Anki 1.x ユーザーマニュアル (Anki User Manual)

Last-modified: 2014-12-30 (火) 12:57:11

原文 = http://ankisrs.net/docs/manual.html


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目次



はじめに (Introduction)

Anki は 物事を憶えるのを楽にするプログラムです。伝統的な学習法と比べて Anki は ずっと効率的なので、あなたは 学習時間を大幅に節約したり 身につける知識量を大幅に増やしたりできます。

毎日の生活のなかで 物事を憶えなければならない人すべてに Anki が役立ちます。Anki は コンテンツから独立しており、画像・音声・動画・科学マークアップ (LaTeXを使う) をサポートするので、可能性は無限です。例えば:

  • 外国語を学ぶ
  • 医学や法律の試験に向けて勉強する
  • 人の名前と顔を記憶する
  • 地理に詳しくなる
  • 長い詩を暗唱する
  • ギターコードを練習するのにも!

Anki の背景には 2つのシンプルなコンセプトがあります: 能動的に思い出すテスト (active recall testing)間隔をあけた復習 (spaced repetition) です。これらについては何十年も前に科学論文が書かれたのですが、ほとんどの学習者はこれらを知りません。これらの働きを知れば、あなたはずっと効率的な学習者になるでしょう。


能動的に思い出すテスト (Active Recall Testing)

能動的に思い出すテスト (active recall testing) とは、質問されて、答えを思い出そうとすることです。
これと対照的に 受動的な勉強 (passive study) では、何かを読む・見る・聞くことが中心で、答えがわかるか調べるために一時停止することはありません。
能動的に思い出すテスト受動的な勉強 に比べて、ずっと効率的に 強い記憶を形成できることが、研究によって明らかになりました。
理由は 2つあります:

  • 思い出す行為が記憶を 強化 し、あとで再び思い出すことができる可能性を高めます
  • 質問に答えられなかった場合、学習者は教材を見返して もう一度学習する必要があると わかります

気付きもしなかったかもしれませんが、あなたも学生時代には 能動的に思い出すテスト に出くわしたことがあるでしょう。
良い教師は、ひとつの記事を読んだあとに いくつか質問をしたり、週ごとに進度チェックテストをします。これらの目的は単に生徒の理解度を測るだけではありません。
テストをすることで、生徒が 学習したことを あとで思い出せる可能性を高めているのです。

学習のなかに 能動的に思い出すテスト を組み込むには、 単語カード (flashcards) を使うと良いです。
伝統的な紙の単語カードを用意して、表の面に質問を書き、裏の面に答えを書きます。
答えを考えるまではカードをめくらないようにすれば、受動的に見るだけの勉強に比べて、ずっと効率的に物事を学習できます。

使わなければ忘れる (Use It or Lose It)

我々の脳は効率的なマシンであり、不要な情報を素早く削除します。
たぶんあなたは 2週間前の月曜に どんな夕食をとったか憶えていないでしょうが、それは この情報があまり役に立たないからです。
しかし、もしあなたがその日 素晴らしいレストランに行き、その素晴らしかったことを友人に話して回っていたら、あなたは今でも鮮やかに詳細を憶えているでしょう。

脳の知識を「使わなければ忘れる」の原則は 私たちが学習するすべてのことに適用されます。
もし あなたが科学用語の暗記をして ある午後を過ごし、そのあと2週間その知識を思い出さずに過ごしたら、あなたはほとんどを忘れているでしょう。
実際、人間の脳は 48時間以内に 75%の知識を忘れることが 研究で明らかになっています。
多くの情報を学習しようとする人は、この事実によって落胆するでしょう。

しかし解決法はシンプルです: 復習。
新しく学んだ知識を復習すれば、忘れることをかなり防げます。

ただ問題は、伝統的な復習法があまり実用的でないことです。
紙の単語カードを使った場合、30枚くらいなら簡単に復習できますが、枚数が 300枚や3000枚まで増えると、とたんに扱いにくくなります。

間隔をあけた復習 (Spaced Repetition)

分散効果 (spacing effect) は 1885年にドイツの心理学者によって報告されました。
彼の観察では、効率よく記憶するには、1回のセッションで何度も学習するよりも、復習を時間軸方向に分散したほうが良い、という結果が得られました。
1930年代以降、この分散効果を利用して学習効率を挙げようとして 多くの提案がされ、そのような学習法は 間隔をあけた復習 (spaced repetition) と呼ばれるようになりました。

その一例は、Sebastian Leitner というドイツ人の科学者が 1972年に広めた方法で、紙の単語カードを使って 間隔をあけた復習 を行うものです。
紙のカードをいくつかの箱に分けて、復習が正解か不正解かによって カードを違う箱へ移動します。こうして、カードの内容をどれくらい良く憶えていたか・いつ復習すべきか、が一目でわかるようになります。
この方法は ひとつの箱にすべてのカードを入れるよりも かなり良かったので、コンピュータ上の単語帳ソフトウェアにも広く採用されました。
しかし この方法も大雑把なアプローチです。ある物事を復習すべき時期が あまり正確にわからないし、様々な難易度の題材をうまく扱えないからです。

過去30年間における最大の発展は SuperMemo の作者によってもたらされました。SuperMemo は、間隔をあけた復習 を実装した 商用の単語帳プログラムです。
SuperMemo は、教材を復習する理想的な時期を管理し、ユーザの成績に基づいて その時期を調整する、というシステムの概念を開拓しました。

SuperMemo の 間隔をあけた復習 システムでは、質問に答えるたび、ユーザは どれくらい良く憶えていたかを プログラムに入力します - 完全に忘れていた・少し間違った・どうにか憶えていた・簡単に思い出せた、などです。
プログラムはこの入力を使って、この質問を再び出題するのは いつが最適か を決定します。
思い出すのに成功するたびに記憶が強化されるので、復習の間隔は しだいに長くなっていきます - 質問を最初に見た日、次は 3日後、その次は 15日後、その次は 45日後、のように。

これは学習の革命でした。最小の労力で 物事を学習し記憶を維持できるからです。
SuperMemo のスローガンがこれを要約しています: 間隔をあけた復習があれば、あなたは 忘れることを忘れることができます

なぜ Anki なのか? (Why Anki?)

SuperMemo がこの分野に大きな影響を与えたことは間違いありませんが、問題もあります。
SuperMemo はよく、バグが多くて 操作しづらい と批判されます。
Windows上でしか動作しません。
プロプライエタリなソフトウェアなので、エンドユーザが機能を拡張したり 生データをアクセスしたりできません。
かなり前のバージョンは無料で提供されていますが、それらは今使うには制限が多すぎます。

Anki はこれらの問題を解決します。
多くのプラットフォームに Anki のクライアントがあるので、予算的な制約に苦労している学生や教師も大丈夫です。
Anki はオープンソースです。エンドユーザが作ったプラグイン群も豊富にあります。
Anki はマルチプラットフォームです。Windows, Mac OSX, Linux/FreeBSD, いくつかの携帯機器でも動作します。
Anki は SuperMemoよりも かなり操作が簡単です。

内部的には、Anki の 間隔をあけた復習 のアルゴリズムは、SuperMemo の少し古いバージョンの処理 SM2 を元にしています。
SuperMemo の最近のバージョンでは さらに学習効率の最後の一滴まで絞り出すことに成功していますが、そのかわり非常に複雑になり、実世界で使ったときはスケジューリングの誤りを起こしやすくなりました。
これについての詳細な議論や スケジューリング アルゴリズムについては、よくある質問の最後を見てください。

基本 (The Basics)

次に進む前に、Anki ウェブサイト から Anki をダウンロードしてください。

また ウェブサイトにある入門動画も 非常におすすめです。あなたはすぐにやる気をかき立てられるでしょう。
YouTube にアクセスできない人のために、Anki ウェブサイトには動画のミラーがあります。

Anki は基本的に、高度な情報処理機能をもった電子的 単語カード プログラムです。
ユーザは 質問と答えのセットをダウンロードします。Anki は質問を最適なタイミングで表示し、ユーザが知識を忘れるのを防ぎます。

カード (Cards)

問題と答えの組を カード (card) と呼びます。
表に問題・裏に答えが書かれた 紙の単語カード が元になっています。
Anki の カード は紙のカードとは異なった見かけをしています。デフォルトでは、答えを表示しているとき、問題も見える設定になっているのです。
例えば、あなたが基礎化学を勉強しているなら、以下のような問題が出されるでしょう:

Q: 酸素 の化学記号は?

考えたあと、答えは O だと決めて、あなたは 答えを表示 ボタンを押します。すると Anki は以下のように表示します:

Q: 酸素 の化学記号は?
A: O

正解だと確かめてから、あなたは Anki に どれくらい良く憶えていたかを入力します。その情報をもとに Anki は この問題を再度出題する時期を決めます。

単語帳 (Decks)

単語帳 (deck) は あなたのコンピュータに保存された 1つのファイルで、何枚かのカードを格納します。
題材ごとに別々の単語帳を作ってもいいですし、あらゆる情報をひとつの単語帳に収めてもいいです。

ファクト と フィールド (Facts & Fields)

紙の単語カードや 伝統的な単語帳プログラムを使った場合、ユーザは以下のようなカードを作るでしょう:

Q: 酸素 の化学記号は?
A: O


そして

Q: 酸素 の原子番号は?
A: 8


そして

Q: O の元素名は?
A: 酸素


この伝統的な方法には いくつかの問題があります。
まず、タイピングの量が多いこと。
そして、書き間違いが起こりやすいこと。あとで 酸素 という語を書き間違えたとわかったら、すべてのカードを一枚ずつ直さないといけません。
また、上の3問のうち2問が 立て続けに出題されることもあります。それは効果的な学習法とはいえません。

この問題を解決するために、Anki では ファクト (fact) を入力できます。
ファクトは、互いに関連したいくつかの情報の集合で、カードを作るために使われます。
ファクトはいくつかの フィールド (field) から構成されます - この例では Name, Symbol, Number になるでしょう。
上の例の 3問を作るには、Anki に以下のような情報を入力します:

Name: 酸素
Symbol: O
Number: 8


次にあなたは、この情報に基づいて Anki に1枚または数枚のカードを生成させます。

テンプレート (Templates)

Anki では、情報をカードに直接入力するのではありません。あなたは カードの表と裏に どんな情報が表示されるべきかを指定します。Anki は指定どおりにカードを埋めます。
この、カードの表と裏に何が表示されるべきかという設計図を、テンプレート (template) または カード・テンプレート (card template) と呼びます。

例えば、上に挙げたファクトがあるとして、下のようなカードを表示させたいとしましょう:

Q: 酸素 の化学記号は?
A: O


これを実現するには、テンプレート の質問と答えを以下のように設定します:

Q: {{Name}} の化学記号は?
A: {{Symbol}}


フィールド名を波カッコ {{ }} で囲んで、その部分をフィールドに入力された情報で置き換えるべしと Anki に指示します。
波カッコで囲まれていない部分は そのまま表示されます。

さらに 2つのテンプレートを作りましょう:

Q: {{Name}} の原子番号は?
A: {{Number}}


そして

Q: 化学記号 {{Symbol}} はどの元素を表す?
A: {{Name}}


いちどテンプレートが作られれば、あなたがファクトを追加するたびに、テンプレートを元にしてカードが作られます。
テンプレートのおかげで カードの形式の一貫性を保つのが簡単になり、情報を追加するための手間を大幅に節約できます。
また、互いに関連のあるカードを Anki が立て続けに出題しないようにしたり、タイプミスの修正が一ヶ所で済むという効果もあります。

テンプレートを追加・編集するには、アイテムを追加するとき card layout ボタンを押してください。

モデル (Models)

Anki では ひとつの単語帳の中に いろいろな異なる情報を格納できます。
そのために、情報のタイプごとに別々の モデル (model) を作って区別します。
モデル は、テンプレートのリストと、ファクトに格納されたフィールドのリスト のことです。
前の例では、モデルを "Chemical Elements" という名前をつけるのがいいでしょう。
このモデルには 3つフィールドがあり (Name, Symbol, Number)、1つのファクトから 3枚のカードを作れるように 3つのテンプレートがあります。

教材をダウンロードする (Downloading Material)

最も簡単な Anki の始め方は、誰かが作った 公開の単語帳 (shared deck) をダウンロードすることです。

  1. Anki を起動する。
  2. メニューで File→Download→Shared Deck を選ぶ。または Download ボタンを押す。
  3. 文字列を打ち込んで検索する。またはリストをスクロールして探す。
  4. 興味がある単語帳を選び、OK をクリックする。すると単語帳がダウンロードされて開かれます。

自作の単語帳 vs 既製の単語帳 (Self-made versus pre-made)


複雑な科目を学習する最良の方法は、自分で単語帳を作ることです。

外国語や科学のような科目は、事実を暗記するだけでは理解できません --- 効率よく学習するには 説明と前後関係が必要です。

さらに、自分で情報を入力するので、何が要点であるかを自分で決める必要があり、これが より良い理解につながります。


あなたが外国語を学んでいるなら、単語と訳の長いリストを ダウンロードすることは魅力的に見えるでしょう。しかし この方法では外国語を よく理解することはできません。物理の方程式を暗記するだけでは 宇宙物理学者になれないのと同じです。

正しく学ぶには、教科書・先生・実世界の例文に触れること が必要です。


理解していないものを 暗記してはいけない

-- SuperMemo


ほとんどの公開の単語帳は、Anki 以外 (教科書・授業・TV など) の方法でも その科目を学習している人が作りました。

単語帳を作った人は、学んだ事柄のうち重要なポイントを選び、それを Anki に打ち込みます。

その人は教材を理解しているので、カードに背景情報や説明を書き込みません。

しかし、誰か別の人がこの単語帳をダウンロードして使おうとすると、その人はたいへん苦労するでしょう。や説明がないからです。


だからといって、公開の単語帳が全く役立たずというわけではありません --- 複雑な科目を学ぶときに 公開の単語帳を使うときは、教材のかわりになるもの (replacement) ではなく、 教材を補助するもの (supplement) として使うべきなのです。

もし あなたが 教科書ABC を使って学んでいて、他の誰かが 教科書ABC の内容で公開の単語帳を作ってくれたとしたら、それは時間を節約する良い方法です。

また、事実の羅列であるような科目、例えば 国の首都 や クイズ用雑学 については、外部の教材は要らないでしょう。

しかし、複雑な科目を外部教材なしで学ぼうとしたら、良い結果は得られないでしょう。

教材を作る (Creating Material)

アイテムを追加する を見てください。

復習する (Reviewing)

好きな単語帳を見つけるか 何枚かカードを入力したら、復習を始める時間です。
もし Add Items 画面がまだ開いていたら、 closeボタンか Escキーを押して 閉じてください。
Study Options という画面が表示されます。
この画面の説明は 別のページ にあります。

準備がよければ Start Reviewingを押してください。
以下のような画面が出るはずです:
review1.png
(キャンベラは[...]に設立された)

では、問題を読んで、答えを考えてください。
できれば答えを声に出すと良いです。
答えを思い出すのち少し時間がかかっても構いませんが、およそ 10秒以内に答えられなかったら 諦めて答えを表示させたほうがいいでしょう。

次に Show Answerをクリックするか スペースキーや Enterキーを押してください。
以下のような表示に変わります:
review2.png
(キャンベラは[...]に設立された)
(キャンベラは 1913年 に設立された)

次に あなたは、どれくらい良く憶えていたか 入力する必要があります。

回答ボタン (Answer Buttons)

Anki には 4つの選択肢があります。
ボタンの上に表示される文字列は 前回の復習の正誤によって変わりますが、挙動は同じです。

ボタンを選ぶために キーボードの 1 ~ 4 キー を使うこともできます。
スペースキーを使うと デフォルトのボタン (緑色で表示) を押せます。

1: もう一回 (Again)
カードは短時間経過したあと再び出題されます --- デフォルトでは 10分後になります。
答えを忘れていたときに このボタンを押してください。
また、憶えていたが、とても難しいと思ったので もう一度練習したい、という場合にも使ってください。
このボタンを押すとそのカードの難易度レーティングは少し上がりますが、それは前回正しく回答していた場合に限られます。
これにより "Again" を何度も連続した場合でも 難易度レーティングが上がりすぎることはありません。

2: 普通 / 難しい (Good / Hard)
学習間隔を前回の 1.2倍 にします。またこのカードの難易度レーティングを上げます。
難易度レーティングの上昇により、今後ボタン 3 と 4 を押した場合の学習間隔の伸びは ゆるやかになります。

3: 簡単 / 普通 (Easy / Good)
難易度レーティングに応じてカードの学習間隔を伸ばします。
新しいカードで ボタン3 を答えると学習間隔は 2.5 倍になります。
他のボタンと違い、ボタン3 は現在の難易度が適切であるとして、難易度レーティングを変更しません。
間隔がちょうどよいことを Anki に指示します。
難易度レーティングには下限があるため、ボタン3 を押した場合には学習間隔は前回の少なくとも 1.3倍 以上に伸びます。

4: 非常に簡単 / 簡単 (Very Easy / Easy)
カードが簡単すぎたことを Anki に指示します。
Anki はカードの難易度レーティングを下げ、今後の学習間隔が急激に伸びるようにします。
次回の学習間隔は、ボタン3 同様に 前回の学習間隔を延長させて算出し、更に 30% 延長します。
このボタンを押すと復習の間隔が長くなるので、本当に簡単なカードに対してだけ このボタンを押してください。
ほとんどの場合、このボタンではなく ボタン3 を使ってください。

カードに対して正解する(ボタン2~4)たびに、次の復習までの間隔が長くなっていきます。
ユーザが 2枚のカードを単語帳に追加したと想像してください --- 1枚は難しく、1枚は簡単なカードです。
まず難しいカードが表示されて、ユーザが 1 を押したとしましょう。
次に 簡単なカードが表示され、ユーザは答えを知っていたので 3 を押しました。
簡単なカードは 3~5日後に 再び出題されます。
そして次に 難しいカードが再び表示されます。今回はユーザは答えがわかったので 2 を押します。するとこのカードは翌日に再び出題されます。

次の日、難しいカードが再び出題されます。ユーザは まだ難しいと思って、 2 を押します。このカードは 2~3日以内に また出題されます。

3日後、簡単なカードが再び出題されます。ユーザはとても簡単だと思ったので、また 3 を押します。このカードは 10日後に表示されるようになります。ユーザが正解するたびに、復習の間隔は長くなっていきます。

残り (The Rest)