セロ・ダーウィーズ

Last-modified: 2024-03-09 (土) 14:10:52

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通常アヒトフェルの絶望
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Illustrator:巌井崚


名前セロ・ダーウィーズ
年齢容姿年齢30歳(製造後19年)
職業強硬派指導層
  • 2022年8月3日追加
  • SUN ep.Vマップ3(進行度1/SUN時点で305マス/累計615マス)課題曲「空間創造理論」クリアで入手。
  • トランスフォーム*1することにより「セロ・ダーウィーズ/アヒトフェルの絶望」へと名前とグラフィックが変化する。

バテシバの信徒であった、かつての強硬派の指導者。
彼女こそが、男の人生の全てだった。

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1嘆きのしるし【SUN】×5
5×1
10×5
15×1


嘆きのしるし【SUN】 [EMBLEM] 

  • JUSTICE CRITICALを出した時だけ恩恵が得られ、強制終了のリスクを負うスキル。
  • 勇気のしるし【SUN】よりも強制終了のリスクが低い代わりに、ボーナス量が少なく、JUSTICE以下ではゲージが増えなくなっている。
  • SUN初回プレイ時に入手できるスキルシードは、NEW PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
  • GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.10→+0.05)する。
  • スキルシードは300個以上入手できるが、GRADE300でボーナスの増加が打ち止めとなる
効果
J-CRITICAL判定でボーナス +??.??
JUSTICE/ATTACKでゲージ上昇しない
JUSTICE以下300回で強制終了
GRADEボーナス
1+20.00
2+20.10
3+20.20
51+25.00
101+29.95
▲NEW PLUS引継ぎ上限
102+30.00
202+35.00
300~+39.90
推定データ
n
(1~100)
+19.90
+(n x 0.10)
シード+1+0.10
シード+5+0.50
n
(101~)
+24.90
+(n x 0.05)
シード+1+0.05
シード+5+0.25
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期所有キャラ数最大GRADEボーナス
2023/4/13時点
SUN14169+33.35
~NEW+0269+38.35


GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数

GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数
ボーナス量がキリ良いGRADEのみ抜粋して表記。
※水色の部分はWORLD'S ENDの特定譜面でのみ到達可能。

GRADE5本6本7本8本9本10本11本12本
18001600240032004267533466678000
67831566234831314174521865227827
167501500225030004000500062507500
267201440216028803840480060007200
366931385207727703693461657706924
466671334200026673556444555566667
566431286192925723429428653586429
666211242186324833311413851736207
766001200180024003200400050006000
865811162174223233097387148395807
965631125168822503000375046885625
1125461091163721822910363745465455
1325301059158921182824353044125295
1525151029154320582743342942865143
1725001000150020002667333441675000
192487973146019462595324440554865
212474948142218952527315839484737
232462924138518472462307738474616
252450900135018002400300037504500
272440879131817572342292736594391
292429858128617152286285835724286
300~425850127416992265283135384246
所有キャラ

所有キャラ

  • CHUNITHMマップで入手できるキャラクター
    Verマップエリア
    (マス数)
    累計*2
    (短縮)
    キャラクター
    SUNep.Ⅰ6
    (205マス)
    550マス
    (-170マス)
    ティリー・キャクストン
    ep.Ⅲ3
    (335マス)
    625マス
    (-30マス)
    ドヴェルグ
    SUN+ep.Ⅳ4
    (405マス)
    1195マス
    (-60マス)
    ウルガレオン※1
    ep.Ⅵ5
    (505マス)
    1725マス
    (-)
    希望の巫女 ネフェシェ※2
    ※1:該当マップ進行度1の全てのエリアをクリアする必要がある。
    ※2:初期状態ではロックされている。

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 この素晴らしき世界で「エイハヴが蒔いた種が芽吹き、滅びを願う者たちがあの方の下へと集ったのだ」


 強硬派指導者エイハヴによる真人の研究は、とある都市で発見されたチップによって更なる飛躍を遂げた。
 耐用年数の延伸や抑制された感情の解放。
 それらを紐解く鍵が記されていたのだ。
 機械仕掛けの神々によって設けられた様々な壁は、エイハヴの手で次々と取り払われていく。
 そして、兼ねてより研究していた真人の生殖機能の復活にもようやく進展が見え始めた。
 しかし、生殖機能を有する真人バテシバに続く成果は得られなかったのだ。

 「――これでは旧人類以下だ」

 エイハヴの落胆は大きかった。
 彼のような研究者からしてみれば、成功とも失敗ともつかない“中途半端”な結果はなんの意味もなさない。
 ましてや、再現性がないのであれば――。
 不必要なものは処分する。それが研究室のルールだ。
 培養ポッドの中で眠る真人――セロも、他の個体とともに破棄される運命にあったが、エイハヴは彼を処分せず傍に置く事にした。
 エイハヴのノイズ混じりの合成音声が、静かな研究室に木霊する。

 「我が肉体も、滅びは避けられぬ……」

 エイハヴは身体のほとんどを機械に置き換え、本来の耐用年数を大幅に超越して生き長らえてきた。
 そんな彼も、己の死からは逃れられないと自覚し始めていた。
 ならば必要となるのは、優秀な個体にエイハヴが会得してきた叡智を継承させる事のみ。
 セロと名付けられた個体は、知能の面でとりわけ優秀な数値を示していた。

 「これが新たな器だ……」

 老いさらばえてもなお、彼の野心に陰りはない。
 真人の希望にして、すべての母となる者バテシバ――彼女の番(つがい)となる真人が誕生しさえすれば、いずれ地上は真人で埋め尽くされるのだ。

 「地上は我ら真人のものだ。新たな人類も機械種も、この世界には不要だという事を、我らが証明してくれよう!」

 その妄執の炎は地上を焼き、長きにわたる争いと多くの悲劇を生み出すのだった。

 ――
 ――――

 強硬派<イノベイター>を率いる指導者エイハヴが、帰還種との戦闘でこの世を去った。
 この訃報に驚くオリンピアスコロニーの真人たち。
 だが、迅速な指揮権の移譲によって、さして混乱は起こらなかった。
 彼は、戦いの如何に関わらず己の死を予見して手を打っていたのだ。

 日に日に変化する情勢であったが、研究室で日々を過ごすセロにとっては、どうでもいい事だった。
 自身に人格と記憶を転写する実験を行っていたエイハヴは死んだ。
 その結果、実用段階まで迫っていた、真人の脳に疑似的な人格と記憶を植え付ける実験は凍結された。
 実験体であったセロは、その副作用により芽生えるはずだった人格が消失し、廃人同然にまで破壊されてしまったのだ。

 空虚な日々を送るセロのもとに、ある日訪問者が現れる。
 祭事用の剣を持たせた従者を侍らせる少女――バテシバ・アヒトフェル。
 強硬派の指導者となった彼女は、唯一、自然分娩で誕生した真人であり、彼女も生殖機能を有している。
 彼女こそが、エイハヴら研究者たちの希望の象徴。
 未来の真人の母となる存在なのだ。
 研究室に残っていた研究者たちは、バテシバを見るや興奮を隠せないでいる。

 「おお! バテシバ様! まさか“運命の子”自らここへ来られるなん――」

 駆け寄って来た研究員の男が、祭事用の剣で首を撥ね飛ばされた。

 「貴方たちの欲望を叶える“道具”の間違いでしょう……都合のいい言葉で飾らないで」

 男の命を摘み取ろうと、バテシバの表情は微動だにしなかった。ただ、どこまでも清廉な笑みを浮かべたまま。

 「感じるわ。禍根は今すぐに絶たなければ……」

 彼女がここへやって来たのは、自身の身体に様々な実験を行ってきたエイハヴが遺した研究室を、ひとつ残らず潰すため。
 真人をこの大地から滅ぼしたいバテシバにとって、真人の未来につながる可能性は、すべて摘み取っておきたかったのだ。

 血に濡れた剣を握ったまま、バテシバは研究室を徘徊し、研究者たちに死か服従を迫る。
 だがエイハヴに付き従っていた研究者たちが選んだのは死だった。
 ここにも、誰一人としてバテシバに服従を誓う者はいない。
 彼らは皆、敬虔なる信者のようにエイハヴの理想に対して忠実だったのだ。

 「これですべてかしら?」
 「研究員は残っていません。あとは、実験用に飼育されている真人です」

 従者から手渡された資料に目を通し、バテシバは顔を小さく歪めた。
 悠然とした足取りで、実験用に隔離されている場所へと向かう。
 薄暗い室内に漂う悪臭の中でも、バテシバは顔色ひとつ変えずに歩いて行く。

 「――誰だ」
 「貴方……貴方がセロね?」
 「ここには私しかいないのだから、そちらがセロでないのなら私がセロという事になるな。用がないなら、ここから出ていってくれ」

 バテシバの足元に滴り落ちる血を一瞥すると、セロは「大変だな」と他人事のように言い、突然の訪問者を追い払おうとする。
 だが、当の本人は一向に帰る素振りを見せなかった。

 「まだ何か?」
 「私(わたくし)は聞きたいだけ……だって、貴方は自分の意思で自由になれるのだから」
 「……それで?」
 「それだけよ」
 「……解放されたところでただ“生きている”だけの私にはさしたる違いはない」

 その言葉に、バテシバは懐かしさを覚える。
 かつてエイハヴたちに自分の身体を内側まで弄ばれたあの時。
 自ら死を願おうとすると発動する枷が、何度も自分を蝕んだ。
 その時抱いた感情に、彼の言い分は似ていたのだ。

 「貴方は……私と同じね」
 「さあ、どうだろうな」
 「だったら……確かめましょう。世界が私たちを許すかどうか」

 そう言って、バテシバはセロに手を差し伸べた。

 「世界はどんなふうに壊れるかしら?」


EPISODE2 そこに、在り続ける「彼女に出会って私は確信した。真人を世に解き放った元凶――システムこそが、真に倒すべき敵だと」


 バテシバの思想に一定の理解を示したセロは、彼女の腹心としてその手腕を如何なく発揮した。
 そして、彼と同様にエイハヴの研究を耐え忍んできた者たちが集い――同じ思想を共有する妄信的な集団へと変貌していく。
 恐怖政治を敷くバテシバが背後にいる以上、彼らに表立って異を唱える者はいなかったのだ。
 これによって、より強固に、より洗練された意思で塗り固められた強硬派は、大いに躍進した。
 戦闘技術や生産速度の向上、兵器の開発など。
 様々な角度から真人のポテンシャルを向上させた事で、機械種にも引けを取らない力を手に入れていったのだ。
 だが、狂信者たちにとって真人の繁栄は本懐ではない。
 すべては、彼女の願いを叶えんがため。

 願いを成就させるべく行動するバテシバとその腹心たちだったが、ペルセスコロニーへの侵攻を推し進める中、セロはひとつの疑問に突き当たる。

 “すべての生命を滅ぼしたとて、その大元であるシステムを破壊しなければ意味がない”と。

 セロがそう考えるようになった切っ掛けは、バテシバがゼーレキアコロニーで初めて遭遇した帰還種の少女の行動。
 なんらかの方法でバテシバがいる中枢塔に侵入した彼女は、突然動き出した機動兵器を破壊した。
 たった一撃。たった一撃でだ。
 超常的な力を目の当たりにし、セロは大きく衝撃を受けた。
 一方で、バテシバはその行動から帰還種たちがこの世界にあまねく存在するコロニーへのアクセス権――つまり、システムと繋がれる力を持っていると推察する。
 それを裏付けるように、コロニーのエネルギー供給が大きく乱れていた事が判明したのだ。

 その推察は、やがて確信へと変わっていった。
 セロが主導する帰還種の肉体の調査。イオニアコロニーで回収した帰還種の亡骸にも、真人にはない機能が備わっていたのだ。

 それからバテシバの行動は大きく変容した。
 システムへのアクセス権を手に入れる。そうすれば、間違った世界がバテシバの思想の前にひれ伏すのだ。
 そんな彼女の意思に呼応するかのように、強硬派は進軍の勢いを更に増していくのだった。

 ペルセスコロニー侵攻作戦が間近に迫ったある夜。
 セロは独り、滅亡に向けた計画を練っていた。

 「私の想定以上に、計画は遠大となったな」

 回顧する中、セロは自然とバテシバに想いを馳せる。
 いつだったか、彼女はセロたちにこう言った。

 『人の業のすべては、私の中にある』と。

 セロは実験によって人格と記憶の転写を繰り返された結果、廃人寸前にまで破壊された。
 それは事実であって、セロには怒りや恨みといった感情は何ひとつない。
 ならば、バテシバは?
 世界を冷ややかに見ている彼女は、怒る事も壊れる事も、ましてや絶望する事もない。
 感情に一切の揺らぎが見られず、ひとつの意思を軸に完全に調和している“生命”のようだ。
 まるで、そう“在る”事が当然だとでも言うように。

 「…………」

 ――私は、バテシバ様と同じではない。
 誰よりも近くにいる私が、彼女との間に深い隔たりを感じているのだ。
 真人たちは、彼女の意思の下に集った。
 だが、どれだけ意思を共有したとて、広がり続ける集団は外側ほど質が低下する。
 ならば、せめて私にできる事は、バテシバ様の願いが成就するその日まで彼女の一番の理解者で在り続ける事だ。
 この身が滅んだ後も、私は――

 「何を是としても、私が成し遂げるのだ」

 そのための布石を、セロは用意していた。
 だが、彼が用意していた計画は、思わぬところで狂いだす。
 聖女バテシバの命の灯が、尽きかけていたのだ――。


EPISODE3 ふたりのセロ「計画に必要なすべての要素は揃った。世界は彼女の願いのもと、在るべき姿に生まれ変わる」


 紺青の都市サマラカンダ。
 バテシバの死によって計画の変更を余儀なくされたセロが選んだ廃棄都市の中枢では、機械種と真人の攻防が繰り広げられていた。
 真人カイナン・メルヴィアスに相対するは、冷徹な笑みをたたえる女性型の機械種――エヴァ・ドミナンスⅩⅡ。
 カイナンによってサマラカンダまで運びこまれた彼女は、計画実行の直前で覚醒し、最大の脅威となって彼の前に立ち塞がったのだ。

 エヴァは一直線に、部屋の中央に鎮座するポッドへと向かう。
 そのポッドの中でたゆたう聖女バテシバの亡骸。
 それこそが、カイナンが行おうとしている何らかの計画に必要不可欠な要素だと判断したのだ。

 「終わりです!」

 ポッドに向けて渾身の一撃を繰り出そうとしたその時。届くかに見えたエヴァの攻撃は、ポッドの前に立ち塞がったカイナンの捨て身の行動によって防がれた。

 「ぐ……ッ……」
 「理解できませんね。その行いになんの意味が?」

 合理的な判断を下すエヴァには、カイナンの行いの意味がわからない。
 彼の足元には、今も赤い液体が広がり続けている。もはや手を下すまでもなく、放っておけば勝手に死に絶えるだろう。
 だが、命の瀬戸際だというのに、カイナンは不敵な笑みを浮かべたままだった。

 「まあいいでしょう」
 「計画は成就した。この私が……成就させたのだ!」

 その言葉に隠された意味も知らずに、エヴァは素っ気なく返す。

 「そうですか―――か、カか―――ぁ――ッ?」

 カイナンごとポッドに叩きつけようとした瞬間。
 突然エヴァはヒトの可聴域を超えた不快な音を発しながら動きを止めた。
 続けて、鋼鉄の身体が血だまりの中へと崩れ落ちていった。
 彼女の身体には、どこからか伸びたケーブルが射しこまれていて――

 『……その甘さは、どこで生まれた?』

 機械的な合成音が響く。
 エヴァのすぐ傍には、一体の機械仕掛けの兵士が立っていた。
 頭部に眼窩と思われる窪みがあるだけで、これといった特徴を持たない、戦闘で使い捨てられるだけの機械兵。
 真っ直ぐに突っ立ったままエヴァを見下ろす姿に、カイナンは嘲るように笑ってみせた。

 「フ……惨めな姿だな、セロ・ダーウィーズよ」
 『……』

 セロと呼ばれた機械兵は沈黙を貫く。

 「事は済んだのか」
 『……エヴァ・ドミナンスは夢を見ている』

 改めてエヴァを見てみると、彼女の眼球は細かく痙攣し、あらぬ方向を向いたまま。
 一向に元に戻らない事から、脳核に広がる意識海が侵食されてしまったのだろう。

 『楽園の扉を開く条件は揃った』

 すると、機械兵はエヴァの身体を持ち上げ、近くの台座にうつ伏せで横たわらせる。
 その台座に向かい合うように設けられた別の台座には、いつの間にか白い鎧をまとった女が眠っていた。
 彼女は、この日のためにロトが回収した帰還種――ニア・ユーディット。
 バテシバの意識を降ろす依代として選ばれたのだ。
 機械兵は淡々と彼女の頭部にいくつものケーブルを取りつけていく。

 『立て、カイナン。お前にはまだやるべき事がある』
 「フッ、この身体もお前の一部だろうに」

 カイナンは、セロがエイハヴの研究を発展させて造り上げた、セロの疑似記憶を持つ真人である。
 何がきっかけで今までセロの支配に抗い続けてきたかセロには不明だったが、今のカイナンを見るに支配は完了し、記憶は溶け合い完全な同調を示していた。

 『次の段階に移るぞ』
 「言われるまでもない」

 カイナンは血が流れる腹部をきつく縛り上げると、エヴァの下へと向かう。
 頭部をしっかりと見下ろせる位置に陣取り、台座の側面に収納されている器具を取り出した。

 「――これより、エヴァの脳核を切除する」

 カイナンの身体は今も悲鳴を上げ続けている。
 だがそれでもやり遂げなければならなかった。
 生きる理由を、失わないためにも。


EPISODE4 脳核「今ここに、扉は開かれる。傲慢にも世界を統べようとするシステムに、審判が下るのだ」


 セロに見守られる中、カイナンが台座の側面に収納されている器具を取り出す。
 細い針のようなものからメスに加え、切断に使うと思わしき円形のカッターなど、様々な器具が揃えられている。
 カイナンはうつ伏せの状態で全身を固定されたエヴァの頭部側に移動し、うなじに当たる部分に触れた。
 人工皮膚と皮膚の境目には、細い線が横断するように走っている。
 そこにカイナンは、メスを突き立て切込みを入れた。
 続けて、捲れた皮膚を頭頂部に向かって少しずつ剥がしていく。
 花が開くように首から頭頂部までの皮膚を剥がし終えると、脳核を護る鈍色の塊が露わになった。

 「……っ」

 腹部の痛みに意識が飛びそうになるのを堪えながら、作業を続ける。
 鈍色の塊の表面を円形のカッターで少しずつ削り――四角形に削りだした塊が、空気が抜けるような音と共に内部に沈みこんだ。
 その部分だけを取り外した事で、ようやく機械種にとって最も大切な部品――脳核を曝け出す事に成功した。
 ヒトを模して造られた脳核は、外気に晒されてもなお一定の感覚で光を灯し続けている。
 それは、エヴァが機能停止せずに正常な動作を続けている事を示していた。

 脳核を取り出せるほどの大きさにまで穴を広げたカイナンは、半透明の被膜に覆われた脳核に、針のように先端が細長い端子をいくつか刺しこんだ。
 プツリ、と被膜を破る感覚があった。すると、端子が次々に淡く青い光を灯していく。
 その光が等間隔にゆっくりと明滅するのを確認し終えたカイナンは、淡々と告げた。

 「遠隔接続は完了した」

 エヴァは自分が生きながらにして解体された事も知らないまま、メタヴァースシステムへと接続する道具に造り変えられてしまったのだ。

 『重畳だ』

 カイナンの仕事を見届けたセロは、賛辞を贈るように金属でできた腕を打ち鳴らす。
 かくして、セロはようやく鍵を手にいれた。
 メタヴァースへの侵攻――侵されざる領域への扉が、間もなく開かれるのだ。


EPISODE5 万感の思い「肉体を捨て、私は機械の身体に身を潜めた。感情が希薄な私でも、あの方の復活は胸を打つものがある」


 セロはカイナンを通じて回収した脳核を使い、都市の中枢機能を司るコントロールユニットを起動させた。
 中枢塔を支える円筒形の柱の中、脳核を収納する扉が開くと、そこには既に別の脳核が収納されている。
 その脳核は、試験起動のために使われた旧世代型の監督官……アイザック・ドミナンスのもの。
 セロはアイザックの脳核を無造作に外し、新たにエヴァの脳核を格納する。

 停止していたコントロールユニットは、ものの数分で再起動した。
 空中に浮かび上がるインターフェースには、高速で無数の文字列が浮かんでは消えていく。
 やがて、サマラカンダは他のネットワークから切り離された状態で、メタヴァースシステムにいつでも接続できるようになった。
 残すは、聖女バテシバの帰還だけだ。
 肉体から解き放たれたバテシバの意識を、真人の疑似記憶を転写する技術を応用して帰還種の女に植え付ける事で、このサマラカンダの地に彼女が復活する。

 『この瞬間を、どれほど待ちわびた事か』

 バテシバの肉体が死を迎えてから、既に十数年の時が流れている。
 セロも本来の肉体を失い、何度も別の器に記憶を移し替えるうちに、自分という個を認識できるギリギリのラインまで消耗してしまっていた。
 これが失敗に終われば、セロの計画は水泡に帰す。
 長い旅路の末にたどりついた答え。
 それが今、彼の目の前に表示されている。

 『いよいよだ』

 「意思の移植」を実行するか否かを問われ――即座に実行を選んだ。
 瞬間、意識の移植が速やかに行われた。
 台座に横たわるニアの身体が、ポッドの中で静かな反応を示すバテシバに対して、強く激しく脈打つ。

 「っ! んっ――か、――は――ぁっ!」

 ニアの意識はバテシバと溶け合い、次第に同じものになっていく。
 それでもニアは抵抗を続けているのか、時折声にならない悲鳴を上げながら、小刻みな痙攣を繰り返す。
 だが、そんな抵抗も虚しく……ニアは徐々に大人しくなっていく。
 やがてコンソール内に「完了」を示す文字が現れた。
 あとは、バテシバの意識が定着しているかどうか確認するだけ。

 その時、コンソールに別の動きがあった。
 サマラカンダ内を捉えた映像には、ふたつの影が中枢を目指している様子が見えた。
 この区画にたどりつける者は、そう多くない。

 『……情けのつもりか、ロト?』

 抑揚のない声を発するセロが見つめる先には、ロトと行動を共にするヴォイドの姿があった。
 母に歪んだ感情を抱くふたり。
 自分の感情に正直なロトが、この最終局面においてあのような行動を取らせたのだろう。

 『いいだろう、ヴォイド。母に会わせてやる』


EPISODE6 母との邂逅「ヴォイドほど操りやすい男はいない。私が造り出した傀儡に過ぎないのだから」


 中枢にたどり着くやいなや、ヴォイドはポッドの中で眠る母――バテシバの姿に釘付けになっていた。
 だが、それだけで満足できるヴォイドではない。
 歓喜に打ち震えていたヴォイドだが、少しでも近くで母を見ようと駆けだした矢先――それを制する者が現れた。

 「それ以上、バテシバ様に近づくな」
 「だ、誰だッ!?」

 感動の対面に割って入るとは何事だと言わんばかりに、ヴォイドは咄嗟に小銃を取り出し、目の前に構える。
 高い地位にいて銃を使い慣れていない男の姿はひどく隙だらけだ。
 緊張と不安が入り混じる中、何度も辺りの様子を伺うヴォイドだったが、見つけられたのは物言わぬ兵士の亡骸と奥に佇む機械仕掛けの兵士のみ。
 そこでようやくヴォイドは気がついた。
 傾斜がついていてよく見えなかった台座の上に、頭を開かれたままの機械種エヴァと、死んだように眠る帰還種の女がいた事に。

 「なんだ、これは――」
 「儀式、だ」

 ヴォイドの疑問に答えたのは、エヴァの台座の影に隠れるように座りこんでいるカイナンだった。
 おもむろに立ちあがったカイナンに向けて、ヴォイドは反射的に小銃を構え直す。

 「カ、カイナン! この……逆賊めがッ!!」

 驚き、慌てふためくヴォイドに向かって、カイナンは嘲るように笑う。

 「クク、私を撃てば、バテシバ様の魂はあの骸の中に未来永劫留まり続ける事になるぞ?」

 既に儀式は完了している。あとはバテシバの目覚めを待つのみだ。
 カイナンの嘘はやや荒唐無稽めいたものだったが、“母”に関する事となれば必ず反応してしまうのがヴォイドという男である。

 「母上はすでに崩御なされた。母上の聖骸を弄ぶのならば、我が手で直接殺してやる!」

 案の定、ヴォイドは引き金を引くに引けないまま、上擦った声でわめいている。
 カイナンはそんなヴォイドを一蹴した。

 「いや、彼女は生きている。あの中でな」

 カイナンの視線の先――台座に横たわるのは、帰還種の女。

 「な、何を……」
 「器はじきに満たされる。再誕するのだ、聖女バテシバがな」


EPISODE7 偽りの記憶「我々は、彼女の願いを叶えるための駒に過ぎない。ロトもヴォイドも、そして、私たちでさえも」


 聖女バテシバが、新たな身体を得て再誕する。
 カイナンはさも当然のようにそう言ってのけた。
 だが、ヴォイドの知る限りではそんな非現実的な事が起こるなどありえない。
 万が一、成功したとしてバテシバの意識がある帰還種の女は、本当にバテシバなのだろうかと。

 「ほ、本当に、母上が……?」

 だが、ヴォイドはカイナンへの怒りも疑念もすべてかなぐり捨て、ただ母に会いたい子供のようにカイナンに要求していた。

 「早く、早く母上に会わせろぉぉぉッ!」
 「ク、クク……お前は……本当に、滑稽だな」

 その言葉は、ヴォイドを造った創造主、セロ・ダーウィーズとしての言葉。

 「重畳だ。これほどまでの……執着が生み出された。正直、これは私の予想を上回る結果だよ」
 「結果だと? 貴様に私の何が分かると言うのだ!」
 「分かるさ。私もお前も所詮は道化なのだから。そう理解できないようになっている」
 「私は母上の願いを叶えるために戦争を仕掛け! ペルセスコロニーを制圧したのだぞ! 真人の繁栄に貢献したのは私だ! 母上の寵愛も、栄誉も! この私だけのためにあるのだ!」
 「それは、誰の願いだ?」
 「……何?」

 予想外の指摘に、ヴォイドは豆鉄砲を食らったように気の抜けた表情でカイナンを見やる。

 「ヒトは、生まれながらにして願いなど持たぬ。もう一度問おう。それは、誰の願いだ?」

 記憶の糸を手繰りよせるヴォイド。だが、どれだけ経っても自身の行動を裏付けるような記憶を見つけ出せていないようだ。

 「バカな……そんな事、ありえない。私の願いは、母上の――!」
 「思い出せるならそうしてみろ。お前に始まりなどないのだから」
 「わ、私は……母上と……」
 「お前は母など知らぬ。母は最初からここにいるのだから」
 「では私は……何を……」
 「お前は何者でもない。アヒトフェルの名も与えられなかった、名も無き真人だ」
 「な、なぜ……それを知るのは、知っている男はもう死んだ! 死んだのだ! あの男は……セロ・ダーウィーズは!」
 「だが、ここにいる」

 恐怖と不安が入り混じったような顔に、カイナンは不敵に笑う。

 「正確には、私の“一部”と呼ぶべきか」

 セロは自分自身も実験道具にして、エイハヴが行おうとしていた研究を発展させた。
 それは、真人の記憶を別の対象に転写する技術。
 その被検体のひとりが、カイナン・メルヴィアスという真人なのだ。

 「――っ」
 「教えてやろう。お前の願いがどこから来たのかを」

 ヴォイドは力なくその場に崩れ落ちた。
 創造主によって己の存在を否定され、肥大化した自尊心を深く傷つけられた彼には、すがれるものはひとつしかない。
 ヴォイドの虚ろな眼差しが、母へと向けられたその時――甲高い音が鳴り響いた。

 「さあ、目覚めるぞ」
 「ぁ……は、はは、ははうえぇぇ……」

 それは、世界の破滅を望む者たちの願いの果て。
 帰還種バテシバがこの地上に再誕した証であった。


EPISODE8 ハローワールド「聖女は完全なる覚醒を遂げた。間もなく世界は、生の呪縛から解き放たれた新世界に生まれ変わるのだ」


 「これが――私(わたくし)の身体……痛みも、苦しみもない……ああ、これで皆を連れていってあげられる……」

 目覚めと同時に拘束から解き放たれ、台座の上で身を起こした女。ニアでもバテシバでもある存在――ニア=バテシバは、無造作に身体を動かすと恍惚とした笑みを浮かべる。

 「ああ……とても、自由」

 身体の奥底から溢れてくる全能感。
 何度も己を苛んできた自死を防ぐ枷も、今の彼女には存在しない。
 旧き肉体を捨て、新たな器を得た事で彼女はようやく真人という呪縛から解き放たれたのだ。

 「母上ェェェェッ!!!!」
 「……」

 何もなかったかのように、バテシバは辺りを見渡すと、カイナンと機械兵に目を向ける。

 「セロ……今度は貴方がお人形さんね?」
 『より鋭くなられたようだ』
 「ずいぶんと楽しそうに見える」

 隣に立つカイナンが続けて問う。

 「ええ。とても、とても――」
 「母上ェェェェッ!!!!」

 泣きながらバテシバの足にすり寄るヴォイドをカイナンが排除しようとする。だがそれを意に介さず、バテシバはヴォイドと目線を合わせるようにしゃがみこんだ。

 「貴方は……とても頑張ったのね?」

 それは、ヴォイドが何よりも求めていた言葉だった。
 息を吹き返した魚のように、勢いよくまくし立てる。

 「そうです! 私は母上のためにペルセスコロニーを制圧し、強硬派に勝利をもたらしました! これもすべては、愛する母上のためなれば!」

 バテシバは柔らかな笑みを浮かべ、ヴォイドの頭を
あやすように撫でつけた。

 「今までお疲れさま」
 「は、ははうえ――」

 ヴォイドはそれきり動かなくなった。
 母に認められたという事実か、初めて感じた愛情か。またはその両方か。
 いずれにせよ、ヴォイドはあまりの興奮でその場にくずおれてしまったのだ。

 「きっと……幸せな夢を見ているのね」

 ヴォイドを解放し終えたバテシバは、セロとカイナンにメタヴァースへの接続を促す。
 現実世界から電子の楽園メタヴァースへと向かい、世界を歪めてきたシステムを崩壊させる。
 その先に生命は、世界は生の呪縛から解き放たれるのだ。

 「さあ、私と一緒に素敵な明日へ行きましょう」

 そう言ってバテシバが静かに扉を振り返った時。

 「――ニア!」

 開け放たれた扉の向こうから放たれた声色に、バテシバは懐かしさと愛おしさを感じた。

 「あぁ……」

 真っ直ぐにこちらを見やる少女の面影は、バテシバが生前ゼーレキアコロニーで遭遇した帰還種の女の雰囲気とどことなく似ていた。
 だが、それだけではない。
 沸々とこみ上げてくる想いが、叫んでいるのだ。
 私は彼女を知っている。
 心の底から会いたかったのだと。

 ――だって私は、ニア・ユーディットなのだから。

 バテシバは駆けだした。
 久々の再会に、心を躍らせて。

 「会いたかったわ、ミスラ……ミスラ・テルセーラ」
 「え……?」

 同じ顔。同じ声。
 近付いてくるニアを前に、ミスラは動けなかった。

 ――違う。何かが違う。

 ミスラの直感が、そう囁いている。

 「あなたは……誰?」

 その問いに、一瞬わけがわからない顔をすると、バテシバは聖女のような柔らかな笑みを返す。
 瞬間、ミスラは理解した。
 目の前にいる女は――ニアではないと。

 「ニアはどこ?」
 「ふふ……私はここにいるじゃない」
 「ちがうわ。わかるもの」
 「そうよ。今の私はひとりではなくて、“ふたり”だもの」
 「ニアは……ニアは、ひとりだわ……」

 ミスラの顔からは、完全に余裕が消えていた。
 ニアではない誰かの言葉が理解できない。
 わけがわからぬまま、無意識のうちにミトロンを持つ手に力が入る。

 「ニアを……かえして……」

 ニアの瞳の奥にいる誰かに向かって、ミスラは消え入りそうな声でそう言った。
 そんなミスラにバテシバは、ゆっくりとした足取りで歩み寄り――やさしく抱きとめる。

 「ほら……ニアはここにいるわ」

 ニアの身体に触れた途端、ミスラはようやく理解した。
 彼女はニア・ユーディットであり、ニアではない。
 そして、彼女はきっと今もあの中にいると。

 「――!」

 そう確信したミスラは、ニアの身体を抱きしめ返す。

 「ニアは、ぜったい返してもらうから」
 「まずは約束を果たさないと。大切なお友達の頼みだもの。そのあとでなら考えてあげる」
 「どんな約束?」
 「みんなで同じ明日を迎えるの。痛みも苦しみもない素敵な世界に――」

 彼女の口から語られた言葉。
 そこに一切の邪念はなく、あるのは人々への祝福だけ。
 しかし、ミスラはそれに首を振った。

 「ダメよ。ぜったい行かせない」
 「それは、私を殺してでも……かしら?」
 「ううん。だって、わたしの願いが先に叶うから」
 「ふふ……そうだったわ。貴方、ワガママだものね」

 唄うように、踊るように。
 ミスラを解放したバテシバは、背中を見せたまま元来た道を戻る。
 くしくもそれは、かつてふたりが袂をわかった光景と似ていた。
 そして、バテシバは部屋の中央に立てかけられた構造物へと触れる。

 「リベルタス」
 『駆動要請承認――』

 機械的な音声が響いた瞬間。
 十字の形をしたそれは、使用者の意思に応えるように淡い光を放つ。

 「ニアは、いつもそうだったよね。わたしがワガママ言うと怒るんだから――ミトロン」
 『駆動要請承認――』
 「勝った方が正しい。それでいいのよね?」
 「うん。だってそれが、わたしたちのママが決めたルールだもの!」

 地上とメタヴァースをめぐる長き争い。
 その行く末を決めるのは、ごくありふれた友との喧嘩。
 互いが思う明日のために、彼女“たち”はその引き金に手をかけた――。




■ 楽曲
┗ 全曲一覧(1 / 2) / ジャンル別 / 追加日順 / 定数順 / Lv順
WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧


コメント

  • 顔がのっぺりしてて怖い… -- 2023-08-30 (水) 05:40:39

*1 RANK15で解放
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