アンシャール・アウダーチア

Last-modified: 2024-03-09 (土) 14:06:41

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通常セイクリッドナイト
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Illustrator:ふぁすな


名前アンシャール・アウダーチア
年齢容姿年齢28歳程度(再生後7年)
職業遊撃隊隊員
  • 2023年2月22日追加
  • SUN ep.Ⅲマップ4(進行度1/SUN時点で505マス/累計1100マス*1)課題曲「Daphnis」クリアで入手。
  • トランスフォーム*2することにより「アンシャール・アウダーチア/セイクリッドナイト」へと名前とグラフィックが変化する。

アウダーチアの名を継ぐ、メタヴァースより地上に再生された帰還種の青年。
仲間たちと共に、蘇りし魔剣へと挑む。

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1勇気のしるし【SUN】×5
5×1
10×5
15×1

勇気のしるし【SUN】 [EMBLEM+]

  • JUSTICE CRITICALを出した時だけ恩恵が得られ、強制終了のリスクを負うスキル。
  • 嘆きのしるし【SUN】よりも強制終了のリスクが高い代わりに、ボーナス量が多く、JUSTICE以下でもゲージが増える。
  • GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.10→+0.05)する。
  • SUN初回プレイ時に入手できるスキルシードは、NEW PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
  • スキルシードは300個以上入手できるが、GRADE300でボーナスの増加が打ち止めとなる
効果
J-CRITICAL判定でボーナス +??.??
JUSTICE以下150回で強制終了
GRADEボーナス
1+30.00
2+30.10
3+30.20
51+35.00
101+39.95
▲NEW PLUS引継ぎ上限
102+40.00
202+45.00
300+49.90
推定データ
n
(1~100)
+29.90
+(n x 0.10)
シード+1+0.10
シード+5+0.50
n
(101~)
+34.90
+(n x 0.05)
シード+1+0.05
シード+5+0.25
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期所有キャラ数最大GRADEボーナス
2023/4/26時点
SUN15181+43.95
~NEW+0281+48.95


GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数

GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数
ボーナス量がキリ良いGRADEのみ抜粋して表記。
※水色の部分はWORLD'S ENDの特定譜面でのみ到達可能。

GRADE5本6本7本8本9本10本11本12本
16001200180024003200400050006000
115811162174223233097387148395807
215631125168822503000375046885625
315461091163721822910363745465455
415301059158921182824353044125295
515151029154320582743342942865143
615001000150020002667333441675000
71487973146019462595324440554865
81474948142218952527315839484737
91462924138518472462307738474616
102450900135018002400300037504500
122440879131817572342292736594391
142429858128617152286285835724286
162419838125616752233279134894187
182410819122816372182272834104091
202400800120016002134266733344000
222392783117415662087260932613914
242383766114915322043255431923830
262375750112515002000250031253750
282368735110314701960244930623674
300361722108314431924240530073608


所有キャラ

所有キャラ

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 その瞳は何を見る「見つめろ、目を背けるな。この二極化された世界に生きる意味を問い続けるのだ」


 私とマードゥクが地上に再生された頃、世界は二極化し、混乱のさなかにあった。
 怒りと憎悪。諦めと悲哀。
 理想の世界とは対極にある感情が、ここには数多く渦巻いている。
 我々が教えられてきたのは、そんな負の感情に支配された者たちに手を差し伸べ、救うこと。
 だが、そんな美辞麗句はなんの意味もなさなかった。
 世界から否定された者たちの怒りは、言葉だけでは鎮まらず、破壊と殺戮が止まることもない。
 争いは激化し、やがてそれ自体をなかったことのように、管理者たちは“見て見ぬふり”をしてしまう。
 そんな世界は、果たして本当に理想の世界足り得るのか?

 どう救う。どう関われば、理想の世界は実現する?
 その答えは……私の中にはない。
 だから私は、軍の門戸を叩くことにした。
 大切な者を護るために、世界と関わる最前線に立つために、私は関わり続けなければならないのだ。
 私は、その果てにある答えにたどりついてみせる。
 見つめるのだ。この世界の有り様を。


EPISODE2 奇妙な縁「おかしなものだな。つい先日まで敵味方の関係だったのに、今は彼らの無事を祈っているとは」


 赤髪眼帯の男、ロトにさらわれたニア・ユーディットとソロ・モーニアの行方を追い、カスピ大地溝帯を発ったアンシャールとマードゥク。
 思いがけず共闘することとなったミスラ・テルセーラたちの助力で、一行はついにロトの船団を追いつめる。
 しかし、ロトはソロを囮に使い、ニアを連れて逃走してしまったのだ。
 墜落する船からソロを助け出したアンシャールたちがロトを追撃しようとするも、そこへ友軍からの報せが届く。
 真人強硬派の大軍勢が防衛網へと押し寄せ、ペルセスコロニーに向けて進軍を開始し、更には大型の機動兵器までもが戦場に出現したと。
 いかに本隊と別行動を取ることが黙認されている遊撃隊とはいえ、ペルセスコロニーに危機が迫りつつある状況では、ニアという個人の救出を優先するのは困難だ。
 アンシャールは、大局的な判断を下さざるを得なかった。
 帰還種は、種の存続の道を探る真人にとって貴重な研究材料。それがたとえ“死体”だったとしても利用価値は計り知れない。
 それを教えてくれたのが、隊長のアイザックだった。
 諦めるという選択は、すなわちニアの死を意味する。
なんとしても助けようとするマードゥクだったが、そこへ助け舟を出したのが敵対関係にあるはずのソロ一行。
 遊撃隊に命を狙われたにもかかわらず、彼らはソロ救出の恩を返すため、ニアの救出に名乗りでたのだ。
 普段ならそんな提案に乗ることはなかっただろう。
 だが、共闘するうえでわずかな時間を共に過ごした経験が、アンシャールとマードゥクから警戒という名の心の壁を取り払っていた。

 「――じゃ、お嬢ちゃんをさらった赤髪野郎をとっちめてきてやるぜ」
 「待て」
 「おいおい、まだ何かあるのか?」
 「ここからしばらく南下すると、我々の前哨基地がある。そこで補給しておけば、今後の役にも立つだろう」
 「アニキ……!?」
 「ニアをさらった賊が組織立って行動しているのは明白だ。でなければ、敵地の奥へ向かえば向かうほどリスクは跳ねあがり、目的を達成できなくなる。つまり、こちらもしっかり準備しておく必要がある」

 ニューネメアコロニーでロトの奇襲を受けてから、敵の正体を分析していたアンシャールはひとつの答えを導きだす。

 「奴らは真人の王子であるソロ・モーニアではなく、“帰還種であるニア”を連れ去った。それはつまり、彼女でなければならない理由があり、彼女を利用するための施設を構えている可能性が高い。相手の規模を低く見積もれば、それは君たちの死にもつながる」
 「確かに一理ある。ソロ、お前さんはどう思う?」
 「受けられるものは受けておこう。あいつらが本当に研究だなんだの対象として見てるなら、そう簡単に殺しはしない。俺は何年も、“おもちゃ”にされてきたからな」

 ソロの瞳が翳る。その小さな身体に抱える闇に触れた気がして、マードゥクの目に同情の色が浮かぶ。

 「ソロ……お前……」
 「時間も惜しい、すぐに向かおう」
 「あ、ああ……」

 有無を言わさぬソロの言葉に、一同は頷くほかなかった。

 ――
 ――――

 一行が到着した前哨基地は、ニューネメアコロニーの戦闘で負傷した遊撃隊隊員が数名逃げ延びていた。
 基地の人員の多くは負傷者の対応に当たり、とても話しかける雰囲気ではない。
 アンシャールとマードゥクはすぐさま基地司令官のもとへと向かう。
 そこで待ち受けていたのは思いがけない報せだった。

 「は? ペルセスコロニーが陥落……嘘だろ?」
 「嘘でも冗談でも、そんなこと言うものか。我々も
いまだに信じられないのだ」

 基地司令の機械種は、これまでに判明した事実を淡々と告げる。
 ペルセスコロニー監督官のエヴァ・ドミナンスⅩⅡは陥落の報せが届く直前から通信ができない状態にあるという。

 「では、コロニーにいた仲間たちは……」
 「その点は心配いらない。エヴァ・ドミナンスⅩⅡは帰還種を皆、輸送艇に乗せて脱出させた。彼らの安否はカンダールコロニーに行けば分かる」
 「カンダールだって!?」
 「カンダール」の言葉に、マードゥクは顔をハッとさせた。カンダールコロニーとは、以前マードゥクがニアから聞いた故郷とも呼べるコロニーの名前。
 そこには、ミスラとニアの育ての母であり、バテシバ戦役を生き抜いた帰還種であるメーネ・テルセーラがいると……。

 「そうだが、何か気になることでも?」
 「はい、力になってくれそうな人がいるんです!」
 「そうか。カンダールまでの道のりは我々の
勢力圏内だが、念のため気をつけるんだぞ」
 「ありがとうございます司令官殿。それと、実は折り入って司令官殿に協力を仰ぎたいことがあるのですが」
 「何かね?」
 「小型の戦闘艇を一隻と、燃料をいただきたく」

 ――船で待機するソロたちのところへと戻ってきたアンシャールとマードゥク。
 ふたりはこれからの経緯を説明しつつ、司令官から新しい戦闘艇を拝借したと伝えた。

 「操作系統は、今までの船と何も変わらないはずだ。損傷もなく整備が行き届いている分、機体性能はこちらの方が高い」
 「ありがとうございます、アンシャールさん。ニアさんを助けるためにここまで手厚く……」
 「これは当然のことです」

 ゼファーの言葉に、アンシャールは改めて4人の前へと向き直ると、深々と頭を下げる。

 「えっ?」
 「私にできるのはこれぐらいだ。どうか、ニア・ユーディットの命を救ってほしい」
 「アニキ!?」

 言葉を尽くしても言い表せない想い。
 その、内に秘めた力強さに、ソロも自分の中の率直な言葉を伝えることにした。

 「約束なんか、できない」

 アンシャールを真っ直ぐに見つめるソロの瞳。そこに嘘や偽りといった類いは感じられない。

 「俺は……あの女とアイザックに命を狙われた。正直なところ、あんたたちの頼みを蹴って今なら誰にも見つからずに北を目指せるんじゃないかって思ってる」
 「……」
 「今までずっとこの世界を恨んできた。俺は、俺とゼファーが平和に暮らせる場所を手に入れられれば、そこで隠れてやり過ごせればいいってずっと思ってた。それが俺にとっての自由なんだって。でも、それをただ選ぶだけじゃいけない気がしたんだ」

 ソロは、ゼファーを、ヨアキムを、ミスラを。
 そして、アンシャールとマードゥクを見据えて言った。

 「自分で選び、自分で捨てる。それを決められることが俺にとっての自由なんだ。だから俺は、俺の意思でニアを助けに行くよ」
 「ソロったら……」
 「ハハ、回りくどいところが、アイツらしいっちゃらしいのかねえ」
 「ありがとう。真人の王子よ」

 ほほ笑むアンシャールに、ソロは少し頬を赤らめたまま、そっぽを向く。

 「は、話はそれだけだ!」
 「フフ、そうか」
 「それじゃ、ニアのところに行こー!」
 「そうさなぁ! マードゥクのためにも、ニアを助けだしてやらないとよぉ!」
 「ちょ、なんでそこで俺の名前が出てくんだ!」

 ――準備を済ませた戦闘艇が遠ざかっていく。
 その後ろ姿を目で追いながら、アンシャールは思案する。

 (アイザック隊長、貴方とは違う道へ進むことをどうかお許しください。その結果は、行動をもって示してみせます)

 奇妙な縁でつながった真人と帰還種。
 和平と平穏を願う者たち。
 彼らにこそ、この世界の未来を変える可能性が秘められていると信じて、アンシャールは新たな道を歩むのだった。


EPISODE3 メーネ・テルセーラ「彼女とレナ・イシュメイルがバテシバ戦役を生き抜いたからこそ、今があるのだな」


 ソロ一行と別れ、多くの負傷兵をつれて前哨基地を出発したアンシャールとマードゥク。
 アンシャールは一度も休まず航行を続け、なんとかカンダールコロニーの勢力圏内へとたどりついた。
 カンダールコロニーは、ペルセスコロニーから東に位置するコロニーのひとつ。バテシバ戦役においてペルセスコロニーが陥落した際の反抗拠点として使われた過去がある場所だ。
 そのため、ここはすでにペルセスコロニーから避難した帰還種を多く受け入れていた。

 「みんな元気そうで良かったな、アニキ」
 「ああ。これもエヴァ・ドミナンスの采配によるところが大きいのだろう」

 エヴァ・ドミナンスⅩⅡがどうなったかは、未だに明らかになっていない。ペルセスコロニーの状況も分からない以上、いずれはここも戦地となる覚悟をしておかなくてはならない。
 それはここにいる者たちの共通認識なのだろう。カンダールからさらに東の拠点へと逃げたところで、安全な場所などないのだから。
 避難民は自発的に都市防衛部隊の指示を受けながら、戦闘訓練や後方支援など、来たる戦いへの準備を進めている。

 「不甲斐ないな、我々は……」
 「アニキ?」
 「彼らに、“武器を手に取る”という選択を与えてしまったんだ。遊撃隊として何度も真人と戦ってきたというのに、現状がこれなのだからな」

 アンシャールは、自身を揶揄するように自嘲する。

 「アイザック隊長もいなくなってしまった。結局、我々がしてきたことに意味はあったのだろうか」
 「……アニキのそういうところ、尊敬するよ」
 「急にどうした」
 「みんなのために考えすぎなんだよ、アニキは。でもな、それを考えるのはアニキじゃないぜ。あいつら自身なんだよ」

 辺りをぐるりと見渡したあと、続けた。

 「意味なんて後付けだ。やるかやらないか、それだけさ。違うか?」

 ニッと笑ってみせるマードゥクに、アンシャールから緊張の色が消える。

 「……フフ」
 「あ、その笑い方! またバカにしてるだろ!」
 「そうじゃない。この世界には、マードゥクのような人間が必要なんだと思っただけさ。ありがとう、マードゥク」
 「へへ……んじゃ、俺たちもやることやらないとだな! まずは、ニアの母ちゃんを探して――」
 「騒がしくしてるわね。何か探し物?」
 「え?」

 向かい合ったふたりの横から聞こえた声。
 その声に振り返ると、そこには黒いコートを羽織った女の姿があった。
 いつからそこにいたのだろうか。戦闘訓練を受けてきたふたりが、声を掛けられるまでまるで気づけなかった。
 それほどに、彼女は気配を消すのがうまかった。

 「あ~っと、そうなんですよ! ここにニアのお母さんがいるって聞いて――」
 「おい、マードゥク!」
 「あら、偶然ね」
 「え?」

 そう言われ、マードゥクは女の容姿を確かめた。

 「キミたちが探しているのは私かな?」

 目深に被ったフードを女が取り払うと、艶やかな黒髪が視界に飛び込んだ。
 そして、それ以上に目を引いたのが、オッドアイという特徴的な見た目。
 以前、ニアから聞いた人物の特徴にピタリと当てはまる。
 そう、この人物こそが――

 「メーネ・テルセーラ、バテシバ戦役を生き抜いた英雄……!」
 「あ、あなたが……ニアのお母さんッ!?」
 「そ。まあ、お母さんっていうのはちょっと違う気がするけど」

 メーネと呼ばれた女は、小さく笑った。


EPISODE4 幸せの化身「彼らを死なせてはいけない。この世界に更なる争いがまき散らされる前に」


 姿勢を正し、軍隊式敬礼をしたマードゥクは、かしこまった口調で話し始めた。

 「失礼しました! まさかニア……さんのお母様であらせられるとは……!」

 どこかぎこちない所作と言い回し。
 マードゥクが緊張しているのがありありと透けて見えてしまい、メーネはおかしそうにけらけらと笑う。

 「そんなに畏まらなくていいのに」
 「い、いえ! その……」
 「フ、付け焼き刃にも程遠いな。申し遅れました、メーネ・テルセーラ殿。私はアンシャール、そしてこちらはマードゥク。私たちはニアさんと同じ部隊に所属しています」
 「そうだったの。それで、ニアは今どこに――」
 「っすみませんでしたっ!!」

 会話に割って入る謝罪の言葉。
 見れば、地面につきそうな勢いで下げられたマードゥクの頭が。
 メーネは顔つきをキッと引き締めて続きを促した。

 「……詳しく聞かせてくれる?」

 ――
 ――――

 「へえ、そういうことだったのね」
 「驚かれないのですね」
 「あの子が自分で決めたことだから。軍に身を置く以上、そういう危険に巻き込まれる可能性もある。中途半端な覚悟で行ったのなら、叱ってあげないと」

 メーネは穏やかに、淡々と答える。
 とはいえ、色違いの瞳にはわずかながらにニアへの想いが見て取れた。

 「それに、あの子をミスラが追ってるなら大丈夫よ」
 「ミスラ・テルセーラのことを信頼してるのですね」
 「ミスラは、一度やると決めたらそれを一生懸命に貫こうとする。バテシバの子……ソロ・モーニアだったかしら。その子と一緒にいるって聞いて確信したわ。今でもずっとこの世界のことだけを考えてるんだって」
 「世界、というと?」

 その時、初めてメーネが相好を崩す。子供のように無邪気に、それでいて愛おしそうに。

 「あの子は、自分がどうなろうと世界が笑顔であればいい。そういう考え方をする子でね、よくニアと言い合いっこしてたわ」
 「ああ、俺にもなんか絵面が浮かぶ……」
 「なるほど、貴女の教えがミスラ・テルセーラに受け継がれているのですね」
 「どうかしら。あの子とは血のつながりはないし、私はただあの子のしたいようにさせているだけよ」

 過去を思い返しながら喋っていたせいだろう。彼女の瞳には、ミスラとの思い出が蘇っているようだった。

 「帰還種と真人は分かり合える。ミスラはそんな世界を目指してソロと出会ったから今があるんでしょう? なら、すれ違ったものを、元に戻してあげないと」

 メーネの声色が、一段と穏やかなものになる。
 アンシャールはふと、かつて真人にも帰還種とともに行動する「穏健派」がいたことを思い出す。おそらく、彼女にも穏健派の真人との間に何か特別な想い出があるのだろうと推察した。

 「あなたたちも世界を変えたいと望むのなら、ソロ・モーニアを護りなさい」

 メーネは言った。
 彼が死んだその時こそが、世界のさらなる混乱を生む。そして、二度と修復できないほどの亀裂を残すことになるだろう、と。
 アンシャールもその可能性には至っていた。
 赤髪の眼帯男がニアとソロをさらった理由のひとつが、世界の分断を誘発することではないかと。
 だが、ソロをあっさりと手放し、ニアを最優先事項に据えているところに、アンシャールは嫌な予感を覚えずにはいられなかった。

 「私はあなたたちを信じることにした。だから船を託すわ。それで――」

 その時、メーネが持つ端末が鳴り響いた。
 数回のやりとりのあと、メーネは端末を開いて送られてきたと思われるデータを投影させる。
 データは、どこかの空域を偵察機で撮影したものだった。荒い画像の中には、髑髏の意匠が施された巨大な機動兵器とともにどこかへと向かう艦隊が写っていて……。

 「これは……!」
 「アニキ、もしかしてこいつがペルセスを陥落させたヤツなんじゃ!?」
 「ああ、可能性は高い。メーネ殿、この機動兵器が向かっている、おおよその方角は分かりますか?」
 「ええ、この艦隊はペルセスコロニーから北東――カスピ大地溝帯の東の辺りを目指してるわね」
 「なあ、これってソロたちが向かった方角じゃないか?」
 「やはり、ニア・ユーディットを連れ去った先に、何かがあるとみて間違いないだろう……」

 沈黙が流れる中、メーネはパンと手を叩いてみせる。

 「よし、決めた!」

 メーネの言葉にアンシャールは怪訝な視線を向ける。

 「やっぱり私も行く。船のことは任せたわ、操縦は得意じゃないから」
 「「……は?」」


EPISODE5 因縁集いし紺青の都「奴らの目的はなんだ? それを見誤れば、我々は取り返しのつかない事態を招きかねん……」


 事態の変化を受け、アンシャールとマードゥクはメーネとともに真人の最大戦力と思われる機動兵器を搭載した艦隊群を追跡することにした。
 メーネが用意したのは旧式のエアクラフト。
 小人数での搭乗を想定した機体であり、機動力はあるものの3人で乗るには少々狭すぎるのが難点だ。
 しかし、背に腹は変えられない。
 時間を惜しんだ3人は、準備を整え各所への引き継ぎを済ませると、カンダールコロニーを出発するのだった。
 北東へと向かう道すがら、アンシャールはメーネにソロたちが向かった場所に心当たりがあるか尋ねる。
 エアロクラフトを操縦するアンシャールの隣で、マードゥクが端末を操作して地図を表示した。

 「今ミスラたちは、この辺りにいると思います」

 端末が映すのは、カスピ大地溝帯から東のエリア。
 地図には、そこが空白地帯だとわかるように「ブランク」と記述された文字があるだけで、山岳部が近いという以外に詳細は分からない。

 「ここに、ニアをさらった者たちが潜伏しているのではないかと。メーネ殿は何か知っていますか?」

 そう問われて怪訝な顔を見せたメーネは、記憶の糸をたぐり寄せるように目を瞑る。
 しばらくすると、何か心当たりがあるのか顔をパっと明るくさせた。

 「ひとつだけあるわ。もし拠点を作るとしたら……それはサマラカンダね」
 「サマ? ……アニキ、知ってるか?」
 「私も覚えがない。そこは、機械種が管理していたところなのでしょうか」
 「ええ、そこはペルセスコロニーと同じ主機にあたる要の都市だった」

 メーネがこの地に再生される際、システムから与えられた情報と、この地に来てから起きたことをもとに、ふたりに話して聞かせる。

 「メタヴァースシステムは、この星そのものを巨大な演算機として利用している。都市それぞれに演算機はあるけれど、それらを地域ごとに管轄するのが主機の役目。だから、都市で何かあった時には主機がシステムとの接続を切ったり、破棄もできる」
 「仮にそこに拠点を築いていたとして、相手は意図して主機を狙っていたと?」
 「可能性はあるわ。バテシバ戦役の戦闘で、都市は甚大なダメージを受けた。結果的に強硬派が撤退して終わったけど、監督官は破壊され、システムにアクセスできなくなったことで、都市ごと破棄されたはず……」

 だが、そうではなかった。
 真人がサマラカンダを使って何をしようとしているのか。アンシャールはこれまでに得た情報から思案する。

 「まさか真人たちは、なんらかの方法でメタヴァースシステムにアクセスし、システムを……いや、一部の地域を切り離すだけでは限定的すぎる。それでは膨大な時間を費やしかねない。あまりに非効率だ。ゆえに決定打にはなり得ない。では、それを可能に――」
 「ちょ、アニキ! 考え事しながら運転するのは止めてくれよ!」
 「っと、すまない」
 (やはり、重要な何かが欠けている気がする。それが分かれば、彼らの真の目的も明るみになる……)

 はまりそうではまらないパズルの答えを出すのは保留して、アンシャールはエアロクラフトの操縦に注力するのだった。

 ――一方その頃。
 先行してサマラカンダを目指していたソロたちは、戦闘艇で向かうのを断念せざるを得ない状況に陥っていた。

 「参ったなあ、まさかあんなバカでかい大砲を用意してあるなんてよぉ」

 丘に身を隠しながら、ヨアキムは遥か遠くに見えるサマラカンダの街並みを眺める。都市へと続く長い道には、林立する木に紛れていくつもの砲塔が上空に狙いを定めていた。
 いくら整備された最新の軍用機であっても、要塞化された都市に近付くのは難しく、ひとたび砲塔に狙われてしまえば、ひとたまりもない。

 「気付かれないように地道に近づくしかないだろ」
 「そうね。時間はかかるけど、見つからないように進むのが賢明だわ」
 「ま、それ以外にないよなぁ。できれば陽が暮れてから動きたいところだが……」
 「――待って、みんな」

 3人が様子を伺っていたその時、ミスラは何かを感じたのか耳に手を当てて気配を探る。
 ミスラの言葉とほぼ同時、3人も周囲の空気がびりびりと震えているのを感じ取った。
 ヨアキムの行動は早かった。瞬時に対応できるように辺りを警戒しつつ、ソロとゼファーの前に立つ。
 やがて、振動の正体が判明した。
 一行の遥か上空を、艦隊が通過したのだ。

 「クソ、増援か!?」
 「いいや、様子がおかしい」

 ヨアキムの指摘通り、艦隊はサマラカンダの前で止まった。それに呼応するように、サマラカンダ上空に白一色で統一された船が複数現れる。
 どちらの艦隊も横並びに広がり、顔を突き合わせるように布陣していく。

 「どうやら、お仲間ってわけじゃなさそうだぜ?」
 「なら、この状況を利用できるかも――」

 刹那、片方の艦隊から巨大な何かが落下した。
 それは激しい地響きとともに、辺り一帯に砂埃を巻き上げる。
 その何かは、遠く離れた丘からでも形が分かるほどに巨大な、人型の機動兵器だった。

 「おいおい! なんなんだよアレは……!」
 「すっごく大きい!」
 「今、そんなこと言ってる場合か!?」

 ミスラとソロが言い合いをした次の瞬間には、艦隊が互いに撃ちあいを始めてしまう。

 「今が近付くチャンスかもしれないな」
 「あんな化物みたいなのが暴れ回ってる横を通れるわけないだろ!? 消し炭になっちまうよ!」
 「だったら迂回するしかない」

 視界の開けた場所は進みやすいが、同時に敵からの補足も容易にしてしまう。必然的に険しい道のりを選ぶほかなかった。

 「流れ弾か破片に当たって、全員仲良くあの世行きに
ならないことを祈るぜぇ……」

 一行はサマラカンダへの道を迂回しながら歩みを進める。戦闘の音は次第に激しさを増し、苛烈な争いが空に地に繰り広げられているのが嫌でも分かった。
 その時、またしても何かが上空を通過した。サマラカンダの方からどこかへと複数の戦闘艇が飛来したようだ。

 「今のって……まさか、また新しい部隊が来たのかしら?」
 「こっからじゃ分からねぇな。どこか見晴らしのいい場所に移動すれば分かるが、敵に補足されないとも限ら……って、ミスラ!?」
 「わたし、ちょっと見てくる!」
 「一体、何を根拠にそんな……」

 ゼファーの話も聞かず、ミスラは丘を目指して駆けていった。

 「またいつもの直感か。まったく、あいつときたら……」

 愚痴をこぼしつつも、ソロはミスラを見失わないよう追いかける。
 そうこうする内に、ソロは丘へとたどりついた。
 そこから空の様子を伺うようにじっと遠くを見つめるミスラに、声をかける。

 「ミスラ! もう少し説明しろってあれほど……」
 「ママよ! ママの船だわ!」
 「はあ? 急に何言って……」

 そう言うと、ミスラはおもむろにミトロンを空へと翳し――光の矢を発射した。


EPISODE6 光と闇のはざまで「彼らが希望を持って生きていける未来を築くのが、軍人としての私の使命なのだ」


 アンシャールが駆るエアロクラフトがサマラカンダへと迫りつつあった。

 「既に戦闘が始まっているようだ」

 遠くに見える要塞のごときサマラカンダの都市上空には、複数の砲火が上がり、その合間を縫うようにして両軍の戦闘艇が入り乱れ、絶え間ない攻撃を浴びせ続けていた。

 「一度着陸して様子を伺いたいところだったが……どうやら奴らの索敵範囲を甘く見ていたらしい」

 立て続けにレーダーに赤い点が灯る。
 サマラカンダから新たに出撃した戦闘艇だった。

 「全部こっちに来るぞ! 数は……たくさん!」
 「数を言え、数をっ!」

 アンシャールは舵を切り、戦闘領域から距離を取る。
 低空飛行を維持したまま飛行を続けるものの、いずれ敵に囲まれてしまえば撃墜されてしまうだろう。
 武装と呼べるものはわずかしかない。

 「キャノピーを開けて」
 「メーネ殿、まさか?」
 「私のナインで全部撃ち落す。できるだけ安全運転でよろしく!」
 「分かりました。気をつけてください」
 「誰に言ってるのよ」

 開かれたキャノピーから、メーネがナインを向けたその時。
 遠くの方から光の矢が次々と放たれた。それは寸分違わず戦闘艇を貫き、爆散させる。
 気づけば、エアロクラフトを追っていた戦闘艇は一瞬にして壊滅した。

 「今の光はまさか……ミスラか!?」
 「間違いない。無事でなによりだ」

 間接的にミスラの健在ぶりを確認できたことに、ふたりは思わず笑みをこぼす。
 そんな中、メーネだけは「腕をあげたわね」と、満足そうに微笑み、わずかに残る光の矢の軌跡を見やるのだった。

 ――
 ――――

 「ママー!」

 エアロクラフトを降りたメーネを待っていたのは、愛娘ミスラからの抱擁。
 久しぶりに感じたメーネの温もりを確かめるミスラに、彼女もまたそれに応えるよう、抱きしめる手を強くした。

 「相変わらずね、ミスラ」
 「わたしはいつだってわたしだよ!」

 微笑ましい光景が広がる中、マードゥクとヨアキム、アンシャールとゼファーがお互いの生存をたたえ、ここに至るまでの経緯を話し合っていた。
 ただひとり、ソロを除いて。

 「あれが……ミスラの……」

 突き出た岩場に腰かけ、ソロは少し離れたところからじっと皆のやり取りを眺めている。
 視線は、どうしてもミスラとメーネを追ってしまう。幸せそうに笑い合う、親子の姿を。
 メーネは育ての親であって実の親ではない、と彼女は言っていた。
 だが、遠巻きに見ても、ふたりの間には実の親子など関係ないとでも言うような、確かな絆が存在しているように思えてならない。

 「……お母さん、か」

 いつしかソロは、ふたりから目を逸らし、うつむいていた。
 そのせいなのだろう。ふつふつと暗い気持ちがわきあがってくる。意識すればするほど、自分が深い闇の中に引きずられてしまうような感覚。
 自分の母親が遺してくれたのは、こんな真っ黒な感情しかないのか。そう独りごちるソロの視界に、ふと誰かの靴が入りこんだ。

 「暗いわねー、ソロ・モーニア」

 声に反応し、顔をあげようとしたその途中で、ぴたりと目が合ってしまった。

 「うわあっ!」
 「あはは、そんなに驚かなくてもいいのに」

 声の主――メーネは、ソロと目線が合うように腰を低く屈めていたのだ。

 「な、なんなんだよ!」

 真剣な表情で真っすぐ注がれる視線。その瞳はどこか遠くを見ているようで、それはあたかもソロの内面を透かし見るかのよう。
 そのせいか、ソロは否が応にも意識してしまい、急激に身体が熱くなるのを感じた。逃げ場を求めようと目が泳ぐ。
 すると、メーネはパっと笑顔を浮かべた。

 「私が知ってた人によく似てる……そうやって強がっちゃうところとか」
 「はあ?」
 「ミスラが興味を持つのも分かるわね」
 「……」

 えらく抽象的なもの言いに、さきほどの熱などどこへやら。
 メーネは返答に窮するソロの頭に、ぽんと手を添えた。

 「キミは、光と闇……どちらも感じられる」
 「あ、あんたもあいつと同じだな。何言ってるかさっぱりだ……」
 「悩め悩め、ちびっ子」

 そう言ってソロの頭を荒っぽく撫でてみせる。

 「ちょっ……なに、してん……だ……っ!!」

 慌てて手を振り払うソロ。
 そんな反応さえも楽しむように、メーネは悪びれなく手をひらひらとさせて笑っていた。面倒を見てきたミスラやニアを相手にする時と同じ、いつもの癖が出てしまったようだ。

 「あ! ママずるい! わたしも撫でたい!」

 ミスラが「まぜて」と言いながら駆け寄って来る。
 まるで、ミスラをふたり相手にしているような感覚を覚え、ソロは深くため息をついた。

 「今はそんなことしてる場合じゃないだろ……」
 「じゃあ、全部終わったらするね!」
 「するな!」

 それは、束の間の平穏。
 ミスラにからかわれながらもどこか楽し気にしている少年の姿。
 メーネは、彼がバテシバと同じ闇の道をたどることはないと、確かな感触を得るのだった。

 「さぁて、そろそろどうするか決めようぜ?」

 ヨアキムの言葉に現実に引き戻される。
 今後の方針を決めるために、一行は近くに広がる森の中へと身を潜め、作戦会議を開くことにした。

 ――
 ――――

 「あなたたちには、混乱に乗じて戦場を迂回しながらサマラカンダを目指してもらうわ」

 開口一番、そう宣言するメーネ。

 「だがよぉ、自分の脚で向かうにしても、どうやってあそこまで行く? あの化物がずっと暴れてたんじゃ、巻きこまれちまうぜ」

 それはメーネ以外の者にとって当然の疑問。
 だが、いたって普通に、メーネは言ってのける。

 「あれは、私たちが引き受けるわ」

 アンシャールとマードゥクの肩を叩いて。

 「え、俺たちも!?」
 「さすがに私ひとりじゃ厳しいかもしれないもの」
 「……分かった。だけど、何か変わるか?」
 「メーネ殿、作戦があるのでしょうか」
 「大丈夫大丈夫。なんとかなるわ」

 あっけらかんと言ってのけるメーネに、ミスラ以外の者たちはぞっとした表情を浮かべた。ミスラはただ、母の瞳を見据えながら、次の言葉を待つ。

 「まあ一応、あるにはあるんだけど。長々と説明するより――」

 突然、辺りの空気がびりびりと震えるほどの衝撃と、爆発音が響いた。
 急ぎ見晴らしのいい場所へと向かう。遠くに見えるサマラカンダの外縁部には、攻撃側が空に展開した機動兵器が落下していたのだ。
 衝突時の威力は凄まじかったようで、サマラカンダを覆う力場のようなものは完全に消え去り、青く鮮やかな壁面を大きく露出させていた。

 「特攻に利用するとは無茶な手を使う。だが、これで内部に侵入しやすくなったのは確かだ。あとは……」

 アンシャールの視線の先には、今もなお暴虐の限りを尽くす機動兵器の姿がある。
 巨大な剣を携える大型機動兵器――ドヴェルグ。
 その躯体は数多の砲火にさらされて、損傷し、片腕を失っている。だが、半身を焼かれてもなお、鋼鉄の剣の鋭さが変わることはない。
 もはや敵味方の区別もついておらず、視界に入るものすべてに剣を振るっているようだ。

 「マジであれと戦うのか……」
 「覚悟を決めろ、マードゥク」
 「ああ、分かってるよ。これは、ニアを護るための戦いでもある。絶対にブッ潰す!」

 気合を入れるふたりを尻目に、メーネはぱんと手を叩くと明るく言い放つ。

 「ニアのこと、任せたわよ」

 そう言って丘を下ろうとするメーネたちに、ミスラはどこか寂しげに「ママ……」とつぶやいた。
 彼女たちが対峙する相手は強大だ。命の保証はない。

 「あら? 凛々しいミスラはどこに行っちゃったのかしら……そこね!」

 メーネがミスラの両頬をぐいと摘まんで、無理矢理に三日月の形を作った。

 「あなたが笑顔でいるために、私も戦うの。だから寂しくないわ、ミスラ・テルセーラ」
 「……うん!」
 「あ、それと少年」
 「俺か?」
 「この先どんなことがあっても、キミは前を向いて歩くのよ? もしまた下を向いたら、撫でちゃうから」
 「フン……絶対に願い下げだ」
 「よろしい」

 メーネは満足げに頷いたあと、アンシャールとマードゥクを連れて丘を下っていった。

 「…………」

 ソロは思う。
 ミスラが母のように慕ってきた女の背中は、つよくたくましく、そして、どこまでも大きいと――。

 ――
 ――――

 戦闘艇の後部甲板に立ったメーネは、それぞれの持ち場についたふたりに合図を送る。
 通信機越しに返ってきたふたりの息遣いからは、はっきりと緊張しているのが伝わってきた。

 「大丈夫、誰も死なせないわ」
 『私は、軍に志願したあの日から、いつ死んでも後悔はないと覚悟を決めています。ですが、私は軍人である以前にひとりの帰還種。そして、未来を想うひとりの人間です。その未来を見ずして、この世を去るわけにはいきません』
 『俺だって、死ぬつもりなんか更々ないですよ。俺はあいつをぶった斬って、お母さんの前でカッコつけるつもりなんですから!』
 「……ちょっと、なんでずっとお母さん呼びなのよ。ムズムズするから止めて、メーネって呼んでくれる?」
 『いや、それはさすがに……』
 「まあいいわ。それじゃ、肩の力も抜けたし、行きましょうか」

 そう言うと、メーネは鋼鉄の巨人へと銃口を向ける。
 数多もの戦いをともにくぐり抜けてきたナイン――第九音素臨界加速装置の引き金に、指をかけた。


EPISODE7 決意の一閃「チャンスは一度きりだ。これを外せば、私たちに明日は振り向かない」


 「“ナイン”! コード・イグニッション!!」
 『駆動要請承認。起動――』

 開戦の合図は、メーネの挨拶代わりの一撃。
 一直線に飛来したそれは、暴走するドヴェルグの背後に直撃した。
 ピタリとドヴェルグの動きが止まる。
 直後、ドヴェルグの胸部にある骸骨にも似た意匠が輝くと、戦闘艇へ真紅の光が放たれた。

 「アンシャール! 飛ばして!」
 『承知!』

 真紅の光は戦闘艇が停まっていた場所に着弾し、地形を根こそぎ変えてしまう。

 「このままサマラカンダから引き離すわ!」

 ソロたちが乗って来た船を駆り、全速力でサマラカンダから遠ざかっていく。
 メーネの目的はただひとつ。
 ドヴェルグの被害がサマラカンダに及ばないよう、近くの破棄された都市まで牽引し、動きを封じること。

 「あわよくば倒すつもりだけど、ずいぶん骨が折れそうね」
 『カスピ大地溝帯の谷底に突き落としてやりたいところですが……さすがに遠すぎますね。もう迎撃システム圏内なので、威嚇射撃も程々に』
 「了解了解」

 戦闘艇は低い高度を維持したまま、迎撃システムの中を突き進む。戦闘の余波で各所に設置された砲塔は数を減らしてしまっているが、ドヴェルグを煽る分には十分だ。
 絶え間なく発射される攻撃に紛れて、後部甲板にいるメーネが挑発を繰り返す。
 ドヴェルグは地上に降り立った頃より目に見えて損傷していて、機動力も幾らか失われてはいたが、メーネを視界に捉えてからは暴走の度合いが増しているように見えた。
 目を赤くたぎらせ、牙を剥きだしたまま吼える姿は、まさしく獣のそれだ。

 「ッ! 撃ってくるわ!」
 『くッ!』

 舵を切った直後、船体上部を閃光が駆け抜ける。

 『速度を上げます!』

 言うが早いか、ドヴェルグは痺れを切らしたかのように、走る速度を上げた。まるで、あの巨大な剣を振り下ろしてやるとでも言わんばかりに。
 追われる戦闘艇も負けじと速度を上げ、奥へ奥へとドヴェルグを誘っていく。
 迎撃システムの砲塔の森を抜けた地点で待機する、マードゥクの下へ。

 「――来たか」

 地響きが爪先を伝う。
 マードゥクは、いよいよ自分の出番だと己を奮い立たせるように深く深く息を吐く。
 エアロクラフトで先回りしていたマードゥクは、木陰にひとり佇み、柄を握る腕に力をこめる。
 彼は、その時が訪れるのを待ち続けていた。
 後先を考慮しない、最大出力で解放した光の剣閃を、ドヴェルグの脚部関節に叩きこむために。
 やがて、地響きは激しく、地鳴りのように大地を震わす。
 最初で最後の一撃をしくじれば、すべてが終わる。
 だが、それでも呼吸が乱れることはない。
 重くのしかかる重圧に屈することなく、マードゥクの集中力は刹那のひと時に向けて極限まで高まっていく。

 『ここが正念場だ、頼むぞマードゥク!』

 戦闘艇が過ぎ去った直後、ドヴェルグがマードゥクの目の前を通過し――

 「封刃――最大解放ッ!!」
 『――駆動要請、承認』

 渾身の力で振り切られた刀が、瞬間、自身の何十倍もの長さの光の刀身を形成し、ドヴェルグへと至った。
 直撃を受けたドヴェルグの片脚は千切れ飛び、大地に深い溝を作っていく。そして、突然の襲撃を受けた体は、一瞬だけ姿勢を崩したかと思うと、その反動を利用して――跳躍した。

 「な……っ」

 飛びこむように跳ねたドヴェルグが、目の前を飛ぶ戦闘艇へと、剣を振り下ろす。
 咄嗟のことに戦闘艇は回避が間に合わず、その切先に触れた途端、船体が大きくえぐり取られてしまったのだ。

 「アニキ! メーネ!」

 突然の衝撃にコントロールが覚束ないまま、戦闘艇は廃墟が広がる都市の中へと吸い込まれていくのだった。


EPISODE8 最後の賭け「大切な者を護るために、我々は屈するわけにはいかないのだ! とこしえに眠れ、鋼鉄の巨人よ!」


 予期せぬドヴェルグの攻撃に、アンシャールとメーネを乗せた船は廃墟の中に墜落していった。
 マードゥクのいる場所からでは状況が何も分からない。いくらふたりを呼んでも応答はない。
 頭に「死」の一文字がよぎる。
 不安を払いのけるように、マードゥクはかぶりを振ると、エアロクラフトへと向かう。

 「――ッ」

 だが、先ほどの一撃で激しく消耗してしまったのか、脚が震えて言うことを聞かず地面に倒れてしまった。

 「畜生……こんなところで……」

 かきむしるように地面を這うマードゥク。
 そうこうしてる間にも、立ち昇る砂煙の中からドヴェルグの咆哮が木霊する。
 ゆっくりと身を起こしていく姿に、マードゥクはただふたりの無事を願うほかなかった。

 「すぐに……俺も行くからな……」

 ――一方その頃。

 「ぐ……、どうにか、最悪の事態は避けられたようだが……」

 戦闘艇の中で意識を取り戻したアンシャールは、今自身が置かれている状況を真っ先に確認した。
 廃墟への垂直落下を免れたことで、戦闘艇はバラバラにならずに済んだようだ。
 意識を失っていたのも数十秒程度のものだったのだろう。ドヴェルグは未だ地に伏し、巨大な躯体を起こそうともがいているようだ。
 そこでふと、アンシャールはあることに気づく。

 「メーネ殿は、どこに……」

 船内に彼女の姿は見当たらない。
 思考を遮る身体の節々から生じる痛みに耐えながら、アンシャールは船外へと向かった。

 メーネは船を出てすぐに見つかった。
 片脚を引きずりながら、どうやら廃墟の中心にそびえる塔へと向かいたいようだ。

 「待ってください! そんな身体で何をしようと言うのですか!」
 「アンシャール、無事でよかったわ……」
 「私より、貴女の方が酷いじゃないですか……!」

 後部甲板にいて身体を固定するのが間に合わなかったのだろう。
 メーネは身体の所々から血を流し、指も何本か折れていた。
 時折、歯を食いしばり、痛みにこらえながら、メーネは言う。

 「ちょっと計画が狂っちゃったけど……あの塔からシステムの力を流用できれば……あいつを、完全に叩きのめせるかも……」
 「あんな廃塔で何ができるのですか。それに、流用とは……」
 「これは、賭けよ。奇跡という名の賭け。それが3回起これば、私たちはあれに勝てるかもしれない」

 塔の向こうからは、剣を杖代わりにして今にも立ちあがろうとするドヴェルグが見える。
 戦闘艇を修理してる暇もない今、考えてる余裕はなかった。

 「分かりました。痛いと思いますが、少しだけ我慢しててください。では、失礼します」
 「え?」

 即断したアンシャールがメーネの背中と足に手を回し、抱きかかえる。少しだけ慌てた様子のメーネが可笑しかったのか、アンシャールは柔らかな笑みを浮かべた。

 「さあ、行きましょうか」

 程なくして塔の麓へと到着したふたり。
 アンシャールに支えられたまま、メーネは手を塔に備えつけられたコンソールに翳す。すると、停止したと思われる塔に仄かに光が灯り――中へと続く道が現れた。

 「最上階へ」

 メーネの声を聞き入れたのか、ふたりが立つ足場が盛り上がり、最上階への移動を開始する。

 最上階に着くと、暗い部屋の中で仄かな光に照らされる箱状の構造体がふたりを迎え入れた。

 メーネはアンシャールに支えられたままそれに近付くと、構造体から長いケーブルを引っ張り出す。
そして、すぐさまナインへと接続する。
 ケーブルを通じて、ナインに何かが流れているのだろうか。メーネが小さく頷くのが見えた。

 「よし、まずはひとつ」
 「メタヴァースシステムのエネルギーラインを、直結した……?」
 「あなたの獲物も貸して。私の権限で力を分けてあげるから」
 「そんなことが……あなたはいったい……」
 「説明は追い追い。今はあいつを倒すのが先よ」
 「それが……ふたつ目の賭けと」
 「飲みこみが速いわね。そう、私たちのありったけの力を、あいつにぶつけてやるの」

 そう言いながら、メーネは構造体を弄ると最上階の隔壁のひとつを開け放った。
 そこからは、ちょうど塔へと迫りつつあるドヴェルグが見える。

 「待ってください、では3つ目はなんなのですか?」
 「それはふたつ目のあと。さあ、来るわよ!」

 アンシャールは再びメーネを抱きかかえると、開け放たれた隔壁の前へと向かった。
 ドヴェルグとの距離は更に縮んでいる。
 こちらを視認すれば、あの距離からでもドヴェルグの赤い閃光で塔ごと葬り去られるだろう。

 「あれを確実に撃ち抜くならば、ビームを発射する際に露出する中心部。だがそれは、こちらの居場所を晒すと言っているようなもの。まったく、とんだ大博打ですね」
 「よく分かってるじゃない」

 アンシャールが双銃を構える。
 メーネもまた、動かせる腕でナインを握りしめた。

 「さあ、行くわよ! “ナイン”! コード・レディアント!!」
 『超過駆動要請承認。禁圧――解除』

 その瞬間、メーネの声に共鳴するように、ナインが白亜に輝く銃へと形を変えた。
 その輝きに反応したドヴェルグの瞳が真紅に輝く。

 「双銃よ! 我が想いに応えよ!」
 『超過駆動要請限定承認。禁圧――解除』

 アンシャールの双銃も同じく姿形を変えた。
 ドヴェルグが閃光の発射体勢に入る。そして――

 「「沈めぇぇぇぇぇ!!!!」」

 引き金を引くのと、ドヴェルグの身体から閃光が照射されるのは同時だった。
 光が激しくぶつかり合い、視界を、廃墟を白く染め上げる。
 圧縮された波動は均衡を保っているように見えたが、崩壊は一瞬だった。
 白亜の輝きは、ドヴェルグの光すら飲みこんで大きく開かれた身体の中心部を貫いたのだ。
 その衝撃はドヴェルグの全身を駆け巡り――やがて崩壊を始めた。

 「――――――ッ!!!」

 断末魔の叫びとも数多もの怨嗟の声ともつかぬ咆哮が空気を震わせる。だが、それでも崩れゆく身体は歩みを止めようとしなかった。

 「あの状態で、まだ……戦えるのか?」

 その時、ドヴェルグの瞳が煌々と輝いた。
 最後の力を振り絞るように、ドヴェルグは剣を横薙ぎに振るう。
 結果、塔はあっけなく両断され、その光景を見届けた矢先、ドヴェルグの瞳から光が失われていくのだった。

 「くっ、傾いている……!」
 「はは、最後の悪あがきかあ。3つ目の賭けは、あっちの勝ちだったみたいね」

 先程の強大な力の反動を、その身に受けているのだろう。アンシャールの分まで受け持っていたのか、メーネは力なくその場にうずくまったまま動こうとしない。
 いくら身体能力が高い帰還種とはいえ、高高度から飛び降りれば死んでしまう。かと言ってこのまま塔の中に留まれば、崩壊に巻き込まれて命を落とすのは確実だ。
 しかし、避けられぬ死が待ち受けているというのに、メーネの表情に絶望の色はない。
 そればかりか、やることはやったとでも言いたげな満足そうな笑みを浮かべている。

 「貴女という人は…………ん?」

 そのとき、アンシャールは何かに気づいた。
 メーネを支えながら立ち上がると、疑問を浮かべる彼女に笑みをこぼす。

 「いえ、最後の賭けもこちらの勝ちです」
 「……え?」
 「では、少しだけ我慢しててください!」

 そう叫ぶと、アンシャールはメーネを抱きかかえたまま、崩壊しつつある塔から飛び降りた。

 「アニキィィィッ!!」

 そこへすかさず飛びこんできたのは――マードゥクが操縦するエアロクラフト。
 ふたりを中に収めようと、キャノピー部分を開け放っている。だが、操縦の精度が悪いのか、エアロクラフトの調子が悪いのか、やけに不安定だ。
 アンシャールとエアロクラフトの軸が、わずかにずれている。このままでは――

 「うおおおおおッ!!」

 そのわずかの隙間を埋めるために、マードゥクは身を乗り出してアンシャールの腕を掴んだ。

 「よっしゃあ! やったぜ、アニキ!」
 「おい、マードゥク! 操縦桿から手を放しているが、オートパイロットなんだろうな?」
 「へ? ……ああぁぁ!!」
 「ああぁぁ、じゃない! すぐ上げろ!」

 アンシャールの指摘に、マードゥクはようやく事態を飲み込めたようだ。
 ふたりを機体の中に引っ張りあげると、すぐにアンシャールが操縦席に座り――ギリギリのところでどうにか衝突を免れるのだった。

 「はは……、間一髪だったわね……」
 「本っ当に、すみませんでした!」
 「……まさか、最後の最後でこんな賭けが待ち受けているとはな……」
 「ふふ、本当ね」
 「ん、なんのことだよ?」
 「気にするな。すでに終わったことだ」

 強大な敵を打ち倒したことで、3人の緊張の糸はようやく解けていた。

 「このまま……サマラカンダまで行きたいところだけど、これ以上はちょっと……無理かな……。おやすみなさい」

 ボロボロな状態で力を使い果たしたメーネは、そう言うとすぐに寝息を立ててしまう。

 「はは、この方はどこまでも……子が子なら、親も親、ということなのだろうか」
 「なあ、俺にも分かるように言ってくれよ、アニキ」
 「破天荒で規格外な親子ってことさ」

 メーネはアンシャールの腕の中で安らかな笑顔を浮かべている。
 きっと、彼女は夢を見ているのだろう。
 愛する家族に囲まれた、笑顔に満ちた日々を。



■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧


コメント

  • お前男だったのか! だがかっけえなあ…。 -- 2023-03-27 (月) 03:03:01

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