エル・リベルテ

Last-modified: 2024-05-05 (日) 08:13:19

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l_3_1.png

Illustrator:siki


名前エル・リベルテ
年齢17歳(再生後3年)
職業トランスポーター/第三次帰還種

トランスポーターの仕事をしている帰還種の少女。
これは、少しだけ未来の話。あるいは後日談。
戦いが終わった後の平和な世界の様子が一人の少女の目線で語られる。

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1勇気のしるし【LMN】×5
5×1
10×5
15×1


勇気のしるし【LMN】 [EMBLEM+]

  • JUSTICE CRITICALを出した時だけ恩恵が得られ、強制終了のリスクを負うスキル。
  • 嘆きのしるし【LMN】よりも強制終了のリスクが高い代わりに、ボーナス量が多く、JUSTICE以下でもゲージが増える。
  • GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.10→+0.05)する。
  • LUMINOUS初回プレイ時に入手できるスキルシードは、NEW PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
    効果
    J-CRITICAL判定でボーナス +??.??
    JUSTICE以下150回で強制終了
    GRADEボーナス
    1+32.50
    2+32.60
    3+32.70
    101+42.45
    ▲SUN PLUS引継ぎ上限
    102+42.50
    推定データ
    n
    (1~100)
    +32.40
    +(n x 0.10)
    シード+1+0.10
    シード+5+0.50
    n
    (101~)
    +37.40
    +(n x 0.05)
    シード+1+0.05
    シード+5+0.25
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期最大GRADEボーナス
2023/12/14時点
LUMINOUS
~SUN+286+49.20
GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数

GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数
ボーナス量がキリ良いGRADEのみ抜粋して表記。
※水色の部分はWORLD'S ENDの特定譜面でのみ到達可能。

GRADE5本6本7本8本9本10本11本12本
15541108166222162954369346165539
65461091163721822910363745465455
165301059158921182824353044125295
265151029154320582743342942865143
365001000150020002667333441675000
46487973146019462595324440554865
56474948142218952527315839484737
66462924138518472462307738474616
76450900135018002400300037504500
86440879131817572342292736594391
96429858128617152286285835724286
112419838125616752233279134894187
132410819122816372182272834104091
152400800120016002134266733344000
172392783117415662087260932613914
192383766114915322043255431923830
212375750112515002000250031253750
232368735110314701960244930623674
252360720108014401920240030003600
272353706105914121883235329423530
292347693103913851847230828853462
300344688103113751833229128633436
所有キャラ

所有キャラ

  • CHUNITHMマップで入手できるキャラクター
    Verマップエリア
    (マス数)
    累計*1
    (短縮)
    キャラクター
    LUMINOUSep.Ⅱ4
    (175マス)
    460マス
    (-マス)
    ロイ
    ep.Ⅲ1
    (155マス)
    155マス
    (-マス)
    エル・リベルテ
    ep.Anthology2
    (105マス)
    210マス
    (-マス)
    周防パトラ/ウニの歌
    ※1:初期状態ではエリア1以外が全てロックされている。
    ※2:該当マップ進行度1の全てのエリアをクリアする必要がある。
  • ゲキチュウマイマップで入手できるキャラクター
    バージョンマップキャラクター
    LUMINOUSオンゲキ
    Chapter4
    早乙女 彩華
    /レッツ、チャレンジ!??

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
 
1617181920
スキル
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 そのご依頼、引き受けます!「輝きなさい、リベルテちゃん1号! かわいい戦闘ポッドちゃんを汚した罪を、償わせるのよ!」


 地上と電子の楽園を巻きこんだ事件から数年。
 世界は共存への道を歩み始めていた。
 帰還種と真人は悲劇の中心であるペルセスコロニーを“共存と繁栄”の象徴として、両陣営の代表が共同で監督するようになっていた。
 とはいえ、長きにわたる争いによって生まれた溝が急に埋まる事などない。
 急激な変革は、否が応でも反発を招いてしまうのだから――。

 「待ちやがれええええ!」
 「絶対に逃がすんじゃないぞ!」

 稼働を停止したアントゥルーヤコロニーが眠る砂漠地帯。雲ひとつない澄み切った青空を切り裂くようにして、1台のエアロクラフトと2機の旧式型の戦闘ポッドが高速で飛んでいた。

 「あぁもう! しつっこい!」

 そう叫び散らしたのは、エアロクラフトに乗る――まだ幼さが残る顔立ちの少女だ。
 対する戦闘ポッドの操縦者は、いかつい顔をした男たち。
 日に焼けた肌に煤けた手指、違法改造したと思われる機械の腕をカチカチと鳴らしている。いかにも荒くれ者といった言葉が似合いそうな雰囲気だ。
 そのうちのひとりが、拡声器を使って執拗に少女を煽り続けている。

 「ていうか、なんなのよアレ!」

 少女が彼らに追われてからずっと気になっているものがあった。それは――

 「あの“角”は何!? かわいい戦闘ポッドちゃんが台無しじゃない!!」

 彼らが乗りこむ戦闘ポッドは、本来の特徴である球体型のシンプルなフォルムに対して、やたらと角ばっているのだ。
 そして、クラシックで控え目なカラーリングは、ギラギラと眩い輝きを放つ。

 「ああもう、ダメダメ、ダメ! やっぱり、許せないわっ!」

 硬く決心した少女は、滑らかな手つきで操縦桿を操作し、エアロクラフトを急反転させたのだ。
 続けて、陽光に遮られて対応できずにいる戦闘ポッドへと、何かを照射した。
 瞬間、戦闘ポッドは浮力を失い始め――砂漠の海へと不時着する。

 「はぁ、やっと静かになった」

 少女は、自分で開発しエアロクラフト用に改造した電磁パルス照射装置――「リベルテちゃん21号」の発射桿を愛おしそうに撫でた。
 自分の魔改造を棚に上げて。

 少女は戦闘ポッドが着陸した砂漠にエアロクラフトを降下させた。
 生体反応は戦闘ポッドから遠ざかっている。
 技術力の差を痛感し、彼らは一目散に逃げ出したのだろう。

 「ああ……この子たちも連れて帰りたいなぁ……」

 ダメダメと首を横に振った。そう、今は仕事中。
 趣味の探究をしている場合ではないのだ。
 ここでの“タスク”をしっかりこなしてからまた来よう。少女がそう考えた時だった。

 『このアマァ!! 少しばっかり機械に強いからっていい気になるんじゃねーぞ!!』

 少し離れた砂漠に、ソレは突如出現した。
 人の数倍の背丈に長い脚。迷彩機能を搭載した殺傷能力が極めて高い機動兵器だ。

 「あ、見つけた」
 『この最新型の機動兵器があれば、お前なんぞペチャンコよ!』

 勝手に盛り上がるリーダーらしき男。
 男の言うように、あの兵器は戦闘ポッドよりは新しい。だが少女からしてみれば、いずれも旧式に過ぎなかった。

 『こいつの前じゃ、逃げるしかないよなぁ!』
 「もしかして、リベルテちゃんがエアロクラフトにしか積まれてないと思ってる? あはは、残念でした! 真のリベルテちゃんは――わたしの手の中にあるわ!」
 『何ぃ!?』

 男のテンションに引きずられるように、エルは声高に叫んだ。そして、ブカブカなジャケットの袖から伸びた1丁の銃に口づけすると、囁いた。

 「輝きなさい、リベルテちゃん1号」
 『――駆動要請承認、限定解除』

 格好も何もなってない無茶苦茶な構えから射出された光が、狙いを寸分違わずに機動兵器へと直撃する。

 『んなっ、はぇ……?』

 機動兵器は、男の気の抜けた声と共にその場で停止したのだ。

 「ラッキーラッキー♪ なんか知らないけど、これでここの“タスク”は終わりかな」

 少女は懐から小さな電子端末を取り出す。
 表示されたのは、何らかのリストだった。指でばーっとスライドさせて、項目を確認する。

 「うん、間違いない」

 機動兵器の回収手続きを済ませた少女が、戦闘ポッドへと歩き出したその時。

 『ハイハイハイ! そこの違法武器所有者!! 大人しくしなさ~~いっ!』
 「はい? なんで治安維持連合(ピースメイカー)が――」

 陽光を遮るように、少女の上空には大型の輸送艇が浮かんでいた。
 ダウンバーストのような下に吹きつける風でたなびく白いリボンを抑えながら、少女――エル・リベルテは、カスピ大地溝帯のごとき深いため息をつくのだった。

 これは、バテシバが起こした『楽園事変』から少し先の話。戦いを生き抜いた者たちの、その足跡をたどる物語である。


EPISODE2 ムルシアの英雄「最初は、変わった人たちだなって思ったんですけど、話してるうちにあの人たちが好きになっていました」


 エルの遥か上空を浮遊していたのは、帰還種と真人が合同で設立した新たな組織「平和維持連合(ピースメイカー)」の船だ。
 その船からは、今も甲高い女の声が鳴り響いていたが――やがて「ゴン!」と鈍い音と小さな悲鳴がして急に静かになった。

 「ハァ……今日はついてないや……」

 あの船からは、ピースメイカーならぬトラブルメイカーの匂いがする。だがここで逃走すれば間違いなく更なる厄介事に発展しかねない。
 エルは大人しく両手を上げて、無抵抗の意思表示をするのだった。

 ――
 ――――

 「へえ~! ひとりでトランスポーターをやってるなんて凄いですね!」

 船から勢いよく降りてきた女は、エルの身分証を見ながら興味深そうにしていた。
 のっけからやけにテンションの高い女は、エリシャ・ムルシア。
 とてもそうは見えないが、このチームを率いるリーダーらしい。
 彼女の背後で荒くれ者たちが輸送艇へと連行されていくのを遠目に見ながら、エルはエリシャの質問に淡々と答える。
 何回目かの質問が終わると、彼女は「さて」と本題に入った。

 「どうしてあの兵器を持っていたんですか?」

 あの兵器とは、エルの愛銃「リベルテちゃん1号」の事だ。基本的に、帰還種だけが使用できる第九音素臨界加速装置だが、それは余りにも強力無比なため、ピースメイカーによって使用を制限されている。
 場合によっては重罪となり、法の裁きを受けなければならないのだ。
 エリシャは続けた。

 「近いうちに平和式典が開かれるのは知ってます?」
 「はい」
 「じゃあ、無闇に過激派を刺激するような真似はしないでくれますかっ?」
 「これは、わたしが依頼された仕事ですので。それに敵は非合法に武装してるんですから、わたしも“抑止力”を行使しても良くないですか?」

 食い気味な質問に、より冷静に受け答えするエル。
 即座に返ってきた答えに「うぅ……っ」と何故かエリシャの方が追い詰められているように見えた。

 「それぐらいにしてやってくれねえか、お嬢さん」

 ふたりの問答に割って入ってきたのは、いかついがたいの男だった。

 「あっ! 小隊長ぉ! わたしが尋問してるんです、急に入って来ないでください!」
 「お前がチンタラやってるからだろうが」
 「ぐぬぬぬ……っ」
 「え? 小隊長? どういう事なの……」
 「すまねえ、いつもこうなんだ」

 更に別の男がエルの疑問に口を挟んだ。
 男が言うには、この船の面子は全員が同じ故郷、同じ部隊の出身であり、生きては帰れないはずの戦場で何故か生き残ってしまった。
 そして、あれよあれよと言う間に戦争は終結し、適当な給油を行ったせいでサマラカンダに向かえずペルセスコロニーに引き返していたエリシャたちは、またしても運良く生き残ったのだ。
 彼女の運が良かったのはそれだけに留まらず、指導層の急な交代と小隊全員が無傷で帰還した事で、エリシャは特に非難もされず、他にも様々な偶然が重なった結果、ムルシアを代表する英雄になってしまったらしい。

 「でまぁ、小隊長ってのは、当時の名残なんだな」
 「あの、どこが本当で、どこからが嘘なんですか?」
 「ワハハ! まあ、そういうのも無理はない!これは、全部本当の事なんだからよ!」

 にわかには信じがたいが、彼らの顔を見る限り本当にそうなのだろう。
 エルは、全てのパラメーターが幸運に振り切れている人間がいてもおかしくはない。それこそが、この世界の不思議で面白い所なんだと思う事にした。

 「それで、許可証はあるのか?」
 「はい、ちゃんと貰っています」

 エルは速やかにジャケットの内ポケットから許可証を提示した。
 それには、ペルセスコロニーの共同監督官――レナ・イシュメイルの名が印字されていた。

 「これは……疑って悪かった、すまない」
 「いえ、気にしないでください」

 これで、ようやく解放されるかな。
 小さく独り言ちたエルの前に、小隊長との口喧嘩から逃げてきたエリシャが駆けこんでくる。

 「うわうわうわ! ほんとだ! 貴女もしかして、すごく偉い人なの!?」
 「別に偉くないですけど……」
 「――エリシャ! 今日という今日は許さんぞ!」
 「はい~~? 何を許すんですかぁ? わたしは、このチーム・“ムルシア”のリーダーですよぉ?」
 「あーあ、また始まっちまった。悪いね、エルさん」
 「は、はぁ……」

 ふたりはエルの事などそっちのけで口論を再開してしまった。

 「お前はいつんなったらその“小隊長ぉ”呼びを止めるんだよ!」
 「小隊長は小隊長です! わたしが決めました!」
 「ややこしいっつってんだろ! 俺の名前は――」
 「あーあー聞こえません! 聞こえませーん! あ!だったら、こうすれば良くないですかぁ!?」
 「ほう……言ってみろ」
 「いっそのこと、ショー・タイチョーって名前に改名すればいいんですよ~! これでバッチリ――」
 「てんめぇぇぇ!! 誇り高きムルシアの名を、俺が捨てると思ってんのか!!」
 「ぴえぇぇぇぇぇぇ! ご、ごめんなさぁぁい!」

 ふたりは、輸送艇の外周で追いかけっこを始めてしまった。

 「まったく、とんだ茶番だろ? 付き合わされるこっちの身にもなってほしいもんだぜ」
 「あ、あはは……」

 男は口ではそう言っているが、その光景を心から楽しんでいるように見えた。
 こんなので本当に治安維持なんて出来るの?
 もう少しで口を突いて出かけた言葉を飲みこんで、エルは男に提案した。

 「じゃあ茶番ついでに、お願いを聞いてもらってもいいですか?」
 「ん、ああいいぜ。どんなお願いだ?」
 「ありがとうございます! ちょっと寄り道してゼーレキアコロニーの跡地まで、わたしを護衛してくれませんか?」


EPISODE3 深く青い空に「彼女もどこかで同じ空を見ているのかと思うと、増々この空を好きになってしまいますね」


 結局、エリシャたちはエルが無事に仕事をこなすまでゼーレキアコロニーの跡地で待機してくれていた。
 エルが小隊長から話を聞くと、元から反攻勢力の拠点になっているかどうか調査する予定だったらしく、エルを送り届けるついでに予定を早めてくれたようだ。

 彼らの調査も無事に終わり、すっかりチーム・ムルシアと打ち解けてしまったエルは、一緒にペルセスコロニーへと帰るのだった。

 エルの自宅兼事務所は、新たに区画整備された外殻部の周辺にある。

 「今日も良い仕事ができたんじゃないかな~!ふん、ふふん♪」

 発着場にエアロクラフトを泊めたエルは、真っ先に自宅へと向かおうとしたが、何か見つけたのか予定を変更して都市の散策をする事にした。

 「やっぱり、この時間のペルセスコロニーが一番綺麗なんだよね……」

 エルが見上げた先には、陽が沈んだ後の空に照らされた構造体がならんでいる。
 陽の光を浴びて銀色に輝いていた都市の輪郭線は、今や空の色と溶け合うように混ざり、境界はひどく曖昧だ。
 人工物も、人も、自然も。
 このわずかな間だけは、空の一部であるかのように感じてしまう。
 夕焼けと夜空の逢瀬――マジックアワー。
 エルは、この空の色に染まる都市が大好きなのだ。

 指で作ったフレームで都市の輪郭を収めていくうちに、気づけば都市の中心部から少し離れた場所に来ていた。
 コロニー内はどこも似たような外観ばかりだが、ここは比較的新しい建造物がならんでいるし、なによりトランスポーターの仕事で来る機会も多い。
 だからエルも道を覚えている。
 このまま真っすぐ進めば、病院にたどりつく。

 戦争被害者のために建てられた病院は、時間帯のせいか人影はまばらだ。

 「――ねえ、そこの貴女」

 エルは誰かに呼び止められた気がして、声のする方へ振り返る。
 声をかけた人物は、車椅子に腰かける女性だった。

 (わ……綺麗な人……)

 夕焼けで髪が煌めいているせいか、本来の色はいまいち分からない。けれど、長く伸びた髪が丁寧に綺麗に編みこまれている事もあり、儚さの中に気品が感じられる。
 エルが小さく会釈すると、女もにこやかに返してくれた。そして、続けてエルへと問いかける。

 「貴女は、この景色が好きなのですか?」
 「はい、この時間が一番」
 「ふふ、素敵ですね」
 「あなたも好きなんですか?」
 「私(わたくし)には……分かりません。記憶が少し欠けているので」
 「え? あっ……ごめんなさい」
 「ううん、気にしないで」

 女は少しだけ寂しそうに笑った。

 「空って、不思議ですね。私たちの身近にあって、いつも見ているはずなのに、なぜか心惹かれてしまう」

 どうしてなのでしょう。女にそう問われ、エルは空を見上げながら答えた。

 「きっと、同じ空がひとつとして無いからです」
 「え?」
 「空はどこまでも続いていて、でもどこにも境界線はない。少しずつ、ゆるやかに変わっているんです。だから、惹かれるのかもしれませんね。……えっと、こんな答えでいいですか?」
 「ええ、もちろん」

 女は頷くと、再びにこやかな笑みを浮かべる。

 「いい空ですね」
 「はい、いい空です」

 そのやり取りがなんだか可笑しくて、ふたりは自然と笑い合っていた。

 「あ、良かったら名前を聞いてもいいですか?」
 「ええ、構いませんよ。私は――」
 「――おーい!! ニアー!!」

 穏やかに流れていた空気が一変した気がした。
 ふたりが見つめる先には、ニアと呼ばれた女に向かって大きく手を振る男の姿が。

 「あら、マードゥクにアンシャール、それにアイザックも」

 ニアが、駆け寄って来るマードゥクに手を振り返す中彼の背後から2人の男が歩いてくるのが見えた。

 「ニア、また空を見てたんだな」
 「ええ。今日はね、あの空が大好きなお友達ができたの」

 ニアとマードゥクの視線を感じ、エルは「どうも」と会釈する。

 「そっか、良かったな! じゃあ、ニアの友達なら、俺とも友達って事で!」

 そう言うと、マードゥクは名乗りながら手を差し出してきた。
 なんというか、距離感が近い。もう日は暮れて肌寒いはずなのに、彼が来てからは温度が2、3度上がったような感覚があった。

 「あれ、もしかして早すぎたか?」

 エルは無言のまま、つい後ろに一歩下がってしまった。

 「マードゥク……お前というやつは」
 「クカカ、いつまで経っても変わらんな」
 「いや、別にいいだろそれぐらい。先に距離を詰めて、そっから変えていけばいいんだって。なあ?」

 マードゥクが更に一歩詰めてくる。
 エルは詰められた分だけ、また一歩下がっていた。

 「ハァ、それだ、それ……」
 「このバカモノがッ!」
 「ぁ痛っ!? なにも殴る事ないじゃないですか、アイザック隊長!!」
 「ふ、ふふ……」
 「あ、ごめんニア。うるさかったよな」
 「いいえ。私はきっと、こういう会話が好きだったのかもって思ったら、嬉しくて……」
 「……シシ、そっか。なら良かったよ」
 「さて、そろそろ陽も沈む。ニアを部屋に送り届けてあげよう」
 「ああ」
 「あ、じゃあわたしはそろそろ帰りますね」
 「おう、またな! エル!」

 エルは病室へと引き返すニアたちに手を振って、自宅に帰る事にした。
 彼女の足取りは、とても軽かった。
 またひとつ、この都市を好きな理由が増えたから。


EPISODE4 虹色の庭で「誰かにとっては不要かもしれないけど、別の誰かにとっては掛け替えのない想い出になるんですね」


 翌日。
 エルは依頼者にしてペルセスコロニーの共同監督官レナ・イシュメイルが待つ中枢塔へと向かっていた。
 監督官たちの提案で設けられた展望エレベーターを使って、眼下に広がる銀の都市を眺める。
 陽の光を浴びて虹色に輝く巨大な都市は、見る者の心を一瞬にして奪う。
 そして、この都市の最大の特徴は、時間帯によってその姿を大きく変える所にあった。
 朝は、この世界の広大さを教えてくれて。
 夕は、少しの切ささを分かち合い。
 夜は、見る者の中へとかえっていく。
 「ここには悲しい過去がたくさんある」と、人は言う。
 エルもそれを理解しているが、今を生きる者にとっては過ぎ去った出来事のひとつでしかない。
 悲しみを伝える事は大切だ。
 だけどエルは、それ以上にこの世界の美しさを伝えたいと思っている。

 「あ、もう着いちゃった……」

 「ピ、ピ」と終点を知らせるアナウンスが鳴った。

 「このエレベーター、もっと遅くしてもらえないか相談してみようかな……」

 職権乱用も甚だしい。なんとなくあの人たちなら採用してくれるかも。そんな“わがまま”を思いつきながら、エルは監督官の執務室に到着した。

 『開いているよ』
 「え?」

 不意に穏やかな男性の声が響く。それと同時に扉が開かれ、エルはおずおずと中へと踏み入った。

 「いらっしゃい、エル・リベルテ」
 「あれ、なんか……勢揃いですね?」

 まだ陽は昇り切っていない。なのに、エルの前には予想よりも多くの者たちが集っていたのだ。
 席に座る監督官レナと、監督官レアを中心にして、補佐官である男と、エステルが控えている。
 そして、彼女たちの前に立っていたのは、ピースメイカーの代表を務めるアンシャールとマードゥクだ。
 興味深そうにこちらを見ている皆の視線に、どこか居たたまれなさを感じて、エルは自然と見様見真似の敬礼を返した。

 「フ、畏まらなくていい」

 エステルにそう言われてとりあえず上げた腕を下ろす。
 けれど、まだそわそわする。
 気品に溢れた皆と同じ空気を吸っているという事実が根本の原因かもしれない。エルはそう思う事にした。

 「シシ、まだ全然緊張してるぜ?」
 「マードゥク、からかうのはよせ」
 「俺はただ、エルの緊張を解してやろうと思っただけだぜ」

 訂正。1名を除いては、だ。

 「あはは。ごめんなさい、エル。実は式典の準備があって色々とお話をしていた所だったのよ」

 レナはにこやかにそう言うと、皆に少しだけ席を外すよう頼んだ。
 歓談しながら一同が退室する中、執務室にはエルとレナ、そして補佐官の男が残った。

 「あれ、この人はいいんですか?」

 エルは失礼とは思いながらも、男をまじまじと見る。
 スラっとした身なりに、上品さを感じさせる佇まい。その姿を見て、エルはどこか既視感を覚えていた。

 「ええ。わたしの依頼は、ブルーさんにも関わりがあるの」
 「そのとおり。さあ、私には構わず続けたまえ」
 「そうなんですね、わかりました」

 あっさり納得したエルは、背負っていた鞄から何かを取り出す。執務机の上に並べようとしたそれらは、少々ここの景観を乱すような気がして、はばかられる。

 「ある程度の目星はついていたので、すぐ見つかりはしたんですけど、これぐらいしか見つけられなくて」

 机には、赤い染みがついたスコープ、固まった潤滑油がこびりつく懐中時計が並んだ。

 「この時計は、ゼーレキアを調べている時にレナさんと一緒にいた人が持っていたものだと分かったので、ついでに持ってきました。あの、こんなので大丈夫です、か――」

 エルはそれ以上、言葉を紡ぐのをやめた。
 だって、そんな事を今の彼女に問うのは無粋だと感じたから――。

 「はい……十分すぎる、くらい……」

 いつもニコニコしてて、エルからすると少し優しすぎるとさえ思う監督官レナ・イシュメイル。
 彼女は服が汚れようとも構わずに、そのスコープを大事そうに抱きとめていた。

 「ミリアム……遅くなってごめんね……っ、わたし、皆が繋いでくれたから、ここにいるんだよ……」

 そんな彼女にも、ずっと抱えてきた過去があったのだと分かり、エルは彼女への見方が大きく変わっていくのを感じていた。

 「エル・リベルテ、レナ君は君の素晴らしい仕事に非常に満足している。いささか午後の業務に支障をきたしそうだがね」
 「あはは……どういたしまして」

 壊れた懐中時計を手のひらでいじりながら、ブルーと呼ばれた男は続けた。

 「話は変わるが、ひとついいかな?」
 「はい、なんでしょうか」
 「時に、君の眼にはこの世界はどう映っているのかな?」
 「世界ですか? 急ですね……ううん……広すぎてまだ分かりませんね」
 「そうか、ではその“力”を活かして、素晴らしきこの世界を巡るといい」

 まるで、自分という存在を見透かすかのような言葉。
 どこか他とは違うブルーの眼差しに、エルは神妙な顔つきで応じるのだった。

 「さて、レナ君の心は今、ひと時の旅をしている。レアたちに、会議の再開時刻は追って連絡すると伝えてくれるかな」
 「分かりました。わたし、レナさんの心に響くものを届けられて嬉しかったです。では失礼します」

 ブルーの胸を借りているレナに会釈し、エルは執務室を後にする。

 「――エル・リベルテ」

 すると、程なくしてエルは執務室近くで待機していたレアに呼び止められた。

 「事前にエステルから連絡を入れていたと思うけれど、私の依頼は受けてもらえそうかしら?」
 「はい、勿論です。会議の再開までにはまだ時間がありそうなので、この場で依頼内容を確認してもいいですか?」

 ――翌日。
 朝のひんやりとした空気を感じながら、エルはレアの依頼をこなすために準備を進めていた。
 次の目的地は、カラージュコロニー。
 レアが兼ねてから捜索している行方不明者――元強硬派指導者“ヴォイド”の目撃情報の真偽を確かめるために。


EPISODE5 マッド・パーティ「なんて報告しよう……ひとりの人間が都市を破壊したなんて、信じてくれないかも。てか、これじゃ死神よ」


 「これが……カラージュコロニーなの!?」

 エアロクラフトを駆り、砂漠地帯を抜けてようやくたどり着いた都市カラージュコロニー。
 エルが事前にもらっていた資料には、確かに寂れた都市と記載があったが、今目の前に広がる都市の“成れの果て”は、お世辞にも都市とは言えないものだった。
 見渡す限りの瓦礫の山、山、山。
 辛うじて都市の名残を感じられたのは、資料に添付されている画像に映る塔が、瓦礫の山からちょこんと顔を覗かせているくらいだ。

 「これじゃ、依頼どころじゃないわね……」

 そうつぶやくと、エルは懐から作業用の端末を開く。
 そして、端末からは更に小さな球体状の何かが辺りに散らばっていった。

 「まずは現状の“逆再生”を優先ね!」

 エルが飛ばした無数の球体は、メタヴァース上に記録されたコロニーのデータや現地の情報端末に残る映像などを収集して現状と照らし合わせる事で精度の高い予知を行う機能を有している。
 この力を用い、エルはゼーレキアコロニーに残された情報からレナが求める遺物を見事に探し当てたのだ。
 収集された情報が、徐々に端末の中で再構築されていく。
 作業は、数十分で完了した。

 「へえ……都市が崩壊したのはつい最近の事だったのね」

 エルは端末の中心に浮かび上がった“再生”アイコンをタッチした。
 すると、空中に投影されたホログラムにグリッド線で再現された都市ができあがり、その中で住人たちが日常生活を送り始めた。
 まずは、都市が崩壊した起点を探るため、ホログラムのサイズを小さくして都市を俯瞰する。

 「この人……もしかして……!」

 何かに気づいて資料を確認する。
 資料には行方不明者ヴォイドの顔画像が載っていた。

 「やっぱり! この人がヴォイドね!」

 ホログラムのヴォイドは、何かから逃げるように都市を全力で駆け抜けている。そして、彼の隣には、彼の仲間と思しき人物が並走していた。
 この人物の正体を探りたいが、ホログラムでは大まかな外見と骨格ぐらいしか確認する事ができない。
 そして、この人物は資料にも何も記載がなかった。

 「もう少し遡ってみたら分かるかも」

 起点をヴォイドに変更し、彼の時間を一気に遡ってみた。
 ヴォイドと彼の同行者は、コロニー内の小さな店で食事をしていた。
 同行者は右腕が機械式の義手になっているようで、その手つきは少しだけぎこちない。
 そして、細かく切り分けた何かをヴォイドの皿へと器用に移していた。
 そんな行儀の悪い同行者に、ヴォイドは何やら小言を言っているようだ。

 「これなら音声を拾えそうね!」
 『…………ァッ! これだから、貴様の――』

 ノイズが酷いが、どうにか聞き取れる。
 店には、ヴォイドたちの他に数人の客がいた。
 客たちは示し合わせたように頷き合うと、ふたりの前へと進み――

 『…………ぞ! ……手配の赤……死神!』
 『……ーン、……して、……様って有名人?』

 どうやら同行者が客と揉めているようだ。
 言葉は分からなくとも、同行者の態度にイラついた男たちが敵意を向けている事だけはわかる。
 すると、口論がヒートアップしたのか、客たちが一斉に銃を取り出した。
 だが、その銃は一度も火を噴かずに地面に転がっていた。

 「いま、何をしたの!?」

 映像の速度を落とす。ゆっくりと流れる映像の中、乱暴な客たちは、同行者が投げつけたフォークとナイフを腕に喰らって、全員が同時に倒れたのだ。
 同行者の興味は、再びヴォイドと、目の前の料理へと移り――突然、店内が爆発に巻きこまれた。

 「――見つけたわ! これが崩壊の起点ね!」

 エルは起点を都市に戻して再び都市を俯瞰する。
 爆発した店の周囲には、銃で武装した大勢の男たちが待ち構えていた。

 『赤き死神! ようやく見つけたぞ!』

 どうやら同行者は、指名手配されているらしい。
 呂律が悪くて聞こえないが、賞金は~とか命が~とか連呼している。

 程なくして、何事もなかったかのように姿を現した同行者は、ヴォイドを連れながら男たちを倒し続け、都市を駆け回っていく。
 その都度、都市は戦闘の余波に巻きこまれて次々と瓦礫の山を築いていくのだった。

 「これが事の真相だったのね」

 さて、どうしよう。
 エルはレアにどう報告するべきか悩んでしまった。
 正直に話すかどうか真剣に考え始めたため、エルは気づけなかった。
 ホログラムの都市の上空に、何かの塊が飛来していた事に。

 「あ! 停止してなかった!」

 急いで端末を停止しようとホログラムに手を伸ばしたその時だった。

 「ハァイ、流れ星ちゃん」
 「――っ!?」

 その声は、ホログラムの映像が再生したものではなかった。なぜなら、声の出どころは自分の“背後”から聞こえてきたのだから。
 完全に無警戒だったエルは、咄嗟に「リベルテちゃん1号」を取り出そうとしたが、それよりも早く、エルの意識はぷつりと途絶えてしまうのだった。


EPISODE6 楽園追放「リベルテちゃんがあるのに捕まった、なんて報告できないよね……まあ、無害そうだし、いっか!」


 何者かによって意識を失ってしまったエル。
 彼女が次に目を覚ましたのは、見知らぬ船の中だった。ここが船だと直ぐに判断できたのは、愛用のエアロクラフトで空を飛ぶときの独特の揺れに近いものがあったからだ。
 これといって手枷などで拘束をされてもいないが、ジャケットの袖に収納した「リベルテちゃんシリーズ」がすべて消えていた。
 つまり、武器と端末を奪ってしまえば、自分はただの無力で、かわいくて、かしこい! 女の子としか見られていないのだろう。

 「なんか……わたし、なめられてる?」

 ふつふつと怒りがこみ上げてくる。エルは自分を狭い部屋に押しこめた人物を見つけ出し「ぎゃふん」と言わせてやると決心するのだった。

 鍵もかかっていなかった出入口の扉を少しだけ開けて通路の様子を確かめる。通路には、かなり年季の入った一体の機械が行ったり来たりしていた。

 「何あれ……? あんなの初めて見た……! どうしよう……かわいい!」

 彼女にとって、特定の意思を持たぬ機械は特別なもののようだ。ここから脱出するのは当然だが、今は目の前の機械を調べたくて仕方がない。
 エルは自分の扉の前へと戻ってきた機械を部屋の中に“お迎え”して、あっという間に構造を調べてしまった。
 どうやらこの機械は、容量の関係で一週間で記録した映像が処分されてしまうらしく、手掛かりになりそうなのは、この部屋に運びこんだ人物のシルエットだけ。
 1人は、黒のドレスをまとう少女。
 もう1人は、黒いコートにシルクハットを被った男性だった。
 彼女たちの出立や振舞は、どこか大仰だ。
 だが、それと同時にある違和感がもたげてくる。

 「うーん……やっぱり、女の子の動きが……古――」
 『なン、ですってぇええええッッ!!??』
 「ひゃっ!?」

 突然、室内に音割れするほどの甲高い女の叫び声が響き渡った。
 そして、ガシャガシャと激しい物音と共に何かがこの部屋へとやって来ていて――扉が物凄い勢いで破られたのだ。
 エルの前に現れたのは、記録に映っていた少女だった。

 「アタクシ様の、どこが古いってンのよ!!!! この、【規制音】があぁああああああ!!!!」

 大音量で突然「ピー!!」とけたたましい音が鳴り響いた。つんざくような音の波に、耳を塞いでそれが鳴り止むのを待つしかない。
 音がようやく収まったところで、エルは少女に向かって叫んだ。

 「もしかして、ここを監視してたの!?」
 「当然でしょう。貴女がどういう人物で、何が目的なのか知るためよ」
 「なるほど。でも、わたしも分かったわ、あなたが何をすると“キレる”のか」
 「へぇぇぇ? 言ってごらんなさいな」

 エルが煽れば、負けじと少女も煽り返す。
 最悪な出会い方だったとはいえ、ふたりの関係性は水と油のようだ。

 「ハ、それぐらいで止めておきたまえ」

 ふたりの言い合いが、もはやただの罵倒会と化す中、仲裁に入る人物が現れた。
 それは、記録に映っていたもう1人の人物。
 彼は片手で床にステッキを打ち鳴らすと、頭に被るシルクハットをもう片方の手で円を描くように脱いでお辞儀をした。
 どこか芝居がかったような仕草だった。

 「えっと、貴方たちは――」

 すると、男はその言葉を待っていたと言わんばかりに声高に叫ぶ。

 「ここは! 追放者の楽園ニューネメアセカンドッ! 空を飛びたいと願う貴方も、孤独を嫌い仲間が欲しいと考えるそこの貴方も! ご安心ください! 眠らない空中の楽園にいれば、そんなネジみたいにちっぽけな悩みも吹き飛ん――っでッ!?」
 「もう、アレンジしても相変わらず長いんだから。これじゃそこの女も困ってしまうでしょう?」

 そう言って突っ込みながら、チラと見てくる女。
 エルは素朴な疑問をぶつけた。

 「それ、まさか毎回言ってるんですか?」
 「ええっ! そんな事を言われたのは初めてだよ。これは、黄金時代の人類が言ってた“お約束”って文化なのに……どうしようミカ! あの子にボクたちのやり方が通じないよ!?」

 ついさっきまで大仰な振舞をしていたとは思えないほどの変わりようだ。ミカと呼ばれた少女は、彼の身体を揺さぶって「しっかりすンのよ! ダン!」とキレながら叫んでいる。
 すると、またしても少女の口から「ピー!」と規制音が漏れ始めた。

 「ああもう、うるさいうるさい! さっきからこのピーピー言ってるのは、なんなんですか!?」
 「よく聞いてくれたね! これはミカのとびきりチャーミングな癖なんだ。“お下品”な単語を口走ろうとすると……ほら、こうなってしまうんだよ」
 「ちょっと!! アタクシ様の話を聞きなさいよ!! 【規制音】で、【規制音】で、【規制音】よッ!!」
 「何言ってるかぜんっぜん分からない……」

 彼女の規制音がやかましくて、頭がうまく回らない。
 ふと、エルは、もしかしたら監督官レナの隣にいたブルーも同じ癖があったりするのだろうかと、緊張感の欠片もない考えを頭の中でこねくり回していた。

 「最近はね、ミカが何を言おうとしたか当てる遊びをしているんだ。いやあ、これが中々当たらなくてね!その度にボクは、ミカの罵倒のレパートリーの多さに感心してしまうんだよ!」
 「褒めてるんですか、それ?」
 「勿論さ!」

 もう一度ミカを見てみると、彼女はまんざらでもなさそうな表情でソワソワとしていた。
 それだけを見れば、ただの純朴な少女だ。

 「良かったらキミも一緒にどうだい?」
 「あ、結構です!」
 「ああ……それは残念だよ」
 「それで、何故わたしを拉致したんですか?」
 「それは――」

 ダンは自分たちの目的を話してくれた。
 ふたりは、カラージュコロニーを中心に近隣の都市に赤い死神と銘打った指名手配書をばらまいていたのだ。
 なんでも、このニヤケ顔の死神はふたりが築いた都市を破壊したうえ、ミカにも傷を負わせたらしい。
 そして、ふたりはついに赤い死神とその仲間を捕らえ、この船に収容したそうだ。

 「じゃあ、わたしを赤い死神の仲間だと思ったって事ですか!?」
 「ええ、そうよ! 何か文句ある?」
 「あるに決まってる! わたしは都市をまたいで大切な物資を運搬するトランスポーターなの!」
 「へえ、それが何か?」
 「ぐっ……! こう見えてわたしはピースメイカーの偉い人たちとコネがあるわ。わたしがここの話をすればきっと直ぐに飛んできて、治安を乱そうとした罪で逮捕されるかもね! 残念だったねえ、ミカ!」

 エルは居丈高にまくし立てる。
 当然、煽り耐性の低いミカが彼女の挑発に我慢できるはずもなく。再び罵倒大会が開かれようとした刹那――不意に船内から爆発音が鳴り響いた。

 「ダン! 今のは何よッ!?」
 「今調べてる……ああぁぁ、そんな! どうしよう、ミカ!」
 「うわ……無性に嫌な予感がする」

 ダンは赤い死神を捕らえていた部屋が爆破され、格納していた小型の船が強奪されたと告げた。
 3人はダンを先頭に赤い死神がいた部屋へと向かう。
 そこは、予想通りもぬけの殻だった。
 ふと、エルは壁に書かれた文字を見つけた。

 『そろそろ飽きたから行くよ、じゃあねー♪』

 ご丁寧に刻まれた♪の記号。これにはエルもカチンときた。
 ミカに同情しようと振り返ると、死神のメッセージを棒読みしたエルに向かって、鬼の形相をしたミカが迫ってくるではないか。

 「ちょっ、別にわたしが言ったわけじゃないし!」
 「あ、あぁぁアンタのせいよ! 責任取りなさい!」

 まさか、罪をなすりつけてくるとは。
 このふたりは、とことん規格外だった。

 「あンの……【規制音】ッ!!!! 絶対に、絶対にアタクシ様の【規制音】として、死ぬまでこき使ってやるんだからッッ!!!!」

 その後、エルはミカとダンの空中楽園の修理を申し出て、その見返りに所持品とエアロクラフトの返却、そして大量の指名手配書を渡されるのだった。


EPISODE7 破壊の後に残るもの「あの人はどんな想いを抱えて逝ったんでしょうね。ただ、満ち足りていたらいいなと思いました」


 空で出会ったふたりと別れ、カラージュコロニーの調査を切り上げたエル。
 このままペルセスコロニーへと帰ろうと思ったが、カスピ大地溝帯の近くまで来る事は稀だったため、放置気味だった“タスク”を更新しようと寄り道する事にした。
 次の目的地は、サマラカンダとその道中にある廃棄都市だ。

 ――
 ――――

 その都市は、バテシバ戦役に続いて楽園事変でも活躍した英雄メーネ・テルセーラが、アンシャール、マードゥクと共に巨大な機動兵器と死闘を繰り広げた場所らしい。
 所々に険しい道があったり大型の船が停泊するにも適していない場所で、機動兵器の残骸が手つかずの状態で放置されているという。
 実際に自分の目で見るのは初めてだったエルは、その機動兵器がどれほど凄いのか、また、機動兵器を2度も撃沈した“先輩”の実力を見てやろうと、半ば試すような気持ちで向かっていたのだ。

 そうして、ようやくたどり着いた都市で最初に視界に入ってきたのは、半分に折れた塔とその塔の前に横たわる機動兵器の残骸だった。
 前提知識が無かったら、エルも機動兵器の残骸をただの倒壊した構造体だと思っていただろう。
 その機動兵器の全容を完全に把握するには、エアロクラフトの高度を上げる必要がある。それほどの威容が機動兵器にはあったのだ。
 辺りに生体反応がない事を確認し、エルは近くに船を下ろした。

 塔や機動兵器を等身大で見て、エルは改めて残骸の大きさや自然の“したたかさ”を実感する。
 塔の壁や機動兵器には、表面を突き破るようにして植物が群生していたのだ。
 そして、機動兵器の“胸”と思しき場所からは放射状に広がるように、赤い花を咲かせた植物が陽を浴びて咲き誇っていた。

 「綺麗……」

 エルの足取りは、自然と花に導かれるようにひときわ花が密集している群生地帯へと向かう。
 ふと、足の裏に地面を踏みしめる柔らかな感触とは違う硬さが混ざったような気がして、足元へと視線を移す。

 「これ……本かな? わっ、すごいボロボロ……」

 エルが中身を見ようと手を伸ばしたその時――

 「きゃ……っ!?」

 本のすぐ傍に、白骨化した人間の亡骸が転がっていたのだ。
 反射的に後ろにのけ反ってしまったエルは、少し距離を取ってその亡骸を観察する。
 自然に晒されてきた事から、劣化が進んでいて本以外に身元につながりそうなものを見つけられない。

 「どうしよう……“逆再生”した方がいいのかな」

 エルは悩んだ。
 だが、仮にそれができたとて、必ずその人物の“最期”を見届ける事になってしまう。

 「ううん……やっぱり、止めとこう。なんだか、この人の想いを盗み見ちゃうような気がするし。それに――」

 ここは、ある種の“聖域”と化している。
 そこへ“タスク”の消化という気持ちでずけずけと踏み入ってしまうのは違う。
 その代わりに、エルは燃えるように咲き誇る赤い花を少しだけ持ち帰る事にした。
 近く、ペルセスコロニーで開かれる式典。
 そこで披露される、戦争で亡くなった者たちの名を刻んだ慰霊碑へと、花を手向けるために。


EPISODE8 この美しき世界に「ありがとう。皆からそう言われるうちに、わたしはこの世界を愛している事に気づけたんです」


 「――定期報告」

 ペルセスコロニーの自宅兼事務所。
 そこでエルは、慣れた手つきで端末に何かを打ちこんでいた。

 「アントゥルーヤ……脅威度更新:低
  ゼーレキア  ……脅威度更新:低
  カラージュ  ……脅威度更新:要観察
  ペルセス   ……脅威度更新:現状維持
  サマラカンダ ……脅威度更新:現状維持
  カンダ――」

 その内容は、様々なコロニーを回って調査した結果を“依頼主”である基幹システムへと報告するものだ。
 地上の再生は、戦争が終結してから飛躍的に、かつ順調に進んでいる。
 終戦直後のような過激派による反乱もすっかり影を潜め、各地を見て回ってきたエルですら驚くほどの速さで、平和への道が切り開かれていたのだ。

 とはいえ、中にはシステムの管理が行き届かない地域――オリンピアス周辺やアントゥルーヤ、ゼーレキアにカスピ大地溝帯以東などは、定期的な見周りが必要だった。
 それを個人でカバーし、場合によっては“力”を行使する事まで許されているのが、第三次帰還種エル・リベルテの“タスク”なのだ。

 進捗率の報告に加え、各地の状況や道中で出会った人物との交流を経て感じた想いを綴り終えたエルは、端末を閉じて出かける準備を始めた。

 「よし、そろそろ行こうかな」

 今日はペルセスコロニーで式典が開かれる。
 だが、彼女の目的地は式典会場ではなかった。

 「献花は朝に済ませちゃったから、また今度ゆっくり伺わせてもらうね」

 エルは発着場から慰霊碑に向けてそう言うと、エアロクラフトでカンダールコロニーへと向かうのだった。

 ――
 ――――

 カンダールコロニー中枢塔。
 そこに設けられた研究室の一室で、とある実験が行われようとしていた。
 研究室の真ん中には、2台の簡易ベッドが置かれ、その上に少女たちが寝かされている。
 それぞれが身体に点滴用のチューブや何らかの装置を取りつけられ、静かに呼吸を続けているが、その意識は無かった。

 「…………」
 「緊張しているのね、ソロ」
 「……うん」
 「大丈夫よ。だって、この日のために貴方がどれだけ努力してきたか、私たちは知ってるもの」

 ソロは、戦争が終結したあの日から、カンダールの研究室で黙々と研究を続けていた。
 その研究とは、電子の楽園メタヴァースの何処かへと消えた少女――ミスラ・テルセーラと、彼の母であるバテシバ・アヒトフェルの意識情報が留まる座標を特定し、楽園に留まり続ける彼女たちを現実世界の器へとサルベージする事だ。

 「浮かない顔してるわねー」
 「なんだ、メーネか」
 「こんな時にモヤモヤするなんて、世界を救った英雄はどこに行っちゃったのかしら?」
 「わ、分かって――ちょ、ほっぺ抓るの止めろって!」

 メーネに弄られて、ソロは少しだけ元気を取り戻す。
 これはソロがカンダールに身を寄せてからも何度か繰り返されている光景だった。
 ソロにはまったく理解できない話だが、ゼファーが言うには、自分もメーネもソロがいくつになっても我が子のように思えて仕方がないらしい。

 「まったく……」
 「あ、そうそう、実はサルベージを始める前にあんたに渡しておきたい“荷物”があるのよね」
 「荷物?」

 怪訝な顔をするソロに、メーネは「待ってて」と言い残して部屋を出ていく。
 そして、直ぐに引き返してくると――彼女の隣には、強引に腕を引っ張られてくる男がいた。

 「え……嘘――」
 「ヨアキム……なのか?」

 メーネに背中を張り手され、強く押し出されたヨアキムは、微妙にふたりから視線をそらしたまま口を開く。

 「よ、よぉ……奇遇だなぁ、ふたり揃って」

 どこか余所余所しい雰囲気でそう言ったヨアキムは、ソロたちが何か言う前に切り出した。

 「あの戦いの後、俺ぁお前さんたちの邪魔にならねぇよう、サマラカンダを離れようとしたんだがなぁ、実は急に腹が減ってぶっ倒れちまったんだ! でもって、目ぇ覚ましたら――」

 ヨアキムの良い訳は、彼に無言で抱きついてきたソロによってかき消されてしまった。

 「ふざけんな! もう、死んだと思ってたんだぞ!」
 「いやぁ……本当、わるかったって……」
 「ゼファーも何か言ってやれよ!」

 だがゼファーは既に泣いていて「うん」くらいしかまともに聞き取れなかった。

 「このろくでなしはね、カスピ大地溝帯近くの基地にずっと収容されてたのよ。包帯グルグル巻きにされた上に、私の名前を出すもんだから強硬派の暗殺者だなんだって言われちゃって。おまけに身元も不明だから調査に時間かかったわけ」
 「あぁぁぁ、おい! そいつは言うなってぇの! 少しはだな、手心ってもんがあるんじゃねぇか!?」
 「今更カッコつけたって意味ないでしょ!」
 「じゃあ……ヨアキムはもう、どこにも行かないのか?」
 「そうさなぁ……」

 ヨアキムはばつが悪そうに首をさすりながら、「残りの人生はな」とつぶやいた。

 「さぁ、これで緊張も解れたわね?」

 パンパンと手を叩いて、メーネは本題に入るよう促す。

 「ああ、完全に解れたよ、ありがとう」

 ソロは装置の前まで進んだ。
 コンソールには、何らかの座標データが入力されていて、その座標こそがミスラとバテシバのいる断片領域に当たる。
 皆が固唾をのんで状況を見守る中、ソロが装置に触れた。
 装置が起動して暫くすると、ふたりの身体に変化が現れ――

 「やった…………成功だ」

 ソロが見つめる先には、目をぱちぱちと瞬きさせるミスラがいた。ミスラは装置から身体を起こすものの、感覚がまだ追いつかないのかふらついて、支えようとしたソロの身体へと寄りかかる。
 そして、ソロの手をつかんだままゆっくりと起き上がると――「にぱっ」と笑った。

 「ただいま、ソロ!」
 「――――っ。あぁ、ああ……」

 ソロも同じように笑顔を返す。

 「おかえり……ミスラ……」

 ソロは、彼女と再会するときは、絶対に笑顔で迎えるんだと決めていた。だが、実際のところは――

 「あれ……、せっかくこの日のために練習しておいたのに……上手く笑えない……っ」
 「あはは、ちゃんと笑えてるよ」

 ミスラはそう言うと、何かに気づいたのか「ねえ」とやわらかな声で語りかける。

 「どうしよう」
 「ん?」

 ミスラは珍しくはにかむように笑っていた。
 そして、右手を上げてソロの頬をそっとなぞる。

 「わたし、追い越されちゃったね」

 ミスラがつま先立ちをしてどうにか同じ背丈になれるかどうか。
 現実の世界での変化は、ふたりに月日の流れを実感させた。

 「…………ねえ、そろそろいいかしら」

 ミスラがソロの頭に手を乗せようとしている一方、その光景を間近で見上げている少女がいた。

 「……ぁ……、かあさん、だよな?」

 少女は、小さな自分の身体を確かめるように無言のまま何度も見た後、淡々と言う。

 「ソロってこういう趣味なのね」
 「バ…………っ!!!! 違うって!!!!」

 できるだけ当時の年齢に近付けようと、ソロは基幹システムの協力を経て彼女の素体を製造した。
 だが、なんの手違いか“若干”若返ってしまったようだ。

 「まぁ、私(わたくし)はこれでも構わないけど」
 「あ、ああ……」

 言葉の端々に冷たいものを感じたが、今はそれ以上言及するのは避ける事にした。
 ソロは取り繕うように相槌を打ったあと、その場にしゃがみこんで母へと手を伸ばす。

 「お帰り、母さん」
 「ただいま、ソロ」

 バテシバの手が重なる。
 どちらともなく握り返した手のぬくもりが、確かな実感を伝えてくれた。
 彼女はいま、ここにいるのだと。

 「あっ、ずるい! わたしも混ぜて!」
 「ミ、ミスラ、狭いんだから割りこむなって!」
 「ふふ……あはは、貴方たちって本当にお似合いね」

 そんなふたりのやり取りに、バテシバは自然と笑みを浮かべていた。

 「え、母さん……?」
 「失礼ね。私だって、笑えるのよ」
 「一緒に、たくさん練習したものね!」
 「そ、それは言わないでって言ったでしょうっ」

 慌ててミスラに抗議するバテシバだったが、幸せでいっぱいな今の彼女には何も届かないようだ。

 「なんだよ、俺が一番笑うのヘタクソなのか……」

 ソロはひとしきり笑ったあと、バテシバの手をつかんで立ちあがった。

 「よし、皆に紹介しないとな。じゃないと、そろそろこの狭い部屋に押しかけてきそうだ」

 そう、今はふたりの“帰還”を祝う事が先決なのだ。
 この小さな幸せを、皆と分かち合うために。

 ――
 ――――

 「……とりあえず、ここの“タスク”は、完了かな」

 「脅威度更新:低」と端末に打ちこみ終えたエルは、そう独り言ちた。
 彼女は、中枢塔の別の部屋で“上位管理者権限”を行使してソロ・モーニアたちの様子を覗いていたのだ。
 “彼女”の地上への帰還は、システムが設定した項目の中で最上位に位置している。
 彼女がどれほどの脅威なのか、内心ワクワクしていたエルだったが、彼女たちの他愛のない会話を聞いているうちに、それは今のところ杞憂に過ぎないと判断した。
 「脅威度:低」と入力してはいるが、エルは彼女が再び世界に仇なすような脅威にはなりにくいと考える。

 名前と意識だけを引き継いだ、小さくてなんの力も持たない無垢な身体。
 だが、それで彼女が犯した罪がきれいに消える訳ではない。
 それでも、エル・リベルテは。
 あの不思議な“家族”の未来が「明るいものでありますように」と、願わずにはいられなかった。




■ 楽曲
┗ 全曲一覧(1 / 2) / ジャンル別 / 追加日順 / 定数順 / Lv順
WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧


コメント

  • AMAZONから始めた人だけどメタヴァースここまで追うことができてよかった ありがとう………ありがとう……… -- 2024-04-25 (木) 20:11:44
  • 最高のメタヴァース第二部完結だった… いつの間にか涙腺崩壊してた… -- メタヴァース最高? 2024-04-25 (木) 21:20:48
  • あまりにも良すぎエンドで感動した···········救われてよかった············ -- 2024-04-25 (木) 23:08:21
  • EP4のブルーと呼ばれている補佐官ってつまりそういう事だよな?そういう事なんだよな? -- 2024-04-26 (金) 01:11:04
  • 平和エンドで良かった……久々に泣いた -- 2024-04-26 (金) 17:51:08
  • 普通に泣いた -- 2024-04-26 (金) 19:53:15
  • 胴が短すぎる足が長すぎる。パースがおかしい -- 2024-04-27 (土) 10:44:47
  • 全身画像何処から取ってきたんや?ゲーム内から切り抜き? -- 2024-04-30 (火) 20:03:55
    • 公式サイト -- 2024-04-30 (火) 20:11:46
  • そういえばヨナってどこいったんだ? -- 2024-05-03 (金) 00:17:10
    • どこかで生きている可能性も無くはないけどパラダイス→Newの地点でたしか15年たってるって話だから耐用年数がきて死んだ可能性否定できない。ギデオンやミリアムのように明確な描写がないからなんとも… -- 2024-05-05 (日) 08:13:19

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