八月朔日 みはね

Last-modified: 2024-04-13 (土) 19:28:31

【キャラ一覧( 無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE / NEW / SUN / LUMINOUS )】【マップ一覧( SUN / LUMINOUS )】


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Illustrator:magako


名前八月朔日 みはね(ほづみ -)
年齢17歳
職業高校生3年生

不思議な指輪との出会いをきっかけに過去が見えるようになった女子高生。
今日もスカジャン姿の女性と他愛もない会話を楽しむ。

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1オールガード【LMN】×5
5×1
10×5
20×1


オールガード【LMN】 [GUARD]

  • 固定ボーナスと回数制限付きのダメージ無効効果を持つ初心者向けスキル。
  • LUMINOUS初回プレイ時に入手できるスキルシードは、SUN PLUS終了時点のオールガード【SUN】のGRADEに応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
  • GRADE70でボーナス量は頭打ちになり、GRADE71以降はダメージ無効回数が増加するようになる。
    なおGRADE200で無効回数増加も打ち止めとなる。
    • なお、CHUNITH-NETではダメージ無効回数は確認できないため注意。
効果
推定理論値:90700(5本+12700/18k)
[条件:GRADE70以上]
ゲーム開始時にボーナス (+?????)
一定回数ダメージを無効化
GRADEボーナス無効回数
1+10000(??回)
▼ゲージ5本可能(+18000)
28+18100(??回)
▲SUN PLUS引継ぎ上限
106+30700(??回)
107+30700(??回)
122+30700(72回)
200~+30700(150回)
推定データ
n
(1~70)
10000
+(n x 300)
(20回)
シード+1+300
シード+5+1500
n
(70~200)
+30700((n-50)回)
シード+1(+1回)
シード+5(+5回)
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期最大GRADE
2023/12/14時点
LUMINOUS
~SUN+347
所有キャラ

所有キャラ

  • CHUNITHMマップで入手できるキャラクター
    Verマップエリア
    (マス数)
    累計*1
    (短縮)
    キャラクター
    LUMINOUSep.Ⅰ1
    (5マス)
    5マス
    (-マス)
    八月朔日 みはね

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
 
1617181920
スキル
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 オカルト話とヤンキー女「ピンポイントでラブな指輪を見つけたと思ったら、まさかの不思議空間とか……あたしってばどした?」


 あたしの教室と同じ物のはずなのに、なんか薄暗く感じる照明。
 戸棚には何に使うのかわかんないファイルがみっちり敷き詰められてる。
 向かい合った机と椅子がふたつずつ。
 たったそれだけの部屋――生徒指導室に呼び出されるのはもう2回目だ。
 昼休みのガヤガヤ音も、この部屋までは届かない。

 「八月朔日<ほづみ>なぁ……もう高3だというのに進路調査票が白紙ってのは、俺も困るんだよ」
 「ごめーんってば、センセ。だってさぁ、決められないものは決められないんだもん……」
 「大人しく進学しておけばいいじゃないか。八月朔日はその……多少派手でチャラチャラはしてるが、成績も人柄も悪くない。俺だって安心して推薦できる」
 「え、めっちゃストレートに褒めてくれるじゃん!割と嬉しいんだけど!」
 「茶化すんじゃない! まったく……もうあまり時間はないんだぞ……」

 担任の先生が頭を掻く。それを見てあたしはちょっとだけ胸が痛くなった。
 先生が本気で心配してくれてるのが分かるから。
 あたしだって進路なんてさっさと決めちゃいたいよ。受験のために勉強したり、行きたい学校を見に行ったり、準備しておかなきゃいけないたくさんのこと、周りの子達はもうとっくに始めてる。
 でも、どうしても――。
 調査票に何か書いちゃったら、それ以外のことは完全に諦めなきゃいけないような気がして、あたしは何も決められないでいる。

 「とにかく! 真剣に考えておくこと。親御さんともよーく話し合うんだぞ? いいな?」
 「りょー」
 「りょー、じゃない」
 「はーい」

 頭を抱える先生を置いて生徒指導室を出たあたしは、自分の教室へ向かう。
 面談のおかげで時間は削られちゃったけど、昼休みはまだ20分くらい残ってる。

 「あ、みはね……じゃないや。呼び出し姫のおかえりじゃん」
 「変なあだ名つけんなし! つーかまだ2回しか呼び出されてないから!」
 「あはは、ウケる。で、何呼び出しだったん?ネイル? ピアス?」
 「んーん。進路調査……」
 「えっ、みはねまだ決めてないの!?そろそろヤバくね?」
 「そろそろってゆーか、だいぶヤバイ……」

 高校入学以来の付き合いで、ファッションも音楽も、好きなモノの趣味が一番合う友達、ミー。
 そんなミーが、美容師になるため専門学校に行くってとっくに決めてたのを知ったのは、2年の終わりのことだった。
 そういう話をしたことがなかったからビックリしたけど、スタイリングとか上手なミーにはピッタリだと思ったし、目をキラキラさせて夢を話す姿がめっちゃ可愛かったから、すごく嬉しかった。
 でもその分……ちょっと焦る。
 机にお尻を乗せて座っていたあたしは、脚を投げ出しながら叫んだ。

 「あー、スポッチョ行きたいー! 思いっ切り体動かしたーい!」
 「いいじゃんいいじゃん! 今度行こうよ、C組のメンツも合流してさ!」
 「カラオケセットのフルコースのやつね!うわーアガってきたー!」
 「ヤバ! ウチら3年なのに遊びすぎ!」

 しょーじき言って、若干カラ元気ではある。
 でも、ミーがいつものテンションで付き合ってくれて、あたしはなんとか元気になれた。
 そんな風にふたりで騒いでいると、机をひとつ挟んだ向こうで雑誌を読んでる男子の姿に気がついた。
 こんなに近くにいたのに気付かなかったなんて。悪いことしちゃった。

 「うるさかったよね? ごめんね」
 「はえっ!? 八月朔日さん!? なんで!?え、えと、いや、僕は……」

 なぜかすっごく慌ててる。
 後ろでミーが「絡まないであげなよー」って言ってるけど、悪いのはこっち。ちゃんと謝らなきゃ。

 「ほら、本読んでるのに騒いじゃったから、集中できなかったでしょ? ごめん」
 「あ、ああ……別に、大丈夫、です。全然気にしてなかったから……」
 「マジ? この距離でそこまで集中できるとかすごすぎじゃん! ね、何の本読んでるの?」

 そう言ってあたしは目の前まで歩いて行くと、雑誌の表紙をのぞき込んだ。
 本を持つ手が震えて読みづらかったけど、表紙にでっかく書いてある字はさすがに読めた。

 「千里眼、未来視、過去視……超能力特集……?」
 「は、はい! そ、そういうオカルト系の、雑誌です……」
 「あー、なんか魔法とかファンタジーとかのやつだ!」
 「ち、違います! 超能力は現実に存在するんです!」

 突然の真剣な声に思わず肩をすくめる。
 そんなあたしとは決して目を合わさないまま、あっつい語りはガンガン飛んでくる。

 「ほ、本来人間は誰しも超能力を持っていると言われてます! かけられたリミッターが外れているかどうかなんです! 先天性のものがほとんどですが、何かのきっかけで後天的に力を得ることも……た、たとえばこの【ポストコグニション】――過去視の能力者は、事故をきっかけに能力が発動したそうです!この方は1975年にアメリカの研究機関によるデータが実際に残っていて、触れた相手の過去の記憶を読み取ることができ――」
 「ちょ、ちょ、ちょ! ストップストーップ!一気に言われてもワケわかんないよ!」
 「あ……す、すみません!」
 「あやまんなくていーよ。でも、そういう超能力がホントにあるんだって話は分かった!」
 「し、信じてくれるんですか!」
 「うーん……信じるってゆーか、本当だったらいいなとは思うよ! 教えてくれてありがと!」
 「八月朔日さん……」

 超能力……か。
 ホントだったらいいなって言ったのは、決してウソじゃない。
 何か不思議な力で、あたしも分からないあたしの本当の気持ちを読んでくれたら――。
 そんな都合の良いことを考えて、自分で笑いそうになっちゃった。

 ――1日の授業が終わって、あたしは校舎を後にする。
 校門を抜ける前に、専門の業者さんが校舎の壁に大きな垂れ幕を新しく設置しているのに気がついた。
 垂れ幕には黒と赤の筆で書いたような文字でこう書いてある。

 『祝! 競泳インターハイ2位!』

 ウチの学校はスポーツも強いから、珍しいものじゃない。
 柔道、卓球、それにヨットなんかも。同じような垂れ幕はいくつも掛けられてる。
 去年頑張った成績。そして、活躍した生徒の名前。

 「遊馬……確かスポーツクラスの子……全国2位って、凄いなぁ……」

 きっとこの先もアスリートとして活躍するんだよね。
 そのためにすっごいトレーニングしたり、食べる物に気を使ったり、努力しまくるんだろうな。
 あたしと同い年なのに、将来を決めるどころかもうとっくに行動に移してる。
 そんな風に他の子を羨ましくなってる自分に気がついて、あたしはパチンと自分の頬を軽く叩いた。

 「ヨソばっか見ててもしょうがない! 自分は自分!ちゃんと考えなくちゃ!」

 なんて言い聞かせてみたけれど、それで簡単に解決するわけなくて。
 電車に乗ってウチの最寄り駅についてからも、なんとなくまっすぐ家に帰る気になれなくてボケッとしたままフラフラ歩き続ける。そのうち気がつくと、あたしの足はお馴染みの店の前までやってきていた。
 プチプラ系アクセショップ。髪留めとかバレッタはもちろん、ピアスなんかも結構カワイイのがいっぱい揃ってる。
 ブランドとかはあんま興味ないし、何より安い。普段使いの小物でいつもお世話になってるお店だ。
 とりあえず中に入って見て回ってみたものの、実はここには先週来たばかり。新作が出てるわけでもないし、どれもチェック済みだから、あたしの視線はぼんやりして商品に焦点が合わない。
 気晴らしだとしてもあまりに無駄すぎる時間の使い方に、自分で自分に呆れながら店を出ようとする。
 その時だった。
 ぼんやりとしたあたしの視界に、たったひとつだけハッキリと映り込むモノが飛び込んできた。

 「……シルバーリング?」

 チェーン付きの2連リング。こういう系のヤツってゴツ目のが多いのに、太さもちょうどよくてかなりカワイイ。
 何より、ふたつのうちの1個だけに小さく埋められたターコイズブルーの石が、めっっっちゃめちゃあたしのツボすぎて、思わず釘付けになる。

 「えっ、ヤバすぎるんですけど……こんなカワイイの気付かなかったとか……つーかラス1ってマ?」

 もう買う。絶対買う。
 心ではそう決まってるけれど、リングにはサイズの合う合わないがある。
 今までもこの最後のハードルを越えられなくて、泣きながら諦めてきたモノはたくさんあった。しかもラス1。サイズの替えはない。
 あたしは祈るような気持ちで自分の指に嵌めてみる。
 薬指にひとつ。それから人差し指にひとつ。
 きつくもなく、ゆるくもなく。まるであたしのために作ったみたいに、するするとリングが嵌まっていく。

 「ジャスト……完っ璧……!」

 あとはもうお会計を済ませるだけ。そう思ってレジへ振り向こうとした瞬間だった。
 指輪に埋まったターコイズブルーの石が突然青白く輝きだしたかと思うと、それは一瞬で目の前を覆うほどの強い光になって、あたしは思わず目をつむってしまう。
 驚きながらも、まぶしさに慣らすようにゆっくり目を開ける。
 そんなあたしの視界にはアクセショップの商品棚なんてひとつも映っていない。
 あるのは夜空みたいな暗闇と、さっきと同じ光を放つたくさんの蝶々だった。

 「えっ、なにこれ!? ここどこ!?なんかのドッキリ!?」

 あたしの声に応える人はどこにもいない。
 どこにもいないって、なんとなく分かってた。
 自分でもよく分かんないけど、ここが現実じゃなくて、なんだか夢を見ているときと同じような感覚があったから。
 普通じゃない何かが起こってる。頭が理解すると同時にだんだん怖い気持ちが胸の奥から湧き上がってきた時、たくさんの蝶々の群れの奥に、誰かが立っていることに気が付いた。

 「……誰?」

 あたしは蝶々達の隙間の奥へ目をこらす。そこにはあたしとそんなに歳が違わない女の人の背中があった。
 キレイな長い髪。それと……黒のスカジャン。背中には大きい虎が刺繍されてる。
 なんだかチグハグな印象のその人は、胸を張ってポケットに手をつっこんでるみたいだ。
 あたしの声に遅れて気付いたのか、スカジャンの女の人がゆっくりとこっちへ振り返る。
 サラサラとなびく前髪から現れた顔。
 そこには不機嫌そうに寄った眉と、睨み付けるような鋭い眼光があった。
 今どきあたしの周りで見たことないけど、マンガやドラマで知識としては知ってる。
 あたしは考えることなく反射的に声に出していた。

 「あ……ヤンキーの人だ」


EPISODE2 秘められた力……発動!?「あたしのものじゃない記憶が視えるなんて、これが超能力!? いや、さすがに笑えないから!」


 「――――様」
 「…………」
 「――客様! お客様!?」
 「…………え?」

 夢の中みたいな空間にいたあたしは、ショップの店員さんの声で現実へと帰ってきた。
 暗闇も、蝶々も、ヤンキーの女の人もいない。見慣れたアクセショップの店内。
 ……やばい。もしかして気を失ってた?
 どれくらいの時間? ってゆーか、あたしなんかの病気?

 「お客様、大丈夫ですか? なんだかぼーっとされてたので具合でも悪いのかと……」
 「あ、あー! 大丈夫、大丈夫です!」
 「それなら良いのですが……もし本当にお身体が優れないようでしたら……」

 あたし達のお母さん世代くらいの優しい店員さんが、心配そうにそう言ってあたしの手を握った瞬間。
 目の前をまた、あの青白い蝶々が横切ったかと思うと、あたしが知らない――あたしのものじゃない“記憶”が頭の中に流れ込んできた。
 それは目に見える景色、匂い、触感、感情まで。
 まるで自分が体験したかのような、でも確かに自分じゃない誰かの記憶が。
 ――それは暖かい空気に満ちた、誰かの家。
 暖色系の照明に照らされたリビングには、知らない家族が集まって楽しそうに団らんしてる。
 目の前には、照れくさそうにはにかみながらもじもじしている小学生くらいの男の子。
 壁には手作りの飾り付けと、『空手昇級おめでとう!』と書かれた紙が貼られている。
 そんな“瞬間”。前も後ろもない、記憶の断片。
 その光景が、あたしの頭に一瞬で流れ込んできた。
 さすがにフツーじゃなさすぎる体験なのに、あたしは驚きながらも割と冷静なまま、勢いで尋ねてみる。

 「あの……ちょっと聞いてもいいですか?」
 「はい?」
 「店員さんって、お子さんがいたりします?」
 「え、ええ……小学生の息子が」
 「スポーツとかやってたり? なんか……格闘技系の」
 「空手を習っていますが……あの、どこかでお会いしたことありました?」
 「あ、いや、なんでもないです! なんでも!」

 慌ててごまかしたあたしは、めちゃめちゃ警戒してる店員さんの目を見ないようにして会計を済ますと、急いでお店を出た。
 早足で地元の駅前を歩きながら、あたしはブツブツと独り言を呟く。

 「え、これマ? でも絶対に……いやいやいや、まさかそんな。ありえんすぎっしょ」

 うん。確かにこんなこと絶対あり得ない。
 でもそれが、もしも、万が一、奇跡的に、本当に本当の現実だとしたら?
 あたしには心当たりがある。
 だからそれを確かめるためにあんなことを聞いたんだ。

 「これ……『過去視』ってやつ!? あたし、超能力者ってコト!?」


EPISODE3 暗い夜道はご用心「せっかくひとりの夜を楽しんでるってのにさ……今どきそーゆーの流行ってないから!!」


 家のドアを開けたあたしは、自分のスニーカーしか置いてない玄関でローファーを脱いだ。
 それから、誰かに聞かせるつもりもない小さな声で、一応呟く。

 「ただいまぁ」

 あたしとパパ。一応ふたりで暮らしてるはずのマンション。でも、パパは月のほとんどを仕事であちこち飛び回ってて、ほとんど一人暮らし状態。
 ちっちゃい頃はそりゃあ寂しいって思うこともあったけど、あたしも高3。とっくに慣れっこだし、むしろあたしのために頑張って働いてくれてマジで感謝しかない。

 「……ただいま」

 今度はちゃんと相手に聞かせるつもりで、あたしはもう一度呟く。
 何個も並ぶ、小さいあたしが写った写真立て。その中でも一回り大きなものの中に、ママの姿がある。
 パフスリーブの白いブラウスを着て、だいぶやつれてるけれど柔らかい笑顔を浮かべてる。
 あたしとは違って、いかにも「清楚!」って感じの、綺麗な人。 
 あたしが唯一知る、ママの姿だ。
 “たぶん”優しいママだったんだろうな。
 言い切れないのは――ママはあたしが小学校に上がる前に死んじゃったから。
 あたしがお腹にいるときに難しい病気にかかってることが分かって、あたしを産んでからも頑張ったんだけど……ダメだった。
 ママはずっと入院生活でめったに会えなかったし、それにあたしもきっと悲しかったんだと思う。無意識に忘れようとしたのか、ママの記憶はほとんどない。
 パパは優しいけど超口下手で無口だから、ママのことを聞いても「太陽みたいな人だった」としか言わなかった。だから、悪いとは思うけど忘れちゃうのもしょうがないと思う……うん。

 「あ~~~~~」

 あたしはやる気ゼロの声を喉から絞り出しながら、制服のままうつぶせでソファに飛び込んだ。
 あれから家に帰ってくるまでに『過去視』の力を試してみた。
 力が現れたのは、店員さんの手を触った瞬間だった。だからもう一度誰かを触ろうとしたけれど……意外と人に触れるのってハードル高い。結局何も出来ないまま帰ってきて、こうしてゴロゴロしてる今。

 「……そうだ。自分自身は視えるのかな」

 おもむろにおでこに手を当ててみる。
 ……何も起こらない。

 「ちぇー。自分はダメかぁ」

 寝っ転がったまま天井に向かって広げた手のひらを差し出すと、あたしの指に2連リングが嵌まっているのが見える。

 「きっかけはコレ……だよねえ」

 昼間、学校でめっちゃ熱めに語られた超能力のハナシ。
 生まれつきとか、何かのきっかけで、とか言ってたけど、あたしの場合この指輪に意味があるんだと思う。それこそ、何かのマジックアイテムとか。
 子供の頃好きだったファンタジー小説みたいな話だけど、ちょこっとでも知識があったおかげでけっこー冷静でいられてる。
 でも……だけど――

 「どーせなら未来が見えるほうがよかったのに~~!!」

 未来のあたしがどんな姿なのか見ることができたら、進路を決めるのなんて簡単なのに。
 ってゆーか、正直なこと言っていい?
 過去が見えるとかより今は進路のほうが大事なんですけど~~~~!!

 「……ママが生きてたら、色々相談とかできたのかな」

 ママの写真に向かって、もう一度呟いてみる。
 親御さんと話せって、先生が言ってた。パパは忙しいけど、話せないわけじゃない。それどころか「みはねがしたいようにしなさい」っていつも言ってくれてる。
 口下手だけど優しくて、近くにいれなくてもあたしのことを大切に思ってくれてるパパ。
 だからこそ、“話せるけど話せないこと”だってあるんだ。

 ちゃちゃっと課題を片付けて、昨日冷凍しておいたハンバーグを食べて、SNSで動物のショート動画を観まくって、テレビでお笑い番組観て、またソファでダラダラしてたらあっという間に夜が更けていた。
 あとはお風呂入って寝るだけ。だけどなんだかその気になれない。
 色んな考えなきゃいけないことが頭の中でぞわぞわして、このままじゃどうせ眠れないんだろうなって分かってるから。

 「……よし! 散歩しようっ!」

 けっこー単純なほうだから、こういうときはちょっとでも体を動かすに限る。それに、そこまでして眠れなかったなら諦めもつく!
 そう考えたあたしはソファから大げさに跳ね起きて、履き慣れたスニーカーに足を突っ込んで家を出た。
 当たり前だけど、街は完全に夜の風景。
 駅前だったらまだまだお店もやってるだろうけど、あたしの家がある住宅地のほうは外灯があっても薄暗い。
 スニーカーが慣らす小さい足音と、パジャマ代わりに着たナイロンのハーフパンツがシャカシャカと擦れる音だけの夜道。ふいに春の生暖かい風が吹いて、オーバーサイズのロンTの袖がそれを受け止めて膨らむ。
 夜の散歩は、割と好き。
 友達と学校でワーワー騒いだり、買い物したり、カラオケ行ったりするのももちろん好きだけど、こういう世界にあたしひとりになったみたいな時間も好き。
 別に病んでるわけじゃなくて、たまには孤独を気取ってみるのもいいじゃん、って話。
 とか考えてみたりもするけれど、やっぱ気取ってるだけだから早々に飽きてくる。ちょうど喉も渇いてきたし、飲み物とアイスでも買って帰ろうと決めたあたしは、帰り道の途中にあるコンビニを目指すことにした。
 数分歩くと、すぐにコンビニの眩しい灯りが見えてくる。
 あたしはその光に誘われるように歩き続けながら、ポケットの中の定期券を触って「確かまだ3000円くらいチャージしてあったよね」なんてことを考えていると――

 「おい」

 もう自動ドアは目の前、というタイミングで、誰かを呼び止める声がした。
 驚いたあたしは思わず足を止めてしまう。これは……ミスった。
 この辺の治安は悪くないけど、やっぱり変な人がいないわけじゃない。気をつけてたつもりだったのに、反応しちゃった。無視すればよかった。
 やだなー、家から最寄りのコンビニなのに……トラブったりしたくないよー……。

 「おいってば」

 もう一度声がする。どう考えてもあたしに向かって言ってる。
 ……ふうー。
 あたしは一度だけ息を吐いた。
 いざとなったらコンビニに逃げ込めばいい。だからここは、怯えるよりも強気でいくべき!

 「……なんですか?」

 声がしたほうに顔を向けて、なるべく平気なフリしてそう答える。
 コンビニ前の駐車場の中に、ちょうど照明があたっていない薄暗い箇所があった。車止めに行儀悪く座り込んでいた人影が見える。その人影がゆっくり立ち上がると、こっちに向かってユラユラと歩いてきた。

 「あ、あ、あたし、護身術の資格みっつ持ってるんだからね!」

 ひっくり返りながらそう言って、見よう見まねのへなちょこファイティングポーズを取ったあたしに、人影はまったく怯まず近付いてくる。
 そのうち暗がりを抜けてコンビニの灯りに照らされた人影は、影を失くして人になった。
 今、しっかりとあたしの目に映ってる。
 驚いて、思わず大きく見開いたあたしの目に。

 「資格ぅ? 何言ってんだおまえ」

 艶のあるキレイな長い髪。黒いスカジャン。不機嫌そうに寄った眉と、睨み付けるような鋭い眼光。
 それはあの不思議な空間にいた、ガラの悪い女の人そのものだった――。


EPISODE4 もしかして、平成レトロ?「だいぶムリ系のセンスしてるけど、なーんか憎めないっていうかなんていうか……うん、謎すぎ」


 「お前、何してんの?」
 「何って、関係ないじゃん。恐喝でもするつもり?」
 「ちげーよ! 若い女がこんな夜遅くに何をフラフラしてんだって言ってんの! あぶねーだろ!」
 「は、はぁ~~~~っ!?」

 ……ちょっと待って。なんであたしは説教されてるの?
 散々おどかしておいて、ワケわかんないんだけど!!

 「別にこっちの勝手でしょ! っていうか自分はどうなの!? 見た感じ、あたしと2、3個しか歳変わんないじゃん! そっちだって若い女でしょ!」
 「アタシはいーんだよ。いざとなったらコイツでねじ伏せるから」

 そう言って、口の端っこだけで笑いながら握りこぶしを見せてくる。
 ……ヤバイ。
 ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!
 怖いとかじゃない!!
 イタい!!
 それにダサい!!

 「うわぁ……今どきそーゆーのキツ……ヤンキーってやつでしょ、そのファッション……ダサっ」
 「な、なんつった今!? どこがダセーってんだよ!?」
 「服だけじゃなくて、ムリしてる感じの言葉遣いとか……」
 「ムリしてねえ!!」
 「そーゆーのが流行ったのって、すごい昔でしょ。お父さんお母さんっていうよりも……お爺ちゃん世代?」
 「おじっ……お前こそよくそこまで言えるなぁ!?」

 気付いたらあたしは、このヤンキーと漫才みたいなやり取りをしていた。
 色んな意味で危ない人みたいだし、怒らせないほうがいいはずなんだけど、なんだか見た目よりもそう悪い人じゃないような気がして、付き合いが長い友達を相手にするみたいな言葉が勝手に出てきてしまう。

 「……で、わざわざ呼び止めて何の用?ヤンキーさん」
 「ヤンキーさんじゃねえ。そんな名前なわけねえだろ」
 「じゃあなんて名前なの」
 「…………トラ子」
 「トラ子!? それで虎柄のスカジャン着てるってこと!?」
 「……悪いかよ」
 「はいはい。教える気ないってことね。別にいいけど」
 「ふん」
 「あたし買い物して帰るから。悪い事しないでね、トラ子さん」
 「……くる」
 「え?」
 「送るっつってんだよ。あぶねーだろ、夜道」
 「送るって……トラ子が? あたしを? 家まで?」
 「そーだよ。だからさっさと買い物済ませろ」

 それだけ言うとそっぽを向いてしまったトラ子を置いて、あたしはコンビニに入る。
 目的通りペットボトルの紅茶とバニラアイスを買って出ると、どうやらさっきの言葉は本気だったみたいで、コンビニ前の道沿いにトラ子が立って待っていた。

 「……行くぞ」

 トラ子はそれだけ言うと、送るって言ったくせにあたしのことなんて気にしてないようにずんずん前を歩く。
 ポケットに手を入れて、肩をいからせながら。
 本当に……今日はいったいなんなんだろう。
 超能力みたいな力に目覚めて、夢の世界で見た古くさいヤンキーと現実で出会って、その彼女に家まで送ってもらってる。
 あまりにも意味不明な出来事が続きすぎて、悩みなんてどこかに忘れちゃいそう。

 「ねえ。勝手に歩いてるけど、あたしの家どこか知らないでしょ」
 「……道間違えたら、お前が訂正するだろ」
 「そのまま黙って置いてっちゃうかもよ?」
 「そんなことするやつなのか?」
 「……違う、けど」

 何を根拠にあたしをそこまで信用してるのか分からない。
 でも、そんな当たり前みたいにまっすぐ言われたら、悪い気はしない。

 「……みはね」
 「あん?」
 「あたしの名前。みはねっていうの」
 「へえ。いいのかよ、教えて。あたしのこと疑ってんだろ」
 「別にいいよもう。トラ子が本名でも偽名でも。名乗らないのも気持ち悪いし、こっちはウソつく理由ないしさ」
 「はは、サッパリしてんだな」
 「それよく言われる~。自分じゃそんなことないと思うけど」
 「いいんだよ、人からどう思われたって。それを気にする必要もねえ」
 「ふーん。周りにどう思われても気にしないから、そんなダサい服着てるんだ?」
 「ダサくねえ!!」

 さっき出会ったばかりのトラ子と、出会ったばかりとは思えないテンションでしゃべりながら夜の道を歩く。
 一人きりじゃないせいか、確かに安心感はある。
 世界に一人きりな気分もいいけど、二人きりも悪くない。そんなことまで頭に浮かんだくらい。
 というか、この変な格好して変なことばっか言う変な女を、少なくとも嫌いにはなれずにいた。


EPISODE5 クリスティーネ・みはね、爆誕「なりゆきとはいえ、占い師のフリをするなんて……みんなを騙すのは……正直だいぶ落ち込む……」


 どんなにヘンテコな夜を経験しても、いつもの朝はやってくる。
 朝起きて、登校して、午前の授業を受ける。あっという間に昼休みが来て、ミーと一緒におしゃべり。
 あまりにいつも通りの風景は、昨日のことがそれこそ全部夢だったんじゃないかって思っちゃうくらい。
 だけど――そうじゃなかった。

 「き、今日の爪、色いいねー。ちょっと近くで見せてー」
 「今日っていうか先週からこれ使ってるんですけど!ま、いいけどさ。はい!」

 自分でも演技ヘタだなって思いながら、触れる理由を作る。
 ネイルを見るフリをして、あたしはミーの手を取った。

 「っ!?」

 一瞬体に軽い電気が走って、目の前に現れる青白い蝶々。
 景色や時間をギュッて圧縮したかたまりを一気に飲み干したみたいな、あの感覚。
 やっぱり視える。視えちゃってる。
 あたしが知らないはずの、ミーの過去が。
 何回か行ったことがあるミーの家。
 パタパタと小走りするミーが、慌てたようにローファーを履く。
 シューズボックスの上には、LEDのカレンダークロック。日付は今日、時間は朝だ。
 玄関を出て振り返り、ミーがカギを取り出す。 
 震えるポケットの感触。スマホの通知。画面に映ってるのは何かのチケットの当選メールみたい。ミーの喜ぶ気持ちまで記憶と一緒に伝わってくる。
 それからミーは、そのままカギをポケットに仕舞って歩き出した――。

 「……やっぱ良い色だね」
 「でしょー? 去年のクリスマスコフレ、ケチってたけど開けたんだー」 
 「そっか。話変わるんだけどさ、今朝……戸締まりとかちゃんとした?」
 「ええっ? どしたの、急に」
 「あ、えと、いやー、なんとなく? ほら、ミーのママ朝はパートでしょ。あたしも同じでひとりだから気をつけないとねー、って」
 「うーん、そう言われると……あれ……確かに……」

 朝の出来事を必死に思い出そうとしているミーのスマホが、ブルブルと震え始めた。
 誰かからのメッセージだったらしいそれを読んでいたミーの表情が、驚きと恐怖が混じったようなものになっていく。

 「嘘……ヤバすぎ……」
 「どうしたの?」
 「ママからだったんだけど、パートから帰ってきたらカギあけっぱだったってガチギレしてる……ねえ、なんで分かったの? なんでなんでなんで!?」
 「ぐ、偶然っしょー」
 「そんな偶然あり得ない! ホントのこと言ってよ!」
 「ホントのことって言われても……」

 別に言ったっていいか。そう一瞬思って、すぐにブレーキをかける。
 「超能力に目覚めたんだよね!」……なんて話したら、フツーにヤバいヤツでしょ。
 それに、昨日見せてもらった本。
 古い白黒写真に写った超能力の先輩は、体中に変な機械をジャラジャラつけて何かの実験をされてた。この力が広まったら、あたしも同じ風になっちゃうかもしれない。

 「う、占いっ!」
 「うら……ない?」
 「そう! 最近占いにハマっててさ、こないだ有名な占い師さんのとこいったら、あたしって才能あるんだって!」
 「……それガチ?」
 「ガ、ガチのガチ」
 「…………パないんだけど!!」

 ……通った。
 自分で言っておいてなんだけど、戸締まりのチェックできる占いって何?

 「ヤバー! クリスティーネ・みはねじゃん!」
 「な、なにそれ」
 「なんか占い師っぽくね?」
 「う、うーん?」
 「凄すぎる……みはねにそんな才能があったなんて……! この才能はお宝だよ!!」

 興奮した様子で、ミーがそう声をあげる。
 元々占いとか好きなほうってことは知ってた。それもあって占いなんて言い訳をしたんだけど。
 だけど、ここまでとは思ってなかった。
 ミーの感動はあたしの想像をはるかに超えるものだったみたいで、この日のことをあたしはすぐに後悔することになるのだった。

 ――あれから一週間。いつも通りじゃなくなった昼休み。
 あたしの机はすっかり『クリスティーネ・みはねの占いの館』になっていて、今日はついに廊下にまで相談者の列ができちゃってる。

 「――たぶん中学生のとき……あなたは子供の頃から大事にしてたぬいぐるみから卒業しようとして、納屋にしまいましたね?」
 「は、はいっ! 当たってます!!」
 「引っ張り出して、もう一度かわいがってあげましょう。そうすればきっと運気が上がります」
 「分かりました! ありがとうございます!!」

 悪気はまったくなく、純粋に幸せになってほしいって思いから、ミーは色んな人にあたしのことを話した。
 おかげで噂は一瞬で広まって、気が付けばこんな状態。他の学年の子もちらほら現れるくらい。
 あたしもあたしで最初の頃、期待に応えなきゃと思って超能力で過去の出来事を当てたのもよくなかった。
 今では過去を覗いてるだけで占いなんかできっこないのに、ガッカリさせないようにフリをしているニセ占い師になっちゃった。みんなを騙してるのは……マジで気まずい。

 「……次の方どうぞ」
 「よろしくお願いします……」
 「何を占いますか?」
 「あの……私、今度本格的なお芝居の仕事を始めるんです。それが上手くいくかどうか、占ってほしくて……」

 知ってるよ~! 大女優の娘さん~! 学校の中でも有名人来ちゃったじゃ~ん!
 本格的ってゆーか、もうこないだなんかの映画にちょっと出てたらしいじゃ~ん!
 ヤバすぎるよ~! 内容が重大すぎるよ~~!!!

 「……それじゃあ、手を」
 「はい」

 手を取ると、彼女のいつかの記憶が視えた。
 目線の高さから、かなり小さい頃の思い出みたいだ。
 いつからだっけ。初めのほうは直近の記憶しか視えなかったのに、だんだんとこうして古い記憶まで視えるようになっている。
 子供なりに一生懸命歌って踊る彼女。
 そんな彼女を見て嬉しそうに手を叩く、ありえんくらい顔が小さくて美人のママ。
 こうやって視えた過去を言い当てて、何か運があがるようなようなことを言えばみんな喜んでくれた。これまで相談に来た人達もみんな面白半分で、「モテたい!」とか「お金持ちになりたい!」とかそんな内容だったから、「頑張れ!」的なことを言えばよかった。それでもじゅうぶん心は痛かったけど。
 だけど……今回はあまりにも――

 「何も……視えません……」
 「え……」
 「未来がないって意味じゃなくて……占いなんかじゃどうすることもできない、実力の世界だから……かな」
 「そうですか」
 「ごめんね……」
 「いえ、正直に言ってくれてありがとうございます。本当の事を言うと、ここで占ってもらえって、友達に熱心に勧められただけなんです。実力の世界だっていうのは分かってます。自分の力で頑張らないとですよね」

 そうはにかみながら言う彼女が席を立った瞬間、チャイムの音が鳴った。並んでいた生徒達も、残念そうな顔をしてそれぞれのクラスへと戻っていく。
 あたしは、こんな占い師のフリは今日でやめようと心の中で決めていた――。


EPISODE6 真夜中の女子トーク「友達にも話せないようなこと、なぜかすんなり話せちゃう。もしお姉ちゃんがいたら、こんな感じ?」


 「ってことがあってさ~。散々だったよ~」
 「自業自得だな。大ウソつきのニセ占い師さんよ」
 「ううっ……言わないで……自分でも分かってて反省してるんだから……」
 「でもまぁ、そんなに悪い事はしてねーんじゃねーの。占いなんて結局きっかけが欲しいだけさ。それまでのやつはみんな勇気もらって喜んでたんだし、無責任なこと言えない相手には適当なこと言わずに足を洗ったんだろ? セーフだよ、セーフ」
 「ト、トラ子ぉ~~~!!」
 「泣き真似やめろ! うっとーしい!」

 1週間で変わったのは、ニセ占い師になったことだけじゃなかった。
 あれから、夜コンビニに行く度になぜかトラ子と遭遇して、毎回憎まれ口を叩き合った。
 それはいつの間にか二人の決まり事みたいになって、夜10時になると約束もしないのに必ず集まるようになっていた。
 コンビニ前でたまるのは目立つから、この小さな公園に。

 「しっかし、過去視ねぇ……なんつーか使い道が微妙な力だよな……」
 「そーなんだよね。未来が視えたほうがよっぽど便利だったのに」
 「それはそれでろくでもない気もするけどな。先のことが分かっちまうなんて、楽しみが減るだろ」
 「そんなこと言ったら超能力なんていらないってことになるじゃん」
 「まあそういうことになるか。ハズレくじを引いたな、みはね」
 「なんだと~! トラ子の過去、視てやる~~!!」

 滑り台を滑り終えた勢いのまま、あたしはトラ子へ向かって走り出す。
 トラ子はいつもの仏頂面が崩れるほど必死な様子で、あたしから逃げ出した。

 「やめっ、お前マジでやめろって!!」
 「ほらほら~! 追いついちゃうぞ~!!」

 あたしの力を知ってるのは、トラ子だけ。
 2回目に会ったとき、あたしはあっさり話した。
 なぜかトラ子なら信じてくれる気がしたし、それを知ってどーこーするとは思わなかったから。
 本人が嫌がってるのもあって、トラ子の過去は視ていない。
 こうやってふざけてはいるけど、本気で視たいとも思わない。
 自分から人の過去を覗き見して楽しむ趣味はないし、もしも秘密にしていたいことが視えちゃったら悪いから。
 だからつまり……その……簡単に言うと――
 あたしの力は、いまのところなんの役にもたってない……。

 「はぁ、はぁ……ほんっといい加減にしろよな……お前、ちょっとしつこいとこあるぞ……」
 「SかMかで言ったら、S寄りだとは言われます!」
 「聞きたくねえよ、そんなの……」

 嫌そうな顔をしたトラ子が、空を仰ぐ。
 あたしは笑いながらそれを真似して、夜の空を見上げた。
 都会とはいえないけど、それなりに大きい地方都市。地上の灯りに負けちゃってるのか、星は見えない。

 「そういえばよぉ、決まったのかよ。進路」
 「あーそれね……まだ」
 「そろそろマジでヤバいだろ。親父さんは……相談乗ってくれねーようなヤツなのか」
 「いやいやいや! そんな人じゃないよ! パパは真剣に考えてくれるけど……あたしができないだけ」
 「どうして」
 「あたしさー……やりたいことはあるんだ」
 「ならいいじゃねえか」
 「そのやりたいことっていうのが、めーーっちゃいっぱいあんの! どれを挑戦してみてもいいんだけど……やっぱり一番はある。パパはあたしのことなんでも分かるから、話したら当てられちゃうし、全力で応援しちゃう」
 「うーん……何が問題なのかまったくわかんねぇ。そのやりたいことってなんなんだよ」
 「それは内緒。ってゆーか、あたしもまだ悩んでるからさ。決心したら話すよ」

 トラ子は「ふーん」って感じに一度眉毛を上げると、それ以上は突っ込んでこなかった。
 だけど、少しだけ沈黙が流れたあと、呟くみたいに言った。

 「……なんでも良いけどよ、後悔したっていいんだぞ」
 「え? 後悔するな、じゃなくて?」
 「そんなのムリだろ、やる前から絶対に後悔しない道を選ぶなんて。失敗したー、やめときゃよかったー、って思わない瞬間がないほうが少ないんだよ。ま、それこそ未来視でも持ってりゃなんとかなるかもしれないけどな」
 「めちゃめちゃ嫌味じゃん!」
 「ははっ。まあ、確かに進路決めるってのは大事だけど、これから先、人生の進路を決める瞬間は何回も来る。その度に失敗して、後悔して、打たれ強い人間になっておけば……ちょっとやそっとのことじゃ負けやしねえ」
 「ふふっ……勝ち負けの問題?めっちゃ語るじゃん、今日」
 「う、うるせーな! 人生の先輩としてのアドバイスだよ!」

 先輩からの人生指南。だけど全然ウザくない。
 先輩っていうけどトラ子は……友達とか親友とかそういうのとはまた違う、仲良しのお姉ちゃんみたいな感じ。
 あたしを甘やかすような欲しい言葉だけじゃなくて、一歩先を照らしてくれるような。
 先を見渡せるわけじゃないけど、勇気を持って踏み出せる。それくらいがあたしには心地良い。

 「そういうトラ子はさ、今何してる人なの?トラ子のこと全然知らないんだけど」
 「いーんだよ、アタシのことは……」
 「え~なんで~! 教えてよ~~~!!」
 「だからいいって!」
 「あたしばっかり話しててズルくない?不公平じゃない? スジ通ってなくない!?」
 「ぐっ……」
 「フリーター? もう就職してるとか? 進学は……してるようには見えないか……」
 「おい。お前見た目で判断してるだろ」
 「情報がないからしょうがないじゃん!ちょっとくらい教えてくれたっていいでしょ~!」
 「むう……進学はしてない……自分のやりたいことより、大事なことがあるから……」
 「大事なこと!? なに!?」
 「昔からずっと好きだった男と……一緒になるため……」
 「……へ? えええ~~~!? 彼氏ってこと!?トラ子って彼氏いるの!?」
 「彼氏……まあ、彼氏ってことになるのか……」

 こういう話はやっぱ燃える。それがトラ子となればなおさら。
 もっともっと根掘り葉掘りノロケ話でも聞きだしてやろうと思ったけど、それ以上はやめた。
 相手のことを考えているのか、うつむき加減で微笑むトラ子を見ていたら、空気読めないヤツになっちゃいそうだったから。

 「大好きなんだね、その人のこと」
 「……ああ。大好きだ」

 そう言って顔をあげたトラ子と目が合った。
 そして微笑みながら、だけどどこか困ったような眉になって、噛みしめるみたいにもう一度言った。

 「大好きなんだ」


EPISODE7 大好きの気持ち「どこにいるの? 隠れてないで、顔を見せてよ。あたし話したいこと、いっぱいいっぱいあるんだよ」


 トラ子のことを少しだけ知れたあの夜から、また1週間が過ぎた。
 あれから、トラ子とは一度も会えていない。
 夜10時の10分前には必ず公園に行って、1時間ほど待ってはみるけれど、トラ子は来ない。
 連絡先も知らない。住んでる場所も、本当の名前も分からない。
 あたしにできるのはただ待つことしかなかった。
 風邪でもひいたのかな。それとも、嫌われちゃったのかな。
 ううん。案外恥ずかしくなって顔を出しづらいだけかもしれない。
 黙っていなくなる人じゃない。できるだけポジティブに。そう考えるようにしようとはするけれど、やっぱり気になる。

 「ただいまぁ」

 学校からの帰り道。
 ギリギリで降り出した雨に濡れた制服をハンカチで拭きながらドアを開けると、いつもと違う光景にすぐに気が付いた。
 玄関に、パパの革靴がある。
 あたしはローファーを乱暴に脱ぎ捨てて、急いでリビングに飛び込んだ。

 「パパ! お帰り!」
 「ただいま。急遽帰れることになってね、連絡できなくてすまない」
 「いいよいいよ! 疲れたでしょ。ご飯食べた?」
 「夕飯はまだだけど……先に少し話をしないか」

 いつもと何か違うパパの雰囲気の理由を、あたしはすぐに理解した。
 ダイニングテーブルの上には、白紙の進路調査票。
 やらかした……誰もいないからって、油断して出しっぱなしだったわ……。

 「はぁい……」

 別に叱られるわけじゃない。どうせいつかは話し合わなきゃいけないこと。
 でもやっぱり黙ったまま先送りにしてきたってのもあって、小さくなってパパの向かいに座る。

 「進路……決まってないのかい」
 「……うん」
 「みはねは自分でしたいことを決められる子だから、甘えてしまっていたな……仕事とはいえ、家を空けてばかりで本当にすまない。相談にも乗ってやれず……」
 「ち、違うから! パパは何も悪くない! あたしが決心できなかっただけ……」
 「やりたいことは、あるんだね?」
 「うん……でも、選べなくて……」
 「どういうものがあるのか、聞かせてくれないかな。きっと力になれる」
 「その……今は、まだ……できない」
 「話せないのかい」
 「別に秘密にしてるわけじゃない! 秘密にしてるわけじゃないんだけど……」
 「…………」

 ウチのリビングとは思えないくらい、珍しく重い空気が流れる。
 あたしもパパも、黙ったまま。
 壁掛け時計の小さな針の音、窓の外で本降りになりだした雨の音。それから、あたしの心臓の音。
 普段は気に留めないような色んな音がスピーカーを通したみたいに大きく聞こえて、沈黙を余計に強調する。
 そんな早めの梅雨みたいな雰囲気を破ったのは、パパだった。

 「……ママがね、言ってたんだ」
 「ママ……?」
 「心配してくれるのは嬉しいけど、自分はお人形じゃない……って」

 パパが自分からママの話をするのは初めてだ。
 パパはママが本当に大好きだったんだと思う。あたしから聞いてもほとんど話さないし、その度に寂しそうな顔をするのが辛くて、聞くのはやめていた。
 だから、とても大事な時間なんだと分かって、あたしは黙って続きを待った。
 パパは口下手なりに、ゆっくりゆっくり、掬いあげるように言葉を繋ぐ。

 「ママは、なんていうか……昔からアクティブな人でね。もやしっ子の僕からすると、見ていていつもハラハラさせられてたもんだ。強くて、芯が通ってて、誰よりも優しい人だったけれど、その分どこかで悲しい目に遭ったりするんじゃないかって、心配だったんだよ」
 「……うん」
 「だから、つい口を挟んでしまうことが増えていった。僕の目の届くところにいてほしいと。でも、ある日言われたんだ。お人形じゃないって。『どんな失敗をしたってそれも自分の経験。何かを諦めたら、諦めただけ成長しなくなる。私達は鳥かごに閉じ込めあうんじゃなくて、挑戦を助け合う関係じゃないのか』ってね。ふふ、結構ズバッと言うだろう?」
 「うん。ママがそういうタイプだったなんて、ちょっとビックリした」
 「ははは。パパにはその言葉が思い切り刺さってね。それからはどんなことだって応援することにしたんだ。みはねを宿してすぐに……病気が分かったときも。命が危ないって言われても、『挑戦挑戦!』って笑っていたよ」
 「そう……だったんだ……」
 「だから、みはねが何かに遠慮して悩んでいるなら、周りのことは気にせずに挑戦してごらん。パパは全力で応援する。できるはずのことを諦めたら……ふふ、きっとママに怒られてしまうよ」
 「うん……分かった」

 パパの思いが痛いほど伝わって、胸の奥が暖かくなる。
 あたしは立ち上がってパパの後ろに回り込むと、背中からぎゅっとハグした。
 ママは死んじゃったけど、ママの生き方はパパに……それからあたしにも受け継がれていく。
 ママは、あたし達の中にずっと生きてる。
 それを受け継いだ今だからこそ、決めるべきことから逃げ回っていた自分が恥ずかしい。

 「ごめんね、パパ。もう少し……もう少しだけ時間をくれたら、ちゃんと整理して、勇気出して話すから」
 「……分かった。しっかり考えておいで」
 「うん、ありがとう……」

 あたしは言って、もっと力いっぱいパパを抱きしめる。
 その瞬間だった。
 あたしの目の前を覆うように、青白い蝶々が舞い上がる。
 甘い、苦い。忘れたい、忘れたくない。
 過去という夜空の向こうにひらひらと羽ばたいて漂う記憶たち。
 それは合図。
 あたしの能力が、記憶の欠片を捕まえる合図だ。

 (これが……パパの思い出……)

 いつかのパパを通して見る、過去の記憶。
 白い壁。清潔な空気。どこかの病院。忙しそうな看護師さん達と、あちこちから聞こえてくる赤ちゃんの泣き声。
 パパの感情はソワソワして、ウキウキして、足がもつれそうになってる。
 廊下の奥からロビーに誰かが来る。それに気付いたパパの嬉しい気持ちが、もっと強くなる。

 『やあ、具合はどうだい?』
 『嘘みたいに調子がいいね。自分が病気だなんて忘れちまいそうなくらいさ』
 『それはよかった。せっかくの一時退院だからね。みはねは……はは、グッスリだ』
 『さっきまで大泣きにしてたくせによぉ。あー重い重い。ほら、抱っこしてやってくれ』

 そう言って、パパにそっと赤ちゃんを渡す人物。
 艶のあるキレイな長い髪。眉は不機嫌そうに寄ってるけれど、とびきり優しい眼差し。
 それから、入院着代わりのトレーナーの上から羽織った――黒いスカジャン。

 「トラ子!!」

 頭で考えるより先に、体が動き出していた。
 玄関でスニーカーに足を突っ込むと、壊れるくらいの勢いでドアを押しのけて外へ飛び出す。
 後ろでパパが何か言っていた気がするけれど、覚えていない。
 街は大粒の重い雨が容赦なく降っていて、走り続けるあたしの制服をあっという間にグチャグチャにしていく。
 だけど、そんなことどうだっていい。
 友達でも親友でもない。お姉ちゃんなんかでもない。
 トラ子は……トラ子は――

 「トラ子!! どこにいるのーー!?」

 あたしは――今すぐママに会わなくちゃ。


EPISODE8 バイバイ、またね。「今は超能力なんていらない。勇気はもう貰ったから。だからあたしは自分の足で、胸を張って会えるように」


 当てもなく走っていたわけじゃない。
 あたしがトラ子に会えるとしたら、たぶんここだろうと思っていた。
 住宅街の外れ、忘れられたように寂れた小さな公園。
 あちこちに茶色い水たまりができた湿った土の上に、トラ子は立っていた。
 傘も差してないのに、その髪も、その服も、水滴ひとつ付いていない。

 「……なんだ。バレちまったか」
 「はぁ、はぁ……トラ子……」
 「傘くらい持ってこいよ……風邪ひいちまうぞ」
 「いいよ、そんなこと。それよりさ……トラ子は……」

 トラ子は軽く笑って、あたしの言葉を遮るように話し出す。

 「ほんと不思議なことってあるもんだなぁ……アタシがどうしてここにいるのか、そもそもアタシがいったいなんなのか、はっきりした理由はわからねぇ。でも、適当な予想くらいはできるかな」
 「トラ子は……幽霊なの?」
 「似たようなもんかもな。たぶん……それのおかげだ」

 トラ子は自分の手の甲をあたしに見せながら、片方の指でそれをトントンと叩いた。

 「指輪。きっと最初から、力は発動され続けてたんじゃねーの? 指輪を嵌めたみはねの手が、みはね自身の過去を通してアタシをこの世界に映しだした」
 「あたしが……あたしの過去を……?」
 「こうやって自由に動いてしゃべれてるってのはマジでわかんねーけどな。でも現にアタシのこの姿……みはねが生まれてそう経ってない頃だ。アタシのこと、この頃くらいしか覚えてなかったんだろ。割と元気なときに若返れて、ちょっと嬉しくはあったな」

 そう言って、トラ子は楽しそうに笑った。
 正直、ママのことは全然思い出せない。ママのイメージは見慣れた写真――亡くなる少し前に撮ったっていう写真のイメージだ。
 だけどあたしの中には、トラ子の姿のママが微かに残っていたのかもしれない。

 「――そんなの……そんなのどうでもいいよ!幽霊でも超能力でもどうでもいい!」

 地面で弾ける雨音に負けないくらい、あたしは叫ぶ。

 「どうして言ってくれなかったの!? あたしの……あたしのママだって! 分かってたんでしょ!?」
 「うーん、直感としか言いようがねーんだが……“バレたら終わる”気がしてな。みはねの力になれるんなら、他人のフリでも構わないって思ったんだよ。つーかそもそも、『ママですよー』って言ったところで信じたかよ!?」
 「……そう言われると……確かに……」
 「だろ? だからこうするしかなかったんだって。まあ黙ってたのは……悪かった」
 「ううん……もういいよ」

 ママはママで、あたしのことを思ってくれてのことだった。
 そう聞いたら、それ以上は何も言えない。

 「……あたし、大きくなった?」
 「ああ、なったなった。ちょっと引くくらい」
 「ぷっ……なにそれ。娘の成長に引くとか」
 「しょうがねぇだろ。間がぶっ飛びすぎてる」
 「そりゃそうかも。あたしとママ、全然似てないね」
 「みはねはパパ似だな。アタシみたいにツンツン顔にならなくてホッとしたよ」
 「ってゆーかさ、あの写真は何? 今の姿と全然違うじゃん」
 「あれか……パパに頼まれてちゃんとしたところで撮ってもらったんだけどよぉ……顔があまりに死にかけだってんで、メイクとかスタイリストが好き勝手やりやがってな。最悪だった」
 「だとしたらあれ、サギのレベルだよ!」
 「はははは! 間違いねぇ!!」

 あたしはママと――トラ子と一緒にいつもみたいに冗談を言い合った。
 今のあたしにとっては、“トラ子との関係”のほうが自然に話せる。
 ダサくて古くさいファッションと、乱暴なしゃべり方であたしに語りかける声。
 あたしの大好きな、ヤンキー女。

 「……みはねのやりたいこと、教えてくれよ」
 「今それ聞く?」
 「今だからこそだよ」
 「……あたし、海外に行きたい。見たことない世界を体験してみたい。色々あるけど、一番はそれ」
 「なんだ、そんなことかよ」
 「うん。そんなこと……なんだよね。でも、何か具体的にしたいことがあるってわけじゃなくて、ただ味わいたいだけだから……そんな理由恥ずかしくてさ。それに……」
 「それに?」
 「パパがひとりぼっちになっちゃう。あたしが言ったら応援してくれるのなんて分かってるから。行ってみなさい、頑張って、って。でもそうしたら……」
 「おいおいおい、言っただろーが。後悔する瞬間が来るって分かってても――」
 「うん、分かってるよ。大丈夫」
 「なーんだ。ちゃんと話したのか。ならもう……安心だ」

 雨の向こうに、目を細めるトラ子の顔が見えた。
 死んじゃったあともこんなに心配かけて。あたしはめちゃくちゃ親不孝者なのかもしれない。

 「さーて、そろそろお別れみてーだ」
 「……うん。そんな気がしてた。あたしの力って、全然融通効かないね」
 「ははっ、なにせハズレくじだからな。まあ、ここまでしてくれただけでもありがとなってもんよ」
 「そうだね」

 顔を見合わせて笑い合う。
 それからトラ子はピースするみたいに指を2本立てて言った。

 「ひとつ、抱き合って思い切り泣く。ふたつ、笑顔でハイタッチ。どっちにする?」

 あたしはそう悩まず、その問いかけに答える。

 「ハイタッチ。その方が、あたしらっぽくない?」
 「だな」

 あたし達はごく自然に歩み寄りながら、軽く手を挙げる。
 それから、ふたりの間でお馴染みの挨拶みたいに、手のひらと手のひらをぶつけあった。
 乾いた音が響いたその瞬間、あたしはトラ子を抱きしめてその肩に顔をくっつける。
 涙も鳴き声も、この雨でごまかせるように。
 少しでもあたし達らしい雰囲気で、さよならできるように。
 なのにトラ子は優しくあたしを抱きしめ返してきて、聞いたことない優しい声色で囁いてきた。

 「苦労かけてごめんな」
 「……うん」
 「パパと仲良くな」
 「……うん」
 「体に気をつけるんだぞ」
 「……うん」
 「みはねのこと……愛してるから」
 「……うん! あたしも――」

 抱きしめていた温かい感触が一瞬で消える。
 代わりにあたしの胸元に現れた蝶々の群れが散り散りに飛んでいって、すぐに遠くへ見えなくなっていった――。

 ――さすがに海外でただフラつかせるわけにはいかないと頭を悩ませるパパに、あたしはあるお願いをした。

 「大学留学させてください!」

 パパを納得させることに成功し、海外の大学を留学受験することになったあたし。
 ある程度の勉強はしっかりやってたけど、3年からの留学希望はマージ大変で。
 でも頑張ったかいもあって、すんごいレベルの学校じゃないけど無事合格することができた。

 そして今、あたしは空港の中を歩いてる。
 ピカピカのスーツケースの車輪が音を立てる。ハンドルを掴むあたしの手に、あの指輪はない。
 指輪は実家のあたしの部屋。アクセケースの一番上の段の中。
 過去を視る力は、今のところあたしには必要ない。あたしは今、未来しか見てないから。
 手続きを済ませて、スーツケースを預ける。
 出国ゲートを抜けてソワソワしながら時間を潰していると、あっという間に搭乗時間はやってきた。
 飛行機の座席に座って窓から外を覗くと、ねずみ色のでっかい飛行場が広がっている。

 「ビッグになって帰ってくるよ――こういうセリフ、たぶん好きでしょ?」

 いつか、あの指輪をまた嵌める日が来たら。
 その時はきっと――もう一度会えると思うから。




■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧


コメント

  • 途中トラ子の正体ってもしかして…って思ったけど、それが確信して目がウルってなった……。にしても、藍沢&遊馬とあおい&瑞穂と冴川芽依が在学してるってどんだけ強いんだこのエリート校……。 -- 2023-12-17 (日) 07:55:19
  • 学校同じはずのキャラの制服が全然違うの謎。(呼び出し姫は特に) -- 2023-12-23 (土) 00:14:14

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