ルールサイクロペディア

Last-modified: 2024-03-30 (土) 22:06:09

クラシックD&Dの第5版は、「ルールサイクロペディア」と称され、4版のレベル別ルールセットの方式を廃し、全レベル帯をフォローした1冊の基本ルールブックとして発売された。ルール自体はクラシックD&D4版までと大きくは変わらない。
前述した通りメディアワークスから日本語版が発売されたが、日本語版では1-9レベルまでのデータと、初期レベルで使われるであろう基本的なルール部分のみを抜粋したうえで、「プレイヤーズ」「ダンジョンマスターズ」「モンスターズ」の3冊に分割して再構成された。残りのルール部分と10レベル以上のデータについては後に発売する予定であったが、TSR社の買収により日本語版展開が中断するはめになってしまい、基本ルールブックは完訳されることはなかった。

出典「ウィキペディア」

メディアワークスから翻訳出版されたクラシックD&D
原語版はA4版ハードカバーで、全304ページ。36レベルまでのルールが一冊にまとめられている。
日本語版は日本のTRPG事情を考慮して文庫形態で出版された。このため、編集・構成は原語版とは大きく異なる。
また原語版のイラストは一切無く、全て日本語版独自のイラストで書き下ろされている。
翻訳は安田均以外にも村川忍・笠井道子・柘植めぐみが関わっている。
翻訳は新和版と比べて、原語をカタカナでそのまま表記するよりも日本語へ訳された箇所や単語が多い。また原語のカタカナ表記は、より本来の発音に近い形で表記されている。
日本語版のルールブックは以下の3冊。他に日本語版の独自製品として「ダンジョンズ&ドラゴンズ マスタースクリーン」とリプレイ本『ミスタラ黙示録』がある。

プレイヤーズ

題名は『D&Dルールサイクロペディア1 プレイヤーズ』。当時の定価は900円(税込)。
カバーの裏面はキャラクター用紙になっている。インクは青紫。
プレイヤーが扱うルールをまとめている。対象レベルは1~9レベル。

  • まえがき
  • 序文
  • 第1章「キャラクター作成」
  • 第2章「キャラクタークラス」
  • 第3章「魔法」
    魔法使い呪文に関しては各レベルに呪文が1つずつ追加されている。
  • 第4章「装備」
  • 第5章「技能(選択ルール)」

ダンジョンマスターズ

題名は『D&Dルールサイクロペディア2 ダンジョンマスターズ』。当時の価格は980円(税込)。
カバーの裏面はダンジョンマスターが記録する「冒険記録用紙」が印刷されている。インクは青紫。
DMが扱うルールをまとめている。

  • 第6章「移動」
    「時間」、「距離」、「移動」、「陸上の旅」、「水上の旅」、「空中の旅」の項目がある。
  • 第7章「遭遇と回避」
    「探索とゲーム・ターン」、「遭遇」、「回避と追跡」、「海における回避」の項目がある。
  • 第8章「戦闘」
    戦闘におけるルールの解説。空中や水上、水中における戦闘ルールも解説されている。
  • 第9章「経験」
    経験点に関するルールが解説されている。
  • 第10章「ノンプレイヤー・キャラクター」
    NPC、特に雇用人、傭兵、専門家に関する解説がされている。
  • 第11章「ダンジョンマスターの手順」
    ダンジョンマスターとして扱う様々なルールや判定に関する章。
  • 第12章「宝物」
    宝物や魔法のアイテムに関する章。魔法のアイテムは全て紹介されているわけではなく、高レベル用として扱われるアイテムは「上級ルール」で解説される予定であった。
  • 第13章「アドベンチャーの作成」
    実際の冒険の設定やプレイに関するルールや助言に関する章。
  • 第14章「さまざまな選択ルール」
    選択ルールに関する章。

モンスターズ

題名は『D&Dルールサイクロペディア3 モンスターズ』。当時の価格は800円(税込)。

カバー裏面の印刷は無い。もちろんDM用。
新和版におけるベーシック・ルール・セットからマスター・ルール・セットまでのモンスターが掲載されているが、いわゆる高レベル用のモンスターは未発売で終わった上級ルールで解説される予定だった。

一部のモンスターの解説文は追加の説明があったりサイズについてのデータが追加されているなどの違いがある。

評価

原語版に関しては概ね高評価を得ていた模様。
ただし、本来であればロールプレイングゲームの入門用と位置付けられていたはずの(クラシック)D&Dが、分厚いハードカバー本になったことにより初心者にとって敷居が高くなってしまったとも言われている。当時の米国のTRPG市場の状況もあり、ボードやペーパーフィギュアを付属させた初心者向けのボックスセットを別に販売している。
日本語版に関して言えば評価はかなり分かれるが、新和版から遊んでいたプレイヤー層からはそれほど好意的に評価されていなかった模様。

マイナスとされる評価

日本語版が不評とされた理由を簡単にまとめると以下の3点。

  1. 原書はハードカバー本なのに、検索しにくい文庫本形態で3分冊にされた上に最大9レベルまでしかない。
  2. 新和版で遊んでいたプレイヤー層を無視したような商品展開。
  3. 翻訳の担当がグループSNE

上記の3点のうち、1と2に関して言えば1990年代半ばのTRPG事情を考えればやむを得ない部分はあるだろう。当時の日本におけるTRPG市場は『ソードワールドRPG』を始めとした文庫本形態が主流であり、ハードカバー本やボックスセット形態の商品は主なプレイヤー層である学生にとって購入のための敷居が高かった。
2に関して言えば、メディアワークス側の立場からすれば新和版で遊んでいた層が取り込めるかどうかが未知数で、しかも会社組織自体が異なるため引き継ぎがあったわけでもなかった。
3に関してはD&Dのリプレイだった『ロードス島戦記』を発表したグループSNEの手法やノリについていけない、あるいは反感を持つプレイヤー層が少なからずいたことが大きい。もっともこの点は各プレイヤー、あるいはサークルの嗜好の問題でしかないとも言える。
現実問題として、当時のグループSNEはD&D以外にも多数のゲーム作品を同時に展開していたこともあり、最初の「プレイヤーズ」刊行から2年以上経過しても「上級ルール」は発売されないままウィザーズ・オブ・ザ・コーストによるTSR社買収の影響で契約が打ち切られてしまっている。

プラスとされる評価

新和版時代に未訳だったベーシックレベルのモジュールを、文庫本形態とはいえ、3冊も刊行した点に関しては好意的に評価されていた。
また、新和版と比べて誤訳や版による訳語のブレは少なかった*1
その他の利点として、主なプレイヤー層であった学生たちからすれば文庫本形態であれば費用が少なくて済むのは無視できない要素である。DMをしないプレイヤーなら900円で買える「プレイヤーズ」1冊で必要な情報が揃う。一部の古参プレイヤーが当時主張していたハードカバーで出版するとなると値段は少なくとも数千円、AD&D第2版の販売価格を考えると少なくとも7000円以上の値段になったであろうことは想像に難くない。
様々な事情で頓挫したとはいえ、一時途絶えた(クラシック)D&Dを復活させた点はもう少し評価されてもよいかもしれない。


*1 逆に、話題に上がるほどのネタを提供しなかったとも言える。