ロト・トゥエルヴ

Last-modified: 2024-04-25 (木) 20:00:14

【キャラ一覧( 無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE / NEW / SUN / LUMINOUS )】【マップ一覧( SUN / LUMINOUS )】


※このページに記載されている「限界突破の証」系統以外のすべてのスキルの使用、および対応するスキルシードの獲得はできません。


通常アヒトフェルの剣
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Illustrator:ふぁすな


名前ロト・トゥエルヴ
年齢容姿年齢25歳(製造後11年)
職業軍人
身分強硬派特殊部隊の隊長
  • 2022年8月4日追加?
  • NEW ep.VIマップ2(進行度1/NEW+時点で295マス/累計480マス)課題曲「WE'RE BACK!!」クリアで入手。<終了済>
  • 入手方法:2023/12/14~アイテム交換所で入手(100P)。
  • トランスフォーム*1することにより「ロト・トゥエルヴ/アヒトフェルの剣」へと名前とグラフィックが変化する。

無邪気な笑顔を絶やさない、真人・強硬派の戦士。
戦い続ける彼の、その瞳の奥深くに渦巻くものとは…

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1オーバージャッジ【NEW】×5
5×1
10×5
15×1

オーバージャッジ【NEW】 [JUDGE+]

  • 高い上昇率の代わりに、強制終了のリスクを負うスキル。ジャッジメント【NEW】と比べて、上昇率+20%の代わりにMISS許容-10回となっている。
  • NEWで追加されるトラックスキップ機能や判定タイミング音機能で他のスキルと似たような条件にすることが可能。これらを組み合わせることでPARADISE LOSTまでのスキルと似たようなゲージ上昇率、判定タイミング音、中断(強制終了)にすることができる。
    • 判定タイミング音をATTACK以下に設定:パニッシュメント
    • 判定タイミング音をJUSTICE以下に設定:ヴァーテックス・レイ
    • トラックスキップをSSSに設定:ボーダージャッジ・SSS(達成不能で楽曲が中断されるため注意)
    • NEW初回プレイ時に入手できるスキルシードは、PARADISE LOSTまでに入手したDANGER系スキルの合計所持数と合計GRADEに応じて変化する(推定最大49個(GRADE50))。
  • GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.3%→+0.2%)する。
  • スキルシードは200個以上入手できるが、GRADE200で上昇率増加が打ち止めとなる。
  • CHUNITHM SUNにて、スキル名称が「オーバージャッジ」から変更された。
    効果
    ゲージ上昇UP (???.??%)
    MISS判定10回で強制終了
    GRADE上昇率
    ▼ゲージ8本可能(220%)
    1220.00%
    2220.30%
    35230.20%
    50234.70%
    ▲PARADISE LOST引継ぎ上限
    68240.10%
    102250.10%
    ▼ゲージ9本可能(260%)
    152260.10%
    200~269.70%
    推定データ
    n
    (1~100)
    219.70%
    +(n x 0.30%)
    シード+10.30%
    シード+51.50%
    n
    (101~200)
    229.70%
    +(n x 0.20%)
    シード+1+0.20%
    シード+5+1.00%
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期最大GRADE上昇率
2022/9/29時点
NEW+133256.30% (8本)
NEW241269.70% (9本)
~PARADISE×290


所有キャラ

所有キャラ

  • ゲキチュウマイマップで入手できるキャラクター
    バージョンマップキャラクター
    NEW+maimaiでらっくすどりー

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

EPISODE1 父と子「この眼も、この歯も、この耳も。俺ときみは、同じ素材からできているんだよ?」

 朝焼けがカスピ大地溝帯の谷底を、微かに照らしている。
 その光に逆らうようにして立ち昇る煙の中を、高速で飛翔する物体が突っ切っていった。
 それは、強硬派の特殊部隊が運用する深紅の戦闘艇。
 ニューネメアコロニーでの作戦を終えたばかりの、ロトたちの船だ。

 「~~♪」

 船内に、陽気な口笛が響く。

 『……やけに上機嫌だな、ロト』
 「あは、やけにじゃなくて、いつもじゃん?」

 船長席にもたれかかり、コンソールの上に脚を投げ出して座る男――ロト・トゥエルヴは、モニターの向こうへと語りかけた。

 『ならば、相応の収穫があったのだろうな?』

 モニターの向こうの男――カイナンは、眉間に皺を寄せ、ロトに訝しげな視線を向けている。

 「もちろん。期待以上の活躍をしたと思うなー♪」
 『御託はいい。結果を見せてくれ』
 「せっかちだなあ。まあいいや、それじゃ結果をご覧あれってね」

 そう言って、ロトは椅子から降りて後方を振り返る。

 「じゃじゃーん!」

 そこには、意識のないふたりの男女が、床の上に乱雑に転がされていた。

 「ご注文の品はこちらでお揃いかな?」
 『重畳、と言いたい所だが、もうひとりはどうした』
 「そっちは取り逃しちゃってねー。代わりと言っちゃなんだけど、これはカイナンも喉から手が出る程欲しい奴だと思うんだ♪」

 ロトはモニターに映るように何かを掲げて見せた。
 それは、ロトの頭の倍はある大きさで――

 『――っ』

 モニター越しに空気が変わるのを感じた。
 分かりやすい変化に気を良くしたロトは、口笛を吹いてこれ見よがしにニヤリと笑う。

 「フフーン。もしかして、サプライズ成功?」
 『……では、後ほど落ち合うとしよう』
 「は~、つれないなぁ。了解了解っと。じゃ、また後でねー」

 モニターに映る合流地点を確認した後、ロトは通信を切り満足そうに口笛を吹かす。
 ふと、背後から微かな呻き声が聞こえてくる。

 「お、噂をすれば♪」
 「…………っ、どこだ、ここ……」

 冷たい鉄の床の上で、ソロ・モーニアが深い眠りから目を覚ました。

 「たしか、俺は……」
 「おはよ~う、ソロくーん! よく眠れたかな~?」
 「お前……ッ! ……あッ、ぐ……っ」
 「フフ、まだ頭の中ぐわんぐわんしてる?」

 ロトはうめくソロの頭を何度もつんつんと小突く。
 手足を縛られた状態では、ソロになす術はない。

 「この、ふざけ……!」
 「ジタバタしちゃって騒がしいなぁ。でも、あんまりうるさくすると、オシオキしちゃうぞ~?」
 「ぁ……っ」

 ロトはソロの首元に、そっと手を当ててみせる。
 徐々に指に力がこめられるにつれ、ソロの表情に苦悶の色が浮かぶ。それを見て、ロトは口元に微かな笑みを浮かべていた。
 あたかも、生殺与奪の権利を握っているのは自分だとでも言うように。

 「感じる? 血がドクドクして、苦しくて苦しくってたまらないでしょ」

 ソロは呻きながらも、ただ敵意に満ちた視線をロトへと向ける。
 どれだけ苦しめられても、お前になんかには絶対に屈しない。そんな強い意思が、少年の瞳からひしひしと伝わってくる。
 それを見て、ロトは唐突に手の力を緩めた。

 「ゲホっ……ゲホっ……」
 「――なーんてね。アッハ、今、殺されると思った? 大丈夫大丈夫、俺は殺す気なんて、さらさらないから。ま、他のやつらは知らないけど♪」

 ロトはもう興味をなくしたのか、つまらなそうに手を払う。

 「クソッ……どうして放っといてくれないんだよ!」
 「ん~、もしかしてまだ気づいてなかったりする? なんで狙われてるか」
 「……は?」

 ロトは、右手につけた腕輪を鳴らす。

 「教えてあげよっか、じゃないと可哀そうだしね」

 ソロの答えも聞かず、ロトは勝手に話し始めた。

 「母さんがいなくなった後、種の未来が閉ざされる事を恐れた上の奴らが、様々な実験を始めたんだ。指導者エイハヴの“遺産”を使ってね。その内のひとつが、母さんときみの細胞を使う実験だった」
 「俺の、細胞……」

 ソロの脳裏に、幼い頃に行われた“実験”の記憶が蘇る。研究者たちにされるがまま暮らしてきたあの日々が。

 「優秀な真人と掛け合わせてみたり、母さんときみのとで作ってみたり……ああ、そっちは全然ダメだったんだけどね? それで最終的にできたのが……この俺やヴォイドみたいな連中ってわけ」
 「な……じゃあ、母さんって……!」
 「おめでと~ソロくん! “家族”に恵まれて!」

 ロトはおもむろにしゃがみこむと、ソロの耳元で囁いた。

 「会いたかったよ……“父さん”」

 ひどく冷たい声が、耳を凌辱する。
 心臓を鷲掴みにされたような感覚に、ソロはいつの間にか全身をべっとりと汗で濡らしている事に気がついた。

 「笑っちゃうよねえ、俺の方がどう見ても、オ、ト、ナ、なのにさあ♪」

 空虚な表情から一転して、ロトにいつもの陽気な笑みが戻る。

 「きみが狙われるのは、母さんと同じ生殖機能があるかもしれないから。だから躍起にもなるし、特別なきみに嫉妬して殺したがる奴もいる。きみは、どこにも逃げられないんだ。そう、運命なんだ♪」
 「……ふざけるな! なにが運命だ! あんな奴ら、俺の知った事じゃない!」
 「フフッ、いいね~その考え! キュンキュン来ちゃった♪ さっすが俺の父さんだよ!」

 ロトは口笛を吹きながら、懐から何かの薬剤らしきものを取り出す。

 「もっと色々話してみたいけど、そろそろおやすみの時間だよ♪」
 「ぐ、やめ――」
 「またね、父さん」

 抵抗も虚しく薬を注入されたソロは、鈍くなる思考の中で、ロトの腕に光る腕輪へと視線が向かう。
 それは、いつの日か見た、母バテシバの肖像。
 そこに映るものと、よく似ていた。

EPISODE2 母さんと一緒「検体SS―012。それが、俺の名前だった」

 「検体SS―012……生殖機能なし、肉体の成長機能は……低いな」
 「……またしても失敗か。優れた戦士の胚を掛け合わせている割には、どれも役に立たんな」
 「何、使い道ならいくらでもあるだろう。素体がまた増えたと思えばいい」
 「ふむ、少しは“保って”くれればいいがな」

 検査台の上に寝かせられた俺たちの前で、奴らは平然とそんな事を言ってのける。
 当然ながら、俺たちに拒否権なんてものはなかった。許可なく喋る事も禁じられていたんだから、当たり前と言えば当たり前だったが。

 「我らが未来のために、しっかり貢献するんだぞ?」

 悲鳴や嗚咽、声にすらならない声。
 絶望に染まった俺たちの顔を見て、奴らは淡々と俺たちの身体の“可能性”を確かめてゆく。

 「12番は興味深いな。苦痛に対し、他の者には見られない反応を示している。この信仰にも似た笑みはどこから来る? どこまで応えられるのだ?」

 俺の身体を散々いじくり回していた奴が、よく吐く台詞だった。
 あいつが言うには、俺とあいつは“相性”が良かったらしい。
 どんな痛みにも笑って耐え続ける俺の顔は、あいつにとって身も心も満たしてくれる格好の研究対象だったわけだ。
 失敗作の烙印を押された俺の兄弟たちは、延々と続く地獄に耐えられず、“リタイア”を試みた奴もいた。
 だけど、そんな小さな反抗心を抱く権利さえ俺たちにはなく。身体が自死を拒絶し、肉体の限界が訪れるその日まで、強制的に生かされ続けるだけ。
 ……それでも、俺は。
 このまま好き勝手されて死ぬのだけは嫌だった。

 俺が実験の日々に耐え続けられたのは、理由がある。
 それは、生まれた時からずっと頭に残っている、母さんの記憶。
 記憶の中の母さんは、いつも泣いている。
 だから俺は、そんな母さんを元気づけたくて。
 母さん、元気出して? 俺が頑張ったら、泣き止んでくれる?
 身体を痛みが襲う度に、そんな事を考え続けた。
 検体番号と母の記憶。
 それだけが俺のすべてで、俺の大切なもの。

 今日も奴らの検査を乗り越えたある日、俺は偶然にも奴らが何かを話しているのを耳にした。

 「聞いたか? ソロの研究所が襲撃されたらしいぞ」
 「な、本人はどうなったんだ!?」
 「それが……何者かにさらわれて行方不明らしい」
 「これは事だぞ。サンプルがこれ以上届かなければ、指導部への供給が滞ってしまう!」
 「検体がもう手に入らないとなれば、今の失敗作を仕上げて指導部へ引き渡すしかあるまい……」

 そこで俺は理解した。俺たちのベースになったのが、ソロという人物である事を。
 それから直ぐに、検査は最終段階へと移行した。
 いつものように実験室に連れて来られると思っていた俺たちは、銃を渡され、だだっ広い廃墟に集められた。
 どこからともなく奴らの声が響く。

 『これから最終検査を行う。検査に合格した者は、ここを出て真人の未来に貢献する栄誉にあずかれる』

 ようやく地獄の日々から解放される……思わず嬉し泣きする奴もいたが、そんな希望は奴らの一声で一瞬にして崩れ去ってしまう。

 『では、検査を開始する』
 「あの……待ってください! 標的はどこに……」
 『いるだろう、目の前に』

 標的は、ここまで生き残ってきた兄弟たち。
 あまりに残酷な指示を前に、誰もが現実を受け入れる事ができなかった。

 『さあ殺せ。己の優秀さを証明してみせろ』

 今まで生き残ってきた俺たちの間にも、少なからず“絆”みたいなものが芽生え始めていた。それを知った上で、奴らは俺たちを焚きつけたんだ。
 俺たちは、最期の瞬間まで奴らにとっての玩具に過ぎない。それを改めて認識させられた時、突然、銃声が鳴り響いた。
 何かが倒れる音。悲鳴と嘲笑。鼻をつく鉄の臭い。
 廃墟は、一瞬にして凄惨な戦場と化した。
 俺は戦いたくなくて、真っ先に逃げようとした。
 だけど、そんな俺を兄弟たちは容赦なく撃った。
 腹に灼けるような痛みが走る。
 どくどくと血が溢れ出す。
 ――痛い。
 いつもならこんな痛み、なんて事はない。
 なのに、今日だけは違っていて。一瞬でもすがってしまった生への希望が、俺を死の恐怖へと引きずりこんだ。
 痛い、痛い、痛い!
 地べたでのたうち回る俺の上に、誰かがのしかかる。

 「殺さなくちゃ……殺さなくちゃ!」

 俺と同じ顔をした男。
 身体は恐怖で震えていて、それに合わせて銃が小刻みに揺れていた。
 すぐ目の前にある死。あのぽっかりと開いた黒い穴が火を吹けば、俺は……俺は、死ぬ事も許されない毎日から解放される?
 だったら……もういいんじゃないか。
 もう、諦めてしまっても……。
 極限状態で、生きる事を手放そうとした俺の頭に、

 『殺しなさい』

 声が……、母さんの声が聞こえた。

 『勝手に死ぬなんて、ユルサナイ』

 顔を隠して、いつも泣いていた母さん。
 だけどこの日だけは、血のように紅い涙を流し、笑いながら俺に語り掛けてきたんだ。

 殺せ、殺せって。

 ――気づけば俺は、最終検査を生き延びていた。
 兄弟たちも、研究者たちも殺して。

 「……あは、ようやく分かったよ、母さん」

 俺のするべき事が。
 母さんとひとつになれたあの日が、俺の本当の始まりの日になったんだ。

 それから俺は、強硬派の戦闘部隊に配属され、戦いに明け暮れる日々を送った。
 来る日も来る日も戦い続けて。
 そうやって何度も戦場から帰還していくうちに俺は評価され、オリンピアスコロニーにいる指導者たちから呼び出される事になった。

 「検体データを見た時は目を疑ったが……存外に悪くない戦果だ。貴様は、私の手足となって動け」

 指導者ヴォイド。
 真人を導く指導者のひとり。
 そして、別の施設で俺と同じように母の記憶を植えつけられて育った……弟だった。

EPISODE3 渦巻く策謀「いや~忙しい忙しい! 裏方仕事は大変だねえ♪」

 アナトリア方面からペルセスコロニーへと向かう数台の車両。
 その最後方、赤髪に眼帯の男ロトは、暖かな陽射しと小刻みに揺れる振動によって、うつらうつらと船を漕いでいた。

 『――おい、おい! 聞いているのかロト!』

 だが、心地よいまどろみの時間は、自身の名を叫ぶ声によって現実へと引き戻されてしまう。
 寝ぼけ眼でモニターを見ると、口々に何か喚き散らす男が映っていた。

 「あ~……ヴォイド……なんの用?」
 『あのクソガキの件だ!』
 「ひっどいなぁ、俺たちの“お父様”だろ~?」
 『ぃ、やめろぉ! ぁぁぁ、考えただけでも身の毛がよだつ……ッ!』
 「そりゃないでしょー。大好きなママと同じ血が流れてるんだよ? それってイイ事なんじゃん?」
 『それがッ! 不愉快なんだよッ!』

 ヴォイドは「母上」と呪文のようにぶつぶつと繰り返す。怒りの感情は影を潜め、不思議な沈黙が辺りに訪れた。
 それが、彼なりの怒りの沈め方なのだ。
 ヴォイドとの付き合いはそれなりに長い。
 ソロの事になるとすぐ苛立つ彼が冷静な内に、ロトは話の続きを促す事にした。

 「見つけ次第ヤっちゃえばいいんだっけ。でもさー、この任務って、そんな最優先でやる必要ある?」

 ロトはアナトリア半島東部に展開している機械種の工兵部隊を排除する任務を請け負っている。
 来たる戦争に向けての大事な任務なはずだが、弟のヴォイドにとっては、ソロを排除する事が何よりも優先されるらしい。

 『構わん。奴が真人全体の未来を脅かす前に、即刻排除するのだ』
 「…………ププ、どー見ても私怨でしょ」
 『今、何か言ったか?』
 「なーんでもないよ♪」

 ロトは通信を切った。

 「……ま、俺はソロくんを殺すつもりはないけどね」

 そうつぶやいて、別の通信帯に切り替えると配下の兵たちに指示を飛ばす。

 『ぁーあー、全隊に通達! 現在の任務は破棄! 俺たちはこれより、逃げた王子の追跡を開始する! さあ、準備準備ー!』

 ロト率いる特殊部隊は、移動手段を確保するべく今いる地点から最も近いカラージュコロニーへと急行するのだった。

 その後、ロトはカスピ大地溝帯南部でソロと接敵する事になったが、予期せぬ乱入者ミスラ・テルセーラの登場で撤退を余儀なくされてしまう。
 物資と装備を補充し、追跡を再開しようとしていたロトは、立ち寄った基地でとある人物から連絡を受けた。

 『ロト、進展はあったか?』
 「お、カイナン。王子様なら見つけたよ。くれた情報通り、イカした髪型のお兄さんと行動してた」
 『そうか、うまく立ち回るものだな。それで?』
 「まあ、途中までは予定通りに進んでたんだけどさ、帰還種の女の子に邪魔されちゃって」
 『ほう? 詳しく聞かせてもらおう』

 ロトは要点だけを手短に話した。

 『その帰還種、実に興味深い』
 「じゃあ、その子を“対象”に?」
 『ああ、我々の計画を十全にするためには、帰還種は欠かせないからな』
 「了解っと。まだ何かある?」
 『ああ、これが本題なのだが……』

 ロトは、珍しくカイナンの語調にわずかな焦りの色がある事を感じ取る。
 カイナン曰く、機械種との戦争が予想よりも早く始まる可能性があるらしい。情報を取り扱う彼が口にするのだから、それは間違いなく現実のものとなるのだろう。
 だからこそ彼は、自身の計画を速やかに進める必要に迫られていたのだ。

 「ま、大方ヴォイドが先走ってるんだろうなー。カイナン、もしかして帰還種と合流したソロくんの居場所、知ってたりする?」
 『ああ、それについては問題ない。既に居場所の見当はついている』
 「さっすが~! それにしても、一体どこからそんな情報を手に入れているんだい?」
 『信頼できる“友人”がいるとだけ言っておこう』
 「……フーン、友人ねえ」

 盟友の自分にすら正体を明かせない存在が何者なのか引っかかったが、下手に正体を探ろうとするのは自身の立場を危うくしかねない。
 正体はいずれ探るとして、ロトはただ役目を果たす事に徹するのだった。

 ――
 ――――

 ロトは長大な砲門を搭載した車両を携えて、再び大地溝帯へと戻って来た。それは、来たる戦争に向けて製造された殲滅兵器のひとつ。
 辺りはすっかり日が暮れていて、まるでひとつの色で塗りたくったような景色が広がっている。

 「この辺りで張ってれば機械種がやって来るらしいけど……もー、いつまで待たせるのさー!」

 遠巻きに大地溝帯を見渡せる場所に陣取ったロトの部隊が、長時間待ち構えていると――
 待ちに待ったその時が、ついに訪れた。
 監視していた砂漠に、突然、発砲と思われるマズルフラッシュが見えたのだ。
 そして、少し遅れて空に姿を現したのは……要塞のような巨大な機動兵器に率いられた、機械種の部隊。

 「良いじゃない、面白くなってきたねぇ?」

 ロトはすぐさまカイナンに通信をつなぐ。

 『――私だ』
 「来たよ、あいつら。お望みは~、帰還種だったっけ?」
 『ああ、よい結果を期待している』
 「了解了解っと。それじゃ、母さんのためにも働くとしますかねぇっと」

 ロトは車両から身を乗り出して腕輪を鳴らす。
 それを合図に、背後に控えていた兵たちが音もなく行動を開始する。
 人々から忘れ去られた禁忌の地で、真人と機械種それぞれの思惑が、交錯しようとしていた。

EPISODE4 騎士と狂犬「フフン、俺様の邪魔をする奴は全て片付けた! 楽に勝てる戦争ほど、楽しいものはないよねえ!」

 ロトの奇襲によって機械種の部隊は制空権を奪われ、末端の船は撃墜、または戦線からの離脱を余儀なくされていた。

 「フフーン、一方的に蹴散らすのは最高に気分がいいねえ♪ このまま完封したいとこだけど……何あれ!? こっちの攻撃を弾くのはずるくない!?」

 ロトたちの前に立ち塞がったのは、大型の戦闘艇「ウィアマリス」。
 船を覆う力場は、ロトたちの攻撃をすべて弾いていたのだ。

 「なるほどねー、こいつを落とすために、アレが必要だった訳か。砲兵隊! 準備できてる!?」
 『ハ、いつでも撃てます』
 「そんじゃ、ちゃちゃっと落としちゃって!」

 直後、大地溝帯に一条の閃光が迸った。
 それはウィアマリスの力場に真っ向から衝突し、大地溝帯の谷底に束の間の夜明けを作り出す。
 そして、力場が破られた瞬間、ロトは一斉放火を仕掛けた。
 力場を生成する装置をいとも容易く破壊され、ウィアマリスは谷底に広がる青い都市の上へと墜落してしまう。
 それを皮切りに、戦闘の潮目が変わった。
 残存していた機械種の部隊は、旗艦を失った事で都市上空を離れ、散り散りになっていく。
 戦場は、完全にロトの手に落ちた。
 続けてロトは、任務の障害となり得る都市の制圧に着手する。
 都市中央にそびえる塔を砲台で焼き払い、都市機能を麻痺させると、波が引くように攻撃の手が止んだのだ。

 「フフーン、これで俺様の邪魔をする奴は誰もいない♪」

 後は、本来の任務を全うするのみ。
 2人の帰還種とソロを回収するだけだ。
 ロトは手始めに、墜落したウィアマリスへと向かおうとするが、そのウィアマリスから何かが飛んでいったのを目にする。
 それは、小型の戦闘艇だった。
 不思議な事に、その船は都市から離脱するのではなく、何故か真っ直ぐに都市の中心部へと向かっていき――
 ロトは瞳を三日月形に歪めて、くつくつと笑った。

 「ああ、今日はなんて運が良いんだろう♪」

 ロトは砲兵隊に通信をつなぐと、指定したポイントに撃つよう指示を飛ばす。
 放たれた光は指定したポイントから若干ズレてはいたが、着弾による余波が機械種の船を巻きこむに至った。

 「うんうん、念には念を入れておかないとね♪」

 燃え盛る炎が都市を蹂躙する中、ロトが乗る船は都市の中央付近に到達する。
 足場の悪い場所で着陸するのは困難なため、ロトはワイヤーを垂らして直接下へと向かう。
 砲台によって焼き払われた都市の地下部分は、惨憺たる有様だった。

 「あっは、だいぶ派手にぶっ飛ばしちゃったな~。帰還種生きてる?」

 続けて降下してきた兵たちと共に捜索を開始すると、ふとロトの近くで物音がした。
 見れば、そこには瓦礫の下敷きになった機械種が倒れている。砂漠での監視中に確認した、機械種の将アイザックだ。
 彼の鋼鉄の巨体は著しく損傷し、4本の腕のうち2本が途中で千切れ、小さな火花を散らして悲鳴にも似た駆動音を奏でている。
 彼は、何かを護るように蹲(うずくま)っていた。

 「グッ……ガ……」
 「へぇ、そんなボロボロな状態でもまだ生きてられるの? さすがだねー」
 「き、キサ、マ……の……仕業か……」
 「正ー解ー♪ まさか自分が負けるなんて、これっぽっちも思ってなかったでしょ? 隙を見せたそっちが悪いんだぜ?」
 「神、聖な……戦いを、穢す……不届者がッ!!」

 怒りの声と共に、アイザックは瓦礫を薙ぎ払い立ち上がった。その足元には、意識を失ったまま動かない帰還種の少女――ニアの姿が。

 「身を挺して庇うなんて、ナイトでも気取ってるわけ? 考えが古臭そうな奴だと思ったけど、これで納得できたよ♪」
 「……口ばかりの、たわけが。正道から外れた貴様の行い、万死に値するッ!」

 アイザックは、その巨体を更に大きく誇示するかのように身体を震わせてロトを威圧する。

 「マジ? 戦う気?」
 「無論ッ! この身動く限り……必ずや、貴様に裁きの鉄槌を――」
 「ハイハイ! そういうのいいから! 皆さーん、戦闘準備ー!」

 ロトが腕輪を打ち鳴らすと、散っていた兵たちが2人を取り囲むように集結した。
 ロトの合図ひとつで、アイザックはたちまち鉄塊と化してしまうだろう。

 「奇襲の次は、集団で嬲(なぶ)るか。群れなければ何もできん、どこまでも戦いを穢す輩よ……ッ!」

 アイザックが一歩、また一歩と近づいてくる。
 しかし、倍にも等しい体格差を前にしても、ロトの飄々とした態度はブレない。揺らがない。
 そればかりか、この状況を楽しんでいるかのようにより一層、笑みを深くする。

 「フフ、ひとりで熱くなっちゃってまぁ……」

 ロトは両手を広げたまま、優雅な足取りでアイザックの眼前へと歩み寄った。

 「さあ、ゲームスタート♪」

 鋼鉄の騎士の咆哮が、戦場を震わせる。
 戦いを穢す愚者を裁く鉄槌が、振り下ろされた。

EPISODE5 雌雄決す「戦いに、綺麗も汚いもないんだよ。そんなものは戦いもしない奴らが作り出した、ただの幻想さ」

 先手を取ったのはアイザックだった。
 振り上げた鋼鉄の腕を鞭のようにしならせて、ロトの頭上へと振り下ろす。
 だが、狙いのハッキリとした攻撃を避ける事など、彼にとっては造作もない。

 「フフン、バレバレだねえ!」

 ロトは銃も抜かず、両手をコートの中にしまったままステップを踏むようにひらりとかわす。

 「賢しいわッ!」

 アイザックの両腕が、ロトの頭上をかすめる。
 一撃を浴びようものなら、いかに身体を強化された真人であってもひとたまりもないだろう。
 だが、ロトは死の匂いを身近に感じつつも、微塵も恐怖の感情を抱いていない。
 ただ無邪気に、ただ愉快に。
 ロトは笑い踊り続けた。
 戦いは終始一方的で、アイザックの身体が軋みをあげ続けるだけに留まり、無為に時間だけが過ぎようとしていた。

 「あれ、もう終わり?」
 「貴様……それだけの力を持ちながら、何故まともに戦おうとせんのだッ!」
 「だってさあ、楽しいじゃん。弱い者イジメって。俺に当てようともがいてるのを見ると、キュンってきちゃう♪」
 「もはや、問答無用……ッ!」

 アイザックが唸りを上げながら突進する。

 「もっと遊んでもよかったんだけどさ……ごめーん、もう飽きちゃった」

 ロトは右手を首の高さまで上げると、スナップを効かせて首を切るように手を振った。
 その直後、アイザックは多方から襲い掛かった砲火の直撃を浴び続け……それきり二度と動く事はなかった。

 「万全の状態だったら、俺を簡単に殺せたと思うけどさ……これ、戦争だから♪」

 ロトは満足そうに頷くと、兵たちに回収指示を出す。
 兵たちがニアの身柄を船に移送する準備を進めていたその時。
 立ちこめる黒煙を切り裂いて、一隻の戦闘艇が頭上を飛び去っていったのだ。
 それが瞬時にソロの乗る船だと判断したロトは、上空に待機している船へ通信をつなぎ、攻撃するよう指示を出す。
 だが、次の瞬間、ふたつの影が一直線に落ちてきた。

 「お? おお? 今日は本当についてんじゃーん♪」

 それは不幸中の幸いか。
 それこそが、ロトの探し求めていた標的のひとつ、ソロ・モーニアだった。

EPISODE6 明暗「帰還種は回収できたし、思わぬ収穫もあった。母さんの願いを叶えるまで、もう少しだねえ♪」

 朝焼けがカスピ大地溝帯の谷底を、微かに照らしている。
 その光に逆らうようにして立ち昇る煙の中を、高速で飛翔する物体が突っ切っていった。
 それは、強硬派の特殊部隊が運用する深紅の戦闘艇。
 ニューネメアコロニーでの作戦を終えたばかりの、ロトたちの船だ。

 「~~♪」

 船内に、陽気な口笛が響く。

 『……やけに上機嫌だな、ロト』
 「あは、やけにじゃなくて、いつもじゃん?」

 船長席にもたれかかり、コンソールの上に脚を投げ出して座るロトは、モニターの向こうにいるカイナンへと語りかけた。

 『ならば、相応の収穫があったのだろうな?』

 カイナンは眉間に皺を寄せ、ロトに訝しげな視線を向けている。

 「もちろん。期待以上の活躍をしたと思うなー♪」
 『御託はいい。結果を見せてくれ』
 「せっかちだなあ。まあいいや、それじゃ結果をご覧あれってね」

 そう言って、ロトは椅子から降りて後方を振り返る。

 「じゃじゃーん!」

 そこには、意識のないふたりの男女が、床の上に乱雑に転がされていた。

 「ご注文の品はこちらでお揃いかな?」
 『重畳、と言いたい所だが、もうひとりはどうした』
 「そっちは取り逃しちゃってねー。代わりと言っちゃなんだけど、これはカイナンも喉から手が出る程欲しい奴だと思うんだ♪」

 ロトはモニターに映るように何かを掲げて見せた。
 それは、ロトの頭の倍はある大きさで――

 『――っ』

 モニター越しに空気が変わるのを感じた。
 分かりやすい変化に気を良くしたロトは、口笛を吹いてこれ見よがしにニヤリと笑う。

 「フフーン。もしかして、サプライズ成功?」
 『……では、後ほど落ち合うとしよう』
 「は~、つれないなぁ。了解了解っと。じゃ、また後でねー」

 モニターに映る合流地点を確認した後、ロトは通信を切り満足そうに口笛を吹かす。
 ふと、背後から微かな呻き声が聞こえてくる。

 「お、噂をすれば♪」
 「…………っ、どこだ、ここ……」

 ロトは深い眠りから目覚めたばかりのソロにいつもの調子で話しかけた。

 「たしか、俺は……」
 「おはよ~う、ソロくーん! よく眠れたかな~?」

 ――
 ――――

 一方、その頃。
 ドックを脱出した直後、ロトの部隊と交戦する事になってしまったミスラ、ゼファー、ヨアキム。
 3人はどうにか敵船を撃墜できたものの、結果的にその場を離れざるを得なかった。
 ソロを取り返すべく、ドックに戻ってきたものの、時はすでに遅く。そこに残されていたのは、ふたつの機械種の残骸だけだった。

 「まさか、あの大将がやられちまうとはな……」

 ヨアキムは、ソロを巡って戦いを繰り広げて来た機械種の将に哀悼の意を捧げる。
 不思議な事に、アイザックの残骸は頭部だけがどこにも見当たらず、何かに斬り取られたかのような断面が露出していた。

 「ニア……」
 「嬢ちゃん、元気だしな? この大将も、嬢ちゃんの友達を護るために戦ったんだろうぜ。さっきの奴らにさらわれたに違いねえ」
 「……うん。わたし、追いかける!」
 「お、おお、相変わらず立ち直んのが早いなぁ、嬢ちゃんは。そういうとこ、見習わないとなぁ……俺も、ゼファーも」

 ヨアキムの視線の先――ニューネメアコロニーの支配者ミカの残骸の前で、ゼファーは静かに涙を流す。
 結果的に争う事になってしまったが、ミカの都市に生きる者たちを護りたいという願いは、ゼファーにも通ずるものがあったのだ。

 「ごめんなさい。貴女の大切な世界を、滅茶苦茶にしてしまって……」

 巻き込まれる形で始まった戦いだったが、結果だけ見れば惨敗だ。
 敵が飛び去って行った方角も分からないのに、どうやってソロとニアを助けるのか。
 これからの方針を決めなければならなかったが、この広大な大地から探し出すのは不可能だろう。

 「さて……どうしたもんかねぇ……」

 ぼやくヨアキムの視界の端で、ミスラがふらふらと何かを追いかけるように歩いていた。彼女は、微かに見える空に耳を澄ましているようだ。

 「ん? おい嬢ちゃん、何を――」
 「待って。今、何か聞こえたわ!」

 ミスラは「あっちの方」と告げると、返事も待たずにドックの外へと駆けていく。
 慌ててヨアキムも後を追うと、そこには傷だらけの戦闘艇が今まさに着陸した所だった。
 それは、ミスラが乗る船によく似ていて――

 「まさか……大将の部隊の生き残りか!?」

 後部ハッチが開く。中から現れたのは、ふたりの男だった。

 「えっと、誰?」

EPISODE7 予期せぬ逃走劇「フーン、すごいね帰還種って。それとも、あの子だけが特別なわけ? 興味わいちゃうな~♪」

 「ん~、もしかしてマズっちゃった感じ……?」

 ロトは今、己の判断を悔いていた。
 カイナンの任務を優先するため、ダメージの大きい戦闘艇を基地に帰還させた事で手薄になった所を、狙われてしまったのだ。
 追手は遥か後方について来ている二隻の戦闘艇。
 いずれもニューネメアコロニーで撃墜を免れていた、機械種の船だった。
 それだけなら別段問題はない。現状の部隊でも十分に処理できる戦力がある。
 だが、片方の船に搭乗している人物が、ロトを大いに悩ませていたのだ。

 「あの子、どーしてあんな状態で狙撃できんの!?」

 モニターに映る戦闘艇――その上に立つ少女に。

 「ゼファー! ちょっと右!」
 『分かったわ!』

 船体上部に身体を固定させた少女――ミスラは、身を屈めたまま弦を引き絞る。
 最新型の音素兵器であるミトロンと連動した眼帯の奥では、蒼く輝く瞳が寸分たがわずロトたちの紅い船を捉えていた。
 そして、放たれた光の矢は船体すれすれを目掛けて飛来し、“正確”にかすめていく。

 『良い調子よ! 距離も少しずつ縮んできてるわ!』
 「よーし、もう一発!」
 『ったく、俺も少しは慣れてきたつもりだったが、相変わらずイカれた事するぜ、嬢ちゃんはよぉ……!』
 「あはは、そーかな? でも、ヨアキムだって本気を出したらこれぐらい、できるよね?」
 『そんな曲芸はできねぇって!』

 ヨアキムは、すぐ後ろを飛んでいる別の戦闘艇に話を振った。

 『なぁ、そっちはどうなんだ?』
 『……いや、いくらなんでも彼女のやり方は、我々の理解の範疇を超えているよ』

 ニューネメアコロニーで遭遇した2人の帰還種――アンシャールとマードゥク。
 アイザックが率いる部隊の生き残りである彼らは、さらわれたニアを救出するために一時的に協力関係を結んだ間柄であった。

 『なあアニキ、俺にもできるかな、あれ……』
 『悪いことは言わん、止めておけ』

 アンシャールとマードゥクも、初対面からいきなりミスラの突飛な行動を見せつけられてしまい、呆気に取られているようだ。
 ミスラはそんな会話を通信機越しに聞きつつ、前方の船の動きをいち早く察知する。

 「ゼファー! あっちの船が動くよ!」

 ミスラの指摘通り、遥か先を飛ぶ四隻の船のうち、二隻が弧を描きながら反転し、こちらへと向かってきていた。
 二隻の船は、ゼファーたちの進行を乱すべく、船と船の合間を狙って攻撃を仕掛けてくる。
 ゼファーは即座に船を上部へと逃がし、ミスラに被害が及ばないよう回避した。

 「ありがとう、ゼファー!」
 『振り落とされないよう気をつけて!』

 そして、敵の船が真っ直ぐに下方を通り過ぎ、縦に大きく回転して背後を取ろうとしたその瞬間を狙って矢を放つ。
 矢は真っ直ぐに船の推進器を射抜き――そのまま地上へと墜落していった。

 『でかしたぜ、嬢ちゃん!』
 「次だね!」
 『いや、もう一隻はこちらが引きうける。ふたりは残りの船にいると見て間違いない。君たちはニアを』
 『了解、そちらも気をつけて』
 『ミスラ! ニアを、頼む!』
 『うん!』

 ロトの船は残り二隻。
 彼我の距離は、急速に縮まりつつあった。

 「――あの子、断然ヤバい! 無理無理! あんなのバカ正直に相手してらんないよ!?」

 ミスラの規格外の強さを目の当たりにして、ロトは身体をのけ反らせたまま苦悶の表情を浮かべていた。

 「……ロ、ロト様が取り乱している……」
 「あんなお姿は初めて見たな……」
 「たったひとりのぶっ飛んだ奴に、俺様の部隊がメタメタにされるなんて……あ~もうっ、決めた!」

 ロトはひとつの決断を実行するために、全員に指示を飛ばす。

 「この船を……囮に使う!」

 威嚇射撃を続けていたミスラは、相手の船に動きがあった事を察知する。

 「え、船の速度が……落ちてる?」

 先頭を飛んでいた船が、見るからに速度を落とす。
 そのまま後続の船の上部にまで移動すると、不意に後部ハッチの扉が開いた。
 中から姿を現したのは、赤髪に眼帯の男ロトとその部下たち、そして彼の手の中で眠りにつくニアだった。

 「ニア!」

 ロトは友人を相手にするような気軽さで、ミスラに向かって手を振ると、下に並走していた船へと突然飛び移ってしまう。
 直後、ミスラの耳元にゼファーの声が響く。

 『ミスラ! あの船の中……ソロがいるわ!』

 オープン回線で送られてきた映像には、椅子に括りつけられ身動きが取れないソロが映っていた。

 『チッ、あの眼帯野郎……囮に使って逃げる気か!』
 「じゃああの船、落ちちゃう……?」

 ミスラの予想は、辺りに響いたロトの声によって現実のものとなった。

 『ぁーあー、きみたちスゴいね! 感動しちゃった♪だからそのお礼に、ソロくんを返してあげるよ。でも早く助けに行かないと、地面に激突してミンチになったソロくんとご対面になっちゃうかもね♪』

 そう言ってる間にも、操縦者のいなくなった船はどんどん高度を下げている。

 『それじゃ、良い空の旅を。バイバ~イ!』

 ロトたちを乗せた深紅の船が空域から遠ざかる。
 ソロを見捨てるか、ロトを倒してニアを救出するか。
 もはや残された猶予はない。
 ミスラたちが取るべき選択は――

EPISODE8 恐怖が、人を変える「お姫様はとても強気でいらっしゃる。だから俺は興味があるんだ、きみの本当の素顔にね♪」

 「ロト様、追手を振り切れたようです」
 「フゥ……とんでもない奴だったねえ……流石の俺様もヒヤッとさせられたよ」

 ソロを囮にしたロトの苦肉の策は功を奏し、追跡者を完全に撒く事ができた。
 念のためレーダーに何も表示されていないのを確認すると、ロトはおもむろに背後の積荷へと疑問を投げかける。

 「ねえお姫様、帰還種ってみんなあの眼帯っ子ちゃんみたいにぶっ飛んだ武器が使えるの?」
 「…………」

 帰還種の少女ニアは、質問には一切答えずにただ睨み返すだけ。

 「お~怖っ! もっとさあ、キャーとか助けてー! とか、リアクションないの?」
 「私(わたくし)を捕らえて……どうするつもり?」
 「やっと喋ったと思ったらそれ? まーいいや。そうツンツンしないでさ、もっと仲良くしようよ。別に、悪いようにはしないから。そうだ、あったかいもんでも飲む?」
 「敵の施しなど受けん!」

 あくまでもにこやかに接するロトだったが、ニアの表情は頑なだ。
 潔癖さすら感じる姿勢は、まるで堅固な城のよう。
 ロトはそんな彼女の振る舞いに目をきょとんとさせ、くつくつと笑い始めた。

 「……何が、おかしい」
 「あ~、なんていうかさ、あのロートルの手下なだけあって、お姫様も頭がカッチカチなんだなーって♪」
 「……ッ! 貴様にアイザック様の何が分かる! 貴様等の非道は、いずれ必ずアイザック様が――」
 「アハ、アハハハハ! キミたち面白いねえ! 最っ高! いくらなんでも感化されすぎでしょ!!」

 ニアの叫びをかき消すように、ロトの哄笑が響く。

 「死体を弄び、非道な行いを繰り返す真人ごときが、知ったような口を聞くな!」
 「うわ、傷ついちゃうなあ~」
 「笑っていられるのも今のうちだ! アイザック様にかかれば、お前たちなど!」
 「アイザック、アイザックって。そんなに会いたきゃ今、会わせてあげよっか?」

 そう言うと、ロトは船長席の方でゴソゴソと何かを漁りだした。

 「は? 何を……」

 ――ゴン。
 言い終わらぬうちに、何かの塊が目の前に飛びこんで来た。重く甲高い音を響かせたモノの正体、それは――

 「ぁ――ぁぁ――っ」

 ニアの上官、アイザックの頭部だった。

 「ホラ、会えたでしょ♪」
 「……キ、サマアァァァァァァッ!!!!」

 手足を拘束されている事などお構いなしに、ニアは笑いを堪えている男の足に噛みつこうともがく。
 無感情を装っていた女が初めて見せた形相は、今すぐお前を殺してやるとでも言いたげだ。

 「フフーン、その怒りの感情、とってもいい! 帰還種も、俺らと大して変わらないじゃんね?」
 「貴様のような下衆と、一緒にするなァァァッ!!」

 怒り叫ぶニアとは対照的に、ロトの表情は穏やかで、曝け出された剥き出しの感情をどこか楽しんでいる節すらある。

 「いいよお姫様、もっと色んな表情を俺に見せて欲しいなあ~♪」
 「あの……ロト様、そろそろ目標のポイントに差し掛かる頃合いなのですが……」
 「え、もう? しょうがない、ちょっと静かにしててくれる、お姫様?」
 「く……ッ! 私を殺したければ、今すぐ殺せ!」

 兵たちがニアを取り押さえようとするが、彼女は全力で暴れ続けて取りつく島さえ与えようとしない。

 「あのさぁ、お姫様は何か勘違いしてない? 俺らは別に命を取るつもりなんて――」
 「貴様の言葉など、信じられるものか! 私は、どんな痛みも、辱めも受けたとて、真人共に屈する事はないと知れ!」
 「フーン……、しょうがないなぁ……」

 ロトはニアの前にしゃがみこむと、不意にニカっと笑って、言った。

 「じゃ、遠慮なく♪」
 「ぇ――」

 呆けたニアの首に、手が添えられた。
 ひと息にこめられた力は、ニアの呼吸を妨げ、気を動転させる。

 「ん、ぐ……ッ」

 ロトの予期せぬ行動によって、ニアの意識は激しく混乱し、視界は明滅を繰り返す。縛られている事で下手に暴れた身体の全体重が、容赦なく首へと襲いかかっていく。

 「――ぅ――、ぁ――」

 定まらない視線は、自身の命の行方を文字通り握っている男へと、どうにか注がれる。
 逆光で表情はよく見えないが、苦しむ自身の姿を捉えた瞳がキュッと弧を描いているのが分かった。
 ロトは苦しみを与えながら、決して彼女の瞳から目をそらさない。
 その姿は、獲物をじっくりと観察する捕食者のような眼差しをしていた。

 「――ゲホっ……、ゲホっ――ん、ぎッ――!?」

 ロトはニアが気を失う直前で手を緩め、安堵した瞬間に再び力をこめて苦しみを与え続ける。
 終わりの見えない拷問は、たった数十秒の出来事であったとしても、彼女の体感する時間を、数十分、数時間にも変えてしまう。

 「~~♪」

 ニアのうめき声に合わさるロトの口笛が、ニアの脳裏に恐怖を刻みこんだ。
 そうしてニアが解放されたのは、彼女の瞳に微かな怯えが滲んだ時だった。
 ロトは微笑みを絶やさず、ニアに語りかける。

 「偉い偉い♪ よく頑張ったね。流石に軍人なだけはあるのかな?」
 「っ……わ、私は、この程度で……!」
 「じゃあ次ね! お姫様はこんな拷問を知ってる? 歯を一本ずつ抜いてくヤツ♪」
 「え……?」

 さっきまでとは打って変わって、ロトはニアがその言葉の意味を咀嚼し、しっかりと理解できるようにわざとらしくゆっくりと話し始めた。
 ニアを仰向けにさせ、のしかかると、

 「俺もさぁ、最初にされた時はマジで痛くて」

 懐から一本の小さなナイフを取り出す。

 「あいつらってば、泣きわめいても絶対に許してくれなかったんだよね~」

 慣れた手つきで、ナイフを熱し。

 「そのくせに、あいつらってばヤり終わったら俺の事見向きもしなかったんだぜ?」

 ニアの半開きの唇からのぞく歯を、やさしくなぞる。

 「でもさあ、安心していいよ。俺はちゃんと最後まで見ててあげるから。じゃ、前歯からいっとこっか♪」

 コツンとナイフの重みと熱が伝わる。
 その時、ニアは見た。歪められたロトの瞳の奥深くに渦巻く、澱のようなどす黒い感情の塊を。
 それが、トドメだった。

 「ゃ……ぇ……あっ、ぁぁぁ……」
 「ん~? 何か言った?」

 必死に堪えていた怯えは一瞬にして身体全体へと伝播し、歯止めの効かなくなった恐怖に思考さえも支配されてしまった。

 「や、めて……くら、さぃ……やめっ、ください、もうっ、くひごたえ……しな、から――」

 ニアの身体が弛緩している事に気づき、ロトはナイフをあっさりと引っこめる。そして、彼女の頭を優しくぽんぽんと撫でた。

 「フフ、なーんだ。“普通”じゃん」
 「ぁ……ひぐっ……、っ――――」

 初めて直面した本当の恐怖に屈してしまった自分。
 アイザックの死に報いる事さえできない己の無力さ。
 あらゆる感情をない交ぜにして、ニアは泣き続けた。

 「あー……ごめんね? 俺もお姫様を傷つけるつもりなんてなかったんだけどさ……つい♪」

 無邪気に笑うロトの姿は、先程見せた残虐さが微塵も感じられない。
 そればかりか、もう彼女への興味を失ったとでも言うように、「じゃ、大人しくできるよね」とだけつぶやいて席に戻ってしまう。

 「さて、静かになった事だし、向かうとしようか! 母さんが眠る街にね♪」

 船は間もなく、機械種が敷く防衛網に差し掛かる。
 向かうは、戦乱の地から遠く離れた廃都。
 死した聖女が眠る地――サマルカンドへと。


■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧


コメント

  • マジでイカれてるロト、でもそこが好き -- 2024-04-25 (木) 20:00:14

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