ヴェーネス

Last-modified: 2024-03-09 (土) 14:06:41

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ヴェーネス.png
Illustrator:雅


名前ヴェーネス
年齢21歳
職業アヴェンジングリーパー
時代現代

かつて兄弟のツインギターでその名を轟かせたギタリスト。
弟を失い、煉獄の厄神への復讐に生きる男は、同じく神への復讐を目指す男に出会う。

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1勇気のしるし【SUN】×5
5×1
10×5
15×1


勇気のしるし【SUN】 [EMBLEM+]

  • JUSTICE CRITICALを出した時だけ恩恵が得られ、強制終了のリスクを負うスキル。
  • 嘆きのしるし【SUN】よりも強制終了のリスクが高い代わりに、ボーナス量が多く、JUSTICE以下でもゲージが増える。
  • GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.10→+0.05)する。
  • SUN初回プレイ時に入手できるスキルシードは、NEW PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
  • スキルシードは300個以上入手できるが、GRADE300でボーナスの増加が打ち止めとなる
効果
J-CRITICAL判定でボーナス +??.??
JUSTICE以下150回で強制終了
GRADEボーナス
1+30.00
2+30.10
3+30.20
51+35.00
101+39.95
▲NEW PLUS引継ぎ上限
102+40.00
202+45.00
300+49.90
推定データ
n
(1~100)
+29.90
+(n x 0.10)
シード+1+0.10
シード+5+0.50
n
(101~)
+34.90
+(n x 0.05)
シード+1+0.05
シード+5+0.25
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期所有キャラ数最大GRADEボーナス
2023/4/26時点
SUN15181+43.95
~NEW+0281+48.95


GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数

GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数
ボーナス量がキリ良いGRADEのみ抜粋して表記。
※水色の部分はWORLD'S ENDの特定譜面でのみ到達可能。

GRADE5本6本7本8本9本10本11本12本
16001200180024003200400050006000
115811162174223233097387148395807
215631125168822503000375046885625
315461091163721822910363745465455
415301059158921182824353044125295
515151029154320582743342942865143
615001000150020002667333441675000
71487973146019462595324440554865
81474948142218952527315839484737
91462924138518472462307738474616
102450900135018002400300037504500
122440879131817572342292736594391
142429858128617152286285835724286
162419838125616752233279134894187
182410819122816372182272834104091
202400800120016002134266733344000
222392783117415662087260932613914
242383766114915322043255431923830
262375750112515002000250031253750
282368735110314701960244930623674
300361722108314431924240530073608


所有キャラ

所有キャラ

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 二人のギタリスト「俺たちの夢……まだここはスタート地点に過ぎない。でも大丈夫だ。俺とお前なら、きっとやれるさ」


名前:ヴェーネス
年齢:21歳
職業:アヴェンジングリーパー
時代:現代

 「どうしたんだよ、兄貴。ボーッとしちまってよ」
 「ああ……ちょっと考え事をな」
 「おいおい、しっかりしてもらわないと困るぜ!?
もうすぐ決勝だってのによぉ! そんなんじゃ
俺のギターがステージを食っちまうぞ?」
 「はは、ぬかせ。兄貴よりイカした弟なんて
存在しないんだよ」

 とある地方工業地区。
 労働者の街であるこの地区で唯一のライブホールに、
2人の兄弟がいた。
 兄のヴェーネス、弟のラウリス。
 高い精度でハーモニーを重ね、聴く者の身を
切り刻むかのような鋭角なサウンドを得意とする
ツインギターのデュオ。この街の音楽好きなら
知らぬ人はいないだろう。
 普段はタフでクールな兄と、破天荒で悪ガキな
弟という組み合わせの二人だが、ステージ上では
一変する。
 狂気を剥き出しにした荒々しいヴェーネスの
リードを、タイトでテクニカルなラウリスのプレイが
支え奏でるヘヴィなロックサウンド。
 この小さな街だけでなく世界に通用すると
納得させるほどの音が、ここにあった。
 そんな2人は今、非公式のギグ・バトルを
勝ち上がり、次に控える決勝戦に備えて楽屋で身を
休めている。

 「世界中のイカすハコにデモテープも
送りまくった! あとはツアーさえ組めば、俺たちの
ギターが最強だって証明できる!」
 「そうだ。俺たちはこんなシケた街で収まるような
タマじゃない」
 「ああ! そんでマスターピースをドロップして
頂点に立つ!! そのためにも今日優勝して、
世界進出に勢いつけねーとな!!」
 「おい、肩に力入りすぎじゃないか? 俺の足を
引っ張るんじゃないぞ」
 「へへっ! いつも俺に尻拭いさせてるくせに
よく言うぜ!」

 楽屋まで漏れ聞こえていた音楽がやみ、決勝戦を
アナウンスするMCの声が聞こえてくる。
 間もなく最後のバトルが始まる。

 「……出番だな」
 「ああ。あのさ……兄貴」
 「なんだ」
 「絶対頂点まで上り詰めような。2人で」
 「……当たり前だろ」

 拳を合わせた2人は、並んでステージへと向かう。
 対戦相手の事を気にする必要は無い。いつも通りの
プレイを魅せれば、おのずと勝てる。それだけの自信と
裏付けられた実力があるからだ。
 ステージにセットされたギターを肩に掛け、
軽くサウンドチェックすると、MCがバトル開始への
カウントダウンを始めた。

 『3――2――1――』

 オーディエンスの期待と熱気が最高潮に高まった
その瞬間だった。
 轟音と共に崩落する天井。同時に巨大な火球のような
物体が舞い降りると、会場は“物理的熱気”に
包まれた。

 「なっ!?」

 ヴェーネスはそれ以上声を発することができない。
 ひとたび息を吸い込めば、たちまち喉を焼くほどの
炎が辺りを包んでいる。
 何が起きているのか。鳴り止まぬ悲鳴と自身を焼く
炎の痛みは、考える余地を与えてくれない。
 そんな中、ヴェーネスは燃えさかる火柱の中に人影の
ようなものを見た。
 まるで“炎に包まれていることが当たり前”のように
平然と、さらには笑みのようなものまで浮かべている。

 (あいつは……)

 この地獄のような惨事を引き起こした犯人であると
直感したヴェーネスが、なんとかその人影に
近づこうとした時。

 「あに、きぃ……」

 聞き慣れた声に振り向いた視線の先。
 その身を燃やしながら今にも崩れそうに身体を
引きずる弟の姿があった。

 「ラウリスッ!!」

 叫んだヴェーネスの記憶はここで途切れてしまう。
豪炎に焼かれ、消し飛んだ意識が次に戻ったのは、
見知らぬ病室のベッドの上だった。

 ――目を覚ましたヴェーネスの胡乱な目に、
ぼんやりと白い壁が映る。
 何か慌てるような言葉が次々とヴェーネスの頭上を
飛び交っていたかと思うと、今度は医者と思われる
初老の男がやってきた。
 医者は優しげな声色でなだめるようにヴェーネスに
語りかける。

 「いいですか、落ち着いて聞いてください。あなたは
“煉獄の厄神”の手の者により、死の淵を
彷徨っていました――」

 あの日のことは何かの事故などではなく、
厄神の手によって引き起こされたものだと医者は言う。
 “厄神に対立する神”の命を受けた医者は、なんとか
ヴェーネスの命を救いはしたが、その肉体ダメージは
あまりにも大きかった。

 「――だから、こうするしかなかったのです。
どうか気を確かに……」

 そう言って、医者はベッドへ横たわるヴェーネスへ
鏡を向ける。
 あちこち無造作に縫い合わせられたような歪な肌。
 “自分の肌”と“そうじゃない誰かの肌”。
 ヴェーネスは、その肌が誰のものであるか
分かってしまう。
 がさつで、直情的で、そのくせ子供の頃から身体の
弱かったあいつの青白い肌。
 それは紛れもなく、愛する弟ラウリスのものだった。

 「う、うっ、うわああぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」

 ツギハギだらけの“怪物”となったヴェーネスの
叫び声が病室へと響く。
 彼はこの日、弟を、片翼を、そして輝けるはずの
未来を失った――。


EPISODE2 ツギハギの男「この馬鹿でかい街でなら、きっと見つかるはずだ。俺の弟を殺した、あの火柱への手がかりが……」


 それから、およそ2年の時が経った頃――
 通称<セントラル>と呼ばれる大都市の一角にある
ブルースバーに、ヴェーネスの姿はあった。
 カウンターに座って表情ひとつ変えずグラスを
傾ける、不気味なツギハギ姿の男。
 明らかに店の中で異質な存在感を放っている。

 あれからヴェーネスは故郷を、そしてギターを
捨てていた。
 ツインギターの片翼を亡くした彼には、
もう弾き続ける理由がなかったからだ。
 兄弟で頂点に立つという夢が破れた今。
 ヴェーネスが生きる意味として見いだしたのは
“復讐”であった。

 あの日ヴェーネスを施術した医者は、自身を
“祝祭の神”に仕えし者と名乗り、断片的な情報を
残していた。
 この世界には、ヴェーネス達を襲った
G.O.Dという厄神が率いる軍勢と、そしてそれに
対するトリスメギストス――祝祭の神が束ねる者達が
いるのだと。
 G.O.Dは優秀な眷属を増やすべく、
“上質な音の力”を持つ者を狙っており、
ヴェーネス達はそれに巻き込まれてしまった。
 ヴェーネス達を襲ったG.O.Dの眷属を追っていた
トリスメギストスの配下達であったが、一歩及ばず
被害を防げなかったのだと。
 その事実を聞かされた瞬間、ヴェーネスは弟の仇を
取ることを迷うことなく決意していた。

 一流の音楽が集まるセントラルならきっと、
G.O.Dに関係する者が現れるはず。
 ヴェーネスはそう考え、この地へと流れてきた。
 必ず弟の仇を見つけ出し、そいつの息の根を
自身の手で止める。
 そのために、夜な夜なこうして音楽のある場所を
渡り歩いては情報を集めているのだ。

 「チッ。今日も収穫は無しか……」

 バーを後にし、乾いた風の吹く冬の夜道を歩く
ヴェーネスは、苛立った様子でそう言いながら唾を
吐く。

 「ラウリスの仇……あの火柱の男を殺るまでは、
俺は進む事も戻る事もできない……」

 当てもなく彷徨っているうち、放棄された
旧市街地区へと迷い込んだヴェーネスは、
立ち塞がる何者かによって行く手を阻まれた。

 「……誰だ」

 表情が一切読み取れないほど深く被ったローブ。
その中に生物の姿は無く、無限に思えるほど濃く深い
闇が広がっている。
 ひと目見て、この世のものではないと確信する。
 まさに『死神』と呼ぶに相応しい様相のソレは、
生気のない声でヴェーネスへと呟く。

 「キエロ……」
 「死神が俺に何の用だ」
 「キエロ……」
 「ふむ……なるほど」

 そう言いながら、ヴェーネスは全身の血が
沸騰するような感覚を覚えていた。
 人間ではない曖昧な存在――つまりは神だか
悪魔だかを名乗るG.O.Dに関係する者の可能性が
高い。
 探し求める仇に近づいたことで、ヴェーネスは殺意を
抑えきれなくなる。

 「キエロ……」
 「貴様が消えろ」

 瞬間、引き抜いた拳銃を死神へと向けた
ヴェーネスは、一切の躊躇いを見せずに弾丸を
ぶち込んだ。
 全ての弾を打ち尽くすと落ち着いた動作で再装填し、
再び弾丸を浴びせていく。
 しかし、手応えは感じられない。
 事実、死神のローブには穴のひとつも空いておらず、
変わらずゆらゆらと目の前に立ち尽くしたままだ。
 ヴェーネスは一度大きく呼吸してから考える。

 (……銃器に頼れないことは分かった。惜しいが、
今は撤退するべきか)

 視線を外すことなく、ヴェーネスがゆっくりと
後ずさりし始めた時。
 今までただゆらゆらと揺れながら立っていただけの
死神が、初めて動きらしい動きを見せた。
 ローブの隙間から痩せ細った生気のない腕が
現れたかと思うと、死神はゆらりとその腕を持ち上げ、
ヴェーネスへ向かって指を差す。

 「何を……うッ!?」

 途端、ヴェーネスは頭の中をグチャグチャに
かき回されるような感覚に陥り、膝をつく。
 猛スピードで回転する視界に必死に耐えていたが、
遂にはその場に倒れ込んでしまった。 

 (こんな……ところで……ラウ、リス……)

 意識がブラックアウトする寸前。
 ヴェーネスはまぶたの裏で、笑って憎まれ口を
叩くかつての弟の姿を思い出していた。


EPISODE3 バウンティ・ハンターズ「俺だってどこかで分かってはいた……だけど何度も繰り返し聞こえるんだ。俺の名を呼ぶ、あの声が」


 「――起きろ。目を覚ませ」

 誰かの声がする。
 自身の頬を叩く感触に気付いたヴェーネスは、
慌てて飛び起きると辺りを見回しながら叫んだ。

 「……ヤツはどこだ!? あの死神は!!」
 「落ち着け。ここには俺とお前、それと薄汚い
ドブネズミしかいない」

 ライダースジャケットを着こなす金髪の男が
言うと、次第に状況を理解し始めたヴェーネスが
息を吐く。

 「俺は……生きているの、か」
 「教えてくれ。ここで何を見た」
 「あ、ああ……まるで死神のような……
ローブをまとった亡霊……」
 「……なるほど。確かにあいつら特有の“匂い”が
微かに残ってるわけだ……」
 「匂い……?」
 「偉そうに神を名乗るクソッタレ共の匂いさ」
 「……神、か。君もG.O.Dを追っているのか?」
 「半分当たりで、半分ハズレだ。俺が追っているのは
G.O.Dだけじゃない」
 「そうか……ともかく敵ではないようで安心した。
俺はヴェーネス。君のおかげでこんなゴミ溜めで朝を
迎えずに済んだ」
 「バーニッシュだ。ヤツらと遭遇して
五体満足でいるのは興味深い。話を聞かせてくれ」

 バーニッシュと名乗った男は、セントラル内に
いくつか持つ隠れ家のひとつに案内するという。
 解体途中で放棄された商業施設跡にあるマンホールの
ひとつを降りると、下水道内にある作業職員用だったと
思われる部屋が現れた。
 必要最低限の生活用品やエレキギターなどが乱雑に
散らかった部屋で、バーニッシュはヴェーネスを
ボロボロのソファに座らせると、ブロックフードを
投げよこしながら言う。

 「――ヤツらにとっちゃ銃器なんて
ゴミみたいなものだ。“ただの人間”が戦うには、
“音の力”を使うしかない」
 「“音の力”……」

 ヴェーネスも予想していなかったわけではない。
 彼自身“音の力”でバトルシーンをのし上がってきた
プレイヤーである。神である存在に火器が
通用しないという可能性は大いにあり得ると
考えていた。
 それでも、どうすることもできない理由が
あったのだ。

 「なぜ“音の力”を使わなかった? 見たところ、
お前もプレイヤーなんだろ。それも
アマチュアレベルじゃない」
 「っ!? 俺は一言も――」
 「分かるさ。なんとなくだがな。それと……その目。
お前みたいな目をしたイカレたヤツらを何人も
知っている」
 「俺は……違う。ギタリストとしての俺はもう
捨てたんだ」
 「……どうだか。とにかく連中を殺りたいのなら
“音の力”は必須だ。そこにあるギターを持って行け。
俺には必要ないものだ」

 ヴェーネスはしぶしぶながらそれを受け取る。
 かつての名プレイヤーでありながらヴェーネスは
ギターを捨てた。正確には捨てるしかなかった。
 曲を奏でようとする度、脳裏によぎる燃えさかる
弟の姿。
 身が引き裂かれるような地獄のワンシーンを何度も
フラッシュバックするくらいなら、もう二度と
弾かなければいい。
 ヴェーネスは己の心を守るため、逃げていたのだ。

 「ありがたいが、なぜ俺にここまでする?
悪いが親切な紳士には見えないけどな」
 「ふっ。目的は知らないが、同じ首を狙うハンターと
聞いちゃな……まあ、ただの気まぐれだ」

 それ以上の余計な会話をすることなく、ヴェーネスは
バーニッシュと別れ、その場を後にした。
 旧市街地を抜け、自身の根城へ帰るべく夜の街を
歩く。
 その背中に、弾くこともできないギターを
背負いながら。

 「逃げている限り、戦う術はない……
だが、俺はもう……」

 全てを奪った者共への復讐。
 それを成すためには捨てたはずの呪縛と
向き合わなくてはならない。
 ビルのガラスウインドウに映ったヴェーネスの
ツギハギだらけの顔には、かつての天才ギタリストの
面影はない。
 ただ惨めな、臆病者の顔がそこにあるだけだった。


EPISODE4 湿った導火線「ニコイチの半分が消えちまったら、それはもう別モンだ。あいつを失った俺には、何の力もない」


 「こんなに早く再会するとはな……」

 あれから数日後。
 いつものように真夜中のセントラルを彷徨い、
市街地からほど近いスラムに入ったところで、再び
死神が現れたのだ。
 ヴェーネスと対峙する死神は、相も変わらず
同じ言葉を繰り返す。

 「キエロ……」

 初めて死神とエンカウントしたあの日、なぜ自分が
殺されずにすんだのかは分からないが、 G.O.Dの
眷属を相手に“次はない”と考えたほうが順当。
 それに、ブルブルと震えながら見逃して
もらえることを祈るくらいなら、道ばたのゲロを
飲み干した方がマシだ。
 どんなに過去の幻影から逃げたくとも、
ヴェーネスには戦う以外の選択肢は
残されていないのだ。

 「やるしかないのか……!!」

 そう言ってギグバッグから取り出したギターを
抱えると、何万回と弾き倒して身体に染みついた
フレーズをぎこちなくも奏ではじめる。
 “アップ”などなく、開始からトップギアで突っ走る
高速トリル。
 アンプひとつ無い路上。電気信号の類いは
一切介していない。だがヴェーネスの“音の力”は
次第に、質量を感じるほどの爆音となって空気を
震わせていく。
 耳をつんざくような鋭く尖ったヴェーネスの
ディストーションサウンドが、その音色を
体現するような三日月状の刃のような形になったかと
思うと、宙空へと無数に顕現する。
 やがてフレーズがフルピッキング・シュレッドに
移行すると、三日月は鎖を外した猛犬のように死神へと
襲いかかっていく。

 「喰らいやがれ! 俺の“音の力”を!!」

 アスファルトの路面や落書きだらけの
コンクリート塀を無造作に切り刻みながら、スラムの
路地を駆け抜けていく刃。
 その刃が着弾する寸前、死神は初めて“躱す”という
動作を見せた。
 それは、まともに当たれば確実にダメージを
与えられるということの証明でもある。
 だが死神は空間から空間へと転移しながら、まるで
ヴェーネスのリズムを完全に見切っているように、
いとも簡単に躱し続けていく。

 「くっ……ちょこまかと!!」

 苛立ちと焦り、バトルへのブランク、そして実力を
発揮しきれていない自分に、ヴェーネスの息は徐々に
荒くなっていく。
 誰よりも自分が分かっている。今の自分の力は、
あの頃の半分にも満たないだろう。
 ヴェーネスはいつだって弟ラウリスと共に
ハーモニーを作り上げ、奏でてきた。
 ツインギターの片翼が失われた今、ヴェーネスが
どんなパフォーマンスを見せようとも、それは
“何かが足りない状態”なのだ。
 その現実を再認識したことで喪失感と無力感に
囚われたヴェーネスは、苦し紛れに咆哮する。

 「クソッタレーーーー!!」

 フラッシュバックする記憶の中のラウリスの姿が、
何度も何度も頭の中でリピートする。

 (今の俺では復讐どころか傷一つ与えることさえ
できない……)

 ギリギリで保っていた心が折れ、打つ手が
なくなったヴェーネスの演奏が今まさに
止まろうとしている。
 その時だった。

 「ライブはもう終わりかよ!!?」

 唸るエンジン音と共に現れたバーニッシュが
バイクごと体当たりを仕掛けるも、死神の身体はそこに
存在しないかのように質量を持たず、霧のように
すり抜けてしまう。
 しかし、そのままヴェーネスの前までタイヤを
滑らせながら飛び込んでくると、激を飛ばしつつ
後部座席を親指で差した。

 「早く乗れ!! 撤退するぞ!!」

 飛び乗ったヴェーネスが吹っ飛ばされそうに
なるほど、アクセル全開でその場を離れていくバイク。
 死神はそれを追いかけることもなく
立ち尽くしていたかと思うと、やがて風景に
同化するように消えていった。


EPISODE5 ファントム・ビジョン「なあ、教えてくれないか。いつもみたいに小馬鹿にした態度で、駄目な兄貴だと笑い飛ばしながら――」


 セントラルから外れた港。
 しばらくアイドリングしていたバーニッシュの
バイクだったが、完全に逃げ切れたことを確認すると
エンジンを切る。
 訪れた静寂の中、夜の波止場では微かに波の音が
響いていた。

 「……すまん。君がいなければ今度こそ俺は
助からなかっただろう」
 「貸しにするつもりはないぜ。使わせてもらったのは
こっちだからな」

 バーニッシュはおもむろに、ヴェーネスが背負う
ギグバッグに張り付いていたピンバッジを毟り取ると、
それを指でつまみながら悪びれることもなく言う。

 「悪いが後をつけさせてもらった」
 「発信器か……」
 「お前がぶっ倒れてたあの日、G.O.Dの眷属が
獲物を五体満足で放置することに違和感があった。
だから死神はG.O.Dとは関係ない別の何かか、
もしくはお前が“そういうもの”を
引き寄せる体質でも持ってるんじゃないかと思ってな。
まあ結果的に、俺の予想はどっちも合ってたわけだが」
 「……死神の狙いは俺だとでも?」
 「懇意にしてる情報屋でさえ死神の出没を
知らないのに、お前の元にだけ複数現れる――
確実とは言えないが、十中八九決まりだろう」

 後を追い回される覚えのないヴェーネスは納得の
いかない表情を浮かべつつも、気になるもうひとつの
理由を聞くことを優先し、問い直す。

 「……もうひとつ。G.O.Dと関係ない別の
何かとはどういう意味だ。ヤツの正体は何なんだ」
 「そこまでは分からねえよ。ただ死神に直接に
突っ込んだ時、ヤツの身体は質量をもっていなかった。
まるで幽霊みたいにな。案外本物の
死神かもしれないぜ」

 指を立て、自身の首を切るようなジェスチャーを
加えながらそう言ったバーニッシュ。
 対しヴェーネスは、解決法などまったく見つからない
この状況に、笑うしかないと肩をすくめる。

 「仇は見つからない。死神には追われる。
その上まともなプレイもできないとは……散々だ」
 「2ブロック先まで鳴り響いていたが、イイ感じに
ブッ飛んだ悪くないギターだったぜ。まあ、
本調子じゃないみたいだがな」
 「あんなもの……下痢便の音を聞いてるほうが
マシだ」
 「ふっ。ずいぶん自己評価が高いんだな」

 そう言いながらバーニッシュはバイクに
跨がりなおすと、ヴェーネスをまっすぐ見据えた。
 互いにG.O.Dを追う詳しいいきさつは
知らないはずだが、まるで見透かしているかのように
語りかける。

 「………ひとつ忠告しておく。悪くは無かったが、
あの程度じゃお前はG.O.Dどころかカスみたいな
眷属にも勝てない。誰の仇かはしらないが、
手を引くのも賢い選択だぜ」

 ヴェーネスが思わず言い返そうとするも、その言葉を
かき消すようにエンジンに火を入れたバーニッシュは、
何も言わずに走り去っていく。
 バーニッシュの言う通り、ギターの腕もプレイも
以前とはかけ離れたものだ。
 しかし、ヴェーネスの復讐劇はいまだ始まってさえ
いない。
 言われておずおずと諦められるようなものでは
ないのだ。

 「俺はやれる……ラウリスの仇を、
必ずとってみせる……」

 自分に言い聞かせるように繰り返し呟き続ける
ヴェーネスは、どこか覚悟の面持ちを浮かべると、
ギグバッグの取っ手を強く握りしめるのだった。

 ――数日後。
 ところどころ基礎が剥き出しになった廃ビル。
 そこを根城にしていたヴェーネスは、チャキチャキと
小気味良い金属弦の音をフロアに響かせる。

 (ラウリスはもういない……ならば俺は“俺一人で
奏でる音”を作りださなくては……G.O.D共と
渡り合える力を手に入れるために……)

 ツインギターが前提だった今までのプレイを捨て、
新たなスタイルを確立するための研究。
 長いブランクが開くほどギターを
触っていなかったこともあり、いつ以来か
思い出せないほど久しぶりの自主練習であった。
 弦を弾く度に、ヴェーネスの脳裏に苦しみに
悶えるラウリスの姿が浮かぶ。
 相変わらずのフラッシュバックに苦しむも、それでも
必死に弾き続ける。するとそのうち、忘れていた別の
光景を思い出した。
 初めてギターを手に入れた日の事。心からギターを
愛していた事。ラウリスと切磋琢磨しながら腕を
磨いた事。
 いまやヴェーネスにとって呪縛と化してしまった
ギターだが、それはかつて、何よりの救いでも
あったのだ。
 弟と過ごした懐かしい黄金色の日々を
思い出すうち、気付けばヴェーネスは微かに笑みを
零していた。

 その晩、眠りについたヴェーネスは夢を見た。
 観客もスタッフもいない、薄ら寂しい小さな
ライブハウス。
 その板張りのステージに一人立ち尽くしていた
ヴェーネスの前に、フロアから一人彼を見上げる
ラウリスがいた。
 ラウリスは見慣れた生前の姿で、ヴェーネスに
向かって淡々と語りかけ始める。

 「楽しそうじゃねぇか。兄貴」
 「ラウリス……違う……全ては復讐のために……」
 「復讐? 仇討ちすりゃ俺が生き返るってか?
そんな意味ねーことやめちまえ。結局兄貴の独りよがり
じゃねーか」
 「違う……」
 「一人だけのうのうと生き残りやがって……
兄貴はずりぃよ……なあ、兄貴ぃ……兄貴ぃ……」
 「違う……違う……!!」
 「あにきぃ……あにきぃ……あああああアニ、
アニアニアニアニアニ――」

 壊れたように繰り返すラウリスの身体が、
自然発火したように突然燃え上がった。
 服は焼け、皮膚はあちこち爛れ、眼球を
蒸発させながらも、じりじりとステージへ
這い寄っていく。
 そしてその焦げた手のひらが、ヴェーネスの足首を
掴んだ瞬間――

 「――ハッ!?」

 ヴェーネスは悪夢から目を覚ました。
 先ほどまでの光景が夢だったのだと理解すると、
額を拭って息を吐く。
 ヴェーネスにとって最悪という言葉では
形容できないほどの悪夢。
 たとえそれが己の脳が生み出した幻だと分かっては
いても、平静を保ってはいられない。

 「ならば教えてくれ……俺はどうすればいい……」

 その声は誰に届くこともなく、夜の闇へと
かき消えていった。


EPISODE6 REWIND「俺たちの道はもう巻き戻せない。だが、先に進むことはできる。そんな単純な事を俺は忘れていたんだ」


 「クソッ……!!」

 一人悪態をついたヴェーネスは酒瓶を
思い切りあおると、おぼつかない足取りで夜の
セントラルを歩いていく。

 『一人だけのうのうと生き残りやがって』

 ヴェーネスの頭に夢の中で会ったラウリスの声が
繰り返し響く。
 弟の身体を使い、ツギハギになってまで生き延びて
しまったのはなぜ自分なのか。
 ラウリスこそが生き延びるべきだったのではないか。
 あの死神は一体何なのか。
 G.O.D共に対抗できるほどの力を
どう手に入れるか。
 ひたすら心をザワつかせる全ての要素ごと
飲み込むように、ヴェーネスは酒をあおり続ける。
 飲めば飲むほど余計に、何も出来ずにいる自分に
腹を立てながら。

 「――ッと……おい、いてーな!
このツギハギ野郎!!」

 すれ違いざま肩がぶつかったチンピラが因縁を
つけつつ拳を放つと、泥酔状態のヴェーネスはそれを
まともに食らってしまう。
 調子に乗ったチンピラの追撃を、あえて
抵抗することなく受け続けたヴェーネスは、気付けば
ボロ布のようになって路上に倒れていた。

 (俺は……誰にも負けない自信があった……ロックで
頂点に立つ夢だって、夢物語なんかじゃないと
信じていた……それが、このザマはなんだ……
ラウリスを殺され……一人じゃろくなプレイも
できない……ガキの頃からそうだ……負けん気の強い
アイツと、ビビリな俺……何も変わっちゃいない……)

 天を仰いだ視界に、チラチラと雪が舞い始める。
 みるみる勢いを増す雪はヴェーネスの体に
降り積もり、体温を奪っていく。

 (どうせ一度は死んだようなもんだ……
ここでくたばるのも悪くない……)

 虚ろな目でそんなことを考えるヴェーネスだったが、
ふと気配を感じた方へ視線をやる。
 気付けば手を伸ばせば届きそうな距離に、あの死神が
立っていた。
 死神は襲いかかることもなく、じっとヴェーネスを
見下ろしている。

 「はは……いよいよ死神らしく迎えに
来たってわけか……」

 自嘲気味に放つ軽口に答えることもない。
 ただ黙って、見下ろし続けている。

 「おい……こんな俺の命なんて、刈り取る価値も
ないっていうのか……?」

 死神が仕事を放棄するほど自分は
落ちぶれているのか。
 ヴェーネスの胸に、ふつふつと怒りの感情が
沸いてくる。
 怒りは心臓を打ち鳴らし、生きるための熱を身体中に
与えていく。

 「そうだ……俺にはまだやるべきことがある……
他ならぬ俺が忘れてどうする……復讐など
無意味なんて、ラウリスが言うはずがない……そう、
アイツなら怒り狂いながらこう言うだろう……
『世界の果てまで追っかけてでもブチ殺せ』と……」

 はからずも、死神の行いは再起のきっかけとなった。
 雪を払いながら、ヴェーネスが立ち上がる。
 戦うために。そして、自分は
“生き残ってしまった”のではなく、ラウリスに
“生かされた”のだと証明するために。

 いつの間にか消えている死神のことなど気にもせず、
ヴェーネスはよろよろと街の中を歩いて行く。
 なぜだか今、無性にロックが聴きたい。その一心で
辿り着いたのは近くにあったライブハウスだった。

 「あー今日はもうおしまいなのよォ……ってアンタ
どうしたの!? ボロボロじゃない!!」

 ド派手なビジュアルをしたマスターらしき人物に
引っ張られ、むりやりソファ席へと座らされたかと
思うと、ヴェーネスは毛布やホットミルクといった
子供を相手にするような施しを受けてしまう。
 おかげで冷えた身体が暖まり、先ほどまでの自分を
自嘲できるくらいには気力が出た。
 するとヴェーネスは、ふと近くにギターが
置いてあることに気付いた。
 散々殴られはしたが、指は動く。
 おもむろにそれを手に取ると、ヴェーネスは
手慰み程度に爪弾いていく。

 「あら? そのフレーズ……」

 音色に耳を傾けていたマスターが呟く。
 しばらく何か考えていたマスターは、ふいに
カウンターの中へ入っていくと、埃を被ったとある品を
持ち出してきた。

 「これ、アンタでしょ」

 そう言って差し出してきた物を受け取った
ヴェーネスは、思わずその眼を見開いた。

 「地方の若手にしちゃなかなかイケてる曲だったから
覚えてたわ。ウチで演ってもらおうと思って何度も
電話したのに全然出ないんだもん。なーんでこんなとこ
いんのよ」

 それは、ヴェーネスとラウリスが全国進出するために
作ったデモテープだった。
 ジャケットのデザインをヴェーネスが担当し、
ラウリスがあちこちに送りつけていた代物だ。
 おもむろにケースを開けると、テープに挟まっていた
一枚の紙切れがハラリと落ちた。
 微かに震える指を抑えながら、ヴェーネスは
それを開く。

 『俺たちはこれからロック界の頂点に立つ最高に
クールな二人組だ。ビッグマウスなんかじゃねえ。
俺たちはやると決めたら必ずやる。死ぬ気で……いや、
たとえ死んでもレジェンドになる自信がある。だから
アンタんとこのハコで演らせてくれ! 今俺たちを
出しておけば将来ハクがつくぜ! 連絡くれ!!』

 ひどく頭の悪い、最低で最高なラウリスの
売り込み文句。
 だがそれは、愛すべき弟の生き様そのものだった。

 「……そうだよな、ラウリス。俺たちはやると
決めたら必ずやった……失敗することもあったが、
決して逃げることはなかった……こんな……こんな
簡単なことを……俺は……」

 幼い頃から兄弟は数多くの悪さもしてきた。もしも
天国と地獄があるのなら、きっとラウリスは地獄で兄を
待っているだろう。
 たとえ使命を果たせず地獄で再会することに
なっても、その時はまた二人で大暴れすればいい。
 ツギハギだらけの醜いヴェーネス。
 だがその瞳は澄み、迷いは欠片も残っていない。

 「……ブチかましてやるよ。ロックスターらしくな」


EPISODE7 サイレント・リーパー「あの炎は、俺の眼球の裏側で今も焼き付いている。どんな手を使っても、必ず俺が息の根を止めてやる」


 その日ヴェーネスは、ギターを背負いライブハウスへ
向かっていた。
 G.O.Dとその眷属達が“上質な音”を求めて
現れるなら、自らそれを発することでおびき寄せれば
いいと考えたからだ。
 ソロでのプレイにはまだ慣れていない。だが、
遠くないうちにその域にまで必ず達してみせる。
 根拠はひとつもないが、確固たる自信が
ヴェーネスにはあった。
 そんなライブハウスへの道の途中、もはや驚きも
しなくなった相手と再会する。

 「お前か……今度は何の用だ」

 死神は何も答えない。

 「今さら命を頂きに来たなんて言うなよ? 俺は
もう簡単に死ぬわけにはいかないんだ。たとえ時間が
かかろうと、俺は俺なりのやり方を見つけたんだ。
だから邪魔だけは……って、死神相手に何を
言ってるんだろうな……」

 そう言って頭を掻きながら、ヴェーネスは何かに
気付いた。
 見えないはずのフードの中に広がる闇。その闇の
向こうで、誰かが笑ったような気がしたのだ。
 そう思ったら考えるより先に、思わず口から
ついて出ていた。

 「お前……もしかして――」

 その言葉を遮るように死神はおもむろに腕を
上げると、ヴェーネスの意識を混濁させた時のように
指を差す。
 だがその指先はヴェーネスではなく、セントラルの
ビル群の隙間を縫った向こうを指し示している。
 促されるようにヴェーネスが視線を向けた次の瞬間、
指差した先――5キロほど離れた場所に巨大な
火柱が立ち上るのが見えた。
 ガス爆発などといった類ではない。人間ごときが
作り出すことのできない、巨大で邪悪な炎。
 その炎の色を、ヴェーネスはよく知っている。

 「あれは……!!」

 忘れるはずがない。あれは自身と、ラウリスを
焼いたあの炎だ。
 まだG.O.D達と戦えるほどの“音の力”は
身につけられていない。だがそれでも、ヴェーネスは
走り出さずにはいられなかった。

 火柱の目と鼻の先までやってくると、コンクリートの
瓦礫を乱暴に蹴飛ばしながらヴェーネスは呟く。

 「ギーゼグール資本のスタジアムか……」

 火柱の根元、そこはかつて多目的スタジアムとして
使われていた施設だった。
 ヴェーネスがセントラルに流れ着く少し前、
原因不明の事故があり閉鎖されたと聞いている。
 瓦礫だらけの内部をかき分けながら、
スタジアム中央へと急ぐ。
 やがて辿り着いたアリーナへの中央通路を抜けた
ヴェーネスを待っていたのは、顔を背けてしまうほどの
熱と、そして――

 「バーニッシュッ!?」

 火柱の中心内部には、その身を燃やし続けながらも
息絶えることなく活動する“人影”のようなものが
見える。
 ヴェーネスとラウリスの運命をねじ曲げたあの日に
現れた“災厄”で間違いない。
 その災厄の正面に、ヴェーネスと同じくG.O.Dを
追うバーニッシュが対峙していた。
 苦戦しているのか、すでに肩で息をしている。

 「ヴェーネスか! こいつ……想像以上にタフだ!
癪だが、加勢を頼む!!」
 「言われなくても!!」

 駆けだしていくヴェーネス。
 同時に、“火柱”の炎がヴェーネスに気付くと、
どこからともなく不快な、それでいて神々しさを
感じさせる声が響いてきた。

 『ほう……“音の紬ぎ手”がもう一人……我が主――
煉獄震撼の神への贄としては申し分ない……』

 その言葉に顔を引きつらせたヴェーネスは、瞬間的に
怒りを爆発させ火柱へと突っ込んでいく。
 神への贄――そんなことのために俺たちの未来は
壊されたのか、と。

 「貴様はこの手で嬲り殺しにさせてもらうッ!!」
 「よせっ! ヴェーネスッ!!」

 バーニッシュの制止する声も届かず、ヴェーネスの
身体は一瞬で炎に包まれていく。
 紅蓮ではなく、限りなく白色に近い炎に。
 その眩しさに目を閉じたヴェーネスが次に見た
光景は、どこまでも無限に広がる白い空間と――
死神の姿だった。


EPISODE8 COLD・FUZZ「ああ……間違いない……これは俺たちの音だ……どこまでもいこうぜ……この炎が燃え尽きるまでな」


 「ここは……なぜお前が……」

 いつものように黙っているだけ。そう思っていた。
 だが死神は、初めて“対話”という形でヴェーネスの
問いに応える。

 『ヴェーネス……』
 「俺の名を……」
 『聞け。お前には二つの道が残された。“命と呪いの
契約”を結ぶか、消し炭へと成り果てるか』
 「“契約”? それを結ぶと俺はどうなると
いうんだ」
 『理外の力を与えよう。その代償として命の一部を
頂く。“力”を振るう度、やがて来る“死”が
訪れるまでお前に許された時間は失われていく』
 「なるほど……まさに『悪魔に魂を売る』という
やつか」
 『さあ……選べ……死を司る者として、お前に与える
最後の選択だ……』

 命を燃やし、力を得る。
 力の代償として釣り合うコインなのかは分からない。
 だが、ヴェーネスは迷う素振りすらも見せず
言い放った。
 どんな手を使ってでも復讐をやり遂げる。
その覚悟が出来ていたからだ。

 「契約しよう。ロックンローラーは短命が
似合うと決まっているものでね」
 『……承知した』

 魂に取り憑くことで、“呪いの契約”は完了となる。
 それを履行するため、死神はゆっくりとヴェーネスへ
近づいていく。
 すると、了承したはずのヴェーネスがふいに口を
開いた。

 「ひとつだけいいか……顔を見せてくれ、ラウリス」

 少しの沈黙の後、死神は頭から被っていたフードを
上げる。
 フードの中には漆黒の闇ではなく、紛れもなく人間の
顔がそこにあった。
 それは、あの日火柱の業火に焼かれて死んだはずの
ラウリスのものだった。

 『兄貴……気付いてたのか……』
 「なんとなく、な。そんなゴキゲンな姿に
なっちまった理由、聞かせてくれるんだろ」
 『はは……トリスメギストスとかいう
神様気取りのせいさ。俺の魂を亡くすのは
惜しいだとかいって……駒にしやがった。
冗談じゃねえって逃げ出したんだけどよ……
神の怒りとやらで、この通り』
 「そうか……じゃあ、そいつも“敵”だな?」
 『ああ、敵だ』

 そう言って、兄弟は笑い合う。
 楽しい悪戯を思いついた子供のように、白々しいほど
無邪気に。

 『つーか本当にいいのかよ、契約。マジで
早死にするぜ。俺、死神になっちまったからよぉ、
いくら兄貴だからってサービスできねーぞ』
 「今さらくだらないこと言うな。手段を選ばないのが
俺たちのやり方だろ」
 『はは……そっか、うん……そうだな』
 「……さーて、そろそろ出番か。さっそく力を
貸してもらうからな」
 『おう、派手にかましてやるよ』
 「足引っ張るんじゃねーぞ!」
 『兄貴のほうこそな!』

 スタジアムの中心で燃えさかっていた白色の炎。
 その炎が霧散したかと思うと、まるで舞台演出として
仕掛けられていたかのようにひとりの男がたっていた。
 大鎌を模したギターを担ぎ、その背に死神を宿した
ツギハギだらけの不気味な風貌。
 目を剥き、涎を垂らして痙攣するその男は、耳を
つんざくような爆音を鳴らしたかと思うと、
セオリーなど無視して弦を掻きむしる。
 その姿は、まさに狂人。
 普段の立ち振る舞いからは想像もつかないその様は、
完全に“スイッチが入った”かつての
ヴェーネスそのものだった。

 「ヒャーーーッハァーーーー!!!
ファイヤー野郎の公開処刑だぜぇーーー!!!」
 「ヴェーネス!! 生きてやがったのか!!」
 「驚いてる場合じゃねーぞファッキン髑髏野郎!!
その股ぐらに1個でもタマついてんなら、ビビらず俺に
合わせやがれッッ!!」
 「誰がビビッてるかよ!!」

 超絶技巧の高速フレーズがスタジアムに響き渡る。
 聴いた者の鼓膜どころか血管まで爆発しそうな
毒々しいサウンドと、その音と音の隙間を縫って一流の
芸術へと仕上げるような繊細なリズム。
 まるでパズルがかっちりと組み合うように、二つの
ギターサウンドがうねるように絡みついていく。

 「なんだこの音は……クセだらけの極悪ギターの
くせに、この俺を“ノセて”くる!!」

 バーニッシュはこれまで一度も味わったことのない
高揚を感じていた。
 かつて自身が組んでいたバンドでも出せなかった、
“最凶の音”。
 予感めいた確信がよぎる。『この音は俺の声に
合う』と。

 「一撃で決めろォォーー!!
ファッキン髑髏ォォーーー!!」
 「分かってんだよ!! 黙って弾いてろ
ツギハギーーッ!!」

 ヴェーネスのギターに、バーニッシュの
“咆哮という名の歌”が乗る。
 それはどちらか単体で奏でるものとは比べものに
ならない相乗効果をもたらすバンドアンサンブルと
なって、爆発的な力を生み出していた。

 『我は“主の枝”であるぞ……たかが
人間ごときに……!!』
 「うおおぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!」

 “火柱”の持つ熱量以上の熱を纏ったバーニッシュが
炎の中へ飛び込むと、その勢いのまま核である
“人影”の元へと一気に距離を詰める。
 その瞬間、限界まで激しく掻き鳴らすパッセージから
一転してブレイクするように、二人のサウンドが
ピタリと音を止めると、バーニッシュは静かに囁いた。

 「悪いな。俺も、たぶんアイツも――
人間やめてんだ」

 “人影”に突き刺した腕が、G.O.Dの欠片を
握り砕く。
 瞬間、燃えさかっていた火柱は逆再生映像のように
集約し、バーニッシュの肉体へと吸収されていった。
 スタジアムからG.O.Dの気配は完全に
消え去っている。
 それは即席バンドが勝利をつかみ取ったことを
意味していた。

 「俺もまだまだだな……ヴェーネスがいなければ
勝てなかった……」

 静まりかえるスタジアムの中、そう呟く
バーニッシュ。
 そんな彼に、まるで散歩の途中で偶然出会った
友人のように脱力したヴェーネスがやってきて言う。

 「よう。なかなかやるじゃないか」
 「お前……演奏中は人格変わるタイプなんだな……」
 「ガキの頃からの悪癖でね。気にしないでくれ」

 そう言ったきり、少しの沈黙が流れたかと思うと、
照れ隠しに額を掻いたバーニッシュが至って自然な風を
装いながら切り出し始める。

 「俺はG.O.Dやトリスメギストス……あらゆる
神とその取り巻き共を始末するために生きている。
奪われたものを取り戻すためにな」
 「奇遇だな、俺も似たようなものだ。貸したツケを
返してもらいに行くところ、といった具合だな」
 「利害は一致しているな」
 「どうやらそのようだ」

 それ以上の言葉は交わさず、ヴェーネスと
バーニッシュは互いの拳を合わせた。
 煉獄の神でもなく、祝祭の神でもない。
 全てを憎み、壊し、喰らうことを掲げた
ちっぽけな“第3勢力”。
 後に、神が脅威するほどまでになる新たな勢力が
生まれた瞬間だった。

 「まさか再びバンドを組む日が来るとはな……
まあ、バンドといってもたった2人だが」
 「いいや――“3人”だ」

 ヴェーネス達は、スタジアムを囲み始めた
サイレンから逃れるように、夜のセントラルへと姿を
消した。
 彼らは闇の中、虎視眈々と狙い続けるのだ。
 神の首を刈り取る――その瞬間を。




■ 楽曲
┗ 全曲一覧(1 / 2) / ジャンル別 / 追加日順 / 定数順 / Lv順
WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧


コメント

  • この見た目だからどんだけヤバいことやらかすのかと思ったけどただの良いやつだった -- 2023-10-26 (木) 21:08:09
  • 後ろにいる穴山とか言われてたやつは弟だったのか -- 2023-11-03 (金) 23:50:48

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