【キャラ一覧( 無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE / NEW / SUN / LUMINOUS )】【マップ一覧( SUN / LUMINOUS )】
[添付]
Illustrator:miya*ki
名前 | バテシバ・アヒトフェル |
---|---|
年齢 | 不明 |
職業 | 人類を痛みも苦しみもない世界へと導く聖女 |
- 2024年4月25日追加
- 1UM1N0U5 ep.111マップ7(進行度1/LUMINOUS時点で255マス/累計525マス)課題曲「Ultimate Force」クリアで入手。
ついに電子の楽園に顕現した、世界に素敵な明日をもたらすもの。
抗うは、真人の王子と帰還種の少女。
─────最後の戦いが始まる。
バテシバ【 アヒトフェル / ニア・バテシバ / ???????? 】
※隠しマップネタバレ配慮の為、当面は3人目のバテシバの名前を非表示とする。
スキル
RANK | 獲得スキルシード | 個数 |
---|---|---|
1 | 天地創造【LMN】 | ×5 |
5 | ×1 | |
10 | ×5 | |
20 | ×1 |
天地創造【LMN】 [CATASTROPHY]
- 最もハイリスクハイリターンなスキル。AJペースでも平然と強制終了しかねない。
- 天地創造【NEW】と比較すると、同じGRADEでもこちらの方が上昇率が10%高い。
- LUMINOUS現在、最もゲージ上昇率の高いスキル。GRADEを上げずともゲージ11本に到達可能。
- 天地創造【SUN】が存在しなかったため、初期GRADEは天地創造【NEW】のGRADEに依存せず1で固定(育て直し)となる。
効果 ゲージ上昇UP(???.??%)
JUSTICE以下10回で強制終了GRADE 上昇率 1 360.00% 2 361.00% 17 376.00% 推定データ n 359.00%
+(n x 1.00%)シード+1 1.00% シード+5 5.00%
プレイ環境と最大GRADEの関係
※イロドリミドリクエスト関連キャラは数が多く入手難易度も非常に高いため、別枠で集計。
開始時期 | 最大GRADE | 上昇率 |
---|---|---|
2024/4/1時点 | ||
イロドリミドリクエストキャラを除く統計 | ||
~SUN+ | 25 | |
LUMINOUS | ||
イロドリミドリクエストキャラを含む統計 | ||
理論値 | 109 |
所有キャラ
- CHUNITHMマップで入手できるキャラクター
※1:該当マップ進行度1の全てのエリアをクリアする必要がある。
Ver マップ エリア
(マス数)累計*1
(短縮)キャラクター LUMINOUS ep.Ⅰ 5
(255マス)575マス
(-?マス)ソロ・モーニア
/メタヴァース適応体※1??? ?
(???マス)???マス
(-マス)????
/????????※2
※2:特殊な条件下での解禁が必要。(ネタバレ配慮の為、当面は非表示)
- 期間限定で入手できる所有キャラ
カードメイカーやEVENTマップといった登場時に期間終了日が告知されているキャラ。
また、過去に筐体で入手できたが現在は筐体で入手ができなくなったキャラを含む。- マップが撤去されたキャラクター
バージョン イベント名 キャラクター LUMINOUS イベントマップ
『KING of Performai The 5th』アストライア
/審判の炎
- マップが撤去されたキャラクター
- 特殊条件達成で入手できるキャラクター
詳しくはチュウニズムクエストのイロドリミドリメンバー関連クエストにて。
ランクテーブル
1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
スキル | スキル | |||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
スキル | ||||
11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
16 | 17 | 18 | 19 | 20 |
スキル | ||||
21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
スキル |
・・・ | 50 | ・・・・・・ | 100 | |
スキル | スキル |
STORY
ストーリーを展開
EPISODE1 青き系統樹「この電子の楽園は、俺には分からない事が多すぎる。 でも、もう考えてる場合じゃないんだ」
電子の楽園メタヴァース。
それは、かつて滅亡の憂き目にあった人類が築き上げた理想郷である。
この理想郷では、誰もが皆幸せを享受し、永遠にも近い時を過ごす事ができるのだ。
だが、ヒトという種は、姿を変え、場所を変え、そして命の在り様すら覆しても、決して変わる事のないものがあった。
“人は人を害する”。
程度に差はあれど、選ばれた人類の末裔にあたる新人類——帰還種であっても、その呪縛からは 逃れられずにいる。
出自、環境、対比。
社会的な生き物であるヒトは、形を変えて姿を現すそれらの呪縛から影響を受けざるを得ないのだ。
では、その呪縛から解き放たれる方法はあるのだろうか。
その答えを知る者は今、電子の楽園に福音をもたらそうとしていた。
——
————
バテシバを止めるべく、メタヴァースへと向かったソロとミスラ。
サマラカンダの中継地点からメタヴァースの中枢である基幹システム付近へと転送されたふたりが見たのは、想像していた楽園からはかけ離れた世界だった。
「どうなってるんだ、これ……」
ここには、現実世界にあるはずの表面くテクスチャ>が無かった。
あるのは、縦横に果てしなく続く青紫色のグリッド 線だけ。それらは山のように盛り上がっている所もあれば、底の見えない穴を形成している所もある。
加えて、今も緩やかに形を変えていて、まるでそれ自体が生きているかのようだった。
ぽっかりと開いた穴に落ちたらどうなるのだろう。そんな考えを抱くだけで、ソロは得体の知れない恐怖を感じていた。
「ミスラはここで育ったんだよな?」
「わたしも初めて見たわ。わたしがいたガーデンは、もっと白くてキラキラしてて、まぶしいところだった」
「それって……もしかしてあれの事か?」
ソロが指さした方角には、遠くの空に浮かぶ球体がある。
「ええ、きっとそうよ!」
「きっとって、あれが故郷なんだろ?」
「うん、外から見たらこんなふうになっているのね。不思議だわ!」
今の気持ちを表すように、ミスラはソロの背を超えるくらい高く飛び跳ねる。
「行ってみましょ! あそこに!」
着地と同時にそう叫んだミスラは、球体に向かって駆け出した。
「あっ、おい! 本当に大丈夫なのかよ!?」
「大丈夫!」
ミスラはソロの問いかけにも止まらず走っている。
距離感がつかみにくいこの世界では、あの構造体がどれほどの大きさなのか推し量る事は難しい。
たどり着く時間は一瞬かもしれないし、一生かかっても無理かもしれなかった。
だが、いずれにしてもソロたちに許された時間は限られている。行動しながら考えるしかないのだ。
ソロがミスラの後を追ってグリッドの果てへと向かおうとしたその時、辺りに何かを擦るような甲高い音が響き渡った。
「ミスラ、何か来るぞ!」
引き返してきたミスラと合流し、ソロは周囲に神経を張り巡らす。
音の出所は複数あり、距離感がつかめないせいで正確な位置も数も分からないが、着実に距離が縮んでいる事だけは分かる。
ソロは腰に下げたバラキエルを取り出そうとし――伸ばした手はそのまま空を切った。
「しまった、ここは……」
現実ではない電子の世界。
ミスラの手を借りてどうにか自分のアバターを構築したソロは、バラキエルまでは再現できなかったのだ。
慌ててミスラを見やると、彼女はミトロンによく似た弓を構えている。不甲斐なさを覚えつつも、彼女の背後だけは護ろうと拳を構えた。
そして、音の群れが最大限に達し――
「上だ……ッ!」
ソロが声を上げたのとほぼ同時、ソレはふたりの死角である上空から姿を見せた。
近くで響き渡る爆音に顔が歪むのを堪えながら、ミスラを抱えて横っ飛びに避ける。
直後、ふたりがいた場所に何かが着地し、盛大なスキール音を奏でながら停止した。
「ッ……とんだ洗礼だな」
「見て、ソロ!」
ふたりから少し離れた所に、ソレはいた。
平坦ではないグリッドの大地をものともせずに走行できる、ふたつに連なった大型の前輪。淡い桃色の光に照らされた、青く滑らかな流線形の車体。
ソレは、軍隊の運用にも耐え得るような大型のトライクだった。
トライクの搭乗者である人物――鎧をまとう女性型のアバターは、手にした大剣をソロたちへと向け、声高に叫んだ。
「まだ残っていたか、侵入者よ!」
「侵入者? 違う! 俺たちは――」
「あなたたちを助けに来たの!」
「……? 理解不能。何が言いたい」
「えっとね、わたしたちは」
「待て待てミスラ。ここは俺が説明する!」
時折、横槍が入るミスラの突飛な発言を補佐し、ソロはメタヴァースへとやって来た経緯を説明した。
「そうか、君達はこの事態に対処するために」
事情を理解してくれた女がトライクから降りる。
続けてソロたちの前まで歩み寄ると、非礼な態度を取った事を謝った。
「私は、メタヴァースの防衛を司るプログラムアバター・ペンデュラム隊の者だ」
姿勢を正して敬礼する姿は、自らプログラムと名乗るだけあり、どこか機械的だ。
「プログラムアバター……? アイザックたちのメタヴァース版みたいなものか。ペンデュラム隊って言ってたけど、他にも仲間がいるのか?」
ペンデュラム隊の女が、おもむろに片手を上げた。
すると、山なりになっていたグリッドの裏から、女と同じ装備の隊員たちが姿を現す。その数は、たったの4体。
防衛部隊というには、その人数は余りにも心もとなかった。
「な……これだけ」
「他の仲間は、突如出現した白い女と交戦した。 その結果、ほとんどの仲間が散っていったのだ」
「白い女だって!?」
ペンデュラム隊の女が追加で並べた特徴は、ソロたちの知るバテシバと酷似していた。
「君達は、その女を知っているのか」
「ああ。俺たちは、その女を、バテシバを止めるために来たんだ!」
「そうか。なら話は早い」
隊長格の女は、隊員のトライクに乗るよう促した。
「事情は移動しながら説明する。我々についてきてほしい」
「ねえ、バテシバはもしかして、あそこに居るの?」
ミスラの視線の先には、球状の構造体がある。
女は「そうだ」と首肯すると、再度トライクに乗れと急かした。
「嘘だろ、あの浮いてるヤツにバイクで行くのか?」
「あれは浮いているわけではない。この世界は、君達の認識、つまり現実の世界の法則と根本的に異なっている。そして、“道”ならここにある」
女がそう言い切った途端、辺りの光景が「ブンッ」と音を立てて“ブレ”た。
気づけば、青紫色のグリッドから構造体に向かって長大なグリッドが出現したのだ。
それは、メタヴァースを縦横無尽に駆け巡る事ができる、系統樹のごとき青き道だった。
EPISODE2 グリッドライン攻防戦「あはは、楽しいわソロ! もっともっとここで遊べたらいいのにね!」
ペンデュラム隊が操縦するトライクの背に乗り、ソロとミスラはメタヴァースの中心部にある球体——基幹システムを目指していた。
青く光り輝く道は、彼女たちが移動用に使う高速通信通路グリッドと呼ばれ、メタヴァース内で異常を検知した際に真っ先に急行する事ができる。
背後を振り返ったソロは、ペンデュラム隊と遭遇した場所が一瞬で彼方へと消え、見えなくなっている事に気づいた。
「いったい、どうなってるんだ……?」
「すごい! これならすぐに追いつけそう!」
「はしゃぎ過ぎだぞミスラ! こんな所から落ちたらどうなるか分かったもんじゃないぞ!?」
並走するトライク越しに会話するふたり。
超高速での移動で、装置もなしに会話する事などできるはずがない。だが、それを可能とするのが電子の楽園メタヴァース。
現実の世界では決して体験できないような不思議な出来事の数々は、ふたりの認識を瞬く間に書き替えていく。
グリッドを進むペンデュラム隊の車列は、隊長格の女を先頭に、ソロとミスラを乗せたトライクが2台、その後方を護る形で2台続いている。
基幹システムへの道のりは順調だ。
だが、後方に位置するペンデュラム隊の女が何かを発見した事で状況は一変する。
「後方に、変異体の反応有り!」
「来たか!」
女の声に振り返ってみると、グリッドの通路脇から黒い塊が次々と飛び乗ってきていた。青黒いトライク、装甲と大剣で武装した女たち。
それは、くすんだ色のペンデュラム隊だった。
「アレは仲間じゃないのか!?」
「敵性反応、すなわち敵だ!」
ソロを乗せたトライクを操縦する女が言った。
彼女たちは、突如出現したバテシバによって、攻性のプログラムに変異させられた仲間たちだと。
それらに攻撃される度に、ひとつ、またひとつと数を増し、瞬く間にペンデュラム隊を脅かすほどの群れに膨張したのだ。
彼女たちは本来、治安を維持する存在。それゆえに、天高く伸びたグリッドの道に引きつけられているのだろう。
既に、ペンデュラム隊との物量差は圧倒的だった。
「本当に、大丈夫なのか?」
「無論、想定済みだ」
ペンデュラム隊が後方へと何かを投射する。
小さな球体のソレは、通路に落ちる直前で六角形の青く透き通った板に変化したかと思うと、一瞬で放射状に同じものを広げ――フラクタル構造の障壁になった。
行く手を阻む障壁に変異体は次々と衝突し、グリッドの道から脱輪していく。
だが、すべての追手を撃退できたわけではない。
後列にいた変異体たちは仲間を土台に見立て、障壁を大きく飛び越えたその時、トライクの車輪にミスラが放った矢が突き刺さる。
変異体は衝撃でバランスを崩し、眼下に広がるメタヴァースの空に散っていった。
「感覚がつかめてきたわ!」
何度も矢を射ながら、感覚という名の調整を繰り返すミスラ。放たれる矢にミトロンほどの出力はないが、相変わらず精度は抜群だ。
「くっ、俺にも何かできれば……ッ」
ただ護られる事しかできないソロには、この状況はもどかしい。まるで、自分という存在がメタヴァースにとって異物だと突きつけられ、拒絶されているように感じられた。
『箱の中にいる自分を想像する』。ミスラはあの時、そのような事を言っていた。
この電子の世界に降り立つために、ソロはミスラの手を借りてアバターを構築している。
身体の維持はできているが、適度にミスラと手をつないで“充電”できなければ、自分という存在が揺らぎかねないのだ。
ソロが歯がゆい想いをする一方、先頭を往くペンデュラム隊の女が皆に呼びかけた。
「見えてきたぞ、基幹システムだ!」
女の声にソロとミスラも前方へと向き直る。
「――は? なんなんだ、これ……」
驚愕で目を剥くソロの瞳に映っていたのは、ひとつの“宇宙”だった。
中心部となる恒星を取り巻くように、無数の衛星が周囲に浮かんでいる。それらはペンデュラム隊が放った障壁のように、フラクタル状に並んでいた。
今、自分たちは人知を超えた領域に踏みこんでいる。
そう感じさせるだけの威容が、そこにはあった。
「きれい――」
ミスラがほう、と息を漏らしたその時、「ぐあん」と何かが揺れるような音が響く。
音がした方向を見てみれば、グリッドの道に大きな穴が開いていた。間一髪で避けるペンデュラム隊。
だが、後方の2体は回避が間に合わず落下してしまった。
新たな攻撃手段? それとも――
「この反応、探査プログラムか!」
「まだなんかいるのか!?」
「そうだ。本来はメタヴァースの混沌領域を調査するプログラムだが――」
「おい、次が来るぞ!」
言うが早いか、星空を背景に浮かぶ変異体が無差別にグリッドの道に突撃を仕掛けていく。
探査プログラムと呼ばれた変異体は、機械のような翼を持つアバターだった。彼女たちは超高速で突き進むペンデュラム隊を狙うよりも、彼女たちが進む道自体を破壊する方が効率的だと判断したようだ。
翼を器用に操り、道に体当たりを仕掛けて穴を開け、流星のように弧を描いて旋回すると再び飛来する。
上下左右から現れる変異体の群れを、障壁やミスラの 矢だけで対処するには困難だった。
次の瞬間、道は粉々に砕け、崩壊する。
その時、先頭を進む隊長格の女が右手を掲げた。
続けて車体が前方にくるように全身を傾ける。
ソロとミスラを乗せたトライクも同じように車体を傾け始め――
「しっかり掴まれ!」
「ぅ――うわああああぁぁぁ!!」
ペンデュラム隊たちが、グリッドに対して直角になる角度で何も見えない暗黒の空へと飛翔した。
EPISODE3 名も無き戦士たち「この世界が落ち着きを取り戻せたら、いつかまたミスラと一緒にあんたたちに会いに来るよ」
まばゆい輝きを放つ基幹システムを上空に見ながら、勢いよく遠ざかっていくソロたち。
遥か底にはグリッドの地表があるはずだが、均等に区切られた青紫色の線は一向に見えてこない。
風や重力といった感覚も曖昧な空。
それは、永遠にも感じられる滑空だった。
暗闇に飲みこまれる。そんな不安をソロが抱いたのも束の間、トライクが突然目の前に現れたグリッドの道に着地した。
「あはは! とっても楽しかったわね、ソロ!」
「こっちは生きた心地がしな――うおっ!?」
ソロが言い終わる前に、トライクが急加速する。
「掴まっておけ」
「追撃が来るなら、同じ事の繰り返しになる。 あいつらに勝つ策はあるのか?」
「ない」
「おい!」
「我々がイレギュラーに対処するのは限界がある」
「限界って言っても、なんとかするしかないだろ」
ソロの突っ込みに冷静に対応すると、女は「そこでだ」と切り返す。そして、トライクは徐々に速度を落としていき――分岐点の前で停止した。
すると、ペンデュラム隊のひとりがトライクから降り、ミスラに自分と交代するよう告げる。
「まさか、あんたたち」
「これを君達に託す。我々が囮になっている間に、基幹システムへと向かうんだ。この距離なら、奴らが反応する前にシステムに乗りこめる」
それが最適解だ。隊長格の女は最後にそう結んだ。
彼女たちがそう判断した以上、話が覆る事はない。ならば、最も可能性が高い方に賭けるほかなかった。
嬉々としてソロが腰かけるトライクに跨るミスラ。
「運転ならまかせて!」
「乗った事ないだろ! ったく、それと……ここまでしてくれてありがとう。ペンデュラム隊の……あれ、あんたたち名前はあるのか?」
「我々に個体名などない。あるのは識別番号だけだ」
「じゃあ、わたしがつけてあげる!」
そう言うとミスラは3体の識別番号にちなんだ名前をつけ始める。最初、ペンデュラム隊も困惑した反応を見せていたが、結局はミスラに押し切られてしまった。
そして、3体はソロとミスラに敬礼すると、分岐した道を猛スピードで突き進んでいった。
「わたしたちも行きましょ!」
「ああ」
ソロはトライクの端をつかんで発進を待つ。だが、いつまで経ってもトライクは動かない。文句を言おうと口を開きかけたその時、後方へと伸びてきたミスラの腕がソロの手首を鷲掴みにし、そのまま自分のお腹の辺りで交差するように引っ張った。
態勢は自然とミスラの背中にぴったりとくっつく形になってしまって――
「お、おい、止めろって……!」
「ちゃんとつかまってないと、落ちちゃうわ」
「いや、だって……」
消え入りそうな声で抗議するが、視線が泳いでしまう。
ここが現実の世界じゃないのは分かっている。だが、人は目に映るものを捉え、目に映るものがすべてだと信じてしまうもの。
「掴まれるわけないだろ」だなんて、ソロには口が裂けても言えなかった。
基幹システムへと続くグリッドの道を、ふたりを乗せたトライクが突き進む。ミスラは感覚だけで操縦を理解したのか、一瞬で手足のように操ってみせた。
今のところ、進路上に問題はない。
ペンデュラム隊の囮が功を奏しているのか、変異体が襲ってくる気配もなかった。
基幹システムの中心部までは、もう少し。
果てしない道のりも、トライクのお陰で順調だ。
張りつめていた緊張が途切れたソロは、基幹システムの周りで衛星のように浮かぶ星々を眺める。
鮮やかな光を放つそれらは、時々交信でもしているのか、キルル、ハララと等間隔に明滅を繰り返す。
ソロは、あの星々のひとつひとつに誰かが住んでいるのだろうかと、ぼんやり考えていた。
その時、ある考えが浮かぶ。
「ミスラ」
「んー? なにー?」
「俺たち、飛んでるな」
「ぁ――、うんっ!」
ぱぁっと弾むようなミスラの声が返ってきて、ソロは小さく笑うのだった。
――
――――
ふたりは、ついに基幹システムがある構造体の入口にたどりついた。
この超構造体は、太陽のように強い輝きを放っているにも関わらず、不思議と眩しさを感じない。
直進するほどに光は弱まっていき、次第に内部構造が分かるようになった。
そして、開けた場所に出た矢先、ソロは目の前の光景に唖然とする。
「巨人でも暮らしてるのか、ここは?」
上にも下にも果ての見えない光の柱が続く。
それを取り巻くように、人が何十人も横に並んでも歩けそうな螺旋階段が緩やかなカーブを描いていた。
「この辺りに見覚えはあるか?」
ミスラは少し考えたあと、「いいえ」と首を横に振った。
「わたしたちが育ったガーデンは、お城みたいなところだったわ」
「それって、サマラカンダみたいな感じか?」
「うーん、そうかも!」
「本当なのか、それ?」
しばらくの間、果てしなく続く階段をトライクで駆け上がっていると、何かが転がっている事に気がついた。
「ミスラ、止まってくれ」
停車したトライクから飛び降りたソロは、何かへと駆け寄る。それは、白を基調とした衣服をまとう――人間だった。
何度か呼びかけてみたが、動きはない。
うつ伏せのまま動かない身体を起こして意識を確かめる。
人間は、ミスラより5歳ほど若く見える少女だった。
彼女の表情は苦悶に満ちたまま硬直している。
進行方向から察するに、上からここまで逃げてきたのだろう。
「この子は……帰還種なのか?」
「……うん」
上の様子を確かめるように視線を上げていくと、同じように倒れている人間たちの姿が視界に入った。
こんな事をやってのけるのは、バテシバ以外にいるはずがない。
「行こう、ミスラ」
倒れたままま動かない帰還種の子供たちは、階段を登るたびに増えていった。
そして、ついにその時が訪れる。
ふたりは基幹システムの中心部――荘厳な雰囲気をまとう白亜の神殿へとたどりついた。
神殿は非常に精緻な造りをしていて、細部に至るまで左右対称だ。それは神殿の入口へと続く階段も同じで、8の字を描いている。
「ただいま! ここがガーデンよ、ソロ」
過去を懐かしむように目を細めるミスラ。
だが、今は望郷の念を抱いている場合ではない。
階段の上に倒れ伏す帰還種たちを後目に、トライクで長い長い階段を駆け上がり――神殿の扉の前へとたどりつく。
扉は半開きのままだ。何の音も聞こえてこないが、内部の状況は決して良いとは言えないだろう。
急速に焦燥感と緊張感が増していく中、ふたりは神殿の内部へと踏み入るのだった。
EPISODE4 母と子「この世界に未練がある者たちが、私の未来を閉ざす。 だから、迷える皆の代わりに私が導くのよ」
「ニア!」
神殿内部に入ってから程なくして、ふたりはニア=バテシバに追いついた。
「ふふ、まだその名を呼ぶのね。ミスラ」
ミスラの声に反応したバテシバが、前へと進む足を止めて勿体ぶるようにゆっくりと振り返る。
彼女は、一本の長剣を携えていた。
「――あら」
ふとバテシバの視線がミスラからソロへと移る。
上下する瞳に何か物色されているような気がして、ソロは不安と敵意がない交ぜになった視線を返した。
睨み返された事に気づいたのか彼女の瞳はわずかに揺らいだが、すぐに閉じられてしまって、もう一度確かめる術はなかった。
やがて、バテシバは歌でも唄うように何度も少年の名を口ずさんだ。
「ソロ……ソロ、ソロ。そう……貴方が、ソロ・モーニアね?」
「初めまして、って言えばいいかな。バテシバ……いや、母さん。まさか……本当にこうやって話ができるなんて、思わなかった」
絞り出すようなソロの声に、絆や愛情などといったものは見受けられない。
「ふふ……」
それはバテシバにとっても同じだった。
ニアが持っていたソロの記憶がなければ、彼女にはソロの容姿すら分からなかったのだから。
とはいえ、実の子であるソロの出現は、彼女にとっても予期せぬもの。
変わらず穏やかな笑みを浮かべてはいるが、どこかこちらの出方を伺うような気配があった。
「セロは……判断を誤ってしまったのね」
不意に、鋭い眼差しがソロへと注がれる。
侮蔑、失望、嘲笑。いずれも実の子へと向けられるものではなかった。
「それで、ミスラと一緒に私(わたくし)を止めにでも来たのかしら?」
たったあれだけのやり取りで、バテシバはソロへの関心が薄れてしまったようだ。
ソロは「そうだよな」と、心の中で独り言ちる。
いくら血のつながりがあるとはいえ、端から期待値がゼロだったら何も変わりようがない。
そんな事は、最初から分かっていた事だ。
「ああ。“あんた”の願う世界は来やしない」
「ふふ……そう。でも、私の願う未来が来なかったとして、残された世界で生きる人たちは、本当に幸せな未来を歩めるのかしら」
「幸せかどうかを決めるのは自分自身だ。 あんたじゃない」
「心持ちだけで、辛く苦しい未来が変えられる? 抗えるだけの力も持たない人たちを救えるのかしら」
貴方も、私と同じ境遇だったのでしょう。と、バテシバはソロに問いかけた。
「……そうだな。俺だって、全員を救えるなんて思ってないさ。今すぐすべての人間を救済できる、なんて思い上がってる救世主に比べればな!」
ソロの脳裏に幼き日々の記憶が蘇る。
真人の繁栄という名目の下に、研究者たちの好きなようになぶられてきた。その度にソロは理不尽な世界に憤りを覚えたし、己の境遇を強く恨んだりもした。
母も同じような経験を重ねてきた事への理解や同情が芽生えているのも確かだ。
だが、それでも。
ソロには、母の選択だけは支持できなかった。
「あんたがしている事に、俺は正しさを見出せない。 あんたが憎まれる側に回ったら、あいつらと同じになるじゃないか。痛みも苦しみもない世界? そんなの生き続ける限り、あるわけないんだよ!」
「世界は、あるわ」
バテシバは小さく笑う。
「それには、みんなが“同じ”になる必要があるの。 例えば……そこにいるミスラのように」
「わたし?」
「同じって、どういう事だよ」
ソロの問いには答えず、自身の足元で蹲ったまま動かない帰還種を指さす。
「帰還種の真実を、教えてあげるわ」
バテシバは、訥々と語り始める。
大地の継承者となる、帰還種の真実を。
EPISODE5 生きるという“呪縛”「避けようがない痛みなら、その器を 消し去ってしまえばいい。ほら、簡単でしょう?」
「貴方たちは、帰還種がどういう存在か知っていて?」
バテシバに問われたソロは、彼女の眼差しに導かれるように隣に立つミスラへと視線を移し、アイコンタクトをとる。「それぐらい、分かるよな?」 とでも言いたげな眼で。
だがミスラは首を少し傾けるだけで何も答えない。
「……ん?」
「帰還種が何かって話だよ」
「わたしはわたしだよ?」
にぱっと笑うミスラ。
彼女にとってはそれが答えであり、すべてなのだ。
「確かにミスラはミスラだけど……そうじゃなくて」
「ふふ、お似合いね」
「はぁ?」
飛び跳ねるように身体を反応させたソロは、ミスラの代わりにまくし立てるように答えた。
「帰還種はメタヴァースの中で育った人類だろ?」
「そうね。でも、それは正解でもあり間違いでもあるわ」
人を煙に巻くような、フワフワとして曖昧な物言い。
自分から振っておいて勿体ぶるバテシバに、痺れを切らして続きを急かす。
「だったらなんなんだ」
「帰還種は、メタヴァースのすべてを司基幹システムが造り出した新たな人類。でもそれは、システムが地上を管理する上で都合よくデザインされた存在でしかない」
バテシバは言った。
帰還種もまた、システムによって造り出された真人と同様、思考を調整された存在であり、どちらも本質的に変わらないのだと。
「私は、エイハヴたちが遺したデータから、様々な事を学んだわ。真人と機械種、旧人類と帰還種、そしてメタヴァースに行き着いた。帰還種を初めて見た時、私は思ったの。ああ、この子は歪んでいるって」
バテシバはミスラを通して、彼女ではない誰かを見るかのように朗々と語り続ける。
「ここの子供たちもそうよ。ヒトが抱く負の側面には蓋がなされ、正の側面ばかりが顕在化している……生まれながらにして方向性を定められた子供たち。 そんなの、歪でしょう? だから、私が変化を促してあげようと思うの」
「促す……?」
「かつて真人が感情を制御されていたように。 帰還種から“心と感情を取り除いて”あげるのよ」
胸の前で指と指を重ね合わせたまま、少女は無邪気な顔で残酷を謡う。
“生きる”という選択は、常に痛みを伴うもの。
それは“呪縛”として様々な形で姿を現していく。
出自、環境、対比。
常にそれらの呪縛に苛まれ、壊れていくのならば“個”を殺すか、初めから受容体である“心”を持たなければいい。
それこそが、痛みも苦しみもない、誰もが平等で誰もが幸福でいられる、新たな人類のカタチなのだ。
「何も感じない。何も思わない。ヒトが本来持ち合わせる生物としての機能を全うするだけでいい。 素晴らしい世界でしょう?」
「俺たちに、動物……いや、“人形”になれっていうのか!?」
「受け取り方はそれぞれね」
「そんな事、できるわけない! 心や感情を完全に取り除くなんて、そんなの、神にでも――」
ソロはハッとした顔になり、二の句が継げずにいる。
無邪気に笑う女が、何をしようとしているのか気づいてしまったから。
「そう、神ならできる。この世界を統治する機械仕掛けの神――基幹システムなら」
その時、バテシバの指が指揮をとるように優雅な手つきで空を切る。次の瞬間、辺りで倒れたまま動かなくなっていた帰還種の子供たちが一斉に立ち上がった。
「まだ生きて……いや、違う。操ってるのか?」
「そろそろ行くわ。舞踏会にいつまでも主賓がいないのは、おかしいでしょう? ソロ、ミスラ、世界を書き換えたら、ちゃんと遊んであげるわ」
バテシバは、自身が操る帰還種の向こうへと消えた。
直ぐに後を追おうとするソロとミスラだったが、帰還種の子供たちは彼女を護るように立ち塞がってくる。
子供たちの目は虚ろで、誰一人として正気を保っている者はいなかった。
ひとり、またひとりとソロたちへ向かって歩きだす。
背後からも子供たちが迫っていた。
「させるかよ!」
ソロは身体の軸を変えて子供たちをやり過ごす。
重心の低い者は飛び越え、次々と突っこんでくる子供たちをかわしながら神殿の奥へと向かう。
後方にいた最後のひとりを避けたその時、不意に自分の名を呼ぶミスラの声がした。
「ソロ!」
振り返った矢先、眼前へとミスラの愛弓「ミトロン」を模したものが視界一杯に飛びこんでくる。
ほぼ真っすぐな放物線を描いて飛んできた弓を、背中を反らしながらつかみ取った。
「あ、危ないだろ! どうして俺に――」
振り返り際にミスラに不満をぶつけようとするソロだったが、当の本人は自分から遠ざかっていく。
すぐ近くには、彼女の後を追いかける子供たちが続いていた。
いくらバテシバに操られているとはいえ、同胞である帰還種に矢を向けるわけにはいかなかったミスラは、ソロに自分の武器を託し、引きつける事にしたのだ。
「それが、つれていってくれるわ!」
彼女はそれきり何も言わず、神殿内部の柱の裏へと姿を消してしまう。
「……ったく」
ただ、何を言いたかったのかは伝わった。
ミスラに託された弓を握りしめ、神殿の奥へと急ぐ。
母がもたらそうとする福音が、世界を包みこむ前に。
EPISODE6 その手が掴むのは「皆が自分の意思で笑って、自分の意思で立ちあがれるこの世界を、俺は絶対に奪わせない!」
ソロは、電子の世界の中心部にして、すべてを司る基幹システムが鎮座する中枢へとたどり着いた。
円形に造られた部屋は神殿の内部にある。だがここは室内であるはずなのに、部屋の外周には色とりどりの煌びやかな光が瞬く宇宙が広がっていた。
あれはミスラと共に見た宇宙なのか、あるいは別の宇宙か。答えは分からなかった。
そして、部屋の真ん中には床と天井とを結ぶ巨大な柱がある。柱の中心部に向かうほど緩やかにくびれていて、その最も細い所では青い輝きを放つクリスタルのようなものが浮かんでいた。
彼女――ニア=バテシバは、今まさにそのクリスタルへと手を伸ばそうとしている。それこそが、基幹システムのコアに当たる部分なのだろう。
「追いついたぞ、バテシバ!」
「そう、遊びたくて仕方がないのね……ふふ」
手を止めて振り返ったバテシバは、ソロを見て笑いこそすれ、焦る様子はない。
「それで、貴方ひとりで私を止められるのかしら」
そう言うと、バテシバの手が再び空を切る。
刹那、彼女の周りに大小様々な影が現れた。
「ッ!?」
帰還種を呼び寄せたのかと身構えるが、それらの影は人型であって人間ではない者たちで構成されていた。
「基幹システムには、膨大な生命を記録し保全するアーカイブとしての役割がある。その中から私が貴方に相応しい相手を選んであげたの――『行きなさい』」
「くっ……ッ!?」
命令に従い、ソロへと襲い掛かる影の群れ。
ソロは弓を構えて光の矢を射るが、弓を使った経験に乏しいソロと影の群れとでは多勢に無勢。
ましてや、未だに地上にいる感覚で戦うソロには、物理法則を無視して動く影たちに対応しきれず、抵抗も虚しくあっさりと組み伏せられてしまった。
「ふふ、あっけない」
「畜生……俺は、独りじゃ何もできないのか……」
腕が複数ある影に身体を拘束されたソロの前に、大きな鎌を持った影が立ち塞がる。
身体がミスラと離れ離れになっていたせいか、既に掠れ始めていた。電子の世界で自己を自己として認識する力が弱まっているのだ。
「貴方がここで死ねば、誰よりも先に私の願う世界に行けるかもしれないわね。おめでとう、ソロ」
「ハッ、そんな世界……こっちから願い下げだ!」
「そう」
バテシバは人差し指を立てて指揮棒を振り下ろす。
同時に振り上げられた鎌がソロの左肩から右腹部へと振り下ろされ――ソロは消滅した。
残されたのは、人の形に淡く光る残像だ。小さな火花が散るように、何度もパチパチと瞬いている。
やや遅れて、ミスラから託された弓が床に転がった。
「さようなら」
実の子の消失にも表情を変えず、バテシバは穏やかに微笑んだまま。
そして、踵を返すと優雅な足取りで基幹システムの方へと引き返していくのだった。
――
――――
昏く淡い空間がどこまでも広がる世界で、俺は目を覚ました。
「――俺は……どうなったんだ……」
辺りを見渡してみると、地平線の向こうまで赤や青の線だけが続いていて、景色は何ひとつ変わらない。
それどころか、痛みもなければ重力も感じなかった。
「ああ、そうか。ここが……」
ここが、母さんが望んだ世界。
なんとなく、そう感じた。
「ついさっきまで母さんと戦っていたのが嘘みたいな静けさだ」
静けさと、揺らぎのない世界。
こんなに穏やかでいられるのは、初めてだった。
痛みも、苦しみもない。
誰かに傷つけられる心配もない。
水面は常に一定で、心は一切波立たないだろう。
確かに、これはすごく心地がいい。
人形になってしまえば、自分の位置が上下する事もないし、みんなは常に平等だ。
「……」
でも、こんな時。
あいつなら、なんて言うんだろう。
あいつは――揺らぎのない世界でも笑うのかな。
「……」
俺は頭の中であいつが笑わない世界を想像した。
けど、どれだけ想像しても、次々と勝手に浮かんでくるのは、あいつの笑顔だけだった。
あいつは、いつも笑っていた。初めて会ったあの日から。何があっても。どんな時でも。
もし母さんの願いが叶ったら、あいつの顔から笑顔が消えてしまうのかと思うと、何故か自分の事のように苦しくなる。
「……っ」
ああ、そうか。
これは違う。違うんだ。
だって、どうしようもないくらい、こんなにも“寂しい”だなんて。
俺には、耐えられない。
右手に力が入る。ふと、俺は手のひらの中に何かがある事に気がついた。
「なんだこれ……?」
それは、小さくて青い光を放つ箱だった。
胸の前まで持ってくると、それはふわりと浮いて――
『ひとりじゃないわ』
箱がそう言った気がした。
俺は、温かさを感じた箱へと手を伸ばし――触れた瞬間、箱は小さなミスラに変わっていた。
「えっ?」
手のひらぐらいの大きさのミスラの手が、俺の指に触れる。俺の指を握ったまま、笑顔で言った。
『わたしが、つれていってあげる』
ああ、そうだ。
ここはメタヴァース、電子の楽園なんだ。
自己の認識で自分も、世界も変わる。
「だったら、俺が望んで手放さない限り、俺は……死にはしないッ!」
俺の意志に呼応するように、次々と青い箱が浮かびあがる。それはどんどん増えて――消えかかっていた俺を形作っていく。
ミスラは再び箱に姿を変えて、俺の右腕とひとつになった。
「これが、俺の力……?」
『行こう、ソロ。あなたのお母さんを止めに』
俺は、力強く頷いた。
――
――――
「ん……今の光は、なにかしら?」
それは、ソロが消滅してから、ほんの一瞬の出来事であった。
基幹システムに向けて歩き始めていたバテシバは、急に背後で起きた現象が理解できず、動けずにいた。
自然消滅するかに見えた光の明滅は、眩いばかりの光を放っている。
様子を伺っている間にも、青く瞬く光は激しさを増し、母に悪戯を仕掛けてはしたり顔で笑う子供のように主張を繰り返す。
すると、光の明滅の中から無数の青い箱がいくつも出現したのだ。やがて、箱はバテシバが知る人物へと姿を変えていく。
「まさか……ソロ……?」
「――ああ。帰ってきたぜ、母さん」
青き光を放つ右腕――ガントレットを握りしめ、ソロ・モーニアが電子の楽園へと再臨した。
EPISODE7 ひとりじゃない「ソロ、わたしがどこかに行っちゃったら、そのときはあなたがわたしを見つけてね」
消滅したはずのソロの復活を目の当たりにし、バテシバは初めて動揺を見せていた。
「完全に消えたはずよ。どうやって……」
「ミスラが、笑ってくれたんだ」
「理解、できない……」
「あんたは俺に言ったよな、電子の世界での死は、精神の死だって。それが俺を救ってくれたんだよ。 だから――」
ありがとう。バテシバにそう言うと、ソロはミスラを真似してぱぁっと笑う。だが、表情をうまく作れなくて酷くぎこちない。
「……うまくできないな」
「ふ、ふふ……なら、何度でも倒せばいい。 『行きなさい』!!」
バテシバが再び影の群れに命令を下す。
影はソロを制圧しようと襲い掛かる。だが、今のソロには抗うだけの力があった。
バテシバがそうしたように、右腕を掲げたソロが空間を切り裂くように腕を下ろす。
その瞬間、ソロの周りにいくつもの箱が浮かび――それぞれが人の姿へと変わっていく。
翼を持つ者、蒼き剣を携える者たち、皆が皆、この電子の楽園にアーカイブされた人間たちだ。
そして、不敵に笑う少年の隣には。
「あれ……ソロ、どうしてここにいるの? わたし、みんなと追いかけっこしてたはずなのに」
まったく状況が理解できていない少女――ミスラ・テルセーラが、首を傾げて立っていた。
「正直に言うと、俺にもよく分からない。ただ、ミスラに隣にいて欲しいって、俺が願ったんだ。この世界は、認識と想像で変えられるんだろ?」
「……よくわからないけど、わかったわ!」
ソロのミスラを想う願いが、無意識のうちに戦う力を引き寄せたのだ。
ソロが手にした青い箱――管理機能端末「VOX」と呼ばれる、メタヴァースを構成する力を。
「私の……真似をするなんて、悪い子ね……」
「母さん」
両陣営が入り乱れる基幹システムの中枢で、ソロの声が響く。
「俺は母さんが理想の世界を望んだ気持ちを少しは理解できる。けど、やっぱり賛同はできないんだ。 だから――」
ソロの右手に、ミスラの左手が重なる。
ひとりでは痛くて苦しい世界でも、ふたりでなら。
どんな世界も、乗り越えていけるのだ。
バテシバが剣を掲げ、ソロの喉元に手をかけんと飛び掛かる。対するソロとミスラは、腕を掲げて真っ向からぶつかった。
力は拮抗し、青い光が火花を散らす中、ソロへと語りかける。
「私を、殺すつもり?」
押し切られそうになるのを堪えながら、ありったけの想いを青き拳にこめた。
「いいや、殺さない。俺は――その願いを殺す!」
瞬間、バテシバの光は弱まっていき、バテシバを構成する世界がひび割れる。
そして、押し戻されていくバテシバの肩へと手が届き、一気に押しこんだ。
「――ッ!!」
ひときわまばゆい閃光が辺りを駆け巡る。
残光が消えた後に残されていたのはニア・ユーディットと、彼女の身体から分離した少女――バテシバだった。
それと同時に、バテシバが呼び出した影も霧散し、基幹システムへと帰っていった。
「ニア!」
倒れゆくニアを支えたミスラが、何度も友の名を呼ぶ。だが意識を失っているのか応答はない。ただ、身体が消滅していない事から精神の死を迎えたわけではないと分かる。
安堵の表情を浮かべるミスラを後目に、ソロはうずくまったまま動かない母の下へと歩み寄った。
「これで終わりだ」
「……ふ、まだ、まだよ。終わらないわ……」
「まだそんな事を――」
「いいえ、私にはこれしかない。痛みも苦しみもない世界へ、皆を導いてあげるのよ……っ」
バテシバの声は震えていて、うまく聞き取れない。
そればかりか、ニアとの繋がりが断たれた事で身体の維持が難しいのか、徐々に薄れ始めている。
それでも留まり続けていられるのは、自分のすべてを費やして築き上げてきた強固な意志の賜物だろう。
ソロは無言で母の手に自分の手を重ねた。
「俺は、母さんほど世界と向き合えてないし、完全に理解する事なんて誰にもできないと思う」
「……そうよ。この願いは私だけのもの。この残酷な世界を憎み続けてきた私の――」
より世界への憎しみが増すように、ソロの手を握り返そうとする。
「なあ、少しは悲しんでもいいんじゃないか?」
「悲しむ?」
「一緒に悲しんでくれる人と、痛みを分け合えばいい」
「……私は独りよ。ずっと、これからも」
「俺が……いるだろ」
「……え?」
「ミスラもいるし、ゼファーだっている。それに、世界のすべてが敵に見えてた俺を救ってくれたのはゼファーなんだ。母さんが心を開けば、きっと話を 聞いてくれる。そしたら、いつか――」
「……どうして、そこまでするのかしら」
「だって、母さんだから」
「……そう」
淡々と紡がれた言葉には、どこか冷たさがあった。
呼吸をする度に、あるはずのない寒気を感じる。
「私は、貴方の母になった覚えはない」
ああ、そうなのね。と、狂気の入り混じった笑みを浮かべ、視線だけでソロを縛る。
「そうやって言いくるめて、私から、すべてを奪うつもりでしょう? 私の憎しみを否定し、すがるものを失くせば、何も持てないまま死ねるもの。 それは……とても。とても気持ちがいいものね?」
「そうじゃない! 俺はただ!」
身を粉にするくらい気持ちを伝えても、心を閉ざしてしまっている彼女は、もうこちらを向いていない。
「ふふ、すべて……無駄なの」
刹那、バテシバがソロの手を振り払った。
それは暗に、“お前にはできない”と告げるような明確な拒絶だった。
「待ってくれ! 母さ――」
伸ばした手が、バテシバの身体をすり抜ける。
ニアの身体から弾き出されてしまった彼女に、もはや帰るべき器はない。ここで消滅するか、基幹システムに敵と認定され、駆逐されるのを待つだけだ。
ソロに背を向けたまま、バテシバは言った。
「――でも、ありがとう」
「え?」
それは、何に対する言葉だったのだろう。
彼女以外に、知る由もなかった。
その言葉を遺し、バテシバは楽園に消えた。
母だったものが光の塵へと溶けゆく中、ソロは崩れるように膝をつく。
「ソロ」
「俺じゃ、母さんの助けにはなれなかった」
「ううん、そんなことないわ」
ミスラは、いつもの調子で笑う。
「一緒なら、なんでもできるのよ」
「だけど、もう母さんは」
「いってくるね」
「は?」
ミスラは基幹システムの前まで進むと、コアへと何か語りかける。
すると、ミスラの身体が霞み始めた。
「ミスラ!? 何を……」
「ソロのママを探してくるわ」
ミスラの提案は、余りにも突拍子もない事だ。
普通なら、ただの世迷言と切り捨てられるだろう。
しかし、他ならぬ彼女がそう言うのだ、ひたすらに自分を信じ抜く、あのミスラが。
彼女の眼も、ソロを元気づけようと冗談で言っている雰囲気ではない。
「どうせ、行くなって言っても行くんだろ?」
「うん。またね」
「ああ、またな」
ふたりは笑い合った。
そして、別々の方向へと背を向ける。
ソロはニアを地上へと送り届けるために。
ミスラは消失したバテシバを追うために。
それぞれの道へと一歩踏み出すのだった。
かくして、地上と電子の世界を脅かす危機は去った。
だがそれで、すべての争いが魔法のように一瞬で消え去ったわけではない。
バテシバの言うように、人は人を害する。
程度の差はあれど、それは生命が生きる上で決して避けては通れない呪縛だ。
それでも、この戦いを生き抜いた者たちの中には、呪縛に抗う答えを見出した者もいるだろう。
それはまだ、吹けば飛ぶような萌芽かもしれない。
だがやがて、大輪を咲かせるだろう。
手を取り合う者と、笑い合うために。
EPISODE8 独りより、ふたり「本当にあなたは……どこまでも……。 でも、どうしてかしら、私は今、こんなに――」
私――ゼファー・ニアルデが作り出される前から続く地上を巡る争い。
多くの真人を巻きこんだその争いは、サマラカンダの戦いが終わるとともに終戦に向けて大きく動き出した。
バテシバとセロが最後に残した禍根は、各コロニーに大きな影響を与え、闘争へと駆り立てられる者が出る始末。
そんな中、私はメタヴァースから戻ってきたソロ、アイザックと共に、意識が戻らないニアとミスラを護りながら戦地を離れる事になった。
けれど、私たちが幸運だったのは、ペルセスコロニーからサマラカンダの状況を調査しに来たエステル様に助けられた事だ。
彼女のお陰で、私たちは強硬派を取り巻く環境が変わった事を知る。
指導者のヴォイドとサルゴンは消息不明に、そして暗躍していたカイナンとセロが戦死した事で、レア様が真人を代表する座に収まったのだ。
好戦的な層からはレア様を糾弾する声が上がってはいたけれど、共同管理とはいえペルセスコロニーを統治するという功績が広く認められる事になり、声は次第に小さくなっていった。
それから私たちの日々は慌ただしく過ぎ去り――気づいた頃には3か月が経過していた。
私とソロは今、ペルセスコロニー監督官レナの勧めで帰還種が統治するカンダールコロニーに身を寄せて いる。
最初は、彼女の好意を素直に受け取れなかったソロだったけど、彼女と親しい人物がメーネだと分かった途端、考えを変えたのだ。
ソロは別にミスラの事で負い目があって提案を飲んだわけじゃない。
ある目的を叶えるために、メーネがいるコロニーで暮らす事を望んだからだ。
その目的とは――
「ふふ、今日も頑張ってるわね」
カンダールコロニーの中枢塔にある一室。
認証コードを入力するパネルに自分の番号を打ちこんで、私はソロの様子を見に来ていた。
ソロは、大半の時間をそこで過ごしている。
ソロは端末の画面を食い入るように見ながら、時々頭をクシャクシャしたり、小さな唸り声を上げていた。
その後ろ姿に思わず笑みが零れそうになるのを我慢しながら、ソロの集中力が途切れてしまわないようそっと差し入れを置こうとして――あっさりバレてしまった。
「来てたのか、ゼファー」
「あ、あら!? ごめんなさい、研究の邪魔にならないようにしたかったんだけど……」
「邪魔だなんて思わないよ。ていうか、俺が気づかなかったら何も言わずに帰るつもりだったのか」
「あはは」と、私は曖昧に頷いた。
「大分苦戦してるみたいね?」
「うん……まだ時間が掛かりそうかな」
「ちゃんと身体を休めた方がいいわ。もう夜も遅いのよ? ちゃんと休むのも大事なんだから」
「でも、あんまり待たせると、あいつ何かやりそうだし」
「私にできる事はなんでも言ってね。私には難しい事は分からないけれど、貴方の負担を減らすお手伝いぐらいはできるから」
「うん、いつもありがとう、ゼファー」
穏やかに笑うと、ソロは再び端末の方に向き直る。
ソロは、メタヴァースに関する技術をたくさんの人から学んでいる最中だ。
世界がバテシバの福音を回避したあの日以降、ミスラは一度もメタヴァースから戻っていない。
あの世界で今もバテシバを探しているのか、それとも別の世界に行ってしまったのか。
それは、誰にも分からない。
だからソロは、ふたりを観測する研究に従事し、いつか地上へと連れ戻す事にしたのだ。
そして、ふたりが帰還した暁には。
『皆で旅に出よう』
今度こそ、私たちは向かうのだ。
いつの日か約束した、北の地へと。
――
――――
基幹システムによって隔絶された断片領域の中に、少女はいた。何をするでもなく、ただ電子の空間の中を漂い続けている。
意識情報だけの存在になった彼女にとって、時の流れなど無きに等しい。
だが彼女は、独りでいる事に慣れっこだった。
今よりも遥かに長い間、世界を変えるために思考を張り巡らせてきたのだから。
「……」
だが、すべての手段を失った彼女にとって、この時間は何よりも耐え難いものになっていた。
決して訪れる事のない“終わり”。
ただここに在るだけの時間が、これほど恐ろしいものだったとは、思いもしなかったのだ。
物質世界には、避けられない終わりがある。
そして、時には自ら終わりを“選択”する事もできる。
だが今の彼女は、肉体の呪縛から解き放たれた身だ。
それゆえに終わりを選択する権利すらない。
今の彼女にできるのは、思考を放棄する事、メタヴァースという電子の牢獄の終焉が来るのを待つだけだ。
「ああ……これが、私の罰……ふふ……」
「――!」
その時、彼女の耳に誰かの声が響いた。
これは幻聴か? いつも独りだったのに、まさか自分が誰かを望むようになってしまったのだろうか。
そんな自分を嘲るように、少女は嗤う。
「――――!」
だが、どれだけ自分を律しようとしても、その声はいつまで経っても聞こえてくる。それどころか、耳元に鮮明に聞こえるようになり――
「わ~~~~っ!」
余りにも気の抜けた叫び声が辺りに響き渡った。
声のした方を見れば、そこには1人の少女が。
「ミスラ……ミスラ・テルセーラ?」
少女には、ここに彼女がいる意味がまるで理解できなかった。
「これは、私の願望が見せた幻? だとしたら、いよいよ私も狂ってしまったのね」
「幻じゃないわ」
「だったら、なんでいるのかしら?」
訝し気な眼差しを向ける少女に、ミスラは言った。
「ソロと約束したの。あなたを見つけるって!」
「貴女、正気なの?」
「ええ、正気だわ! あとね、それだけじゃないの」
「ちょっと……まだあるの?」
ミスラ・テルセーラとはこんな女だ。
ニアの記憶が今も息づいているというのに、気づけばそんな事も思い出せなくなっていた。
もう二度と誰かと言葉を交わす事はない。
そう思っていただけに、少女は知らず知らずのうちにミスラの勢いに巻きこまれて饒舌だ。
すると、ミスラは勿体ぶるように両手を広げ、満面の笑みで答えた。
「わたしが、あなたに“会いたかった”から!」
それは、彼女が地上に再生された時から、ずっと願い続けてきた事。
「あなたの記憶を全部見たけど、わたし、まだ全然わからないの。だから、もっと知りたいわ」
ミスラは次々とバテシバに会いにきた理由をまくし立てる。
それは既に、片手では足りないほど羅列されていた。
「なんて、なんて――」
愚かしいの。
そう言って突き放してやろうとしたのに、少女は無意識のうちに拒んでしまった。
変化はそれだけではなかった。
少女は今、ミスラが来てくれた事を心の底から――
「どうして……かしら。なぜ、私は泣いているの?」
「嬉しいときにも涙がでるものなのよ。 知らなかった?」
「ふ……本当に、本当におかしな子ね」
「おかしくないわ。わたしは、わたしだもん!」
そう言いながら、ミスラは彼女の隣に腰かけた。
「ねえ、バテシバ――」
唄うように。踊るように。
少女の名を呼ぶ彼女の手が、そっと差し伸べられた。
「わたしと、友達になりましょ?」
■ 楽曲 |
┗ 全曲一覧(1 / 2) / ジャンル別 / 追加日順 / 定数順 / Lv順 |
┗ WORLD'S END |
■ キャラクター |
┗ 無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE |
┗ NEW / SUN / LUMINOUS |
┗ マップボーナス・限界突破 |
■ スキル |
┗ スキル比較 |
■ 称号・マップ |
┗ 称号 / ネームプレート |
┗ マップ一覧 |
特別な生まれ故に実験に利用される(バテシバ・アヒトフェル)→まぢ無理世界滅ぼす→せや!帰還種使ってメタヴァース破壊や→一度病気でぶっ倒れる→帰還種のニアの身体を使って復活(ニア=バテシバ)→メタヴァースカチコミ(メタヴァース異体)→最終的にどうなったかエル・リベルテのストーリーを見ればわかる
とりあえず、流れとしてはこんな感じかな -- 2024-05-07 (火) 18:28:33