メリム

Last-modified: 2024-03-05 (火) 08:35:14

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※このページに記載されている「限界突破の証」系統以外のすべてのスキルの使用、および対応するスキルシードの獲得はできません。


メリム .png

Illustrator:クリス


名前メリム
年齢242歳
身分長寿種
職業魔女と呼ばれる研究者

人々から「魔女」と呼ばれ迫害されてきた長寿種の少女。

研究のさなか、ある少女と出会う。

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1ゲージブースト【NEW】×5
5×1
10×5
15×1

ゲージブースト【NEW】[BOOST]

  • ゲージ上昇率のみのスキル。
  • 初期値からゲージ6本が可能。ゲージ7本に到達するためにはGRADE301以上にする必要がある。
  • NEW初回プレイ時に入手できるスキルシードは、PARADISE LOSTまでに入手したBOOST系スキルの合計所持数と合計GRADEに応じて変化する(推定最大99個(GRADE100))。
  • スキルシードは400個以上入手できるが、GRADE400で上昇率増加が打ち止めとなる。
    • なおGRADE 400は単純計算でも33人がRank 15以上+NEW初回プレイ時点でのGRADEが4以上でようやくという計算だったが、NEW PLUSまでにおける本スキル持ちは全29人となり、GRADE 400到達にはNEW初回プレイ時点でのGRADEは52以上必要という結果になった(52+12×29=400)。
  • CHUNITHM SUNにて、スキル名称が「ゲージブースト」から変更された。
    効果
    ゲージ上昇UP (???.??%)
    GRADE上昇率
    1160.00%
    2160.10%
    3160.20%
    100169.90%
    ▲PARADISE LOST引継ぎ上限
    101170.00%
    201180.00%
    ▼ゲージ7本可能(190%)
    301190.00%
    400~199.90%
    推定データ
    n
    (1~400)
    159.90%
    +(n x 0.10%)
    シード+1+0.10%
    シード+5+0.50%
NEWでの仕様

NEWでの仕様

NEW PLUS以降、各GRADEの上昇率が10%増加した。これにより、GRADE1からゲージ6本到達が可能になった。

効果
ゲージ上昇UP (???.??%)
GRADE上昇率
1150.00%
2150.10%
▼ゲージ6本可能(160%)
100160.00%
推定データ
n149.90%
+(n x 0.10%)
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期最大GRADE上昇率
2022/9/15時点
NEW+169176.80% (6本)
NEW337193.60% (7本)
~PARADISE×436199.90% (7本)


所有キャラ

所有キャラ

  • CHUNITHMマップで入手できるキャラクター
    Verマップエリア
    (マス数)
    累計*2
    (短縮)
    キャラクター
    NEWep.Ⅰ
    side.A
    2
    (35マス)
    40マス
    (-10マス)
    メリム
    3
    (55マス)
    95マス
    (-20マス)
    ep.Ⅰ
    sideB
    5
    (125マス)
    315マス
    (-60マス)
    リタ
    ・カールステット
    NEW+ep.Ⅳ3
    (245マス)
    525マス
    (-10マス)
    黒須 紘※1
    ※1:初期状態ではエリア1以外が全てロックされている。

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 魔女と呼ばれた者「並行して存在する、ここではない世界……そこに必ずある。私達を救う全ての答えが」


 かつて『長寿種』という種族がいた。
 頭脳や肉体など才に秀で優秀な者が多く、特徴的な耳を持つ以外は、人間と何ら変わらぬ容姿を持つ彼ら。
 だが、ただ一つ。決定的に人間とは異なる特徴があった。
 それは寿命が長い事。
 数十年で一生を終える人間とは違い、長寿種の寿命はゆうに200年を超える。
 人間が何代も世代交代を繰り返すほどの時間を軽々と生きぬく個体である彼らは、人々から驚嘆され、羨望され、崇拝され――

 ――忌み嫌われていた。

 多くの人間が夢見る、長く燃え尽きぬ命。
 それを生まれながらにして有する長寿種への憧れはやがて嫉妬へと変わり、『持たざる者』は『持つ者』を迫害しはじめる。長寿種とは、人間の姿を模した理外の種族であると。
 それは時代や場所によって『怪物』や『妖魔』と様々な呼び名で恐れられ、いつしか私も――『魔女』と呼ばれるようになっていた。

 人目を避けるように森の中に篭り、面妖な魔術を研究し操るといわれる魔女。
 私はそう呼ばれることを甘んじて受け入れた。
 なぜなら、“面妖な魔術の研究”をするのに、そのほうが都合が良かったから。

 誤解が誤解を生み、殺されてしまった者。
 今もなお各地で迫害を受け続け、苦しんでいる者。
 なぜ私達は、ただ寿命が長いというだけで悲痛な運命に晒されるのか。
 私を、そして同種の仲間達を救いたい一心で、私は考え、考え、数十年という時間を費やし考え続け、そして気がついた。

 この世界の理だけでは私たちは救われない、と。
 同時に、その答えはここではない別の世界にある、とも。

 時空を、そして私たちが生きるこの世界と連立する“かもしれなかった世界”を往来するには、全ての運動作用の原点である振動――つまり『音の力』が鍵となると考えた私は、人里離れた森の中で、人間の言う“面妖な魔術の研究”に没頭する事となる。

 これは、とある人間と私が生み出してしまった『音の力』を取り巻く物語――。


EPISODE2 メリムの研究日誌「これはあくまでも自分のための記録。誰かの手に渡る事は望んでいないわ」


 ――メリムの研究日誌・Nо.1297
 この研究室に篭りはじめて何日が経っただろう。
 長寿種であり、人間との交流もない私に暦という概念は必要ないが、期間という尺度を把握できないのは不便に感じる。これからは記録するようにしよう。
 実験は……相変わらず上手くいかない。
 一時期は順調に見えたけれど、最近じゃ研究初期の段階にまで後戻りしている始末。
 なぜだろう。根本的な理論に間違いがあるのか。もしそうならば、私は再びどれだけの時間を無駄にしなくてはならないというのか。
 ……ううん。弱気になってはダメ。
 私は絶対に諦めない。必ず世界を超える力――誰も聞いたことのない音のエネルギーを探し出してみせる。
 そのためなら私は……全てを失ってもいい。

 ――メリムの研究日誌・Nо.1648
 今日は、とびきり凄い研究結果を得ることができた。
 これまでの私は“音の形”に囚われすぎていた。計測器に示される、寄せて引く波のような波形を何度も何度も目にしながらそれに気がつかなかったなんて。
 音には形だけじゃない。リズムがある。
 “この世界の音”にリズムを合わせて、位相する別の音をぶつけると、本当にごくわずかだけど時空の歪みを観測できた。
 私の立てた理論は間違いじゃなかった。
 でも、観測できたのは本当にごくごくわずかな歪みだけ。
 もっと大きく強い音をぶつけたいけれど、その手段が私にはない。
 何か強い音を発生させる装置があれば……でも、それを今から作るというの? どうやって? また長い時間をかけて研究を重ねる?
 いえ、研究が枝分かれするのは本意ではない。何より私ひとりの身には手が余る。
 何か……この世界に代替品となる道具があればいいのだけど……。


EPISODE3 錬金術師の少女「彼女の技術は、とても興味深いわ……もちろん興味があるのは技術だけ。本当よ」


 鬱蒼と木々が茂る、人の手など入りようはずもない森の奥深く。
 不自然なほどぽっかりと穴が開くように平地になったそこに、メリムの住む屋敷――兼、研究室がある。

 屋敷の中からは時折、耳をつんざくような高音や地を震わせるほどの低音など、およそ心地良いとはいえない様々な音が漏れ出してくるが、人が寄り付かないこんな森の中では気にする者などいない。
 今日も前日から夜通し実験を繰り返していたメリムは、今まさに通算3万回目の実験の失敗を噛み締めているところ。
 それは、メリムが研究を始めてから、ゆうに50年という歳月が過ぎた日のことだった。

 「これもダメね。また仮説から立て直さないと……今度は10年分くらい逆戻りかしら?」

 そう呟いて、自嘲気味に笑おうとしたその時。
 先ほどまでの騒音とは違う、どこか間の抜けた音。
 ぐぅー、という腹の音が、研究室の中に盛大に響き渡った。
 自分が空腹であるということ、同時に備蓄の食糧が尽きていることに気づいたメリムは、久しぶりに外へと食糧の調達にでかける事にした。
 森の中には食べられる草花や木の実が豊富にあり、腕力のないメリムでも兎くらいなら狩る事はできる。
 体に不釣り合いなほど大きな帽子を被り、弓矢とカゴを携えたメリムは、一人分の食糧に十分な量を確保すると、森の中に広がる草原までフラフラとよろつきながら足を運ぶ。そして、到着するやいなや原っぱの上に身を投げ、仰向けになり寝っ転がった。

 「ち、ちょっと休憩……お腹が空いてるのもあるけれど、さすがに運動不足は否めないわね……」

 ポカポカと降り注ぐ陽気と、そよそよと流れる優しい風。
 日々研究室で不摂生な暮らしをしているメリムにとって、それは地上に生きる生物として感じる、強烈な癒しであった。
 たちまち思考は鈍り、ウトウトとまぶたは下がり始める。
 メリムは、この上なく油断していた。

 「ねえ!」

 突然勢いよく頭上からかけられた声に、メリムは跳ね起きた。
 反射的に体は反応したが、頭がついてこない。正常な思考を取り戻すまでに一瞬の時間がかかる。

 ――誰!? なぜ!? 警戒心を解きすぎていた!
 まずい……まずいわ……姿を見られてしまった……!

 メリムの脳内を、人間に迫害された長寿種の仲間達の姿がよぎる。
 メリムが森の中で生活をしているのは、実験にあたってどうしても目立つ音が出てしまうというのもあるが、一番は人目に触れないため。
 もちろんその存在を完全に隠し切れているわけではない。しかし、一番近くの街の人々の間でも「森の中には魔女がいるらしい」というお伽話程度の認識にとどまっている。
 いつぶりだか思い出せないほど、久しぶりに人間と対峙して内心パニックになるメリム。
 しかし、そんなメリムをよそに眼前に立つ少女は、瞳を輝かせて興味深そうにメリムの顔を覗いている。

 「魔女……魔女だ! あなた魔女でしょう!? わー! 本物の魔女だ!」
 「!? ち、違うわ! 私は魔女なんかじゃ……」
 「だって街であなたを見かけたことないし、その大きな帽子……お伽話の魔女とおんなじだもん!」
 「こ、これは……!」

 あわてて帽子のツバを両手で押さえながら、メリムはバツの悪い顔を浮かべる。
 これまでにメリムを見かける事ができた僅かばかりの人達がその特徴を口伝するうち、長い間愛用していた帽子がトレードマークとして定着していたようだ。
 その事実に気づいたメリムは、たちまち無性に気恥ずかしくなり、少女に背を向けると森へと向かってズンズン歩き出した。

 ――思っていた以上に私の事が伝わってしまっていた……!
 ……まあいいわ。基本的に魔女は恐れられる存在。一度撒いてしまえばもう会う事は……。

 「待ってよ魔女さーん!」

 人間が魔女などと呼ぶ長寿種を迫害する要因には、恐怖心の裏返しという理由がある。
 にも関わらず、少女はその顔に一切の恐れを浮かべることなく、屈託のない笑顔でメリムの後を追う。
 理解不能な予想外の行動に、恐怖しているのはメリムの方であった。

 ――ど、どうして追ってくるの!?
 それに……わ、笑ってる! 怖い……何か怖いわ、あの子!

 早足で森の中を歩き回り、何度も少女を撒こうとしたメリムだったが、メリム以上の体力を有していると思われる少女を相手についには根負けしてしまう。
 所在が露呈するリスクもいとわず、メリムは自身の屋敷へ飛び込むと、急いで鍵をかけてドアの前へとへたり込んだ。
 少し遅れて、ドアをノックする音が響く。

 「魔女さん! 素敵なお家だね!」
 「ひ、ひいぃっ!」
 「私、魔女さんとおしゃべりしてみたいだけなの!」
 「か、帰って! 私は魔女じゃないし、話すことなんて何もないわ!」
 「ええー、驚かせちゃったかなぁ……それじゃあ、また来るね! 魔女さん!」

 ドア越しにそう告げ、屋敷から立ち去っていく少女。
 そして少女は宣言通りやってきた。
 毎日――毎日。

 ふいにドアをノックされ「魔女さーん」と声がする日々に辟易するメリム。
 何より、屋敷の所在が知られてしまっている現状は望ましい状況ではない。
 だが、大量の研究道具を抱えて拠点を移すのは大変な労力であり、魔女と呼ばれるだけあって魔法の心得があるメリムは、いざとなれば人間に危害を加える力は持っている。
 それを踏まえてメリムが取った選択は“様子を見る”というものだった。

 そんな日々が続いたある日。
 再び空腹と食料が尽きた事に気づいたメリムは、食糧の調達に出かけることにした。
 ゆっくりと少しだけドアを開け、周囲の様子を念入りに確認する。誰もいないことに安堵すると、扉から足を出すメリム。
 だがこの日、メリムは見誤っていた。
 生きる上で『音の力』の研究を一番とするメリムは、逆にいうとそれ以外の物事を蔑ろにしてしまう傾向にある。
 それは、自身の身体についても同じ。
 想定以上にお腹を空かせ肉体としての限界を迎えていたメリムは、安堵して気を抜いた瞬間、ゆっくりとその場に倒れこんでしまう。
 薄れていく意識の中でメリムが思い出したのは、遠い過去。
 もう消息さえも分からない、仲間たちの姿だった。

 カチャカチャという何かの作業音と、鼻をくすぐる良い香り。
 それらを認識したと同時に、メリムは目を覚ました。
 見慣れた自身の研究室。見慣れたベッドの上。
 ただ違うのは、あの少女がキッチンに立っていることだけ。

 「あ、起きた?」

 メリムは飛び起きようとするが、体が動かない。

 「ち、ちょっと! 大人しくしないと! さっきまで気を失ってたのに動いちゃダメだよ!」

 少女はそう言うと、メリムの元へとやってきて黄金色のスープの入った器を差し出す。
 そして、思うように動けないながらも警戒を解かないメリムに向かって苦笑しながら続けた。

 「毒なんて入ってないよ。それ飲んで、元気つけなきゃ。ね?」

 空腹で倒れたメリムにとって、それは正論以外の何物でもなかった。
 何より、先ほどから鼻を刺激する魅惑の香りに抗うことは出来ず、メリムは恐る恐るスープに口をつける。

 「……美味しい」

 自然と口から漏れる感嘆。
 研究第一のため、料理ともいえないほぼ素材のままの食料を摂取していたメリムは、胃を満たしていく暖かいスープに心まで解れていき、飲み干す頃には少女のことを「悪い人間ではないのかもしれない」と思うまでになっていた。

 「すごいお家だね。見たこともない機械だらけだ。何に使う道具なの?」
 「……研究。私は、『音の力』の研究をしているの」
 「音の……力?」

 メリムは、振動――すなわち『音の力』を、別の何かに作用するほどの甚大な力に変換するための研究をしていると、自身の目的をかいつまんで話した。
 それを聞いた少女は、「音の力かぁ」と呟くと立ち上がり、バッグから何かを取り出してみせる。

 「私も音に関する研究をしてるんだ。これは私が作った道具なんだけど……聞いてもらったほうが早いよね」

 そう言うと、弓にも似た道具を、幾重にも張られた弦へあてがった。
 直後、これまでに聞いたことのない音色が研究室中へ響き渡る。
 小さな振動が、大きく増幅されていく。
 目を見開き、食い入るようにそれを見て、聞いていたメリムはベッドから体を起こすと、すがるように少女に尋ねた。

 「そ、それは……!?」
 「これはね、私が作った『楽器』っていう道具なんだ。これを使ってさっきみたいな音を鳴らす……あ、『演奏』っていうんだけど。私はその研究をしているの」
 「く、詳しい話を聞かせて!」
 「もちろん! でもその前に……」

 メリムに向かって手を差し出しながら少女は続ける。

 「私はリタ。リタ・カールステット。15歳。錬金術師よ。ね、あなた、友達になってくれる?」

 一瞬面食らったメリムだったが、おずおずとリタの手に自身の手を伸ばす。

 「私は……メリム。あなた達からは……魔女、と呼ばれているわ」


EPISODE4 初めての“誰かと”「笑ったり、怒ったり。不思議な気持ち。こんな日々が来るなんて、思ってもなかった」


 音が持つ力を追い求めるという二人の研究は驚くほど共通する要素が多く、意見交換から始まった交流が、いつしか自然と二人共同の研究となっていくまで、そう時間はかからなかった。

 「リタ、準備はいい? 次は二人同時に音を鳴らして、それがぶつかる反応を見るの」
 「オッケー、メリム。いつでもいいよ!」
 「この実験はタイミングが重要よ。絶対に間違えないようにね」
 「大丈夫! 『いっせーの』の合図だよね!」
 「ええ。それじゃあいくわよ。いっせーの……」
 「せー、のっ!」
 「せっ!」

 明らかに一拍遅れた声が聞こえた瞬間。
 けたたましい不快音が響き渡ったかと思うと、窓ガラスやグラスなど研究室内のガラスというガラスが激しく砕け散った。
 さらに、呆然とする二人へダメ押しとばかりに、少し遅れてそれぞれの手元にある装置まで爆発する。

 「……ち、ちょっと! タイミングを合わせてって言ったでしょう!」
 「あ、合わせたよぉ。いっせー“の”、って」
 「普通『いっせーの』と言われたら、最後に“せ”で合わせるものよ!」
 「えー!? 私の街ではこうだもん!」

 あーでもない、こーでもないと口論になってしまうメリムとリタ。だが、二人にとってこんな事は日常茶飯事。
 性格は違えど不思議とウマが合う二人は、しょっちゅうケンカはするものの後に残さない。
 数分後には先ほどまでの事などすっかり忘れ、また二人笑いながら実験を進める。
 それがメリムとリタ、二人のリズムだった。

 「ねえ、メリム。次の実験は新しい段階に進むって言ってたけど、どういうものなの?」

 床に飛び散らかったガラスの破片をホウキで片付けながら、リタが尋ねる。
 爆発した装置から再利用できそうな部品を選定しながら、メリムはそれに答えた。

 「次は……音を言語に変換する実験よ」

 メリム曰く次の実験の目的は、“音”そのものに対して『A』『B』『C』といった言語を付与し、変換する。
 それらをプログラムのように組み上げ、『音の力』を任意に操る、というものだった。
 そしてそれは、リタからもたらされた『演奏』という概念からヒントを得たのだという。

 「そっかぁ……音を自由な言葉に……うん、おもしろいね! よーし、やる気湧いてきた!」

 そう言って、上機嫌にせっせかホウキで掃いてみせるリタ。
 しばらくその姿を眺めていたメリムは、ふと昔の自分を思い出す。
 メリム一人で研究を進めていた頃は、正直に言って成果としては芳しいものではなかった。それこそ、数十年の歳月を費やしてしまったほど。
 仲間のために結果を出したい。だが、思い通りにいかない。
 そんな日々に、いつしかメリムの心はカラカラに乾いてしまっていた。
 でも今は違う。
 錬金術師であるリタと互いの意見を交換しながら、新しく生まれた発想をどんどん試す毎日。
 そのうちに研究は驚くほど進んで、いよいよ『音の力』を行使しようという段階までやってきている。
 メリムは、純粋に毎日を“楽しい”と感じている。
 反面、辛い目に遭っているだろう仲間達への後ろめたさも、その小さな背中に覚えていた。


EPISODE5 臆病な魔女「そんなつもりじゃなかったの……でも、どうしたらいいのか私は分からなくて……」


「B……B……C……Eぃ~~……D!」

 音階を口に出しながら、リタはお手製の楽器を爪弾く。
 ひとつ実験が片付き、お茶を入れたカップを片手に一息ついていたメリムは、楽しそうにそれを眺めていた。

 「うん。何となく曲ってものになってるわ。不思議ね……音にそんな使い方があるなんて」
 「えへへ~、でしょ?」

 研究と実験、そして友達同士のおしゃべり。
 いつもの風景。いつもの時間。
 そこへ“いつもの”ではない一言を発したのは、リタの方だった。

 「メリムはさ、音の力をもっと大きなモノにしたいって言ってたじゃない? その力を使って、何がしたいの?」

 あっけらかんとリタはメリムに尋ねる。
 リタ本人も大きく意識しているわけではなく、誰から見ても自然でなにげないその一言。
 だが、長い間二人で研究を進めてきたとは思えないほど、研究自体の根底にあるこの質問が問いかけられるのは、これが初めての事だった。
 メリムの人生、そして出自には辛く悲しい背景があり、当然本人が嬉々として話すようなものでもない。
 人の気持ちを尊重するリタは、二人の距離が縮まったからといってその心の領域に安易に踏み込むこともなく、今の今までこうして尋ねることはしなかった。
 だが、研究は最終段階へと近づいている。
 このまま順調にいけば、間も無く『音の力』の解明に近づくだろう。
 研究は実を結ぶ。だが、その後は?
 道理としては、尋ねないほうが“不自然”であった。

 「……リタはどうなの」

 問いには答えず、質問で返すメリム。
 全てを晒すには、まだ勇気が足りない。

 「うーん……何がしたいかって言われると難しいなぁ……うん、今までの私と何も変わらないかな! 楽器で音を操って演奏すると、みんな笑顔になったり癒されたりしてくれる。その力をもっともっとたくさんの人に知ってほしい。だから、『音の力』を深く知りたかったんだ。それだけ!」
 「……そっか」

 リタがどう答えるか、メリムは大体分かっていた。
 日々メリムに向けられるリタの笑顔。その表情に、薄暗い過去など潜んでいない。
 清く澄んだ水のような、眩しすぎて目が開けられないほどの純粋さを、メリムは感じていたから。
 だから、日々「音でみんなを喜ばせたい」というリタの口癖は、それが全てなのだと理解していたのだ。

 「私はね……」

 今度はメリムが自分の目的を話す番だ。
 先にリタに答えるように仕向けた。だから次は自分。
 それは、否応なしに話さなくてはならない環境を作る、形だけの儀式のようなものだった。
 意を決したメリムは、頭に載せた大きな帽子を取ると、髪をかきあげて見せる。

 「見て、この耳。私、長寿種と呼ばれる種族なの」
 「うん、知ってた」
 「……そうよね。気づいてると思ってた。この森で、長い間魔女と呼ばれているんだからわかるわよね」
 「いやいや……っていうか、こんなに一緒にいて気づかないほうがおかしいよ!」
 「……それもそうね」

 二人でひとしきり笑った後、メリムは自分のことを語り出した。
 迫害の歴史、長寿種という異質な存在がこの世界に存在する違和感、音の力、別の世界。
 何十年、何百年。
 ひたすら一人で秘めていた思いを吐露するごとに、メリムは自分の中の澱のようなものが流れていくような気持ちになっていた。

 「仲間達を助けるには……それに私達がどこから来たのか解き明かすには、ここではない世界に行かなければいけないと思ったの。この世界と隣に並列する別の世界……私はその世界を自由に渡り歩く力が欲しい。そのために、時空を超えるほどの大きな音の力の研究を始めた……これが、私が生きる理由の全て」

 過去、現在、未来。
 話し尽くして、どこかすっきりしたメリムに対して、意外にもリタは困ったような表情を浮かべていた。

 「メリム、話してくれてありがとう。でも、少し気になることがあるんだ」
 「なに?」
 「別の世界に行けるようになったとして、そこがどんな場所かなんて分からないよね? もしもすっごく危ない場所だとしたら? それこそ、人が生きられないようなところだったら……」
 「構わないわ」

 メリムは即答する。そして「前に進めるのなら、私の命なんてどうなってもいいの」と言った。
 それを聞いたリタは、今度はハッキリと、怒りの感情を見せる。

 「そんなの間違ってる! 仲間を助けるために、自分は死んでもいいなんて……絶対におかしいよ!」

 メリムは空腹で倒れてしまうほど己を顧みない。それは無茶な行動ではなく、メリム自身の価値観そのものだった。
 リタは強く憤る。それはそれは、不器用に。
 メリムの背景を知ったとして、その全てを理解する事は不可能だ。種族など関係なく、人は他人に成り代わる事はできない。身体も、心も。
 リタにとって心の底から大切なのは他の長寿種達ではなく、メリムなのだ。それは当然のことだった。

 対して、メリムはリタの言葉に一瞬驚いた後、今度はリタ以上に激しい怒りを顕わにした。
 リタが否定した事は、自身の全てを否定すること――そう捉えてしまったのだ。
 もちろんリタの真意はそうではない。ただ、友達を思うからこその言葉であったのだが、それを汲むにはメリムはあまりに長い時間を一人で過ごしすぎた。
 メリムもまた、悲しいほど不器用だった。
 互いの主張は平行線を辿り、やがて互いを傷付けるだけの口論へと発展してしまう。

 「リタには分からないわ! そんな……甘い考えで音の力を研究していたあなたには!」

 メリムの口から滑るように溢れてしまった言葉。
 本心ではない。ただ、熱くなって何か言い負かしてやりたかっただけ。
 だが、その代償は大きかった。
 途端にリタの瞳が見たこともないほど薄暗く光を失ったと思うと、そのまま黙って研究室から出て行ってしまう。

 「リタ……っ!」

 声を出すも、追いかけることはできない。
 これまで執拗に人間との接触を絶ってきたのは、長寿種だからという理由だけではない。
 誰よりもメリムは――臆病だったのだ。


EPISODE6 全てを解き明かせるのなら「それを否定してしまっては、私が私を否定する事と同じになってしまうから」


 これまでの二人のケンカといえば、ケンカと呼ぶにはあまりに微笑ましく、数刻後にはなぜケンカをしていたかも忘れてしまうようなものばかりだった。
 だからこそ今、メリムは動揺を隠せないでいる。
 リタはもう――3日も屋敷を訪れていなかった。
 それほどの期間が空くのは、あの日二人が森で邂逅してから初めてのこと。

 どうすればいいのか分からず、研究室の大きなデスクに座ったメリムは頬杖をつく。
 現在の研究成果は、ほとんどが二人共同になってからのもの。ひとりで勝手に進めるわけにもいかず、進める気にもなれなかった。
 ため息をつくと、なんとなく手持ち無沙汰になって、デスクの上に置いてある振り子の玉をいじりはじめる。
 それは、二人で作り上げた次元を超えるための装置のスイッチ。
 完全ではないが、何かしらの成果を生むことは予想できた。
 あとはいよいよ実践してみるだけ。その段階になって、大事なパートナーとの仲違い。
 様々な理由で宙ぶらりんになっていたメリムは、集中力を欠いていた。
 ゆっくりと振り子の玉を元の位置へと戻そうとした瞬間。メリムは手を滑らせてしまう。
 玉は対となったもうひとつの玉へ衝突すると、互いに何度も衝突しながら物理法則を無視して描く孤をみるみる大きくしていった。

 「あっ、ああっ……!」

 焦ったところでもうどうにもならなかった。
 振り子が生み出すエネルギーは次の装置へと作用し、その装置はまた次へと力を伝えていく。
 連鎖する運動は、研究室の周りをぐるりと囲むように配置された様々な楽器達へと波及し、不思議なメロディを大音量で奏で始める。

 「ど、どうしたらいいのっ!?」

 完全に起動してしまった装置を前にメリムが止める手立てはなく、無数の楽器が奏でる音――すなわち振動は、複雑にぶつかり合い、ビリビリと肌で感じるほど空気を揺らし、やがては視界が揺らぐほどの大きな力にまで膨れ上がっていた。
 メリムは呆然とそれを見る。彼女の頭の中には今、リタや仲間達の姿はない。
 だが、“実験が成功した喜び”が満ち溢れ、メリムはそれを噛み締めていた。
 その時だ。
 研究室の中心で渦巻いている空間のねじれ。それが、柑橘類の皮を剥くようにめくれあがっていく。

 「時空の……向こう……」

 メリムがこぼした言葉は、結果からいうと正解であった。
 めくれた振動の“中身”は、本来ここにあるはずのない風景が広がっている。

 「この向こう……別の世界に“行けば”何か掴める」

 メリムはそう信じ続けていた。
 だが、もうひとつの可能性については、考えたこともなかった。

 サイズの合わぬ時空の裂け目を無理に破り広げるように。
 それは――“来た”。
 片腕、もう片腕、頭。そして身体。
 巨体を捻るように少しずつ。メリムの屋敷自体を吹き飛ばしながら。
 まるで煉獄からはいずり出たような重々しい炎を纏い――いや、炎自体が肉体として質量を持った、炎の巨体。
 どす黒く鈍い輝きを放つそれは、圧倒されるリタに向かって口を開く。

 『……なるほど。干渉する者の存在は感じていたが、よもやここまでとは』
 「あ、あなたは……一体……」
 『問うのは我だ。貴様はこの世界の秘密を知りたくはないか? 貴様の生み出したその音の力。我に差し出せば全てを教えてやるぞ。我の力を貸す事もやぶさかではない』

 世界の秘密。世界の全て。それらを教示するという、荒唐無稽な話。
 だが、それを信じてしまうほどの恐ろしさ、神々しさを、目の前の巨体は放っている。
 この世界のものとはどこか違うが、魔力に似た強大な力も感じ取れる。
 長年追い求め続けていた“世界の全て”という甘い蜜を差し出されたメリムは、その誘惑に勝つ事ができない。

 「……承知しました。音の力、そして私という存在を……貴方に捧げます」


EPISODE7 そんな目で見ないで「そんな顔……私に見せないで……だってそれは“友達”に向けるものじゃないわ!」


 メリムの意識は白濁していた。
 半分起きているような、半分眠っているような。
 だが、倦怠感は感じない。それどころか、はち切れそうなほどの生命力を感じる。
 気づけばメリムは、炎の巨体と意識を共有させていた。
 メリムであって、メリムではない。それは炎の巨体と契約し、傀儡と化した証明であったが、今の彼女はそれに気づかない。
 ただ、とてつもない力と、不思議と胸の奥から湧き上がってくる“怒り”の感情が全身を満たしていく。

 「ここだ! やはり魔女がいたぞ!!」

 突然、見知らぬ人間の声が響き渡った。
 それはひとつではなく、たちまち大きな集団となって、思い思いの武器を持ちメリムに対峙する。
 「なぜここが」「ここを知っているのはリタだけのはず」。
 信じたいという思いはすぐに消え、メリムはひとつの答えを導き出す。

 「ああ……やっぱりそうなのね……」

 残ったのは深い失望。そして怒り。
 迫害された仲間達。彼らの気持ちをメリムは真に理解する。

 「そっかぁ……みんな、こういう気持ちだったの……人間なんかを信じた私が愚かだったわ」

 虚脱するメリムをよそに、炎の巨体を前にした人間達は、恐怖を打ち消すように奮い立たせて叫ぶ。

 「魔女がおかしな魔術を使っているぞ! 何か起こる前に、我らで退治するのだ!!」
 「おおー!!」

 武器を持ち、突撃してくる人間達に向かってメリムは――炎の巨体は軽々と腕を振った。
 瞬間、火炎が巻き起こり、人間を、その奥にある森までえぐりとるように燃やしていく。
 突然繰り広げられた地獄絵図に一瞬言葉を失った人間達は、たちまち恐怖を表情に浮かべて喚きながら撤退していく。

 (すごい……この力を……私が?)

 人の生死を手中に収めるほどの力を振るえた事に、メリムは高揚していた。
 この世界では説明できない人知を超えた力。それは時空の向こうにあった。自分の研究はやはり正しかったのだと。
 そしてメリムは悲痛にも命を落としていった……今も苦しんでいる仲間達を思い出し、少しずつ、ゆっくりと歩を進める。
 人間達が逃げ出した先。森の向こうにある街へと。
 炎の巨体と融合したことにより、怒りの感情は無限に膨れ上がり胸を支配する。
 だが、メリムはそれに戸惑ったり押さえようとはしなかった。
 感情に任せて力を行使する。頭にあるのはそれだけだった。

 やがて炎の巨体は森を抜け、街外れへと辿り着いた。
 目と鼻の先にはもう街が見えるほどの、荒れた街道。
 メリムの行く手を阻むように立っていたのは、リタだった。

 「メリム……」
 「……どいて、リタ。死にたいの?」
 「死なないよ。それに、メリムを取り返す」
 「……ッ!? どの口が……!!」

 メリムが腕を振るうと、リタは紙切れのように吹き飛んだ。
 街道に新しく歪な炎の道が生まれたが、リタの身体は燃えていない。
 怒りに支配されながらも、臆病なメリムは――初めての友達を殺すことができなかった。

 規格外の力を前にし、リタは気持ちだけではどうしようもない事を理解する。だが、倒れながらも再びメリムを見据え、小さく身体を震わせていた。
 メリムは、そんなリタの姿に途端に胸が締め付けられるような気持ちになった。

 ――やめて。そんな姿を見せないで。そんな……そんな瞳を私に向けないで!

 震えながらもリタの瞳には闘志の色が浮かんでいる。
 それはメリムが向けられた事のない目。
 これ以上自分を苦しめるのなら、やはり目の前からいなくなってもらうしかない。
 メリムがそう決意しかけた、その時だった。

 『……ッ!? この気配は……! おのれぇ……我を追ってきたかぁぁぁ!!!』

 炎の巨体がそう叫び終わる前に、メリムが居を構えていた森の奥が一瞬光ったかと思うと、強烈な光が眼前を白く染め視界を奪う。
 眩しさに抗いながらゆっくりと目を開けると、手のひらに乗るほどの光の塊がリタのそばで浮遊していた。
 何を話しているかは分からない。ただ、リタが2、3度何か話し、頷いたかと思うと、うねるような大きな力がリタを包んでいく。
 気づけばリタは立ち上がり、メリムと対峙していた。
 自身と同じように、見知らぬ神を背に携えながら。


EPISODE8 遠き輝かしい日々「楽しかったな……演奏も、歌も、料理も。貴方が残してくれたもの、今は忘れるわね」


 ついこの間までは……私は彼女と並んで……笑い合っていた……。
 なのに、この光景は一体なに? どうしてこうなってしまったの?
 どこで選択を誤ったのか……もう分からない……。
 私はただ……私の生きる目的を果たそうとしただけなのに……。

 そう……私が果たすべき目的……。
 その指針さえ見失わなければ、これ以上間違える事はないでしょう……。

 ……?
 ええ……『今は力を失う時ではない』と……はい……分かりました。
 ここは一度退きましょう……私も未だ志半ば……成就させるためならば、どこまでもついていきます……たとえそれが、煉獄の奈落であっても。

 さようなら、リタ――




■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
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