レア・エ・フラータ

Last-modified: 2024-03-05 (火) 08:33:59

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通常偽りの聖女
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Illustrator:しろまち


名前レア・エ・フラータ
年齢容姿年齢20歳(製造後9年)
職業真人を導く聖女
  • 2023年8月3日追加
  • SUN ep.Vマップ1(進行度1/SUN時点で105マス/累計105マス)課題曲「夢と幻想の終点にて」クリアで入手。
  • トランスフォーム*1することにより「偽りの聖女 レア」へと名前とグラフィックが変化する。

聖女バテシバ去りし後、希望の象徴となるべく造られた新たなる聖女。
誰もが憎しみ合うこの世界に、彼女の望む未来はあるのだろうか。

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1オーバージャッジ【SUN】×5
5×1
10×5
15×1


オーバージャッジ【SUN】 [JUDGE+]

  • 高い上昇率の代わりに、強制終了のリスクを負うスキル。ジャッジメント【SUN】と比べて、上昇率+20%の代わりにMISS許容-10回となっている。
  • GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.3%→+0.2%)する。
  • SUN初回プレイ時に入手できるスキルシードは、NEW PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
  • スキルシードは200個以上入手できるが、GRADE200で上昇率増加が打ち止めとなる
効果
ゲージ上昇UP (???.??%)
MISS判定10回で強制終了
GRADE上昇率
▼ゲージ8本可能(220%)
1230.00%
2230.30%
3230.60%
35240.20%
68250.10%
101259.90%
▲NEW PLUS引継ぎ上限
▼ゲージ9本可能(260%)
102260.10%
152270.10%
200~279.70%
推定データ
n
(1~100)
229.70%
+(n x 0.30%)
シード+10.30%
シード+51.50%
n
(101~200)
239.70%
+(n x 0.20%)
シード+1+0.20%
シード+5+1.00%
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期所有キャラ数最大GRADE上昇率
2023/4/13時点
SUN16193278.30% (9本)
~NEW+0293279.70% (9本)


所有キャラ

所有キャラ

  • CHUNITHMマップで入手できるキャラクター
    Verマップエリア
    (マス数)
    累計*2
    (短縮)
    キャラクター
    SUNep.Ⅲ2
    (215マス)
    310マス
    (-10マス)
    ナディン・ナタナエル

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 聖女の悔恨「私は、誰からも求められていない。望まれているのはバテシバ様であって、私ではないのよ」


 真人たちの記憶に深く刻まれている聖女――バテシバ・アヒトフェル。
 私は、そんな彼女の死で悲嘆に暮れる彼らの心をつなぎ止めるため、生を受けた。
 バテシバは、機械種によって使い捨ての命として虐げられてきた私たちを導いてきた存在だ。
 彼女が私たちに道を指し示してきたからこそ、死後十数年経った今でも絶大な影響力を発揮している。

 今日も私は、彼女の名を利用して皆の前に立つ。
 私が口を開けば、皆は「バテシバ」を讃える。
 私が手を振れば、皆は「バテシバ」を崇める。
 けれど、彼らはひとりとして本当の彼女の姿を知らない。
 真人はとても寿命が短い。バテシバ戦役で大量に動員された同胞たちは、その多くが戦死し、生き残った者も寿命を迎えて代替わりしている。
 それはつまり、歴史を正しく認識できなくなれば、事実なんていくらでも書き換えられるという事。
 すべては、強硬派指導層の意のままに。
 情報を統制し、きれいなところだけを集めた理想の聖女様。ただ彼らの願いを叶えるための願望器。
 それが私――レア・エ・フラータの役割だった。

 ……初めは、私も皆に求められる事が嬉しかった。
 進んで理想の聖女様を演じようと思えるほどに。
 でも、彼女になろうと思えば思うほど、私と、私の中の聖女様との間に違いが生まれていく。
 それは、思想の違いだ。
 私は、皆が生きていける明日を作りたい。
 決して無辜(むこ)の民を扇動して死地へと導きたいわけでも、むやみに切り捨てたいわけでもない。
 けれど、彼女が思い描く明日には何も無い。
 文字通りの無だ。
 機械種も、帰還種も、真人でさえも。彼女にとっては無価値なのよ。
 ……怖い。
 心の底からわきあがるこの感情。
 それはバテシバ様の形をしていて、いつか私までをも飲みこんでしまう……。
 私は、本当にこのままでいいの?


EPISODE2 痛みより生まれいづるもの「痛みを知らぬ者の願いは軽い。それが私の創造主、セロ様がくれた言葉だった」


 暗闇の中で、誰かの声がする。

 「いかがですか、セロ様」
 「……成功とみていいだろう」

 声は私の両隣から聞こえてきて、「混ざりもの」とか私には分からない難しい話を続けていた。

 「……んっ……、……」
 「目覚めたか」

 目も開けていられないくらいにまぶしい光が私を襲う。その時微かに見えたのは、いくつかの黒い塊だった。

 「っ……」
 「反応も正常です。十分役割をこなせるでしょう」
 「こ、こは……わ、たし……は……」
 
 ようやく目が光に慣れてきて、黒い塊だと思ったものが人の輪郭をしている事に気付く。白い服を着た男たちの中で、ひとりだけ黒ずくめの男の人が、こう言った。

 「レア。それがお前の名だ」
 「レア……私は、レア……」
 「意識の定着も問題ありません」
 「次に移れ」
 「かしこまりました」

 黒ずくめの男の人に言われて、男たちが私の頭に何かを被せたり身体に何かを取りつけていく。
 これから何が始まるのかも分からない。問いかけても返事はなかった。

 「レア、お前は数多くの素体の中から選ばれた。お前には真人を導く聖女としての振舞いが求められる。バテシバ様が我々の希望であったように、お前も真人の希望の象徴となるのだ」

 聖女? 希望? 何も分からない。

 「聖女には、民衆を扇動する“願い”が必要だ。心の底から生じる願いこそが、大衆に響く耳障りのいい言葉を紡ぐ。だがそれは……何もない所からは生まれ得ない」

 近くで、パチ、パチと何かを弾く音がする。

 「願いとは、痛みや絶望の中から生まれるのだ」
 「やれ」

 ――バチッ。頭の中で雷鳴が響いた。 
 その瞬間、見た事もない情景が明滅するように次々と映し出されていく。

 「ぁ゛――」

 目まぐるしく変化する世界が、今まさに“私”を書き換えている。それだけは理解できた。

 ――
 ――――

 「――エステル・ヤグルーシュ、お前には“これ”の面倒を見てもらう」

 研究室での思考調整の日々が終わった私は、黒ずくめの男――セロ様についてくるように言われ、紫色の髪がとてもきれいな女の人と出会った。

 「何をしている、レア」
 「……」
 「セロ様、彼女は一体……」
 「これは、バテシバの胚を利用して造られた模造品だ」
 「な……っ」
 「以前にも話したが、私の死期は近い。私の死後、強硬派は新たな体制に生まれ変わる。そこでお前には、これが強硬派の御旗として機能するよう導いてもらう」

 セロ様の言葉に、隣に立つ女の人は戸惑っている。

 「衛士でしかない私に……そんな大役が本当に務まるのでしょうか」
 「お前はヤグルーシュ家の者。聖女の侍女として、これ以上の適任者はいない」
 「分かりました。このエステル、身命を賭してレア様を導きましょう」
 「重畳だ」

 そう言うと、セロ様はすぐに研究室に戻っていった。
 エステルがセロ様を目で追っていたけれど、すぐに私の方へと戻すとそのまま私の前までやって来て片膝をつく。

 「さあレア様、一緒に行きましょう」

 その行為が私には分からなくて、ただ様子を伺う。
 エステルが私の頭目掛けて手を伸ばそうとした瞬間、急に恐ろしくなって、気付けば彼女の手に噛みついていた。
 いったい、私は何をしているのだろう。
 自分でもわからなくて、直ぐに口を離せばよかったのにそれすらもままならない。
 不意に身体が地面から離れる感覚があった。

 「――っ!?」

 私は彼女に抱きかかえられていた。
 エステルが何か言っているけど、私にはやっぱりどうすればいいかわからなくて、ただ彼女にしがみつく。
 そんな私の反応が面白かったのか、エステルが小さく笑った気がした。
 続けてエステルが私の髪に手をやり――私はまた彼女に強く当たってしまっていた。

 「……はは、新兵を鍛えあげるよりも大変そうだわ」

 私がひどい事をしても、彼女は笑って許してくれる。
 たったそれだけの事で、何かが私の中にじんわりと広がっていった気がした。
 それこそが、私が初めて感じた人の温もり。
 痛みと苦しみだらけの真っ暗な場所。
 私を照らしてくれたのは、彼女だった。


EPISODE3 血の宿命「ソロ・モーニア……彼の存在が、真人という種の未来を変えていく。彼を死なせてはいけないわ」


 私には、私より少し早く生を受けた、兄のような人がいる。名前はヴォイド。同じ研究室で生まれ、同じように強硬派を導く役割を与えられた。
 聖女として飾り立てた言葉で士気を高揚させる私と、宰相として強硬派の力を誇示し戦争へと突き進むヴォイド――私たちは、人々を戦争に導くためにデザインされた存在だ。
 セロ様にそう仕向けられたと分かっていても、敷かれたレール以外のところで踊ってしまえば私たちはきっと処分されてしまうのだろう。
 そう感じさせたのは、セロ様の口から時々出る「ソロ・モーニア」という真人の名前だった。
 彼は彼女の血を色濃く受け継いだ子供らしい。
 だから私たちが何かミスをすれば、セロ様は決まって彼の名を口にする。
 ソロは正当な後継者。
 お前たちは不出来な失敗作。
 ヴォイドはセロ様に叱られる度に、強い憎しみの感情をソロに向けるようになっていった。
 けれど、私にはヴォイドのような憎しみは抱けない。ただ純粋に、どんな子なのか興味がわいていたから。
 その機会が叶ったのは、セロ様が亡くなり、強硬派の体制が大きく変わった後だった。

 ――
 ――――

 「ようこそ、オリンピアスへ。お出迎えできなくてごめんなさいね」

 カイナンに連れられ、従者ゼファーとともにオリンピアスコロニーにやってきた少年がいた。
 彼こそが、ソロ・モーニア。
 バテシバの子にして、真人の正統なる王子だ。
 ソロは私とヴォイドよりも早くに生まれているはずなのに、とても幼く見えた。
 それこそが、彼が旧人類種と同じように歳を重ねながら成長しているという証。
 その事実は、ヴォイドの神経を逆撫でるのに十分だったようだ。
 私の隣に立つヴォイドは、今にも憎しみの感情が爆発してもおかしくないぐらい、掌を握りしめていた。
 それが伝わったのだろうか。ソロが寄りかかるようにゼファーへと倒れかかった。

 「……ソロ!?」
 「あらあら、ソロはお疲れのようね? 今日はゆっくりと体を休めるといいわ」
 「あ……お心遣い、ありがとうございます」
 「では、部屋までは私が案内しよう。2人共、私の後に――」
 「待て、そこの女。そう、お前だ」

 ゼファーたちの背後に控えていたカイナンの言葉をヴォイドが遮った。

 「なんでしょうかヴォイド様」
 「お前は後で私の部屋に来い」
 「私……ですか?」
 「行くぞ、ゼファー。ソロ様をそのままにしておく気か?」
 「あ……レア様、ヴォイド様、失礼いたします」

 去っていく3人には目もくれず、私はヴォイドを問いただす。

 「ヴォイド、彼女はカイナンの配下の者よ。いくら宰相だからといって――」
 「フン、確かめたい事があるだけだ」
 「この場では言えないような事? 何がそんなに気になるのかしら」
 「ぅ五月蠅い! 私にとっては重要なのだ!」

 そう吐き捨てると、ヴォイドは足早に去って行った。
 ソロがゼファーを連れてオリンピアスから姿を消したという報せが入ったのは、それから直ぐの事だった。


EPISODE4 埋まらない溝「私の言葉がヴォイドに届く事はない……私は所詮、バテシバ様の模倣者でしかないのだから……」


 ソロの話を知り、私は直ぐにヴォイドの下へと向かった。

 「これはどういう事、ヴォイド!?」

 執務室で、ヴォイドが椅子にもたれかかりながらいぶかし気な眼差しを向けてくる。

 「……フン、なんの用だ」
 「決まってるでしょう。ソロがいなくなったのよ?貴方、やっぱりゼファーがソロと一緒にいるのが――」
 「黙れッ! それ以上あいつの名を出すな!」

 何かに弾かれたように激昂し、机に並べられた物を叩き落とした。乱れた髪もそのままに、ヴォイドがまくし立てる。

 「どいつもこいつも、ソロ、ソロ、ソロ! あんなガキの何処に、私の代わりが務まるというのだ! 私の方が優れているのは明白だろうに!」
 「ヴォイド……」

 ヴォイドにかけられた呪縛は、強く彼を蝕んでいた。
 それどころか、憎しみの炎はより激しく燃え盛っている。このまま放ってしまえば、燃え尽きてしまいそうなほどに。
 正直、ここまで追いつめられているとは私も思っていなかった。

 「クソァ! 奴は、私からすべて奪っていくッ!」
 「ね、ねえ、少し落ち着きましょう? 私は何処にも行かないから……」

 肩で息をするヴォイドの気を鎮めようと、ヴォイドの手に自分の手を重ねる。

 「気安く私に触れるな! 母上の真似をすれば、私の怒りが収まるとでも思ったか!? この……偽物が!」

 怒りに触れてしまった私へ、ヴォイドが拳を振りかぶった。

 「……っ!」

 咄嗟に目を閉じる。
 大丈夫。痛みには慣れている。
 これでヴォイドの気持ちが晴れてくれるなら、私は構わない。
 ……けれど、ヴォイドの拳が振り下ろされる事はなかった。

 「至急、追手を手配しよう」
 「え? じゃあ……!」
 「速やかに居場所を特定し、艦隊も派遣する。もし奴が、機械種との戦闘エリアに侵入してしまったら事だからな」
 「良かった、これで2人も無事に――」
 「ああ、戦場では命を落としかねん。どれだけ争いに長けている者でも、一瞬の判断ミスが命取りになるのだから。ましてや、誰かを庇いながら戦っていれば、流れ弾を喰らってしまう事もあるだろうな」

 口の端を吊り上げて、ヴォイドが不敵に嗤う。

 「ま、まさか……開戦を早める気!? そんな自分勝手な事、させないわ!」
 「貴様はどちらの味方だッ!!」

 そう叫ぶと、ヴォイドは端末を使って何処かに連絡を取る。
 すると、直ぐに扉を叩く音が聞こえてきた。

 「軍議が開かれるまで、お前は部屋で大人しくしていろ。身の回りの事は呼びつけた衛士にでも言うがいい」

 部屋を出て行こうとするヴォイドを引き止めようとした私の前に、衛士たちが立ち並ぶ。

 「丁度いい機会だ。レア、お前の役割がなんなのか見つめ直すといい」
 「待って、ヴォイド……!」

 私の声は彼には届かない。

 「……」

 私はフッと力が抜けてしまった。
 私は……無力だ。私では、誰かの心に届く言葉をつむぐ事なんてできないんだ。

 「ふふ……偽物、か……」

 私は、本物の代わりをする人形でしかない。
 なんて、空虚な事だろう。


EPISODE5 銀の都は燃えているか「私の言葉は……なんて軽いのでしょう」


 ペルセスコロニーへの再侵攻は、ヴォイドの強行的な姿勢を変えられないまま、速やかに決まった。
 正式な通達が終わり、オリンピアスコロニーは日に日に物々しい雰囲気を強くしていく。
 情報を統制された都市に、異を唱える声はない。
 都市を警護する衛士以外、出歩く者も消えた。
 戦争一色に染まっていく街をヘライアの上層から眺めていると、今にも戦争の足音が耳元で聞こえてきそうだ。

 「……もし私が本物のバテシバ様だったなら、戦争をしないという道を選べたのかしら」

 今の私は、最前線へと送りこまれる徴募兵たちに、聖女バテシバを演じながら言葉をかける事しかできない。
 辺境都市は情報統制も一段と強いのか、私を見るなり泣く人もいた。
 私が口を開けば、皆は「バテシバ」を讃える。
 私が手を振れば、皆は「バテシバ」を崇める。
 そんな光景を目の当たりにすればするほど、私と彼らとの間に温度差が生まれていく。
 以前は熱の入っていた自分の言葉にも、空恐ろしい空虚さを感じてしまう。
 演じる事に夢中だったあの頃の私はもう、どこにもいない。
 それからしばらくして、機械種との戦争が始まった。
 カイナン率いる先遣隊は、機械種の展開する防衛圏に攻撃をしかけていく。
 今更あとに退く事はできない。
 きっと、この戦いは死に向かうための戦いになるだろう。
 私には、ひとりでも多くの者が帰って来られるよう、祈る事しかできなかった。

 ――
 ――――

 戦線が東へと移動するにつれて、私とヴォイドも後方の陣地からペルセスコロニーへと向かう頃合いになった。
 戦況は覆されそうになったけど、サルゴンが用意していた機動兵器が投入されてからは、大きな変化が生じ始めた。
 凄まじい力で機械種の機動兵器を破壊し、防衛圏を突破する。その勢いは一度も衰えないまま――ついにペルセスコロニーへとたどり着いた。
 これでコロニーを制圧できれば、むやみに命を散らさずに済む――はずだった。
 そこに広がっていたのは、無数に散らばる真人たちの亡骸。
 突入した部隊が、都市に仕掛けられた兵器のたった一撃で、壊滅してしまったのだ。


EPISODE6 届かぬ想い「この予感が当たらない事を祈っている。だから、どうか無事に帰って来て……」


 部隊に一時撤退を指示したヴォイドと私は、ペルセスコロニーへの再突入をめぐり、意見をぶつけ合わせていた。

 『クソァッ! 何故攻めこまぬ! コロニー内の動力反応を見れば、アレが連射できる代物ではないと分かるだろう! さっさと部隊を突入させろ!』
 「後方部隊まで失えば、戦線を維持するのが不可能になってしまうわ、真人そのものが死滅しかねないのよ。もっと冷静に」
 『私は至って冷静だ! 状況から判断している私と感情で判断しているお前とでは、どちらが正しいかなどわざわざ言うまでもない!』

 ヴォイドが事を急いでいるのには理由があった。
 ペルセスコロニーに突入したカイナンとサルゴンのふたりの生存が確認できなくなったからだ。

 『すぐに再突入しなければ、あのコロニーを陥落させる機会はなくなる! ここはまだ戦場だ、判断が遅れればそこに待つのは敗北だぞ! それが何故わからん!』
 「だからこそ慎重に判断する必要があるのよ。今の貴方はどう考えても冷静では――」
 『この私の判断に間違いなどあるものか!』
 「っ……それが間違いだと言ってるの!」
 『貴様ァッ!』

 ……私に、ヴォイドを納得させられる案があれば。
 その時、不意にヴォイドの端末から誰かの叫び声が聞こえた。

 『ひええ! ごめんなさいごめんなさーい!」
 『……アァ!? 少し待て。そこにいるのは誰だ!』
 誰かがヴォイドの部屋に迷いこんでしまったらしい。
 遠くの方で、衛士に何か指示を出しているヴォイドの声と、どこか場違いな女の声が響いていた。
 『……待たせたな。突入部隊の事だが、ちょうどいい駒がいたのを思い出した』
 「駒?」
 『サルゴンの副官だ。あの武闘派の男の右腕ならば、サルゴンのために喜んで飛びこむだろう』

 それに加えてヴォイドは、ペルセスコロニー突入時に出遅れた後方部隊を指名する。その中には、私の部隊として組み込まれた小隊も含まれていた。

 『数は絞った。仮に全滅したとて、影響は軽微だ。これならば文句はないだろう?』
 「ええ……分かったわ」

 ――私とヴォイドの会話からしばらくして。
 再突入した部隊がサルゴンの生存を確認し、ある重要な情報を手に入れて帰還した。
 その情報とは、都市の中で消息を絶ったカイナンが、ペルセスコロニーの監督官、エヴァを連れたまま姿を消したというもの。
 カイナン・メルヴィアスは、指導層の中でも特に冷静に物事を判断し指示を下す人物で、兵士からの信頼も厚い。
 そんな彼が、自身の職分を放棄するなど、とても考えられなかった。
 けれど、コロニーでカイナンと遭遇したムルシア小隊の証言や、サルゴンが入手したカイナンの通信ログから、彼の目的が明らかになった。
 そして、カイナンが向かった場所も――
 サマラカンダコロニー。
 そこは聖女バテシバの軍が最後に攻めこんだ都市で、彼女の死後、放棄されたままになっている。
 その名を聞いてどんな都市なのか答えられるのは、私やヴォイドぐらいのものだった。
 なぜカイナンが機械種を連れてそこへ向かったのか、裏で何をしていたのか。真実を知るには直接向かうしかない。
 ヴォイドは、カイナンの追討を即決した。

 「――どうしても行くの、ヴォイド?」
 「言ったはずだ。母上の願いを成就させるのはこの私だと。それを妨げる奴をのさばらしにはできん」

 一度した決定は絶対に曲げる事はない。
 その徹底ぶりと執念がヴォイドの長所だと私は思う。でも、今回のような追討軍派遣は感情が先行し過ぎている。

 「ヴォイドは、お母様の願いを叶えたいのよね? その願いから遠のいてしまっても構わないの?」
 「当然だ。裏切者に出る幕などない。機械種と帰還種を殲滅し、真人を繁栄させる事が我が使命なのだから」

 ヴォイドのすべては、バテシバのためにある。
 果たせなかった願いを自分が叶える事で、亡き母に報いたい。認められたい。
 その一心でここまで強硬派を導いてきた。
 でも、私にはひとつだけ引っかかる事がある。

 「ねえヴォイド、もし、その願いがヴォイドの考えているものと違っていたら、貴方はどうするの?」
 「何が言いたい」
 「私はずっと彼女と向き合ってきて思ったの。お母さまは、真人の繁栄なんて望んでいないんじゃないかって」

 いつの頃か、私はバテシバ様の夢を見た事がある。
 夢の中の彼女は、この世界そのものを憎んでいるかのようだった。
 私が閲覧できる映像資料にも、ほんの些細な表情の変化から推察する事はできる。
 彼女は、機械種と帰還種を根絶するために戦争を続けていたけれど、もし病に倒れていなかったら、今頃この地上に生命は存在しなかったんじゃないかと思ってしまう。

 「不敬だぞ。いくらお前でも、それ以上母上を愚弄するのならば――」
 「私の願いは、真人という種を絶やさない事……それは貴方も同じはずでしょう? だから、もしお母様の願いが滅びの道だとしたら……私は迷わずに繁栄を取るわ」
 「……フン」

 追討軍の準備が整い、ヴォイドはサルゴンと共にサマラカンダへと向かった。

 「……」

 船が遠ざかっていく。
 ヴォイドとはなにかと衝突する事もあった。大体私が言い負かされて終わりだったけれど、私たちの願いの本質は同じだと思っている。
 だから、もしサマラカンダでその願いが打ち砕かれるような事があったら――。
 その時ヴォイドはどうするのか。

 「無事に帰って来て、ヴォイド」

 そう願わずにはいられない。
 けど、これがヴォイドとの最後の会話だった。


EPISODE7 痛みを知る人よ「なんて澄んだ心の持ち主なのでしょう。彼女のような人がいるのなら、違う道を歩いて行けるかもしれない」


 ヴォイドたちがサマラカンダへと向かう間も、ペルセスコロニーの復旧は急ぎ足で進められていった。
 都市のシステムの多くは監督官の権限で動いているため、掌握するのには時間がかかる。
 そして、ここに駐留している部隊は多くない。
 だから追加の兵がオリンピアスコロニーから到着するまでに機械種の軍勢が他のコロニーから進軍してくれば、私たちは劣勢に立たされてしまうだろう。

 ここは、私たちの生命線だ。
 奪還されてしまえば、滅びの道に逆戻り。
 それだけは、絶対に避けなくちゃいけない。
 確実に滅亡を避けられるのなら、その時は私はこの命を捧げてでも明日をつかみ取ってみせる。
 ……もっとも、私の命ひとつで戦い以外の道を提唱できるほど、甘くはないだろうけど。
 それでもこんなお飾りの聖女の命で真人が生き長らえられるのなら、十分に安いわ。

 ――決断の日は唐突にやってきた。

 『――ル様、エステル様!』

 コロニー外縁部で、周囲の警戒をしている兵士から緊急の連絡が入った。

 「何があった」
 『ペルセスコロニーの東に敵性反応アリ! これは、機械種の戦闘艇です!』
 「数は?」
 『まだ十隻にも満たない数ですので、十分応戦は可能ですが……奴らは広く展開したまま、これといった動きを――』
 「おい、どうした」
 『ふ、船が一隻、こちらへ向かっています!』
 兵士の言うとおり、端末には銀色の船が映っていた。
 『エステル様、あの船から広域通信が!』
 「こちらで対応する。お前は艦隊の監視に当たれ」
 『了解!』

 エステルが自身の端末で通信を拾う。

 「私は指揮官のエステル・ヤグルーシュだ。ペルセスコロニーは既に我々の支配化にある。貴艦の出方によっては砲撃もやむを得ない。そちらの目的はなんだ? 繰り返す、そちらの目的はなんだ?」
 『……っ』

 船の搭乗者は、どこか緊張しているようだった。
 機械種がそんな反応を見せるとは思えない。なら、あの船に乗っているのは……。

 『わたしは、レナ・イシュメイル。この大地に最初に降り立った帰還種です。わたしに戦う意思はありません。もちろん、後ろの船も手は出さないと約束します。ただ、それは……わたしと、わたしたちの船が攻撃されなければの話ですけど』

 彼女は帰還種と言った。実際に言葉を交わすのは私もエステルも初めての事。彼女の顔も見えない状態で、相手を信じられるかどうかは、声ぐらいしかない。
 そんな彼女の声はまだ少し緊張しているけれど、とても澄んでいてきれいだった。
 実直で、穏やか。それが彼女の印象だった。

 「では、目的はなんだ?」
 『わたしは、あなたたちをまとめる人と話がしたい。一緒に、明日を歩いていくために』
 「……」

 エステルの表情が、少し和らいだ。
 私は彼女の言葉に胸の高鳴りを抑えられずにいた。
 彼女とだったら、戦い以外の道を見つけられそうな気がしたから。

 『まだ信用に値しないなら着艦許可を。そうすれば、私が人質になりますよ』
 「ここはもう敵地だぞ。つい先日まで殺し合っていたというのに正気か?」
 『信じてもらうには、まず相手を信じるところから始めないとって思うんです。そうしないと……憎しみの連鎖は止まりませんから』
 「ほう……大した自信だな」

 判断を仰ぐようなエステルの視線が私に向けられる。
 私は小さく頷くと、彼女から端末を受け取って話を継いだ。

 「これは、本当に偶然なのかしら」
 『あなたは……?』
 「私はレア・エ・フラータ。貴女の望む代表者です。私は貴女のような方とお話をしてみたかった」
 私は帰還種レナ・イシュメイルを都市の中へと迎え入れる事にした。

 ――
 ――――

 エステルの誘導に従って、銀色の船が開けた場所に着陸した。近くで見ると、この船の小ささが際立つ。
 「何世代も前の船なのに……よほど愛着があるのかしら」
 「以前当時の記録を参照しましたが、あの船は強硬派からの追撃を退け続け、ペルセスコロニーまで彼女を運んだようです。あれは、彼女にとって希望の象徴のようなものなのでしょう。とはいえ――」

 エステルはそう言うと、険しい顔つきで辺りを見渡した。視線の先には、構造体の影に隠れた兵士がこちらの様子を伺う姿が見える。

 「エステル、これはどういう事?」
 「……あくまでも、可能性のひとつです。彼女が携行していた武器は、かつてイオニアコロニーの大部分を焼き払いました。万が一に備えておく事は、レア様の侍女として当然の責務」

 エステルは彼女をかなり警戒しているようだ。
 平静を装っているけれど、不足の事態に対応できるように腰の武器へ手をかけたまま。

 「私はこんな状態で彼女を出迎えたくないわ」
 「私が危険と判断しない限り、皆にも手を出すなと厳命しています。それに、私の対応はレナ・イシュメイルも想定済みでしょうから」
 「でも……」

 その時、銀の船のハッチが開いた。
 中から姿を見せたのは、白いローブのようなジャケットをまとう女性。歩く度に揺れる長い銀色の髪に光が当たり、どこか神秘的な印象を抱かせる。

 「貴女が、レナ・イシュメイルですね?」
 「はい……初めまして」

 まだ少し緊張しているところを見ると、交渉の場には不慣れなのかもしれない。でも、彼女は私のイメージどおりの人だとすぐに分かった。
 レナに会釈すると、私は後ろで控えているエステルを紹介した。
 話し合いを始める前に、レナは「まずは」と、事情を話してくれた。
 彼女が率いる艦隊は、ペルセスコロニーの東にあるカンダールコロニーで防衛線を構築していた。
 けれど、機動兵器を連れた大部隊が北上したと聞き、ペルセスコロニーの状況を知るためにやって来たという。

 「わたしは、あなた方とは戦いたくありません」

 レナの視線が、ペルセスコロニーの兵器で亡くなった者たちへと注がれた。

 「こんな事をわたしが言うのは筋違いだと思います。ですが、どちらが滅ぶまで戦う事だけは避けないと」

 伏せられたレナの瞳に、薄っすらと涙が滲む。
 彼女は他者のために、それも敵対した真人のために涙を流せるのだ。ああ、なんて純粋なのだろう。

 「貴女は、誰かのために涙を流せる人なのね。貴女が私たちに寄り添おうとしてくれているのは伝わったわ。その気持ちを表明してくれただけでも私は嬉しい」
 「あ、ごめんなさい……帰還種の代表として来たのに、こんな姿を見せてしまって」
 「いいえ、素敵よ。それに、これ以上死者を出したくないのは私も同じ。私と貴女が同じ方向を向いているのは、よく分かったわ」

 私は、いま私が置かれている状況を説明した。

 「私は強硬派を導く立場のひとり。けど、私の一存ですべてを決めてしまえば、内部の反発を招くのは必至。その上での提案だけど……こちらの統制が済むまで、ここを暫定的な領地として認めてほしい」

 無理な願いだとはわかっている。
 それでも、真人の未来を明日につなげるためには、このコロニーが必要だった。

 「では、こういうのはどうでしょう」
 「え?」
 「わたしと一緒に、このコロニーの代表――監督官になりませんか?」
 「監督官? 私が?」
 「わたしには少しだけワガママを言える権限があります。真人と帰還種が共同でここを統治する。それをレアさんの言葉で伝えてもらえたら、少しはお役に立てるかもしれません」

 彼女は、私がペルセスコロニーの共同管理を勝ち取ったと喧伝し、その功績を統制の足掛かりに使えと言っているのだ。

 「どうして……貴女はそこまでしてくれるの?私たちの側に立てるのはどうして?」
 「私が今ここにいるのは、私を支え、背中を押してくれた真人たちがいたからです。それが、わたしに返せる感謝の気持ち」

 そう言うと、レナは遥か遠くの空を見るように少しだけ寂しそうに笑った。

 「ぁ――」

 憂いや悲しさ、慈しむ心。そして、希望。
 あの表情には、レナ・イシュメイルのすべてが詰まっていた。
 言葉を失っていた私の代わりに、エステルがこう言った。

 「貴女は復讐の連鎖を断ち切ったのですね」
 「あはは、そうですね。そうであればいいんですけど……わたしはただ、眠っていただけですから」

 レナはどこか困ったように微笑んだ。

 「私は……まだまだ未熟ね。いつか私も彼女のようになれるのかしら」
 「レア様なら、なれますよ。貴方もまた、痛みを知る人なのですから」
 「エステル……」
 
 するとエステルは周囲で待機している兵士たちに向けて“武装解除”のハンドサインを送った。
 その光景を見て、私はホッと胸をなで下ろす。
 すっかり立ち話をしてしまったけれど、レナとの話はここからが本当の始まりだ。

 「レナ・イシュメイル、私は貴女と協調に向けた話をしたい。だから塔の中で――」

 その時だった。静寂に満ちていた銀の都市に、つんざくような激しい音が鳴り響いたのは。

 「な、何が……エステル!?」
 「と、都市が勝手に? 急ぎ避難を――」
 『――なさい。すべてを――根絶するのです。私たちの大敵を――』

 音が鳴り病んだ矢先に、コロニー全土を上からのぞきこむような、巨大なバテシバの映像が空に浮かび上がっていた。


EPISODE8 聖女が歩む道「私たちには似ている所がたくさんある。互いに学び、成長していける。共に明日を歩いていきましょう」


 『滅ぼしなさい、すべてを――根絶するのです。私たちの大敵を――』

 空中で結像された映像は、バテシバの画像をいくつも継ぎはぎして作られたかのような、不気味な雰囲気を醸し出していた。
 彼女が強い言葉を口にする度に、映像が赤く瞬きを繰り返す。
 あの映像は、私の夢に出た彼女そのもの。
 見ているだけで不安をかきたてられる。
 ……このままじゃいけない。
 もし、待機している兵士たちがあの言葉に従ってレナ・イシュメイルの命を奪おうものなら、その時こそ回避不可能な戦争に発展してしまう。
 あんな映像に惑わされてはダメ。
 今私にできる事はなんなのか考えるのよ、レア。
 非力でなんの力も持たない私にもできる事は。
 辺りを見渡したその時、視界にエステルが入った。彼女の手は、腰に下げられた銃へと伸びていて――

 「エステル!」

 私の意を汲み取ったエステルが、銃を投げた。
 それを直ちに受け取ると、流れるように空に向かって引き金を引く。
 映像が乱れ、空に浮かぶ聖女が砕けて散った。

 「私の言葉を聞きなさい!」

 ありったけの声で、兵士たちに語り掛ける。
 聖女バテシバを演じるレアとしてではなく、真人を導くレア・エ・フラータとして!

 「――皆の者、傾聴せよッ!」

 私が何をしようとしているのか理解したエステルが、兵士たちに素早く指示を飛ばす。

 「ある方が言いました。“願いとは、痛みや絶望の中から生まれる”と。過酷な環境を生き抜き、それでも命をつないできた真人の歴史は、まさに痛みや絶望の歴史と言っていい。私たちが過去にされてきた事を考えれば、和平を望まない者もいるでしょう。すべての敵を滅ぼせば、いつかは望みが叶えられる日が訪れるかもしれません。ですが……その結果がいま、私たちの目の前にある」

 私の指し示した先には、戦略兵器に巻きこまれて命を落とした同胞たちの姿がある。

 「……痛い。胸が張り裂けそうなくらい、痛いです。なのに私は、彼らの名前すら知りません。なんて……なんて私は未熟なのでしょう! 皆さんは同胞の死を踏み越えてでも、何度でも同じ事を繰り返せますか? 次は勝つ。次は倒せる。次は滅ぼすと。今あなた方の隣に立つ者がいない明日でも、繰り返せるのですか?」

 想いが、口をついて出てくる。
 誰も救えていない無力で情けない私。こんな私の言葉では誰の心にも響かないかもしれない。でも、どうか届いてほしい。

 「私は、帰還種である彼女と言葉を交わして、理解を示せました。戦いの時代が、終わりを迎えようとしているのだと。そのためには、互いの未来を想って前に進む必要があるのです! 私たちの手は、武器以外も手にする事ができるのだから!」

 私はひとりの兵士を指さした。

 「貴方、お名前は?」
 「え? じ、自分でありますか? 自分は、ゴリツィアコロニーのアガトと申します!」
 「あら、エステルと同郷なのね。では貴方は、私と同じ想いを抱く帰還種の彼女を、殺したいと思いますか?」
 「……い、いえ、自分は……」

 彼はそれ以上答えられない。
 でもそれでいい。彼が私の言葉に耳を傾け、自分の心と向き合えているのなら。

 「では、そちらの貴方は?」

 幼い顔つきの女兵士。
 彼女もまた、徴兵されて戦地へとやってきた。

 「わ、私は……戦いたくない。帰りたいです! みんなが待っている街に……! もう、仲間があんな目に遭うのはいやです!」

 その声を皮切りにして、小波のように広がっていった声が、大きな波へと変わり、賛同を示していく。
 すべてが良い方向へと向かい始めている。そう思ったその時、ひときわ大きな声が響いた。

 「ふざけるな! 奴らは散々俺たちを虐げてきたんだぞ! 今更仲良くなど、できるものか!」
 「貴方の言葉はもっともです。今貴方が自分で言ったように、平和的な解決は、暴力的な解決よりも遥かに困難なのですから。ですが」
 「真人の理想のためには! 今この場で、帰還種を撃つはずだ!」

 男が私たちに向けて銃を構える。

 「お下がりください、レア様!」
 「下がるのはそちらです! 私は今、真人を率いる指導者のひとりとして、お話をしているのです」
 「か、かしこまりました」

 エステルはそれ以上何も言わず、レナを後ろに隠すようにして距離を取った。

 「では続けましょう。貴方もよろしいですね?」
 「あ、ああ」
 「貴方の言う事も一理あります。ですが、私たちも彼女の同胞に手をかけたのは事実」

 そう言いながら、私は男の目がハッキリと見える距離まで近づいていく。

 「なのに、ボタンの掛け違いのように延々と繰り返される復讐の連鎖を、彼女は自ら断ち切り、今ここにいるのです。私たちとの明日を願っているのです!」

 私が近付けば、男が一歩退く。何度か繰り返すうちに私たちの周りを兵士たちが取り囲んでいた。

 「く、来るな!」
 「少しの時間だけでいいのです。私に――」
 「来るなと言っている!!」

 パン――ッ!

 「――ッ」

 男の放った一発の銃弾。
 それは、私の右脚を掠めて地面を穿っていた。

 「レア様!」「レアさん!?」
 「大丈夫、大丈夫です」

 周りの兵士たちに羽交い絞めにされた男へ、淡々と告げる。

 「私の選択が正しいかどうかは、これからの歴史が判断してくれるでしょう。貴方にとって満足のいく結果にならなければ、その時こそ、貴方の武器で、どうぞ私を撃ちなさい」
 「……ッ……ご、ご無礼を……」

 兵士の口から反論の言葉が出る事はなかった。
 気づけば、反対していた者たちも皆引き金から指を放し、他の兵士たち同様に膝をついていた。
 聖女バテシバの模倣でしかない私の願い。
 誰にも届かないと思っていた私の言葉。
 それが、確かに届いたんだ。

 「レアさんの想い、受け取りました」

 声に振り返れば、エステルとレナがすぐ近くまで来ていた。

 「レナ・イシュメイル。私と、歩んでくれますか?」
 「はい。一緒に変えていきましょう」

 強く握り返された手を見つめ、私は願った。
 先人たちが見られなかった別の未来を見てみたいと。

 ――
 ――――

 ペルセスコロニー内に設けた臨時の執務室の中で、私はオリンピアスコロニーやヴォイドの艦隊と連絡を取る事になった。
 レナと今後に向けた協議を重ねたいところだったけれど、彼女はここにはいない。
 彼女は、先ほどの映像が自分たちのコロニーでも流れたという報告を受け、後方の艦隊へ戻っていったからだ。
 レナが戻っていった後、オリンピアスコロニーから連絡が入り、案の定、あちらも同じような状況になっていると言う。

 「何が起こっているの……」

 この状況に陥った原因は、まず間違いなくサマラカンダが関係している。
 状況を共有するためにも、ヴォイドと連絡を取る事は急務だ。
 けど、肝心のヴォイドとは未だに連絡がつかない。
 妙な胸騒ぎがする。
 もしかしたら、私たちの想像だにしない、最悪な出来事が今もあの都市で起こっているのでは。
 一刻も早く確かめなければ、取り返しのつかない事になってしまう……そう思った矢先。

 「――なんだと!?」

 各コロニーと連絡を取り合っていたエステルが、血相を変えて叫んだ。

 「エステル、ヴォイドと連絡がついたの?」
 「それが……追討部隊が、ヴォイドの艦隊の反応が消失しました」
 「え――」

 別れとは、いつも唐突にくるもの。
 それは、淡く見え始めていた未来に、暗い影を落とそうとしていた。




■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
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