艦これ 二次創作小説 キス島撤退作戦 第5話 戦闘開始 beggining of the battle

Last-modified: 2015-02-25 (水) 15:09:48

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艦これ 二次創作小説 キス島撤退作戦 第5話 戦闘開始 beggining of the battle

T提督は説明を始めた。
「濃霧が発生するのは、今からまだ4日先。しかし敵は濃霧発生前に攻めてくると考えられる。つまり作戦開始そのものは濃霧発生前になるだろう」
「濃霧発生まで遊弋するという手もあります」
三日月が発言した。
「それまで敵艦隊に見つからないという保証は無い。発見されれば敵は救助艦隊に集中するだろう。
『おおすみ』がまだ発見されていないとはいえ、救助用艦艇を用意しているであろうことは、敵も予想していると考えて間違い無い。であるならば、敵が泊地攻撃に集中しているうちに
夜間にキス島に突入し、守備隊を救助して急速に退避するのが最善策だろう。要するに最初から最後までスピード勝負だ。しかし敵が出てこなければ、作戦はスケジュール通り実行する」
「もし泊地が陥落確実となった時は、作戦はどうなるのですか?」
『おおすみ』副長が聞いた。
「作戦はそのまま続行、泊地は放棄します。その場合、艦隊は本土へ直接帰還します。6000の人命が助かるのであれば何も問題はありません。
奪われた土地はまた取り返せば済む話ですが、人命は二度と取り返せません」
「もう一つ宜しいですか?」
「どうぞ」
「キス島の夜間突入は危険です。夜間におけるキス島周辺海域の航行は座礁や衝突の可能性があり、それにもし戦艦クラスや重巡クラスが1隻でも残っていたら、駆逐艦だけでは手に余ります。
最悪の場合、轟沈者が出るということも」
『おおすみ』副長のその言葉に、三日月以外の救助艦隊メンバーはお互いに顔を見合わせた。
「だからこその夜間突入なのです。視界が効かない状況であれば、戦艦も駆逐艦も関係ありません。火力と耐久力の差こそありますが、視界の効かない中での立場はフェアです。
いやむしろ、小回りの効く駆逐艦の方が遥かに有利でしょう」
「副長、君の言うように確かに危険は大きい。だが我々に選択の余地は無い。守備隊6000の人命は今や風前の灯だ。彼らは我々の助けを信じて待っているはずだ。彼らの希望に応えないわけにはいかん」
「艦長、副長。私達は覚悟ができています。戦闘時には、この三日月、及び僚艦娘が『おおすみ』の盾となります」
三日月が最初に、一瞬遅れて弥生、暁、響、若葉、初霜が一斉に立ち上がり、敬礼した。
「いや、全員必ず生きて帰ろう」
『おおすみ』艦長も立ち上がると、三日月達に敬礼した。副長も慌てて立ち上がって敬礼する。続いて艦長と副長は、他の艦娘達に体を向けた。
「敵艦隊の釣り上げ、宜しくお願いします」
艦長と副長が敬礼した後、大鳳、千歳、千代田、鳳翔、古鷹、加古、矢矧、浜風、卯月、文月は一斉に立ち上がって敬礼した。

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『おおすみ』が移動を開始したのは日没後すぐだった。矢矧、浜風、文月が泊地正面海域を航行して警戒に当たり、三日月達の護衛を受けながら『おおすみ』は幌筵島の裏へ移動した。
錨が下ろされた後、副長は艦長の呼び出しを受けて、艦長私室に入っていた。
「副長入ります」
「入れ」
「失礼します」
副長は後ろ手に扉を閉め、執務机の前に立った。艦長は書類仕事の手を止めて顔を上げた。
「浮かない顔をしているな、副長」
副長は一呼吸入れた。
「正直申しますと、まだ無茶な作戦だという思いです」
「確かに、そうかもしれんな」
「とはいえ、私情でしかありません。任務は遂行します」
「うーん」
「どうしました?」
「副長にとっては私情かもしれんが、私にとってはそうはいかないな」
「と、申しますと?」
「作戦に対して考えを持つ。これ自体はまあ良いことだ。盲目的に作戦に取り組むのはタダの馬鹿だと思っているからな。だが君の場合はこの作戦を遂行する自信が無いように見える。
となると話は少し違ってくる」
副長は黙って話を聞いている。「自信が無い状態では作戦行動に支障が出てくる。それは貴官だけの問題では無く、この船や仲間達の問題にまで発展するだろう。君には、自信を持ってもらわねばならん。
どうかね、貴官には、今回の任務を遂行できる自信はあるのかね、それとも無いのかね?」
副長は姿勢を正した。表情は引き締まっていた。
「いいえ、そのようなことはありません。必ずやり遂げます」
艦長は頷いた。
「それを聞いて安心したよ。貴官の懸念はもっともだ。だが危険を恐れてばかりではいかん。確かに多くの艦艇を失ったが、我々は今こうして生きているのだ」
「艦長の仰る通りです」
「君が自信を取り戻してくれたところで、あの若いのがくれた紅茶でも一杯どうかね?」
「はい、頂きます。私がいれましょうか?」
「いや、座っててくれ。俺がいれるよ」
艦長が電気湯沸し器に水を入れようとした時、執務机の上の電話が鳴った。艦長は立ち上がろうとする副長を片手で制して自分で受話器を取った。「艦長だ…ああ提督ですか。移動は完了…はい…はい、了解しました」
「何ですか?」
「駆逐艦娘が1人来る。友達に会いに来るそうだ」
「暫しのお別れですからね」
艦長と副長は、来客を迎えるべく私室を出た。

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その来客とは卯月だった。『おおすみ』を護衛する弥生と会う為だ。艦長から知らせを受けて弥生も一緒に出迎えた。
「卯月ちゃん、こんな時間にどうしたの?」
戸惑い気味の弥生の両手を卯月はギュッと握りしめた。
「うーちゃん、司令官に特別許可を貰ってここまで来たピョン!でもすぐに帰るピョン!」
「では、自分達はここで失礼するよ。装備はうちの乗組員が預かるからね」
艦長は、近くで待機している1人の乗組員を指し示した。
「ピョン!」
敬礼を交わすと、艦長と副長は艦内に姿を消した。
「取り敢えず、私達も中に」
乗組員に装備を預けると、卯月は弥生の後に続いて割り当てられた部屋に入った。2人1部屋となっており、暁と響、初霜と若葉、三日月と弥生となっていた。
三日月は既にどこかに行って不在だった。
「弥生はびっくりしたかな~?」
卯月はパイプ椅子を自分で広げてその上にちょこんと座った。
「うん、びっくりした」
弥生はこくりと頷く。「卯月だけ?こっちに来たの」
「正解ピョン!うーちゃんだけだピョン!」
「相変わらず元気だね」
「弥生も元気出すピョン!くよくよしてても仕方ないピョン!」
卯月は弥生の肩をポンポン叩く。
「そうだね。でも、やっぱり怖い」
「うーちゃんだって怖いピョン!沈むかもしれないと思うと怖いピョン!」
「その調子だと説得力無いね…」
「そう思ってもらえると嬉しいピョン!それが狙いだピョン!みんなにうーちゃんの弱いとこ、見せられないピョン!心配かけさせられないピョン!」
すると部屋の扉が開いて三日月、暁、響、初霜、若葉が顔を覗かせた。
「わ、びっくりしたピョン!」
卯月は目を丸くした。弥生の方は表情が変わっていない。
「みんな多分、怖いってことは感づいていると思うわよ。だってこうして弥生に会いに来ているのだから」
三日月がそう言った。
「プップクプー、みんな聞いてたピョンね」
大げさに口を尖らせる卯月。
「だってあんなに大きな声出すんだもの。レディーとしては失格ね」
腰に両手を当てて顔をしかめる暁。
「うーちゃんは元気なところが取り柄だピョン!」
「にしては今夜は元気過ぎる。感情が高ぶってるね」
響がそう分析した。
「そんなこと無いピョン!うーちゃんはいつもこの調子だピョン!」
「いや。昼と比べて声が上ずっている」
若葉が言った。
「卯月。あなた無理しているわ」
初霜が言った。
「そ、そんなこと無いピョン!」
「卯月ちゃん、深呼吸」
弥生が卯月の手を取った。卯月はふくれっ面になった。
「プップクプー、弥生までひどいピョン!」
しかし弥生の目は心配そうである。普段はほとんど無表情の彼女が見せる感情に卯月は耳を傾けざるを得なくなる。
「いや、卯月ちゃん。自分が思っている以上に緊張し過ぎてる。取り敢えず、深呼吸」
「んー、弥生ちゃんがそう言うのなら」
卯月はゆっくりと深呼吸した。
「どう、落ち着いた?」
「なんか、まだ胸がドキドキするピョン」
「やっぱり感情を高ぶらせていたのね」
三日月が卯月の隣に立った。「多分、司令官は、そのことを知っていて卯月に夜間外出の許可を出したのよ。卯月ちゃんを落ち着かせられるのは弥生だけだと考えたんだと思う」
「三日月がそう考えて、私達もあなた達の話に耳を澄ませていたのよ」
暁が言った。
「…うーちゃん、正直言って怖いピョン」
卯月は俯き加減になった。膝の上に載せた手がギュッと握りしめられる。「敵の攻撃を引きつける囮艦隊って、それってどう考えても悪い結末しか思いつかないピョン…」
「私達もキス島の人達を助けられるかどうか不安よ。失敗すればチャンスは二度と巡ってこないでしょうし」
初霜が言った。
「でもうーちゃん達の方は沈められるかもしれないピョン」
「卯月ちゃん、元気を出して」
暗くなっていく卯月を励まそうとする弥生。「卯月ちゃんが元気無くなったら、弥生も元気が無くなる」
「私達の元気も無くなるわ」
三日月が屈みこんで卯月の顔を覗きこみ、両肩に手を置く。「卯月ちゃん、生きて帰って来ようよ。同じ睦月型として、約束してくれる?」
「…それ、フラグにしか聞こえないピョン」
「馬鹿なことを言わないで!」
三日月が語気を少し強くした。「絶対に生きて帰ってくるのよ!司令官も『無理はするな』と言っている。少しの間だけでも、敵を引きつけてくれるだけで良いのよ。その隙を、私達は
絶対に無駄にしないわ」
「うん。三日月ちゃんの言う通り。死にに行くのでは無いのよ」
弥生も屈みこんで卯月の顔を覗きこんだ。
三日月が続ける。
「これは死ぬ為の作戦じゃない。生き抜くのよ。生き抜くには、みんなが頑張らないと」
「そうよ。みんな生き残るのよ。弱音を吐くのはレディーとして恥ずかしいことよ!」
「二度と沈まない。絶対にね」
「あのキスカ島撤退でも、損傷こそあったけれど沈没した艦艇は1隻もいなかったわ。あの時のように、全員生還を再現しましょう」
「あれは痛かったな…」
「だから何度も謝ってるじゃない、若葉ったらもう」
若葉はキスカ島撤退作戦中に初霜と衝突事故を起こした時の事を言っているのだ。
「もう言わない。約束する」
「それもう聞き飽きたわ」
「励まされてなんだか力が戻ってきたみたいだピョン!」
「弥生はそれを聞いて嬉しい」
「うーちゃん、みんなと一緒に生き残るピョン!絶対に沈んだりしないピョン!」
「卯月ちゃん、手を出して」
「ピョン?」
「いいから出して」
きょとんとする卯月の右手を、三日月は引っ張って前に差し出させると、自分の右手をその上に重ね、周りを見回した。「みんなも」
駆逐艦娘達は素早く右手を次々と重ねていった。
「みんな生還する。作戦も成功させる。良い?」
全員が「おう!!」と呼応した。

幌筵泊地に残っている艦娘達は、居住部屋では無く、食堂の隣に設けられた待機部屋に集まっていた。T提督は機動部隊に0300時に出撃するよう命令を出していた。
その為、ソファーの上や二段寝台と、思い思いの場所で仮眠を取っていた。しかし矢矧は眠れずにいた。警備任務につきたかったが、『おおすみ』護衛組が交代で行うことになっていた。
二段寝台の上段で寝返りを打った矢矧は、これで何度目の寝返りだろうと考えた。数えていないので分からない。まあ気にしたところで眠れるわけではないのだが。
古鷹、加古、千歳、千代田は規則正しい寝息を立てている。卯月と文月は互いの手を握り合っている。と、窓の前に立っている人影を見つけた。浜風だった。下段で横になっていたはずだが、気づかないうちに起き出していたようだ。
矢矧はそっと寝台から下りると、浜風の側まで歩いて行った。途中で浜風は矢矧に気付き、次に窓の外を指差した。矢矧がその先を見ると、外に大鳳と鳳翔が立っていた。
暗い海原を見ているようだ。矢矧と浜風は互いに顔を見合わせると、待機部屋から外に出た。
「大鳳、鳳翔さん」
矢矧が小声を掛けた。大鳳はビクッと体を震わせて振り返った。鳳翔は静かに顔を2人に向けた。
「あら、矢矧さんと浜風さん」
「どうしたの?」
「眠れないんです。それで外の風に当たろうと思って」
「私達も同じよ」
「それで、私が話し相手になっているというわけです」
「なるほど」
浜風が頷いた。「でも、大鳳さんはもうすぐ出撃です。できるだけ眠られた方が、良いコンディションで動くことが出来ると思うのですが」
「それよりは、話し相手になってリラックスさせた方が良いかなと思いまして」
「私達も混ぜて頂けませんか?」
「歓迎しますわよ」
「有難うございます」
矢矧と浜風は、大鳳の隣に立った。
「私も最初は眠れなかった、ということを話していたんです」
「やはり最初はそういうものなのですか?」
浜風が尋ねた。「話に聞いたことはあるのです。緊張であまり寝付けなくなることがあるということを」
「そうですね。その話は本当だと思います。ただ、これは人それぞれなんだと思います。緊張して眠れなくなる人もあれば、そんなことは無いという人もいるでしょうね」
「私達は前者の方のようですね」
「ええ。もしかすると、いつまで経ってもそんな感じになる人が出るかもしれないですし」
「それはつまり…毎回緊張して眠れない、ということですか?」
「ええ。艦娘の何人かはそのようです。ただ一人だけ、夜が好きで眠らない軽巡娘がいますけどね」
「誰ですか?」
軽巡に反応した矢矧が反射的に聞いた。
「川内型1番艦の川内さんです。とても元気な艦娘です。時々夜食を作ってあげていたこともありました」
「そんなに夜が好きなのですか?」
浜風が両眉を少し上げた。鳳翔は忍び笑いを漏らしながら説明した。
「川内さんが仰るのには、夜戦ができるからだそうなんです。艦隊内では夜戦馬鹿といアダ名が付けられているとか。でも夜戦にかけてはかなりの実力の持ち主と聞いています」
「それは…凄い、ですね」
そこまでのアダ名が付けられるということは、筋金入りの夜好きなのだろう。矢矧も当惑気味のようだ。
「ただ、夜風は確かに心地いいものです」
鳳翔は、穏やかに吹いてくる涼しい夜風を顔に浴びながら静かに言った。
「確かに、そうですね」
矢矧が同意した。浜風も目をつぶって夜風の浴び心地を味わった。大鳳は肺にいっぱい夜の空気を吸い込んだ。
「このひんやりとした感じ、良いものですね」
浜風はそう感想を述べた。
「川内さんとお友達になれるかもしれませんね」
鳳翔が言った。
「私も一度川内さんに会ってみたいです。同じ軽巡洋艦娘として」
「まあ川内さんが特別なだけで、基本的にみんなは夜は眠るものです」
「さっきのお話なのですが、鳳翔さんはもう眠れるのですか。その、出撃前の夜は」
「出撃することはほとんど無くなりましたが、その代わりに出撃する艦娘達の事を気に掛けて眠れなくなる事はありますね。特に大規模作戦の前は」
「これも大規模作戦なのですね」
「そうですね。数の上では劣勢ですし。横鎮提督もその事は十分に承知しています。ここの提督も、眠れないでいると思います」
そう言って鳳翔は、提督執務室がある方を見た。提督執務室の部屋の窓に明かりは灯っていないが、布団の中で作戦について頭を巡らせているかもしれない。
「長い夜、になりますね」
「明日からは長い一日になりそうです」
浜風の言葉に、鳳翔はそう応じた。「その意味では、眠れた方が良いと思いますね。体力はあるに越したことはありませんから」
「では、私達も戻った方が良いですね」
矢矧が言った。
「そうですね。戻りますか」
鳳翔、大鳳、矢矧、浜風は艦娘待機部屋に静かに戻り、思い思いの場所で横になった。

艦娘達の出撃時刻の1時間前。暗視双眼鏡越しに深海棲艦を監視していたキス島守備隊の見張り員が、動きに気付いて守備隊長を呼び出した。
「報告を」
見張り員の所まで辿り着かないうちに守備隊長はそう命じた。
「はっ。敵主力艦艇群が動きを見せています。この方向は幌筵に向かっているものと思われます」
見張り員は守備隊長に暗視双眼鏡を手渡した。守備隊長は、見張り員が指さした方向に暗視双眼鏡を向けた。倍率を拡大すると、戦艦ル級や空母ヲ級、軽空母ヌ級、重巡リ級といった大型艦艇が
軽巡や駆逐艦に護衛されながら移動している。
「確かに幌筵に向かう方角だな。となると目標は幌筵泊地…」
「ここを足場として固める前に泊地を潰しに向かっている、ということでしょうか」
副隊長が推測した。
「かもしれないな。幌筵泊地の戦力は充実しているとは言い難い。すぐに暗号電文を送信だ」
「了解」
副隊長は有線通信機のスイッチを入れた。
「あれは輸送艦部隊だな…」
守備隊長は、敵艦隊の後方を進む輸送ワ級の船団を見つけた。軽巡と駆逐艦が護衛しているようだ。「それなりの期間は戦えるようにするというわけか」
「しかしそれでは、ここの包囲網が薄くなるということを意味するのではないでしょうか?」
見張り員が意見を述べた。
「確かに、これだけの戦力を幌筵泊地に差し向けるとなると、ここの包囲網は必然的に薄くなる。だが敵も、増援を要請しているはずだ。いつ到着するかは定かではないが、
増援到達前までに救援を寄越した方が、撤退は楽に進められるだろうな。泊地側でもその事は考えてあるはずだ」
「隊長」
副隊長が重々しい口調で呼んだ。
「どうした?」
「電文が送信できません。敵の妨害電波です」
「くそっ」
守備隊長は、移動を続ける深海棲艦艦隊を睨みつけた。

続く

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