ウルガレオン(キャラクター名)

Last-modified: 2024-03-09 (土) 14:10:52

【キャラ一覧( 無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE / NEW / SUN / LUMINOUS )】【マップ一覧( SUN / LUMINOUS )】


ウルガレオン.png
Illustrator:西木あれく


名前ウルガレオン
年齢肉体年齢で25歳
職業狼鬼

かつては紀愁(キシュウ)と呼ばれていた狼鬼の男。
封印された狼鬼はある少年の手によって1000年の時を経て蘇る―――

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1嘆きのしるし【SUN】×5
5×1
10×5
15×1

嘆きのしるし【SUN】 [EMBLEM] 

  • JUSTICE CRITICALを出した時だけ恩恵が得られ、強制終了のリスクを負うスキル。
  • 勇気のしるし【SUN】よりも強制終了のリスクが低い代わりに、ボーナス量が少なく、JUSTICE以下ではゲージが増えなくなっている。
  • SUN初回プレイ時に入手できるスキルシードは、NEW PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
  • GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.10→+0.05)する。
  • スキルシードは300個以上入手できるが、GRADE300でボーナスの増加が打ち止めとなる
効果
J-CRITICAL判定でボーナス +??.??
JUSTICE/ATTACKでゲージ上昇しない
JUSTICE以下300回で強制終了
GRADEボーナス
1+20.00
2+20.10
3+20.20
51+25.00
101+29.95
▲NEW PLUS引継ぎ上限
102+30.00
202+35.00
300~+39.90
推定データ
n
(1~100)
+19.90
+(n x 0.10)
シード+1+0.10
シード+5+0.50
n
(101~)
+24.90
+(n x 0.05)
シード+1+0.05
シード+5+0.25
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期所有キャラ数最大GRADEボーナス
2023/4/13時点
SUN14169+33.35
~NEW+0269+38.35


GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数

GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数
ボーナス量がキリ良いGRADEのみ抜粋して表記。
※水色の部分はWORLD'S ENDの特定譜面でのみ到達可能。

GRADE5本6本7本8本9本10本11本12本
18001600240032004267533466678000
67831566234831314174521865227827
167501500225030004000500062507500
267201440216028803840480060007200
366931385207727703693461657706924
466671334200026673556444555566667
566431286192925723429428653586429
666211242186324833311413851736207
766001200180024003200400050006000
865811162174223233097387148395807
965631125168822503000375046885625
1125461091163721822910363745465455
1325301059158921182824353044125295
1525151029154320582743342942865143
1725001000150020002667333441675000
192487973146019462595324440554865
212474948142218952527315839484737
232462924138518472462307738474616
252450900135018002400300037504500
272440879131817572342292736594391
292429858128617152286285835724286
300~425850127416992265283135384246
所有キャラ

所有キャラ

  • CHUNITHMマップで入手できるキャラクター
    Verマップエリア
    (マス数)
    累計*1
    (短縮)
    キャラクター
    SUNep.Ⅰ6
    (205マス)
    550マス
    (-170マス)
    ティリー・キャクストン
    ep.Ⅲ3
    (335マス)
    625マス
    (-30マス)
    ドヴェルグ
    SUN+ep.Ⅳ4
    (405マス)
    1195マス
    (-60マス)
    ウルガレオン※1
    ep.Ⅵ5
    (505マス)
    1725マス
    (-)
    希望の巫女 ネフェシェ※2
    ※1:該当マップ進行度1の全てのエリアをクリアする必要がある。
    ※2:初期状態ではロックされている。

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 狼の面「遙か昔。おとぎ話よりも遠い昔に、男はいた。守ること、戦うことに全てをかけた、歴戦の戦士が」


 今からおよそ1000年前――妖と人間が隣り合って生きていた時代。
 人を襲いその命を脅かす鬼の軍勢と、鬼から民を守り討滅する戦士達の部族がいた。
 磨き抜かれた肉体に陰陽道の術式を駆使して戦う、まさに神から遣わされた特別な存在。
 民から崇拝されるには十分すぎるほどだ。

 その部族の中に、次期族長とも称される特に勇敢な青年が一人。
 名を紀愁<キシュウ>。
 青年は力強く、そして荘厳さを感じさせる身振りから民だけではなく部族の中でも恐れられていた。
 だが、集落を導く神の巫女だけは違う。
 巫女は紀愁の強さだけでなく、その心にある海のように壮大な優しさを見抜いていた。
 また紀愁も、民を愛し、自然を愛し、分け隔て無く慈愛を与える巫女に惹かれてゆき、二人は相思相愛の間柄となってゆく。

 紀愁ら部族の戦士による庇護の元、静穏に暮らしを営む民達。
 だがそんな安寧は、一匹の鬼の来訪により打ち砕かれることとなる。
 見上げるほど大きな体躯と、腕の一振りで田畑をなぎ払うほど強大な力を持ったその鬼は、逃げ惑う民を捕らえては次々と喰らっていく。
 これを討滅せんと果敢に挑む部族の戦士達であったが歯が立たず、一人、また一人と絶え果てていった。

 これ以上の犠牲は集落だけでなく都も危ぶまれる。紀愁はかの鬼を討つほどの力を求め、部族の中で禁忌とされる邪器へと手をかけた。

 それは――狼鬼<ロウキ>の面。

 遠い昔、紀愁ら部族の先祖が討滅した、強大無比で邪悪な狼の鬼。
 その鬼の皮を剥ぎ作り上げた面は、身につけた者に恐るべき力と呪いを授けると伝えられている。
 同胞と民のため臆せず面を被った紀愁は、たちまち狼鬼の姿へ変化したかと思うと、かの巨大な鬼を三日三晩の戦いの果てに見事討ち取ってみせるのだった。
 だが、面に宿った呪いである狼鬼の亡魂は紀愁の肉体を支配し、再び現世へ災厄をもたらさんと心を蝕んでいく。
 狼鬼の復活だけはなんとしても阻止しなくてはならない――そう決断した部族の同胞と巫女は力を合わせると、紀愁を浄域へと封印した。
 浄域の力によって、長い時の果てに呪いが解かれることを祈りながら。

 その身を顧みず鬼を倒した紀愁の話は、集落の民達に代々語り継がれていく。
 だがそれも、川流に削られていく岩のようにいつしか忘れられていき、やがては紀愁の名を知るものなどいなくなっていた――。


EPISODE2 その名はウルガレオン「うるがれおん……なんとも面妖な名ではあるが……シモン殿が喜んでいるのなら良しとするほかあるまい」


 ――時は流れ、現代。

 「ゲームもないし、テレビはチャンネル少ないし……おばあちゃん家ヒマすぎ!」

 シモンはそう嘆きながら、足場の悪い山道を危なげなく歩いて行く。
 両親の長期出張と夏休みが重なったこともあり、休みのあいだ祖母の家に預けられることになったのだが、都会育ちのシモンには刺激が少なすぎた。
 家でゴロゴロしているのも限界だと、一人近くの山へと冒険に出ていたのだ。

 「あ、そういえばおばあちゃんが山の奥まで行くなって言ってたっけ……ま、大丈夫でしょ!」

 言いつけを無視してどんどん奥へと進むシモン。
 途中、林と土が続く変わらない景色に飽き、思い切って山道を逸れ、獣道を辿り始めていく。
 そして、そろそろ一休みしようかなと思い始めた頃。
 シモンはそびえる岩壁をくり抜いたような、小さな洞窟を発見する。

 「うわ~! なんか面白そうじゃん! よっしゃ、突撃~!!」

 ひんやりとする空気が流れる薄暗い洞窟の中。
 そこには、しめ縄や割れた鏡、法螺貝など何かの儀式的な道具が散乱していた。
 だがどれも埃を被り、痛みも激しく、長い間放置されていることが伺える。
 そんな中、シモンは傷だらけの水晶玉を見つけると手に取った。

 「これ、何かのお宝かなぁ…………あっ!」

 手からこぼれ落ち、地面に叩きつけられた水晶玉が砕け散ったかと思うと、薄暗い洞窟の中をまばゆい光が照らす。
 眩しさに目を瞑っていたシモンだったが、すぐに驚き飛び跳ねた。
 なぜなら、誰もいなかったはずの洞窟で自分以外の何者かの声がしたからだ。

 「ここは……どこだ……」
 「うわあっ!!?」

 そこにいたのは、狼の頭と人間の身体を持った――化物。
 逃げだそうと後ずさるシモンだが、化物はそれに気づき声をかける。

 「おぬしは何者だ……」
 「ぼ、僕はシモン。君のほうこそ何者なの……?」
 
 低く太い声だが不思議と恐怖を感じない化物の声に、シモンは思わず答えてしまっていた。

 「我は……我の名は…………くっ、思い出せぬ……」
 「自分の名前も思い出せないの?」
 「ああ……名も、なぜここで眠っていたのかも……それに……」

 そう言って、化物は自身の身体を眺め、顔を触る。

 「この姿はいったい……」
 「それって……記憶喪失ってやつ?」

 その問いに答えたのは、化物の盛大な腹の音。
 シモンは大笑いしながら、リュックからおやつに持ってきていたクリームパンを差し出すと、化物は訝しみながらも食べ始めた。

 「これは……!! 美味すぎて舌がのたうち回るようだ!!」
 「あはは、ただのクリームパンだよ」
 「くりぃむぱん……さぞ希少な食物であろうものを……なんたる情け深い施しか……」

 そう呟いた化物は突然シモンの前に跪いたかと思うと、仰々しく宣言する。

 「シモン殿……いえ、我が主。これほどの恩義、報いるにもこの身しか持ち合わせておりませぬ。これより我は主のしもべとなり、いかなる危険からもお守りすると約束いたしましょう」
 「ち、ちょっと待ってよ! 主とかしもべとかそういうのいいって! それより友達になろうよ!」
 「なんと寛容な……うむ、承知仕った。シモン殿」
 「うん、よろしくね! えーっと……そうだ! 忘れちゃったなら名前を決めないとね」

 シモンはしばらく考え込んでいたが、そのうち名案を思いついたとばかりに力強く指を差して言った。

 「……ウルガレオン! 今日から君はウルガレオンだ!」
 「うるがれおん……? それはどのような意味なのだ?」
 「なんか狼の顔してるし、ヒーローっぽいから思いついただけ! うーん、かっこいい~~!!」

 こうして出会ったウルガレオンとシモン。
 ひと夏の冒険、そんな言葉では収まらないほどの大きな出来事が今、始まろうとしていた――


EPISODE3 1000年という濁流「時の向こうに残してきた、我が守るべきもの……今はまだ、欠片も思い出すことができぬ……」


 「それにしても……我はどれほどの時を眠っていたのだろうか……」
 「なんかしゃべり方は“昔の人”~って感じがするけど」
 「“昔”、か……シモン殿、我は山を下りる。麓の様子が見たい」
 「ええっ!? 大丈夫かなぁ……よし、僕もついていくよ!」

 ウルガレオンはシモンに案内されて、山道を辿り麓へと下りた。
 木々や土でいっぱいの景色は一瞬で様変わりし、延々とアスファルトが敷かれた国道や、モルタル造の家屋が建ち並んでいるのが見えてきた。田舎ではあるものの、遠くにはいくつかの中層ビルも確認できる。

 「なんだこれは……あの箱で民が暮らしているのか……? なんという数だ……」
 「そんなに多いかな。僕が住んでいるところなら、多分100倍は住んでるけど」
 「それに田畑のなんと美しいことか……水は澄み、土は輝いている……我の知るものとはまったく違う……」
 「記憶、少しは覚えてるんだね!」
 「ああ……断片的にだが。ただ、己に関することは何も……」

 ウルガレオンは記憶を遡ろうと試みるも、何かモヤのようなものがかかっているかのように思い出すことができなかった。
 技能や習慣、風景や生活様式などは問題ない。
 だが、自身に関する“出来事”の記憶だけはすっぽりと抜けていた。
 そんなウルガレオンとシモンの側を、一台の軽自動車が通り過ぎようとした瞬間、ウルガレオンは後方へとゆうに5メートルは跳躍し、すかさず警戒の姿勢を取る。

 「あれはなんだ!? 籠の中に人間が入っていたぞ!?」
 「落ち着いて! あれは車だよ! あれに乗れば楽に遠くまでいけるんだよ!」
 「なんと……馬があんな姿に変わり果てるほどの時が……」
 「車も知らないなんて、ウルガレオンってどれだけ大昔の人!?」

 演じているなどまったく思えないウルガレオンの様子に、なんだか本当にすごいことが起きているんじゃないかと、今さらながらシモンは実感しはじめる。
 そんなことを考えていると、近くでドサリという音がした。

 「きゃあーーーーーっ!! よ、妖怪!? お化け!?」」

 突然響き渡った悲鳴に驚き、二人は振り返った。
 見れば床に落ちた買い物袋の隣に、驚愕の表情を浮かべる年配の女性がおり、その視線は当然ウルガレオンへと向いている。

 「む……驚かせてしまったか。この姿では無理もない」
 「ど、どうしよう! このままじゃ、きっとおまわりさんとか来ちゃうよ!」
 「麓にいれば混乱を生むようだ。シモン殿、山へ戻るぞ」
 「う、うん……って、うわあああーーーーっ!!」

 シモンの身体を脇に抱えたウルガレオンが、一度身を低くかがめたかと思うと飛び上がった。
 ジャンプ、というにはあまりにも高く、すでに山頂を遙か下に見下ろせるほどの高度へ一瞬で到達している。

 「うわわわ!! 落ちる落ちる落ちる!!」
 「シモン殿よ、暴れるでない」
 「そんなこと言われても……!」
 「じっとしていればすぐに……うん? シモン殿は何かよい香りがするのう」
 「ぼ、僕を食べても美味しくないよ!!」

 ウルガレオンはピンポイントで足場の良い山肌へと着地する。
 あれほどの高さから落下したにも関わらずケガひとつないその様子に、あらためてシモンは感嘆した。
 ウルガレオンは本当に超人ヒーローなのかもしれないと――。

 ――それから数時間後。
 洞窟に身を隠していたウルガレオンの元に、一度山を下りていたシモンが戻ってきた。
 背負ったリュックには、分厚い本が入っている。
 町の歴史が書かれた資料を、図書館から借りてきたのだ。

 「どうかな、何か分かった?」
 「こんな上質な紙……貴族でも持っているかどうか……」
 「それはいいから!」
 「ふむ……」

 この町がいかにして開拓され、発展してきたのか、資料にはかなり詳細に記されている。
 ゆっくりとページをめくっていたウルガレオンだったが、その手がピタリと止まった。

 「どうしたの?」
 「微かだが、ここに記された名に見覚えがある……恐らく、我らの時代でこの地を治めていた領主様の名だ」
 「我らの時代って……1000年前の人だよ!?」

 小学4年生のシモンにとっては1000年どころか100年程度でも“昔々の大昔”だ。
 4年生にもなれば、現実とフィクションの区別くらい当然ついているが、現に自分の目の前に遠い昔から蘇った存在がいる。
 まるでマンガやアニメのような出来事の連続に、とてつもないワクワクと、ちょっぴりの恐さをシモンは感じていた。


EPISODE4 虎の鬼「並の鬼ではない。それだけは我にも分かる。人間に徒なすというならば、見過ごすわけにはいかぬ」


 ウルガレオンが根城にしている洞窟からほど近く。
 山中を流れる川沿いに広がるなだらかな河原に、シモンのかけ声が繰り返しこだましている。

 「はっ! やあっ! せいやっ!!」
 「もっと腰を落とすのだ! それでは力が伝わらぬ!」
 「わ、分かった! うぅ~……はあっ!!」
 「そうだ! 今の拳は見事だったぞ!」

 毎日のようにウルガレオンの元へ遊びにきていたシモンは、こうして体術の指導を受けるのが日課になっていた。
 強くなりたい――シモンがそう願うようになったのは今年の春、4年生に進級した時のこと。
 人より正義感の強いシモンの何気ない言動が鼻についたのか、クラスメイトの数名の男子からいたずらに突き飛ばされたり、ゲームと称して叩かれたりといった嫌がらせが始まってしまったのだ。
 黙って受け入れるシモンではないが、いかんせん相手は自分よりも体格が大きく敵わない。
 どうしたものかと悩んでる間に夏休みに入ったのだが、そんなところに渡りに船とばかりにウルガレオンに出会った。

 「はあっ……はあっ……ち、ちょっと休憩!」
 「シモン殿は筋が良い。続けていれば名のある武術家となるだろう」
 「ほんと!? よーっし、新学期が始まったら、あいつらのこと思い切りやっつけてやるんだ!」
 「うむ。灸を据えてやるとよい」
 「……ウルガレオンはさ、教えてくれた技を使っても何も思わないの? 先生達は『やり返すのは一番よくないこと』っていうから……」
 「そのような及び腰では何も解決せぬ。痛みの分からぬ者は同じ痛みを味わわなければ学べぬものだ。優しさをはき違えてはいけぬ」
 「そう、だよね。うん……ウルガレオンが言うならきっとそうだ!」
 「それに……シモン殿はそれが“正しい行い”だと思ったのであろう? ならば信じて突き進むのみ。己を疑った瞬間、それは“正しい行い”ではなくなる」
 「ウルガレオン……」

 “そういうものなんだから我慢しなさい”。
 シモンは似たような言葉を様々な場面で何度も聞かされてきた。
 納得いかないことがあっても、軋轢を生むくらいなら飲み込めと。
 だがウルガレオンは違う。
 教えてくれる全てが、人として、男として大切なことなんだと、いつしかシモンはひしひしと実感していた。

 俄然燃えてきたシモンが稽古の続きを頼もうと立ち上がったその時。
 ウルガレオンが放つ雰囲気が一変したのが分かった。
 恐ろしい見た目とは裏腹に、大地のようないつもの優しさは感じられない。放つのは、警戒と殺気。

 「……シモン殿。我の後ろに」

 そう促されて背に回ったシモンは、何事かと背中越しにウルガレオンの視線の先を覗く。
 すると河原の向こうから、誰かとよく似た異形の姿が歩いてくるのが見えた。

 「と、虎の頭……ウルガレオンみたいな……友達?」
 「否。あのような殺気をぶつけてくる友はおらぬ」

 “虎”は警戒するウルガレオンの前までやってくると、距離を取って立ち止まる。
 狼と虎。シモンの目には、やはり同じ種類の“何か”に見える。

 「狼鬼の懐かしい匂いがするなと来てみれば……なんでえ、半端もんじゃねえか」
 「我は狼鬼などという名ではない。貴様は何者だ」
 「鬼の王であるこの虎鬼<コキ>を知らねえとは。お前、それでも鬼か?」

 ――鬼。
 昔話に出てくる空想上の生き物のはずだが、その言葉を聞いたシモンは不思議と納得してしまう。
 強くて怖そうなその風貌は、鬼と呼ぶにふさわしかったからだ。
 だがそれだけじゃない。いくつもの昔話から得た知識として、鬼には2種類いることを知っている。
 怖そうに見えて本当は優しい、ウルガレオンのような良い鬼。
 そして、怖そうな見た目通り悪事を働く悪い鬼。虎鬼はきっとそれだろうと理解する。

 「……この時代、妖の類は消え失せたと聞いている。当然この山も鬼の気配など感じなかった。貴様、どこから現れた」
 「へへっ。人間共にやられて土に埋まってた俺の骨を使ってよ、蘇らせてもらったのさ。“煉獄の神”にな」
 「煉獄の……神……」

 それ以上の説明は不要とばかりに、虎鬼は楽しそうに両手を広げると、“本題”を切り出した。

 「どうやら人間共は本当に鬼を全滅させちまったみてえなんだよ。そんなもん許せるはずねえよなあ!? なあッ!?」
 「何が言いたい」
 「ぶち殺してやるんだよ。この辺の人間だけじゃねえ……煉獄の神の軍勢として、この世の人間全て一人残らずな!! だからよお、鬼同士仲間になろうぜ。こんな楽しいこと独り占めすんのはもったいねえだろ。なあ、狼鬼」

 蘇らせてもらった恩義からか、それともかしずくほど強大な相手だからか。虎鬼は煉獄の神に忠誠を誓っていた。
 その虎鬼が、共に暴虐の限りを尽くそうとウルガレオンを誘う。
 ウルガレオンは逡巡することもなく、当然これを断った。

 「断る。それに我は狼鬼などという鬼ではないと言っている。我はシモン殿の友、ウルガレオンである」
 「へえ……そうかいそうかい……なるほどねえ……」

 なめ回すようにシモンを眺め始めた虎鬼は、うんうんと首を縦に振り、一人で何か納得しているような素振りを見せたと思うと、こう言い放った。

 「なら、嫌でも仲間になりたくなるようにしてやるよ。そこのガキ……同じような匂いが集落に漂ってるな……へへへ……楽しいことが起きそうだぜ……」
 「なっ……!?」

 踏み込んだウルガレオンから逃れるように、虎鬼は煙のように一瞬で姿を消した。
 “同じ匂い”。その意味を理解してしまったシモンは、ガタガタと恐怖に震えながら叫ぶ。

 「お、おばあちゃんが……僕のおばあちゃんが危ない!!」


EPISODE5 戦士の背中「指一本たりとも触れさせたりはせぬ! 我の知らぬかつての我も、きっとそうしていただろう!」


 シモンを抱えたウルガレオンが、飛ぶように走る。
 まるで光の如く木々の間をすり抜け、あっという間に山を下りると、人目を気にすることなく町を駆け続ける。

 「ウルガレオン! そこを左!」
 「承知した!」

 シモンが毎日山へ遊びにくるほどだ。そう遠くはない。
 すぐに祖母の家へと辿り着くと、玄関ではなく庭の生け垣を跳び越えて中に入った。

 「おばあちゃん!!」
 「あら、そんなに慌ててどうしたの。それに……そちらの大きな方は……」
 「そんなことより! 何にもおかしいことは起きてない!?」
 「え、ええ……特には……」

 シモンの祖母がそう言いかけた時、異変に気付いたウルガレオンが二人を守るように立ち塞がる。

 「どうやら我らが先に到着できただけのようだ。二人とも、家の中から出てくるでないぞ」

 そう言った矢先、どこからか聞こえてくるうなり声。
 やがてそれは大合唱のように無数に重なったかと思うと、その声の主らは生け垣をなぎ倒しながら庭へと侵入してきた。
 数え切れないほど、大量に。

 「ゾ、ゾンビ!!??」

 思わず叫んだシモンの言葉は、はからずも的中していた。
 かつて人間と鬼の戦いが特に激しく繰り返されたこの地には、鬼の霊魂が無数に眠っている。
 それらが虎鬼の手によって、不完全ではあるが仮初めの肉体を纏って蘇ったのだ。
 彼らに自我はない。ただひたすらに虎鬼の命を守って動き続けるのみ。
 “狼鬼達を襲え”と。

 「オオオォォ………オオオォォォン……」
 「うおおおおおおッッ!!」

 ウルガレオンは天へと向かって咆哮したかと思うと、襲い来る鬼のゾンビを薙ぎ払っていく。
 鋭い爪を振るい、剥いた牙を突き立て、文字通り鬼神の如く。
 一見すると恐ろしい野生の猛獣のように見えるが、戦いに取り憑かれているわけではない。
 身体に染みこんだ歴戦の戦士としての体術が動きの中に組み込まれ、高い次元の格闘術として昇華されていた。

 「ウルガレオン……!」

 恐ろしさに目を伏せる祖母を抱きしめながら、シモンはその戦いを縁側越しに見つめていた。
 自分を――何かを守るために戦う者の背中。
 それはどんな言葉よりも、シモンの心に語りかける力があった。

 「これしきのッ! ことでッ! 我を討ち取れると思ってかッ!!」

 己を鼓舞するように叫びながら、ウルガレオンはひたすら戦い続ける。
 ゾンビはそれ単体の力はさほど強くはない。だが、途方もないほどの数の力でウルガレオンを翻弄する。
 次々とゾンビを葬り、土塊へと還していくウルガレオンだが、その身体には少しずつ、確実に傷が増えていく。
 それでも。戦いの最中ただの一度たりとも。
 ウルガレオンが敵に背を見せることはなかった。

 「がああああッ!!」
 
 ウルガレオンの拳が最後の一体の頭を吹き飛ばす。
 辺りは静寂に包まれ、不快なうなり声は聞こえない。
 ウルガレオンはシモン達を守り抜いたのだ。

 「半端もんかと思ったが……なかなかどうして……」

 声のする方を向くと、見えない足場があるかのように宙に浮いた虎鬼が、パチパチと乾いた拍手をしていた。

 「貴様の人形は片付けたぞ!! 降りて我と戦え!!」
 「仲間にならないってんなら、確かに俺が直々に片付ける必要があるなあ。だが俺も蘇ったばかりで本調子じゃないんでね。どれ、見たところそっちも辛そうだ。後日サシで決着をつけるというのはどうだい?」
 「聞かぬ!! 戦え!!」
 「おーおー、さすが狼鬼。怖い怖い。ま、せいぜい楽しませてくれることを期待してるぜ。じゃあな」
 「待てッ!!」

 虎鬼は制止に答えず、再び煙のように姿を消した。
 ウルガレオンはそれを追いかけようとしたが、思っていた以上に傷は深く、大地へと膝をつく。
 起き上がろうとするも身体は言うことを聞かず、ついには眠るように気を失ってしまった。
 先ほどまで激戦が繰り広げられた庭先では、ウルガレオンの名を呼ぶシモンの声だけが何度も繰り返し響き渡っていた――。


EPISODE6 狼虎立つ「鬼、戦、そして奴の鳴らす笛の音……なぜこうも、我の心はかき乱されるのだろうか……」


 「あら、起きたわね」

 シモンの祖母の家の客間。
 3つ繋げた即席の巨大布団に寝かされていたウルガレオンが、目を覚ました。

 「祖母上……どうやら世話になってしまったようだ……かたじけない」
 「世話だなんて。命の恩人だもの、当然ですよ」
 「我はどれほど眠って……」
 「丸三日ね。シモンも心配してたのよ」

 ウルガレオンの側に寄り添うように、シモンが丸まって眠っていた。
 その頭を、ウルガレオンの大きな手が優しく撫でる。

 「さっきまで起きてたのだけど、疲れて眠っちゃったの。少し寝かせておいてあげて頂戴。今食事を持ってくるから、待っていてくださいな」

 客間に残されたウルガレオンは一度息を吐くと、自身の身体を確認する。
 鬼の治癒力のおかげか、大量の鬼のゾンビに噛まれ、爪を立てられた無数の傷はすっかり治っている。

 (……うむ、これなら戦える。あの虎鬼とかいう鬼……のさばらせておくには危険だ……こちらから仕掛けるべきか……)

 その時、振り子時計がポーンという音を立てて正午を告げた。
 シモンの祖母が暮らす、年季の入った木造の日本家屋。古くはあるが造りは立派で、しっかりと手入れもされている。
 まるで家自体がいくつもの年輪を刻んだ大樹のような、中にいる者を包み込む暖かさがある。
 そんな家中に漂う暖かい空気に、ウルガレオンは言いようがない懐かしさを感じていた。

 (この気持ちは……いつかどこかで感じたような……くそっ、なぜ思い出せんのだ……! 我は一体何なのだ! なぜこのような姿で! なぜこの時代に蘇った!)

 いまだ分からぬ、自身が存在する理由。
 苛立ち、苦悩するウルガレオンだったが、今度は懐かしさとは違う感覚が胸を奔る。

 「ふん、やはりおちおちと休ませてはもらえぬか……」

 ウルガレオンがそう呟いて立ち上がると、側で眠っていたシモンが目を覚ます。

 「ウルガレオン……? ああ……起きたんだ! よかった……!」
 「心配かけた、シモン殿。だが我は行かなくてはならぬ」
 「ど、どこへ行くの!?」
 「虎鬼との戦いの時が来たようだ。ここにいては集落に害を為してしまう。人のいない場所へ行かなくては」
 「そんな! あんなにケガしてたのに!」
 「もう大丈夫だ。なに、案ずるな。奴はこの手で仕留めてみせよう」
 「待ってよ! ウルガレオン!!」

 止めるシモンを振り返ることなく、縁側へ飛び出した。
 ウルガレオンが気配を感じたように、虎鬼も同じく感じているはず。
 シモンを稽古した山中の河原、あそこへおびき出せば存分に戦うことができるだろう。
 そう考えたウルガレオンは山へと方向を定めると、一気に跳躍した。

 ――そして数分後。

 「俺を誘い込んだつもりみてえだが、あえて乗ってやったんだぜ? 全力のお前と喧嘩してみたくてよお」

 ウルガレオンから遅れて河原へとやってきた虎鬼が、楽しげに軽口を叩く。
 その言葉に眉ひとつ動かさないウルガレオンは、虎鬼とは対照的に心底つまらなそうに答えた。

 「さっさと構えるがよい。再び葬ってやろう」
 「ああそうか……よッ!!」

 瞬間、飛び込んできた虎鬼をウルガレオンが真っ向から受ける。
 両の手を掴みあった二人は、全身の筋肉を震わせながら力をぶつけていたかと思うと、お互いふいに後方へと飛び下がった。
 そして数瞬のにらみ合いを見せた後、今度こそ本番とばかりに再度衝突すると、両者共に猛攻を開始する。

 ――意鉤突き、肘打ち、両手突き、手刀、抜き手、目潰し、頭突き、膝蹴り、金的、噛み付き、掌底、前蹴り――

 体術も野生の本能も入り交じった、ただひたすらに相手を破壊するための攻撃の応酬。
 爪が剥がれ、肉が抉れ、臓物が悲鳴を上げ血を吐かせても。狼と虎――2匹の鬼は一瞬たりとも手を休めることなく拳や脚を叩き込み合う。
 長い長い一騎打ちが奏でる打撃音。その音はウルガレオンの拳が虎鬼の顎を捉えた時、初めて鳴り止んだ。

 「くっ……半端もんのくせに……」
 「ふんっ……」

 ほぼ互角ではあったが、わずかにウルガレオンの実力のほうが勝っていた。
 ウルガレオン以上に傷を負った虎鬼は、血の混じった唾をつまらなそうに吐き捨てる。

 「……お前の全力は分かった。だらだら長ったらしく喧嘩する趣味はねえ。終わりにさせてもらうぜ」

 虎鬼はそう言うと、腰からぶら下げていた法螺貝をおもむろに取り出した。
 そして削られた尖端に取り付けられた口金を咥えたかと思うと、尋常ではない肺活量で息を吹き込んでいく。
 力強い低音と遠く轟く高音が混じり合う笛の音が山中へ響き渡ったかと思うと、虎鬼の身体にある変化が現れ始めた。

 「へっへ……この感覚……久々だあ……」
 「貴様……何をした!」
 「本当に何も覚えてねえんだな。まあいい、教えてやるよ。俺たち鬼は生まれたときから皆、それぞれ自分の笛を持ってんだ。戦でこいつを吹けばよお、身体中の血が沸き立って……ほら、この通り」

 虎鬼の全身を走る血管が、異常な速度で波打っているのが見える。
 元々人間とは比較にならないほど隆々としていた肉体も、明らかに先ほどとは比べものにならないほど肥大している。

 「まずはお前をぶち殺して、煉獄の神への手土産とさせてもらうぜえ……その首をなッ!!」

 再度始まる虎鬼からの猛攻。
 だが今度は打ち合いではなく、一方的なものとなっていく。
 鉄槌で打たれたように重い一撃の数々に、ウルガレオンはまったく反撃できず押されていく。
 そのうち防御することさえ難しくなり、何度も攻撃を受けつつも必死に躱すのが精一杯となってしまう。

 「ほらほらどうしたあ!? 狼鬼ともあろうもんがこの程度かよおッ!?」
 「う……ぐっ……」

 ウルガレオンが窮地に立たされるその様を、崖の上の木々に身を隠しながら見ている者がいた。
 それは、ウルガレオンの身を案じて思わず飛び出したシモンだった。
 傷ついていくウルガレオンを悲痛な面持ちで見守るしかできないシモンだったが、ふとあることに気がつく。

 「鬼の笛……法螺貝……どこかで見たことがある……そ、そうだ!!」

 ウルガレオンが封印されていた洞窟。
 洞窟の中に転がっていた古びた神器の中に、確かに似たようなものがあった。
 虎鬼が言うようにウルガレオンも鬼であるとするならば、ウルガレオンの笛もあるはずだ。

 「待ってて……ウルガレオン! 絶対に負けちゃ駄目だよ!!」

 そう呟いたシモンは、何度も転んでいくつも痣を作りながらも、転がるように山中を駆け抜けていった――。


EPISODE7 戦士が残した物「シモン殿なら我を超える勇敢な戦士となるだろう……力に飲まれることなどない、強く優しい戦士に……」


 大きな法螺貝を抱えたシモンが、あちこち服を破きボロボロになった姿で来た道を走る。
 河原を見下ろす崖の上。息を切らしながら辿り着いたシモンの目に映ったのは、今まさにとどめを刺されんとするウルガレオンの姿だった。

 「ウルガレオーーーーン!!」

 全力で戦っていたせいか、2匹の鬼はシモンの存在に気がついていなかった。
 良いところで水を差されたと睨み付ける虎鬼と、驚くウルガレオン。

 「なぜここへ……すぐに……逃げるのだ……!」
 「僕は逃げない!! それに、ウルガレオンだって絶対に負けない!!」
 「なにを……」
 「ウルガレオンはヒーローだから!! 僕のヒーローだから!! ヒーローは、絶対に負けないんだ!! 悪い鬼をやっつけて、ウルガレオン!!」

 シモンはそう叫ぶと、法螺貝を全力で吹き鳴らす。
 その音色は虎鬼のものに比べてはるかに弱々しいものであったが、ウルガレオンにとってはどんな音色よりも勇気と力をもらうに十分だった。

 「人間のガキが……」
 「……よそ見している場合か?」

 ウルガレオンは立ち上がった。
 大地を踏みしめるその足は力強く、胸を張り虎鬼を睨み付ける様は背後にそびえる山頂よりも大きく感じる。
 シモンの考えた通り、洞窟の法螺貝はウルガレオンの笛であった。
 力を恐れられ封印されたはずのウルガレオンの元に、なぜ笛が残されていたのかは定かではないが、おかげでこうして窮地から脱することができたのだ。

 「て、めえ……」
 「我の手で今度こそ鬼は滅びる。地獄でお前の神とやらに祈るがよい」

 ウルガレオンは戦う。
 鬼では無く、“人間”として。そして“部族の戦士”として。
 初めに対峙した時のような野性味は鳴りを潜め、まるで舞を踊るかのような華麗な攻撃が次々と虎鬼を捉えていく。
 ほぼ互角の力を持っているのなら、その力を生かすための技を身につけているウルガレオンが負けることはない。
 やがて誇り高き戦士はシモンに教えた正拳突きを叩き込むと、虎鬼の身体はあっけなく崩れ落ちていった。

 「ま、待ってくれ! 魔が差しただけなんだ! 蘇ったら仲間はみんな死んだって知ってよお! 悔しかっただけなんだよお!!」
 「……そうであったとしても、貴様は得体の知れぬ神とやらに魂を売った」
 「ち、違う! あんな炎のバケモンなんてどうでもいいんだ! これからは山で静かに生きる! 約束する! だから命だけは助けてくれ!!」
 「…………いや、貴様は救えぬ」

 ウルガレオンが虎鬼の頭を踏み抜いた。
 その瞬間、シモンの背後から襲いかかろうとしていた鬼のゾンビも土へと還っていく。

 ――戦士は役目を果たした。
 生まれながらに鬼を討つことを使命として生き、その身が鬼と化し1000年の時を超えてなお、誇りが消えることはなかった。

 「勝った!! ほんとに勝ったんだ!! すごいや、ウルガレオン!!」

 喜び勇んでシモンが駆け寄ってくる。だが、その小さな身体を抱きしめることはない。

 「それ以上近づいてはならぬ!!」
 「えっ……? ど、どうしたの、ウルガレオン……」
 「狼鬼の呪いは完全に消え去っていなかったようだ……力を高めたことで、奴の残滓が蘇りつつある……鬼の面……1000年経ってなお空恐ろしい代物よ……」
 「呪い? 鬼の面? 何言ってるか分からないよ! も、もしかして……記憶が戻ったの!?」
 「ああ……全て思い出した。我がどこから来て、なぜここにいるのか……」

 ウルガレオンはシモンに語り始める。
 それはウルガレオンでも狼鬼でもなく、“紀愁”としての人生を。
 鬼と戦う戦士であったこと。鬼の面に力を求めたこと。己の未熟さから鬼に飲み込まれたこと。そして愛する者に辛い決断をさせてしまったことを。

 「そうだったんだね……ウルガレオン……ううん、紀愁はずっと戦い続けてたんだ……」
 「そんな顔をするでない。戦いこそが我の使命なのだから」
 「うん……」
 「シモン殿に話すことはまだある。シモン殿から感じた香り……祖母上の家で覚えた懐かしさ……それは――」

 そう言いかけた時、ウルガレオンでもシモンのものでもない声が辺りに響いた。
 どこまでも慈愛に満ちた、鳥がさえずるような優しい声色。

 『それは私からお話ししましょう』

 シモンの身体から巫女装束に身を包んだ女性が現れたかと思うと、彼女はそう言った。
 巫女らしき女性は半透明に透き通っており、それが“霊”の類いであるとすぐに理解したシモンは、あまりの驚きに尻餅をついてしまう。

 『驚かせてごめんなさい……可愛い可愛い私の子孫よ……』
 「し、子孫!? それって……お姉さんが僕のご先祖様ってこと!?」
 「ええ……あなたも、あなたの母と祖母も、私の――私と紀愁の血を分けた者」
 「紀愁って……! それじゃあ……!」

 巫女は紀愁を封印する直前、彼の子をその身に宿していた。
 鬼が消え、社が消え、誰もが遠い昔のことなど忘れても、二人の血筋はこの地に脈々と受け継がれていたのだ。
 紀愁がシモンに感じていた懐かしさ。
 それは愛する者の血と面影からきていたものであった。

 「紀愁をたった一人で閉じ込めるのが忍びなく……私は共にあの場所で眠ることを選びました……シモン……あなたが来たから……封印を解いたのがあなただったから……私はその身に宿ることができたのです……本当に、ありがとう……」

 二人の子孫であるシモンが紀愁の封印を解き、子孫であるからこそ巫女は今一度霊体として顕現することができた。
 まるで導かれたように起こった出来事は、偶然と片付けることは難しいだろう。
 どんな運命の歯車が働いたのかは分からないが、結果として二人にとって悲しい結末で終わっていた物語が救われようとしていることは確かだった。

 「……シモン殿。我はもう行かなくてはならぬ」
 「ウルガレオン……」
 「本来であれば、鬼の面の下の我はとうに朽ちておる。狼鬼の呪いは浄化しきれなかったが……我の魂を浄化すれば、呪いは再び鬼の面へと戻るだろう」
 「それが……それがウルガレオンにとって一番いいことなんだよね……?」
 「ああ……我が本来あるべきところへ帰る、それだけのこと……」
 「……分かった」

 シモンは涙を目一杯溜め、強がりながらもそう言ってみせた。
 ウルガレオンのように強くなる。そのためには、笑って見送ってやらなくてはと。

 「シモン殿と共に過ごした日々……真に楽しかったぞ」
 「……うん! 僕も楽しかったよ!!」
 「さらばだ……我が子孫……我が弟子……我が主よ……」
 「さよなら! ウルガレオン!! さようなら!!!」

 巫女の霊がウルガレオンを抱きしめると、その身体から分離するように雄々しい青年の霊が現れた。
 二人はシモンに一度微笑みかけると、仲睦まじく共に天へと昇っていく。

 『いつかシモン殿が……我以上の強い心を宿すその時が来たら……』

 たった一人残されたシモンが涙を拭う。
 ウルガレオンはシモンに多くのものを残した。
 強くなるということ、戦うということ。その意味と生き様を。
 ふと、夏の終わりを告げるような涼しい風が吹く。
 その風に吹かれた鬼の面はカタカタと小さな音を立てて、まるで何かを語りかけているかのように揺れ続けていた――。


EPISODE8 ヒーロー「かつての少年は己の信念に従い突き進み続ける。遠い時の向こうからやってきた、英雄の教えを胸に」


 ――10年後。

 『――次のニュースです。先月から続く連続強盗の犯人が逮捕されました。今朝5時頃、警察署の前にロープで縛りあげられていた容疑者を警察が発見、緊急逮捕となった模様です。犯人は「ウルガレオンにやられた」と話しており、このところ世間を賑わせている自称ヒーローを名乗る人物によるものと見られます。ネットでは賞賛する声が多く聞かれる一方、私的な制裁行為に懐疑的な意見も見られ――』

 テレビに真っ黒な画面が映し出されると、リモコンがソファへとぞんざいに放り投げられる。
 単身向けマンションの部屋の主である男は外出の準備をしながら、ぼやくように呟いた。

 「勝手なこと言ってさ……綺麗事だけじゃ誰も救えないっての……」

 大きなザックにいくつかの着替えを詰め込んだ男は、思い出したかのように洗面所へと向かうと、タオルを手にリビングへと戻ってくる。

 「今度の事件は長引きそうだからな……色々多めに持っていかないと……」

 男は部屋の電気を消し、ガスの元栓などをしっかりチェックすると、ザックに詰める最後の荷物を取ろうとテーブルの上に手を伸ばした。
 男の指先にあった物。それは――仮面。
 生々しい毛皮で覆われた、今にも動き出しそうな狼の仮面。
 その仮面を入れたザックを背負うと、男は満足げに頷いて言う。

 「それじゃ……ウルガレオンの出陣、といきますか」

 玄関へ向かい、スニーカーに足を通すと、トントンとつま先を鳴らしてドアを開ける。
 そして、安っぽく軋む音を立てながらドアが閉まると、ガチャリと鍵がかけられた。

 誰もいなくなった薄暗い部屋。
 物も少なく整頓された部屋の中、テーブルには一通の手紙が残されている。
 カーテンの隙間から入り込む明かりに照らされたその手紙には、真っ赤な文字で――

 『WELCOME』

 たった一言、そう記されていた。



■ 楽曲
┗ 全曲一覧(1 / 2) / ジャンル別 / 追加日順 / 定数順 / Lv順
WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧


コメント

  • 〇マップについて マップのマス数等が未反映のようですので、ここに記しておきますね。まずマップの仕様により、どんな場合でも「進行度1」のマップ1枚を完走しないと、ウルガレオンのマップ「進行度2エリア5」は選択できません。よって、進行度1のマップを完走するには105マス進める必要があります。また、進行度1完走後のデフォルト状態では、ウルガレオンのマップは全部で405マスあります。よって、「なんとしてでも彼だけは絶対欲しい!!」と言って、「進行度1」→「進行度2エリア5」の順でマップを2つ完走しようとすると、トータル510マス進む事になります。自分はこれを必死こいて走破しました() -- 実際に彼を手に入れた人より? 2023-05-17 (水) 22:55:23

*1 エリア1から順に進む場合