導師 ミィム・ミクラー

Last-modified: 2025-11-13 (木) 20:12:52

【キャラ一覧( 無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE / NEW / SUN / LUMINOUS / VERSE )】【マップ一覧( LUMINOUS / VERSE )】

※ここはCHUNITHM PARADISE LOST以前に実装されたキャラクターのページです。
・このページに記載されている「限界突破の証」系統を除くスキルの効果はすべてCHUNITHM PARADISE LOSTまでのものです。
 現在は該当スキルを使用することができません。
・CHUNITHM PARADISE LOSTまでのトランスフォーム対応キャラクター(専用スキル装備時に名前とグラフィックが変化していたキャラクター)は、
 RANK 15にすることで該当グラフィックを自由に選択可能となる。

通常古き終焉の奏者
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Illustrator:煎茶


名前ミィム・ミクラー
年齢不詳(10代の少女のようだが……?)
職業旧世代の技術を伝える導師
CV釘宮 理恵   (ネタバレ注意!)
英傑大戦コラボカードのみ、チュウニズムではボイス無し*1
  • トランスフォーム*2することにより「古き終焉の奏者」へと名前とグラフィックが変化する。
    PARADISE LOSTまでのトランスフォーム仕様
    • 専用スキル「輪廻の導き」を装備することで「古き終焉の奏者」へと名前とグラフィックが変化する。
    • RANK25にすることで装備したスキルに関係なく上記のグラフィックを自由に選択可能に。
  • 第三回キャラクター人気投票において第1位を獲得した。
  • 対応楽曲は「宿星審判」「輪廻玲々」。

正体不詳の導師。
ミィム・ミクラー【通常 / 真なる世界への祈り / 豊穣のブルーノヴァで

ある目的のために神話教国の聖女セラフィナに近づくが…?

スキル

RANKスキル
1輪廻の導き
5
10
15ひとつの約束


輪廻の導き [CATASTROPHY]

  • ハイリスクハイリターンの極地の一つ。AJコレクター専用スキル。
    パニッシュメント系列の最終形態。あるいは汎用スキル版反響の双閃
    • 完走=ALL JUSTICEとなるため、AJのみが目的であればこの上ないスキル。
      当然相応の実力が求められる。
GRADE効果
理論値:186000(9本+6000/30k)[+2]
共通ATTACK以下1回で強制終了
初期値ゲージ上昇UP (300%)
+1〃 (305%)
+2〃 (310%)


ひとつの約束 [CATASTROPHY] ※専用スキル

高確率でスコアにマイナスの影響を与えます。

  • ブラッディサクリファイスが若干マイルドになったような効果。それでも判定難化が加わっているため、リスクは極めて高い部類であることに変わりはない。
    • 効果を要約すると「TAP判定難化(強)、MISS判定3回で強制終了完走すればゲージ9本」。性能は終了ボーナス型になったアナタ、怠惰デスね?。終了時ボーナスのみなのでJUSTICE以下がゲージ量に影響しない分、性能は上と言える。
GRADE効果
理論値:191999(9本+11999/30k)
初期値ゲーム開始時 +11999/終了時 +180000
ゲージが上昇しない
TAPの判定が非常に厳しくなる
MISSで -4000/ゲージ0で強制終了

ランクテーブル

12345
スキルEp.1Ep.2Ep.3スキル
678910
Ep.4Ep.5Ep.6Ep.7スキル
1112131415
Ep.8Ep.9Ep.10Ep.11スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 永き旅路の果てに「一緒に見届けてね? あたしたちが誓った約束と、世界が課した契約の、その先を……」


 旧世界で勃発した、神々とそれに仇なすものたちの戦い。それは、世界の破壊者ともいうべき存在によって収束した。
 その予期せぬ形での決着は、結果的に両者が求めてきた新たな人類の誕生を生み出す切っ掛けとなる。
 電子の楽園に膨れ上がった数多もの世界は、ひとつの世界として結合し再編されるのだった。

 ――そこに、かつての支配者たちの姿はない。

 彼らがいた場所や、用いてきたものは、悠久とも思える長い歳月を経る中で、本来の役割も分からぬ程に風化していた。
 それらはやがて『聖遺物』と呼ばれるようになり、大陸に生きる人々の生活を支える利器となっていく。

 この新世界で、人々は懸命に、逞しく生きていた。

 ……そんな世界の片隅で。
 少女はひとり、空を眺めている。
 少女はかつて世界の破壊者との戦闘で重傷を負い、身体の破棄を余儀なくされた。
 だが、その直前に見つけた人間の身体に精神情報を移す事で、消滅を免れていたのである。

 「独りぼっちは……やだ……つまんない……」

 どれ程の刻が過ぎ去ったのか。
 最初のうちは退屈を紛らわすために、人々を焚きつけ争いを起こさせたりもしていた。
 しかし、同じ事を繰り返している内に、少女はそれさえも飽きてしまったのだ。
 それでも、彼女が彼女である事をつなぎ止めていられたのは、

 「みんなとの約束……叶えなくちゃ」

 共に戦い、共に生きた家族との誓い。
 それだけが唯一の支えだった。

 ――それから月日は経過し。
 ある日、少女は旅の道中で流浪の導師と出会う。
 導師は、僅かに輝く金色を纏った白くきらびやかな髪に加え、海のように蒼い瞳を持つ美しい女性だった。
 彼女は独りで旅をする少女の事を心配してか、何かと構ってきた。当初は嫌がっていたものの、少女も次第に心を開き、いつしか共に旅をする関係を築くまでになっていく。
 導師と旅をする中で、少女は不思議と自身の事や家族の話をするようになり。
 導師もまた、自身の生い立ちや、縁のある神話教国の話をするのだった。
 その話の中で、導師はとある旅で見つけた小さな光の柱の事を語った。
 それは、神代の遺構から漏れ出るように、淡い光を放つもので、この世のものとは思えない神秘的なものだったと言う。
 少女は、その話を聞いて確信した。それこそが、地上へと繋がる手がかりになるのだと。

 「ねえ……連れてってよ、そこに!」

 嬉々として興味を示す少女に、導師は快諾し、北の最果ての地を目指す事となった。
 そして、目的の場所に辿り着くと、少女は淡い光を放つ柱<ゲート>の存在を確認し……。

 「え……?」

 少女は愕然とした。
 それと同時に、柱から漏れる光がもたらした断片的な情報で、ゲートの起動にある物が必要である事を知る。
 それは――蒼き聖剣『ゼーレタクト』。
 かつて少女を瀕死の状態にまで追いやった剣だった。

 「ハハ――そういうこと……」

 ひとり納得する少女をよそに、導師は何が起きたかも分からず、不安げに少女に問いかける。
 少女は導師に振り返ると、告げた。

 「その身体、あたしにちょうだい?」

 導師は一瞬にして少女の精神体に、身体を乗っ取られてしまうのだった。
 身体を奪われる瞬間、導師は消えゆく意識の中で流れ込んできた少女の持つ記憶を辿る……。
 選ばれなかった人々が歩まされた絶望の歴史と、そこに残された少女の持つたった一つの希望を。

 「あ、あなたの望みが、叶う事を、願って――」

 導師は自身の最期を悟ると同時に、少女の願いを聞き入れるかのように、祈りの言葉を紡いでいた。

 「最期にあたしの心配をするなんて、変なヤツ……。でも、この身体、凄い! 力が溢れてくる!」

 瞳が鮮やかな蒼から蠱惑的な紫へと変化した事で、身体の完全支配が完了する。
 分かたれた英雄の血、導師の身体は祖が体現して見せた強き人の進化を今に伝えるようだった。
 導師の身体を得た少女が喜ぶのも束の間。
 淡かった光は突然、輝きを強め、まばゆい光をまき散らしながら天へ伸びていった。
 そびえ立つ塔のように柱を形成した光。
 少女が柱を見上げると、そこへ一筋の光が走り、柱へと注がれていく光景が広がっていた。

 少女には何か感じるものがあったのだろう。
 空を眺めて、しきりに頷いていた。

 「あの方角は神話教国だ。そこにあたしの求めるものがあるに違いない。長かったなあ……やっと動き出すんだ」

 この物語の、終わりの始まり。
 少女はひとり、歩を進めるのだった。


EPISODE2 救世の剣の巫女「あの女の顔……。こういう時、人間なら『運命』って言うのかな?」


 『神話教国』。
 この国は、あたしが目覚めた時には既に国として成り立っていて、発掘された聖遺物を都市機能に組み込み、繁栄の限りを尽くしていた。
 ここまで繁栄を築いてこられたのは、この国の建国の祖に、あの女が関わっていたからだろう。

 建国の英雄『セーレ・ヘイズ』。
 この世界が統合される以前、あたしたちネメシスとメインフレームの最終決戦に突如現れ、世界そのものを作り変えた女。
 そして、統合後の世界を修復し、再生へと導いた女でもある。

 だから、この国はあたしにはちょっと居心地が悪い。
 この身体に傷はないのに、昔斬られた箇所が痛み、胸を締め付けるような気がするから……。

 光の塔に向けて伸びていた光は、この国が管理する『フォノ神殿』と呼ばれる場所が起点となっていたようだ。
 ここは忘れもしない、あたしたちが侵攻したフォノ・ゼニスの中枢。

 そこには、かつてセーレが振るっていた剣が奉られているらしい。
 その神殿の前までやってくると、そこは何故か見物客でごった返していた。
 どうやら、この国を統治する王族たちの行事が行われている最中のようだ。

 見物客の間に混じって眺めてみると、末席に見覚えのある顔をした女が立っていた。

 「あ、あの顔……それに……あれは!」

 あたしの視線は、その女が持つ蒼く輝く剣に釘付けになっていた。

 「あの剣……形は変わってるけど、間違いない」

 あれこそ、あたしが探し求めている鍵。
 その鍵となる剣に選ばれた女。
 あたしのするべき事が決まった。


EPISODE3 世界とつながる力「この世界の根幹にアクセスし、力を己が物とする力。彼女の心の強さ、それこそが剣に選ばれた理由」


 剣に選ばれた巫女――セラフィナとの旅の許可を得たあたしたちは、光の塔を目指すべく、教国を出立した。

 目的地はアプスの谷の奥にある。
 旅の道中で、あたしたちは豊穣の都や、緑の生い茂る草原を見て回った。
 見た事のない世界を目の当たりにして、セラフィナはころころと表情を変えて全身で喜びを表している。あたしには、それがなんだか無性にまぶしく思えた。
 それからも小さい動物みたいにあちこち動き回るセラフィナだったけど、そんな旅に突然暗雲が立ち込める。

 旅にも慣れ始めて三日程経った頃だろうか。

 辿り着いた村。
 そこは無残にも焼け落ち、誰一人として生き残ったもののいない惨憺たる光景が広がっていた。

 「ひどい……どうしてこんな事ができるの……!?」

 彼女は次々と溢れる大粒の涙を隠そうともせず、
泣きじゃくっている。
 そう、世界は綺麗なものだけではない。
 新世界になっても、人々は争いや略奪を今も止められずにいたんだ。
 悲しみの色を深くするセラフィナ。すると、彼女が佩(は)いた剣は彼女の感情に応えるように、輝きを強めていた。

 彼女は気づいていないが、あの光こそ『エーテル』の輝きに他ならない。
 この世界に生きる人々は、VOXを使わずに世界の根幹へアクセスし、『エーテル』という特殊な力を行使する能力に目覚めていた。
 プログラムとの融合を果たしてきたヒトが、進化の果てに会得したもの。
 それは……心の力だ。

 彼女から発せられる光は、あたしが見て来た人間の中で、最も輝きに満ちている。
 セラフィナはとても感受性が豊かだ。
 他者が傷つけば、自分の事のように泣く。
 そんな純真さと気高い心を持つからこそ、セーレの血を引くものの中で、彼女が選ばれたんだと思う。
 彼女の感情を強く揺さぶる事ができれば、彼女とゼーレタクトの力は、あたしの想像を超えたものになるかもしれない。

 彼女のような人間が、この世界には必要だろう。
 でも、あたしが求めているものは違う。
 あたしたちを超える存在。
 彼女には、そうなってもらわなくちゃ困るから。
 大切な約束を果たすためにも。


EPISODE4 反逆者レヴル「ずっと……ずっと探して見つけられなかったのに。こんな形で再会なんて、したくなかった!」


 彼女の力は、旅の道中に出現したネメシスの眷属たちとの戦闘を経て、目覚ましい進化を遂げていた。
 これならば、あたしの目的を果たす事ができるはず。

 そんな確信を胸に秘め、あたしたちはついに目的地である光の塔へ辿り着いた。

 異変を感じたのは――その矢先の事だった。

 「――危ないッ!」

 突如感じた禍々しい殺気と共に放たれた鉄の塊が、煙を上げて地面に突き立つ。それに端を発して、岩影から無数のネメシスの群れが現れた。
 そして、それらをかき分けて姿を見せたのは――

 全身を赤黒い鉄の鎧で覆った、神を恨む憎悪の塊。
 どれだけの刻が経っても、忘れる事のない存在。
 ――血を分けたあたしの家族。

 『反逆者レヴル』が、こちらを見下ろしていた。

 なんで……世界中を駆けずり回って探したのに……どうして、このタイミングであたしの前に現れたの?

 「そ、んな……どうし……ねえ、あたしが……る?」
 確かめようと問いかけたけど……あたしの言葉は、レヴルには届かなかった。
 レヴルの拳が直撃する瞬間。
 セラフィナに助けてもらわなければ、今頃あたしは鉄塊の一撃を喰らって、大地に屍を晒すことになっていたと思う。
 レヴルに何があったのかは分からない。悠久の時の中で、レヴルは意志を失い、怒りをぶつける事しかできない存在になってしまった……。

 「あたし……が、ごめんね……ごめん」

 見つけてあげられなくて、ごめん。
 だからせめて、あたしたちが解放してあげる。

 「……少し、取り乱してしまいましたね。セラフィナ、行きましょう」
 「うん! 行こう!」

 ――レヴルとあたしたちの戦いは熾烈を極めた。
 嵐のように飛び交う拳を避けながら、セラフィナは果敢に懐に飛び込んでいく。
 そして、セラフィナの渾身の一撃がついに腹部へ到達し、その一撃によってレヴルは大地に沈んだ。
 その一撃は装甲に包まれたレヴルの身体を見事に貫いていたのか、制御を失った鎧はボロボロ崩れ落ち、おびただしい血が大地を赤黒く染め上げていた。

 「――――ッ!!」

 レヴルの断末魔の叫びは、寂しさと悲しみに満ちているように、あたしには思えた。

 (ごめんね……レヴル……)

 レヴルの姿を確認しようと駆け寄ると、両断された鎧からレヴルがべちゃりと零れ落ちる。
 レヴルが憎悪に満ちた瞳をセラフィナに向けたその時――
 どこからともなく、声が響いた。

 「あなた達、早くお逃げなさいッ!」

 凛とした声の主は、道中で出会ったセシャトのものだった。声が聞こえた方へ振り返ると、その女の遥か後方では、巨大な竜が佇んでいる。
 ――それはどこか、懐かしさを覚える姿をしていて。

 「え……ママ?」

 あたしたちの前に、新たな脅威が立ち塞った。


EPISODE5 母なる古龍「セシャトが連れて来た遺物。あれは、この世界にあってはいけないモノなんだ」


 セシャトが運んできた荷物は、あたしたちネメシスが『母』と呼ぶ存在に酷似していた。
 彼女は連れてきてしまった。
 この世界に存在してはならない、破壊の権化を。

 ――『ティアマット』。
 あたしたちを生み出した母にして、死をふりまく始祖の竜。

 多分、アレは世界の底で眠っていたママの亡骸から生まれた、残滓のようなものなのだろう。
 猛り狂うその姿は、今もなおこの作られた世界への憎しみに溢れていた。

 「……ア、ァァァ……」

 竜の姿を見たレヴルは、まるで母の声を聞いた赤子のように手を伸ばす。そして、それに応えた竜は崖から羽ばたくと、瞬く間にレヴルを呑み込み――捕食してしまった。

 「え……この竜は一体? それに、女の子が巨人を動かして、いえ、私があの子を……殺し……」

 戸惑いの表情を一層強めるセラフィナ。
 時間がない。一刻も早く竜をどうにかしないと。

 「セラフィナ! あの竜に言葉は届きません! あれが『本物』なら……今すぐ倒さないと、大変な事になります!」
 「で、でも……」
 「倒した後で、お話しします! あれが何なのかと、私の本当の目的を!」
 「――ッ!!」

 目の色を変えたセラフィナは、慌てて表情を引き締めて、目前にそびえる竜を見据えて剣を構えた。
 対する竜は、口を歪めていて、どこか嗤っているようにも感じられる。
 禍々しい翼を拡げ、漆黒の霧をまとう姿は正に、世界を滅ぼす竜と呼ぶに相応しい。

 「あの竜が流す血や煙霧は、触れれば死に至るもの。立ち回りには十分気を付けてください!」

 竜の咆哮が、谷中に響き渡るのだった。


EPISODE6 犠牲と覚醒、そして――「あたしたちの考えは変わっちゃったの。ママ、ごめんね」


 レヴルを取り込んだ事で姿を変えた竜。
 亡骸から生まれたソレは、母が持つ力と寸分たがわぬ力を有していた。
 大地を侵食し、次々と領域を崩壊させるウィルス。
 その対象は人間も例外ではなく。吹き出る血や霧に触れた巡礼教団のものたちは、瞬時に溶け、跡形もなく消えてしまう。
 実際に母の力を目の当たりにしたのは初めてだった。
 やっぱり、この力をこのままにしておけば、あたしの願いはおろか、この世界そのものが滅んでしまう。
 竜は仲間であるはずの眷属さえ溶かしながら、光の塔に攻撃を加えようとしていた。

 「させないッ! 私がミィムを送り届けるんだッ!」
 セラフィナは臆さず、猛然と斬りかかる。
 竜はセラフィナの攻撃を受けながらも、塔への攻撃を止めようとはしない。母の意思を受け継ぎ、メインフレームの遺構を破壊しようとしている。
 でも、それは古い考えだ。あたしたちの考えは、変わったんだ。

 「やめて……その戦いは……その戦いはもう、終わったの……」

 だから、セラフィナを……あたしの希望を、このまま壊させる訳にはいかない!
 あたしは母を討つ覚悟を決めた。

 「セラフィナ、援護は任せてください!」

 防護障壁を重ねがけして、セラフィナにウィルスの影響が出ないよう支援していく。
 速度では小回りが利くセラフィナが有利に立ち回っている。毒と煙霧さえ防げれば、勝機は見えてくるはず!
 剣が竜の首に届くかに見えたその瞬間。
 死角を縫うように、竜の尻尾がセラフィナを直撃していた。

 「……あ、ぐっ……!」

 あたしの防護障壁では、衝撃すべてを軽減する事はできなかった。
 塔の外壁に激突したセラフィナは吐血し、呼吸もままならず身体を震わせている。
 竜が止めを刺そうと、セラフィナに向けてその大きな口を開き――

 「させない!」

 セラフィナに迫る驚異を前にあたしは走り出していた。

 「――セラフィナッ!」

 間一髪、セラフィナを助ける事ができた。
 その代償はあたしの身体。対価としては大きかったけど、彼女が無事ならそれで良かった。
 身体に走る激痛、薄れゆく視界の中、激昂したセラフィナが映る。
 その形相は、今までに見せた事がない程の感情の昂りを見せ、それに呼応するように剣が蒼い光を放つ。

 母なる竜は、最大限の力を発揮したゼーレタクトの一撃を浴びて、絶命した。

 ……ありがとう、ママを倒してくれて。
 少し予定は変わっちゃったけど。
 これで邪魔するものはいない。
 後は、あたしが試すだけだ。
 セラフィナの可能性を――!


EPISODE7 旧き契約「約束の時は来ました。セラフィナ……、私を殺しなさい!」


 竜を一刀のもとに切り伏せたセラフィナは、心ここにあらずといった感じで、その場に膝をつき、大量の汗を流している。
 あたしはそんな彼女を後目に、竜の亡骸へと這いずっていった。
 あたしの目的は、ただ一つ。
 竜に取り込まれたレヴルと、竜の残骸を使い、再びネメシスとしての力を取り戻す事だった。

 臓腑をかき分け、竜の体内に納められていたレヴルを見つけた。あの戦いから……生き別れになってしまったレヴル。
 最後の最後でこんな事になるなんて、思いもしなかったけど、あたしはようやく家族と再会できた。
 会いたかった……ずっと、ずっと……。

 抱き上げたレヴルは、もう虫の息で、身体は徐々に崩壊し始めていた。

 「誰、ダ……オマエ……」
 「レヴル、ごめんね。ようやく再会できたのに、こんな形になっちゃって……」

 レヴルを抱きしめると、虚空を見つめるしかなかった瞳に、わずかな光が灯る。

 「ア……ァ……思イ……、出シタ……終焉、ノ……テスタ、メント……。ネエ、アタシ、タチデ……アノ女、ヲ……」
 「レヴル……あの戦いは終わったの。あたしたちを傷つけたセーレは、この世にはもういないんだ」

 あたしはレヴルの頬を優しく撫で、

 「……あの決戦の後、ずっと……ずっと探してたのに。今になって、再会するなんてあんまりだよね」
 「……」

 語り掛けても、レヴルにはもう喋る力は残っていなかった。

 「レヴル、みんなの夢を叶えよう……あたしに力を貸してほしい。あたしと一緒に……目的を果たそう」

 あたしたちの……皆の約束を叶える。そのためにあたしは生き抜いてきたんだから。
 レヴルは少しだけ首を動かして、頷いてくれた。

 光へと散りゆくレヴルの身体とあたしは、一つになり……あたしは再び本来の力を取り戻していく。

 アハ、身体を駆け巡る力を感じる……!
 懐かしい、遥か彼方に失われたネメシスの力。
 それが今、あたしの身体に満ちている!

 「え? ミィム……その姿、どういうこと……?」

 あたしの突然の変化に、声を震わせるセラフィナ。
 もう正体を隠す必要はなくなったね。
 だから……教えてあげなくちゃ。

 「私は……待っていました……ずっと、この時が来る事を……」
 「ミィム……どういう事か、教えてくれるんだよね?」
 「セラフィナ、この世界は緩やかに滅びへと向かっています。この世界は仮初の楽園、本当の世界は塔の中にあるゲートの先。そこにたどり着くことが、人類の唯一の希望……」

 あたしが淡々と言葉を紡ぐと、セラフィナは思い当たる節があるように、表情を変えていく。

 「人間は機械によって滅ぼされたのです……私たちは滅ぼされた人類によって生み出された正統なる後継者……」

 レヴル、一緒にあたしたちネメシスの願い――闘争の果てに生き残った強きものが、真実の世界に至る様を、見届けよう?

 あたしの中のレヴルが応えてくれた。
 その瞬間、竜の亡骸は分解され、あたしの身体をぐるぐると包み込む。
 それは、欠けたあたしの身体を補いながら、あたしを『あたし』だった頃の姿へと近づけていく。

 「ミィムッ!!」

 涙混じりの声が聞こえる。
 騙してごめんね、セラフィナ。
 でも、これは必要な事なの。

 最後の混沌の器――
 このテスタメント<あたし>を殺す事!
 それが、アンタに与えられた本当の使命なんだ!


EPISODE8 届かない願い「どうして戦ってくれないの!?なら、その気になるまで他のヤツで遊んであげる!」


 「さぁ……いくよ。これはあたしの……あたしたちの物語だっ!」

 魔女のような黒衣をまとう少女――ミィム・テスタメントは、そう叫ぶと同時に、禍々しい光を帯びた光弾を、辺りにまき散らした。

 「くっ……!」

 光弾を弾きはしたものの、セラフィナはそれ以上反撃できないでいる。
 ここまで旅をしてきた友の豹変ぶりに、セラフィナは頭では理解していても、心が彼女との戦いを頑なに拒んでいたのだ。

 「戦え、セラフィナ! あたしは、セーレの血を受け継ぐアンタを、いや、ゲートを越える存在を、ずっと探していた……!」

 彼女の言葉を聞き入れたくないとばかりに、セラフィナは赤子のように首を振り続ける。

 「あたしを殺す事で、アンタがゲートを越えられる強きものだって証明するの! それだけがこの世界を救うたった一つの方法ッ!」
 「やめて! 私は戦いたくない! ねえミィム、他に道はないの? 私たちが手を取り合えば、ゲートもきっと応えてくれるはず――」

 その言葉を聞いて、テスタメントは大袈裟に身体を震わせた。

 「――アハ、アハハハッ! これまでの戦いを経験しても、まだそんな事を言えるんだね。前にあたしが言ったでしょ? 全部、全部全部全部ッ! この世界はまやかしに過ぎないんだってッ!」

 セラフィナの胸に去来するのは、ミィムと一緒に夜営したあの時の記憶だった。

 「違う、違うよッ! 私たちはまやかしじゃない。私たちは、この世界に生きている!」

 セラフィナは涙を浮かべながらも強く叫ぶ。
 それは、この世界を否定するテスタメントと、聖剣によってもたらされた記憶の断片に抗うようであった。

 「貴女は……倒さなくちゃいけない……、存在なんかじゃ、ない……」

 セラフィナは持っていた剣を下ろし、戦意を喪失してしまうのだった。

 「ハァ……しょうがないなぁ。それじゃ、アンタがその気になるまで、好きにさせてもらうから!」
 「……えっ!?」

 言うが早いか、空へ浮かんだミィムはフワリと一回転すると、周囲の空間に竜の尻尾のような触手を生成し、それを一斉に飛ばす。
 その矛先は、物陰に隠れるように様子を伺っていた巡礼教団のものたちを、瞬く間に八つ裂きにしてしまったのだ。

 「アハハッ! この尻尾、便利だね~! ほらほら、セラフィナが戦わないと、この羽虫たちがドンドン串刺しだよ~!?」

 響き渡る悲鳴に、セラフィナは愕然とし身体を震わせる。

 「や、やめて……お願い、だから……」
 「ふ~ん? じゃあ戦う気になってくれた?」
 「そ、それは……」
 「あっそう」

 返答も半ばに、無数に飛び交う触手が更に命を奪う。

 「これでもダメ? ならもう殺すしかないよね。そこで怯えてるセシャトをバラバラにして……アンタの家族と教国のヤツらもさあ! 殺し尽くしてあげる!」

 触手の鉤爪がセシャトに届く間際――

 「ぅ――わあぁぁぁぁぁッ!!」

 雄たけびと共に、セラフィナは駆けた。
 人知を超えた速度から放たれた剣閃は、エーテルと反応し衝撃波となって、触手を斬り落としていたのだ。

 「セシャトさん、大丈夫ですか!? どこか安全な場所に逃げて!」
 「……わ、分かりましたわ……!」

 セラフィナの言葉に我に返ったセシャトは、生き残った信徒たちと共に谷から離脱していく。

 「そうそう! やればできるじゃん! セラフィナ、もう分かったよね? 戦わなければ……皆死ぬって!」

 冷たい視線を向けるテスタメントに、セラフィナは悲しみとも憎しみとも取れない表情を返す。

 「セラフィナは、この世界に選ばれた。だからその責務を果たさなくちゃいけない。アンタは、あたしたち旧きヒトの意志を喰らって、地上へ出る必要がある。さあ……あたしと戦え! セラフィナ!」
 「――分かったよ、ミィム。ううん、テスタメント」

 長い沈黙の後、見上げたセラフィナの頬を、つうと涙が伝い、落ちていく。

 「力を貸して、ゼーレタクト。テスタメントを……倒すわ……」

 声を押し殺し、覚悟を決めたセラフィナは、ゼーレタクトを再び覚醒させる。
 怒りと悲しみに満ちた瞳が、テスタメントを捉えた。
 その姿は、混沌の器を苦しめた世界の破壊者――『セーレ・ヘイズ』を想起させるものであった。

 「ああ……その瞳! 本当にそっくりだ! あたしに見せてよ! セラフィナの力をッ!」


EPISODE9 タラッサの悲憤「人は争いを止める事なんてできない。世界を導く強きものが必要なんだ!」


 完全覚醒したゼーレタクトは、倍以上の大きさに形を変え、手元に収まった。
 一見すれば重さを感じさせるものだったが、

 (嘘……信じられないくらい軽い!)

 翼の形となって放出されるエーテルのなせる業か、まるで体の一部のように剣をふるう事ができる。
 そして、セラフィナの動きを邪魔するどころか、移動を補助するかのように、セラフィナの動きを軽やかにしていた。
 それだけではない。
 持ち手から直結されたエネルギーラインは、セラフィナの身体能力を飛躍的に向上させていたのだ。

 「……これなら、戦える!」
 「へえ? それじゃ、コレあげる!」

 宙に浮いたテスタメントは、周囲の空間に無数の光弾を生み出し、小手調べと言わんばかりに連続で発射する。
 光弾の雨が、瞬く間にセラフィナへ飛来した。

 「……それぐらいでッ!」

 ゼーレタクトから放たれた剣閃が、光弾が着弾する前に薙ぎ払う。そこへ、斬撃の隙を縫うようにして、鉤爪が襲い掛かった。

 「……ッ!!」

 脇腹を狙った横からの一撃。
 セラフィナは、爪が脇腹を抉るギリギリのタイミングで、聖剣を盾代わりにして防いでみせた。

 「いいね、いいね! 次いくよ!」

 爆炎と粉塵が舞い、縦横無尽に襲いかかる鉤爪を前に、セラフィナは防戦を強いられてしまう。
 鉤爪が戻る瞬間を狙って数本断ち切る事はできていたが、攻撃の勢いは未だ衰えていない。

 (これじゃジリ貧……ならッ!)

 高く跳躍して脱出したセラフィナ。
 しかし、それはテスタメントの予測通りの行動で。
 爆炎の中を抜けた瞬間、天を埋め尽くす程の光弾が待ち構えていたのだ。

 「ハハッ! 弾けろッ!」

 テスタメントの命令と共に、空を浮遊していた光弾が連鎖的に爆発していく。

 「きゃあぁぁぁッ!!」

 爆風の中を突っ切るように、セラフィナは墜落した。
 その光景を眺めつつ、闘争心に火がついたテスタメントは、歪んだ笑みをもらす。

 「まだまだいくよッ!」

 そこへ幾重にも放たれた鉤爪の群れが迫る!

 「――ハアァァァァァッ!!」

 目を見開いたセラフィナは、気力を振り絞り周囲から迫りくる鉤爪を認識すると、身をよじりながらそれらを両断し、地上へ着地した。

 「これで全部切れたはず! 今度は私の――!?」

 光弾の弾幕が薄れ、視界が開きかけたその時、巨大な何かがすべてを薙ぎ払うように襲いかかった。
 すんでのところで回避したセラフィナは、テスタメントへと向き直る。

 「あれは――何? 黒い渦のような……」

 テスタメントの両腕の周囲に出現した黒い塊。自身の背丈と同じサイズはあるそれは、反逆者レヴルの鎧の残骸から再生成された、巨大な鉄の塊だった。

 「それじゃあ、第2ステージ……いくよッ!」
 「……こらえてッ、ゼーレタクトッ!」

 鉄塊と光弾が降り注ぐ。
 合間を縫って攻撃を繰り出すセラフィナだったが、テスタメントの周囲を舞う鉄の破片が盾となって剣閃を防いでしまう。
 いくら身体能力が高いセラフィナといえど、空に浮かぶ要塞と化したテスタメントには、致命打を与える事ができずにいた。

 「あの守り、どう近づけば……何とかして道を作らなきゃ……テスタメントまで届く道を!」

 攻めあぐねていたセラフィナの頭上へ鉄塊が迫る。
 光弾の爆発には耐えられても、鉄塊の圧倒的な質量が直撃してしまえば、骨が砕ける程度では済まない。
 辛うじて回避はできたものの、無尽蔵に暴れまわる鉄塊に防戦一方となるセラフィナ。そこへ――

 「これで終わらせてあげる! 喰らえぇぇぇッ!」
 セラフィナに向けて高速で放たれるいくつもの大質量攻撃。その殺意は、セラフィナへの慈悲など一切感じさせるものではなかった。
 必死で回避するも、ついにその身体は鉄塊に捉えられ――
 テスタメントは鉄塊がセラフィナに直撃する瞬間を、しっかりと見据えていた。だが奇妙なことに、それでセラフィナが死んだようには思えなかった。
 地表に直撃した鉄塊の衝撃で、大地はえぐれ、砂埃が辺り一面に舞いあがっていく。
 砂埃が引いても、何の反応も見えない。

 「……もしかして、本当に死んじゃった?」

 テスタメントはセラフィナの亡骸を探す。
 だが、直ぐに見つかると思っていたものは、どこにも見当たらなかった。

 「あれ……どこに?」
 「――ここよ」

 声のする方。
 右手側を振り向くのと、テスタメントの右腕が斬り落とされるのは、ほぼ同時だった。

 「――えっ?」

 セラフィナは、テスタメントの放った鉄塊に剣を突き立て、身を隠していたのだ。

 「道は私が作るんじゃなくて、貴女が作ってくれてた。これで……終わりよ!!」

 高く飛んだセラフィナは渾身の斬撃をテスタメントへ叩き込む。
 しかし、テスタメントは辛うじて鉄塊の盾で直撃を防いでいた。そして盾ごと勢いよくセラフィナを振り払う。
 弾き飛ばされる形で地面に着地したセラフィナは、反撃に映ろうと聖剣を構え直し、テスタメントを見据えた。
 宙に浮いたままのテスタメントは、自身の負傷も気にせず、狂喜のあまりに高笑いする。

 「アハ! アハハハハハッ! そうでなくっちゃ! 楽しい、楽しいね! セラフィナッ!」
 「この世界は……争いなんて求めてない! どうして分かってくれないの!?」
 「……世界が生まれ変わっても、ヒトは変われない。ヒトは本来、闘争を求める生き物。セラフィナもこの旅で見て来たでしょ!?」
 「……そうかもしれない。でも、少しずつでも人は変わっていけるはず……だから!」
 「遅い! それじゃ遅いんだよ! 神様のいない世界じゃ、分かり合う前にこの世界は滅ぶんだ!」
 「そんな事はさせない。私が絶対にさせないッ!」

 セラフィナは空に浮かぶテスタメントを睨み返す。

 「なら証明して! あたしを殺して本当の世界を取り戻してさッ!!」

 空に浮かぶテスタメントの周囲を覆うように、鉄の残骸が舞う。やがてそれは、巨大な機械の翼へと形を変えていく。
 拡げた漆黒の翼は、遥か昔、電子の楽園を蹂躙した母なる竜のそれと酷似していた。

 「これが最終ステージだよッ! セラフィナッ!!」

 奏者(コンダクター)と最後の混沌の器。
 両者が向き合ったその光景は、楽園の存亡をかけて繰り広げられてきた幾つもの聖戦。同じ願いを持った、異なる二つの正義が繰り広げてきた戦いの歴史を彷彿とさせるものだった。


EPISODE10 涙に輝く希望の光よ「セラフィナとの旅は、案外悪くなかった。またどこかで……、逢いたいな……」


 飛び交う漆黒の光弾が、崖を崩し、大地を抉る。
 迎え撃つセラフィナは聖剣と共に跳び、光弾を次々と斬り伏せていく。

 「その力……どこまでついてこられるのかなあ!?」

 テスタメントは胸の昂りを感じながら、攻撃の手を緩める事なく、光弾を放ち続ける。
 それでも、即座に対応してみせるセラフィナを前に、テスタメントは声を上げて更に光弾を見舞う。

 「それじゃ私は倒せないよ! テスタメントッ!」

 2人の戦いは、壮絶を極めていたが、それはどこか、音を奏でるように共鳴し合っているようでもあった。

 「これがあたしの全力だ……我が母の滅びの息吹、受け取れッ!!」

 ひときわ大きく拡げた翼から、巨大な魔方陣が次々と浮かび上がる。
 幾重にも折り重なった幾何学模様の魔法陣が、光を集約し、激しく明滅させていく。
 次の瞬間、それは巨大な炎の塊となって、セラフィナへと放たれた――!

 「終焉の業火に、焼かれろッ! アルテマヴォルテックスッ!!」

 火の弾と呼ぶには、それはあまりにも巨大であった。
 その大質量の火球をたとえ聖剣で引き裂けたとしても、分かたれた火球が地表に直撃した瞬間に世界には甚大な被害がもたらされるだろう。

 「なんなの、あの大きさ……でも、やるしかない」

 セラフィナは覚悟を決めた。
 谷が滅びの光に包まれていくさなか、彼女はふっと息を吐き、聖剣を握りしめる。
 彼女に刻まれた無数の記憶。
 その瞬間、セラフィナは感じた。
 セラフィナの手に、少女たちの想いが重なっていくような、温かな感覚を。未来を願う心を。

 自身の命を燃やしてでも。
 輝く希望をつかみ取るための力を!

 「みんな……私に力を貸して……ッ!」

 少女は祈るように叫んだ。

 「最初で最後だ――ッ! レディアント・ヴァーテックス!!」

 大地を蹴りだすと同時に、翼のエーテルが空へと散る。
 虹色の光を纏ったセラフィナは、ゼーレタクトに全エネルギーを注ぎ業火に激突した。
 世界を焼き尽くす業火と、ゼーレタクトの輝き……それは互いを喰らい尽くすように対消滅を起こす。

 すべてを灰塵に帰すはずだった一撃は、今目の前で消え去ろうとしていた。
 その光景を眺めていたテスタメントは、笑みを貼りつけたまま、焦りの色を浮かべていく。

 「ママのアルテマヴォルテックスを防いだ……!?」

 そして、光の奔流と無数の爆発が咲き乱れる中を、

 「私はどうなってもいい! だから! 届かせてみせるッ! テスタメントにぃぃぃッ!!」

 セラフィナは聖剣から放出される翼の力で、翔けた。

 「――うぅ、ぁあああああああッ!!」

 痛みで全身が張り裂けそうだった。
 だが、その痛みさえ心の力に変えて、テスタメントへ一直線に向かっていく。
 アルテマヴォルテックスによって生じた、その間隙を突くために。

 「ッ!?」

 正面から立ち向かった少女の想いは――届いた。

 「ゥ……ァ……」

 強固な防御障壁を破壊し、ゼーレタクトがテスタメントの胸を深々と貫いていたのだ。
 手に伝わる感触、その瞬間はセラフィナには永遠にも感じる程、ゆっくりとしたものだった。
 気が付けば吐息が、息遣いが聞こえるほど近くに苦痛に顔をゆがませる少女の顔があった。それは聖剣が伝えた記憶の中の悪魔ではなく、セラフィナが良く見知った導師の顔だった。

 ゼーレタクトの光がセラフィナの視界を白く包み込むその刹那、導師の少女は解放されたかのようにゆっくりと笑みを浮かべたかのように見えた。

 ――テスタメントの身体から、力が霧散していく。
 渾身の一撃を放つため、力を使いきったゼーレタクトもまた、輝きを失い、色褪せた剣へと変化する。
 そして、2人は勢いのままに地表へと落下していった。

 ……
 …………

 (あ、あれ――あた、し……どう、なって……」

 激しい痛みの中、わずかに感じた重み。
 視線を向けると、そこには自身の胸元で泣き崩れるセラフィナの姿があった。
 爆風の中を突き進んだせいか、衣服はほとんどが焼け落ち、全身を無数の傷が走っている。

 「ぅぅ……ごめんねミィム……ごめん……」
 「どう、して……泣いて……るの……。あ、たしは……アン、タを……ころそうと、した……の、に」

 目元を真っ赤に腫らしたセラフィナを見て、テスタメントは微かに感じていた。
 セラフィナと共に旅をした日々を。
 テスタメントが乗っ取ったあの導師の、無意識の感情がそうさせたのかは分からない。
 ただ、気が付けば――

 「あれ……あたし、こんな弱っちくなっちゃったなんて……なんなの、これ……これじゃ、みんなに笑われちゃう……」

 テスタメントの両頬を、ひと筋の涙が流れていた。

 「ミィム……」
 「あ、あたしは、テスタメント、だ……ミィム、なんかじゃ、ない……」
 「それでも、私にとっては『ミィム』だから」
 「……やってらんない……」

 ――そんな時だった。
 光の塔に異変が生じたのは。

 「え?」

 セラフィナがそれに気づいた頃には、光の塔は形すら残さずに姿を消し始めていた。

 「一体、何が……」

 両者の疑問をよそに、空の彼方に消えた光の塵は、やがて夕闇の星空に混じり、見えなくなってしまうのだった。


EPISODE11 終わりの物語「アハハ……あたしたちの願いは、間違ってたんだ。ゲートが求めていたのは、セラフィナみたいな……」


 テスタメントが求め続けた、真実の世界へ至るもの。
 それは、彼女が求めたゲートによって、否定されてしまった。

 「あたしがしてきた事は、無意味だったのかな……もう分からない……セラフィナは、あたしが求めてきた答え……だよ、ね?」

 虚空を見つめたまま、セラフィナへ問いかける。
 そんなテスタメントの手を優しく握り返し、

 「私とミィムが出会えた事に、意味はちゃんとあるよ……」

 セラフィナの流した涙が、頬を伝い、ぽつぽつと、ミィムの頬を濡らしていく。

 「ああ、そっか――これだったんだね……。あぁ……あったかい……、セラ、フィナ……」

 その言葉を最後に、ミィムの身体は徐々に光の塵へと分解され、アストラルコピーと共に死を迎えた。

 「――――――ッ!!」

 声にならないセラフィナの慟哭が、アプスの谷に木霊する。
 その時、セラフィナの感情に呼応するように、傍らにあったゼーレタクトが淡い光を帯び始めた。

 「……剣が、光って……?」

 それは――ゼーレタクトが見せてくれた、一瞬の奇跡だったのかもしれない。
 剣から浮かび上がった光は、徐々に形を変え、やがて少女の姿を浮かび上がらせる。

 「ぁ……ミィ、ム……?」

 少女の表情はわからない。
 ただ、セラフィナの頬に手を添える。
 それだけで、少女の想いが伝わってきた。

 「あたしなんかのために涙を流してくれた……セラフィナみたいな優しい心を持つヤツが……きっと、ゲートの求める答えなんだと思う。それだけ」

 「じゃあね」と告げたミィムを、セラフィナは慌てて引き留めた。

 「待って! ミィム! 私、嬉しかった! 貴女に会えて……、わた……本当、に……」

 最後の言葉は涙のせいで掠れて声にならなかった。
 それでも、彼女には十分伝わっていたのだ。

 「ほんと、泣き虫だね……あたしも、楽しかった……好きだよ……セラフィナ……」

 それが、彼女たちの別れの言葉となった。
 天へと昇った光は、いつしかもうひとつの光りと手を取り合うように、夕闇に輝く星空と交じり合い、消えていく。

 「さよなら、ミィム……」

 セラフィナは空を見つめ、誰にともなく呟くのだった。

 辺りはすっかり闇に包まれ、満天の星空だけが優しく大地を照らしている。

 「さっきまで、死闘を繰り広げてたなんて思えないくらい静か……」

 そこへ、ふと物音がした。
 音のする方へ振り返ると、

 「セ、セラフィナ様……」

 避難していたセシャトが、セラフィナの元へと歩み寄ってきたのだ。
 隠れてはいたが、大規模な戦闘の余波を受けたのか、彼女は痛々しそうに身体を引きずっていた。

 「あっ、ご、ごめんなさい! その……放ったままで……」
 「いえ、謝るのはわたくしの方ですわ……。教団の巫女としてあるまじき行為の数々を……わたくしは、どう償っていけばいいのでしょうか……」

 涙を滲ませるセシャトに、セラフィナは明るく振る舞いながら答える。

 「あの……お願いがあるんですけど、いいですか?」
 「ええ、わたくしにできる事でしたら、なんでもいたしますわ!」

 彼女の返事に頷いたセラフィナは、

 「一緒に、私たちの身に起こった出来事を、世界中の人たちへ伝えていって欲しいんです。皆には、優しくなって欲しいから……それが本当の世界へ行く事につながるはずよ」

 精一杯の笑顔で、そう語るのだった。

 「セラフィナ様……分かりましたわ。このセシャト、身命を賭してこの物語を語り継いでいきます」

 セラフィナの想いを聞き入れたセシャトは、力強く頷いた。

 「ありがとうございます! 一緒に……教国へ帰りましょう」

 泣き崩れるセシャトを支えるように抱きしめ、セラフィナは空を見上げて目を瞑る。

 「皆で……帰ろう。私たちが居たところへ……」

 ――ねえミィム。
 私、約束する。
 もう泣かないよ。

 そして。
 いつか――私たちが本当の世界へと至るその時まで。
 私たちが、私たちの物語を語り継いでいくから。
 遠い空の向こうで、見守っててね。



■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS / VERSE
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧


コメント

  • 泣ける~ ほんといいストーリーだわ········ -- 2024-05-01 (水) 21:10:40
  • 泣いた 最高かよ -- 2024-07-12 (金) 23:16:09
  • ストーリーガチで泣いてまう -- 2025-05-23 (金) 14:51:33
  • キャラページでCV:【伏字】ネタバレ注意 ってなってるの初めて見た -- 2025-05-23 (金) 17:57:38
  • 太もも... -- 2025-11-08 (土) 22:17:21

*1 英傑大戦でのボイス実装後に開催された10周年記念ボイス争奪投票にて、通常のチュウニズムでボイスが実装されたキャラ同様に投票対象にならなかった(=ボイス実装済みと同等の扱い)ことから、今後チュウニズムでもボイス実装の可能性がある。
*2 『PARADISE LOST』まではRANK 25、『NEW』以降はRANK15で開放