ソロ・モーニア/メタヴァース適応体

Last-modified: 2024-05-13 (月) 20:56:13

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Illustrator:巌井崚


名前ソロ・モーニア
年齢14歳
身分真人の王子

相棒と共に戦場へと向かう真人の王子。
数多の戦いを乗り越えた、彼の瞳は何を映すのか。
ソロ・モーニア【 通常 / メタヴァース適応体 】

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1天地創造【LMN】×5
5×1
10×5
20×1


天地創造【LMN】 [CATASTROPHY]

  • 最もハイリスクハイリターンなスキル。AJペースでも平然と強制終了しかねない。
  • LUMINOUS現在、最もゲージ上昇率の高いスキル。GRADEを上げずともゲージ11本に到達可能。
  • 天地創造【SUN】が存在しなかったため、初期GRADEは天地創造【NEW】のGRADEに依存せず1で固定(育て直し)となる。
    効果
    ゲージ上昇UP(???.??%)
    JUSTICE以下10回で強制終了
    GRADE上昇率
    1360.00%
    2361.00%
    17376.00%
    推定データ
    n359.00%
    +(n x 1.00%)
    シード+11.00%
    シード+55.00%
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係
※イロドリミドリクエスト関連キャラは数が多く入手難易度も非常に高いため、別枠で集計。

開始時期最大GRADE上昇率
2024/4/1時点
イロドリミドリクエストキャラを除く統計
~SUN+25
LUMINOUS
イロドリミドリクエストキャラを含む統計
理論値109
所有キャラ

所有キャラ

  • 期間限定で入手できる所有キャラ
    カードメイカーやEVENTマップといった登場時に期間終了日が告知されているキャラ。
    また、過去に筐体で入手できたが現在は筐体で入手ができなくなったキャラを含む。
  • 特殊条件達成で入手できるキャラクター
    詳しくはチュウニズムクエストの「フェニックスドレス」クエストにて。
    バージョンキャラクター入手方法
    LUMINOUS明坂 芹菜
    /フェニックスドレス?
    チュウニズムクエスト
    (2024/4/1~???)
    清心の戦乙女・アリシアナ
    /フェニックスドレス?
    マイガハラントの王女・ナズーナ
    /フェニックスドレス?
    小さな宮廷魔術師長・ナギーヌ
    /フェニックスドレス?
    王家の懐刀・ナルル
    /フェニックスドレス?
    創造と破壊を司る輪廻の神・
    鳳凰?
    鳳凰の依り代・シローニャ
    /フェニックスドレス?

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
 
1617181920
スキル
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 不安に駆られて「やっぱり俺は、まだまだ子供だ。周りに迷惑かけて、独りで突っ走って……」


 紺青の都市サマラカンダ。
 黄金時代には多くの人間たちで賑わう交流の場として栄えてきた大都市である。
 だが今のサマラカンダに、その面影は欠片も残されていない。
 彼らの代わりに都市を埋め尽くすのは、“死”だ。
 焼かれ、破壊され、砕け散った瓦礫と鉄屑、そして真人たちの亡骸。
 どこまで行っても続くその光景は、都市の中を独り闇雲に進む少年にとっては、余りに“刺激的”だった。

 「はぁ、はぁ……」

 白髪の少年ソロ・モーニアは、爆発音と発砲音が鳴り響く都市区画で、戻るべき道を見失っていた。
 つい先ほどまでは少年と共に行動する仲間たちがいたが、ほんの些細な出来事ではぐれてしまったのだ。

 「何やってんだ俺は……」

 刻一刻と変わっていく状況。そんな中では一度のミスが命取りになる。いくら強力な武器を持っていようと呆気なく命を落とす事になるだろう。
 戦闘による過度な興奮は、感覚を必要以上に鋭敏にする。だが、軍人でもない少年にとっては少々荷が重すぎた。
 精神の疲労よりも先に肉体の疲労が限界を迎えてしまったソロは、目に飛びこんできた柱の瓦礫にすがるように身を隠す。
 「ハッ……ハッ……」と心臓の鼓動に合わせて乱れた呼吸音が耳障りなくらいに響く。
 中々呼吸が整わない中、改めて戦場へ視線を向ける。
 爆発による赤黒い煙霧で戦場は遠くまで見渡せない。
 だが幸いだったのは、今いる場所が主戦場ではない事だった。
 響く戦闘音は、自分の耳を信じるならばいずれもここから少し距離がある。
 ならば、立ち回りに気をつければ生存確率は低くないはず。
 そこまで考えた所で、ソロは徐々に冷静さを取り戻しつつある事に気がついた。

 「今更後悔しても仕方ないんだ。とにかく、今は生き残って皆と合流する事を最優先に考えて行動しろ。ソロ・モーニア」

 自らを鼓舞し、ソロは決心する。
 目指すは、サマラカンダの中心部にある塔だ。

 「ちっ、この煙が晴れてたら、もっと早く合流できるのに……」
 「――そいつは、あまりオススメできねぇなぁ」
 「ッ!?」

 不意にソロの近くで声がした。
 振り向きざまに大型の銃「バラキエル」を構えようとするソロだったが、そこに立っていた男が自分の見知った人物だと気づき、慌てて銃を下げる。

 「ふぅ、間に合って良かったぜ」

 白を基調とした衣服に、何かと個性的な黒髪。戦場で戦うにはいささか華があり過ぎる男――ヨアキム・イヤムルだった。 

 「ヨアキム……どうして!?」
 「俺にとっちゃ、こういう状況は庭みたいなもんさ。戦場慣れしていないルーキーが、どういう行動に出るかなんて……手に取るように分かるってもんよ」

 ヨアキムの視線が自分の背後に注がれている。
 それが意味する所に気づいたソロがハッと目を見開いた。

 「ハッハ、ひとつ勉強になったなぁ! でもまぁ、無事でいて良かったぜ」
 「……ありがとう、ヨアキム」

 これ以上無いほどに頼もしい仲間と合流できたソロは残る仲間との合流を急ぐ。

 「なあ、ふたりは今何処にいるんだ?」
 「俺が行動しやすいよう、先に都市の中心部に向かってもらったぜ。今頃は内部に侵入してる頃合だろうよ」
 「そっか……」

 遮蔽物に身を隠して移動する合間に、ヨアキムがここに来た経緯をざっくりと説明してくれた。

 「ヨアキム」
 「ん、どうかしたか?」
 「俺がゼファーに当たって皆に迷惑かけた事、怒らないんだな」
 「なんだぁ? 俺に叱ってほしいのか」
 「……ごめん」

 下を向いて意気消沈するソロの頭に、ヨアキムはぽんと手を置くと、からかうように髪をくしゃくしゃと乱す。

 「ちょ、何するんだよ」
 「なぁソロ、お前さんが本当に謝るべきは、俺じゃないだろ?」
 「ぁ…………うん」

 ソロは小さく頷いた。

 「ヘヘ、ようし先を急ぐぜ。ここもいつまでも安全ってわけじゃないからなぁ!」
 「ああ、分かった!」

 戦闘はなるべく避けたい。
 艦隊同士の激しい空中戦はもう終わっている。
 地上に脱出した残存部隊が、どれぐらい生き残っているか不明だ。
 移動は迅速に、けれど行軍は慎重に。
 ソロはヨアキムが戦場で培ってきた様々な経験則を教わりながら、サマラカンダの枢へと向かうのだった。


EPISODE2 相棒の背中「ヨアキムは言った、自分の役割を見つけろって。いつか絶対に、俺は自分の道を見つけてみせるよ」


 ヨアキムの危機察知能力はソロの目には凄まじいもののように映った。
 遮蔽物に隠れている敵の気配やおおよその数を察知するのは勿論、音もなく敵へと近づき相手に気づかれる前に対処までしてしまう。
 それをさも当たり前のようにこなす姿は、彼がどれほど過酷な世界で生き抜いてきたかを表している。

 「……すごい」

 ソロの目には、ヨアキムが偉大な戦士に見えた。
 それと同時に思うのは、初めてヨアキムと遭遇した日の事だ。
 もしあの時、ヨアキムが同行者にならずに自分たちの敵として立ち塞がっていたら、今頃どうなっていたのだろうかと。

 「――した、ソロ」
 「え? ……あっ、悪い」
 「ハハ、すっかり気が緩んじまったか?」

 今の内に体を休めておきな、と気楽に言うヨアキムにソロが何か言おうとしたその時、ヨアキムの気配が変わったのがわかった。
 頭を低くするよう手で合図を送ると、遮蔽物の影に身を隠しながら辺りの様子を伺う。
 直後、複数の銃声が鳴り響いた。

 「どうやら激しくやり合ってるみたいだな」

 ヨアキムの見立てでは、上空で戦っていた強硬派の兵士たちが接敵し、銃撃戦を始めているとの事。
 戦闘は船の残骸や瓦礫が少ない開けた場所で行われている。ここを通り抜けるのが最速で中枢へと向かうルートだ。
 だが、ソロを連れたまま直進するのは危険を伴う。

 「それになぁ……妙に嫌な予感がするんだよなぁ」
 「ヨアキム」

 ふとソロがバラキエルを構えて撃つジェスチャーをするが、ヨアキムは首を横に振って答えた。
 結果的にヨアキムは自分の勘を信じる事にし、迂回ルートを進もうとしたその時。
 風に乗って兵士たちの悲鳴が聞こえてきたのだ。
 「ったく、おびき寄せちまったみたいだな、あの白い奴らを」

 煙の向こうでは、真人に襲い掛かる白ずくめの機械兵たちが見え隠れしていた。敵味方構わずに攻撃しているようで、発砲音も徐々に減りつつある。

 「ヨアキム! 後ろからもあいつが!」

 ソロの声に振り返り、瓦礫の上から身を乗り出すと、まるで戦闘に引き寄せられるように機械兵たちがこちらへと集まっていた。
 身を隠してやり過ごせる可能性もなくはないが、更に集まってくればそれも難しくなる。
 ヨアキムが選んだのは――

 「ソロ、あいつらが集まる前に破壊するぞ!」
 「わかった!」

 ふたりは、サマラカンダ突入時に人形たちと戦った経験を活かして機械兵の不意を突く。弱点も把握し、前方から襲い掛かるだけの機械兵に対処するのは容易だった。
 これならいける――ソロがそう思った矢先、背後に物音を感じて振り返ると、そこには壁を乗り越えてきた機械兵が3体見える。

 「くっ、後ろからも!?」
 「ソロ! お前さんの後ろは俺が護る。だから、俺の背中は頼んだぜ!」
 「……っ! まかせろッ!」

 ソロはバラキエルの出力を絞り、機械兵の頭部を狙い澄ます。戦場は刻一刻と変化し、四方からの攻撃に常に警戒しなければならず、その都度判断を迫られて落ち着く暇などない。
 だが、“前方からしか敵が来ない”という状況と自分の背後を“必ず護ってくれる存在がいる”という心強さは、ソロに高い集中力をもたらした。
 結果――ふたりはすべての機械兵を破壊してみせたのだ。
 最後の一体が鉄屑になったのを見届けたヨアキムが、右手をソロへと掲げる。ソロも意気揚々と返し、辺りにハイタッチの乾いた音が鳴り響いた。

 「ハッハー! やるじゃねぇか、ソロ!」
 「ヨアキムが後ろを護ってくれたからな。……でも、ヨアキムは流石だな、あんな数を相手にして無事でいられるなんてさ」

 ヨアキムの背後に広がる機械兵の残骸。
 ソロは3体葬れたが、ヨアキムは倍以上も破壊していたのだ。
 相手が近接戦しかできなかったとはいえ、その腕前には舌を巻く。

 「俺も……いつかヨアキムみたいになれるかな」
 「んー、悪いがそいつぁ無理だな」
 「え?」
 「俺の戦闘技術は、生き死にが掛かった戦場で培ってきた生の技術だ。いくら疑似記憶として頭に詰めこんだとしても、その引き出しに鍵が掛かってるようじゃ使い物にならねぇのさ」
 「……」
 「ま、気にすんな。俺には俺の、ソロにはソロの役割があるのさ。それによぉ、俺ぁできる事ならお前さんには俺と同じ道を歩いてほしくないんだよ」
 「ヨアキム……」
 「分かったら先を急ぐぜ、“相棒”」

 そう言うとヨアキムは、ニッと笑って親指を立てた。

 「ああ!」

 ふたりが戦場を迂回しようと歩を進めるその時。

 「――互いを信頼しあうその姿、実に素晴らしい」
 「ッ!?」

 唐突に辺りに男の声が響いた。
 ふたりの視線の先には、燃えるような赤い髪に鋼のごとき肉体を持つ男が立っていたのだ。

 「これは天命か? この混沌とした戦場で君達に巡り会おうとは」

 その口振りは、どこかソロとヨアキムの事を知っているように見える。

 「こいつぁ……参ったな」
 「知ってるのか、ヨアキム」
 「まぁな。軍に身を置いた事がある奴なら誰でも知ってる。あいつはサルゴン、強硬派指導層の一角を担う男だ」


EPISODE3 赤き凶兆「クソ! どいつもこいつも自分の事ばかり!」


 ソロとヨアキムの前に現れたのは、強硬派の一派閥を率いる男サルゴン・フェルネス。
 その名に少しだけ引っかかりを感じるソロだったが、今は記憶の糸をたどるよりも、この男の動向に意識を傾ける必要がある。
 彼は数名の部下を引き連れているが、自分は武器も持たずにただそこにいた。それなのに、他者を圧倒する程の存在感が、ビリビリと肌に伝わってくる。

 「私を知っているとは。流石は元督戦隊隊員ヨアキム・イヤムル殿だ」
 「へへ、光栄だねぇ、こんな傭兵崩れの名前まで覚えててくれるなんてなぁ。じゃ、ついでと言っちゃあなんだが、俺たちを見逃してくれねぇか?」
 「フ、それは出来ん相談だ。私は、君の後ろにいる少年――ソロ・モーニアに用があるからな」
 「――っ!」

 咄嗟にバラキエルを構えようとするソロだったが、それよりも早くサルゴンの兵たちの銃口がソロを捉えていた。

 「くっ……お前も、カイナン側なのか?」
 「カイナンは我々が処罰する。だが私はヴォイドにも与しない。我々は、我々の利益のために動いている」
 「だったら、好き勝手やればいいだろ。俺になんの関係がある」
 「あるさ。少なくとも君は、今の混沌とした状況を覆す因子になり得るのだから」
 「因子?」
 「この戦いは、既に逆賊を討つ戦いではなくなった。そして、覇を競うものでもない。君の母――バテシバに連なるものを継承する戦いなのだ」
 「俺の、母さんだって?」

 強硬派の将から母の名を聞くと思っていなかったソロは明らかな動揺を見せる。それをサルゴンから隠すようにしてヨアキムが前へ進み出た。

 「へぇ、つまりはだ。あの軍神ともうたわれたサルゴン殿は、ソロを次の支配者に担ぎ上げて、裏で操ろうって腹積もりか?」
 「フ、柔よく剛を制すと言ってもらいたいものだ」

 含みのある物言いをサルゴンは一笑にふす。

 「そいつは、あんたの“格”が落ちるってもんだぜ」
 「無論、承知の上だ。我が剣たちは既に失われた……ならば、その死に報いねばならんのだ」
 「都合の良い言葉ばっか並べてるけどさ、つまりお前たちは戦争がしたいだけなんだろ? そんな奴らに言われて、大人しく仲間になるかよ!」
 「ほう、中々に気概がある。これは手を回した甲斐があったようだ。君は着実に王の器として成長している」

 手を回した。その含みのある言い方に、ソロはいぶかし気な視線を送る。

 「どういう事だ、いつ俺がお前の世話に――いや……そうか、思い出したよ」

 ソロの脳裏に、ある日の記憶が蘇る。
 それは、ゼファーと共にオリンピアスコロニーを脱け出したばかりの頃、エフェスコロニーで小型船を奪取しようとした時に衛士から尋問にあったのだ。
 その時、答えに窮するソロたちに助け舟を出してくれたのが、サルゴンの部下を名乗るナディンという男だった。

 「そうだ、オリンピアスやエフェスでの事が全て自分たちの力で乗り越えられたと思っていたか?」
 「全部……わかってやってたのかよ」
 「いわば私は、君の命の恩人でもあるわけだ」

 ヴォイドにカイナン、そしてサルゴン。
 強硬派の指導者を名乗る者たちの結束は、外からは強固に見えていたが、その実際は余りにもバラバラでまったく違う方を向いている。
 ソロは、この男の底知れなさに不気味なものを感じていた。

 「……ひとつ教えてくれ」
 「何かな?」
 「あんたは、この世界をどうしたいんだ」

 それは、サルゴンの行動の核心を問うものだ。
 変化を一度たりとも逃すまいと、ソロは一切視線をそらさずにサルゴンの瞳を見つめている。
 すると、サルゴンは「ほう」とだけ呟くと、思いもよらぬ事を口にした。

 「すべては、神への反逆だ」
 「神……?」
 「真人が神たる機械種、ひいてはシステムによって管理されていたように、我々は真人エイハヴの実験で造り出され、そして破棄された」

 握られた拳の力が強まるように、サルゴンの言葉尻も強く鋭くなっていく。

 「その我々が弑逆者(しぎゃくしゃ)となり、神に連なりし真人とシステムを滅ぼす。その暁に、我々が新たな世界を創造するのだ! 全ては、旧き血の洗礼によって!」

 兵士たちが呼応するように、右腕を掲げる。
 熱狂する男たち、執念に燃えて爛々と輝くその瞳に、ソロはサルゴンたちの本質を見た。

 ――こいつも、“破滅”を望んでいる、と。

 カイナンにバテシバ、そしてサルゴン。
 破滅から生まれ、破滅を求め彷徨い続ける。
 彼らが望む未来に、絶対に明日は訪れない。
 分かり合う事などできるはずもない。
 相いれぬ者たちから離れるように、ソロがゆっくりと後ずさる。
 それに呼応するように、ヨアキムが叫んだ。

 「御高説どうも!」

 男たちの声をかき消すように、ヨアキムの陽気な声が重なった。

 「なるほどなぁ! それでこんなチビッ子を大の大人たちが付け回すとはよぉ。とんだストーカー野郎がいたもんだぜ!」

 あえて挑発するような言葉を選びながら、ソロを自分の背後に隠していく。
 そして、後ろ手に追い払うような合図をする。
 まるで「自分が囮になる」とでも言うように。

 「ふざけるな! ヨアキムだけ置いていくなんて、できるわけないだろ!?」
 「って、おいソロ! 自分から言う奴があるか!?」
 「フ、中々愉快な連中だ」

 一緒に逃げる逃げないでもめ始めたふたりに、小さく笑う。

 「だがそれで今の状況が変わるとは思えないが」
 「ハハ、確かにそうかもしれねぇ……」

 「構え」とサルゴンの指示に従った兵士たちが、ヨアキムへと銃口を向けようとしたその時――

 「だがこいつはどうだ!」

 その僅かな隙を狙っていたかのように、ヨアキムがその場で身体をひねり、何かを投擲した。
 その何かは綺麗に兵士たち目掛けて飛来し、即座に反応した兵士たちに迎撃される。目の前で砕けたのは小さな瓦礫片だった。
 その一瞬の判断が、ヨアキムたちに更なる反撃の機会を与える。
 ヨアキムがひねった反動を利用しながら、その場で低くしゃがみこむ。それと同時にバラキエルを最大までチャージしていたソロが、引き金を引いた。

 「――何!?」

 バラキエルの光がサルゴンたちへと向かう。
 背後の状況には目もくれず、ヨアキムが発射の反動でわずかに身体が浮いたソロを抱きかかえると、後方へと全力で駆けだす。
 光の着弾と同時に、後方から凄まじい勢いで爆風が上がった。

 「やったな、ヨアキム!」
 「ったく、冷や冷やさせやがってよぉぉぉ!! 俺が機転を利かせてなかったら、今頃ふたりであの世行きだったぜ!?」

 脇に抱えたソロに向かって叫ぶヨアキム。
 だが、当の本人は彼の訴えに耳を貸すつもりはないようだ。

 「別にいいだろ、危機を切り抜けられたんだから」
 「そうだがなぁ!」
 「それよりも! お前、俺だけ逃がして死ぬつもりだっただろ!?」
 「ハッ、心外だぜ! 俺があれくらいの人数でくたばるようなヤツに見えてたなんてよぉ!」

 くだらない口論を繰り返す内に、ふたりは戦闘を回避しようとしていた広場へと躍り出る。強硬派が対立していた戦場は、機械兵の乱入によって既に決着がついていたのか妙に静かだ。
 だがヨアキムは、今も戦場に漂う空気にひりつく何かを感じていて――

 「やばいぜ、ソロ。こいつぁ……」

 言うよりも早く、その答えが立ちこめる煙の向こうから現れる。
 風で煙が流れた先には、あの顔の無い機械兵が待ち構えていた。だが、脅威はそれだけではなく。

 「げ、あいつは……ッ!!」

 いち早くそれに気づいたヨアキムが、苦々しい悲鳴を上げる。
 釣られてソロが見上げた先にいたのは――瓦礫の上に腰かけ、ぼんやりと爆発音がした方角を眺めていた男、ロト・トゥエルヴだった。

 「――ぅわ……ぁっ!」

 ソロの絞り出すようなうめき声が届いたのか、ロトもこちらに気づいたようだ。風になびく赤髪からチラチラ見え隠れする瞳が、大きく見開かれていた。

 「きたーーー!! ソロくーーーんんっ!!!」
 「最……っ悪だぁぁぁ!!」

 嬉々とした反応を見せるロトに、ソロはヨアキムから離れて着地すると、立ち上がり様にバラキエルを構えた。
 続けて引き金を引くが、先ほど最大限で放ってしまったせいで、まだリチャージが間に合っていない。

 「クソ……ッ!!」
 「酷いなぁ~~っ! せっかくの感動の再会なのに、いきなりそれ~~!?」
 「引き返すぞ、ヨアキム!!」
 「……いや、そいつはちと難しいようだぜ?」
 「は? 何を言って――」

 その時、空気を震わせるような雄たけびが上がった。

 「逃がさんぞ! ソロ・モーニアッ!!」

 振り返れば、そこには傷だらけのサルゴンがこちらに向けて駆けている。
 バラキエルによってその身体には火傷の痕跡が見えるが、致命傷には至っていないようだ。
 おそらくは、彼が装着している装甲がダメージを軽減したのだろう。

 「ク……ッ、しぶとい!」

 サルゴンに加え、人形の群れと共にいるロト。
 前門の虎、後門の狼とは正にこの事だ。
 ソロとヨアキムは、再び混沌とした状況へと巻き込まれてしまうのだった。


EPISODE4 無邪気で、邪悪「どこまで行っても追って来る……俺とあいつは交わる運命だっていうのか?」


 「ったく、次から次へと!」
 「あれれー、酷いなぁ。このハチャメチャな戦場で出会えたのに……もっと喜んでよ♪」
 「俺は、お前に構ってる暇はないんだよ!」
 「アハ、あのお姫様の事がそんなに気になる?でも、もう間に合わないと思うけどな~」
 「お前達は帰還種を使って何をする気だ」
 「知りたい?」

 眉尻を下げてくつくつと笑うロト。
 その表情からは、ついさっきまで戦闘していたとは思えないほど、底抜けに明るかった。

 「じゃあ、俺様と遊んでくれたら教えてあげる♪」
 「ああもう、話につき合った俺がバカだった!」
 「じゃれ合ってる場合じゃねぇ! 逃げるんだよぉぉソロォォッ!」

 ヨアキムが再びソロを抱えて走り出した。

 「あ! まだ俺様の話は終わってないのに!」

 ロトの横をすり抜け、ふたりはサマラカンダの中枢へと急ぐ。そのふたりの後ろを、少し遅れてサルゴンが続いた。

 「え~~何これ? 面白そう! どっちと遊べば良いのかなぁ? やっぱり、どっちも遊びたい!」

 ロトはぱちぱちと両手を叩いて快哉を叫ぶ。
 そして、背後に控えていた機械兵たちに指示を飛ばした。

 「さあ“セロたち”! あの3人を追いかるよ!」

 一方その頃。
 戦場を駆け抜けたソロとヨアキムは、中枢塔付近まで戻ってきていた。

 「ハハ、人気者だなぁソロ!」
 「あんなのに好かれても嬉しくない! どうしてどいつもこいつも戦いたがるんだ!」
 「さてなぁ、人にはそれぞれ戦う理由ってやつがあるもんなのさ――っとぉ?」

 中枢へと近づいた証拠なのだろう。
 ふたりのゆく手を阻むように、機械兵が立ち塞がった。

 「もしかしたら、こいつらにも理由があるのかねえ」
 「いや、こいつらは……」
 『ソロ・モーニア……』

 不意に、機械兵たちがソロの名を口ずさんだ。

 「こいつ、喋れんのか!?」
 「ああ、こいつらはセロ。元・真人だ」
 「はぁ? 機械の身体に自分を移したってのか?んな事が……」
 『ぞんざいだな、ソロ。何も知らぬお前に真実を教えてやったのは我々だというのに』

 真ん中の一体が、ギシギシと関節を鳴らす。
 他の機体も追随するように一言一句同じ言葉を紡ぎ始めた。

 『我々は一にして全、全にして一』

 顔の無い機械兵は、真人セロ・ダーウィーズが造り出した量産型の半自動人形である。
 これらにはセロが複製した自身の意識情報がインプットされていて、それぞれがある程度の独立した思考を有す。

 「何が全にして一だ、俺にはお前が操りやすいよう、出来損ないを造ったとしか思えないぞ」
 『物事を円滑に進めるためには必要なのだ』

 ピ、ギギと掠れたような合成音声が響く。
 まるで、こちらの神経を逆撫でする事まで考えて造られたかのように、その声はどこまでも不快だ。

 「そうまでして何がしたいんだ、お前たちは!」
 「――決まってるでしょ? 母さんにこの世界を終わらせてもらうんだよ♪」
 「ロト……!」

 パチパチと手を叩いて、ロトが笑いかける。
 その頬には、さっきまでついていなかった血が、べったりと付いていた。

 「な……まさか、お前」
 「あのサルゴンって人、無茶苦茶強くてビビったよ。あれだけ怪我してたら楽に倒せると思ったのにさぁ……俺もつい本気になっちゃった♪」

 ロトは真っ赤に染まったナイフを摘まんで遊んでいる。その意味は、もはや口にするまでもない。

 「お前は……ッ! 自分が楽しければ、
それでいいのか!?」
 「違うよ♪」
 「は……何を言って」
 「これはね、母さんのためなんだ♪」
 「母さんのため?」
 「あれ、ソロくんには見えてないの? 母さんが」
 「えっ」
 「母さんにさぁ、笑ってほしいでしょ? 喜んでほしいでしょ?」

 ロトは眼帯をトントンと叩く。
 まるで、そこにいるよとでも言うように。

 「俺様の世界は、母さんのためにあるんだよ♪」

 くるくると踊りながら、ロトは嗤(わら)う。
 想像を絶した言葉に、ソロもヨアキムも二の句を継げずにいるのだった。


EPISODE5 あの日の決意「俺はもう逃げない。ヨアキムとゼファーとミスラと、一緒に生きていくんだッ!」


 既にこの世を去った母を笑わせるために、自分という存在がある。
 楽しそうに振舞っているのも、母のため。
 自分が今生きていられるのも、母のおかげ。
 すべては、母――バテシバのためにあると、ロトはそう言っているのだ。
 その願いが、母に届く事は一生ないというのに。

 「お前は……どこまで……」
 「さあさあ、遊ぼうよソロくん、いや――父さん」

 もうお話は終わりだとでも言うように、ロトは瞬時に戦闘態勢へと入る。
 それは、構えも取らずに繰り出された高速の一撃。
 だが、じゃれようとソロに突き出されたナイフは、すんでの所でヨアキムが取り出したナイフによって防がれていた。

 「ざんね~ん!」
 「……えっ?」

 ソロは、自分の直ぐ近くにまでロトが迫っていた事にまったく反応できていなかった。

 「下がってろ、ソロ!!」

 ヨアキムに押される形で、ソロは尻もちをつく。

 「こいつは、正気じゃねえ!」
 「酷いなぁ~お兄さん! 俺様は至って正気だよ?ほらほらほら!!」

 立て続けに繰り出される刺突。
 そのいずれも、当たれば致命傷は避けられないような鋭い攻撃だ。

 「チィ……ッ!!」

 だがヨアキムはそのすべてを払いのけてみせた。

 「やるじゃん! やっぱり俺様の勘に狂いはなかったよ♪」
 「クソ、この野郎……ッ! ソロォォ!! 早く行けぇぇ!!」
 「……ぁ」

 ヨアキムはロトを見据えたまま、ソロへと叫ぶ。
 その必死な姿を見れば、それだけ目の前の男がいかに危険かが分かる。
 少しでも隙を見せれば、いつでもその喉元にナイフが突き立てられるだろう。
 ソロの手には、バラキエルがある。
 引き金を引けば、ロトを倒せるかもしれない。

 「アハハ! それで撃ってみる? もしかしたら俺様を殺せるかもしれないよ? でも、イカしたお兄さんも死んじゃうかもねぇ~!」

 ヨアキムの反撃をかい潜りながら、ロトはソロを挑発し続ける。
 ロトが近接戦を継続しているのは、バラキエルを警戒している事もあるのだろう。
 ロトは眼帯で片目を覆っている。それに加えてサルゴンとの戦いの傷も癒えていないというのに、恐ろしいまでの集中力だった。

 「……っ」

 ソロは躊躇した。
 ヨアキムを置いて逃げるか、ミスラたちのもとへと向かうか――二つに一つ。
 耳障りなロトの笑い声に紛れてヨアキムの悲痛な叫びが木霊する。

 「……ぐあッ!?」

 腹部にナイフが突き入れられていた。
 ロトがひねるようにナイフを回転させ、最小の動きで最大限の痛みを与えていく。
 ヨアキムが2歩、3歩と後ろへとたたらを踏んだ。
 その隙を逃すまいと、ロトが一歩踏み込み、勢いを増していく。

 「あれ? もうお終い?」
 「さっきからよぉ……うるせえんだよッ!」
 「アハ、まだまだ元気だねぇ♪」

 ヨアキムは連続攻撃をどうにかいなし、反撃する。
 だがこちらが少しでも勢いづくと、ロトは少しだけ距離を取り、獲物の勢いを削いでしまう。
 こういった戦いは、やはりロトに分があるようだ。

 「どうして……」
 「ソロォォッ!! 早く! 行けってんだよぉ!!」

 ヨアキムはがむしゃらに叫ぶ。
 恐怖に身がすくむソロに、一心不乱に叫び続ける。
 腹部の一撃が効いているのか、その動きにはキレがなくなり始めていた。

 「どうしてそこまで、するんだよ……ッ!俺なんかのために、命を張って……ッ!」

 気づけば、涙で前が見えなくなっていた。
 ヨアキムはずっと、自分の傍にいてくれた。
 こんな自分のために。すべてを投げうって。

 「決まってん、だろうがッ!!」

 全力でロトの一撃を弾き、ヨアキムは叫ぶ。

 「俺がお前を! 信じてるからだッ!!一緒に……行くんだろ!!」

 ソロの顔に、ヨアキムの血しぶきが飛んだ。
 そうだ。初めて出くわしたあの時、約束したのだ。

 一緒に、北の地へ行くと――

 「……ああ、そうだ! 俺たちは、こんな所で終わら“ねぇ”んだよッ!!」
 「ソロ……?」

 力強く叫んだソロに、ヨアキムはつい後ろを振り返ってしまった。
 それをロトが見逃すはずもなく、一息に距離を詰めていく。

 「これで、母さんも喜んでくれるよ!!」

 その時、ソロの見ていた世界は、やけに時間が遅く感じられた。
 その中をロトが真っ直ぐに、ヨアキムへと向かっていく。血塗れのナイフが、下から上へと正確に喉へと伸びる。
 だからこそ。
 ソロにもその軌道を読む事ができたのだ。

 ――!!

 何かがぶつかる音と、瞬時に立ちこめる血の匂い。
 ソロは、ヨアキムを庇うようにロトの前へと進み――自分の腕でナイフを受け止めたのだ。

 「……え?」

 ソロがそんな行動に出るとは全く思っていなかったのだろう。ロトの顔から笑顔が消え、珍しいものを見るような目で、ソロの行いを見つめていた。
 そして、再び口元が歪むよりも早く――ロトの顔へとソロの全力の拳が叩きこまれた――!


EPISODE6 しばしの休息を。「ロト……お前は、そうまでして母さんの願いを叶えたいのか!? お前は、それでいいのかよ!」


 母さんみたいな、反抗的な目だなと思った。
 だけど、大した力もないし、自分に噛みつけるわけもない。ましてや、絶対に自分を殺せるわけがない。
 ただ怯えて、うずくまるだけの子供だよね。
 そう勝手に思いこんでいたロトにとって、ソロの反撃は完全に予想外だった。
 拳を諸に喰らってからも思考が回っていないロトは、立ち尽くしたままぼんやりとソロに笑いかける。

 「アハ……ソロ、くん――――」

 そこへ、死角から飛びこんできたヨアキムの蹴りが突き刺さった。
 身体をくの字に折り曲げながら、ロトは後方の瓦礫へと吹き飛んでいく。
 そして、振り向き様にヨアキムが叫んだ。

 「撃てえええぇぇぇッ!!! ソロォォォッ!!!」
 「ぁ――ッ! バラキエルゥゥゥゥッ!!!」

 ソロはリチャージが終わっていたバラキエルの銃口をロトが吹き飛ばされた方角へと、最大火力で放出した。
 白き光の奔流は、真っ直ぐに瓦礫の山へと向かい――そこにいるロトを飲みこんだ。
 閃光の形にぽっかりと開いた穴の後には、何も残されていない。ただ、周りの瓦礫が連鎖して崩れる音が響くだけだ。

 「はぁ、はぁ……痛……っ、くぁぁぁ!?」

 興奮で昂っていた感覚が、波がひくように薄れていく。後に残るのは焼けるように強烈な腕の痛みだけ。
 バラキエルを持つ腕が、痛みで震え始めていた。
 早く、このナイフを抜かなければ――
 そう考えてソロが手を伸ばした瞬間。

 「こんの……バカ野郎がッ!!」

 痛みにこらえながら振り返ると、鬼のような形相のヨアキムがこちらへと歩いていた。

 「どうして行かなかったんだ!」
 「あ、ハハ、良かった……ヨアキムが、無事で……」
 「良ぃわけあるかよッ!! あんな無茶な事しやがってよぉ!! 見ろぉ! 腕が血だらけじゃねぇか!!」
 「こ、こんぐらい平気だって……ヨアキムの方が、血だらけで……」
 「アァ? こんぐらい、どうって事ねぇのさ!ほら、見せてみな!」

 ソロの返事も待たずに、ヨアキムはソロに応急処置を施していく。必死なヨアキムの横顔は、自慢の髪がぐしゃぐしゃに垂れ下がっていてよく分からない。
 だからソロは、空いているもう片方の腕で、ヨアキムの髪を持ちあげてやった。

 「ん……どうした?」
 「いや、なんか違うなって思ってさ」
 「違う? ああ、逃げるかどうかって事か」

 ヨアキムは黙ってしまった。自分の衣服を切り裂き、ソロの血がこれ以上流れないように腕をグルグル巻きにしていく。
 そして、すべてを終えたあとで。

 「……っぐ、ぅぅ」
 「ヨアキム!?」
 「ハ、なぁに大した事ねえ。俺ぁ戦闘に特化した真人だ、少し寝ればどうにかなる」
 「すぐバレるような嘘を言うなよ! 今度は俺に任せてくれ!」

 複数個所から血が溢れる腹部を強く抑え、ヨアキムの腕ごとぐるぐると巻いていくソロ。汗と血のせいか、視界がやけににじんでくる。

 「……なぁ、ソロ」
 「ん?」
 「さっきの言葉ぁ、俺の真似でもしたのか?終わらねえってよ」
 「あれは……なんで言ったのか俺にもわからない。多分、そうした方が俺を押し出してくれるって思ったんじゃないか」
 「は、なんだよそれ。でもまぁ、嬉しいねぇ……」
 「それに、言っただろ。ヨアキムだけ置いてくなんてできるわけないって」
 「言ったっけか、そんな事」

 とぼけたようにヨアキムは返す。

 「ったく、忘れるなよな! ヨアキムには、俺とゼファーとミスラを、北の地に連れてくって約束もあるんだからな」
 「そうさなぁ……そいつを忘れちゃいけねぇな」
 「ああ。だから、こんな戦いさっさと終わらせて、みんなで、行こう……あれ、クソッ、汗でうまく見えない」
 「ハハ、ソロ……そいつぁ、汗じゃねぇ。ただの、涙だぜ……」
 「ヨアキム!? おい、ヨアキム!!」
 「わりぃ、少し休むわ」

 ソロは、急にうずくまって動かなくなったヨアキムの肩をつかんで身体をゆすった。

 「何やってんだよ! まだ俺の話は終わってない!」

 溢れてくる涙も拭わずに、ただゆすり続ける。
 どれだけ動かしただろうか。不意にソロの耳に微かな声が聞こえてきた。

 「――――ぇ」
 「ヨアキム!? やったか――」
 「――うるせぇ! 大人しく眠らせてくれ! しかもお前、いま“やったか”とか言おうとしただろ!?いや、言ったよな!?」

 痛みもなんのその、目を見開いたヨアキムの剣幕に押され、ソロはたどたどしく答える。

 「あぁ……だって、こう使うんじゃないのか?」
 「そいつはなぁ、仲間に言うもんじゃねぇっての!」

 裏返った声のまま、ソロの頬をつねり上げた。

 「い、いって、痛いって!」
 「いいか? 俺は寝るっつったんだ、俺の身体の事は俺が一番分かってる! だからお前さんは――」
 「――――ぁああああああ!!!!」

 突然、辺りにつんざくような音が鳴り響いた。
 それは、瓦礫の方から聞こえてくる。
 最初はただ、何かの装置が誤作動を起こしたのかと考えたソロだったが……やがてその音の正体に気づき、警戒するようにバラキエルを構えた。

 「……嘘、だよな?」
 「ハッ、ほら言った事か……蘇っちまったじゃねぇか地獄の底からよぉ」

 次の瞬間、積み上がった瓦礫の一部が吹き飛んだ。
 それがグシャッと地面に落ちて砕けるのと同時に――ロト・トゥエルヴが瓦礫の中からゆらゆらと立ちあがっていた。


EPISODE7 過去の人間「過去に引きずられて、未来を生きようとする皆の邪魔をするんじゃない!」


 「あはは――聞こえない、聞こえないよ……母さんの声が……見えないよ……どこにいるの、母さん……!」

 瓦礫から顔を覗かせたロトは、誰にともなくそう叫ぶと、瓦礫から這いずるようにして転がり落ちてきた。
 ロト・トゥエルヴは、生きている。
 本当に幽霊なのではと、あり得ないものを見るような目で様子を伺っていたが、これは紛れもない現実だ。

 「あれを喰らって生きていた……? いや、違う。腕の痛みで、俺の狙いがずれてたのか――」

 あの時の恐怖が頭を過ぎる。
 ロトは仰向けになったまま、ただ声を発するだけだったが、迂闊に近づけば何をするか分かったものではない。

 「おいソロ……あんま近寄るんじゃねぇぞ」
 「ああ、分かってる。ただ、確認しない事には安心できない」

 恐る恐る近づく内に、ロトの状況が分かるようになっていく。
 ロトの身体は、とても満足に動かせる状態ではなくなっていた。

 右腕は、バラキエルの直撃を受け肘の先から綺麗に消し飛んでいた。そして、左脚は瓦礫に押し潰された影響か、まともに動かせていない。
 そして驚愕すべきは――眼帯を被せていた部分だ。
 そこには、あるはずのものが収まっていなかった。
 いや、あるにはあるが、それはおもちゃのような雑な造りの義眼だったのだ。
 彼の右眼は、最初から何も映していないのだろう。

 「お前……それで今まで戦ってたのか……?」

 片目での戦闘がどれほど困難なものか、想像に難くない。
 こんな規格外のヤツと戦っていたのかと思うと、ソロは背筋に冷たいものを感じざるを得なかった。

 「そうだよ――父さん」

 ロトは急に叫ぶのを止めて、まだ見える方の眼でソロを見ていた。辛うじて動く身体で、ソロの方へと這いずる。
 そして、こいねがうように口を開く。

 「ねえ……母さんが何処にもいないんだ。父さんなら分かるかなぁ?」
 「……っ」

 ロトは、こんな状況だというのに笑おうとしていた。
 けれど、かつてのような無邪気な笑い顔をうまく作れていない。
 すると、これじゃダメだと呟いた。

 「母さんが、笑ってくれなくなっちゃう……どうしよう……どうしよう……」
 「お前は、そこまで――」

 この男を突き動かしているのは、狂信だ。
 サルゴンとは違う、純然たる狂気。
 会った事もないだろう母親、バテシバへの歪んだ想いが、ロト・トゥエルヴを突き動かしている。
 ならば、この男を止めるには――バラキエルを握る腕に、力が入った。

 「なぁ、ソロ」

 その時、咎めるような声がソロの後ろから聞こえた。
 ヨアキムが、瓦礫にもたれかかりながら、穏やかな声で語りかける。

 「背負う気、なのか?」
 「ヨアキム……ああ」
 「あは……父さん……それで、俺様の事……殺してくれるの? 嬉しいなぁ……」

 ロトがくつくつと笑おうとして、痛みに喘いで苦しそうにこちらを見ている。その眼に浮かぶのは、懇願だ。
 彼は、血のつながりを持つソロに、最期をくれと願っている。最初で最後の、プレゼントをだ。
 ソロは確かにバテシバと血の繋がりがあり、それと同時にロトとも繋がりがある。共に歪んだ実験の果てにこの世に目覚めたふたり。
 では、彼を安らかにしてやれるのもまた、自分なのだろうか――。
 ソロは、おもむろにバラキエルをロトへと向けた。

 「これで、母さんにも会えるよね? ちゃんと母さんに、謝らなくちゃ――」

 ロトは目を閉じた。もう見る事のできない母の幻に、これでまた会えるかもしれない。
 そう思いながら、訪れる死の瞬間を鮮明に記憶しようと、今か今かとその刻を待つ。

 だが――その刻は、いつまでも訪れなかった。

 不思議に思ってロトが確認しようとした刹那、不意に頭に柔らかな感触を感じて目を開く。

 「こんなもんでいいか」
 「え……何を、してるの?」

 ソロが、ロトの頭部に包帯を巻いていたのだ。
 その包帯は、ヨアキムに巻いてもらった腕の包帯を切り取ったもので、あまり清潔と言えるものではない。

 「どう、して?」
 「俺が、お前を喜ばせるような事をすると思ったか?バカ」

 ふたりは、さっきまで殺し合っていたような間柄だ。
 なのに、ソロがトドメを刺す気になれなかったのは、もうひとつ、自分でも分からない何かがあった。
 これが血のつながりに起因するものだと言うのなら、きっとそうなのだろう。
 「ほら、これでいいか」とロトの頭を小突くと、ソロはロトの身体を起こしてやった。

 「なあロト、お前の腕を吹き飛ばした俺が言うのは筋違いだけどさ……もう過去に囚われるのは、止めにしないか」

 淡々と、穏やかに語る。
 このじゃじゃ馬が大人しく自分の話に耳を傾けてくれている今しか、彼を止める手立ては無い、これを逃せばチャンスは二度と訪れないと、自分に言い聞かせながら。

 「俺も、お前も、サルゴンもヴォイドも、母さんに関わる奴はみんなそうだ。そして、多分母さん自身も。みんな、過去の人間に操られてるんだよ」
 「だって……俺様には、母さんしかいないんだよ?止めろって言われても、わからないよ」
 「そうか、お前はずっと母さんの事しか……」

 ロトの総ては、母を喜ばせるためのものだ。
 主軸が自分にはない、だから本当の意味で“自分のために”という考えに至れないのだろう。

 「この戦いが終わったら、その時に考えてみたらいいんじゃないか?」
 「終わったら? 母さんの願いが叶ったら……どうせ考える必要なんて、なくなるのに」
 「終わらせるかよ」

 ソロはロトの下を離れた。
 最後に「分からなくなったら、また遊んでやるよ」とだけ言い残して。

 「大丈夫なのか、あいつは」
 「あのまま放っといても問題ないだろ。それに、これ以上あいつに構ってる場合じゃない」
 「ったく、どこまでもしぶとい野郎だぜ……」
 「それ、そっくりそのままヨアキムに返すよ」
 「ハ、ちげえねえ……」

 ソロはヨアキムを担いで中枢へと向かう。
 その時、何かを踏んづけた気がして、足元を見る。
 それは――粉々に砕けた金色のアクセサリーだった。


EPISODE8 男同士の約束「何もかも全部片付けて、帰ってくる。だから――」


 ロトとの激戦を制したソロが、中枢へと向かおうとした時だった。

 「わりぃなぁ……ソロ。やっぱ限界だわ。先に行っててくれねぇか?」

 ヨアキムの戦闘の疲れが、今頃になってピークに達してしまったらしい。当然、ソロは敵地のど真ん中にヨアキムだけを置いていく事を拒んだ。

 「お前、バテシバの願いとやらを止めたいんだろ?だったら、今できる最善を尽くせ」
 「けど……」
 「ま、戦闘音も聞こえねえし、あそこで突っ立ってる人形共も、さっきから一切攻撃してこねえだろ?」
 「そういえば……確かに」
 「つまりだ。これはもう俺たちの“足止め”をする必要がねぇって事なんじゃねぇか?」
 『――その通りだ』

 ふたりの会話に割って入ったのは、顔の無い機械兵。
 やはりヨアキムの指摘通り、事は彼らにとって都合の良い段階へと移行していたのだ。

 『もはや、ここを護る必要もない』

 ふてぶてしく耳障りな声で言った機械兵は、それきり一言も喋らなかった。

 「だろ?」

 ヨアキムは、動く方の腕で「シッシッ」と追い払うように手を振り続ける。

 「さっさと行って来な、ソロ・モーニア」
 「……分かった。なあヨアキム、この戦いが――」
 「おいてめぇ! まーたそんな縁起でもない事言いやがってよぉ! さっさと行けったら行け!」
 「分かった、分かったから!」

 ソロは、ミスラたちの下へと向かう前に「じゃあ、また」とヨアキムへと拳を差し出した。
 ヨアキムは小さく笑うと、拳をちょこんとぶつける。

 「「約束だ」」

 それだけで、ふたりには十分だった。
 もう数え切れないぐらい、ふたりは同じ時を過ごしてきたのだから。

 ――
 ――――

 「へへ、行っちまったなぁ……」

 こんなに波乱万丈な旅路になるとは思ってもみなかった。
 適当に生きて、妥当な所で死ぬ。それが俺の……余生だったのに。
 誰かに語りかけるでもなく、しみじみと呟くと、ヨアキムは薄暗くなりつつある都市を眺める。
 ここはまるで、死者の帝国だ。
 世界は既にバテシバの願いが叶った後で、外にはもう生きている者などいないかもしれない。
 おぞましい光景を想像するだけで、ふつふつと暗い考えが頭をよぎってしまう。
 ヨアキムはそれらの考えを振り払うように首を振ると、おもむろに立ちあがってソロとは反対の方向へと歩き出す。

 「あとは、お前さんたちに託したぜ」

 片足を引きずって遠ざかっていく。

 「約束破っちまって悪ぃな、ソロ。でも、こんな姿をお前さんには見せたくねぇのさ」

 そんなヨアキムの足取りを追うように、床には大小様々な赤い花が点々と咲いていた。
 ふと、後ろ髪を引かれたような気がして、背後を振り返る。

 「じゃあな、ソロ。お前さんとの旅は……最高に楽しかったぜ」

 男に行くべき宛てはない。
 ただ、暗闇の中へと溶けるように消えていく。
 自由を求めた男の背中は、どこか儚げで。どこか楽しそうだった。




■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧


コメント

  • ヨアキム😭 -- 2023-12-14 (木) 16:46:06

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