SS〚英雄物怪神前勝負〛

Last-modified: 2024-04-08 (月) 20:03:00

概要

時は20☓☓年8月1日。
倭神國最恐の呪術師、麻摩堂真はとある目的の為倭神國全土を結界で覆い、その中に自らが心の中で(そうあれ)とした世界、まさに地獄を顕現してみせた。

各地で荒ぶる神々に、無辜の民を斬り伏せる様子のおかしい英雄達。
蘇った怪物たちに紛れ、地獄となった倭神國で一人の武士(もののふ)が復活した。
その名もワジンイサマ?。古代倭神國で数々の服わぬ神々を斃し、王を斬り伏せた最強の英雄である………
堕ちた神々、戦場に降り立つ怪しい影、そして麻摩堂真の目的とは…
英雄物怪神前勝負(えいゆうもののけしんぜんしょうぶ)
今、開幕。

目次

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第一章 地獄

20☓☓年8月1日。
スメラシナ大陸の左にある島国、倭神國は、記録的な猛暑日となっていた。
炎天下のもと、町は行き交う人々で溢れ、賑やかさを増していた。
屋台で素麺を啜る武士、家の前に水を撒く町娘、風車を手に走る子供達。

夏の倭神國でよく見る、日常的な光景。
……それが何も前触れもなく、崩れさる。
 
空は鮮血のように赤く、太陽は漆黒に染まる。
町の至る所から、そこにいないはずの怪物が現れる。

物の怪「そこだー!」

町人「ギャー!!」

子供「お母さーん!」

物の怪「そこか!一刀のもと斬り伏せる…!」
町人の首が吹き飛ぶ

町人「うわーっ!く、来るなぁ!」

武士「お、俺がまもr」
体がねじ切れる。

町人「か、神様ぁぁ!どうか、どうかうちの子供だけはお助けくださいぃ!」

~大御所宮近く~

町人「な、何なのだこの空は…」

町人「、、!ミナツカノカミ様!この空は一体なんn」

ミナツカノカミ?「……我が名は北禍津神。災害神・北禍津神である。」

町人「え、何を仰っていr」
薙刀で縦に真っ二つになる。

北禍津神「和魂(ミナツカノカミ)の私め…斯様なくだらないままごと遊びをいつまで続けるつもりだ?我が終わらせてくれよう。」

~山奥~
???「イイイイイイイイイイイイイッッッッッッッ!!!!!」

猟師A「な、何なんだ!?こんな化け物初めて見たぞ!?」

猟師B「に、逃げるべ!」

???(口から火炎を吐き、周囲を焼き尽くす。)

…………………………
……………………
………………
…………

麻摩堂真「………うむ。全て、全ては順調に……」

麻摩堂真「見ておりますか!!偉大なる""よ。これより始まるのは怪物による蹂躙ッ!殺戮ッ!」

麻摩堂真「……ええ、ええ。もちろん。仰せのままに。」

~倭神國某所~
鮮血の川。
そこはかつて、多くの人々が行き交っていた道。
しかし今は、物言わぬ骸が六百。
そして、剣を携えたまま倒れた、端正な顔立ちの少年が一人。

その名もワジンイサマ。かつての倭神國で服わぬ王を、怪物を、神々を数多斬り伏せ、倭神國を平定した英雄である。

???「…………私は…」

第二章 戦闘~曲がーれ☆スペクタクル~

イサマ「………私は、一体…」

町人「……!?ちょ、ちょっとあんた!早くこっちに来なさい!魔物が居て危ないよ!」

イサマ「…そ、そうか。」

町人に歩いていくイサマ。
一歩、二歩と歩みを進め、三歩目を踏み出した瞬間、
町人は、いや、怪物は町人の皮を破り、その正体を現す。

怪物「死ねぇぇぇぇえええ!!!!」
怪物は凄まじい速度で接近し、イサマの足を引っ張り転ばs
イサマ「遅い!」(怪物の腕を切り落とす)

怪物「ッッ!!」
倒れた怪物に剣を振り下ろし命を絶つ。

イサマ「何なのだ?この怪物は。それに、町の建物は全て潰れている…」

イサマは辺りを散策する。といっても、この辺りはどこに行っても死屍累々。
屍山血河の風景が変わることは無かった。

イサマ「人が誰一人として生き残っていない…」

血の川に沿って歩く。

イサマ(………何故私がここに?どれぐらい経ったかわからないが、私は過去に死した亡者。私は死んで、ハメツの元へ行き、それで…)

過去の記憶はそれ以上思い出すことができなかった。

イサマ(…………にしても、気分が悪い。いつまで倭神國の民の死体を見続けなければならない?)

イサマは死体から目を背けるように、空を見上げる。
空は未だ赤く、漆黒の太陽はその場でとどまり続けている。

……その時、赤い空を駆ける青い光が一筋。
その光はどんどん近づき、正体が見えてくる。

???「あはっ☆見ーっけ☆」

それは少女だった。しかし、その身から発せられるオーラでそれが人間ではない事がわかった。

イサマ「…!?」

???「えーい☆」
手から青い星が放たれ、イサマに向かって飛んでいく。

イサマ「ッ!」
イサマは剣で星を弾く。

???「やるじゃん☆ウチの星ちゃんを防ぐなんて☆」

特徴的な口調、オレンジの長い髪、目に見えるレベルの青い神威。
イサマは過去に、この邪神と戦ったことがある。

イサマ「お前はっ!」

???「久しぶりー☆イサマ君☆」

精神の神から転じ、星辰の神となった南方の邪神、その復活体。
その名も……
再生星辰・イナラクマアリ
麻摩堂真が召喚せし六柱の再生神格、その一柱である。

イナラクマアリ「こんなところでまた会うなんてね☆」

イナラクマアリは再度、手から青い星々の弾幕を発射する。

イサマ「同じ手が通用すると思(バンッ!!
再度、剣で弾こうとするが、星が剣に当たった瞬間爆発を起こした。

イナラクマアリ「隙ありあり~☆」
イナラクマアリはイサマの背後に回り、正拳突きで穴を空けようとするが、すんでの所で躱される。

イナラクマアリ「やっぱりイサマ君は速いね~☆」
イナラクマアリは手を振り回し、青い斬撃を発生させる。

イサマ「くっ!小癪な!」
イサマは剣で斬撃を受け止める…が、斬撃は破裂しイサマは後ろに吹き飛ぶ。

イナラクマアリ(………やっぱり☆、あの剣は…!)

イサマの剣。それは神々により創られた破邪の神剣。倭神國で初めて創られたその剣は、全ての魔術を魔力に変換、吸収することで無効化することができる。
しかし、吸収できる魔力には限界があり、限界値まで吸収した状態で魔術を吸収しようとすると変換された魔力が空気中に勢いよく広がり、小規模な爆発が発生する。

イサマ(……!まさか、あの初撃で限界値まで達した!?)

イナラクマアリはイサマと一定の距離を取り、次々と青い星や斬撃を飛ばしていく。

イサマ(くっ…一瞬で間合いを取って斬り伏せるしか…しかし、そんな隙が見当たらない!)

イナラクマアリ「うーん☆そろそろ飽きてきちゃった☆」

イナラクマアリは手を天に掲げたかと思うと、周囲の夜空は青黒くなり、満天の星空が広がる。幻想的な夜景は輝きを増し…

イナラクマアリ「死ね☆」

夜景に浮かぶ星々は青い星に変化し、イサマに向かって落ちてくる。
イサマは落ちる星々を交わしイナラクマアリに接近していくが、イナラクマアリは近づかれないように後退するため、一向に距離が狭まらない。

イサマ(…このままでは埒が明かない。一旦引いて体制を整えなければ…)

イナラクマアリ「逃さないぞ☆」
イナラクマアリは地面を豪快に抉って衝撃波と岩石を飛ばし、イサマに当てる。
が、イサマはそれを耐え、素早い身のこなしで砂煙に紛れ死体の山の中に隠れる。

イナラクマアリ「………あれ?どこに行っちゃったのかなぁ☆イサマくーん☆」

第三章 邂逅

………あれからどれだけの時間が経っただろうか。
一瞬の隙をつき、星辰の神イナラクマアリから身を隠したワジンイサマ。
イサマは腐敗した骸の山の隙間から外を見ていた。

イサマ「………………」

???「誰かー!誰か生きていませんか!」

イサマ「………………………」

???「………………」

イナラクマアリ「いないか~☆」

イナラクマアリ「もしかしたら本当に、遠くの方へ逃げたのかな☆これ以上ここを探しても意味ないか…」

イナラクマアリ「な☆」
イナラクマアリは骸の山を覗き込む。

イサマは居ない。当然、そこにあるのは骸だけ。

イナラクマアリ「………………………居ないね☆」
と言うと、イナラクマアリは飛翔し、何処かに消え去った。

数分後、イサマは骸を押しのけて山から出る。
気づけばあの幻想的な夜空は消滅していた。
今は8月1日夜の9時。
しかし、空は未だ血のように赤く、暗黒の太陽はその場から微動だにしない。
ここで立ち止まっていても何も無い。イサマは屍山血河ではない自然の山河を目指し、ひたすら歩いていった。
……………………………………
……………………………
……………………
歩く事数時間、山の麓にたどり着いた。緑で溢れた、自然の山だ。
死体の山を見続けたイサマにとっては、それは心の癒やしとなっただろう。

イナラクマアリに見つかるかもしれない。
イサマは足早に、木々の中に消えた。
もしかしたらこの中に人が生き残っているかもしれない、生者に会えるかもしれないという希望を抱いて。

……更に数時間後。
緑で覆われた静かな渓流に出た。
不思議なことに今まで野鳥や獣、それどころか虫や魚の一匹も見つけられなかった。
鳥の囀りも、蝉の大合唱も聴こえない。
この森はおかしい。
そう思い、下流に向かおうとすると…
足音。
それは砂利を踏みザッザッと音を出しながら近づいてきて…

???「おっ母の仇ーッッ!!」

イサマは背後から振り落とされた木の枝を躱し、背後を振り向く。

そこには、一人の少女がいた。
怪物によりつけられた傷が痛々しく、目には涙を浮かべていた。

少女「…あれ?あっすす、すみません!!」

イサマ「だ、大丈夫だが…一体何があったんだい?」

少女「ええと、実は、ウチのおっ母が、怪物に殺されて…!!!」

イサマ「…そうか。とりあえず、今は安全な所に避難しよう。……この近くに洞窟とかは?」

少女「洞窟ならあそこに…でも、あの洞窟には巨大なタニシが居て…」

イサマ「大丈夫だ!タニシぐらい、私の敵ではない!」

イサマは少女に連れられるまま洞窟に入った。

少女「アレです!」

そこには…
タニシがいた。
しかし、只のタニシではない。6mを有に超える巨大なタニシ。
それはかつて、長く生きた結果、川の神となったもの。
漆黒の太陽を長く見すぎたせいで気が狂い、悪神と化した存在。
その名も
豊螺川尊(とよにながわのみこと)

イサマ(……え、神!?…いや、イナラクマアリと比べたら全然弱い、勝てる!)

イサマは剣を手に豊螺川尊に近づく。

豊螺川尊「…!」

豊螺川尊は何かを察し、殻の中に籠もる。
イサマは殻を断ち切ろうとするが、傷一つとしてつかない。

イサマ「それならば…!」
イサマは剣とそこら辺の大きめの石でテコのようにして豊螺川尊を少し持ち上げ、隙間から上に蹴ってひっくり返した。

豊螺川尊「…!!!」
イサマは豊螺川尊に登り、斬り伏せようとする。
豊螺川尊は回転して抵抗するがそれも虚しく、一刀のもと斬り伏せられた。

少女「す、すごい!!」

イサマ「ふふん!見たか、これが我が実力!」

少女はイサマのもとに駆け寄る。

イサマ「この洞窟は…そんなに長くはないな。よし、ここを仮の避難所にしよう。そういえば、ここらへんで人は見なかったか?」

少女「……見なかった。私は山に逃げれたけどそれ以外の皆はいきなり出てきた怪物に……」

イサマ「そうか……そういえば、何故今の倭神國はこのようなことに?」

少女「それもわかんない…いきなり空が赤くなったかと思ったら、そこら中から怪物がうじゃうじゃと!」

イサマ「そんな事が…」

少女「うん……」

イサマ(………先程の戦いで手と剣がベトベトだな…)

イサマが少女の方を見ると、怪物から逃げて山を走り回った疲れからか、少女は寝ていた。

イサマ(………洗いに行くか。)

第四章 落つる星辰

洞窟から少し出た所にある渓流。
イサマは手と剣を洗っていた。

イサマ(………まさか、今の倭神國があんな事になっていたとは…)

夜だからか、水面には満天の星空が反射して幻想的な光景が広がっている。

…………先程まで空は鬼灯よりも赤く、漆黒の太陽が天の頂で狂気を撒き散らしていたというのに!!!

イサマ「!!!」
(バゴオォォォン!!!
突如落ちてくる青い星。
イサマはすんでのところで回避する。
そして………

空から降りてくるソレの背後に揺蕩う、目に見えるレベルの青い神威。
そう、再生星辰・イナラクマアリのお出ましである。

イナラクマアリ「イサマくん☆探したんだよ!☆」

イサマ「イナラクマアリ!」

イナラクマアリ「酷いよ、イサマくん☆私という女がいるのに!ガン無視して逃げちゃうなんて☆」

イナラクマアリ「だから…ね☆そんな悪い子には死んでもらうよ☆」
イナラクマアリは青い星を多数手から発射しイサマを仕留めようとする。

イサマ(短期決戦、一瞬で仕留める!)
イサマは星々を躱し、一瞬でイナラクマアリとの距離を詰めるが…

イナラクマアリ(知 っ て た☆)

突如イサマの周辺が爆発。
四方が砂煙で巻かれて見えなくなる。

イサマ(ならば上から!)
イサマは跳躍し、イナラクマアリが居るはずのいる所に上から攻撃を仕掛けようとする。
………そこに、彼の星神は居ない。
後ろの砂埃が晴れてくる。と、同時に手が伸びイサマの首を……
イサマ「遅い!」
イサマは瞬時に後ろを向いて斬り伏せる。
イナラクマアリと思われたそれはキラキラと崩れさる。
同時にイサマが宙に浮く。
イサマ「……ガッ…!?」

イナラクマアリ「駄目だよ~☆イサマくん☆よそ見しちゃ☆」

首を締められているイサマは手を動かして剣を振ろうとするが、力が入らない。

イナラクマアリ「じゃ、その首☆もらっちゃうぞ☆」
そして、イナラクマアリはその手に力を込め…

少女「おーーーい!!!!!」

イナラクマアリ「!?」

イサマ「!!!」

手の力が緩んだ瞬間、腕に力が入り、剣を振る。

叫び声に気を取られていたイナラクマアリはそれに反応できず、首が飛ぶ。

辺りには血飛沫…ではなく青い星屑が飛び散り、幻想的な夜空は虫食いのように消え、赤い空と漆黒の太陽が戻る。
首を絞めていた手から落ちたイサマは少女を背後に、首のない星辰の神と退治する。

イサマ「…………」

イナラクマアリの頭「そんな…二度も首を斬られるなん…て………」

……禍津星は砕かれた。これ以上輝く事は二度と無い。
 
 
 
~???~
麻摩堂真「…………………再生星辰が死にましたか。」

麻摩堂真「…いえ、結構ですよ。……ワジンイサマ…倭神國の名を冠する大英雄が復活するとは…我、術を何処かで間違え…いや、なるほど…そういう事で。」

麻摩堂真「これは愉快な事になるやもしれませぬなぁ…」

第五章 咒い

~山奥~
星の神が死んでから三時間後。
8月2日、朝5時。
相変わらず黒き太陽は微動だにしない。

麻摩堂真「…どうどう、落ち着いて。」

???「グルルルルル……」

麻摩堂真「次は貴方に行ってもらいましょう。試運転です。」

麻摩堂真は巨大な異形の怪物に指示をする。

混成獣・野獣金剛虎鶫
そう名付けられた三つ首の嵌合体は鱗粉を撒き散らし、空を飛んでいった。

…………………………………
……………………………
………………………

一方、再生星辰・イナラクマアリを撃破したイサマは仮眠をとった後、食料と生存者を探す為に、少女と共にかつて町であった所を歩いていた。
町中の怪物達は物言わぬ骸の下に隠れていて、イサマ達が通るたびに襲いかかっては切り捨てられていた。

………収穫は畑に埋まっていた馬鈴薯や人参のみで、生存者等は見つからなかった。

少女「………誰も…いなかったね………」

イサマ「……ああ…」

イサマと少女は乾いた血で黒くなった道を歩いていく。

…ある程度歩いていくと突如、むせ返る程の血の匂いが辺りに広がる。

少女「うっ…何が…?」

イサマ「血の匂い…新しめの血の匂い…!?」

イサマが匂いの出処に行くと、そこには、老人と女が倒れていた。

少女「大丈夫ですk…イ、イヤァァァァァァァァ!!!!!」

……服装から老人と推測されるソレは臓物が辺りに飛び散り、顔は誰か判別不能なまでの状態になっていた。
女は少し息があったが、もう助からないと人目でわかるような状態になっており、凄惨の二文字でしか言い表せない現場となっていた。

女「ゥ……ァ………」

イサマ「な、一体何が!?」

女「あ…ㇺラ………ア…こ」
女はある方向を指差す。

女「ょぅ…ヵ…」
…女は息をしていない。

イサマ「村、妖怪!?い、急がないと!」

イサマと少女は女が指さした方向に走って行く。
まだ間に合うかもしれない。妖怪が辿り着く前に。

走っていくと、森が見えてきた。
 
 
 
……人の屍でできた森。
骨は木の枝の様になっており、骨についた肉はまるで葉のよう。

イサマと少女はただただ絶句していた。
この惨状を目の当たりにして、他に何ができようか。

???「おやおや。僕の森に近づいて…何をしようとしているんだ?」

イサマが振り向くと、そこには青年がいた。いや、その身から溢れる気配は人間のソレではなく……

……神の物だった。
青年は手に持っていた妖怪の死体を投げ捨てると、髪型を整え始める。

イサマ「…お前!!お前がやったのか!!!!」

青年「ああ、そうさ。どうだ?僕のは。苦労したんだよ。木ではないものから木を作るのは。」

青年「僕は芸術の神ではないからね。でも、なかなかいい感じになったと思うよ。」

……人々で遊ぶ残虐な神。イサマはこの神を知らない。
イサマが死してから数百年後に生まれ、闘神により討たれた悪神、その再生体。
その名も…
再生植林・澄葉森
既に討たれた神隠しの森を擬人化した神、その再生神格である。

第五章・断章 嵌合体

虎鶫は空を駆ける

嵌合体は紅の空を飛んで行く。自らを創り給うた主の名に逆らう事はできない。木っ端と死体の草原に、二人の人間の影が見えたが、その程度の数はどうでもいい。我が名は混成獣・野獣金剛虎鶫。主、麻摩堂真により創られた対人妖術生物兵器。

山々を焼き払い、隠れた人を焼き殺し、さる御方へのを作る。
目的はわからないが重要な事らしい。

数分空を飛ぶと、対象を見つけた。
彗星神・イガルケラン
イガルケラン瑠末渡(ルーマット)人風の顔つきをした美女。
その正体は人型に変化した巨大な猛禽類。
主が召喚した再生星辰・イナラクマアリと似て非なるもの。

主曰く、計画にとって必ずや障害となるから排除せよとのこと。

…………………………………
…………………………
……………………

イガルケラン「ふーむ、一体何が?」

イガルケラン(大御所宮近くには変な気配の奴がいたな…様子見するかぁ?)

突如、業火がイガルケランの頬を掠める。

イガルケラン「!!!」

イガルケラン「な、何だこれはぁ!?」

混成獣・野獣金剛虎鶫。
様々な生物の体がツギハギになっている異形の怪物。
クムの妖精達ですらここまで仰々しい見た目はしていない。

イガルケラン(………くそぅ、味方になりそうなのは…)
……近くには焼き焦げた木々と、山に逃げたが助からなかった人々の成れの果て。

イガルケラン「………………私一人か…」

イガルケラン「な ら ば 仕方がないッ!この権座山彗落坊が相手をしてやろうッッ!!!」

混成獣・野獣金剛虎鶫「イイイイイイッッッッッ!!!!!」

イガルケランは背後から巨大な炎の鷲を召喚。
鷲は羽ばたきで炎の渦を巻き起こし、金剛虎鶫を絡め取る。

イガルケラン「アハハハハッ!どうだ!それは心を燃やす悪しき炎!お前はもう、逃れられな…」

混成獣・野獣金剛虎鶫は三つ首の頭全ての口が開いたかと思うと、魔法陣が現れる。

イガルケラン「……………は?」

イガルケラン(いや、あれ!オルディナの魔法陣!?何故奴がアルカナキャノンを!?!?)

アルカナキャノン。
クムを害する者を破壊する最強の防衛魔術。
此度のものはその模倣にすぎないが、その威力は神を殺す事も容易い

………………魔法陣は更に輝き、五芒星は青みを増す。
その威力はクムを害する者を斃すためにあるが、
今、その矛先は無関係な他者に向いている。

魔法陣から赤く輝く剣のような物が出る。
………滅びの時は近い。

異形の怪物の中央の口元が人間のソレとなる。
混成獣・野獣金剛虎鶫「国を害すものに天誅を、民を害すものに地罰を。今こそ滅びの時。アルカナキャノン・亜種破壊式」

赤く輝く剣の先から、黒い光線が放たれる。
超絶の威力の前に山々は穿たれ、川は一瞬のうちに蒸発する。

後には何も残らなかった。

………イガルケランの姿も無くなっていた。

第六章 人間なぞ玩具でしかなく

イサマ「お前!何故この様な事を!!!」

澄葉森「何故。何故?さあ?なんでだろうね?まあ、僕が植林の神だからじゃないかな?それに、何故そんなに怒る?彼らは生きている。」

イサマ「は、………………は?」

………どう見ても屍にしか見えないソレはよくよく見てみると、脈打っていた。

イサマ「…い………生きて、る………」

澄葉森「ああ、生きてる。姿が違い、動くことはできないが、目も見えるし息もできる。オマケに病気も治してやった。僕に枯れ木を作る趣味はない。」

澄葉森「それでもお前は、その剣で僕を斬るのか?剣で切った瞬間、僕の権能は消え去り、そこの木は全員死ぬ。」
そう言って人でできた木々を指差す。

木々(人々)「ㇱテ………コㇿ…………テ」

イサマ「……せない…」

澄葉森「ん?何だい?」

イサマ「許さない!!!人間を!こんな姿にして、もて遊びやがって!!!!」

澄葉森「…………そうか。」

澄葉森「ならば、」
 
 
澄葉森「死ね

澄葉森の周囲から巨大な根っこが出現。それは勢いよくイサマに向かって伸びていく。
イサマは根っこを躱し、澄葉森に近づいていく。

澄葉森「おや、そんなにあの子から離れて大丈夫なのか?」

イサマ「!!」

イサマは身を翻し、急いで少女の下へ向かう。
少女の背後には長いツタが…
イサマ「ッ!!」

イサマは急いでツタを切り裂く。
ようやく見つけた生存者。
また一人で屍山血河を旅したくはない。

………気づくと、澄葉森の姿は見えなくなっていた。
いや、死屍累々も、赤き空と漆黒の太陽すら消え、
辺り一面どこを見ても森。

これなる術はイナラクマアリが作った満天の夜空と同じ。
麻摩堂真が倭神國を地獄に変えた術と同じ。
一定の空間の姿形をそうあれとした物に変える術。

イサマ(どこだ…?)

突如、空を切る気配!
イサマはその気配のする方を切り刻む。
 
……柊の葉だ。
鋼鉄のように硬く、棘は鋭利な刃物の様になっている。

イサマ(…これは…ッ!)
柊の葉はイサマと少女を目掛けて次々と飛んでくる。

イサマは剣で柊の葉を弾いていく。

イサマ(このままではジリ貧…どうにかして打開しなければ)

イサマは少女と共に森を駆ける。

澄葉森「おや…どこに行くのかね?」
どこからか澄葉森の声がする。
あたりを見回しても誰も居ない。

少女「危ない!」

イサマ(ッ!崖!?全く気づかなかった!)

森に突如現れた切り立った崖。
下にはいくつもの白骨死体が転がっている。

澄葉森「さあどうする!?お前達に逃げ場はない!!」

森の奥から根っこが伸びてくる。

イサマ「…………!」
イサマは首に掛けているネックレス、その中のサヌカイトを引きちぎり、剣と打ちあわせる。

澄葉森「は、何をするかと思えば、気が狂ったのか?」

澄葉森は近代に生まれた神。
倭神國ではマッチやライターで火を起こすのが当たり前の時代。

彼は知らなかった。あったとしても神具でしかないそれの使い道を。
火打ち石を使った火の起こし方を

剣から出た火花は草木に引火し、どんどん火は大きくなり大火事となる。

澄葉森「!?お前!どこから火を!!あぁやめろやめろやめろ!!!」

澄葉森(アイツどこから火を!マズイマズイマズイマズイ、このままでは僕が焼け落ちる!草木を退かさなければ!)

澄葉森は草木を動かそうとする一方、イサマはあちこちで火を起こしている。

イサマ「さあどこだ!姿を見せよ!!」

澄葉森「ぁぁぁぁあああ!!!燃やすな!燃やすなあああ!!!」

澄葉森が燃え盛る森の中から飛び出す。
目も当てられない姿の澄葉森は半狂乱となっており、一心不乱に腕を振っては根を辺りに叩きつけている。

イサマ「弱い!神秘も薄い、近代の神と見た!」
神隠しの森、澄葉森。あまりの事故の多さに神がいると噂され、畏怖されてきた。
しかし、その畏怖は近隣住民にしかされておらず、知名度も低い。
神にして余りにも非力すぎる存在なのだ。

澄葉森「来るな!来るな来るな!!!」
澄葉森は目をかっぴらき、イサマを睨みつける。

地面から木を生やし行く手を阻もうとするが、もうそんな力はない。

澄葉森「来るなああああああ!!!!!!」

イサマは澄葉森に近づき、その絶叫している首を切り落とす。
と同時に辺りの燃え盛る木々は消え、赤い空と黒い太陽が再び輝く。

…人でできた木々はもう生きていない。
少女(………どうか、死後は安らかに…)
 
 
…こうして神隠しの森は伐採された。これ以上事生い茂る事は二度と無い。

~???~

麻摩堂真「………………二神目が死にましたか…」

麻摩堂真「え?ああ、心配には及びませぬ。澄葉森は再生神格の中でも最弱。」

麻摩堂真「ええ、ええ……え?ほう!それは良い考えですな。」

第七章 怪人

…再生植林・澄葉森が消滅した後。
イサマと少女は宛もなく彷徨っていた。

イサマ達は一度仮拠点へと帰ったが、
その仮拠点である洞窟は、周囲の渓流や山々ごと消滅していたからだ。
 
 
少女「……そういえば…大御所宮はどうなっているんだろう…」

イサマ「大御所宮?」

少女「え、大御所宮知らないの?統治神のミナツカノカミ様がいらっしゃるの!」

イサマ(ミナツカノカミ………星神の大禍津南塚神の和魂の事か?)

イサマ(デュボグ神に命じられアレを倒したのは……)

大禍津南塚神
古代倭神國で猛威を振るっていた星の神。
この神を倒したという昔話は、大英雄ワジンイサマのエピソードとして有名である。

この際、倒された大禍津南塚神は和魂と荒御魂とで分裂。
和魂は統治神ミナツカノカミとなり、荒御魂は北禍津神となった。

少女「でね、長い桜並木を通った先に大御所宮があるの!もしかしたらミナツカノカミ様ならなんとかできるかもしれない!」

イサマ(………ミナツカノカミ、そんなに凄いのか?)

少女「あ、見えてきたよ!」

遠くの方に、荘厳な木造建築が見える。

イサマ「……………あれが……」

その時。
骸の山々から老人が現れる。

老人「…お、おお!!生きておったのかそなたら!」

イサマ(生者!隠れて生き延びていたのか!)

老人「おおお、ところでそなたは何処へ行くつもりじゃ?」

イサマ「あの大御所宮に…」

老人「大御所宮!?いかんいかん。あそこでは面妖な女が薙刀を持ち、通る人々を斬り伏せている。」

老人「もし行きたいのなら、その子は儂が預かろう。」

イサマ「……心遣いには感謝するが結構。薙刀女なぞ護衛しながらでも充分だ。」
(それに、素性も知らぬ老人に少女を引き渡すのはな…)

老人「ああ、なら儂が何者か知ると良い!これでも昔の戦で百戦錬磨の将軍だったのじゃからな!」

そう言って老人は近づき、名刺をイサマに手渡す。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
麻摩堂真

……突然、名刺が血で濡れる。
イサマは気づくのに遅すぎた。

イサマ「!!」

その剛腕は肋骨を貫通して心臓を握りつぶし、肺が爪によって傷つけられたためか、口からは血を吐いている。
そして……

麻摩堂真「これで邪魔な荷物を捨てることができましたな!」
悪辣な外道は、少女の亡骸を投げ捨てるとそう言った。

第八章 血に濡れた剣

イサマ「………荷物…?」

麻摩堂真「ええ!邪魔な荷物です!再生植林・澄葉森との戦いであの娘は何か役に立ちましたか?妖術を使う…もしくは武器を手に取り貴方を支援していましたか?」

麻摩堂真「答えは否ッッ!!!」

麻摩堂真「あの娘に力は無く!ただ無力!戦力外!あのような物を守りながら戦ってしまっては貴方は存分に力を振るうことは叶わない!」

麻摩堂真「なので我は貴方のためにも、あの荷物を」

イサマ「黙れッ!!!!」

イサマ「お前は、人の命を何だと思って!」

麻摩堂真「「人の命を何だと思って」!?それはこちらの台詞ですぞ!……ははーん、さては、何故自分が召喚されたのかわかっていない様子で。」

麻摩堂真「イサマ殿?よく考えてみてください。人間を殺戮する怪物達に紛れて貴方が召喚された理由…」

麻摩堂真「それは、貴方も人間を殺戮する怪物だからですよッ!!」

イサマ「…………は?」
 
 
……倭神國の南部のある県にはとある妖怪の伝承がある。
チュウキラカゼ。
この人切り風は突如現れては人を斬り殺す恐ろしい魔風である。

そして…
反倭神國勢力間でのワジンイサマの別名でもある。

イサマの平定…いや虐殺は凄惨極まるものだった。
イサマの攻めた国には何も残らず、現在もよくわかっていない国すらある。

現在の体制に反抗する勢力を怪物とするのはよくあることであるが、それの真逆の事が起きていたのだ。
何をしようが倒すことのできない最強の英雄は、敵国からしたらさぞ恐ろしい怪物に見えただろう。
…………………………
……………………
………………

麻摩堂真「思い出しましたか?貴方が何をしてきたのかを!」

イサマ「いや、それは知っているが。」

麻摩堂真「我、人の心を弄ぶのg…………ンナァァァッッッッ!?!?!?!?

麻摩堂真「何故!?何故覚えている!?」

麻摩堂真(馬鹿なッ!我、召喚された妖怪一匹一匹全ての記憶を改竄したはず!ならば当然ッッ!!ワジンイサマの記憶も改竄………………我の記憶にないッ!?

麻摩堂真(まさか、この我にバレないように記憶改竄の術をかけた何者かがいる!?、ならばこのワジンイサマはどこから!)

麻摩堂真(もしやもこの事は知っていない!?ならば疾く知らせなければ…!)

イサマ「遅い!!!」

麻摩堂真の体が真っ二つに斬られる。
しかし、血は出ない。

麻摩堂真「んん~、これは我の姿を模した式神!!!残念無念サヨウナラーーッ!!!」

イサマ「待て!!!おい!!………っ、逃げられた………」

イサマ「クソッ!また守れなかった…私の周りの人々は次々と死んでいく…しかし、それでも。私は進まなければならない。何があろうとも。」

第八章・断章  異界の神

白鷺は降り立った。

~とある場所~
……………私は…あれからどれくらいだったのだろうか。
私が力尽き、眠ってから。
 
 
夢の中、ふと下を見る。
私の愛しいスメラシナ。
いや、その模倣であろうか。
その大陸の至る所に赤き暗雲が立ち込め、その中からは人々の絶叫が聞こえる。

何かできないだろうか。
気がつくと、涙が出ていた。
そしてその涙は白鷺や剣、木等に変わり、白鷺は血の川に降り立った。
どうか、どうか彼等が、元凶を倒せますように…

第九章 大御所宮

大御所宮。
倭神國の統治神ミナツカノカミが御わす神殿である。
遠くからでも見える巨大な木造建築は、乾いた血で黒くなっていた。

イサマ(ようやく着いた……ここが大御所宮。)

イサマは大御所宮の扉…があった場所を通る。
とてつもない力で扉は大御所宮の奥に蹴飛ばされていた。

イサマ「コホン!(咳込む)…ミナツカノカミ!私だ!イサマだ!何処にいる!?」

イサマは大声でミナツカノカミを呼ぶも、返事はない。

コメント

  • おもれー、めっちゃ期待。 -- アレン 2024-04-02 (火) 14:15:50
  • あああああああ!!再生神格4柱戦、北禍津神戦、混成獣・野獣金剛虎鶫戦、麻摩堂真戦、ラスボス戦と戦いが多すぎるよ!!!!書けども書けども終わりが全く見えないよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!(発狂) -- ガルゾディア 2024-04-07 (日) 16:00:29

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