「」岐の妄想記

Last-modified: 2022-04-28 (木) 02:07:26

素晴らしきリリィたちの尊い触れ合いについて考えるだけで「」岐はもう……

たづりり夜更かし

「鶴紗ちゃん……今、いい?」
もうすぐ消灯時間になる頃合い、私の部屋に梨璃がやってきた。ノックしてから返事もなく扉を開けたけど、まぁ些細なことだからいい。それよりも私が気になったのは梨璃がなんだか暗い表情をしていることだった。
「どうした……って、いきなり……」
ベッドに寝転がっていた私が身体を起こすと梨璃が抱きついてくる。梨璃に抱きしめられることは嬉しいけれど、いつもみたいににへらとした笑顔じゃないのが違和感を覚える。
そうして抱きしめたまま、梨璃を宥めるように黙って背中を撫でていたら落ち着いたのか、少し抱きしめてくる力が弱まった。
……少し残念だ、と思うのは梨璃には言えないな。

「あのね……鶴紗ちゃんが、いなくなる夢を見て……」
ぽつりと言葉がこぼれた。私を見上げる梨璃の瞳は潤んでいる。きっと、その私がいなくなるという夢を見て心配になったんだ。それで、もう消灯時間を迎えるというのにやってきた。教導官に怒られる危険性を背負ってまで。
「……大丈夫だ。私は…梨璃を置いていなくなったりしない」
それを示すように、今度は私から抱きしめ返す。梨璃から安堵したような息が漏れるのが聞こえた。
…良かった。大切な人がいなくなる怖さは私だって知っているから、梨璃にそんな想いはさせたくない。いや、させない。
「梨璃…私は、梨璃が大切。だから……安心してほしい」
そう言って、梨璃の顔を見つめる。今の梨璃はさっきまでの不安で悲しそうな表情はしていない。
「うんっ…! えへへ…安心したら、眠くなってきちゃった」
「だったら早く部屋に戻って…」
そこまで言ったところで消灯時間になったとアナウンスが聞こえてくる。遅かったと梨璃を見るとぺろりと舌を出してイタズラの成功したような笑顔。分かってたのか…ずるい。
「帰れなくなっちゃったね。ねぇ、鶴紗ちゃん。一緒に……寝よ?」
そんなこと言われて、私が断れるわけないのに。
小さく息を吐いて。梨璃を抱きしめたままベッドに寝転がる。
「わわっ、鶴紗ちゃん?」
「今夜は……梨璃に夢なんて見させないから」
私に意地悪する梨璃に、お返しのイタズラを。こうすればきっと梨璃だって……?
「う、うん…鶴紗ちゃんになら……いいよ?」
頬を赤く染めながらはにかむ梨璃。これで、冗談なんて……言えるだろうか。
──どうしよう。カチカチと時を刻む時計の音が、やけに大きく聞こえた。

R18表現注意

「……鶴紗ちゃん?」
私の目の前でほんのりと頬を赤く染める梨璃が期待を瞳に浮かべながら首を傾げる。
本当に可愛い…可愛いのは事実だけど、冗談のつもりだったから、こっちはそんな心構えなんてない。
勢いで「寝かせないから」なんて言うんじゃなかった…と言っても後の祭り。ファンタズム…はここで使ったら怪しまれる。
まぁ……いいか。明日は私も梨璃もオフだから夜更かししたって問題はない、はず。

「梨璃……」
彼女の顎を持ち上げて薄桃色の唇へと唇を重ねる。梨璃も期待していたのか、そんな私の行動を拒むことなく受け入れてくれると、分かっていても嬉しくなる。
「大好きっ……」
自然と抱き合う姿勢になって、何度も口付けを落とす。ちゅ、ちゅぷ…と水音が響く。さっきまであんなに耳につく時計の音ももう聞こえない。

「ねぇ、鶴紗ちゃん……私、もう……」
「あぁ……その、私だって……」
二人ともキスに夢中になって、どれくらい経ったのか。お互いにすっかりそういう気持ちを刺激されて、もじもじと脚を擦り合わせる。
パジャマを着ていたのに、私たちはいつの間にかパジャマを脱いでいる。
……いや、確か…「鶴紗ちゃん?パジャマ脱ぎ脱ぎしようね」とか言われたような……
「鶴紗ちゃん?」ルゥ-ン
まぁ、そんなことはどうでもいい。大事なのは、梨璃も私ももう準備が整っているということだけ。
「梨璃……」
ぴと、とお互いの肌が重なる。私の胸と梨璃の胸。擦れるように合わさるそれだけで甘い痺れが私の身体を襲って自然と甘い声が漏れてしまう。ツン、と屹立したそれが同じように固くなった梨璃のそれと擦れるだけで幸せな刺激がやってくる。自分一人だけでは得られない快感と、梨璃も気持ちよくなってくれていることが分かる甘い蕩けるような声。普段からおやつを食べては幸せそうにしている梨璃が隊のみんなには見せない女の顔と声は、私の仄暗い独占欲を満たしてくれる。
みんなから慕われる梨璃。いざという時にはリーダーらしく引っ張ってくれる梨璃が私の身体の中でなすすべもなく快感に悶える姿は私だけしか見られない。

「鶴紗ちゃん…私、イ…っ……」
「あぁ、梨璃…一緒に……っ」

切なそうな声をあげて、恐らくは無意識なのだろう、私の身体から逃げようとする梨璃。でも、私の身体はそれを許しはしないし、梨璃もそれは望んでいないのは分かるから。
荒くならお互いの呼吸。これをしたら息が苦しくなるのは分かるけど、もうすっかりお馴染みの深いキスを交わす。
いつからだったか。お互いに絶頂を迎える時にはキスをしながら、との約束ができていた。最初はその刺激で二人とも口の中を怪我していたけれど、梨璃は「えへへ……痛いけれど、幸せな痛みだよ」と笑っていたから、私も怪我が治るのが惜しくなっていた。今ではそんなことはないけれど…ちょっと残念とは梨璃に言えない。
荒く乱れる呼吸、熱い吐息を口の端から漏らしながら私と梨璃は身体の動きが激しくなる。部屋に響く水音と、私たちの甘い協奏曲が早くなって、やがて──

「鶴紗ちゃんっ……!」
「梨璃、っ……!」
しっかりと抱きしめ、痛いと思うくらいに抱き合う。二人の出した体液で下半身が濡れる。どっちの出したものか分からなくなるくらいに近く抱き合っているから、同じくらい濡れてしまう。
「えへへ……気持ち、よかったね」
抱き合ったまま、呼吸を整えていたら梨璃がそう言って笑いかけてくれる。汗で髪が張り付いているけれど、それすらも可愛い。だから、私はそれに応えるように梨璃の首筋に私の証だとキスマークを付ける。夢結様ですら付けられない、私の証。
「きゃっ……もう、そんなことしなくても……私は鶴紗ちゃんの傍にいるよ?」
私をあやすように頭を撫でてくれる梨璃の手はあったかくて、幸せになる。自然と頬を梨璃の胸にすりすりと擦り付けたら目に入るピンク色の突起に、私は吸い付いてしまって。
そうして夜は更けていった。

・・・

「んぅ……たづさちゃ~ん……」
「……眠い」
食堂へと向かいながらも私たちはフラフラと歩く。まさか、本当に寝ないことになるとは思わなかった。流石に朝まであんなことをしていたら眠気もあるし、お腹もすくからと朝ごはんを食べに出たんだけど。

「昨夜はお楽しみでしたねっ!」
「…………なんで」
「カーテン少し空いてましたよ? 私だから良かったものの、戸締りは気を付けてくださいね!
 あ、それじゃあ私は取材があるのでこれで!」

言い訳する暇もなく走り去っていく。口止めしようと追いかけたかったけれど、腕にしがみつく梨璃が重くて走ることができなくて。
ひとまず、この状態を見られたら言い訳できないから、部屋に戻って、朝ごはんは部屋で食べよう。
そう決めて、私は梨璃を抱き上げる。
「えへへ……お姫様抱っこ~」
嬉しそうに笑う梨璃の顔にふーっ、と息を吹きかけたな、くしゃりと顔をしかめる。
「可愛い」と呟く私の言葉は廊下に消えていった。

ピュージ

「ドッペルゲンガーのヒュージ?」 
「そうですわ、人に化けるヒュージが出たそうですわ」
「何それこわ~い」 

訓練に行く途中でそんな話が耳に入る。少し気になったが、訓練が始まるまで時間がないので急いで訓練場まで向かった。

私は強くならなければならない。強くなって、あの人のいる百合ヶ浜に行くのだ。あの人の笑顔を想うだけで身体に力がみなぎる気がした。

訓練の帰り校門前が騒がしくなっていた。気になって寄ってみると桃色の髪が見えた。まさかと思い最前列に向かう。桃色の髪にあの四葉の髪飾りは……間違いない一柳 梨璃様だ。

「梨璃様ですわ!」
「お菓子あげますわ!」
「今日はお一人でどうなされましたの?」
「今日も可愛らしいですわね…」

「わぁ!?そんなにいっぱい聞かれても答えられないよぉ!」

困ったような笑顔だった。私の知っている梨璃様はいつも笑顔だ。一年前のあの時も、梨璃様は笑顔で私のことを助けてくれたのだ。

「もう大丈夫だよ」

住んでいる町がヒュージに襲われて、みんなが逃げ惑う中私は家族とはぐれてしまった。ヒュージが怖くて、お母さんとお父さんと離れてしまって、一人でいる心細さで涙が溢れその場に蹲った。そんな風にしているせいで、見つかってしまうのに。気づいたときには目の前にヒュージがいた。足が痛くて動けない。どこが自分とは関係ないと、新聞の中の存在と思っていた化け物が私の現実に姿を見せた。

「梨璃さん見つけましたよ~」
「ニ水ちゃんありがとう!やぁあああ!」

一撃で化け物を倒したその人は、蹲っている私に手を差し伸べて笑顔でこういった。

「もう大丈夫だよ」 

そのお日様のような笑顔に私は見惚れた。本当に綺麗だった。だが、

「梨璃、よくやったわね」
「お姉様!来てくれたんですか!?」
「えぇ、私はあなたのシュッツエンゲルだもの」
「お姉様、ありがとうございます!」
「梨璃さ~ん、夢結様、その子を連れて避難場所まで行きますよ~!」
「そうね、行きましょう」
「大丈夫?立てる?」

梨璃様は私に向けた笑顔よりもいい笑顔をその人にしていた。後で分かったがその人は白井夢結という梨璃様の姉のような人だった。足の痛みはもう引いていたが、梨璃様に触れたかったからおぶってもらうことにした。梨璃様の肌を感じながら私は決意した。梨璃様とシュッツエンゲルになることを。

「止めなさい!梨璃様が困ってるではありませんか!」

梨璃様を囲っている人を蹴散らし、梨璃様のもとに近づく。

「キマしたわね」
「ぐえ~!」
「ガチ勢には勝てませんわ」

「あっ夕香ちゃん!ごきげんよう」
「ごきげんよう、梨璃様」
「今日はお一人でどうなされたんですか?」
「一柳隊の皆にプレゼントを買いに来たんだよ。前に夕香ちゃんに食べさせてもらった、この地域限定ドーナツをね。お店に向かう途中で夕香ちゃんがいるこの中学のことを思い出したから寄ってみたんだ、急にごめんね?」
「そんなことありませんわ!梨璃様に会えて嬉しいですわ!」
「そっかぁ、よかった~」

滅多にないこの幸運を長引かせるため、お店への道案内を自分から買って出た。訓練後の汗臭い服を着替えて、待ち合わせの校門前に向かう。

そんな時だった、ヒュージが現れたという連絡が入ったのは。舌打ちをしてCHARMを手にするために道を戻る。校門前にはCHARMを持ってきていた梨璃様がいた。梨璃様とお買い物に行けないのは残念だが、ここで見せつければいいのだ、震えて動けない私じゃない強くなった私を。そして言うのだ、百合ヶ浜に入学したら私とシュッツエンゲルの誓いを結んでくださいと。

「行こう夕香ちゃん!」
「はい!」

私達はヒュージを倒すために校門を飛び出した。しばらく走っているとヒュージを見つけた。

「梨璃様、ヒュージを見つけました!早く倒してドーナツ買いに行きましょうね!」

「ぴゅい~」

飯島恋花・誕生日

「遅くなってごめんね」
「後輩がさ、もっと訓練しましょう!って」
「いや、凄いのよあの子」
「一年生なのにさ、ヘルヴォルの首席なんだよ」
「しかもその立場に慢心しなくてさ、まぁクソ真面目って言うのかな」
「絶対に守りたい正義があるんだろうね」
「…………ほんと、アンタに似てるよ」

言葉は返ってこない。
買ってきた花を供え、あたしは墓石に語りかける。
そこに眠っているのは失われた友人の命。

ーー日の出町の惨劇。

あたしが無意味な正義感を振りかざしたことで戦線の崩壊を招き、多くの犠牲者を出した戦い。
彼女はその戦場で散っていったマディックの一人で、あたしの友人だった。
後から聞いた話によると、彼女は一人の少女を守るため最期まで戦い抜いたらしい。
自身の正義を掲げ、罪なき命の楯となり。
「……アンタの姿がさ、どうしても重なるんだよね」
脳裏をよぎるのは、今日も一心不乱に現ヘルヴォルを率いていたリーダーの姿。
「きっと仲良くなれたと思うよ。似てるからさ、アンタたちは」
そう。
紹介できる筈だった。
仲良くなれる筈だった。
一緒に笑うことができる筈だった。
でも、それは叶わなくて。
だから、生きていてほしかった。
たとえ戦場で、

「その子を見捨てても」

ーー漏れたのは、本音だったのだろうか。
「…………なんてね」
軽く笑って何かを誤魔化すと、端末が音を鳴らす。
それは出撃要請の合図。
ふっと息を一つ吐き、あたしは心を戦いへ切り替える。
目の前の友に恥じない戦いを。
……そう思ったところで、ふと気になったことがあった。
彼女が楯となり守ろうとした少女は、今何をしているのだろうか。
無事生き延びてくれたのだろうか。
もし、願いが叶うのならば。
「血反吐とかさ、命とかさ、」

「そういうのとは関係ないところで笑っていてくれたら、言うことないんだけどなあ」

猫と梅様

わたしはよく面倒見が良いと言われる。
正直なところあまりピンと来ないが、可愛い後輩達や
戦友が口を揃えてそう言うのならそうなのだろう。

そんなわたしが最近妙に気になっているヤツがいる。
不器用で照れ屋で優しくて勇敢で、とても可愛い後輩だ。
なかなか複雑な事情を持っていて時折辛そうにしているのを見ると
どうにか力になってやりたいなと思う。
身近な人が悲しむ姿はもう見たくない。

というわけで、気付いたら一緒に行動することが増えていた。
そして今日も。

「ああ…猫ってどうしてこんなに可愛いんだろう…幸せ…」

顔が蕩けている。比喩じゃなく、表情がとろっとろに溶けて緩んでいる。

「鶴紗、すんごい顔してるゾ…本当に好きだよなー、猫。」

「この可愛さには抗えません…抗える方がおかしい…
 ですが、私も梅様みたいにもっとこの子たちに好かれたいです…」

わたしの膝に乗ってくつろいでいる一匹の猫を見つめながら
彼女は切なそうな、かと思えば獲物を狙う虎のような目になったりと
普段の様子からは想像できないほど目まぐるしく表情を変えていた。

「鶴紗はちょっと気合が入りすぎだゾ。
 気持ちはわかるがそれじゃ怖がられてしまう。
 もっと静かに、優しく、いっそ追わずに待つ感じでいくといいんじゃないか?」

「なるほど……でもつい手が…柔らかそう…ナデナデしたい…」

「まあその気持ちもよくわかるなー。梅も大好きだゾ。
 本当に可愛くてふわふわで
 見てるだけでも癒やされるなー……まるで鶴紗みたいだゾ」

「ええ…ずっとここで眺めていたい…本音を言えばもっと触りたいけれど……え?」

鳩が豆鉄砲を食らったような顔とはこういうことなんだろうなー…
と思いながら、目を見開いてこちらを見る可愛い後輩の顔を見つめ返してみた。
たまには少しくらいからかっても良いだろ。嘘はついてないしな!

「…可愛いゾ。」

…今度好きなものを聞かれたら、猫と答えるのもいいかもしれないな!

まいたづ

 風が強い。
 木々の隙間から青く高い空が覗き、滑るように流れていく雲が見える。
「いい天気だなー」
 梅は芝生の上に仰向けになりながら呟いた。
 胸の上にはいつぞやのように猫が鎮座し、適度な重みと温もりを寄越してくる。
 ともすればうっかり寝入ってしまいそうになるほどの心地よさが全身を包んでいた。
 地面に近いせいだろうか、吸い込む空気に青臭さがあるような気がする。
「先輩」
 不機嫌そうな声。
 そうじゃないことは分かっている。
 返事代わりに右目だけをうっすらと開く。
 仏頂面がそこにあった。ただし、傍目には、と枕がつく。
 僅かに下がった眉尻や険のない視線など知っていれば、こちらを案じているのだと容易にわかる。
「寝てます?」
「起きてるぞ」
 梅の言葉に鶴紗は溜息。
「梅様、集合時間には集まってください」
「分かってるって」
 丸まっている猫をそっと持ち上げ彼女に預ける。
 まだぎこちない手つきで猫を受け取った鶴紗は一瞬顔をほころばせたのち、
「分かってたら時間通り控室に来てもらえますか」
「でも鶴紗が行く前に誘ってくれるから大丈夫かな~って」
「一度控室に行ってから探しに来てるんです…」
 頬をわずかに膨らませる。その仕種がいつもより幼く見え、梅はくすりと笑った。
 鶴紗に反省していないと怒られた。

 一柳隊・控室。そう書かれた部屋前に二人は立つ。そして扉に手を伸ばし、止まった。
 梅と鶴紗、どちらともなく視線が絡む。理由は漏れ聞こえてくる喧騒だ。
 苦笑した梅の所作を促しと見たのか、鶴紗がドアを開ける。
「ちびっこ~! あなたという人はいっつもいっつもー!!」
「かえでひゃんひっはらはいでふははいよ~」
 やっぱりか~。心の中で得心し、梅は来たぞーと声をかける。
「なにやってんだ二人とも」
 既にお茶会は始まっていて、それぞれカップを手に、思い思いにお菓子などを口に運んでいる。
 そんな中で問題児一号とちびっ子一号がじゃれ合っていた。
 大方梨璃に関することであろうと見当はついているが、そこは付き合いと割り切って理由を問う。
 すると楓は未だ二水の頬を引っ張り上げながら、目じりに涙を溜めて言う。
「私が狙っていた梨璃さんの残滓をちびっ子が奪ったのですわ!」
 思わず首を傾げ、梨璃の方を見やれば困った笑いを浮かべていた。
 その隣で澄まして紅茶を口にする自称姉にはこちらへ説明する気はなさそうだ。
「大したことありませんよ。紅茶でよろしいですか? 烏龍茶もありますけど」
 聞きながら既にカップを差し出している神琳に礼を言い、紅茶で良いと受け取った。
 ついでに事情を聞く。
 二水が梨璃の手にしたドーナツを一口分けてもらった、というのが原因であった。
「それくらいでいちいち目くじら立てるもんでもないと思うんじゃがのぅ」
 ミリアム・ヒルデガルド・v・グロピウスが画面いっぱいのテロップと共に感想を述べる。
「それくらいじゃありませんわ!! ただでさえ梨璃さんの手ずからというだけでも許せませんのに!」
 何とか逃げようともがく二水をがっちり押さえこみながら言葉を続ける。
「あまつさえ梨璃さんが口をつけた場所を齧るなんてっ! 私のでしたのに!!」
 あー。
 想像以上に想像通りだったので、言葉に詰まる。
 そりゃ梨璃もあんな顔するか。一人納得。
「楓ってそういうところ感心するぐらい気持ち悪いよね……」
 いつの間にか両手でお菓子を頬張る鶴紗の頭を撫でながら、雨嘉が代弁してくれた。
 と、楓は胸を張り、それでもなお二水の頬をこねながら、
「そりゃもう私の梨璃さんへの想いは誰よりも純粋ですものー!」
 褒めてるわけじゃないし、純粋の方向性が邪悪だと思うぞ。とは言わないでおいた。

 お茶会は滞りなく終了した。
 本来はヒュージの襲撃に備える待機要請ではあるのだが、由比ヶ浜ネストが壊滅した今は形骸化している。
 それでも中止にならないのはほかならぬリリィ達がこの時間を楽しんでいるためだ。
 今日もいつも通りだったな。
 広い湯船につかり全身を伸ばしながら天井を仰ぐ。
 あの後、梨璃が情けをかけてもう一齧りしたドーナツを差し出し、それを夢結が没収して一悶着あったり。
 雨嘉の真似をして鶴紗の頭を撫でようとした神琳が頭突きをくらったり。
「賑やかになったなぁ……」
 しみじみ呟く。別に大規模な人員の入替があったわけでもない。
 学園全体としては何も変わらない。
 ただ、梅の周囲だけが色づいたように。
「上機嫌ね」
「そうだな」
 失礼とそれだけ口にし夢結が梅の隣に陣取る。まだ風呂のスペースには余裕がある。
 なのにそばに来たということは何かあるということだ。
 態度としては分かりやすい。しばしだんまりのまま、お湯に身をゆだねる。
 決して短い付き合いではないので、待つことにした。
 が、時折視線を寄越しては目線が合うと顔ごと背けるというの繰り返したので、溜まりかねた梅が折れた。
「どうしたんだー?」
「いえ…その…」歯切れが悪い。頬が紅潮して見えるのは血行が良いせいだろうか。「貴女には一度ちゃんとお礼を言わないと、と思って」
 なんだろう。
 梅にはとんと心当たりはない。
 レギオンに入ったのは大分前だし、甲州遠征の件は済んだことだ。
 首を傾げると頭に乗せていたタオルが落ちたので、慌てて拾い上げる。
 少し時間を稼いだがやっぱり思い当たる節が無いので素直にそう告げると、
「そうではなくて…あの……貴女は普段から気にかけてくれているでしょう……?」
 それはみんなのことが大好きだから、と答えようとして思いとどまる。
 レギオン全体のことに対して改めて感謝されることはない。何かあれば都度謝意を示すのが夢結だ。
 だからこれはそうじゃない。おそらく夢結自身に対することで、それは。
「なんだ、梨璃になんか言われたか?」
 件の甲州遠征時、思い起こせば恥ずかしい告白を梨璃にしてしまった。
 それを気に病むなというのは新米リリィにとっては酷だろう。
 あの時は彼女を納得させるためというのもあったがいざ本人に伝わっているとなると、恥ずかしい。
 それは夢結も同じなようで、耳まで真っ赤に染めながら、あわあわと言葉を紡げずにいる。
「気にするな、夢結」徐に手を握る。自身の顔が熱いのは湯にあてられたからだと思いつつ、「梅がそうしたかったからしただけだぞ」
「でも…!」
「いいんだ」
 手に力を込めると暖かい感覚が流れ込んでくる。
「夢結が元気になったのなら…それでいい」
 ふっと彼女の表情が緩み、眉間のしわが消えた。俯く。水面に波紋が二つ広がる。
「ありがとう……梅…」
 握り返された手の平から脈打つように感情が届く。
 精一杯の彼女の想い。
 それが痛いほどよく分かる。

 芝生に寝転んで空を眺める。
 今日も高空には風があるようで、雲が流れあるいは千切れて散っていく。
 梅は右手の平をじっと見る。
 かすかな記憶だった。あの風呂での出来事から数日、握った手の感触は薄れていく。
 でも、
『これからも…よろしくお願いするわね』
『おう! 梅にまかせとけ!』
 結んだ約束は色褪せることなく。
 そして密かに隠していた想いは、秘められたまま。
 夢結は知っていたはずだ。けれど梅からは告げることはなかった。
 彼女もそれ以上は触れてこなかった。だからこれでおしまいだ。
 真実だけが正しいわけじゃない。だから梅は口を噤んだ。
 いや、そうじゃない。このやり場のない想いを鎮めるため、心に刺さる優しい棘の痛みを求めてしまう。
 そうして自分を苛んで慰めているだけだ。
 これで良かったのか。自問自答を繰り返し、けれど答えは出ずに想いが螺旋のようにめぐる。
 気づけば泣いていた。
 それはとても静かな落涙で、空が滲まなければ自覚すらなかっただろう。
「どうしたかったんだろうな……」
 いくら探し手招いても自分の知りたい心が分からない。
 この苦しさは似ている。
 夢結と共にレギオンを離れ、遠くから見守り続けた日々と。
 全てから孤立する彼女を見捨てることが出来ず、報われないと知りつつたとえ逃げたくても寄り添う覚悟を決めた。
「よかった…んだよな?」
 想いは届かなかったけど、祈りは届いた。
 また再び彼女の笑顔を見れたのだから。
 涙を拭い、身を起こす。
「落ち着きました?」
 すぐ傍に猫を膝に抱いた鶴紗がいた。

 猫集会に行こう。
 まさか鶴紗がいると思わず、取り繕おうとした梅に彼女は言った。
 まだ少し時間は早い、がそれは口実だと分かっているので首肯した。
 並んで歩くと鶴紗の小ささは嫌でも際立つ。
 思わず頭を撫でたくなる神琳や雨嘉の気持ちもわからないでもない。
 そんな梅の気持ちを知ってか知らずか、鶴紗は黙々と歩いている。
 先導は猫。
 尻尾を立ててご機嫌な歩みを眺めながら、梅は口を開いた。
「何か悩みごとか?」
 なるべく軽い口調で。対して鶴紗は一度視線を寄越したものの再び前を向いて押し黙る。
 似てるなーと内心思う。
 夢結もこの子もちょっと複雑な事情があって、頑固で、素直じゃなくて。
 そこまで考えて、素直じゃないのは自分もかと舌を出す。
「ラムネ…飲みます?」
「ん? ああいいゾ」
 いつぞや夢結が力なく項垂れた自販機の前まで来ていた。硬貨を入れる。自分の分と鶴紗の分。
 買い求める間、猫は少し遠巻きにこちらを見つめ、待っていてくれた。
 栓を開け、ほんの一口含み、炭酸の刺激と香りを堪能する。あとは歩きながら。
「行儀悪いですね」
「あははっ夢結に見られたら怒られちゃうな」
 何気なく言葉にすると鶴紗が唇を尖らせた。
 ん。
 失言だったかと梅は反省。
 鶴紗も最近は梨璃と仲良くなって、大分落ち着いたかなと思っていたのだが、燻るものはあったらしい。
「先輩は…」
 声と同時に鶴紗が足を止めたので、梅と猫は振り向いた。
 既に陽は落ちかけていて、オレンジ色の視界に長い影が伸びている。
「どうした?」
「いえ…なんでも…」
 ラムネと共に想いを飲み込む。さながらそんな勢いで瓶を煽った。
 そっか。それ以上は梅も踏み込むべきではないだろう。
 鶴紗が並び、歩みを再開する。
 ごめんなと口にすることは簡単で。けれどそれは単なる自己満足にしか過ぎないかもしれない。
 どうしたもんか。ラムネのビー玉を舌で弄びながら、梅は考える。

 鶴紗の気持ちには薄々感づいていた。
 だが、それに応えていいものか。
 後ろめたいのだ。
 無意識に、いや今ははっきりと自覚している。
 重ねていた。夢結と彼女を。だからこそ鶴紗の手を取った時、それが夢結の代わりではないと言い切れない。
 そんな自信のなさが今一つ踏み出せないでいるのだ。
 であるならば、いっそこの痛みを同じように、傷として残してしまった方が良いのではないか。
 鶴紗のことだきっといずれ相応しい相手を見つけ、契りを交わすに違いない。
「まだ早かったな」
「…ですね」
 猫の集会所は閑散としていた。夜の帳が降り切るまでもうしばらくはかかる。
 やれやれと芝生に腰を下ろすと案内役がすかさず擦り寄ってきて、梅の膝の上で丸くなった。
 それを羨ましいと、言葉にはせずとも鶴紗の眼は物語っている。
「素直になればいいのに」
 自分のことは棚に上げ、言う。
 すると、彼女は真っ直ぐな眼で梅を射抜いた。
 瞳の奥に強い光があるように見える。
「梅様は…」ためらいがちに、一度唇を湿らせて、言う。「いつかシルトを取られますか?」
 思ったよりも直球だった。
 なので言葉に詰まる。
「そうだな~」
 膝上の猫を撫でながら告げるべき台詞を探す。答えは決まっているが、相応しい言い回しが見つからない。
 その間も彼女の眼はこちらを見据えている。
 誤魔化さない方がいいな。だから言う。
「多分取るよ。いつかは分からないけど」
「…そう……ですか」
 相手は誰か。問われれば応じられたかどうかわからない。
 でも、彼女の投げかけはそこまでだった。
「変なこと聞いてすいませんでした」
 気にするなと項垂れた頭を撫でる。右手で猫、左手は鶴紗。どちらも似ている。
 大人しく梅の手を受け入れている鶴紗に大分変わったなと思わされる。
 一柳隊に入って、過去を払拭して、蕾だった花が凛々しく育ち始めている。
 そう遠くないうちに、やがて梅の心の扉を叩くことは想像に難くない。
 これ以上遠ざけても猫に似た彼女には逆効果かもしれない。
 そうこうしているうちに一匹二匹と猫が集合してきた。
 嬉々として目を輝かせ鶴紗が立ち上がる。
 猫たちに駆け寄ろうとして、振り向いた。
「先輩も似てますね…」
「んー何だ急に?」
 訝しがる梅をよそに鶴紗は猫たちの輪に近寄り、何匹かに猫パンチを食らう。
 さて梅は何に似ているのかな。猫と悪戦苦闘する彼女を眺めながら考える。
 猫だとすれば気まぐれということか。
 鶴紗とならば、似た者同士だという暗喩あるいは、催促。
「…まさかなぁ」
 夢結と似ている、訳ではないと思うが、話の流れからはあり得る。
 そうだとすれば何だと言いたいのか。
「梅は夢結みたいにいかないぞ?」
 シュッツエンゲルの契りを申し込まれ、あっさりと結んでしまうようなことはない、と思いたい。

 なんとなく心を見透かされたような気がして悔しかったので、猫たちに必死に甘えた声で擦り寄る鶴紗の写真をレギオン内に配信したらリリィ新聞に載ってしまいしこたま怒られた。

鶴紗の小さな反撃

「終わりだ!」

一閃。視界の中のヒュージが崩れて消えた。
外征任務に来ていたわたし達の隊は現地のヒュージを相手に戦闘を行っていた。
今のが最後の一体。少々苦戦したものの、無事退けることができた。
小型が多い状況を鑑みて、散開して各自討伐を試みることとなったが、
他の皆は無事だろうか。
まあ大丈夫だろう。少し不安な梨璃や二水には楓と雨嘉がバックアップとして
ついているはずだし。

集合地点に向かう道すがら、地面に座り込んでいる影を見つけた。
それが誰か気付いた瞬間、全身から血の気が引くのを感じた。

「梅様!大丈夫か!?」

「……なんだ、鶴紗か。心配するな。問題ないゾ。」

そんな言葉が耳に入ってくる前に全身の状態を目で追ってしまう。
どうやら大きな外傷はないようだ。……いや。

「……脚、怪我してたりしないか?」

「なーんだ、鶴紗は目ざといな!そんなに見られたら照れちゃうゾ!
 あー、まあちょっとぶつけちゃったようなもんだな。
 本当に大したことないから、心配すんな。」
 
「珍しいこともあるんですね……心配もしますよ。」

「もう少しだけ休んだら戻るから先行っててくれ。
 夢結にまたサボりだって怒られちゃったりしてな!はは!」

この人は…人のことは心配して世話焼いてくるくせして、
自分の事となると平気でこういう事をする。
そういうところも嫌いじゃないが、なんだかたまに危なっかしい。
…余談だが、これを夢結様に言ったら笑われた。
「ふふ、まさか貴女がそんな事を言うなんてね。ずいぶん仲良しになったみたいね。」
と。

「……嫌です。私も付き合いますよ。どうせもう大体終わったはずですし。」

なんだか腹が立ってきた。…何で腹が立ってるんだ?
無事ならそれでいいし、梅様が大丈夫というなら間違いなく大丈夫だろう。
その点では信頼している。ではなぜ?
…まあいい、こうして梅様の隣でゆっくりできるのもなかなか無いし
わたしもちょっとだけ休んでから戻ろう。

「そうか。じゃあそうするか。なんかゴメンな?」

「いえ、気にしないで下さい。私も梅様を置いて行きたくないですし。」

「そうなのか?鶴紗は梅のことが好きなんだな!
 ……なーんてな!でも慕ってくれてるのなら嬉しいゾ!
 梅は良い後輩を持ったな!」

……この人は!

「……もうすっかり元気みたいですね。さあ行きますよ。
 何なら肩くらい貸せますから。」

「えぇ~もう行くのか?……そうだな。
 鶴紗が手でも握ってくれればすぐに回復するゾ!…なんてな!」

いつものように飄々とした、それでいて眩しい笑顔を見せて笑う。
なんなんだこの人は。
いっつもこうやって私の心を乱してくる。
好き勝手気分のままに動いているくせに、気付いたら近くにやってきて
私なんかに声を掛けてきてくれる。
いつも余裕たっぷりで優しいそれを、たまには崩してやろうか。

「何言ってるんだ全く……その様子だと大丈夫ですね。
 ……これでいいか?」

有無を言わさず手を握る。意図せず力が入り強く握ってしまう。
暖かい。顔が熱い。表情を変えぬよう神経を集中する。
柔らかい手。相手の顔が見れない。熱い。
何をしているんだ私は。

(…?反応が無い。やばい、変だったか?急すぎた…?)

恐る恐る相手の顔に目を向ける。

「……鶴紗、お前って結構大胆なんだな!」

口調は普段通り。だが、顔を真っ赤にしながらはにかむ梅様がそこにいた。
2人は普段よりも口数少なく、だが手を離さないまま、並んで帰路についた。

紅巴の夢、あるいは現実

「紅巴? どうしたの?」
目の前にいるのはスーツを身にまとった姫歌ちゃん。私の手を持ち上げながら不思議そうに首を傾げるその姿は普段の可愛らしい姿と違ってとても凛々しいけれど、アイドルリリィに相応しい可愛さも溢れていて土岐は…土岐は……

「もう……目の前にいるあたしをちゃんと見なさいよ紅巴」
「……!?!?!?」
姫歌ちゃんが呆れたようなため息を吐くとぐいっ、と顔を寄せてきて、否応なしにわたしは現実に引き戻されます。こんな、こんなことわたしにするのはおかしいです!
「あたしの可愛いお姫様をエスコートするのはあたしの役目でしょ?」
「あら…紅巴さんをエスコートしたいのは私もだけど」

そんな声が後ろから聞こえてきて、慌てて振り向くとそこにも姫歌ちゃんと同じようにスーツに身を包んだ高嶺様。姫歌ちゃんはベーシックな黒色のスーツだったけれど、高嶺様はショールカラーのブラックなスーツ。普段からかっこいいのに、そんな素敵な格好をしていたら叶星様とお似合いすぎて死んでしまいます!
「ねぇ紅巴さん? 今は私にエスコートさせてくれないかしら?」
わたわたとするわたしの顎を持ち上げて見つめてくる高嶺様。姫歌ちゃんに助けを求めるように視線を送っても姫歌ちゃんは「あたしを選ぶわよね?」と笑うだけ。
はぁっ……はぁ……こ、こんなのおかしいです……!

「おかしくないよ☆」
「灯莉ちゃん!?」
「とっきーはぼくと行くよね?」
そう言って背後からわたしを抱きしめて囁いてくる灯莉ちゃんの体温が直に伝わってきて、土岐は…土岐は……!
「もう、あたしのお姫様が困ってるでしょ。離れなさい灯莉」
「えー……とっきーは定盛のじゃないよ」
「ふふっ、そうね。紅巴さんは私のお姫様よ。ねぇ紅巴?」
わたしを巡って三人で言い合うその表情はみんな笑顔ですけど、なんだか凄味のようなものが現れていて、あぁぁ……そんな感情はわたしに向けられるものじゃないのに。ここに叶星様がいればきっとみんな叶星様に向けるはずです!

「はぁ……みんな、紅巴ちゃんを困らせたらダメでしょう?」
「叶星様!」
「紅巴ちゃんは隊長の私がエスコートするのよ?」
「どうしてですかぁ!?」
やっと来てくれた叶星様にやっとわたしは壁の染みになれると思ったら、その叶星様も他のみんなと同じようにわたしなんかをエスコートしようとする気で。どうして…どうして……

「ねぇ紅巴?」
「紅巴さん?」
「とっきー?」
「紅巴ちゃん?」

あ、あああぁぁぁぁぁぁ……

「あたしの手を取ってほしいわ」
「私の手を取ってくれないかしら」
「ぼくと一緒に行こう」
「私を選んでくれないかしら」

「……………………」
これは、夢です…そう、土岐はきっとなにかの気の迷いでこんな夢を──
 
 
 
○ ○ ○
 
 
 
「紅巴! ……紅巴!」
「……はっ!? ここは……良かった、夢だったんですね……」
わたしの名前を呼ぶ声で目が覚めました。よく見慣れた自分のベッドの上。良かった。あんなことは現実で起こるはずがないんです。わたしは尊みの僕。ただ見守るだけ、で……?

「全く……ほら、さっさとデートに行くわよ!
 選べない紅巴の代わりにみんなで時間を決めてデートするって話し合ったんだから時間はムダにできないでしょ!」

夢で見たはずの姫歌ちゃんのスーツ姿。目を自分に向けると華やかなライトグリーンのドレス。
…………もしかして、まだ夢? あぁ、なら……おやすみなさい。
そう呟いて、ばたりとベッドに倒れて目を瞑りました。

「紅巴!? ちょっと、起きて! 起きなさいよ紅巴ー!!!!!」

らんのすきなもの

らんね、あまいものたべるの、すき。
おだんご、けーき、しゅーくりーむ、まかろん、それからたいやきー。
あまいものたべると、くちのなかがとろとろってなって、しあわせってきぶんになる。
でもね、いちばんすきなのは…
「どう藍ちゃん?美味しい?」
「うん!おいしいよちかるー!おかわりある?」
「勿論!好きなだけ食べてね♪」
「やったー!」
ちかるのつくってくれたおかしが、だいすき。

らんね、おひるねするのもすき。
「zzz……」
おくじょうでおひさまをみながらおひるねすると、からだがぽかぽかして、あったかい。
でもね、いちばんすきなのは……
「こーら、また訓練さぼってこんなとこで寝て」
「zzz……ん…?あれ…?れんか……?おはよー」
「おはよーじゃないっての!ほら、行くよ」
「れんかもいっしょにねよ?」
「わっ!?ちょっと、藍!!」
「おやすみー……zzz」
「あーもー!これじゃ私まで怒られるじゃん!」
れんかのひざまくらでねるのが、だいすき……zzz

らんね、ひゅーじとたたかうのだいすき!
らん、とってもつよいんだよ!ひゅーじをえいってやってぐしゃってすると、あたまがちかちかして、おむねがどきどきする!
わくわくで、ふわふわで、どっかーんってかんじ!!
「キャハハハハハハハ!!」
でもね、いちばんすきなのは…
「藍、ちょっとストップ」
「よう!!なんで!?いまいちばんたのしいとこなのに!!」
「うん、そうだね。でも負のマギが溜まってきてる。だから……『ブレイブ』」
「あっ……なんかからだかるくなった!!」
「これでもっと戦えるね。思う存分遊んでおいで」
「うん!わかったー!!」
ようがみまもってくれながらたたかうのが、だいすき!

らんね、おべんきょうはきらい…。
ざがくはたいくつだし、きょーどーかんはいじわるばっかりいうし、さぼろうとしたらかずはがおこるし。
「ほら、藍。頑張って起きて」
「んん~。やだ。ねむいよぉ」
でもね?
「おわったー!かずは、らんずっとおきてたよ!えらい?」
「うん、偉いよ藍。よく出来ました」
「えへへ…」
がんばっておきてたら、かずはがあたまなでてくれたの。
らん、かずはがなでてくれるのが、いちばんすきかも。

だからね、らんはね、へるゔぉるのみんながとってもだいすきなんだよ。

無音

それは、私が灯莉、紅巴の3人でパジャマパーティーをしていた時のことだった。
「それで、聞いてくださいよ叶星様!灯莉ったら信じられないことに……!」
『あはは……それは大変だったわね……』
電話先の叶星様に、本日の報告を兼ねて今日一日あったことの愚痴(主に灯莉のせい)を言っていた。
『あっ、もうこんな時間……』
「えっ、あっ本当ですね!すいません私ったら長電話しちゃって……」
『ううん、全然いいのよ!そういえば姫歌ちゃんに聞きたいことがあってね……』
「聞きたいこと?何ですか?」
『……………………』
「……叶星様?」
電話の向こうが、急に無音になった。

耳を離して画面を見ても通話は繋がっている。なのに、聞こえない。声だけでなく、雑音や息遣いすら聞こえない完全なる無音だった。
「通信状況が悪くなったのかしら……?すいません叶星様、一度切りますね」
電話を切ってから、最後に叶星様が何と言おうとしてたのか気になってきた。確か、私に聞きたいことがあると言っていた。もう一度かけ直すべきだろうか?
「ねえねえ定盛ー、かなほせんぱい、何か言ってた?」
電話を切ってからいぶかしげな様子の私を見た灯莉が、私に話しかけてくる。
「んー、いや何でもないわ。ちょっと気になることを言われただけ。私に聞きたいことがあるって言われて、何故かそこから何も聞こえなくなったから、電話切っちゃった」
「姫歌ちゃんに聞きたいこと……?何でしょう……?」
そこに紅巴も加わってきた。どうやら紅巴も電話の内容が気になっていたようだ。
「叱られたりとかじゃないんですよね……?」
「うーん、そういう雰囲気じゃなかったと思うけど……」
モヤモヤとした物を感じつつ電話をしまおうとすると、灯莉がハイ!と大きく手を上げて言った。
「そんなに気になるならさー、たかにゃんせんぱいに聞いてみたらいいんじゃない?何か知ってるかも☆」
「高嶺様に?」
「あぁ、なるほど。確かに高嶺様なら何かご存知かもですね。灯莉ちゃん冴えてますぅ」
「灯莉にしてはナイスアイデアね!それじゃ早速……」

高嶺様は、すぐ電話に出てくれた。
『もしもし、姫歌ちゃん?どうしたの?なにかあった?』
「えっと、何かあったってほどじゃないんですけど、さっき叶星様と電話してて……」
『叶星と?』
簡単に経緯を話し、叶星様が最後に聞きたがっていた「気になること」について聞いてみる。
「……というわけなんですけど。高嶺様何かご存知ありませんか?」
『そうね……。申し訳ないけど、叶星が何を聞こうとしたかまではわからないわ。ごめんなさい』
「いえ!いいんですよ!ちょっと気になっただけで……」
『……でも、関係するかどうかはわからないけど、私も姫歌ちゃんに聞きたいことがあったのよ』
「え?高嶺様もですか?なんですか?」
『……………………』
「……高嶺様?」
電話の向こうが、また無音になった。

「高嶺様?もしもし?高嶺様?」
『……………………』
電話の向こうは先程と全く同じ状況で、吐息一つ漏れてくることはなかった。
なのに、通話は繋がっている。なんだか薄気味悪くなってきた。背筋にゾワゾワとした物が走る。
「2連続で同じことが続くなんて……ドッキリとかじゃないわよね……?」
いや、高嶺様ならともかくお優しい叶星様はそんなことをしないだろう。もしするにしたって、急に無言になるドッキリなんて、画として地味すぎる。
「偶然よね、偶然」
そう結論づけて、電話を切って充電器に差した。いつもだったら寝る前も手元から離さずにいるが、なんだか今日は気持ち悪くてあまり近くに置きたくない。
「定盛、たかにゃんせんぱいは何て?」
「さあ……結局よくわからなかったわ」
「そうですか……残念です……」
「まあきっと大したことじゃないわよ!そんなことよりもう寝ましょ?ほら二人共布団に入って!」
「はーい☆おやすみ定盛☆とっきー☆」
「二人ともおやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい」
私も寝よう、寝て早く忘れようと目を閉じた、その時だった。

「そうそう、定盛!そういえばボクもね、ちょっと聞きたかったことがあってさ……」
「あ、灯莉ちゃんもですか?実は私も……」
「えぇ?何よ、貴方達もなの?一体何なの?早く言いなさいよ」
「……………………」
「……………………」
「え、ちょっと待ちなさいよ。何で何も言わないの?まさかもう寝ちゃったの?」
「……………………」
「……………………」
「ねぇ、二人共……?何を聞きたかったの……?ねえってば……!」

返事は、まだない。

太もも恋花様

 体育館に響く荒い息遣い、鬼気迫る顔で自分を追い込む少女はただひたすらにCHARMを振るっていた。
 飯島恋花、普段飄々としたイメージをもつ彼女からは想像出来ないほどに真剣な姿がそこにはあった。
 
「やはりここにいらしたんですね恋花様」

 セミショートの髪からはどこか潔さを感じさせ、顔立ちの整ったマスクと、きつく結んだ口からは凛とした印象を与える少女、相澤一葉の呼びかけに答えるように、CHARMを振るう手を止めた恋花は普段通りの笑顔ではにかみながら答えた。

「あちゃー、一葉じゃん見つかっちゃったかー。」
「自主練は大変素晴らしいものです、ですがそんな無茶なやり方は奨励出来ませんね。」

 真剣な眼差しで恋花を見据える一葉の目はまっすぐで、だからこそ恋花にとってそれは少し眩しくて、ふいに恋花は目を逸らしてしまう、それを誤魔化すように恋花は言葉を紡いだ。

「すぐに上がる気だったんだけどなんか興が乗っちゃってさ、ほらお姉さん最近やる気と元気が有り余ってる感じ?なのよね」

 まだまだ元気だよとアピールするようにCHARMを振りまわして見せる恋花だったが、ふいに足元がぐらつきよろめいた。
 それが予め分かっていたかのように一気に距離を詰め腰に手を回す一葉、抱きかかえられる形になった恋花はバツが悪そうに笑うしかなかった。

「アハハちょっと頑張りすぎたかな?」
「お昼ご飯そして夕食、ほとんど食べてませんよね」

 誤魔化すように笑う恋花だったが何かを察したかのように顔を背けた、けれど一葉に抱きかかえられる恋花の身体はハードワークのせいかうまく力が入らず、息がかかるほどに近い一葉の真剣な顔を遠ざけるには至らなかった。
 さらに言葉を続ける一葉。

「飴も最近は舐めておりませんし、藍のたい焼きを勝手に半分食べて藍に怒られる事もなくなりました、あげくに千香瑠様の食事を大盛りで食べなくなりおかわりも…ヘルヴォル一の大食漢である恋花様を何がそこまで追い詰めたのか教えてくださいますね?」

 恋花がいっそ殺してという顔をして頬を紅潮させているが、それに気付く事もなく一葉は恋花を支える手に力を込め続けた。

「ヘルヴォルリーダー相澤一葉として同時に大切な仲間として隊員飯島恋花に問います、さあお教え下さい!食事も喉を通らぬほどに追い詰められながらその極限の中で己を鍛え刃と化すそこには一体どんな理由があるのですか!?」
 「だーもう一葉あんたほんとに天然のすっとこどっこいなんだから、乙女なら察しなさいよ!ダイエットよダイエット!」

 一葉が支える手から身をよじり逃げ出すとへたり込むように尻もちをつき抗議の声を上げた恋花。
 事態を呑み込めず目を白黒させる一葉にすがりつくようにしがみつくと恋花はなおも抗議した。

「ちょっとだけ本当にちょっとだけスカートがきつくなったかなーって思って、全然気にしてないけど少しだけダイエットでもしようかなってやってみただけだし、そもそも私大食いキャラじゃないし!そんな飴ばっか舐めてないし!そりゃ新作の味が出たらチェックはするけど…それはたまたま毎日重なってただけだし、藍のたい焼きもしっぽだからあんこ少な目でセーフだし!千香瑠のご飯も千香瑠がちょっと多めに分けてくれるからつい食べちゃうだけで、おかわりも余ったら悪いからだし!しししー!ハアッハアッ…あっ駄目急に大声だしたら意識が…」

 一気にまくし立て肩で息をする恋花はそのまま目をまわし、一葉にもたれかかりながら意識を飛ばした。
 そんな恋花の脈をそっと確認して無事を確かめると少し思案顔で顎に手を当て考えたのちに恋花をお姫様抱っこの要領で抱える、想像よりも軽かった。

「ダイエットは成功です恋花様」

 これにて一件落着と恋花を抱えたまま体育館を後にする一葉。
 途中で重くなってお姫様抱っこから樽を肩に担ぐ要領に持ち替え恋花を部屋まで運んだ事を黙って置くくらいの乙女心は一葉にも合った事を報告しておく。

休日 かずれん

「一葉、一葉はっと……あ、いたいた」
 今日はレギオンの訓練もない休日。あたしは一葉とお出かけするために待ち合わせ場所に来ていた。
 お出かけといっても別に何か決めてるわけじゃない。本当は瑤と一緒にそのへんをブラブラするつもりだったんだけど、急に都合が悪くなったとかで、んーじゃあ一葉とかヒマそうだし……みたいな感じで誘ってみたという流れ。
 一葉は私より先に来て待っていたらしく、待ち合わせ場所にお行儀よく立って、時々キョロキョロと辺りを見渡したりしていた。
 なんていうか……犬っぽいね。
 忠犬ナントカ的なやつ。
 玄関の前に座り込んでご主人様の帰りをそわそわしながら待っているワンちゃんだ。うん、間違いない。
 そんな一葉犬をこのまま眺めてるのもちょっと面白そうだけど。
「おーい、一葉ー」
「あっ……恋花様!」
 私の姿を見つけて、ぱああっと明るい顔になる一葉。まさにピンと立った犬耳とブンブン尻尾が目に見えるようで、つい吹き出しそうになってしまう。
「ど、どうかしましたか? 恋花様……」
「あーいや、何でもない何でもない。ていうか一葉もう来てたんだ。ごめんねー待った?」
「いえ、私も今来たところですから!」
 なんてテンプレなことを言ってるけど、「結構早くから来てました」って雰囲気が顔に出てるのが丸わかり。
 そんなに楽しみだったのか~うりうり――とまあ、あんまりイジるのもかわいそうだし、そういうことにしといてあげよう。
 さーて、時間はお昼のちょっと前。これからどうするかだけど、
「んじゃ早速だけどお昼ご飯食べに行かない? あたし遅く起きちゃったから朝適当にしか食べてないんだよね」
「えっ……恋花様、それはいけません! 一日三食、規則正しくバランスのいい食事が健康な身体を作るのであって――」
 うげげ! 一葉のバカ真面目スイッチが入りそう……!
「あ~はいはいはい、そういうのはまたの機会で! オフの日くらいだらけたっていいじゃん?」
「し、しかし」
「せっかく今日は一葉と二人で楽しめると思ったのにな~」
 ちょっと上目遣いな感じで言ってやると、途端に一葉は、うっ……と怯んだようになり、
「すみません、恋花様の気持ちも考えず……」
 と一転してしゅんとなってしまう。……って、そこまで落ち込まなくても!
「い、いや別に気にしてないし……! てか気持ちとかそんな大げさに考えなくていいから! それよりさ、ラーメン食べに行こうよラーメン。こってりどっさりなやつ!」
「え、ラーメン……ですか?」
「そうだけど、嫌だった? 健康が~、とかいう反論はナシね」
「いえ、そういうわけではなく、その……」
 何か言いたいことがあるようだけど、もごもごと歯切れの悪い一葉。
「ん~? もしかしてまだお腹減ってないとか?」
 と訊いてみたが違うらしい。じゃあ何、と視線で問いかけてみると、一葉はぽりぽりと頬を掻いたりしながら、
「えっと……ここの近くに美味しいランチを出すお店があって……。もしよろしければそちらに……」
 恋花様が良ければでいいんですけど、みたいな感じで、そんなことを呟いた。
 なるほど、一葉オススメのお店か……。
「いいじゃん、じゃあお昼はそこにしよ。案内よろしくね一葉」
「はっ、はい! お任せを!」
 こちらです!と妙に張り切って歩き出す一葉の後ろについて行きながら、
(犬の散歩……)
 そんなことを考えてしまうあたしなのだった。
 
 
 待ち合わせ場所から少し歩いたところでお店に到着。
 そこは雰囲気のいい喫茶店で、休日だというのに混んではなく、といって閑古鳥というわけでもなく、いかにも知る人ぞ知る隠れ家的名店という感じのお店だった。
 案内された席に座り、日替わりランチを2つ頼む。待つ間、オシャレな店内を見渡しながら、
「それにしても一葉がこんなお店知ってるなんてねー。なんか意外かも。いつも来てるの?」
「いえ、私も来たのは今日が初めてで……」
「え、そうなの? てっきり行きつけの店とかだと思ったんだけど。じゃあ雑誌で紹介されてたとか?」
「ええと……まあ、そんな感じで……」
 特に何の意図もない質問だったのだけど、なぜかそこで微妙に返事に詰まる一葉。何、その反応……。
 …………。
 あ、わかっちゃったかも。
「はは~ん」
 にやっと笑ったあたしを見て、一葉がどきりとしたような顔になる。
「一葉~。このお店、わざわざ探してくれたんだ~?」
「うっ……」
 まさしく図星だったらしく、一葉の顔が赤く染まる。本当わかりやすいよねえ。愛いやつ愛いやつ。
「あははっ。別にそんな気合入れなくてもよかったのに! まあ、ありがとね。こーいうお店、あたし結構好きだよ」
「そ、そうですか……」
 一葉のことだ、きっといろいろ入念に下調べしてベストな場所を選んでくれたんだろうな。そんなことを考えると、目の前で赤くなってうつむくバカ真面目で堅物な一葉ワンコ隊長様がやたら可愛い生き物に思えてくる。ていうか可愛い。
 ランチが来るまでの間、あたしはそんな一葉を散々っぱらいじり倒して、とことん可愛がってやった。
 
 
 その後はあたしの希望でデパートに行って、あちこちをウインドウショッピング。
 ヘルヴォルのおしゃれ番長を自負するあたしとしては流行りの情報収集は欠かせない! 本当はどっかの堅物隊長さんにもおしゃれに気を遣ってほしいんだけどね~。当の本人を見ると、こんなのがあるんだなあ、って間抜けな顔でお店の商品を眺めてる。だめだこりゃ……。
 ……と、そんなことを考えながら歩いていると、なんとなく目に入った雑貨屋の前で足が止まる。
「恋花様?」
 特に目に留まったのは、棚に陳列された色とりどりのヘアアクセたち。なるほど……これはいいかもしれない。
「一葉、ちょっと来て」
 二人でお店に入り、ずらっと並んだヘアアクセを一つ一つ見ていく。そしてこれはと思った物を――花飾りのついたヘアピンを手に取って、一葉の頭に掲げてみる。
「あ、あの……?」
「う~む」
 ちょっと違うかな? とりあえず保留で。こっちのは……うん、イイ感じかも! じゃあこの色違いの方は――
「れ、恋花様、何を……」
「何って、一葉に似合いそうなのを選んでるの。あんたがいつもつけてるヘアピン、飾り気が無さ過ぎでしょ? いい機会だから、ちょっとくらいおしゃれなアイテム持っときなさい」
「おしゃれって……私には似合わないですよ」
「おしゃれが似合わない女の子なんていませーん」
「し、しかし私はそういうのは……」
 うだうだ言う一葉を適当にあしらいながら商品を見ていく。
 ……あ、これだ!
 思わずビビッと来たそれを手に取る。小さな星形の飾りがついたヘアピン。ちょっと子供っぽいかな? でもこのくらいラフな方が堅苦しい一葉にはちょうどいいでしょ。
「一葉、頭貸して」
「え? ひゃっ――」
 それを試しに一葉につけてみる。……うんうん、イイじゃん! やっぱりあたしの目に狂いはなかったみたい。
「似合ってる似合ってる」
「そ、そうでしょうか……」
 どうにも落ち着かない感じにヘアピンを指でなぞったりしている一葉。これはアレだな。いつもと違う新しい首輪の感触が気になって仕方がないワンちゃん……みたいな? それはさておき。
「じゃあこれ買ってくるから。一葉にプレゼントね」
「えっ……いいんですか?」
「今日付き合ってくれたお礼。そんな高いもんじゃないし、軽く受け取ってよ」
 レジで会計を済ませ、綺麗にラッピングされたそれをはいどうぞ、と一葉に渡すと、ははーっ、と表彰状でも貰うのかという感じの恭しげな動作でもって受け取られた。真面目かっ。
「ありがとうございます、大切にします……!」
「ちゃんと使いなよー?」
「わ、わかりました」
「よろしい」
 引き出しの奥に仕舞われたらたまったもんじゃないからね。まあ一葉に限ってそんなことはしないだろうけど。
 いや――するかも。たかが数百円のヘアピンを宝物みたいに胸に抱く一葉を見ていると、やりかねないなと思ってしまう。まあいざそうなったとしても、付けてこい、ってどやしてやればいいだけか。
 その後も服やらなにやらを見て回って、一葉を着せ替え人形にして遊んで、気づいたら夕方になっていて――
 思いのほか、充実した一日になってしまった。
 
 
「ん~、楽しかった! 今日はありがとね、一葉」
「楽しんでいただけたなら何よりです。といっても、私はただ恋花様について歩いていただけですが……。本当はもっと……」
「もっと?」
「あっ、いえ……」
 一葉は照れくさそうに目を逸らしつつ、
「もっと、ちゃんとエスコートしたかったんですが……」
 なんてことを、ぽつりと漏らした。
「エスコート?」
「……その、事前にランチのお店を調べるだけで手一杯になってしまって……。本当はその後のスケジュールもちゃんと立てたかったんですが……」
「いやいやスケジュールって。もう、本当に生真面目だなあ一葉は。ただ出歩くだけだしそんなの別に適当で――」
「で、でもっ……せっかくの、デ、デートなのですからっ! そういうのはしっかりしておくべきかとっ……!」
「…………、え? 何て?」
 今、おおよそ生真面目な一葉には似つかわしくない単語が聞こえたような気がしますけれども。
「デート?」
 そう訊くと、一葉は夕日に負けないくらい真っ赤な顔でこくりとうなずいて、
「瑤様が……デートがんばってね、と……」
 へえ、瑤が。
 …………。
 ……………………。
 よ、瑤おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?
 アンタ、一葉に何吹き込んでんの!?!?
「つ……次はもっとがんばります!」
「次!? 次があるの!?」
「えっ……あ、す、すみません……。そうですよね……」
 意気込んだ一葉の顔がしゅーんと一気にへこみ切る。いやそんなに!? ああいや違うそうじゃなくて!
「あ~その~、き、期待してる! 期待してるからね!」
「……! はいっ、任せてください!」
 シャキーン!という効果音が聞こえてきそうなくらいに輝きを取り戻す我が隊長。
 そんな姿を見せられたら、これってデートだったの?なんてデリカシーのないことは口が裂けても言えない。
 ……そうか、一葉は今日一日、デートのつもりだったのか。それで……あたしのために雰囲気のいいお店とか調べてくれて、あわよくばその後の予定もしっかり立てるつもりで……?
 ……あ、ヤバい。考えたら顔が熱くなってきた。てかあたしそんなこと知らずにプレゼントとかあげちゃったし! 一葉も何かルンルン顔だしそんなに”次”が楽しみなのか!?
 あああああもおおおお瑤のやつめ~~~~!
 心の中で瑤をボコボコにしてとりあえず平常心を取り戻す。平常心平常心……。
「あ、あのさ一葉」
 ともあれ、これだけは言っときたい。そう思ってぼそぼそと、その言葉をつぶやいた。
「今日の……デート、超楽しかった」
 自分で言って、バカほど恥ずかしかった。
 
 
 ちなみに――
 一葉にプレゼントしたヘアピンと、あたしの使っているヘアゴムが、奇しくも同じ「星飾り」であり、ある意味で「お揃い」であり、そのことを指摘されて二人して茹でダコみたいになったというのは、また別のお話……。
 
「ゆでだこー」

何度フラレても告白する楓さんと何度告白されても答えてくれない梨璃さんのお話

 
「梨璃さぁ~ん、大好きですわ~!」
「きゃっ!もう楓さん!お尻触らないでってば~」
「あぁん、つれないですわ…」
 
「梨・璃・さ~ん!お慕い申し上げますわ~!」
「あっ、お姉様!ごめんね楓さんまたあとで!」
「これでも駄目ですの……」
 
 
「梨璃さん……愛してますわ梨璃さん……」
「……」
「あなたのことを、世界で一番愛してますの……」
「……」
「ねぇだからお願い……目を覚まして梨璃さん……」
「……か、えでさん……?」
「っ!!梨璃さん!?」
「あれ、ここどこ……?」
「誰か!!誰かお医者様を!!梨璃さんが!!梨璃さんが!!」
 
 
「ねぇ梨璃さん?わたくし、あなたのことが本当に大好きですのよ」
「……そうだね」
「お慕いしてます、この世の誰よりも」
「うん、知ってる」
「……愛して、ますわ……!」
「……ありがとう、楓さん」
「それでも、行ってしまいますの……!?」
「うん。ごめんね、楓さん」
「梨璃さん……行かないで……お願いだから……梨璃さん……!」
 
 
 
「ねぇ、梨璃さん。わたくし、あなたのことを愛してましたわ」
『今は違うの?』
「……いいえ、これまでも、これからも。ずっとずっと、あなたのことを想い続けますわ」
『そっか……嬉しいな……ありがとう楓さん』
「だから……さよなら、梨璃さん……私の愛する人……」
『さよなら、楓さん。最期まで答えられなくてごめんね。大好きだよ』

さだくれ

「紅巴が悪いのよ……!」

姫歌ちゃんに押し倒されたわたしが小さく「どうして……」と呟くと返ってきた答えがそれでした。今にも泣きそうな瞳でわたしを見つめる姫歌ちゃん。その気持ちは痛いほどに伝わってきます。

「姫歌は……ずっと、紅巴のことを見てきたのに……紅巴は姫歌の気持ちを無視して!」

それでも、姫歌ちゃんの近くにはもっと相応しい人がいるのに。こんな、姫歌ちゃんの気持ちを理解しているのに、自分の気持ちに嘘を吐いて未だに逃げようとしているわたしなんかよりも、もっと良い人が。

「姫歌は……紅巴じゃないと嫌なのよ!」

そして、迫ってくる姫歌ちゃんの顔。わたしは……何故か目を逸らすことができずにいました。本当に拒絶する気なら、ここで抵抗するべきだと分かっていました。だけど、もしここで抵抗したらきっと姫歌ちゃんは自分を責めてしまう。それにわたしも多分、後悔してしまうから。

「……どうしてそんな顔するのよ」

わたしの顔は、自分では見れないけど、きっと酷い顔をしているのは分かる。大好きな姫歌ちゃんと結ばれることができるのかもしれないという嬉しさと、相反するような姫歌ちゃんはわたしなんかよりも相応しい人と結ばれるべきだという気持ち。
その二つがせめぎ合っているのですから。

「だって……姫歌ちゃんのそれは、きっと一時的な気持ちで」

わたしなんかに、抱くようなものではない。
そう言おうとしたら、また姫歌ちゃんの唇で口を塞がれます。
あぁ、姫歌ちゃんの瞳に映るわたしはなんて顔を……

──

どうして、そんなに泣きそうなのよ。ひめかが勇気を出したのに、そんな顔をするのはずるいじゃない。紅巴に怒るのは間違っているのに、間違った怒りが湧き上がる。だからそれを塞ぐように、紅巴とあたしの唇を重ねる。紅巴は少し震えるけれど、抵抗しない。どうしてよ……嫌なら、抵抗しなさいよ……紅巴。

──

わたしと姫歌ちゃんの唇が重なって幾許か。伝わる温もりと、わずかな震え。きっと姫歌ちゃんも勇気を出してこういうことをしたんだと理解した私は姫歌ちゃんを抱きしめました。

「紅巴……?」
「姫歌ちゃん……わたしは、その……」

きっとわたしに拒絶されると思っているのでしょう。だから、わたしは姫歌ちゃんに向かって。

「くれは……?」

姫歌ちゃんの唇にわたしから口付けを。さっきまでの、姫歌ちゃんにされるだけのわたしじゃない。わたしだけの気持ちを伝えるためにキスを贈りました。
本当はいけない。姫歌ちゃんの幸せを願うなら、受け入れちゃいけないと思うこの気持ち。けれど、真っ直ぐな姫歌ちゃんの感情を向けられたら……わたしだってもう嘘は吐けません。
戸惑う姫歌ちゃんの顔に、自分まで間違っていたかと不安になったら、急に強く強く抱きしめられちゃいました。少し痛いけれど気持ちの伝わる痛み。だからでしょうか、とても心地がよくて、離れ難いです。

「紅巴……本当に、いいの?」

耳元で囁くように呟く姫歌ちゃんに頷いて、「姫歌ちゃんじゃなきゃいや」と告げました。
いつからでしょうか、わたしは姫歌ちゃんに惹かれていきました。
憧れとは別の、わたしが抱くことはいつになるのかと思っていたこの感情に最初は戸惑って、尊みの僕であるわたしがなんてものをと思っていました。
だけれど、だけど……今はそんな気持ちでさえも好ましくて。

「姫歌ちゃん、大好き…!」

そう言ってもう一度姫歌ちゃんの唇にキスをします。
自分からする二度目のキスは、思ったよりも甘くて、癖になってしまいそうでした。

ようれんが一緒に寝るだけ

「瑶~……寝れない……」
就寝時間になってしばらく経ってから、わたしの部屋にやってきた恋花がやってきてそう言った。そうしたら思い浮かぶのは夕方にかけてソファでぐっすり眠る恋花の姿。
「お昼寝……してたもんね」
「うっ……見てたんだ。いやそれもあるんだけど、なんだか無性に寂しくてさ~」
「寂しいって……なにかあったの?」
「んー、なんだろ……」
「……ふふ、藍みたい」
「なんだとぉ!?」
わたしが言うとぷくぅ、と頬を膨らませる恋花の頭を撫でてみると満更でもなさそうな顔をしていて、可愛い。恋花はこういうところがあるから、つい構いたくなってしまう人が多いんだろう。それにとっても頼りになる。
「……それじゃあ、一緒に寝る?」
「ふぇっ!? 瑶と!?」
そう提案するとびっくりしたけど、そんなに不思議なことかな。藍が寝れない時は添い寝をしてあげるとぐっすり寝てるから、いいと思ったんだけど。そう説明するとさっきまでのあたふたしていた様子だったのが、「なんだぁ……」と落ち着いた。
「ほら、おいで……?」
ベッドに向かってわたしの横をぽんぽん、と叩く。
「うぅ……それじゃあ、おじゃまします……」
おどおどとしながらベッドに入ってくる恋花はいつもの自信満々な様子と違って小動物みたいで可愛い。藍の元気よく飛び込んでくるのとは違った可愛さがあって癒される。
「ふふ……よしよし」
「わわっ!? も、もー!あたし子どもじゃないんだよ!?」
胸に抱き寄せながら背中をぽんぽんとしたらそうやって言ってくるけれど、離れないのは……受け入れてくれてるのかな。そうだとしたら……嬉しい。
「眠れないって言ってやってきたんだから、大人しく受け入れて」
「それは……むぅ、確かにそうかな……そうかなぁ!?」
「恋花、うるさい」
「ごめんなさい……ってあたしがおかしいのか?」
「もう、ほら……早く寝るよ。明日も一葉の訓練が朝からあるんだから」
「はーい。なんだかママみたい……」
ぽん、ぽん……と一定のリズムで背中を叩いていると段々恋花の激しかった心拍数が落ち着いてきて、うとうとしてきたのが分かった。
「おやすみ、恋花」
「おやすみ、瑶~……」
小さな声でおやすみ、と言って、わたしも目を閉じる。暗闇の中で聞こえる恋花の吐息と心音が子守唄みたいで、藍と寝るのとはまた違った感覚で。恋花も……落ち着けたら嬉しいな、なんて思っていたらいつの間にか眠ってしまった。
 
 
 
「瑶ー、いつまで寝てるの……恋花、ずるい!
らんも瑶と一緒に寝るー!!」
「ぐえっ!? なに!? 藍飛び込んでこないで!?」
「藍……ほら、おいで?」
「おいでじゃないでしょー! あたし潰れてる! 潰れてるってー!」

かえふみキス

 
「そうして梨璃さんのお召し物を手洗いして差し上げたんですの」
「楓さん相変わらず気持ち悪いことしてますねー」
「ちょっと二水さん!それは酷すぎませんこと!」
いつも通りの構えない会話
遠慮のないやり取り
楓さんが「もう!」と髪をかきあげるのを見ながら少し不思議な気持ちになる。
普通の友人同士のような距離感。
そういったやり取りをしている自分達が少し不思議だった。
髪の影から出てきたうなじ綺麗だな…なんて思いながらぼうっと見つめる。
「二水さん?どうしましたの、そんなに見つめて」
楓さんからの探るような声に慌てる。
「な、何でもないですぅ」
慌てて声が裏返る。
じっとこちらを見る綺麗な瞳…。余計に慌ててしまう。
顔が熱くなってうつむくと声がかかる。
「二水さん、ちょっと」
いつもとは少し違う余裕を失った声色でこちらの手を取り引っ張られる。
「か、楓さん?どうしたんですか?」
あまり人目につかない、そういった事に使われる場所まで手を引かれて連れていかれると唇を奪われた。
「んぅ、楓、さん」
余裕のない、乱暴とも言えるキス。唇が
、舌が激しく求めてくる。
ぎゅっと体を抱き締められて唇を合わせて…
「好き」
熱い声音で告げられる。
「わ、わたしも…んぅ」
返事をするのも待たずに唇を塞がれる。
言葉に出せない想いを体を強く抱き締める事で伝える。
お互いがお互いの体を、唇を、舌を絡めて想いを伝え合う。

※※※※※

やがて2人が満足してどちらともなく体を離す。
お互いの息が荒い。
2人の熱が引き、息も整うと少し恥ずかしくなってきて…
「ふ、二水さん、なにか言ってくださいまし」
「か、楓さんこそ、なにか言ってくださいよ」
顔が熱い。
気持ちが落ち着いて冷静になると…恥ずかしい。
楓さんの顔をうかがうように見ると私と同じ。
照れた顔でこちらをうかがっていた。
私もあんな顔をして、楓さんにも見られていると思うと余計にもじもじしてしまう。
「もう、楓さんってば、いつも強引にするんですから。私以外にしたら本当に捕まっちゃいますよ」
「貴女以外にこんなこと…。ってなんですの人の事をそんな犯罪者のように言わないで欲しいですわ!」
「そろそろ隊室に行きましょう。皆さんも集まってるころですよ」
いつもの空気に戻そうと素っ気なく言って歩き出そうとすると…
「貴女も喜んでる癖に…」
拗ねたような楓さんの声が聞こえる。
また熱くなる顔を自覚しながら。
「早く行かないと皆さん心配しちゃいますよ」
誤魔化すように言うが楓さんはいたずらっぽい表情でこちらを見てニヤニヤしている。
でもそのニヤニヤの中には私と同じような、楓さんが少し照れた時の表情をにじませていて…。
『楓さんってなんて可愛い人なんだろう』
「ほーら、私に見惚れていないで行きますわよ」
「あっ待って下さい、楓さん~」
そうして2人でレギオン隊室に向かうのでした。
今日はいつもより少し近い距離でも…良いですよね?

さだあか

 夏にしては涼しい風を浴びて、見慣れた景色を歩いている。すぐにあの夢だと分かった。何度見たか分からない、ほんの小さい頃の夢。
 ぼくは家の近所にあった大きな公園を歩いていて、拾った木の枝で生け垣の葉をぴしぴし叩きながら、上機嫌に鼻歌を歌っている。たぶん虫か花でも探してたのかな。昔から楽しそうなものを探すのが好きでそこらじゅう歩き回ってたから。でも、その日はいつもと少し違ったんだ。
 遊具なんかが設置されている広場に入ると、視界のあちこちにごく細かな光の粒がちらちらと舞ってることに気付いた。見慣れた景色にピンクの淡いキラキラが散って、幻想的にすら映ったのを覚えてる。ぼくの足は自然とキラキラの濃い方を辿って、広場の角にいる二人の親子に導かれた。
 ピンクのツインテールのぼくと同じくらいの年頃の女の子と、ハンドカメラを手にしたその子の母親らしき人。その女の子は、くるくると踊って指先から濃い輪郭を描いて、ピンクのキラキラを宙に散らしていた。おもちゃのマイクを握ってその頃流行っていたアイドルの曲を歌いながら、楽しそうに笑って。当然、テレビなんかで見るアイドルと比べれば全く拙くて、ホームビデオの域を超えてなかったはずなんだ。それでもぼくはあまりにも綺麗な輝きから目を離すことができなくて。その子のお母さんが急かすまで、すっと彼女を眺めていた。あんまり熱心に見ていたからか、去り際に確かにぼくの方を見て、笑顔で手を振ってくれたんだ。
 次の日もその次の日も、何度もその公園には行ったけれど、その子に出会うことはできなかった。それでも、不思議と寂しいとは思わなかった。
 きっと頭の奥にあの子のキラキラが焼き付いて、もうそれはずっと変わらないってことが分かっていたんだと思う。あの子を想うだけでハッピーが溢れてきて、寂しさの湧いてくる余地なんて無かったから。
 次に会ったら何を話そうとか、どんな性格なのかなとか、絶対に仲良くなるんだー、とか。もしかしたらもう会えないかもしれないのに、そんなことを考えるのがどうしようもないくらい楽しくて、理屈で説明するのは苦手だけど、つまり。あの子があの時ぼくに手を振って笑ってくれたから、また会えるに決まってるって信じられたんだ。

「灯莉!早く起きなさい!」
叩き起こされた意識が最初に見たのは定盛だった。いつも通りにしったり結んだツインテールが、焦った顔でぼくの両頬をつまんでいる。
「なあんら、さらもりか」
「なんだとは何よ。そろそろ起きないと遅れるわよ!」
真面目で几帳面な定盛より、ぼくが先に起きられた試しがない。毎朝こんなふうに、寝過ごしがちなぼくのことを起きるまで待ってくれる。
 洗面台で顔を洗って歯を磨いていると、支度を済ませた定盛がぼくの髪を櫛で梳いてくれた。毎朝のことだから、お団子を結ぶ手際もすっかり上手くなっていた。
「ねーえ、定盛。ぼく、妖精を見たことあるんだ。言ったっけ?」
「はいはい、どうかしらね。ほら、出来た!行くわよ!」
 口をすすいでコップを置いたと同時に、ぼくの手を引いて忙しなく部屋から飛び出した。ぴょこぴょこ揺れるツインテールがきらきらとピンクの残光を撒いている。
 今日も明日も、その先もずっと。ぼくはこの光を見る度に理解する。脳みそか心臓か分からないけれど、ぼくの存在の芯の芯に焼き付いたこの光が、お前は忘れることができないんだって。この子がお前の運命だって。ずっとずっと、ぼくはそう信じてるんだ。

AIのべりすとらん

そのいちらん
 
「もうねるらん」
「ねられんらん」
「こんなじかんにねるなんてざこのすることらん」
【ここからAI】
など、語尾はさまざまだが、だいたいにおいて相手を馬鹿にしたような口調である。
この手の妖精は、たいていの場合いたずら好きで、人間をからかうために出現することが多いのだが、中には本気で心配しているものもいるかもしれない。そういうときは、
「あなたこそ早くおやすみなさい」と返してやるのが礼儀だろう。
また、この手のものには、夜更かしをしている子どもに忠告する役目もあるようだ。
このような妖精が現れる場所は、たいてい子ども部屋であり、子どものいる家庭では、枕元に置いておくといいだろう。ただし、あまりうるさく言いすぎると、親のほうが叱られてしまうこともあるらしいから要注意だ。
なお、「もうねるらん」と言って消えるときには、ドアも窓も閉まっているので、気をつけてほしい。

そのにらん

「もうねるらん」
「ねるらん」
「こんなじかんにねるなんてざこのすることらん」
【ここからAI】
「よるはねむるのがしぜんのことらん」
「ぼくたちは、よるもおきている。おひさまさんさんあびてねてるほうがいいらん」
「なにをいうか! よるはねるらん!」
「ひるまだってねるらんよ」「ひるまだって、おひさまさんさんあびたら、うとうとするらろ」
「そんなことないらん。めをとじて、うごかずにいるらん」
「それじゃあ、くらくなるらん」
「ならなくったって、こまらないらん」
「でも、たいくつだらん」「おもしろくないらん」
「おもしろいから、みんなしてあそんでるらん」
「そしたら、もっとおもしろくするらん」
「どうやるらん?」
「まず、ぼくたちが、ふとんにもぐるらん」「それから? それから?」
「それから、みんなでごろんとして……」
「ごろんとして?」
「しずかにするらん」
「しずかにして、どうなるらん?」
「そうしたら、ぼくたちだけで、あそべるらん」
「それはそうだらんけど……」「だから、みんないっしょにねるらん」
「それもわるくはないらんけど……」
「ねえ、みんな。きめたらん? これからさき、ひるまだって、よるだって、みんないっしょにねるらん?」
「ねるらん、ねるらん」
こうして、「ひるまだって、よるだって、みんないっしょにねるらん会」ができました。

りりかず生放送中に停電

ー某月某日,某所にてー

「それではよろしくお願いします!」
ヘルヴォルの隊長,相澤一葉は元気よくスタッフに挨拶を終えるとスタジオへと入っていった.
今日は東京圏防衛構想会議主催の生放送の日である.ルドビコ女学園の崩壊や東京での特型ヒュージの大量発生を受けて開かれた東京圏防衛構想会議は,発足からほどなくして東京内の防衛のかなめとなっていた.
当初はヒュージの情報共有や防衛地域の割り振りなどについて協議することが主な内容であり,情報伝達手段も文書や写真などによる簡素なものにとどまっていたが,ほどなくしてより分かりやすく見やすい形で伝えられないかという意見が表れ始めた.
それもそのはず,いつ命を落とすとも知れないヒュージとの戦いに明け暮れる中で,心安らぐはずのガーデンの中でも堅苦しい書類とにらめっこの日々では気がめいってしまう.もちろんそれを理由におろそかにするような者は少ないが,いやいや会議に参加してしぶしぶ書類に目を通すような状況では士気の低下につながりかねないという懸念はあった.
そのような状況で,ルドビコの佐野・マチルダ・こころや神庭の定盛姫歌などの,いわゆるアイドルリリィ志望の者たちを中心として,生放送形式での情報共有という案が出された.毎週~隔週程度の頻度でリリィ2~3名が登場し,企画コーナーなども交えつつ東京の現状を伝える,というものである.
機材の調達や場所と人員の確保,参加するリリィの負担などを鑑みてなかなか許可が下りなかったが,登場するリリィの人気などにより自発的な視聴を促せることや単純な娯楽としてポジティブな影響が期待できること,そして何より発案者たち自身の熱意にあふれた粘り強い説得によりついに開催に踏み切ることができた.
すでに数回放送が行われており,いずれも良い評判を得てリリィのみならず民間人からも人気を得ている.「かわいらしいリリィの姿を見ることができ生きる気力がわく」「戦うリリィの素顔を知りますます応援したくなった」「尊すぎます…!👀」などの意見も届いており,期待以上の効果が得られているようだ.
今回は一年生隊長特集ということで,一葉のほかに百合丘女学院の一柳梨璃も参加予定であった.

「一葉さん!」
スタジオに足を踏み入れた瞬間に,一足先に待機していたのであろう梨璃がこちらを振り向いた.
「…っ!」
その姿を見て思わず息をのんだ.
同学年に対して失礼かもしれないが,一葉は梨璃のことをかわいらしい人だと思っていた.
もちろんリリィになり隊長も務めている以上,並々ならぬ意志の強さや気迫を持っていることは知っているし,戦士として敬意も抱いている.しかし彼女はそれ以上に人懐っこさや優しさを感じさせ,その可憐な見た目も相まって思わず守ってあげたくなるような人物であった.
梨璃のチームメイトである楓・J・ヌーベルは彼女について「女の子の可憐さをすべて集めたような方ですわ!」と語っており,そこまで入れ込むつもりはない一葉も間違った評価ではないとは思っていた.
しかし今日の彼女はいつにもまして魅力的に見えた.ほほがうっすらとピンクに色づき唇がつやつやしているのは放送用のメイクせいだろうか.一葉自身も先ほどメイクが終わってから鏡を見た時に,いつもの化粧っ気のない自分とは別人のようになった姿を見て驚いたが,梨璃の場合は雰囲気はそのままに,彼女本来の魅力が増幅されているように感じた.
落ち着け,態度がよそよそしくなっては視聴者にも梨璃にも失礼だ,と自分に言い聞かせながら席に着いた.大丈夫,放送開始まではまだ時間がある,少し速い鼓動もじきに落ち着くだろう.
「えへへ,緊張しちゃいますね」
「え,ええ」
心の準備ができる前に話しかけられて一瞬身構えたが,梨璃のいつもと変わらないほんわかしたしゃべり方を聞いて心が少し和らいだ.
「こういったきらびやかな場は初めてで,私も緊張してしまいます」
嘘だ.エレンスゲに真っ向から喧嘩を売った自分がこの程度の放送で緊張などするはずもない.だますのは心苦しいが,本番前に「梨璃さんが素敵でドキドキします」などというのはよくない気がした.
「よかったです!一葉さんはトップレギオンの隊長さんだし,緊張しているのは私だけかなと思って不安になっていたんですよ!」
上手くごまかせたようだ.梨璃の無邪気な笑顔を見るうちに一葉の緊張も次第にほぐれ,普段と同じように接することができるようになっていった.
(やっぱり梨璃さんはすごいな)
彼女には人の心を開き,誰にでも好かれる魅力がある,その力は一葉にしてみればレアスキル「ラプラス」と同じくらい類まれで大切な能力に思えた.

「まもなく本番でーす」
放送スタッフを務めるリリィがドアの向こうから声をかけてきた.この放送ではリリィの自然体な姿を見せるためにスタジオ内にはパーソナリティと機材のみが存在し,スタッフは基本的に部屋の外で待機している.
「じゃあ始めましょう,一葉さん!」
「はい!」
「ごきげ…」
二人で息を合わせて挨拶をしようとしたその瞬間,視界が真っ暗になった.
「!!」
ヒュージの襲撃かと身構えたが,戦闘による衝撃や振動などは感じない.ただの停電だろうか.
「お二人ともご無事ですか?」
外からリリィの声が聞こえた.
「ええ,こちらは問題ありません,何が起きたのですか?」
「施設のトラブルで,建物内で停電が起きているそうです.職員の方に聞いたのですが詳しい原因がわかるまでしばらく待っていただきたいとのことで…」
「承知しました,梨璃さん,いったん外に出ることにしましょう」
流石にこのような状況では放送どころではない,自分たちも手伝いをすべきだろうと思いドアを開けようとした.
「あれ?」
開かない.
「もしかしてこのドア電子ロックなんじゃ…」
梨璃の指摘ではっとした.ドアに鍵かかかった状態で停電が起きたせいで閉じ込められてしまったのだろうか.
「助けを呼んできますね!」
ドアの向こうのリリィはそう言うとどこかへ行ってしまった.

「どうしましょう…」
すぐそばで不安そうな声が聞こえる.リリィである以上暗闇での戦闘訓練などもしているはずだが,今日は放送には必要ないからとチャームも通信用の端末も外に置いてきてしまったのだ,心細くとも無理はない.
「大丈夫ですよ,すぐに復旧するはずです」
不安をやわらげようと声をかけながら梨璃の方へ手を伸ばした.
「ひゃっ」
手が触れた瞬間梨璃が情けない悲鳴を挙げ,思わず手を引っ込めた.
「す,すみません!失礼しました!」
いきなり触るのは無神経だっただろうか.
「違うんです!一葉さんの手が冷たくて少し驚いただけで…」
そう言うと彼女は一葉の手を握り返してきた.
「!」
「私のことを元気づけようとしてくれたんですよね?」
「は,はい」
「手の冷たい人は心が温かいって言いますし,一葉さんのやさしさが伝わってきます…」
梨璃の手の感触とぬくもりが伝わって来る.妙に緊張する.心臓が早鐘を打つ.緊急事態で取り乱した友人を慰めているだけだ,やましいことなど何もないと必死に言い訳を巡らせるが逆効果だった.
「あの…」
「っはい!?」
上ずる声が抑えられなかった.
「停電が直るまでもう少し,手をつないでいてもいいですか…?」
「……も,もちろん,です」
のどがカラカラに乾いていて,たった六文字の言葉を発するまでの時間が永遠にも等しく思えた.
「…お嫌ではないですか?私の手は荒れていますし…」
まだ落ち着かなかったが沈黙に耐えられず,傷付き固くなった自分の手のことを考え梨璃に訊ねた.
「嫌なわけないです!傷は努力の証ですよ!訓練の成果です!」
「梨璃さん…」
同い年でともに隊長を務める立場として,ラプラスを持つ梨璃に対して劣等感がないとは言えなかった.その梨璃本人から認められたことで,自分の努力が報われた気がした.
「り,梨璃さんの手はすべすべしていて素敵ですね」
褒められた気恥ずかしさから慌てて梨璃に話題を移した.
「それって私の努力が足りないってことですか?」
少しむくれたような返事が返ってきた.
「も,申し訳ありません!違うんです,ただ,しばらくこうしていたいな,と思って」
事実,梨璃の手の触り心地はとてもよかった.こうした身体的な接触も含めた距離感の近さも彼女の魅力につながっているのだろう.
「ふふっ」
少しつやっぽい笑いとともに彼女は指を絡ませてきた.
「このまま停電が直らなければいいのに…なんて少し思っちゃいます」
「梨璃さん…」
「一葉さん…」
彼女にはこんな一面もあったのか.顔は見えないが気づけば吐息を感じるほどに近づいているのがわかる.つないだ手がじっとりと濡れている.これは私の汗だろうか,梨璃の汗だろうか,もしかすると二人の汗が混ざっているのかもしれない.いずれにせよそんなことはもうどうでもよかった.
~Fin~

たづまいシュッツエンゲル後

「お二人はまた欠席ですの?!」
楓・J・ヌーベルの声が一柳隊の控室に響いた.
「揃って無断欠席をするのはこれでもう三回目ですわ」
「確かに今日の内容は基礎訓練がメインでお二人には必要ないかもしれませんが…」
郭神琳は苛立ちを隠し切れない様子で楓に続き,二川二水も残念そうである.

「梨璃,あなたも鶴紗さんから何も聞いていないの?」
三人の落胆した様子を見て,副隊長を務める白井夢結が隊長かつ彼女のシルトである一柳梨璃に尋ねた.
「はい…授業が終わった後すぐにどこかへ行ってしまって…」
梨璃は申し訳なさそうに答える.

一柳隊の吉村・Thi・梅と安藤鶴紗は以前からマイペースなコンビではあった.
しかし,二人がシュッツエンゲルの契りを結んで以降,さぼり魔で有名な梅に加えて,それまで定例のミーティングや訓練には顔を出していた鶴紗まで欠席が目立つようになったのだ.
最初は鶴紗がゲヘナの陰謀に巻き込まれているのではないかと心配したみんなであったが,その日のうちに梅自身の口から「二人で遊んでたゾ!」と言われてしまった.
「まったく梅様ったら…少しは落ち着いてくれるかと思いましたのに!」
「鶴紗さんも鶴紗さんです,シュッツエンゲルの影響とはいえ悪い習慣が身についてしまっていますわ」
怒りが収まらない様子の司令塔コンビであったが,そこへ王雨嘉がフォローを入れる.
「で,でも…二人が仲良くしているのは,いいことだと思うな…も,もちろんさぼるのはだめだけど…」
「確かにそれは雨嘉の言う通りじゃのう,百由様のように無関係な人間に危害を加えん分まだましかもしれんわい!」
シュッツエンゲルを持つ者としてミリアム・ヒルデガルド・v・グロピウスも二人をかばった.
「そ,そうですよね!」
二人の発言により元気づけられたのか,梨璃も再び口を開いた.
「お二人も姉妹になってからまだそんなに日がたっていませんし,必要な時間なのかもしれません!私だってお姉さまのシルトになってからしばらくは授業が手につきませんでしたし!」
「梨璃,あの二人を甘やかしてはだめよ,特に梅は昔からこうだったのだから.それに,当時のあなただってここまで長い間腑抜けてはいなかったわ」
「す,すみませんお姉さま…」
「っ!ごめんなさい梨璃,落ち込まないでちょうだい….そういう優しいところもあなたの魅力よ.」
あくまでも厳しい姿勢を崩さない夢結であったが,叱られたと思い落ち込む梨璃を見て慌ててフォローを入れる.
そんなほほえましいやり取りを見てピリピリしていた隊員たちの雰囲気も徐々に和らいでいった.

  
「梨璃さんに免じて欠席自体は仕方ないとして,せめて行き先くらいは伝えてほしいものですわ!」
「もしもの時に行き先がわからないのは,心配だね…二人なら大丈夫だとは思うけど…」
「ふーみんさんは鷹の目で居場所を把握していませんの?新婚シュッツエンゲルの逢引なんて格好の取材対象でしょう?」
「それが,上手く隠れられているようで私にもわからないんです…,仮に見つけたとしてもいいネタが取れるまでは泳がせておきますが!」
「お主もやり手じゃの~」
話題は変わらないが,冗談も交えながら先ほどよりもにぎやかに会話が進んでいった.
 
 
 
~~
「梅様」
鶴紗は猫に餌を挙げながらそばで寝転がっている梅に声をかけた.
「ふぁ~,何だ~?」
眠たそうな返事が返ってきた.
「訓練に出なくていいんですか」
「梅は体を動かすのが得意だからな,自分でちょっとやればできちゃうんだ」
「そっすか」
そっけない反応かもしれないが,梅はそれを気にするような人物ではない.
「ここにいるってことは鶴紗だって同罪だろ?」
「梅様は上級生じゃないですか.後輩の指導とかもあるでしょう」
梅はさぼり癖のうわさが独り歩きしているが,それは一人の場合の話であり後輩が絡んだ時の面倒見は大変に良い.
事実,以前行われた地形走破訓練ではまだ不慣れな二水やミリアムたちと一緒にトレーニングに参加していたし,彼女たちが最下位の罰を受けないようにあえて手を抜いたりもしていたのである.
二人きりの時間を作ってくれることはうれしかったが,契りを交わすまでの梅とは少し違う態度に違和感がないと言えば嘘であった.

「鶴紗」
急に名前を呼ばれて虚を突かれた.猫を目で追っていたため気づかなかったが,振り向くと梅は起き上がってこちらを見つめていた.
「何ですか」
「梅は一柳隊の皆のことが好きだ,ホントだゾ」
「知ってます」
「でもな,私はそれと同じくらい鶴紗一人のことを大事にしてあげたいんだ」
「っ!」
「隊のみんなに怒られたとしても,周りに迷惑をかけたとしても,二人きりでお昼寝して,猫と遊んで,ずっとそうやって暮らしていきたいんだ」
感じていた違和感は吹き飛んだ.梅様は優しい人だから,自分と違いみんなに慕われる人だから,シュッツエンゲルになっても独り占めできないかもしれないと思っていた.
なんとちっぽけな悩みだったのだろう.人前で感情を出すのが苦手な鶴紗が嫌がらないように,わざわざここまで誘って言葉を伝えてくれたのだ.
「ほんとはずっと伝えたかったんだ.だけどいざってなると照れくさくってな,何回も付き合わせちゃったけどようやく言えた」
「…」
いきなりのことに動揺してなんと答えればよいかわからなかった.
「あ,でも鶴紗が一柳隊のみんなと一緒にいたいんだったらそれでもいいゾ!梅は皆のことも好きだからナ!」
いつものように冗談めかして笑う.しかしその瞳の奥には突き放されるのではないかという不安と,本心からの気遣いが見えた.
全くこの人は,疑似姉妹の契約まで結んでいるというのに….
どこまでも優しく,少しだけ臆病で,たまらなくいとおしかった.

そこで鶴紗は梅と同じように,自分にもあの時からずっと言おうとしていた言葉があることを思い出した.
伝えるなら今しかない.
「あ,あの…」
上手くしゃべれない.いつものように,さっきまでのように,感情の起伏を込めず淡々と言葉を伝えるだけだ.そう思うほどに口の中が乾き,声が震えた.
「何だ?」
先ほどとは違い,優しく包み込むような声色だった.この人なら自分のすべてを受け止めてくれると確信できた.
「わ,私も,嫌じゃ…ないです…,このまま二人で…ずっと過ごしていたい…」
顔が赤くなっているのが自分でもわかった.目を合わせると倒れてしまいそうなほど緊張していた.
「だから…これからも誘ってください…」
「梅…お…お姉,様…」
ようやく言えた.
 
 
 
~後日~

「お二人は基礎訓練二倍ですわ」
「ぐっ…」
「かわいいシルトのためにも,今度から訓練はさぼらないゾ…」

「最後だけ見えました!鷹の耳が欲しかったでずぅ”~!」