高卒嫌がらせドラフト

Last-modified: 2024-11-08 (金) 16:32:02

2011年に横浜ベイスターズ(当時)が行ったドラフトのこと。「高卒やけくそドラフト」とも呼ばれる。


概要

2012年から親会社がDeNAに交代することが既に決定していた同年はTBS*1にとって最後のドラフトとなったが、ベイスターズは直近10年のうち半数以上最下位になるなど深刻な暗黒期・戦力不足を迎えており、即戦力選手中心の指名になると思われていた。

ところが、首脳陣は本指名で高校生選手を8人も指名し、即戦力候補と目して指名したのは社会人選手の松井飛雄馬ただ一人*2、と完全に育成前提のドラフトを敢行。しかも全員と契約した場合は支配下枠の70人がすべて埋まった上、この年は東日本大震災の影響でクライマックスシリーズがドラフト後に延期されたため、同じく順延した第二次戦力外通告によって支配下枠に空きを作る必要に駆られたなどから、「TBSによるDeNAへの嫌がらせ」*3という見方が強まり批判へ繋がった。


指名選手一覧

現役選手の通算成績は2023年シーズン終了時点。高卒選手は名前を黄色・出身を太字で記載。
「備考」はNPBでの経歴のみ記載。

 順位    名前    守備位置    出身     一軍出場       備考     
1北方悠誠*4投手唐津商高なし2014年限りで戦力外。
育成契約でソフトバンクに移籍するも翌2015年限りで再度戦力外。
2髙城俊人捕手九州国際大付高347試合2018年にオリックスへトレード*5移籍。
2019年に戦力外となりDeNAに復帰するも2022年限りで再度戦力外。
3渡邊雄貴内野手*6関西高なし2016年限りで戦力外。
4桑原将志内野手*7福知山成美高1027試合現役。
5乙坂智外野手横浜高468試合2021年限りで戦力外。
6佐村・トラヴィス・幹久投手浦添商高なし2013年に育成落ち、2014年限りで戦力外。
その後阪神へ移籍するも2016年限りで再度戦力外。
7松井飛雄馬*8内野手三菱重工広島92試合唯一の高卒以外(高卒社会人)。
2020年限りで戦力外。
8古村徹投手茅ヶ崎西浜高なし2014年限りで戦力外。
その後2019年に再入団するも、2020年限りで再度戦力外。
9伊藤拓郎投手帝京高2登板2014年限りで戦力外。
育成1冨田康祐投手四国IL/香川1登板2013年に支配下契約を勝ち取るも、2014年限りで戦力外。
育成2西森将司捕手四国IL/香川38試合2013年に支配下契約を勝ち取るも、2019年限りで戦力外。


実際の成績

結局、この年のドラフトは投手陣は1位の北方を筆頭に壊滅的*9*10だったものの、野手では桑原が外野手転向後にブレイクを果たし、新生ベイスターズで長きにわたり活躍。乙坂と髙城についても、レギュラー定着はできなかったにせよ一定の活躍を見せた。

再評価の進んだ現在では「言うほど嫌がらせではなかった」という見方も強いものの、結局桑原以外で1軍レギュラーを獲得するレベルにまで達した選手はおらず、評価できるドラフトかと言えばそうでもないということで、現在のところは「過去と比べればマシ」というよくある無難な評価に落ち着いている。


現場の意図

2018年に現代ビジネス*11に掲載されたコラムで、当該ドラフトに関わっていた人物が匿名で証言している。聞き手の村瀬秀信はベイスターズから公式の仕事を請け負った経験があるなど、球団・選手と深い関係を持っていることが窺える経歴から、信頼性の高い証言とされている。

村瀬秀信「TBS体制最後のドラフトで獲得した“即戦力ではない高校生”たち」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56707


 嫌がらせのドラフト

(中略)

日本ハムのGM時代の経験から、高田GMは常々適正となる選手数は65名と考えていた。初年度の目標である“最下位からの脱出”を目指す仕組みを作っていく中で、即戦力で戦える選手はひとりでも欲しい。そんな中、TBS体制最後のドラフトで獲得し、そのまま受け渡された“即戦力ではない高校生”たちは、その背景を鑑みてか「TBS体制が最後に残した嫌がらせではないか」とまことしやかに囁かれるようになった。

そんな論調を真っ向から否定する人物がいる。

「そういう話は聞いたことありますけどね。そんなわけない。冗談じゃないですよ。あの年のドラフトのことはいまだにいろいろと言われますけど、スカウティングというのは長期的な視野に立ってやっていることです。高校生に偏った指名も、あの当時の確固たる考えに基づいて行ったものです」

あのドラフトに編成として関わった人物は語気を強めて反論した。

村瀬秀信「横浜ベイスターズを誰よりも愛し、そして去っていった男の告白」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57174


 横浜の「B・O・S」

「ドラフトが終わった直後はああだこうだと言われるのが常ですけどね。スカウティングは5年、10年先を見据えてやっています。僕らは何にも気にしてませんよ。チームの編成というのは、親会社がTBSだろうがDeNAだろうが、球団がなくならない限り連綿と続いていくもの。意図的に貶めるような行為などするわけがない

横浜ベイスターズ末期において編成部門に深く関係していた男は、当時のドラフトの背景とその意図を語ってくれた。

「ベイスターズの後期における選手のスカウティングは、2008年に日本ハムから来た人間の功績で、ベースボール・オペレーション・システム(BOS)を採用していました。今ではどこの球団でも当たり前にやっていますが、チーム全体の設計図を作り、それに基づいた選手の獲得・育成計画をしていたわけです。もちろんこの年の高校生に偏った指名もBOSに基づいてやっているものです」

北海道に移転した日本ハムファイターズが構築したというベースボール・オペレーション・システムは、選手の能力や年齢、年俸などを数値化、可視化することにより、チームの補強にどんな選手が必要で、今いる選手をどのように育成するかなど、5年後、10年後を見据えたチーム作りの設計図となるシステムのこと。その立ち上げには現DeNAベイスターズGMの高田繁氏も深く関わっていることが知られている。

(中略)

「あえて支配下選手ギリギリまで獲ったという指摘もね、バカげてますよ。まず、あの時代は負けが続いて即戦力の投手が必要だった。前年までのドラフトも投手の指名が多くなっていたので、野手が不足していてね。特に内野手は2軍のゲームもできないぐらいだったんだよ。

この年は野手を獲る年なんです。ただ、野手なんて簡単にできないんだよ。年6~7人獲ってもレギュラー級になるのはその内の1人。さらに上位では即戦力ピッチャーが必要。地元選手も獲りたい……ということですよね」


関連項目



Tag: 横浜 ドラフト


*1 ただしDeNAが親会社になった後も出資は継続(なおヤクルトに残るフジサンケイグループ出資分と異なり、比率上は1割にも満たない)。
*2 その松井も高卒社会人2年目だったので、即戦力というよりは素材型であった。なお、当初は1位でも大卒の藤岡貴裕(東洋大→ロッテ)を指名していたが、重複し指名権を得られなかった。
*3 前述通り実際にはTBSは出資を継続したため、本当に嫌がらせだった場合自社にブーメランを飛ばすことになってしまう。
*4 藤岡貴裕(東洋大→ロッテ)、松本竜也(英明高→巨人)の外れ外れ1位。
*5 赤間謙・伊藤光と髙城・白崎浩之の2対2のトレード。
*6 2015年より外野手に登録変更。
*7 2014年より外野手に登録変更。
*8 現役時代の登録名は「飛雄馬」。
*9 北方は松本竜也の外れ外れ1位であり、もし松本を引き当てていれば少なくとも野球賭博の主犯格である笠原将生と出会い、そして賭博に手を染めることもなかったという意味でも悔やまれる結果となった。また、こうなってしまったのは巨人が相思相愛の菅野智之の抽選を外してしまったからという面も大きい。
*10 ここまでのドラフトが投手偏重過ぎのせいで投手がキャパオーバー、二軍まで詰まっていたため他球団へ行ける可能性のある若手が整理されたというチーム編成の失策もある。高田繁GMが「ファームでの登板機会はドラフト上位の若手や1軍からの再調整組がどうしても優先される。これだけ多いと調子が良くても投げさせてもらえないという選手が出てくる。完全に編成の、ひいては俺の責任。申し訳ない事をしてしまった」「うちではチャンスがなかったが、彼らはまだ若い。外に出てチャンスを掴んでほしい」と語っていた
*11 講談社が運営するWebメディアサイト。同系列で別会社の日刊ゲンダイとは別物でスタンスは週刊現代に近い。