物語に登場する人物であったり、都市伝説の類がこれに該当する。
 
 英霊という規格外の存在と比べれば霞の如く儚きそれたちはしかし、
 スキルや宝具の概念に関してで言えば差異はなく、規格自体は同じである。
 この性質に着目し、三千年にも及ぶ研鑚を経て、利用する者たちがいた。
 
 それは遥か彼方、悪辣の都――『新宿』とも、呼ばれる場所に於いて。
 幻霊という概念を英霊と接続することによって、その能力を向上させるという、
 さながら幻霊を礼装のようにして扱う技術が、そこには確立していた。
 
 このサーヴァントは言わば、
 その技術が確立するまでの実験過程に於いて生み出された幻霊複合型のサーヴァントである。
 この時に融合されたのが『つらら女』と『ゲルヒルデ』であり、
 成功例であるヘシアン・ロボのような、接点が全く無いもの同士を複合させる例として実験された個体であった。
 しかし、ある程度の活動をした後に霊基が破綻し、崩壊してしまったために失敗作として打ち捨てられた。
 
 実験過程で生み出された複合体の多くは崩壊、消滅した後に瓦解したが、
 この霊基を構築していた幻霊――『つらら女』と『ゲルヒルデ』は、お互いを離さなかった。
 『つらら女』はその渇望から。 『ゲルヒルデ』はその後悔から。
 交差するその意思は違えながらもしかし、見据えゆく目的こそ同じであったために複合体である霊基を良しとしたのだ。
 
 ――だが、自分たちだけでは足りない。
 霊基数値それ自体は確かに上昇したがしかし、その能力の相性の悪さからもしか召喚されたとしても再び破綻と崩壊を繰り返してしまうだろう。
 だからこそ彼女たちは追い求め、手を伸ばした――さらなる力、さらなる幻霊へと。
 その霊基に刻まれた、幻霊融合の術式を強引に利用して。
 
 どうして手を伸ばしているのか。
 その理由を、置き去りにしながら――。
 
【絆Lv.4で開放】
 『メガラニカ』とは、かつて南極を中心として南半球の大部分を占めると推測された仮説上の大陸。
 その起源は古代ギリシアまで遡り、世界が球体であるとすれば、
 当時の知見より考えて、大陸が北半球に集中していてバランスが悪いと考えられ、バランスを取るためにこの大陸が仮説として考え出された。
 その考えは大航海時代までをも続き、オーストラリア大陸の北側が発見された当初はこのメガラニカ大陸の一部とされたほどで、
 日本に於いても『黒瓦蠟尼加』なる名前で地図に描かれている。
 
 幻霊である『メガラニカ』は、
 例えば先に言ったメガラニカ大陸の実在否定から南極発見に至るまで、
 一時的に地図から南極大陸が描かれてなかったことに由来する陰謀論、UMAの数々、
 未知の生物や超古代文明、果ては天使やロンギヌス等といったものがその分厚い氷の内に眠っている等という与太話、
 はたまた陸地のない氷100%な大陸といった誤認識、etcetc。
 そういった、人々の良き悪きを含めた南極に対するイメージや都市伝説――人々が想起し得る『想像上の南極』と、
 古代より言い伝えられた想像上の仮説大陸『メガラニカ』とが結びついたことで生まれた幻霊である。
 
 『エラスト・B・ムペンバ』とは、タンザニアの科学者。
 学生時代に発見した『ムペンバ効果』が有名(厳密には再発見とされる)。
 ムペンバ効果とは特定の条件下に於いて『高温の水の方が低温の水よりも速く凍りつく』という逆転的な物理現象の事で、
 その不可思議な結果から『熱力学的に有り得ない』とも言われ、今を以て、その原理は明らかにされていない。
 なお、この現象はエラスト・B・ムペンバが発見したとされるが、それ以前にもアリストテレス等が気づいていた可能性がある、とも。
 
 以上四名が混ざり合い、
 複合した結果がこのサーヴァント――『つらら女〔アナザーヘブン〕』である。
 『つらら女』が基となっているのは彼女だけではなく『ゲルヒルデ』らの意思でもあるし、
 彼女が持つ儚きなれど強烈な渇望、最も意思の強い彼女を基にした方が良い、という判断からでもあっただろう。
 
 しかし――。
 『幻霊複合体(ファントム・コンプレックス)』という極めて曖昧で異質な霊基が、何の問題も起こさぬはずがない。
 成功例たるヘシアン・ロボがさらなる幻霊を取り込んだ際、その幻霊の人格と属性を抑え込むために憎悪を加速せざる得なかったように。
 彼女の霊基は幾らかの綻びが生じてしまっている。
 
 彼女の場合、情報の希釈が引き起こされており、
 己の渇望に沿って幻霊融合を繰り返したはいいが、肝心の、『何を渇望しているのか』を忘れてしまっている。
 今やにして彼女の裡に在るのは『己の渇望を追い求めなければならない』という、
 理由すら喪失してしまった『幻の強迫観念(ファントム・コンプレックス)』のみである。
 
【絆Lv.5で開放】
『恋焔槍葬・氷鋳火劇』
 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~4 最大捕捉:1人
 
 れんぼそうそう・ひょうちゅうかげき。
 燃え盛りし氷柱の槍。 炎の中に在りながら解けず、氷を燃やしながらもなお消えることなき矛盾体系。
 恋の焔は槍のように。 葬礼に導く戦乙女が氷の鋳型に火を灯して劇場に降り立つ。
 
 『つらら女』及び『ゲルヒルデ』による複合宝具。
 つららとは即ち鋭く伸びゆく氷の槍。 そしてゲルヒルデ、その真名の意は『戦いの槍』。
 どちらもその真名を象徴とするが故に複合された結果、氷炎の槍として発現した。
 
 真名解放時にはつらら女の逸話と、
 北欧神話に名高き大神の槍、その戦いの槍がレプリカ――即ち偽の大神宣言の特性が組み合わさることで、
 己を裏切ったものに対して絶対必中効果を持つ投擲が放たれる。 浮気者絶対刺殺槍。
 裏切り者特攻を持つ投擲ダメージに加え、氷属性と炎属性のダメージを同時に与える。
 
 それ()が理解らぬが故に炎でなくてはならず――。
 ――けれど、彼女は氷でありたかった。
 
 
【『古綿市聖杯戦争』クリアで開放】
『陽光凍結式・古に連なる白夜への旅路』
 ランク:EX 種別:対己宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
 
 アンチペリスタシス・エルダーエフェクト。
 悍ましき異星よりの法則。 あるいは外神権能限定再現。
 
 『つらら女』と『ゲルヒルデ』の複合霊基が破綻、崩壊してしまったのは、
 幻霊融合の術式がまだ成熟しきっておらず完成度が低かったのもあるが、
 ゲルヒルデが抱える終末幻想――黄昏の焔と、つらら女自身の性質や逸話とがあまりにも相性が悪かったからである。
 
 理の当然として、氷というものは炎によって解けるが道理であり、
 物理法則は当然として、現在の神秘法則でもって見てもそれを覆すものは存在しない。
 魔術世界の最中にあろうとも質量保存の法則に縛られるように。
 氷に影響を及ぼさず燃やすことは可能ではあるが、これらが一度干渉し合えば、熱力学の法則に従うように解けるが定めだ。
 
 だが――何事にも例外というものは存在している。
 『エラスト・B・ムペンバ』が発見した『ムペンバ効果(エフェクト)』という現象は、
 特定の条件下という前提があるものの、『高温の水の方が低温の水よりも速く凍りつく』という逆転的な現象が引き起こされる。
 幻霊として在り、神秘なりし宝具となったそれはある程度の前提は無視できようがしかし。 常時、氷と炎の関係性までをも逆転することは不可能だ。
 
 ――メガラニカとは、人々が想像し得る南極に対する無辜の念が、
 メガラニカという仮説上の大陸を殻にして組み合わさることで誕生した幻霊だ。
 その一つ。 遥か想像上の南極に対する想念が、つらら女の持つ宇宙的概念と結びつき、歪んで――繋がって。
 狂気なりし冒涜的な概念をこの霊基に落としてしまった。
 
 複合霊基の副作用による概念波及現象。
 メガラニカに発現した冒涜的概念が、『ムペンバ効果(エフェクト)』を侵して、歪ませ。
 氷である『つらら女』と、炎を抱える『ゲルヒルデ』を冒涜的に結びつけ、真の意味で融合させて。
 摂理より外れた外法、星の智慧が導く悍ましき異星よりの法則――即ち、外神権能限定再現宝具として発現した。
 
 それはさながら、『熱によって冷は増強されうる』ように。
 ある性質の強度は、相反する性質に取り囲まれた結果として増強されうると。
 ムペンバ効果の第一の発見者とされるアリストテレスが提唱した、『熱と冷との間の相互の反作用(アンチペリスタシス)』が如く。
 
 つらら女は死に向かうに連れて身体を解かしていく。
 ゲルヒルデは死に向かうに連れて炎によって瓦解していく。
 正反対でありながらも。 彼女たちは熱によって、炎によって死ぬけれど――。
 
 ――燃え上がるようにして凍りつき。 凍りつくようにして、燃え上がる。
 ゲルヒルデの終末の炎は、氷であるつらら女を逆により鋭く、硬く、強く凍りつかせていく。
 陽光すら凍結せんとするそれは白夜への旅路。 南極や北極に於いて普遍的に見られる永続の太陽すら、彼女を解かすには届かない。
 己の死因すら否定し得るその能力を以て、彼女の耐久値はEX――規格外を指し示した。
 
 ランサーの霊基として在るのは、つらら女とゲルヒルデの属性が強いからでもあり、
 彼女たちが複合霊基として誕生した当初のクラスがランサーであったからでもあるが。
 彼女の裡に在る形質は、紛うことなき『降臨者(フォーリナー)』。
 
 即ち、『ランサー』と『フォーリナー』の二重属性。
 渇望によって狂気を束ねる氷炎の理――その真名を、『つらら女〔アナザーヘヴン〕』。
 『解ける』という己の結末より逃れて、『もう一つの結末(アナザーヘブン)』へ至った迷い子である。
 
 
 まだ終われないから。
 また、炎が猛りだす――。
 
 
『始源終末式・深淵に揺蕩う恋焔の氷柱』
 ランク:EX 種別:対己(界)宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
 
 ガングレリはこう尋ねた。
 「世界は最初、どんな風に在ったのでしょう。
  物事はどのようにして始まって、それ以前には果たして何があったのでしょう?」
 
 ハールはこう答えた。
 「それは『巫女の予言』に於いて次のように語られている。
 
  “遥かの時代、始まりには何も無かった。
  砂もなく、海もなく、故に冷たき波もなく。
  大地は在らず、空どころか天すら無かった。
  ただそこには空虚な裂け目のみがあって、草一つ生えてはいなかった”」
 
 ヤヴンハールがそれに続いた。
 「大地ができる遥か以前よりニヴルヘイムができた。
  真ん中にはクヴェルゲルミルという名の泉があり、それより十一本の河が流れ出ている。
  そして十一本目の河こそはヘルの入り口の門の脇を流れる、ギョッルという河である」
 
 スリジが付け加えた。
 「同じく遥か以前より、南にはムスペルがあった。
  そこは眩く燃え盛り、そこで生まれたもの以外には住まうことも通ることすらできぬ程。
  そしてその国の入口にはスルトと呼ばれる者がいて、このムスペルを守っている。
  彼は燃え盛る剣を持ち、世界が終わる時にはそこより出づりてあらゆる神々を討ち滅ぼし、全世界をその炎で焼き尽くすだろう」
 
 ――ギュルヴィたぶらかし 4章より
 
 
 アンビガトゥンソース=アウルゲルミル。
 虚構によって再現された遥か狂気なりし外神巨人が顕現。
 
 その外神は外宇宙より原初の地球へ飛来し、
 蒸気と粘着質に包まれる地獄が如き汚泥へと降り立ったという。
 その中で蠢きながら横たわり、分裂増殖共食を発狂するように繰り返しながら。
 惑星に住まわうあらゆるの生命体、その原形質をこの地球に落とした。 つまりこの外神は、生命の源流であると言えよう。
 
 そしてこの霊基が内包する深淵の一端は、
 この外神の細胞よりある不定形生物を生み出したともされる。
 それは非常に高い可塑性と延性を持ち合わせ、生物群は勿論の事建築物等の無機物までをも含む、
 文字通りありとあらゆるものに千変万化に変性できる――と、かの神話に於いて語られる。
 
 性別なき万能者。 あるいは雌雄混合の原初。
 その因子は確かに自存する源へと繋がっている。
 星に手を伸ばすように。 星が智慧を導くように。 混沌の深淵へと歩んでいく。
 
 即ちこの宝具は。
 元より外神の力を借りているこの霊基に。
 さらなる外神の力を取り込む(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)という暴挙である。
 
 発狂する粘着質。 無秩序の生命大系。
 痙攣し悶える原形質はあらゆるものを飲み込んで増殖し、分裂し、共食して、ただただ自存する。
 那由多にざわめき規則と不規則を繰り返す生命活動の海(スープ)。
 凍りついて燃え上がり、燃え上がって凍りつく新陳代謝を発露する不定形に沸き立つ無機質の混沌。
 
 そんな有り様になって、なお。
 意思の光すらなりを潜めて、知性の類すら流動する生態系に流されて、それでも。
 彼女は渇望だけは失わない。 渇望だけで動いている。 渇望だけが――其処には在る。
 
 ――類感魔術というものがあるだろう。
 それは似たようなものはお互いに影響を及ぼすという魔術概念。
 氷を利用することによって神曲に謳われる監獄を作り出すように。
 炎を利用することによって神話に謳われる御館を作り出すように。
 似通せて、見立てて、謳われるそれが如くの力を引き出すというものだ。
 
 時には大規模な魔術儀式としても成立し得るそれ。
 点と点を繋ぐ人間思考の基礎。 現実と虚構を繋ぐ、結びつけることによる意味構造の構築。
 さる神話は、そんな思考様式を利用することによって恐怖を駆り立てているとも言えよう。
 
 たとえ領域外に住まい。
 法則が歪曲して、あるいは通用しない存在であろうとも。
 こちらの霊基を、宝具というシステムを利用しているのならば。
 そこだけは、そのフィルターだけは――こちらの法則が適用可能だということだ。
 
 ――『メガラニカ』という幻霊は先も語った通り人々が想像し得る南極に対する無辜の念、
 あるいは邪推、あるいは憶測、あるいは憧憬が、メガラニカという仮説上の大陸を殻にして組み合わさることで誕生した幻霊だ。
 先住民や原住民が存在しない――はずの――人の信仰が目覚めぬ地はしかし、それでも信仰を受け止めていた。
 あるいは――だからこそ、それを利用されてしまったのかもしれないが。
 
 元となっている南極は実に約98%が氷によって構成されている氷河の大陸だ。
 そして――ニヴルヘイムとは、九つの世界の内の下層に存在する氷の国である。
 対してのムスペルヘイムは炎の国であり、そこには上記の通り一つの神話体系を焼き尽くす事で終わらせるスルトが住まわっている。
 そして『ゲルヒルデ』が抱える炎は、ヴァルハラを焼き尽くした彼女の姉の炎―― 一つの物語を終わらせる、終末の焔である。
 
 北欧神話の宇宙観に於いて――。
 世界の始まりにはただ空虚な裂け目――ギンヌンガガプと、
 氷の国であるニヴルヘイム、炎の国であるムスペルヘイムがあった。
 そしてニヴルヘイムよりの冷気とムスペルヘイムよりの熱気が交わり滴って、その雫より原初の巨人――ユミルが生まれたとされる。
 
 この後、ユミルによって様々な生命が産み落とされ、
 その内に一つであるオーディンら三神に討たれて、その身体より天地が創造された。
 北欧神話に於いてユミルとは言わば世界の基礎であり、この後に続いていくあらゆる生命の根源でもあると言える。
 
 即ち――。
 先程の宝具が、こちらの理論をフックにして外神の権能を再現する宝具であるのなら。
 多くのフォーリナーが、外神の力を利用するものであるのなら。
 これは外神の力を用いてしかし(・・・・・・・・・・・)こちらの神格の暴威を再現する宝具(・・・・・・・・・・・・・・・・)に他ならない。
 
 ――それを、名付けるとするならば。
 宝具名にして、『始源終末式・深淵に揺蕩う恋焔の氷柱(アンビガトゥンソース=アウルゲルミル)』。
 渇望の果て。 後悔の最奥。 氷と炎が導く狂気なりし外神巨人が顕現。
 その霊基が許す限りの圧倒的暴威を再現しながら、星にすら手を伸ばさんとする――対界宝具である。
 

参加歴