艦これ 二次創作小説 キス島撤退作戦 第3話 訓練 training

Last-modified: 2014-12-31 (水) 11:13:10

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艦これ 二次創作小説 キス島撤退作戦 第3話 訓練 training

0745時。幌筵泊地
「司令官、キス島より暗号電文です」
T提督は三日月から紙片を貰い、解読された電文を読んだ。
「5名戦死、か」
三日月は海図が広げられているテーブルに歩いて行くと、キス島周辺海域を取り囲む敵勢力の中に新たに木片を置き、T提督がその内容を続けて読んだ。「輸送艦が更に出現…今度は3隻」
T提督は海図を再び見やった。
「前回の内容とは別地点だな」
「確かに、確認地点は報告ごとに異なっています」
キス島の守備隊から続々と送られていくる輸送艦ワ級の出現の地点は毎回異なっており、同時にその数も異なっていた。1隻だけの時もあれば数隻単位で出現することもあった。いずれに
しても、敵はキス島攻略の為の補給と兵站を着実に整えつつある。
「敵は私達の攻撃を警戒しているのでしょう。それで補給線を悟られないように、ランダムに輸送艦を送り込んでいるのです」
「だろうな」
T提督はアールグレイティーを一口飲んだ。「そして、奴らも霧が最も立ち込めるのが5日後だというのは分かっているはずだ。こちらからの攻勢に対して警戒を強めているはずだ。あるいは、
その前にキス島上陸を開始するか、のどちらかだろう」
「しかし本当に急でしたね、今回の深海棲艦の活動は」
「やはりベーリング方面の友軍からの未確認情報が関係しているのかもしれんな」
T提督は立ち上がると、テーブルまで歩み寄った。「最深部が今現在どうなっているか、俺達に知るすべは無いが…もしこの未確認情報が本当ならば、手薄なこちらはかなり危険な状態にある
と言わざるを得ないな。昨夜は言うのを控えたが…やはりこれは知らせておくべきかもしれんな」
「私から皆さんにお知らせしておきましょうか」
「いや、俺から言っておく。それより、横鎮に暗号電文だ」
「はい」
三日月は通信装置を操作し始めた。

0755時。横須賀鎮守府。
夕張は提督執務室の扉を元気よく開けて入室した。
「提督、おはようございます!!」
「ああ夕張。おはよう」
提督も笑顔を返す。「新装備開発はどうなっている?」
すると夕張は残念そうに肩をすくめ、右手に持っていたクリップボードを提督に差し出した。「はい、それについての報告書です」
「ふむ」
提督はクリップボードに挟んである報告書を見た。「これも芳しくないな」
「はい。また数値の振り分けのやり直しです」
その時、通信装置がカタカタと小刻みに震えながら一枚の紙をゆっくりと吐き出した。夕張が通信装置から紙を取った。
「なんだ?」
「幌筵から暗号電文です」
「内容は?」
「北方海域の敵が急速に活発化した理由の推測のようです」
「ほう」
提督はクリップボードを執務机の上に置き、夕張の横に立って電文内容を覗きこんだ。
「拠点型…南方海域に潜んでいると噂されているあれですね」
「あれも、これと同様に未確認情報だが、確かにそうとしか考えられないな。補給と兵站を整えたから、行動を活発化させることが出来た、とすれば辻褄が合う」
「となると、艦隊の配置を再考しないと…」
「それも速やかに、な」
「リランカ空襲も大詰めのようですし、少しは北方に回せるかもしれませんね」
「まだカスガダマが残ってはいるが…まあ何人か引っこ抜く余裕はあるかな」
提督は艦娘出撃情報ファイルを広げるべく執務机の椅子に座った。

船の形を模した標的の周囲に模擬爆弾が次々と落下し、いくつもの水柱を立ち上げた。水しぶきが収まった時、標的の2箇所に、直撃判定を示す赤色の塗料が付着していた。
「次、お願い」
「ピョン!」
ビシッと敬礼すると、卯月は別の標的を曳航していき、着弾済みの標的と交換して戻ってきた。塗料は水で洗い流せるので、卯月、若葉、初霜の3人は標的に付着した塗料を海水で取り除
いていた。暁、響、弥生は警備任務に出ているのでこの場にはいない。
交換された標的への模擬爆弾投下を終えると、千歳は額にうっすらとかいた汗を拭った。
「次は動く標的への攻撃ね。3人で艦隊を組んで、実際に対空砲火を浴びせてきてちょうだい」
「はい」
初霜が頷き、3人は標的を1つずつ曳航して向こうまで移動して行った。その間、千歳と千代田は格納庫内の艦載機を点検する。
「それにしても囮艦隊なんて、なんだかレイテを思い出すわね」
千代田が言った。
「ええ、そうね」
千歳は千代田よりも手早く艦載機点検を終え、凝り固まった首を左右に捻った。「でも、あの時のようにはいかないわ」
「勿論よ」
千代田も艦載機の点検を終え、顔を上げた。「でも、もしもの時は…」
「千代田」
「何お姉?」
千歳は真剣な眼差しで千代田を見ていた。
「不安なのは分かるわ。私だって不安よ。失敗は許されない一度限りの出撃になるだろうし、キス島の守備隊員の命運が、それで決まると言っても過言では無い。それでも私は作戦を成功させる為に最善を尽くすわ。
いや、絶対に成功させる。千代田と、仲間のみんなと一緒に」
千歳と千代田は遠くで艦隊行動訓練を行っている大鳳、鳳翔、矢矧、浜風、古鷹、加古を見た。鳳翔が教官を務めている。
千代田は頷いた。
「うん。お姉の言う通り、みんなと作戦を成功させるわ」
千歳は表情を和らげた。
「準備万端ですよ」
無線越しに初霜の声が届いた。前方に注意を戻すと、初霜、若葉、卯月の3人は、標的を曳航しながら単縦陣を組んで航行していた。
「了解。千代田、準備は良い?」
「いつでもOK!」
「発艦!」
千歳と千代田は艦載機を発艦させ始めた。

鳳翔が面舵30度の転舵を指示し、艦隊は一斉に右に30度舵を切った。しかし大鳳だけが徐々に定位置からずれていく。昨日は大鳳の動きに合わせて他の艦娘が動いていたが、
今回は鳳翔の指示で動いている為、まだ練度の低い大鳳は艦隊の動きについていくのに必死だった。
「位置がずれていますよ」
「すみません」
鳳翔から注意を受け、大鳳は謝りながら急いで位置を修正する。「何度も何度も申し訳ありません」
「最初より艦隊行動はできるようになっています。継続は力なりです。もっと訓練を重ねれば、更にうまくなるわ」
鳳翔は大鳳を励ました。
「ええ、私もそう思います。偉そうに言えた義理ではありませんが…」
矢矧が遠慮がちながらも、鳳翔の評価を保証付けた。他の艦娘からも相槌が入る。
「大鳳さんの呑み込みは早いと思うよ」
「加古が言ってもあんまり説得力は無いですけどね…」
「ちょ、古鷹!」
「でも加古の言う通りです。技術の習得は早いと思います」
「あ、有難うございます、皆さん」
大鳳自身はまだ納得していなかったが、仲間の艦娘からの励ましで士気を上げ、より一層訓練に励むようになった。小刻みに小休憩を挟みつつ、鳳翔は大鳳の練度向上に努めた。
ただ、明日は肉体的に少なからずのガタが来るだろうと鳳翔は思っていた。

午前の演習は1100時に終了し、艦娘達は昼食を摂るべく泊地に戻った。天気は快晴で気持ちの良い風が穏やかに吹いていたので、T提督の提案で、外で昼食ということになり、主要施設
の広大な屋上にその舞台が整えられた。屋上から港湾や泊地の各施設が一望できた。
「ふあ~、疲れてんのになんでこんなもん運ぶのさ~」
「ボヤいてないでさっさと運ぶわよ加古。そら、いっせーのーで!」
加古は渋々古鷹と一緒に食堂から持ち出した長テーブルを持ち上げ、階段を登り始めた。T提督も手伝って椅子を屋上へと運び上げた。その間鳳翔は、調理室で焼き鮭や玉子焼き、
野菜の煮物や豚汁といった料理を手際よく調理して昼食を整えた。白飯については、炊飯器を屋上まで持って行ってからみんなの目の前でおにぎりを握った。鳳翔の握ったおにぎりは絶妙な
握り具合でふんわりとしており、おかずもまた美味しかった。
全員が口々においしいと言いながら食べるのを見て、鳳翔は少し自慢気だった。
「あまり早く食べ過ぎると体に悪いですよ」
夢中になっておにぎりを頬張っている浜風に鳳翔はそう話しかけ、浜風は顔を赤くした。
「あ、すみません…でも、おいしくてつい…」
「ゆっくり噛んで食べて下さいね」
「はい。以後気をつけます」
浜風はさっきよりペースを落としたが、それでも他の駆逐艦娘と比べると食べるスピードは早かった。
「レディーは上品に食べるのです」
暁はおにぎりとおかずを交互にバランス良く口に運んでいる。それを見た浜風は感心しているようだった。
「そうですね。私も、暁さんを見習わないといけませんね」
「これからも鳳翔さんにご飯を作って頂きたい」
響がそう言って豚汁を啜った。
「冬に響が作ってくれたボルシチはおいしくなかったものね」
暁が言った。
「初めてとはいえ、あれは私にとってもショックだった」
「いいえ、初めてだからこそ失敗したのですよ。練習を繰り返せば、きっとおいしいボルシチが出来上がりますよ」
「鳳翔さんにそう仰ってもらえると、とても嬉しい。また今度挑戦してみようと思う」
「練習と言えば…大鳳の調子はどうなってる?」
鳳翔は大鳳に顔を向けた。
「はい、着実に練度を向上させてきています。勿論、まだ十分とは言えないでしょうが、大鳳自身が頑張ってくれています」
「あまり詰め込み過ぎないようにな」
「はい、十分承知しております」
「私は、本当に大丈夫です」
「でも、鳳翔さんの言葉には従うようにな。第三者の視点は大事だ」
「分かりました」
大鳳は素直に頷いた。
「それで、午後からも引き続き艦隊行動訓練に加えて、発着艦訓練に攻撃訓練となっていたが…座学はやらなくて良いのか?」
「座学については、時間が無いので実技で教えます。かなり乱暴ですが、『習うより慣れろ』に従うことにしました」
「あれを全部やるのか?」
「いえ、進捗の状況を見て判断します。少しでも不安があれば、反復する予定です」
「艦隊行動については、問題無かったかね?」
「午後にはとりあえず完了を見ることでしょう」
「そうか。君が来てくれて助かるよ」
「いえ、大鳳さんの努力あってこそです」
「しかし彼女の努力を引き出しているのは君だ」
「私だけではありません。他の艦娘達からの励ましも大きいです」
「君はどこまでも謙虚だな」
「いいえ、本当の事を申し上げているまでです」
その直後、T提督と鳳翔は、他の艦娘達が食事の手を止めて自分達の会話にじっと耳を傾けている事に気付いてハッとした。
「あら、ごめんなさいね」
鳳翔が右手を頬に当てた。
「さて、楽しい昼食に戻るとするか」
「そうですね」
「じゃあ、響のボルシチについて話をするわ」
「暁、それは…」
響が顔を赤くしながら止めようとしたが、皆からの催促の声でかき消されてしまった。
「へー、何それ面白そうじゃん」
と千代田が身を乗り出したのに対し、
「お勧めだピョン!」
と卯月が応じ、文月は遠くを見る視線になった。
「あーあれはやばかったなー」
「提督、止めさせてくれ。お願いだ」
響はすがるようにT提督を見たが、T提督は単に肩眉を上げただけだった。
「まあまあ。悪口を言うわけでは無いだろう」
その後暁は響のボルシチ事件について話し、その間の響は終始俯いていた。だが暁にも悲劇が待っていた。暁が話し終わると、今度はT提督が暁にまつわる笑い話を始めたのだ。
今度は暁が顔を赤くする番だった。

午後の訓練は1300時から始まった。
鳳翔は艦隊行動訓練と同時並行で艦載機発着艦訓練を行ったが、大鳳はほとんど上手くこなすことができるようになっていた。しばらく反復訓練すると、鳳翔は攻撃訓練に移ることに決めた。
「じゃあ、攻撃訓練をやってみましょう。艦載機に爆装をして準備を。矢矧さんと浜風さんは標的の設置をお願いします」
大鳳と鳳翔は艦載機に爆装作業をし、矢矧と浜風は標的を取ってくる為に泊地に一度戻った。その間、鳳翔は腰に括りつけていた魔法瓶を取ると、湯呑みに熱々の緑茶を注いで、
大鳳、古鷹、加古の順番に緑茶の入った湯呑みを渡していった。
「有難うございます」
「良い香りですね」
「あっちっち!」
「あら、熱すぎましたか?」
「いや、あたしが猫手なだけだから気にしないでね」
「その分だと猫舌でもないですか?」
「あら、分っかるー?」
「加古、ちょっと口調が軽すぎると思うよ」
「いえ良いんです古鷹さん。私は構いません」
「良いんですか?」
「フレンドリーな感じがして、私は好きですよ」
「まあ、確かに、そうですね」
古鷹は苦笑した。
加古は緑茶に口をつけたが、鳳翔の言う通り猫舌で、熱くて口を引っ込めた。
「あっつ!」
「少し冷ましてから飲むと良いですよ」
大鳳と古鷹も緑茶を飲んだ。
「美味しい…なんだかホッとした気持ちになります」
「これはとても良いですね」
「喜んで頂けたなら、私も嬉しいです」
「これ、どうしたら鳳翔さんみたいに美味しく作れますか?」
大鳳が湯呑みに入った緑茶を指さすと、鳳翔はほんの一瞬視線を上げてから答えた。
「そうですねえ…でも私も、始めから上手く作れたわけではないのですよ。だから、経験の積み重ねとしか言えば良いのかしら。あと、お茶の味は人それぞれだから、
大鳳は大鳳だけの味のお茶を作るのが一番良いと思いますよ。緑茶に限らなくても良いのですよ」
「私だけの、味…」
大鳳は湯気をあげる緑茶に視線を落とした。
「今夜辺り、大鳳さんのお茶を飲んでみませんか?」
古鷹が急にそう提案し、大鳳はハッとして顔を上げた。
「お、それ面白そうだねー。あたしは賛成だよ」
加古は乗り気だ。鳳翔もウンウンと首を縦に振っている。
「良いですね。私も頂いてみたいです」
「え、あ、そ、それは…」
困惑する大鳳に、鳳翔は微笑んで見せた。
「大丈夫。私が作り方を教えてあげますよ」
「でも、いきなり美味しいお茶をいれるのは難しいと思います」
「始めから上手くできなくても良いのですよ。私も経験を積み重ねたのですから」
「そう言えば鳳翔さん」
「何?」
大鳳は真面目な表情になっていた。
「実戦も、経験の積み重ねなのでしょうか。上手く言えないのですが、私もこの世界の海の平和を取り戻す一員として成長するには、実戦を経験することかな、と考えてみたのですが」
鳳翔は俯き加減に考えた。
「うーん、確かに実戦の経験は、私達に何かを教えるわ。それは人それぞれなんでしょうけど、少なくとも共通しているのは、戦っている他の艦娘達の気持ちになることができる事。
その意味では一員になるということかもしれないわね」
「鳳翔さんも、実戦に出たことが?」
「ええ。今みたいに艦娘の人数が充実していなかったあの頃は、私も第一線に出て戦っていました。勿論、中破や大破といった損傷も負いました。今でこそ後方に下がっていますけどね」
「私達は第一線時代の鳳翔さんの姿を知っていますが、そんな私達でも今の鳳翔さんの姿からは、ちょっと想像がつかないですよ。大鳳さんが驚くのも無理は無いですよ」
古鷹がそう言ったちょうどその時、矢矧と浜風が、標的を載せた筏を曳航して戻ってきた。
「標的、持ってきました」
「お疲れ様。古鷹さんと加古さんに、あそこまで標的を配置してきてもらいましょう」
古鷹と加古が標的を配置しに行っている間に、今度は矢矧と浜風が、鳳翔の緑茶を嗜んだ。
「さっきはどんな話をされていたのですか?」
矢矧が鳳翔に尋ねた。鳳翔は2人に簡単に会話の内容を説明した。
「ふーむ…私達にとっても初めての実戦ですからね…」
「確かに」
浜風が相槌を打つ。「大鳳さんのお気持ちは私達にとっても同じですね」
「いずれにしても、私達は必ず『初めて』を経験します。生きるか死ぬかの実戦は確かに違うものがありますけどね」
「一つ分かっている事と言えば、私達は生き残らなければならない、ということですね」
矢矧がそう言った後、古鷹が標的の配置を完了した事を伝えてきた。
鳳翔が最初に彗星艦爆で手本を示した。彼女の彗星は急降下しながら模擬爆弾を投下し、至近弾と命中弾を同時に出した。着弾すると、標的は緑やら赤やらの塗料によって染め上げられていた。
至近弾でも、飛び散った塗料がついた。次に水平爆撃、最後に天山艦攻による水平爆撃と雷撃が行われ、大鳳の順番となった。しかし、止まっている標的になかなか命中させられなかった。
模擬爆弾は至近弾をやっとまぐれで出す程度で、模擬魚雷は投下高度が高過ぎて標的を潜り抜けたり、見事にはずれたりした。更に向こう側で待機している古鷹と加古が、はずれた模擬魚雷
を回収していった。
肩を落とす大鳳を、鳳翔は力強く励ました。
「とにかく訓練よ。繰り返すことで、コツを掴めるようになるわ。いきなり上手くはいかないわ。自信を無くしちゃ駄目よ」
鳳翔は、肩を落とす大鳳の左腕に手を置いてそう言った。
大鳳は艦載機に弾薬を補給しながら標的に爆雷撃を繰り返した。最初よりは命中率が改善していたが、それでも満足できるものではなかった。
やがて模擬弾薬が尽き、矢矧と浜風が模擬爆弾を調達する為に再び泊地に一旦戻り、古鷹と加古は回収した模擬魚雷を大鳳と鳳翔に渡した。
「コツは掴めましたか?」
「今のところは、『掴もうとしている』、と表現した方が良いかもしれません」
「大丈夫。きっとコツは掴めるようになります。本当なら座学で最適な攻撃進入の角度や高度、速度といった事を学ぶのですけど…」
「早く慣れて見せます」
「座学って眠いだけだよ~」
欠伸しながらそう言う加古を古鷹は呆れ顔で見た。
「加古ったらもう…すみません、鳳翔さん」
「いえ、良いんです。座学が眠いというのには私も否定しませんから」
「はあ…」
「どちらかと申しますと、私の考え方は、『習うより慣れろ』に近いのかもしれませんね」
その時千歳の声が無線越しに割り込んできた。
「どうですか、鳳翔さん。上手くいっていますか?」
鳳翔は送話ボタンを押した。
「まだ命中弾は出ていませんが、すぐにコツを掴むと思います」
「私達もご一緒して宜しいでしょうか?今向かっているところです」
「あ、見えた」
加古が指さした方向を見ると、千歳、千代田、暁、響、弥生、三日月が標的を載せた筏と弾薬を載せた筏を曳航しながらこちらへやって来るのが見えた。午前中と同様、別の場所で訓練を行っていたのである。
千歳が続けた。
「ここは全員で訓練をと思いまして」
「良いですね。場の雰囲気も変わりますし」
こうして大鳳、鳳翔、千歳、千代田は一緒に攻撃訓練を行うこととなった。随伴の艦娘達は、模擬魚雷の回収や弾薬の補給、標的を曳航して訓練の難易度を上げたりした。。

海上自衛隊のおおすみ型輸送艦『おおすみ』が幌筵泊地に入港したのは1600時だった。最初に千代田の彗星が『おおすみ』を発見した。ちょうど急降下爆撃を行うべく高度を上げていたところだったのだ。
古鷹、加古、矢矧、三日月、弥生、卯月が『おおすみ』に随伴した。空母娘達も訓練を切り上げて泊地に戻った。
港でT提督と『おおすみ』艦長は敬礼を交わした。
「急な呼び出しをかけて申し訳ありません」
「いえ、気にしないでください。6000人の人命がかかっているのですから」
謝るT提督に、『おおすみ』艦長はそう言った。
「三日月、この人達の宿舎への案内を頼む」
T提督は『おおすみ』の副長や航海長を始めとする上位士官達を見ながら三日月に言った。
「分かりました」
三日月は敬礼すると、『おおすみ』副長の前まで歩いて行き、泊地の地図を広げて説明し始めた。
「執務室までどうですか?良い紅茶がありますよ」
「いや、私も色々やらなければならないことがありますので…」
「いえいえ大丈夫です。お互い多忙の身ですからねえ」
「全くです。しかしこの輸送艦も、なかなかの強運の持ち主です」
肩越しに『おおすみ』を見上げながら艦長は言った。多くの軍艦が深海棲艦の手によって次々と撃沈されていく中、『おおすみ』は奇跡的に生き残った艦艇の1つなのである。
『おおすみ』型輸送艦には、同型艦として2番艦『しもきた』と3番艦『くにさき』があったが、いずれも深海棲艦の戦艦ル急と空母ヲ級の猛攻で悲惨な最期を遂げている。
『おおすみ』自体も狙われたが、艦娘達の援護で生還することができた。
「あなた方に助けられた感謝は今でも忘れません」
「いえ、やるべきことをやったまでですよ。感謝を頂く程のことではありません」
「そう謙虚にならんでください…あ、ではそろそろ失礼します」
艦長は腕時計を見て言った。
「お互い、頑張りましょう」
T提督と艦長は再び敬礼を交わした。艦長は副長達の所に戻って行った。

続く