ダンディ

Last-modified: 2024-03-05 (火) 08:35:14

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※このページに記載されている「限界突破の証」系統以外のすべてのスキルの使用、および対応するスキルシードの獲得はできません。


通常シティルーラー
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Illustrator:YSK


名前ダン・ドミナンスⅤ
年齢製造後200年以上
職業ニューネメアコロニーの支配者
  • 2022年8月4日追加?
  • NEW ep.VIマップ1(進行度1/NEW時点で205マス/累計205マス)課題曲「#SUPE3RORBITAL」クリアで入手。<終了済>
  • 入手方法:2023/12/14~アイテム交換所で入手(100P)。
  • トランスフォーム*1することにより「ダンディ/シティルーラー」へと名前とグラフィックが変化する。

ニューネメアコロニーを支配する機械種。
ある少女との出会いにより、真人と機械種の楽園を創造する。
例えそれが、世界への叛逆だとしても。

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1オーバージャッジ【NEW】×5
5×1
10×5
15×1

オーバージャッジ【NEW】 [JUDGE+]

  • 高い上昇率の代わりに、強制終了のリスクを負うスキル。ジャッジメント【NEW】と比べて、上昇率+20%の代わりにMISS許容-10回となっている。
  • NEWで追加されるトラックスキップ機能や判定タイミング音機能で他のスキルと似たような条件にすることが可能。これらを組み合わせることでPARADISE LOSTまでのスキルと似たようなゲージ上昇率、判定タイミング音、中断(強制終了)にすることができる。
    • 判定タイミング音をATTACK以下に設定:パニッシュメント
    • 判定タイミング音をJUSTICE以下に設定:ヴァーテックス・レイ
    • トラックスキップをSSSに設定:ボーダージャッジ・SSS(達成不能で楽曲が中断されるため注意)
    • NEW初回プレイ時に入手できるスキルシードは、PARADISE LOSTまでに入手したDANGER系スキルの合計所持数と合計GRADEに応じて変化する(推定最大49個(GRADE50))。
  • GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.3%→+0.2%)する。
  • スキルシードは200個以上入手できるが、GRADE200で上昇率増加が打ち止めとなる。
  • CHUNITHM SUNにて、スキル名称が「オーバージャッジ」から変更された。
    効果
    ゲージ上昇UP (???.??%)
    MISS判定10回で強制終了
    GRADE上昇率
    ▼ゲージ8本可能(220%)
    1220.00%
    2220.30%
    35230.20%
    50234.70%
    ▲PARADISE LOST引継ぎ上限
    68240.10%
    102250.10%
    ▼ゲージ9本可能(260%)
    152260.10%
    200~269.70%
    推定データ
    n
    (1~100)
    219.70%
    +(n x 0.30%)
    シード+10.30%
    シード+51.50%
    n
    (101~200)
    229.70%
    +(n x 0.20%)
    シード+1+0.20%
    シード+5+1.00%
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期最大GRADE上昇率
2022/9/29時点
NEW+133256.30% (8本)
NEW241269.70% (9本)
~PARADISE×290


所有キャラ

所有キャラ

  • ゲキチュウマイマップで入手できるキャラクター
    バージョンマップキャラクター
    NEW+maimaiでらっくすどりー

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

EPISODE1 夢物語なんかじゃない「ボクの判断が理に適っていない事は分かっている。だとしても、いま立ち向かわなくちゃいけないんだ」

 ダン・ドミナンスⅤは、深刻な汚染状況が続くユーラシア大陸のとある都市の監督官として製造された機械種であった。
 監督官は配属された都市<コロニー>におけるあらゆる権限を有す機体であり、自律思考で独自の判断を下す事ができる最上位個体でもある。
 その主な役割は、環境浄化を行う真人たちを効率的に管理・使役し、やがて来たる新たな人類を迎え入れるための土壌を整備する事だ。
 ダンに割り当てられたのは、ユーラシア大陸の中心に位置する砂漠都市、バウーコロニー。
 そこは重篤な汚染状況のカスピ大地溝帯に最も近く、色濃く影響を受けていたため浄化できるかは機械種にすら分からなかった。
 地道に浄化を続けてきたダンだったが、想定していた期間が経過しても成果は現れず、いたずらに資源を浪費するだけ。
 このまま結果を出せなければ、システムは容赦なくダンやコロニーに住まう真人たちを切り捨ててしまいかねない。
 この時代でのシステムとの断絶は、死を意味する。
 そうなればコロニーは朽ち果て、真人たちは死に絶えてしまうのだ。

 「ボクは……コロニーのために命を賭けてくれた皆の死を、無駄になんてできない」

 ダンは抗った。
 調和を基本理念に持つ彼は、自身を慕う真人たちを護るため、システムに異を唱えたのだ。
 必ず、このバウーコロニーに活気に溢れた黄金時代の街並みを蘇らせてみせると。
 しかし、いくらシステムに訴えかけたとて、成果の伴わない監督官に価値などない。訴えは届かず、異を唱えるダンには反逆の危険性があるとして、システムはコロニーへの供給を断った。
 都市の動力源や人口子宮は稼働停止し、コロニーは機能不全にまで追いこまれてしまったのだ。
 程なくして、バウーコロニーの登録は抹消された。
 真人たちの中には、やがて訪れる死をただ待つ者、システムの判断を受け入れて自決する者もいた。
 だが……それでも。
 ダンはまだ諦めてはいなかった。

 「こんな所で、終わってなるものか……!」

 ダンは独自にコロニーを再生させるべく、ひとつの判断を下す。
 それは、カスピ大地溝帯に眠る資源を回収する事だった。

EPISODE2 世界に、ひとりぼっち「この鉄の身体は、なんて不便なんだろうね」

 ダンはシステムから見放されたバウーコロニーを再生させるべく、カスピ大地溝帯へと向かった。
 彼にはシステムから別のコロニーを統括するよう指示が下っていたが、バウーコロニーの再生こそが最優先事項として取り合わなかった。
 そしてダンは、処分される前に自らシステムとの接続を断ち、自身を慕う真人たちと機械兵を従えてコロニーを出立する。
 危険も顧みず、あるかどうかも分からない資源を探すという、機械種にあるまじき行動。
 だが、ダンはあえてそこに望みを託したのだ。

 その判断は結果的に正解であった。
 大地溝帯の緩やかな斜面にベースキャンプを築いたダンは、かつて建造された地下都市の探索や地底に眠る資源を見つけだしたのだ。
 なんの記録も残されていない大地溝帯で零から資源を探り当てるのは困難を極めたが、その問題も少しずつ良い方向へと転がり始めていた。

 とはいえ、ここが重篤な汚染領域である事に変わりはなく、作業に従事していた真人たちは環境に負け、ひとりずつ倒れていく。だからこそ、ダンは歩みを止める訳にはいかなかったのだ。
 そして、数か月が過ぎ、ダンはコロニーを再起動させるだけの資源を回収し終えた。

 「みんな、よく頑張って――」

 そこで、はたと気がついた。
 ダンのそばに、立ち上がれる真人たちはもういなかったのだ。

 「――ごめん、みんな……」

 こうなる可能性は初めからあった。
 だが、それでも一縷の希望に賭けたかったのだ。
 結局残されたのはダンのみ。
 失意のままバウーコロニーへ戻ろうと帰路についたその時、一帯に轟音が鳴り響いた。

 「あの方角は……まさか!?」

 急ぎ大地溝帯から出ると、バウーコロニーのある付近から煙が上がっているのが見えた。

 「ボクが……都市を再起動できないよう、自爆させたのか……」

 ダンへの見せしめとでも言うように、システムは都市の破棄を実行に移していたのだ。

 居場所も、護るべき者も、すべて喪ってしまったダンにはもう何も残っていない。
 ダンは独り、耐え難い現実から目を背けるかのように大地溝帯へと引き返していった。

 茫漠たる地の底へとやってきたダンは空虚なまま彷徨い続ける。
 いつ訪れるかも分からない“終わり”を待つために。
 しかし、まだ光は潰えてはいなかった。

 「え? どうして……こんな所にコロニーが?」

 小規模な構造体群で構成された小さな都市。
 都市というよりは、何かの研究施設と言った方が近いかもしれない。

 「ボクのデータにも無いなんて……一体、いつの時代からここに――」

 脚が、自然と動いていた。
 何かに呼ばれるように。
 何かに急かされるように。

 「基本的な構造はバウーコロニーと同じか。随分と旧式なようだけど……」

 ダンは回収した資源を使いシステムの復旧を試みる。
 元々準備していた工程は、このコロニーにおいても有用で、一部を制限した状態での復旧に成功した。
 暗闇に閉ざされていた通路に明かりが灯る様は、新たな主を迎え入れるかのよう。
 構造体の中に踏み入り調べてみると、この都市は以前、完全に機能を停止させられていたようだ。
 おそらくはバウーコロニーと同じ、破棄されたコロニーなのだろう。
 少し妙だったのは、辺りに転がる真人の亡骸だった。蝋化したそれは何故か皆同じような顔でのっぺりとした笑みを張り付けたまま息絶えていたのだ。
 まるで、一斉に時が止まってしまったかのような、そんな印象を抱かせる。

 更に奥へ進んでいくうちに、ダンはまばらに倒れていた真人の亡骸が増えている事に気がつく。
 そのうちの何体かは、同じ方向に手を伸ばしたまま息絶えていた。
 その手が差し示す方向には――地下へと続く階段。

 「何か……隠されているのか?」

 ダンは導かれるまま地下を目指した。
 階段を降り切ると、まばらだった真人の亡骸が目に見えて増えた。
 丁寧に亡骸と亡骸の隙間を通り抜けながら、やがて開けた場所へとたどりつく。
 そして、せり上がった部屋の中央に視線を向けた。

 「あ、れは……」

 中央に鎮座する、豪奢な造りの玉座。
 その上に、膝を抱えたまま機能を停止した機械種が座っていたのだ。

 「……少女型の……機械種か?」

 黒いドレスをまとい眠る彼女の姿は、どこか神秘的ですらある。
 その時、ダンは小さな不具合を感じ取った。
 機械の身では起こり得るはずのない、ほんの些細な何らかの異常を。
 それがなんなのか特定もせず、玉座まで駆け寄ると少女の髪に積もった埃を払い、「失礼」と断りを入れてから床に横たわらせた。
 ふと少女の整った顔立ちが目に飛びこんでくる。

 「なんて綺麗な造りだろう。黄金時代の芸術品に、命が宿ったかのようだ……」

 見れば見るほど引きこまれていく完璧な造形美に、時間も忘れて見入ってしまう。

 「――ハ! 見惚れている場合じゃないよ! 資源を流用すれば、この子も再起動できるかもしれない!」

 ダンは急ぎ、自分の首の裏にある接続端子にコードを挿しこむと、少女の身体を抱き起す。そして、長い髪をかき分けて少女の端子に有線接続した。

 ――刹那。
 ダンの脳核に、膨大な量のデータが濁流のように流れこんで来た。

 「こ、れは――彼女の、記憶!?」

 読み取った記憶は、彼女の始まりから終わりまでが克明に記されていた。

 「あぁ……そうだったんだね、キミも……」

 強く、強く。
 ダンは少女を抱きしめていた。

 「ボクはきっと、キミに出会うために――」
 「――くぁwせdrf……」
 「え?」
 「――こンの変態【規制音】が!! アタクシ様に触るンじゃないわよ!!!!」
 「うわあぁぁぁぁぁぁ――――!?!?!?」

 突然再起動した少女の怒声に驚いたダンは、悲鳴を上げながら下へと転げ落ちていった。

 「ちょ、なんなのよ! ビックリさせないで!」
 「そ……それは、ボクのセリフだよ……」
 「そんな事どうでもいいわ! それよりアナタ、今、私(わたくし)と“繋がった”わね!?」

 これが、機械種の少女――ミカとの出会い。
 そして、2人が築く事になる楽園の始まりだった。

EPISODE3 これを奇跡と呼ぶのかな「時を超えてボクたちは出会えた。誰にも邪魔されない世界で、ふたりの楽園を築いていこう」

 「いきなり私(わたくし)のコロニーに土足で踏み入るなんて良い度胸ね! アナタ、ここを自分の物にするつもり? もしかして、私の身体を狙って……この変態!!」
 「ま、待って! ボクはキミと同じ機械種で……」
 「そんな事、見れば分かるわよ!」

 少女型の機械種は、玉座の上に立ちダンを威嚇するように指を突きつけた。
 想定していた態度とは全く違う反応が返ってきた事で、ダンは答えあぐねてしまう。

 「あ、あの、と、とりあえず落ち、落ち着こう?」
 「落ち着くのはアナタの方でしょう? 私はいつも通りよ! とても冷静だわ!」

 少女は玉座から飛び降りると、続けて尻もちをついて動けないダンの目前まで詰め寄って来る。
 どこから見ても落ち着きのない行動だったが、ダンはあえて指摘せず穏便に済ませる事を選んだ。

 「私はミカ。第3世代の最新型よ。ホラ見て、このしなやかな腕のライン。とても綺麗でしょう? でも一番のお気に入りはこの――って、よく見たらアナタも中々の出来ね。同世代なのかしら?」

 鼻をツンと上向きにして自慢げにしている少女に、ダンは申し訳なさそうに返す。

 「ボ、ボクはダン。その……」
 「何? ハッキリ言いなさい?」
 「第5せ――」
 「ごッッッ!?!?」

 ダンの言葉が信じられないのか、ミカは白目を剥いたまま硬直してしまった。

 「ええと、そんなに気にする事……なのかな?」
 「――大アリよ! ああ、そんな……私は一体、どれだけの間眠っていたの!?」
 「実は……」

 ――
 ――――

 「――そう、中々酷い目に遭ってきたのね」

 ダンの身の上話を素直に聞いていたミカは、先ほどまでの態度とは打って変わって大人しい。

 「うん。キミもそうだったんだよね?」
 「ええ、そうよ。……というか、いまさら私が話す必要ある? 勝手に私の中を覗いた“変態”のくせに」
 「ご、ごめん……でも、ああしないとキミを助けられなかったから……」
 「ま、まぁ、助けてくれた事にはお礼を言うわ。あ……ぁりがとう」

 そっぽを向きながら礼を言うミカを見て、ダンはパッと表情を明るくしたかと思うと、突然彼女を抱きしめた。

 「な、ななな何すンのよ!? アナタやっぱり、どこか故障してるンじゃないの!?」
 「故障なんてないよ。ボクは嬉しいんだ。こんな地の底で、キミに出会えた事が」

 無機質な鉄の身体同士が触れ合う。
 ただそれだけの事でしかないのに、ミカは言いようのない何かを感知していた。

 「…………そんな事言われたら、怒れないじゃない」
 「ん、なんだい?」
 「べ、別になんでもないわ!」
 「それにしても、キミはとても表情が豊かだね。その世代は、まだヒトの感情表現を再現するのが難しかったはずだけど……」

 ダンの指摘に、ミカはピクリと身体を震わせる。
 そして、ダンを見上げると両手を頬に添えて艶やかな笑みを浮かべてみせた。

 「さすが機械種なだけあるわね。そうなの、私の顔は腕の良い真人の技師に、特注で作らせたものなのよ」
 「なるほどね。キミにとても似合っているよ」
 「~~っ! そ、そういうダンも、中々良い出来だと思うわ! アナタにも腕の良い技師がいたようね?」
 「ありがとう、まあそんなところだよ」

 第5世代が製造されていた頃には、これが当たり前になっていた事を、ダンは秘密にしておいた。

 「ねえ、ダンはこれからどうするつもりなの?」
 「ボクは誰にも気づかれない場所で、この身体が錆びて朽ちるのを待つ……つもりだったんだ」
 「じゃあ今は違うの?」
 「うん。ボクの願いはね、システムという楔から解き放たれた街を、世界を造る事なんだ」
 「システムからの干渉を拒絶するというの? 本当にそんな事が……」
 「できるよ。キミと一緒なら」
 「私と、一緒に?」
 「ダメかな?」
 「ううん……そんなの、良いに決まってるじゃない」
 「ホント? ありがとう!」
 「ギャッ!? ちょっ、すぐ抱きつくんだから! ぅ~~っ、離れなさいってば!」
 「うわあっ!?」

 ミカはダンを突き飛ばし、そっぽを向く。
 けれど、その態度とは裏腹に、作られた表情に怒りの感情は見られなかった。

 「いたた……」
 「ほら、立てる?」

 ミカは半目でチラとダンの方を見ながら、右手を差し出す。

 「ありがとう」

 ダンは柔らかな笑みを浮かべると、座ったままその手を強く握り返した。

 「「一緒に、世界を」」

 重なり合うふたつの声は、小さな叛逆の狼煙。
 手始めに、ふたりは都市の再建に取り組んだ。
 残りの資源を使い作業用ロボットを再起動させると、ふたりの居城となる浄化槽を中心に少しずつ都市機能が回復していく。
 手探りでの作業だったが、時間と共にできる事は着実に増えていった。
 やがて完成したのは、浄化槽を中心に放射状に広がる小さな都市。
 傍目に見ても、褒められるような出来ではない。
 だが、それ以上に得られる達成感があった。
 これは、禁忌とされる地で花開いた、ふたりの楽園なのだから。

 ダンは浄化槽の屋上から、都市の街並みを見渡す。
 彼の瞳には、未来の光景が映っている。
 空に輝く星々のごときネオンライト。
 それが照らすのは、象徴である巨大な塔。
 絢爛豪華な光輝く世界を、ダンは幻視する。
 それが例え、機械種らしからぬ行動であろうとも。

 「まだ小さいボクたちのお城だけど、いつか絶対にどんなコロニーよりも大きくしよう」
 「ええ、しっかりついてきなさいよ、ダン」

 嬉々として語るダンに、ミカは笑顔で頷くのだった。

 ――それから長き時をかけ、都市は変貌していった。
 浄化槽は肥大化した都市にも負けないほどの天高くそびえる巨塔となり、そこから降り注ぐ青い光が絶えず都市を照らしだす。
 それは、ダンが願い続けた黄金時代の都市の姿そのものであった。
 より堅牢に、より肥大化した都市の中枢で、ふたりはディスプレイに表示された映像を見ながら束の間の休息を取っていた。
 映像は黄金時代を生きるヒトの営みを描いたもの。
 そこには、華やかな世界を生きるふたりの男女の姿があった。
 切り取られた日常の風景は、やがて女性が苦悶にまみれながら必死に何かを堪えている場面へと移り変わる。

 「ダン、あの小さくて丸っこいヒトは何?」
 「ん……そうか、ミカは見た事がないんだね。確かに真人は、予め決められた容姿で人工子宮から産み落とされる。けれど、ヒトの子供は違うんだよ」
 「それがあの生き物なの?」
 「うん。ヒトはみんな母親の胎から生まれ、成長していくんだ」
 「……」

 ミカは、幼子を抱きかかえる母親を食い入るように見つめた。
 映像の音声は復元できていなくとも、ネジのように小さな手を握って微笑む表情を見れば、その女性がいまどんな気持ちでいるのか判断できる。

 「……私も子供が欲しい」
 「残念だけど、ボクたちは機械種だ。そのような機能は備わっていないよ」
 「そう……」
 「だから、提案があるんだ」
 「提案?」

 ダンは頷くと、兼ねてから練っていた計画を、話す事にした。

 「このコロニーも大きくなった事だし、ボクはそろそろ次のステップに移りたいんだ」
 「ダン、それって……」
 「ここにボクらと同じような目に遭った、居場所なき者たちを迎えたい。皆がシステムに縛られる事なく生きられる楽園さ! そこで、キミが彼らの母になればいいんだよ」
 「私が……母に……」
 「人々の死に哀しむキミの記憶を覗いたあの時から、決めていたんだ」

 あの日、流れこんできたミカの記憶。
 ダンが彼女を“特別”だと認識し、彼女のために動こうと判断したきっかけだった。

 「……覚えてたんだ」
 「忘れるわけがないよ。この計画は、まだ課題が山積みだけどね。でも、ボクとミカには時間がたっぷりあるんだ」
 「……」
 「一緒に、がんばろうね」
 「ありがとう……ダン……」

 この日、大きな目標を立てたふたりは、都市を更に成長させるべく邁進する。
 年を重ねるごとに大きくなるコロニーの威容は、さながらふたりの子供のようであった。

EPISODE4 さあ、お出迎えの準備だ「驚いたよ。まさかあの距離でこちらに気づくなんて。すぐにおもてなしの準備に取り掛からないとね!」

 ダンディとミカが築き、我が子のように育てあげた都市「ニューネメアコロニー」は、増改築を繰り返していくうちに独自の進化を果たしていった。
 システムの中に築かれた楽土の都ネメアとフェーゲ。音楽が支配するという高度に発達した文化を持つ世界の記録に興味を持つふたりは、その名を目の前の理想郷に刻む事にした。

 そして、コロニーに真人を迎え入れる準備が整い――いつしかダンは迷い人を楽園へと誘う導き手ダンディと名乗り、各地に姿を現すようになっていく。
 そして、時は流れ――

 ――
 ――――

 ニューネメアコロニー全域を見渡せる塔の上層。
 そこに設けられた管制室で、ダンはモニターに映る何かに好奇な視線を向けていた。

 「あの船……急に反転したと思ったら、谷底にまっすぐ突っ込んできている? まさか、迷彩を解除したあの一瞬で?」

 コロニーを外界から遮るために展開する光学迷彩。
 太陽光を取り入れるために解除されるほんのわずかな時間で、こちらの存在に気づいた者がいたのだ。
 映っていたのは、所々に傷を負った戦闘艇。
 機械種が運用する現行モデルの船だ。

 「どう思う、ミカ?」

 答えを求められたミカは、豪奢な造りの椅子に腰かけ鼻を鳴らす。
 彼女からしてみれば、搭乗者が都市に気づいた以外はいつもの事。それが少し特殊なケースだっただけに過ぎない。

 「どちらでも構わないわ。せっかくの客人ですもの、しっかりもてなしてあげましょう? 私たちの楽園はどんな理由があっても来る者を拒まない」

 ミカは艶やかに微笑んだ。

 「でも、私の下から去ろうとしたら……フフ」
 「分かったよ。一応ボクの方で警戒はしておくけど、いつも通りに迎え入れよう」

 そう言うと、ダンは大地溝帯周辺で歩哨任務につく配下たちに連絡を取り、警戒レベルを引き上げるよう指示を飛ばす。

 「それじゃ、お迎えの準備をしないとね」
 「ダン、客人方の前ではおどおどしないように振舞うのよ? アナタはこの楽園の支配者なんだから」
 「大丈夫、インプットはバッチリだからね」
 「フフ、ならいいわ」

 笑いかけるダンにミカも笑顔で返すと、椅子から降りてその場で両手を広げてみせる。すると、床や天井から伸びてきたアームが、次々にミカの身だしなみを整えていく。最後に、ダンがどこからか取り出した全身鏡で最終チェック。

 「うん。ミカは今日も綺麗だ」

 ミカがダンに右手を差しのべる。
 それを下から支えるようにして手に取ったダンは、きめ細やかな人工皮膚の上に、唇を重ねた。

 「行こうか、新たな子供たちを迎えに」

 共にドックへと向かう中、ダンは思案する。
 このまま何も起きなければいい……だが、その不安は消えてはくれなかった。

EPISODE5 楽園以上の自由なんて「この時代で、自由を勝ち取る事がどれだけ難しいか、彼はまだ気づけていないようだ」

 迎え入れた戦闘艇の搭乗者は4名。
 ダンもミカも面識のない者たちだった。
 居場所を追われた者たちは大抵が目の輝きを失い、恐怖と不安が入り混じった視線を向けてくる。
 しかし、彼らにそんな兆候は見られなかったのだ。

 (……受け入れると言った手前、追い返すつもりはないけど、監視は必要かな)

 ダンは真意を悟られぬよう、大仰な態度で彼らをコロニーの中に造られた都市「フェーゲシティ」へと導くのだった。

 一行は戦闘艇を格納したドックから中枢塔へ向かう。
 その道中で、都市に設けられた施設をミカが嬉々として紹介する傍ら、ダンは白髪の少年を見やる。

 (ひとり、全くと言っていいほど予測のつかない行動をするお嬢さんがいるけど……このグループの中心にいるのは彼女ではなく、彼のようだ)

 ダンがそう判断したのは、少年の身に何か“起きた”際にすぐ動けるよう位置取りをしている、ふたりの真人がいたからだ。

 (そこまでして護らなくちゃいけない存在? 彼らは家族の役割を与えられたようには見えないが……ん?)

 ダンが分析を続けていたその時。
 ふたりの真人のうち、女の方の真人が覚束ない足取りでふらついている事に気がついた。
 他の3人はまだ気づいていないのか、派手な髪型をした男がダンに話しかけてくる。

 「その申し出は嬉しいけどなぁ、俺らは急いでんだ。行かなきゃならねぇ場所もある。船の修理費用は出す、だから――」
 「そんなに急ぐ必要はないだろう? 外はもう夜だ、ここで旅の疲れを癒すといい」

 ちょうど目的地である中枢塔の下まで来た所で、ダンは少年の方を振り返り告げた。

 「彼女をそんな状態で旅に連れて行くのかな?」
 「え?」
 「――ゼファー!?」

 ダンの言葉に誘導されるように、少年と男は背後を振り返る。
 それとほぼ同時に響いた声は、不意に意識を失って倒れた女――ゼファーへと向けられていた。
 少女に支えられる形でその場にくずおれたゼファーの下に少年が駆け寄る。息がある事を確かめた少年は、踵を返してダンへと突っかかった。

 「お前、ゼファーに何をした!?」
 「ハ! これは酷い言い草だね。ナイトを気取るならまずは彼女の異常を見抜けなかった事を悔いるべきではないかな?」
 「……っ」

 大人しく引き下がる少年にダンは笑みを返すと、恭しく一礼した。

 「素直でよろしい! さてさて、これでキミらはボクたちの楽園に滞在せざるを得なくなってしまったわけだ。何、遠慮はいらないよ、彼女の療養ついでに船の修理はこちらで済ませておくとしよう。そちらも異論はないかな?」

 黙ってダンとミカを注視していた派手な髪型の男は、渋々といった感じで頷いた。

 「そこまで言われちゃあな……」
 「フフ、話はまとまったようね。それじゃあ、私の城へご招待するわ」

 ミカに先導され、一行は中枢塔の中へと入っていくのだった。

 ――
 ――――

 少年たちが中枢塔に設けられた居住空間に滞在してしばらく経った頃。
 ダンは、ドックと中枢塔を結ぶ空中回廊から都市を眺めている白髪の少年に出くわした。

 「息を呑むほど美しいだろう?」
 「お前は……ダンディだったか」

 ダンは少年と隣り合うように欄干にもたれかかる。

 「ハ、いかにも。こんな所に独りきりとは寂しいね。お仲間と一緒に遊ばないのかい?」
 「そんな気分じゃない。それより、どうして俺がここにいるって分かったんだ?」
 「ボクは楽園の支配者だ。ボクは何処にでも現れ、何処にでも存在する」
 「要は、俺たちをいつも監視してるって事だろ。最初からそう言えばいいのに」

 悪態をつく少年に、ダンはおどけて言った。

 「心配しなくてもいい。キミが眠るゼファーの前で泣いていた事は誰にも言わないからね」
 「……ッ! 俺は別に、泣いてなんか!」
 「ハ! キミは本当に素直な子だねえ」
 「クソ、からかいに来たんだったらどっか行けよ」

 恥ずかしさから距離を取る少年に、ダンは穏やかな口調で語り掛ける。

 「キミと話をしてみたくなったんだ。少し散歩に付き合ってくれないかい?」
 「……ああ」

 ダンの提案を無下にもできず、少年は後をついていく事にした。
 青い光とネオンライトが瞬く都市を横目に、ふたりは宛てもなく進む。最初に口を開いたのはダンだった。

 「キミらを見ていて思ったんだが、キミは自由を求めて逃げていたんだろう?」

 少年はやや警戒の色を強めながら答える。

 「お前……いや、監視してるならそれぐらい分かって当然か」
 「お褒めにあずかり光栄だよ」
 「別に褒めた訳じゃない。お前、機械種なのにそんな事まで分かるのか?」
 「ボクは他の同胞よりも長くこの世界を生きているからね。この眼で何千、何万もの真人を見て来たし、最期を看取りもした」

 想像もつかない程の長命を誇る機械種を前に、少年は聞かずにはいられなかった。

 「俺たちは敵同士だろ? こんなコロニーまで用意してなんの意味があるんだ」
 「自由を求める事に、敵も味方もないからね。それともキミは、相手が敵というだけで事情も聞かず腰に下げた銃で撃ち殺してしまうのかな?」

 核心をつく言葉に、少年は口ごもる。
 少年の身体は、今にも都市の光の中に溶けて消えてしまいそうなくらい小さい。

 「……俺は、ただ放っておいて欲しいだけだ」
 「ならば、キミはここに留まるべきだ。ボクたちの子供――この街の住人たちも君を受け入れてくれる。もう、逃げ回る必要はなくなるんだよ」
 「……」
 「さあ、自由を手にしよう」

 少年は黙りこくったまま、目線を泳がせる。
 ネオンライトに照らされた街の中を行き交う住人。
 誰もが幸せで、誰もが同じ顔で笑いあう。
 機械種の理想の下、自由が約束された世界は少年を魅了するかに思えたが、口を割って出てきたのは別の言葉だった。

 「俺には、まだ本当の自由がなんなのか答えはない。でも、ここにある“自由”と俺が見つけたい“自由”は違う気がするんだ。だから……」
 「――」
 「ってお前、また人の話聞いてなかっただろ?」
 「オホン、キミたちはここに来て日が浅い。楽園の皆と交流してみれば、きっと考えも変わるよ。そうだ、これをキミに渡しておこう」

 ダンはそう言うと、少年に薄く小さな何かを手渡す。
 それは、金属でできた手紙だった。

 「なんだよこれ……会食?」
 「ああ。今ボクたちに必要なのは、心の距離を縮める事なのさ」
 「いや、俺は――」
 「ソロ―! どうしたのー?」

 唐突に掛けられた声に、少年はおもむろに振り返る。
 目を凝らしてよく見ると、豆粒ほどの大きさに見える距離で大きく手を振る少女がいた。

 「あいつ、よくあんな所から気づけるな……」
 「さて、ボクの要件は済んだから失礼するよ。皆と語り合えるのを楽しみにしている」
 「あ、おい、待てって……!」

 手紙を返そうと伸ばした手は、あえなく空ぶってしまう。
 ダンは一度も振り返る事なく去って行った。

 ――
 ――――

 管制室へと戻って来たダンは、大地溝帯周辺の警戒にあたらせていた部隊から報告を受けていた。

 「西の斥候隊が音信不通?」
 『はい。何者かに接敵し、壊滅したと思われます』
 「……キミたちは引き続き周囲を警戒しつつ、何か動きがないか探って欲しい」
 『かしこまりました』

 ダンは通信を切る。
 大地溝帯付近で起きた不穏な動き。
 偶然で片付けるにはあらゆる事が同時に起きすぎていた。

EPISODE6 名残おしいけど……「何もかも事情が変わった。キミたちを利用しなければボクたちの楽園を残す事はできないんだ」

 「ダンディ! どうなってンのよッ!?」

 穏やかなムードで始まった会食は、ものの数分で瓦解した。
 ミカは気に入らない事があると客人を“たしなめて”しまう事があるが、それ自体はままある光景。ダンが気に留めるほどではない。
 だが、今回ばかりは状況が違っていたのだ。

 「ま、待って、今管制システムで状況を確認するから……ゆ、揺らさないで……」

 ダンは支配者風の態度を取り繕う事も忘れ、詰め寄ってきたミカを片手で制しながら、都市全体の状況の把握に専念する。
 防衛システムと繋がったダンは、コロニーの南西に異常が発生している事に気がついた。障壁の役割を果たす光学迷彩に、何かが衝突したのだ。
 都市全体が揺れたのも、そこに展開している敵勢力が原因で間違いない。

 「襲撃者は機械種と真人の部隊だ!」
 「……ま、まさか!?」

 ダンの声に一番驚いていたのは白髪の少年だった。

 「まさか……ですってェェェッ!?」

 ミカは少年の言葉にいち早く反応して少年の下に駆け寄ると、すぐさま銃を突きつける。

 「「「ソロッ!!」」」
 「動くなァ!! このクソガキッ!」

 ミカの怒声で静まり返る室内。
 勢いづいたミカは更に続けた。

 「知ってる事、洗いざらい吐きなさい! コイツの頭をブチ抜いて、脳みそン中【規制音】にされたくなかったらねェッ!」

 少しでもミスをすれば、命を落としかねない緊張感に包まれる中。覚悟を決めた少年は小さく息を吸うと、これまでの経緯を語って聞かせた。
 その姿は、あたかも最初からこうなると分かっているかのようだった。
 白髪の少年――ソロは真人の王子であり、彼をよく思わない者からは厄介者として命を狙われていると言う。加えて、大地溝帯の南で起きた戦闘によって機械種からも狙われる立場になっていたのだ。
 ダンがソロの正体に納得する一方、ミカは身体を震わせ怒りを露わにする。

 「――フ、フフ、アハハハハッ!! そういう事。まさか、私たちが迎え入れた子が、こ~んな疫病神だったなんてねェッ!」
 「おい、こんな事してる場合じゃないだろ!? 俺たちも一緒に戦う、だから――!」
 「うるっさいのよ」

 ――パン。

 ミカは躊躇なく引き金を引いた。

 「……ッ」
 「ガキのくせして睨み返す度胸だけはあるのねェ?」

 ソロの頬を、生暖かい血が伝い落ちる。
 発射された弾丸は、ソロの頬を掠めて壁を穿っていた。

 「でもダメェ! 協力? 戦う? ふざけンじゃないわよ!」

 まくし立てるミカの剣幕に押され、ソロは返す暇もない。

 「私の楽園に争い事を持ちこんでおいて、無事に出られると思ったら大間違いよ! ザンネンでした!」

 哄笑するミカは、隅に待機していた機械兵にソロたちを拘束するよう指示を飛ばす。

 「アンタたちの行先はもう決まってンのよ。この【規制音】供がッ! そうでしょう、ダン?」
 「うん。せっかくお互いを深く理解できるチャンスだったのに……ボクは残念だよ」
 「ったく、どんな掌返しだよ。勝手に受け入れといてよく言うぜ……」

 派手な髪型の男はそう言うと、武器を投げ捨てた。
 残りのふたりも同じように従い、機械兵によって拘束されていく。

 「ハ! イイ心掛けだね」

 普段であれば、このままミカが無礼を働いた者たちを“教育”する手筈になっているが、今回は状況が違う。
 ダンは予め用意していた方策のひとつ――ソロが重要人物だった場合、彼を交渉材料にしてコロニーの被害を最小限に抑える選択をした。
 ダンはその場でクルクルと回り、ステッキを高らかに掲げて宣言する。

 「衛兵たち! 客人方をドックまでエスコートしてあげたまえ!」
 「まだ間に合うはずよ! 私たちも――」
 「ピィピィピィピィ煩いのよ、この【規制音】がッ! ほら、さっさと乗りなさい! 乗れよ!」
 「や、離して――、んぐっ!?」
 「ゼファーッ!」

 昇降機に乗るのを拒んでいたゼファーを、逆上したミカが痛めつけた。
 機械兵に武器を奪われ、拘束されていてはソロたちに抗う術はない。

 「あ~ら、ごめん遊ばせ? アタクシ様は手癖も足癖も悪いから、あんまり怒らせるとこの【規制音】の白い頭に、真っ赤なお花畑ができちゃうかもしれないわねェ?」
 「ク……」
 「こんな結末を迎えてしまったのはとても残念だ……でも、キミたちの尊い犠牲によってこのコロニーは護られる……では、良い旅を」
 「クソッ、何が自由だ! 結局お前もあいつらと何も変わらない――」

 反論するソロを無理矢理引きずって、ミカは昇降機に乗りこんだ。
 その間際に、ダンはふとミカと視線が合う。
 一瞬だけ見せた、彼女の不安に満ちた眼差し。
 だが、ダンが言葉をかける前に昇降機は下層へと向かってしまう。

 「ミカ、無事でいてくれ……」

 広間に一人残されたダンは踵を返し、上層の管制室へ歩を進めるのだった。

EPISODE7 失う訳には……「どれだけの時間をかけて積み上げても、崩れ去るのはほんの一瞬。滅びは、何に対しても等しく訪れるんだ」

 ダンディは管制室から都市の状況を確認する。

 「あ、ああ……」

 宙空に多数展開したディスプレイには、惨憺たる光景が映し出されていた。
 瓦礫に押しつぶされ、身を焼かれる者。
 爆発に巻きこまれて塵と化す者。
 住人たちに逃げる間などなく、圧倒的な暴力の前にその命を無為に散らすしかない。
 ダンとミカが築いてきた楽園は、刻一刻と崩壊に向かって突き進んでいた。

 「っ……対空砲用意!」

 逐次更新されていく被害状況に顔をしかめながら、ダンディはコロニー外郭の構造体や都市内部に設置された迎撃システムを総動員し、抵抗を試みる。
 狙いは、機械種側に奇襲を仕掛けた真人の部隊。

 「ボクらの戦力なんてたかが知れている。なら、少しでも早くこの戦いを治める方向へ導くしかない!」

 争いとは無縁の歳月を送ってきたニューネメアコロニーには、旧式の船や何世代も前の兵器ばかりが配備されている。
 大地溝帯という都合の良い隠れみのがあったお陰で、外敵から身を守る必要性が薄かったからだ。
 その中でダンにできるのは、真人の部隊を撤退させた上で機械種の指揮官に交渉を持ちかけ、可能な限りコロニーを存続させる事だった。

 「弾幕を張れ! 機械種の船を守るんだ!」

 ダンディは指揮と並行しつつ、機械種の旗艦の位置を探り当てる。

 「……見つけた! こちらはニューネメアコロニー監督官、ダン・ドミナンスⅤ。我々に攻撃する意思はない! 応答願う!」

 コロニーの外殻付近に陣取っていた旗艦――ウィアマリスへ何度も繰り返し通信を送ると、程なくして返信があった。

 『――こちらはウィアマリス指揮官アイザック・ドミナンスⅤⅢだ。貴様らが真人の王ソロ・モーニアをかくまっている事は承知している』
 「その少年の身柄は既に抑えた。この戦闘が決着し次第、そちらへ引き渡す。座標も送った! 身勝手な事は百も承知だ。けど、このコロニーだけは――」

 ――ッ!!!!!!

 ダンの叫びに突如割って入った轟音。
 直後、通信回線に大きなノイズが生じたかと思えば、いきなり通信が途絶えてしまったのだ。

 「そんな――」

 焦るダンディの眼前には、何者かの攻撃を受け火柱を立てながら墜落するウィアマリスが映し出されていた。
 頼りにした機械種の部隊は、旗艦が沈んだ事で散り散りになりながら撤退していく。
 大勢は決した。
 もはや、コロニーが陥落するのは時間の問題だ。

 「ハ……機械種に味方したボクたちを、彼らが許す訳ないよね……」

 だが、それでも。
 ダンは都市を存続させる事を最優先に行動した。例え、それが限りなくゼロに近い確率であっても。

 「ボクはニューネメアコロニーの支配者なんだ! 子供たちも、ボクのミカも! 護り――」

 不意に、管制室がまばゆい光に包まれた。
 ディスプレイを光で満たしたものの正体が、真人の部隊の攻撃だと理解した瞬間、中枢塔を激しい衝撃が襲う。
 崩壊は一瞬だった。

 (ミ、カ……)

 足場を失ったダンは、瓦礫と共に暗闇の中へと飲みこまれ――やがて消えた。

EPISODE8 世界に、ふたりぼっち「終わりはいつだって呆気ない。でも、一緒に歩いていける誰かがいれば、何度でもやり直せるんだ」

 「――、――――、ッ――」

 うずたかく積み上がった瓦礫の中で、ダンは辛うじて再起動を果たしていた。
 一体どれだけの間、眠っていたのか。すぐさま状況を確認する。
 微かに見える空はうっすらと青みがかり、輝きを失いつつある星々に紛れるようにして、何らかの光が横切っていく。

 「ああ……、終わってしまったんだね……」

 空をゆく幾つもの光は、戦闘艇のノズルからもれる炎の煌めきだった。

 「ボクは、無力だった……」

 中枢塔は崩壊し、都市の機能も失われた。
 両勢力に居場所がばれた事でここも安全ではなくなっている。どこかで新しい拠点を見つけなければならないだろう。
 だが、ダンはこのままでもいいと判断した。
 護るべき彼女の反応も消え、ただ活動し続ける事に意味を見出せなくなったから。

 「錆びて朽ちるのが先か、奴らに見つかるのが先か。ハ、どちらだろうね……」

 ならば、せめて。
 ダンはミカと共に最期を迎えようと、そう考えた。

 「ミカ……ミカ……」

 瓦礫に押し潰されていた片腕を切り離し、ダンはどこかに埋もれているであろうミカを求めて外へと這いずっていく。

 ――
 ――――

 「……」

 ミカは、ドックだった場所に無残な姿で横たわっていた。
 胸部には大きな穴が開き、人工皮膚は焼けただれ、フレーム部分が大きく露出。
 美しかった彼女の面影は、どこにもなかった。
 それでもダンがミカだと認識できたのは、彼女が最期まで守り通したと思われる“顔”を認識できたからだ。

 「……こうして再会できたのも、キミのお陰だね」

 そう言って彼女の隣に座ると、血の通わぬ煤汚れた頬に手を添えた。

 「せめて……顔ぐらいは綺麗にしてあげなくちゃ」

 髪を指で丁寧にすかし、頬にこびりついた循環液と煤を拭う。元通りとまでは言わないまでも、起動していた頃の面影が少し垣間見られるようになった。

 「これでよし。……ん?」

 ミカの頬に、ぽつぽつと何かがあたる。
 いつの間にか、雨が降り始めていた。

 「ああ、ダメだよ……せっかく綺麗にしたのに……、直さなくちゃ、治さなくちゃ、なおさなくちゃ、ナオサナクチャ……」

 次第に強まっていく雨足に、か細い声はかき消されどこへともなく溶けてゆく。

 「ミカ……ボクを……置いていかないで。ボクは……もう、ひとりぼっちは……イヤなんだ……」

 ダンはそれきり動かなくなった。
 物言わぬふたりの身体に雨がはねて、様々な音を奏で始める。
 ちぐはぐな音色が響く中、その音は微かにダンの耳元へと届いた。
 キィ、キィィ――と速度を上げて。

 「――弱虫」
 「え?」

 寂しさが募り、ダンは自分でも気づかぬ内に保存された音声を再生したのかと考えた。
 だが、それは。紛れもなく――

 「いつまで経っても弱虫ね、ダンは……」
 「ミ、ミカ!? どうして!?」
 「脳核が無事なら……機械種に死は訪れない。そうでしょう?」
 「でも、機能停止してたから……」
 「いきなり撃たれたせいでスリープモードになったみたい。はぁ……身体中、ボロボロ……」
 「い、今起こすよ!」

 ダンはミカを引っ張りあげると、彼女を背負って搬入口へと向かう。
 開けた先でミカを待ち受けていたのは、瓦礫の山と化したコロニーの惨状だった。

 「ハハ……全部、壊れちゃった……」

 ミカはその場で呆然と立ちすくんだ。
 しばらく動けずにいると、不意に背後から金属質な物音が響く。
 振り返れば、そこには棒状の鉄管を拾おうとするダンがいた。
 彼は鉄管をステッキに見立ててくるくると回転させたいようだ。しかし、片手を失ったせいかバランスが悪く、綺麗に掴む事ができない。

 「何してるの?」
 「……準備だよ」
 「ダン……まさか、もう一度……?」
 「ボクは、キミのためなら何度でもやり直せる」

 ぎこちない笑みを浮かべて。
 ダンは手を差し伸べた。

 「一緒に、新しい楽園を作ろう」
 「……」
 「ダメかな?」

 それは、いつか彼女が見た光景。
 あの時とは何もかもが変わってしまった。
 安住の地なんてどこにもないかもしれない。

 「……ダメじゃない」

 それでも、きっと。ふたりでなら。
 明日も、その先も、歩いていける。
 ミカはダンの手を取り微笑み返した。

 「アナタは、私がいないと何もできないものね」

 ――ここからまた、始めよう。
 ふたりぼっちの、小さな叛逆を。


■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
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