神開 つかさ

Last-modified: 2024-03-05 (火) 08:33:59

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通常オール・オア・ナッシング
神開 つかさ.png神開 つかさ/オール・オア・ナッシング.png

Illustrator:ゆか


名前神開 つかさ(しんかい つかさ)
年齢21歳
職業カジノクラブのディーラー兼ウェイトレス
  • 2022年12月22日追加
  • SUN ep.IIマップ3(進行度1/SUN時点で225マス/累計495マス)課題曲「Fallin' Darlin' Rollin'」クリアで入手。
  • トランスフォーム*1することにより「神開 つかさ/オール・オア・ナッシング」へと名前とグラフィックが変化する。

宮崎県のとあるカジノで働くパチ○スディーラー。

近年のGUMINレーベルの例に漏(ry。

近年のGUMINレーベルの例に漏(ry。

  • STORY全体
    • 福本伸行の漫画『カイジ』シリーズから。
      なお、各章のタイトルは必ず漢字2文字の熟語が使用されているが、これは『カイジ』シリーズ及びそのスピンオフ作品群にみられるタイトルの命名規則となっている。
  • キャラクター名
    • 「つかさ」を漢字に直すと「司」であるとするならば「神開 司」となる。
      『カイジ』シリーズの主人公・伊藤カイジは漢字で表記すると「伊藤開司」であるため、これを意識したネタであると思われる。
      なお、21歳というキャラクターの年齢も、1996年の連載開始当時のカイジの推定年齢と一致する。
  • 未来はアタシの手の中にある
    • バンド「THE BLUE HEARTS」の楽曲『未来は僕等の手の中』から。
      アニメ『逆境無頼カイジ』ではカイジ役の萩原聖人氏がカバーしたものがオープニングとして使用され、作中のカイジの自宅にこの言葉が紙が飾られている。
  • 「こいつは帰って、キンキンに冷えたアイツを飲むしかねえな!」「ぷはあ、この瞬間がたまらねえ! しみ込んできやがる! 全身に!」
    • 『カイジ』シリーズ第二部『賭博破戒録カイジ』の地下帝国編において、カイジがビールを飲んだ際の感想。
  • 「すげえっ!? 王心グループ会長、近藤和貴……まさか、日本、いや世界トップクラスの大富豪!?」
    • 『カイジ』シリーズに登場する大手ファイナンス企業「帝愛グループ」およびその会長である兵藤和尊から。
      作中では国政にも影響を及ぼすほどの大富豪として描かれている。
  • 「それ大丈夫なの? 変なことに巻き込まれて、鉄骨の上を歩かされたりしない?」
    • 『カイジ』シリーズの第1作目『賭博黙示録カイジ』に登場したギャンブル(というかゲーム)「人間競馬」および「電流鉄骨渡り」から。
  • 「どう″じでな″ん″だよ″おおおおお!!!!!」
    • 『カイジ』シリーズの実写映画版でカイジ役を担当した藤原竜也氏のモノマネをするお笑い芸人の定番ネタ。藤原竜也氏の演技は度々迫真すぎて全てのセリフが濁音に聞こえることでネタにされることがある。
      元々は映画『DEATHNOTE』における夜神月役を演じた際のセリフだったのだが、何故かカイジのモノマネの中にこのセリフが登場した結果カイジのセリフとして定着したが、当然ながら映画におけるカイジがこのようなセリフを発したことはない。
  • 倍プッシュ
    『カイジ』シリーズと同じく福本伸行の漫画『アカギ ~闇に降り立った天才~』における赤木しげるのセリフ。

  • 「そういうと思ってね。公平にするため、ある組織に仲介役を頼んだよ」
    • 迫稔雄の漫画『嘘喰い』に登場する闇ギャンブルを中立の立場で仕切る組織・倶楽部「賭郎」からか。

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1アタックギルティ【SUN】×5
5×1
10×5
15×1

アタックギルティ【SUN】 [A-GUILTY]

  • ゲージブースト【SUN】より高い上昇率を持つ代わりにデメリットを負うスキル。
  • 強制終了以外のデメリットを持つスキル。AJ狙いのギプスとして使うことはあるかもしれない。
  • GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.3%→+0.2%)する模様。
  • SUN初回プレイ時に入手できるスキルシードは、NEW PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
  • スキルシードは150個以上入手できるが、GRADE150で上昇率増加が打ち止めとなる。
    効果
    ゲージ上昇UP (175.00%)
    ATTACK以下で追加ダメージ -300
    GRADE上昇率
    1175.00%
    2175.30%
    3175.60%
    ▼ゲージ7本可能(190%)
    51190.00%
    85200.20%
    101204.90%
    ▲NEW PLUS引継ぎ上限
    127210.10%
    150~214.70%
    推定データ
    n
    (1~100)
    174.70%
    +(n x 0.30%)
    シード+1+0.30%
    シード+5+1.50%
    n
    (100~150)
    184.70%
    +(n x 0.20%)
    シード+1+0.20%
    シード+5+1.00%
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期所有キャラ数最大GRADE上昇率
2023/4/26時点
SUN12145213.70% (7本)
~NEW+0245214.70% (7本)


所有キャラ

所有キャラ

  • CHUNITHMマップで入手できるキャラクター
    Verマップエリア
    (マス数)
    累計*2
    (短縮)
    キャラクター
    SUNep.Ⅰ4
    (55マス)
    290マス
    (-30マス)
    幡桐 こよみ
    ep.Ⅲ3
    (225マス)
    465マス
    (-30マス)
    神開 つかさ
    ep.Ⅲ4
    (285マス)
    720マス
    (-40マス)
    薬研堀 ユウ
    SUN+ep.Ⅳ2
    (205マス)
    505マス
    (-10マス)
    遊馬 万里亜
    ※:該当マップ進行度1の全てのエリアをクリアする必要がある。

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 出逢「人生なんてギャンブルみたいなもんだ。だから、今を楽しむんだよ。今この瞬間を楽しまなきゃ損なんだ!」


 ――暗闇の中。
 男の手がその身体に触れている。
 気味が悪いと思っても逃げることはできない。
 身をよじることも、抵抗することも。

 「あぁ……ぐぅ……」

 声を上げることもできない。
 それを冷ややかな目で見つめるのは、自分を見つめている男。
 薄れていく意識の中で女――神開つかさが見たものは闇、光が届かぬ一切の闇。
 できるならばと願うが遅い、遅すぎる。
 地獄の沙汰に神など存在するわけがない。

 これが闇に落ちた者の末路。
 愚か者の末路。
 救いようのない末路。

 神開つかさに救いなど存在しない。

 「――うわあああああっ!?」

 ガタン! と何かが倒れる音とともにつかさは目を覚ました。
 周囲にいる者たちが彼女を奇異な目で見るが、すぐに正面を向いて己の運と向き合う。

 「な、なんだったんだ、今の夢は……」

 つかさは再び、椅子に座り直し、彼女もまた己の運と改めて向き合うことにした。
 つかさの視線の先――ギラギラとした液晶に映る彼女の姿は、マスクにサングラス、キャスケットという怪しげなものだった。

 『ハードボイルドアル!』
 『いや、どう見ても変質者やろ……』

 さねるたちの目の前で、何かの機械から出た銀の玉が放物線を描いては落ちてを繰り返している。
 周りをよく見れば、ここにいる皆が皆、右手で台座のハンドルを握り、盤面を食い入るように見つめていた。
 その一発一発が大きなアタリに繋がると信じて。

 『こ、これってもしかしてパチン――』
 『この女! 真っ昼間からなんでこんなとこにおんねん!』
 『こやつでよいのか、本当に……』
 「んん? なんか聞こえた気がすんなぁ。あっ!もしかして、プレミア演出が来てんじゃねえのか!?」

 八雲たちの声も、つかさにとっては演出のひとつ。
 そして――本当にアタリを引き当てた。

 「よっしゃあ! やっぱ大戦よ! ヒャッハッハー!たまんねえな、おい! 血潮が熱く燃えてるぞ!」
 『間違いない、クズやこいつ……』
 「こいつは帰って、キンキンに冷えたアイツを飲むしかねえな!」

 ――1時間後。
 店から出てくるのは大勝ちして上機嫌のつかさ。
 外に止めていた原付ベスタにまたがり、意気揚々と帰路につく。

 『ここは……宮崎のようじゃな。ほれ、あそこの看板を見るのじゃ』
 『どことかどうでもええわ。こいつ、どないする?あの感じやと間違いなく借金が問題やで』
 「んだよ、今日はやけに耳鳴りが残るな。次からは耳栓持っていくかあ」
 『うちらの声も雑音かいな』

 アパートへと帰ってきたつかさ。
 部屋に戻ると鏡に向き合い、その変装を解く。
 そこに映されたのは、流れるようにきめ細やかな金髪がまぶしい、整った顔立ちの女。
 そして、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるグラマラスな肢体。

 『ぐはっ……ナイスバディなのだ……!』
 『らいむーっ!?』
 『た、確かに魅惑的な姿じゃが、ここで意識を失うとおぬしが成仏しかねんぞ!』
 『にしても、えらいええ身体しとんなぁ』
 『さねるとらいむ、目つきがいやらしいアル』
 『こないなもん見せられて、見ぃひんほうが失礼やろ!』
 『にゅふ……これが大人の女性……たまらないのだぁ……』
 『なんかおっさんみたいアル』
 「うおっ、まだ声が聞こえるぞ!?」
 『どうやら、わらわたちを認識したようじゃな。相変わらず言葉は届いとらんが』
 「うわー、マジかよ!? なんか会話みたいなの聞こえるし。とうとうアタシもおかしくなっちまったか……」

 頭の中に誰かが住み始めたと絶望するつかさ。
 だが、「そんなこと」と言い捨て、冷蔵庫からあるものを取り出した。

 「ぷはあ、この瞬間がたまらねえ! しみ込んできやがる! 全身に!」

 大人の女性の魅力など何処へやら。
 腰に手を当て、手に持ったものを一気に流し込む。

 『なんじゃこれは?』
 『うちらには関係ないシロモンや。麦ジュースとでも覚えとき』

 このような状態で八雲たちの言葉は、つかさに届くのだろうか。
 そして、このギャンブルの沼に沈んでいく彼女の運命やいかに。
 八雲たちが乗り込んだ船は、希望となるかはたまた泥船か。


EPISODE2 火蓋「デカいカジノで働けるなんてラッキーだな。じゃんじゃん稼いで、お気に入りの台に全ツッパだ!」


 さねるたちは、おかしな光景を見ていた。
 暗がりの中で横たわるつかさと、小汚いおじさん。

 『って、服なんも――うえっ!』
 『ま、まだ豚のほうがましアル……』

 すると、おじさんは横たわるつかさの元へと近づいていき
 ――つかさに触れようとした瞬間、どこからかアラームのような音が鳴り響いた。
 それは、つかさがセットしていた目覚ましだ。

 音が大きくなるに連れ、つかさの意識は次第に覚醒していった。

 「くそっ、目覚めが悪いな……」

 携帯のアラームを止めて、つかさはベッドから身を起こす。

 「これも全部、クソな夢のせいだ……」
 『まあ、考えたら夢やと思うわ』
 「っかしいなぁ……まだ声も聞こえる。影響受けるタイプじゃないと思ってたけど、映画の見すぎかもしれないな」

 寝癖だらけの頭をかきながら、つかさは身支度を整える。

 『またあの店に行くつもりか』
 『あそこは嫌じゃ。音はうるさいし、目がチカチカするのじゃよ……』
 「……うし、今日も張り切っていくか!」

 つかさが向かったのはアノ店ではなく、少し高級感のある店だった。
 その看板には、アミューズメントカジノと書かれている。

 『って、また賭け事かいな!』

 そのままカジノの中に入っていくと思っていたさねるたちだったが、つかさはカジノの裏手へと回っていく。
 そして「関係者以外立入禁止」と書かれた通路に入っていった。

 「おはようございます!」
 「おう、おはようさん。神開よ、今日はちゃんと起きてきたんだな」
 「変な夢見て目が覚めちゃって。すぐに準備しますねー」

 つかさは従業員用の更衣室に入っていくと、手慣れた感じで仕事着へと着替えていく。

 『あばっ!?』
 『このどぎつい衣装はなんやねん!』

 つかさが着込んだあまりにも際どい仕事着に、さねるたちは自分のことのように顔を赤らめる。
 だが、当のつかさは気にすることなく化粧を済ませると、ホールへと向かった。
 扉の向こうは、ポーカー、ブラックジャック、ルーレットなど様々なアミューズメントカジノのテーブルや遊技機が並んでいる。

 『わあ……』

 自分たちが知らない大人の世界に、さねるたちは目を輝かせ、見惚れてしまう。

 『こ、これがカジノなのだ……?』
 『こないな場所で働いとったんか、この姉ちゃん』
 「そんじゃまあ、始めるか」

 つかさがブラックジャックテーブルにつく。すでに客は座っており、一礼するとカードを配っていく。

 「さあ、お客様……賭けてください!」

 いかにも金持ち然とした客たちは、ゲームが進む中、勝った負けたと一喜一憂する。
 つかさは営業スマイルでそれらに対応していく。

 「いい感じのカードだな! ツキが回ってきてる!」
 「でしたら、勝負に出てみてはいかがでしょう」

 つかさの細かな客のやり取りや、その所作。
 らいむとメイメイはそんなカジノで働く魅惑的な大人の女性という一面に魅力を感じていた。

 『にゅふ……お姉さん、素敵なのだ……』
 『アタシもこういう魅力的な女性になってみたいアル!』
 『……おぬしら、現実から目を背けるのはやめたらどうじゃ?』
 『え……?』

 そんなふたりに対し、さねると八雲は驚くほどげんなりとしている。

 『だって、仕事のできる女性アルよ?』
 『確かに仕事はできるが。じゃが、よーく耳を澄ましてみい』
 『耳を?』

 そう言われてらいむとメイメイが耳を澄ませると、やんわりと声が聞こえてくる。
 それはつかさの声だった。

 (このおっさん、しけすぎだろ。たったそれっぽっちしか賭けねえのかよ!)
 (クソジジィ、人のことチラチラやらしい目で見やがって。そういうの一発で分かんだよ! 見たきゃ有り金全部落としてけ!)
 (あー、こいつツイてやがる。適当なこと言って、さっさと止めさせるか)

 と流れるようにつかさの心の声が届き始める。

 『なっ……』
 『やっぱ、聞こえとらんかったんか。まあ、そうやないとああいう反応せんわな』
 『うぅ、見損なったネ……』
 『……さねるよ、おぬしには聞こえておったのか』
 『まあ、最初からやな』
 『なるほどの、おぬしとこやつは相性が良いらしい。普通ならば意識せんと聞こえんのじゃが、それが聞こえておったのはその証拠じゃな』
 『ええっ!? イヤや、こないなクズ女と相性がええやなんて!』

 そうこうする内に、つかさはひと仕事終えたようだ。
 すると、それを待っていたのか男の声が彼女を呼び止めた。

 「神開つかさ君だね?」

 話しかけてきたのは、八雲たちが見た小汚いおじさんだった。
 その周りには黒服に身を包んだボディーガードが数人控えている。

 『あっ、あんときのおっさん!』
 (静かにしやがれ!)
 『うっ……!?』

 つかさの怒鳴り声に、さねるは縮こまってしまう。

 「ええ、そうですが……お客様は?」
 「私はこういうものでして」

 名刺を渡され、そこに書かれていたことにつかさは客の前だということも忘れて声を上げてしまう。

 「すげえっ!? 王心グループ会長、近藤和貴……まさか、日本、いや世界トップクラスの大富豪!?」
 「ははは、大袈裟ですよ」

 はっと気づいてすぐに仕事用の対応に戻ろうとするつかさだが、心の中は大いに荒れていた。

 (大金持ち! 富豪の中の富豪じゃねえか!こんな太い客が来るなんて、今日は超ツイてるな!)
 『あかん! そいつはあかんのや!』
 「と、ところで、私にどのような御用でしょうか」
 「それなんだが、実は我が社で新しい会員制のクラブを作る予定でね。ぜひ、君をそこのディーラーとして雇いたいんだよ」
 「はい、喜んで!」
 「はは、返事が早すぎるよ。ちゃんと条件を聞いてからの方がいいだろう、少しいいかな?」
 「わ、わかりました。ぜひ、その話、聞かせてもらっていいですか」
 「では、オーナーにも話を通したいので、案内してもらえるかな」
 「はい、こちらへ」

 つかさは高ぶる気持ちを抑えながら、近藤をバックヤードへと連れていくのだった。

 『そいつはあかんのや! 夢で見たことを忘れてもうたんか!』
 『酷いことされるアル! ぜったいやめ――』
 (今、大事な話をしてんだ!黙ってろ!)
 『ダメじゃ、聞く耳を持っておらん。こちらの声は雑音程度にしか聞こえとらんのじゃろ』
 『ど、どうするのだ?』
 『どうしようもできぬ……こちらの声が聞こえるようになるまで待つしかない』
 『それまでに取り返しの付かんことにならんとええんやけど』

 つかさとカジノオーナー、近藤との話し合いは1時間ほどで終わり、カジノには引き抜き料など、つかさには現在の数倍の収入を確約という条件が提示された。

 「……てなことがあったんだよ。すげーだろ、マジで運気バク上がりだな!」
 「それ大丈夫なの? 変なことに巻き込まれて、鉄骨の上を歩かされたりしない?」

 カジノの仕事が終わったあと、いつものアノ店に来ていたつかさは、遊技機を打ちながら仲の良い女性店員と話していた。

 「変なこともなにも、相手はあの王心グループだ。金払いも最高なんだぜ!」
 「それが心配なんだけど……」
 「大丈夫、大丈夫! なんとかなるって! それに、希望に進むのが人生ってもんだろ? ……おぉっ!この演出、激アツじゃないか!」
 「はぁ……だといいんだけど……」

 女性店員の心配を他所に、つかさは気楽に遊技機を楽しむ。
 新しい環境、新しい仕事。
 期待に胸を膨らませ、今日もつかさの声がホールに響き渡るのだった。


EPISODE3 転落「負ける、負けちまうよおおおおお! アタシはどうすりゃいいんだあああああ!!!!!」


王心グループの経営する会員制のカジノクラブで働く日がやってきた。
 つかさは意気揚々とクラブを訪れ、近藤が気に入ったという前職の仕事着に身を包む。

 「むふ、本当によく似合っているよ」
 「ありがとうございます!!」

 近藤がつかさのことを舐め回すような目で見つめていたが、そんなこと気にならないほどにつかさは金で頭が一杯だった。

 「それで私はどのテーブルにつけばいいんでしょう」
 「ああ、その前にこれに目を通しておくように」

 近藤から手渡されたのは、クラブのマニュアル。
 それを開いて読み始めたつかさは、その内容にだんだんと顔が青ざめていく。

 「こ、これは……こんな金額を賭けられるなんて法的にダメじゃないですか!」
 「わかっているとも。だからこその会員制のクラブなんじゃないか」

 そんなことは知っていると笑って答える近藤に初めてつかさは自分が置かれた状況に気づいた。

 「バレたら捕まる場所で働けません。私は帰らせてもらいます!」
 「それは残念だ。では、違約金として1千万。即金で払ってもらおうか」
 「はぁ!?」
 「おや、契約書は読んだはずだが。君も一ヶ月は辞めることなんてないから大丈夫です、と言ったじゃないか」
 「あっ……ぁ……」

 つかさの視界が歪む。
 確かにつかさがサインしてしまった契約書には事情を問わず、一ヶ月でクラブを辞めてしまった場合は、その違約金を払う必要があると明記されていた。

 「わ、私が警察に駆け込んだら!?」
 「やってみるといい。うちのお得意様に警察がいないことを祈るんだね」
 「そういうことかよ……」
 「だが、条件次第ではその金を無しにしてもいい。僕の言うことをなんでも聞く、というのならね。デュフフフ……」
 「まさか……」

 つかさはそこで初めて近藤にはめられたこと、そしてその目的が自分の身体であることを察する。
 いつもなら平気だが、近藤の目に我慢ならず、つい身体を手で隠してしまう。

 「いいね、その顔。苦しそうないい表情をするじゃないか」
 「こいつ!」
 「もちろん、他の方法もある。このカジノは給料とは別にディーラーの取り分がある」
 「取り分?」
 「勝ち分の80%。君が勝てば勝つほど大金が懐に入るんだよ」
 「は、80も!?」
 「即金でも、給料日にまとめてでも。どちらを選んでくれてもかまわないよ」
 「この賭け金でそれだけ貰えれば……」
 「当然、負けた場合は負け金の80%をディーラーに負担してもらうがね」
 「くっ……」
 「君は腕のいいディーラーだ。そちらのほうが簡単かもしれないな」

 その言葉にディーラーとして、ギャンブラーとして負けられないとつかさの中のスイッチが入る。

 (ハ……そうだよな。自分を救えるのは、自分だけだ!)

 絶望していたつかさは、もうどこにもいない。
 ここにいるのは、戦う者としての魂を内に宿すつかさだった。

 「……わかった。つまり、ここで1千万ぽっち稼げばいいだけだな。やってやろうじゃねえか!」
 「おお、決まったようだね」
 「違約金、払ってやるよ。ただし、それと追加でひとつ条件を加えろ」
 「ほう?」
 「ここにきて種明かしをしたのはそっちだ。ひとつくらい別にいいだろ」
 「もちろんだよ」
 「払ったら、もう二度とアタシの前に現れるな。それを守ってくれればいい」
 「それはとても残念な条件だ。君の恵まれた体をもう見られないなんて」
 「こいつ……!」
 「だけど、いいと言ってしまったからね。わかった、その条件を飲もう」
 「決まりだな!」

 2人は互いに念書を交わす。
 そして、つかさの1千万を稼ぐための戦いが始まるのだった。

 「さあ、かかってこいよ。お前らから全部搾り取ってやるからな!」

 ――そして、二週間後。

 「どう″じでな″ん″だよ″おおおおお!!!!!」

 そこには泣きじゃくりながらアタリが来ない遊技機で遊ぶ、つかさの情けない姿があった。
 その隣には困った顔をした女性店員の姿も。

 『もうあかんわ、こいつ。助けようがない、どうしようもないで』
 「あ″ぎら″め″だぐない″!!いぎだいよ″おおおおお!!」
 「だ、大丈夫ですか?」
 「うぅ……」
 「な、なにがあったんですか。私でよければ、話を聞きますけど……」
 「あ、ありがどう……でも、言えない……」
 『ここで喋ったら、この人も巻き込むアル。そこは理解してるようで安心したネ』
 『でも、借金2千万なんてどうするのだ!?』
 『ボコボコに負けて、返さなあかん金が倍になってしもとるし。もう、どうしようもないんちゃうか』
 『ええい、諦めるな! まだ始まったばかりじゃ!』
 「はぁ、これ当たらないなぁ……」
 「今日はもう止めておいたほうが……」
 「うぅ、今日は帰るよ……じゃあな……」

 つかさが働き始めたころは予想以上に稼げて、すぐに1千万貯まると思われた。
 だが、現実はそう甘くない。
 最近は負けが続き、とうとう負けが1千万を超え。
 近藤に払わなければならない金額が2千万になってしまっていた。
 たとえ、このまま一ヶ月働いたとしても、返さなければならない金額は同じ1千万。
 もしかしたら、それ以上になっている可能性もある。
 負け金の返済は給料日。
 その日までに金を用意できなければ借金となり、つかさは近藤のものとなる。
 絶望の中、家に帰ってきたつかさは倒れるように
ベッドへ飛び込んだ。

 「お……親に頼めれば……それくらいならぽんと払ってくれるだろうな……」
 『へ? あんたの親はなにしてんの?』
 「建設会社の社長だ。名前を聞きゃ誰だって知ってるくらい有名だけど、こんなこと言いたくねえ」
 『なんでなん、パっと解決やで?』
 「お嬢様とか、お姫様とか、そんな扱いをされるのは嫌なんだよ。アタシはペットじゃねえ、性に合わねえ」
 『せやから、格好だけはすごいんやな』
 「うっせえ。“だけ”は余計だ。……まあ、親には迷惑かけたくねえってのが本音だけどな」
 『どういうことや?』
 「あの近藤ってやつは金の亡者だ。アタシが親から金を借りたらどうなると思う?」
 『……うちやったら、ずっと絡む』
 「そういうこと。だから頼らねえ、巻き込ませねえ」
 『なんやかんや言いながら、親のことめっちゃ好きやん。うちとおんなじやな』
 「誰か知らんけど、アタシの妄想上の人間なら、それくらい察せよ」
 『ぜったい、負けるんやないで』
 「フン、勝てばいいだけだ。こんな境遇、アタシがねじ伏せてやる」

 この状況を打開する策は見つかっていないが、明日の仕事に備え、つかさは眠りにつくのだった。


EPISODE4 回生「誰が負けたって言ったよ。まだまだこれからだろ!倍プッシュで行くぜ!」


  今日はポーカーのテーブルについたつかさ。
 すでに数戦が経過していたが、この日もまた負けが込み始め、返済するべき金が少しずつ額を増しつつあった。

 「私の負けですね。さすがです、お客様」
 「はっはっはっ! 悪いね、今日も勝たせてもらって!」

 客の笑いに、つかさは笑顔で返すが、その心の中はまったく穏やかではなかった。

 (ふっざけんじゃねえ、このクソハゲ! てめえもどうせ、近藤が雇った輩だろうが!)
 「ずいぶんと負けてるみたいだね。おかげでイイ顔をたくさん拝ませてもらったよ」

 そう言いながら近づいてきたのは、つかさを苦しめている張本人、近藤。

 「……ッ」
 「そう睨まないでほしいな。僕はここのオーナーなんだからね」
 「……」
 「では、引き続き頑張ってくれ。負けた分は“きっちり”稼いでもらわないとねえ」

 イヤミたらしく強調して去っていく近藤を見送ると、つかさは見えないところでテーブルを蹴る。

 (あんのエロジジイ! いつか目にもの見せてやるからな!)
 『荒れすぎやって。冷静にならんと勝てるもんも勝てへんやろ』
 (アタシはアタシのやり方があるんだ。素人は口出しすんな!)
 『……にしても、本当に相性が良いな。普通に会話が成り立っておるではないか』
 『嬉しくないわ!』
 (次こそ、次こそは……!)

 だが、熱くなればなるほど負けは込んでいく。
 焦り、意地、今あるつかさの感情全てが、その手を狂わせ、負けへと導いてしまう。

 (このゴミ手はなんだよ! ここからどうやって勝てっていうんだ!)
 『なあ、しばらく見とって思うたんやけど、一番右と二番目のカード、いらんのとちゃう? それで数字揃っても弱いやん』
 (はあ? これだから素人は。確かにこれを交換しても弱い手だけど、数字が並べば――)
 『せやったら、左のカードが――』

 ため息をつきながら、さねるの質問に答えていく。
 どれもディーラーとしては正しい意見で、さねるもその説明を聞きながら、なるほど~、と感嘆の声をあげる。

 (――ってことだ、わかったか)
 『なんや、説明聞いとったらうちもやりたなってきたわ。ええ勉強させてもろたな~』
 (ったく、子供と話してるみたいだぜ……)

 ふと、つかさがあることに気づく。
 どのカードを捨てたら、どういった結果が待っているのか、ある程度の予想が自分の中で立っていることに。
 そして、その中に最適解があることを。

 (そうか。なら、こいつを捨てれば……)

 結果――このゲームはつかさの勝利となった。

 「うわっ! やるな、ねえちゃん。俺の負けだ、チップ持ってけ」
 「あ、ありがとうございます!」

 この日、初めての勝利を手にしたつかさ。
 先程までの絶望的な空気は薄れ、一変、そのさきに希望の光が見え始める。

 『なんや、勝てるやん。この調子でバンバン勝っていこうや!』
 (ああ、そうだな!)

 ついに勝利に勝利を重ね、今日の負け分を大きく上回り、プラスとなる。
 カジノで働き始めて2週間。
 負けが続いた中で価値のある勝利を得た。

 (ふん、なるほど。そういうことか……あのエロジジイ、本当にクソだな)

 ここでつかさは知る。
 近藤は彼女の実力を見込んで選んだのではない。
 腕は二の次、三の次。
 彼が欲したのはあくまでつかさ。
 彼女を負けさせるために雇った連中は、素人に毛が生えた程度のアマチュア。
 冷静さを取り戻したつかさの敵ではない。

 (稼がせてもらうぞ、エロジジイ!)

 その日、つかさの稼ぎはゆうに2百万を超え、返済への道が開こうとしていた。

 「あはははっ! マジで今日は気分がいいぞ!心配させて悪かったな!」
 「よかった。この前は今にも死にそうな感じだから心配してたんですよ」

 アノ店で懲りずに遊技機と向き合うつかさ。
 勝利を掴んで上機嫌のつかさに、女性店員も心なしか嬉しそうな笑みがこぼれている。

 「台もアタシのこと祝ってくれてるな。どんどん出てくるぞ!」
 「なにがどんどん出てくるじゃ、ボケ!」

 低い男の声がしたと思い振り向くと、つかさの後ろに大柄な男が見下ろすように立っていた。

 「おっさん、負けたからって人に当たるなんて、大人げないと思わねえのか?」
 「ああん? なんじゃ、その口の聞き方は!」
 「うっ……」

 あまりの相手の厳つさとその大声に、普段なら言い返せるつかさですら、気圧されてしまう。
 そこへ女性店員が男を止めるように割って入る。

 「お客様、店内での争い事は控えてください」
 「邪魔すんな! 今、俺はこの女と話してんだ!」
 「……もう一度言います。他のお客様の迷惑となるのでお引取りを」
 「なにがお引取りをじゃ! 力尽くで追い出そうってんなら、やってみろや!」
 「わかりました。では、実力行使させていただきます」

 そう言うと店員は男の腕を掴み、そのまま後ろへひねり上げてしまった。

 「いたたたたたっ!?」

 男は振りほどこうと抵抗するが、店員に力で勝てず、そのまま店の外へと連行され、放り投げられてしまう。

 「あなたは出禁とさせていただきます。次はこの程度で済まないと思ってください」
 「く、クソがっ! 二度と来るか、こんなところ!」

 そう吐き捨てた男は慌てて逃げていく。
 一部始終を見ていた他の客からは、店員の勇敢な行動に拍手し、称賛の声が上がる。

 「お前、そんなに強かったのか!?」
 「ちょっと、護身術を習った程度ですよ」
 「すっごくかっこよかったぞ! お前が男だったら、
今ので惚れてたわ、マジで!」
 「えっ、あっ……あ、ありがとうございます」
 『いやいやいや、怪しすぎるやろ! もうちょい疑問持たんかい!』
 (強い女ってのはなぁ、それだけでイイんだよ。ケチつけてんじゃねえぞ!)
 「そうだ! 今度、一緒に飲みに行こう! 助けてもらった礼もしたいし、お前と話してみたい!」
 「私は店の人間として当然のことをしただけで」
 「ちょっと、ちょっとだけだから! まあ今は時間取れないけど、色々落ち着いたら一緒に行こうな!焼肉!」
 「もう……そこまで言うのでしたら」
 「よし、決まりだ! 連絡取りたいからさ、連絡先ちょうだい!」

 この調子なら借金の返済なんて楽勝。
 あとは勝ち続ければいい、もう負けることなど考えていないつかさは今日も今日とて、喉越しバツグンの麦ジュースで喉を潤すのだった。


EPISODE5 破綻「こんなの勝てるわけねえだろ! クソ台だ、クソ台!ふざけんじゃねええええ!」


 つかさが働き始めて3週間。
 彼女を取り巻く状況は良い方向へと転じていた。
 これまで負け続けていたのが嘘のように勝ち続け、負けた分の返済はおろか、違約金の1千万まであと一歩というところまで来ている。
 残りは3百万。
 うまく行けば、今日と明日で達成できる。

 (やっとこんなクソみたいな場所からおさらばできる! あと少し……でも、焦らずやらねえとな!)
 「やあ、がんばっているようだね」

 つかさがいい気分で勝っているところへ、近藤が顔を見せる。
 普段なら邪険にするつかさだったが、今は違う。
 余裕たっぷりのつかさは気にもとめずに返す。

 「あら、オーナーじゃありませんか。おかげさまで、とても順調ですわ」
 「ぐううう……」

 その態度が気に入らなかったのか、近藤の態度が目に見えてイラつきと焦りに変わる。

 「実はね、今ノリに乗ってる君に提案があるんだ。ちょっとこっちへ来てくれないかね」
 「……分かりました」

 下手に抵抗しても良いことはない。
 そう考えたつかさは大人しく近藤のあとについていくと、そこにはホールにも置かれていない、2台のスロットマシンが。

 「やけに凝った造りしてんな、こんな台、初めて見たぞ」
 「ああ、うち独自の機種だからね。最近の制限がかかった台とはわけが違う。もちろん賭け金もね」

 ああ、となんとなく先が読めたつかさ。
 近藤がなにをしてこようとしているのか、子供でもわかることだった。

 「アタシはやらない。やらなくてもどうせ、今日か明日には金が貯まるんだからな」
 「おや、そうかい? うまくいくといいのだけどね」
 「なんだ、その言い方は」
 「別になにもないよ。ただ、客が“座らない”テーブルはさぞかし暇だろうなと思ってねえ?」
 「な……ッ!」

 常に勝つ者とは、ルールの上で戦う者ではない。ルールを作る側である。
 そして、ここが近藤の庭だということを、つかさは改めて実感した。
 このまま客が付かなければ、給料を合わせても違約金の1千万には届かない。
 たかが数百万なら金融機関から借りれば返済できない額ではないだろう。

 「このまま別の所で稼いで返済するというのなら構わないよ。できれば、だがね」
 「てめえ……」
 「でも君は、ギャンブラーだろう?」
 「はぁ?」
 「1円もプラスにできないまま帰って、それで本当に満足できるのか?」
 「……」
 「稼げるかもしれない大金を、今! 稼がないで!明日稼ぐなどとぬかす者に! 金が稼げるわけない!」
 『あかん! こんなの罠なの丸わかりやろ。挑発なんかに乗るな!』
 (わかってねえな、あれは挑発じゃねえ。アタシへの挑戦状だ!)
 「いいぞ、受けて立つ。お前からむしり取るだけむしり取ってやるよ!」
 『あかああああん!』
 「ヌヒヒ、いい返事だ。では、好きな台を選びなさい」
 「都合の良い設定にしてないだろうな」

 こういう台は勝ちやすい台と勝ちにくい台がある。
 その設定は内部で変えることができるし、中にはリモコンで操作できる物も。

 「そういうと思ってね。公平にするため、ある組織に仲介役を頼んだよ」
 「組織……?」
 「君は知らないだろうが、裏には裏のケジメの付け方があってね。いつでも公平さが求められるものなんだ」
 「へえ、別に知りたくもねえけど」
 「まあ、し、正直、ここに頼むのは初めてでね。僕も少しだけ緊張してるんだよ」

 そういう近藤の顔にわずかながら冷や汗と怯えが浮かぶ。

 「それでも信用できないというのなら、別に止めてもいいんだよ?」
 「ふん、疑い始めたらキリがねえだろ。いいから呼べよ」
 「よし。ではこちらへ」
 「どんなやつが――なっ!?」

 黒服が案内して入ってきた仲介役の顔を見て、つかさはひどく驚く。
 そこにいたのは、常連の店の女性店員だった。

 「お、お前がなんでここに!?」
 「仲介役として来たと言いましたよ。それよりも本当に受けるつもりですか?」
 「あ、ああ……」
 「おや、ふたりは顔見知りだったか。これはこれは運命のめぐり合わせだねえ」
 「……」
 「では、ルールを説明しようか。なに難しいことはない、最終的に多くの枚数を持っていたものの勝ちだ」
 「いいじゃねえか、子供にもわかりやすくていい」
 「賭け金は3億でいかがかな? それだけあれば、このさきお金で困ることもないだろう?」
 「さ、3億!? そんなにもらっちまっていいのか、後悔しても知らねえぞ!?」
 「僕にとってその程度、はした金だからね」
 「いいぞ、それで受けてやる!」
 『あんた、バカやろ! ええやん、ちょっとくらい借金しても。負けたらどうなるかわかってんの!?金より、自分の人生のが大事やろ?』
 (金だ、金! 一生打って、飲んで、遊べるくらいのバカでかい額が目の前にあるんだぞ! 行くだろ!)
 『ほんま……かんにんしてやぁ……』
 「はぁ、バカな人……」

 つかさに聞こえるか聞こえないかくらいの声で、店員は呟いた。

 「では、我々の組織の名にかけて、公正さを保証します。早速始めましょう」

 店員の合図でそれぞれが選んだ台に座り、制限時間2時間のスロットバトルが始まった。
 3億がかかった戦い。
 つかさのレバーを叩く手も、ボタンを押す手も熱を帯び、身体がじんわりと汗ばんでいく。

 「スロはあんまり打たねえけど、こういうのは取りこぼしが無いように打てば減りを遅くできんだよ!」
 『はぁ、いらん知識ばっかり増えていくわ……』
 『ま、まあ、今は子供向け漫画でも描かれる時代じゃからの……』
 『ギャンブルに詳しい子供って何アルか……』

 アタリが無いままゲーム数が増えていくつかさと近藤。
 最初に静寂を破ったのは――近藤だった。

 「キタキタ! このまま流れに乗れば僕の勝利だ!」
 「くっ! まだ一回のアタリだろ! ここからだ、ここから!」

 そういった矢先、つかさにもアタリが来る。
 枚数の差は僅か。
 勝敗を変えるほどの枚数はまだ出ていない。

 「なんだ、このクソ台は! せっかく出たのに、全部飲まれてるじゃねえか!」

 アタリで増えた枚数も回すために使うため、それがどんどん減っていってしまう。
 そして、ここで近藤、二度目のアタリを引く。

 「ヒヒヒ、また当たってしまったねえ!」
 「おい、なんかイジってんじゃねえだろうな!」
 「そのような報告はございません。チェックはすべて我々の組織が行っていますので」
 「ちっ……くしょぉぉぉ!」

 淡々と報告する女性店員に調子を狂わされながら、つかさはスロットを打ち続ける。
 着々と制限時間が迫る中、つかさにアタリはない。

 「ど、どうすんだよ、これ! は、早くアタリが出ねえと負けるんだぞ! なんかねえのかよ!」
 『どうしようもないわ!』
 「くそおおおおおっ!」

 つかさの絶叫が響く中、冷酷にも制限時間を告げるアラームが響く。戦いの終わりが告げられた。

 「クソクソクソ! なんでだよ!」
 「では、きちんと返済してもらおうか。もちろん、逃げられると思わないでくれよ。組織はしっかりと取り立てる。あなたが払わないのなら、あなたのご両親から取り立てるだけだからね」
 「なっ!? どうして!」
 「僕が知らないとでも? ずいぶんとご立派な家庭だ、3億くらいならぽんと出してくれそうだよ」
 「こいつ!」
 「いいね、いいね! その顔だよ、もっと近くで見たいなぁ~!」
 「っ……気持ち悪いんだよ!」
 「でも、まだ我慢だ。君がぐしゃぐしゃに顔を歪めて僕の前で土下座する姿が、もうすぐ見れるんだからね」

 大きな笑い声を上げながら近藤が部屋から出ていく。
 力が抜けたつかさはその場にへたりこんでしまう。

 「ど、どうしよう……」
 『ホンマにアホやな! 後先考えずにあんな勝負を受けるからや!』
 (う、うるさい! アタシをはめたエロジジイに一泡吹かせてやりたかったんだよ!)
 『それで負けたら意味ないやろ!』
 (アイツ自身が相手だったら負けてねえ! 機械が、このクソ台が全部悪いんだ!)

 悔しさ、情けなさ、未熟さ。
 その全てがのし掛かり、つかさはしゃがみこんだまましばらく動けずにいた。

 負債3億と3百万。
 常人ならば、背負った額に耐えきれず、その人生を終える者も少なくないだろう。
 つかさ、惨敗――!


EPISODE6 転機「やるしかねえ、やるしかねえんだ。アタシに残された道はもうこれしかねえ!」


 無気力。
 その言葉がピタリと当てはまるほど、つかさはなにもせず、ただ部屋に転がっていた。
 どうやって帰ってきたかも覚えていない。あれから何日経ったかも。

 「あー……」
 『いつまでそうしとるつもりや! ええ加減に動かんと死んでまうで!』
 「いやー、それもいいかもな……あんなクソジジイに好き放題されるくらいなら……」
 『アホか! それやとうちが来た意味が無いやろ!』
 「はぁ……」
 『おい、さねるよ。今、こやつにはおぬしの声が一番良く聞こえておる』
 『せやから、こうやって動かそうとしとるんや!』
 『いいから聞くのじゃ。わらわもよく意味はわからんが古の知識でな。今から言うことをそのままこやつに伝えよ』
 『わ、わかったわ』

 頭の中に聞こえてくる声に興味を持つこともなく、つかさは天井の染みを数え始めてしまう。

 「ひとーつ、ふたーつ……」
 『あんた! 今からうちが言うこと、ちゃーんと聞くんやで!』
 「なに……?」
 『このまま死んだら、アンタの死体はエロジジイに――されたあげく、――を――にされて、そのまま――が、――になるんやで!』
 「なななななっ!?」

 つかさがさねるの言葉に顔を真っ赤にして飛び起きる。
 かと思えば、その言葉を思い返し、次はどんどん顔面蒼白になっていく。

 『い、今ので良かったみたいやな。ありがとうな、八雲!』
 『うむ。わらわのご先祖様の知識が役に立ったようじゃな。内容のことはよくわからぬが』
 『ア、アタシの国でもしないアル……』

 慌ててつかさが着替えを始めて、外へ飛び出る。
 原付ベスタにまたがって向かった先は、女性店員が働くアノ店だった。

 「だずげで~!」
 「な、なに!?」

 大泣きしながら女性店員にしがみついたつかさは、大声で叫び始める。

 「あのエロジジイに――されて、――を――に、――が、――になるのなんて絶対にイヤああああっ!」
 「ちょっ!?」

 とんでもないことを言い始めるつかさに驚き戸惑う女性店員。
 それを聞いた客は、台を打つことも忘れて2人の会話に全神経を集中していた。

 「う、うう裏で話を聞くから!」
 「いだだだだだっ!?」

 持ち前の腕力で店員がつかさを担ぐと、そのままスタッフルームへと運ぶ。まだ泣き止まない情けないつかさに、店員は水を持ってきた。

 「まずこれを飲んで落ち着いてください」
 「あ″、あ″りがどう″……」

 つかさは出された水を一気に飲み干し、深呼吸をして息を整える。

 「それで、どういうことですか?」
 「言ったとおりだ。アタシ、このままじゃ死んだとしてもエロジジイに好きなようにされちまう!」
 「ま、まあ、裏の世界の方ですから。そういった趣味の方は、裏では普通ですよ」
 「いやあああああっ!」
 「そもそも、自業自得じゃないですか。あなたが勝負を受けたんですからね。あの方はまだ優しい方ですよ。取り立てをあなたの給料日まで待ってくれているわけですし」

 叫ぶつかさに対して、いつかのときと同じように冷たく突き放す店員。

 「づめだい……」
 「手伝えることがあれば手伝いますが、お金の工面だけは無理です」
 「そんなあ……ちょっと、ちょっとでいいから!」
 「ホント、あなたって中身はおじさんですよね……。では、助言だけ。あの方は気に入った人、特に女性が苦しむ姿を見るのがとても好きなようです」
 「やっぱり!」
 「ですので、追い詰められているみっともないあなたを見せれば、更に苦しむ姿を見てみたいと思うのではないでしょうか」
 「……つまり?」
 「しばらく店に顔を出していないようですから、一度、行ってみてはどうですか。今日はもう遅いから明日、必ず出勤してください」
 「わ、わかった……」
 「あと弱々しい女性を装うことはできますか?」
 「え……?」

 店員に美味しいものを食べてくださいと渡されたお金をまた別のアノ店で溶かしたあと。
 家に帰ってきたつかさは店員の言っていた言葉を思い出していた。

 『あんた、クズや。ホンマにクズや。もらった金を飯買わずに突っ込むとか正気やないやろ』
 「苦しむ姿をみたい、か……」
 『はあ……無視かいな』
 「助言ってことは借金を消せる方法に繋がるってことだと思うんだけど……」
 『そういえば、うちの父ちゃんも、母ちゃんに泣かれるとなんでも言うこと聞いとったなぁ』
 「ああ、うちのママもよく嘘泣きして自分の言い分を通してたっけ……。嘘で大きらいなんて言った日にゃ、パパも泣いて地獄だったわ……」
 『それやん』
 「は? ……おいおい、嘘だろ!? それをアタシにやれってのかよ!」
 『嘘泣きして騙せばええ! 胸を張って嘘をつけ!』
 「ったく、なんなんだよそれ……ま、下向くにしても胸を張るしかねえってか」

 自分の顔目掛けて、勢いよく平手打ちをかます。

 「今だ、今頑張んなきゃ、アタシに明日なんか来やしねえんだよ!」

 気合を入れたつかさは、おもむろに服を脱ぎだし、仕事着に着替え始めた。

 『ちょ、なにしとんねん!』
 「決まってんだろ、今から乗り込むんだよ!」


EPISODE7 亡霊「てめえが欲しいなら、もっとくれてやるよ。今まで生きてきたアタシの全部、本物のアタシって奴をな!」


 仕事着のまま原付ベスタにまたがり、つかさは数日ぶりにカジノへやってきた。
 店の門をくぐった途端、拍手で迎える近藤の姿が飛び込んでくる。

 「あっ、オ、オーナー……」
 「いやあ、返済日を待たずに君から来てくれるとは嬉しいね、感心したよ。その衣装も、早速という気持ちの表れなのかな?」

 近藤の言葉に、つかさは身体を震わせる。その姿は、まさに肉食獣に怯える子ウサギそのもの。

 「あの……ええっと……ここではなんですから、別の部屋でお話を……お時間は大丈夫ですか……?」
 「ほっほ、ずいぶんと大人しくなって。そんな顔をされたら、デュフフフ……」
 「あの、話は……」
 「いいよ、聞いてあげようじゃない。さあ、向こうの部屋に行こうか」

 近藤に誘導されるまま、つかさは部屋の中へ入る。
 先に話を切り出したのは、つかさの言葉を待ちきれなかった近藤のほうだった。

 「で、で、で? 話はまだ?」
 「そ、そうなんです……で、できれば、もう一度だけチャンスを、いただけませんか……?」
 「……ふうん、チャンスねえ?」

 期待していたものと違い、近藤は少し白けた態度で返す。

 「私にはどう頑張っても3億なんて大金を返すことはできません……」
 「なるほど。もう一度、同じ額を賭けて勝負したい。そういうことかな?」
 「はい……」
 「それじゃあ僕にメリットがない。賭け事をやるには相手にもメリットがないとね」
 「おねがい……します……っ」

 俯いたまま話していたつかさの声色が、いつの間にか湿り気を帯びていた。おもむろに顔を上げると、眼を赤く腫らした瞳ですがるように近藤を見る。

 「ほ……ほっほ!」

 続けて、つかさはゆっくりとした動作で近藤へ向かって土下座した。
 今までのつかさから考えると、それは近藤にとって到底考えられない行動。
 その衝撃は、つかさの予想を超えていた。

 「おほ~~~っ! なんてイイ顔をするんだ、君は!イイぞ、実にイイ!」
 「これでも、まだ足りませんか……?」
 「う、ううん、どうしようかな……」
 「私が負けたら、もう期限を待たなくて構いません。すぐにでも、オーナーの好きなように……」
 「ほ、本当かね! 親を頼れば、返済だってできるのに!」

 つかさは頭を下げたまま無言でうなずく。
 これを了承と受け取った近藤は、その体格からは想像がつかないほどリズミカルな小躍りを始めた。
 手を交互に上下させ、脚を何度も開いては閉じてを繰り返す。
 そして、両膝を床すれすれまで下げると、そのままつかさの前まで進み、叫んだ。

 「イイね! その条件でいいよ! 僕が負けても失うものもないからね!」
 「では……」
 「さっそくやろうじゃないか。実はねえ、君で試してみたかったゲームがあるんだよ! 待っていなさい、すぐに用意するからね!」

 近藤はそう言い残すと部屋から飛び出していく。
 それを見届けたあと、つかさはポケットから携帯を取り出し、店の外に待機させていた女性店員へと連絡をつけた。

 「うまくいきましたか?」
 「すぅ……」
 「どうし――」
 「クソ野郎があああああっ!!!!!」
 「っ!?」

 溜まりに溜まった不満を吐き出すように、つかさはこれまで出したことがない大声を部屋に響かせる。

 「あいつの目はなんだ、虫唾が走る! 最悪だ、本当に最悪だ!」
 「……落ち着いてください。勝負はこれからじゃないですか」
 「ああ、わかってるよ。あいつを負かしたら、今度こそ焼肉だ。最高にうまい店、知ってんだ!」
 「……はあ、変な人ですね。あなたは」

 電話口から大きなため息が聞こえてきたが、了承してくれたとつかさは受け取る。

 「最後の勝負を始めようじゃねえか、エロジジイ!」

 部屋に戻ってきた近藤は、つかさをカジノの中にあるとある一室へと連れて行く。
 そこはオーナーのみが入れる場所で、他の従業員も立ち寄ることはできない。

 「さあ、始めようか」
 「そ、その前に……!」

 近藤がつかさの視線の先を目で追う。閉めたはずの扉が開いて――外れていた。何が起きたのかわからずにいると、その扉からひょっこりと顔を出す女性店員の姿が。

 「な、なぜ、君が!?」
 「オーナーが勝負を受けてくれると話したら、来てくれたんです」
 「公平な判断をして欲しいとお願いされました。金額が金額ですし、取り立ても必要でしょう?」
 「あ、ああ、それはそうだが……いやに準備がいいじゃないか」
 「彼女に相談されたんです。親に迷惑を掛けたくない、そのために何をすればいいのかと」
 「なるほど、君の入れ知恵だったと……まったく、食えない女だな」

 近藤は、不敵に笑うつかさを睨みつける。

 「へへ、さあ、早くゲームを始めようぜ!」
 「ゲームは、これだ」

 近藤が取り出したのはリボルバーの銃だった。
 さすがのつかさもそれを見て、演技ではなく、本当に血の気が引いた。

 「安心するといい、本物ではないよ。出るのはただのペイント弾だ。でも、当たるとかなり痛いけどね」

 リボルバーのトリガーに指を掛けると、そのまま壁に向かってペイント弾を撃つ。
 確かに壁に穴が空くほどではないが、その音から衝撃はかなりのものだとわかる。

 「ルールはロシアンルーレットに似たものだ」

 近藤から説明を受けながら準備が始まった。
 このゲームは銃を撃つ側と撃たれる側に分かれる。
 撃つ側はもちろん近藤。
 そして、撃たれる側はつかさだ。

 「撃たれたら痛いと思うけど、意識を失った時点で敗北だから、せいぜい頑張ってね」

 説明しながらもつかさをチラチラ見てにやつく近藤。
 今すぐブン殴りたい気持ちを抑えながら、つかさはルールを頭に叩き込む。
 まず、リボルバーには弾が一発しか入っていない。
 都度シリンダーを回転させることで確率による推測をできなくする。そして、撃たれる側は目隠ししたまま、弾の有無を宣言し、引き金を引く。

 「なあ、それじゃ撃つ側が細工できないか?」
 「そうならないために、こうして銃に仕掛けがしてあるんだよ」

 近藤は店員に銃を手渡す。見れば、撃つ側からは見えないような加工がされていた。

 「――確かに、しっかり調べてみましたが細工はありませんね」
 「これで君も安心だろう? 撃つ前からこちらが当たりだと分かってしまうと、楽しみが半減してしまうからね」

 小さく「下衆野郎」とこぼすつかさに笑みを向けながら、近藤は一気にまくしたてる。

 「金額は、一回正解するごとに3千万。そこに特殊ルールを加えている」

 近藤の話を聞き、つかさは考えを巡らす。

 (つまり――こういうことか。
 弾有りで有り宣言=手持ち資金2倍+痛い。
 弾有りで無し宣言=全額没収+痛い。
 弾無しで無し宣言=3千万獲得+痛くない。
 弾無しで有り宣言=全額没収+弾を装填して打つ。
 ってわけだな。そして、敗北かどうかはアタシが気絶して強制敗北か、自分で敗北を宣言するのみ)

 「オッケー、分かった。で、これは3億ゲットしても続けられるのか?」
 「ほ、おほっ! もちろん、可能だ。撃たれて意識があればの話だがねえ!」

 近藤は鼻の下を伸ばしたままゆるみきった笑みを浮かべる。まるで、勝利を確信しているかのようだ。

 「エロジジイが……」

 つかさが完済するには、最低でも11回の宣言を連続で成功させるか、痛みをこらえながら持ち金倍増チャンスにすがるしかない。
 限りなく低い確率か、痛みを伴うか。
 ルールを作る側が強いということを、ここでもつかさは実感させられた。

 「質問はあるかな?」

 近藤の問いに首を振って答えるつかさ。

 「では、私が立会人となります。不正が無いよう使用する器具は全て私が確認させてもらいます」

 店員はつかさを拘束するための留め具や目隠し、ありとあらゆるものを念入りに調べ上げていく。
 そうして――準備は整った。

 「さあ、どうぞ」

 店員がつかさに拘束具の前に立つよう促す。
 棒立ちできないようにするためか、その拘束具は「木」の字のような形をしていた。
 つかさが定位置についたのを確認し、店員は手足に拘束具をつけていく。

 「イヒヒヒ、興奮するねえ……」
 (こいつ……、ッ!?)

 不意に、後ろから目隠しをされてしまい、視界が黒一色に染まった。

 「では、始めてください」
 「ヒヒ、さあ、どうするかね?」
 「……無しよ」

 近藤が引き金を引く。
 一発目は……空砲だった。

 「まずは3千万、おめでとう」
 「……お、おお」
 「おやおや、もう緊張してるのかな?」

 いつ飛んでくるかわからないペイント弾。最初はただ宣言するだけの安直なゲームだと思っていた。
 だが、いざその場に立ち、目隠しをされることで嫌でも弾の有無に全神経が集中してしまう。
 撃たれてもいないのに、身体が勝手に強張る。
 気づけば、自分の息が乱れていることに気づいた。

 「ヒヒ、身体が震えているねえ」
 「い、言ってろ、エロジジイ! アタシはこの勝負に勝って、テメエを黙らせるって決めてんだからな!」
 「イイねえ。粋がってる方が苦しめがいもある!さあ、次はどうする?」
 「無しだ!」

 ……空砲。

 「次も無しだ!」

 ……空砲、9千万。

 「運がいいじゃないか。あと8回外れを宣言すれば、負債もチャラにできちゃうねえ」
 「うるせえ!」

 正直、つかさには近藤ほど余裕がなかった。
 銃の威力を見ていたのもあるが、正解を外せば9千万が泡と消える。
 失うものができた瞬間、人間とは迷いが生まれる生き物なのだ。

 『こ、こんなもん見てられへんわ!』
 『うぅ、お腹が痛くなってきたのだぁ……』
 (へへ、安心するなぁ、その声。うるさいだけだと思ってたけどよ、聞こえると心強いもんだな)
 『初めてやな、そないなこと言うん』
 (それくらい余裕がねえんだよ。痛いのも、負けるのも絶対にイヤだからな)
 「お次はどうするんだい? そろそろ当たってしまうかもしれないねえ」
 「決まってんだろ、無しだ!」
 「では、早速」

 引き金を引いた瞬間、バンッ! と部屋の中に音が鳴り響いた。

 「い……がっ――!?」

 弾丸はつかさの下腹部辺りに命中。
 その痛みは想像を絶するものだった。
 真っ白になった思考で、少しでも痛みを軽減しようと身をよじろうとするが、脚は大きく開かれていて力が
入らない。

 「アハハハっ! その姿が見たかったんですよ!生まれたての小鹿みたいで最高だぁぁぁ!」

 近藤がその姿を見て、これまで見せたことがないほど恍惚に満ちた顔で笑う。
 そして、その影響はつかさの頭の中にいる4人にも影響を与えていた。

 『こ、こわい、こわい、なんなのだ、これ……!』
 『おぬしら、気をしっかりと持つのじゃ! これはわらわたちが体験していることではない!』
 『意識が全部痛みに持っていかれるアル。こんなの耐えられないネ!』
 『ま、待ってや! なんや、身体が透けとるで!?』
 『なんじゃと?』

 八雲がそれぞれの身体を確認すると、確かに足元から少しずつ身体が薄くなってきていた。

 『まずい! つかさの意識が飛びかけておる!このままでは、わらわたちも引き剥がされるぞ!』
 『オタクストリームに戻されるアルか!?』
 『そないなことになったら、未来が変えられへんやないか! おい、なに寝とんねん! さっさと起きて、いつもの気合見せえや!』
 (……)
 『だ、ダメじゃ、引き剥がされる……!』

 どうにか意識をつなぎ止めようとするが、抵抗も虚しく、さねるたちはつかさの頭の中から追い出されてしまう。

 『このまま戻るわけにはいかんのやあああああ!』

 さねるが無我夢中で右腕を伸ばしたそのとき、何かをつかんだ感触があった。

 『――んだ、この胸のちいせえガキどもは?』
 『……は?』

 一行の前で悪態をつく何か。それはつかさの身体から伸びていた――魂だった。


EPISODE8 未来「未来はアタシの手の中にある。コイツだけは他の誰にも渡すつもりはねえ!」


 互いに状況がわからない。
 でも確かに、つかさの目の前にはつかさの身体があった。
 そして、つかさを身体に戻そうと押している4人の少女たちが。

 『は、なにこれ?』
 『それはこっちが聞きたいわ! なんでアンタがこっちにくんねん!』
 『その声! アタシの頭ん中で騒いでやがったのはお前たちか!』
 『ど、どうなってるアル?』
 『ううむ……詳細はわからぬが、わらわたちが必死に留まろうとしたとき、さねるが勢い余ってこやつの意識をつかんでいたのやもしれん』
 『幽体離脱? わたしはゆうれいじゃないのだ……』
 『ほれ、手を離そうとすると飛ばされるじゃろ』

 八雲がつかさの魂から手を離す。すると、意識がどこかへ引っ張られ始める。

 『つまり、この人につかまっておけば、飛ばされずに済むってことなのだ?』
 『そういうことじゃな』
 『おい、人の身体をベタベタ触んな!』
 『って、今はゲームやゲーム!』
 「もっとゲームを楽しめると思ったんだがねえ……。まあいい、続きは後でいくらでもできる」

 近藤の言葉に、つかさはハッとして自分の状況を理解する。

 『そ、そうだ! 勝負を再開しねえと!』
 『無理じゃ、魂が飛び出しておるのじゃぞ。身体が動かなければ――』
 『アタシの身体だろうが! 言うことを聞きやがれえええええ!』

 気合を入れるつかさの叫び。
 それに呼応するかのように、つかさの身体がピクリと動き、つかさの身体が言葉を発する。

 「ま、だだ。もう一回……」
 「おっ!? なかなかタフだねえ。そのほうがこちらとしてもなぶる甲斐があるってものだよ。やっぱり君は最高だ! さあ、再開しよう!」

 両手を叩いて喜ぶ近藤に対し、女性店員は心配げにつかさへと近寄る。

 「あの、本当に大丈夫ですか?」
 「ああ、アタシは……やれる……」

 まるで魂が抜けたかのような答えに、心配しながらも店員はつかさの意思を尊重した。

 「では、弾を入れ直して始めようか。もちろん、手に入れていた9千万はリセットだよ」
 「ああ……」

 近藤が弾倉にペイント弾を詰めて、シリンダーを回転させる。

 「さあ、どうする?」

 辺りにふわふわとただよう魂状態のつかさが、近藤の銃を眺めて、ふとあることに気がついた。

 『なあ……ちょっと待て、これって。アタシから弾の位置、丸見えじゃねえか!』
 『あっ、ホンマや!』
 『っしゃあ! この勝負、もらったぞ!』
 「無しだ……」

 つかさの言葉に近藤が引き金を引く。
 当然のことながら、空砲だった。

 『最っ高の状況じゃねえか! ぜってーにバレないイカサマだもんよ! これもお前らのおかげだぜ!』
 『た、たぶんそうやけど……』
 『じゃあ、バンバン行こうぜ!』

 そこから、つかさの快進撃が始まった。
 弾が入っているか、入っていないかがわかるため、まずこのゲームで負けることはない。
 つまり、近藤から金をいくらでも巻き上げることができるということ。
 そして、魂が抜けている以上、魂状態のつかさが痛みを感じることもない。
 次々と正解を当て続け、時に倍増し、賞金が加速度的に積み上がっていく。
 その勢いはとどまることを知らない!
 増え続ける金、金、金!
 その額は、とうに3億を超えていた!
 さすがに近藤もつかさのイカサマを疑い始める。
 だが、証拠は出ない!

 「ち、ちゃんと調べたんだろうな! こんなに当たるなんて、イカサマだ!」
 「いいえ、イカサマはありません。私の答えを否定するということは、組織への否定。どうなるかお分かりですね?」

 店員が、指の関節を派手に鳴らす。
 それだけで、近藤は身体の芯から震えあがった。

 「ひ、ひぃぃ! そ、そんなバカな! じゃあ、この女は運だけで当ててるっていうのか!」

 バレなければイカサマではない。
 相手が霊能力者でもない限り、このイカサマを見抜くことなどできないのだ。

 「次……次だ。早く引き金を引け……」
 「クソっ!」

 引き金を引く、空砲。
 引き金を引く、空砲。
 引き金を引く、またも空砲。

 決して外れないつかさの読み。
 その場にいたふたりはイカサマをしていると確信している。
 だが、証拠がない。
 つかさは尚も止まらず、ゲームを続ける。
 膨れ上がった賞金は、もはや近藤が用意できる最高金額をゆうに超えていた。
 ゆえに、近藤も引けない。
 いつか、つかさがミスをして賞金が没収されること。最高の肉体をこの手にすること。
 それだけが彼にとっての救いであり、欲望。
 自分を救えるのは、自分だけなのだから。

 『まだだ! アタシが受けた屈辱は、こんなもんじゃねえ!』
 『そうや! あのおっさん、こてんぱんにしたれ!』
 『ヘヘ、やっぱ気が合うな、ちびっ子!』
 「はぁ……はぁ……ぼ、僕のお金が無くなる……う、こ、こんなの、許されない……い、ひひ……」

 怯え、苦しみ、それでも引き金を引き続ける。
 引くごとに己の金が消えていくとわかっていながら、引くことしかできない。
 だが、つかさは止まらない。

 「引け……引け……」
 「ひいぃぃ! か、神様ぁぁぁ! どうか一発、一発だけでもぉぉぉぉ!!」
 『ハ、祈っちまったら、終いだぜ』

 ――カチン。

 空砲。

 「あぁぁ…! また…! どうして…!」

 取り乱す近藤は、無様な醜態を晒して泣きわめく。

 「さあ、続けよう……」
 『あいつはもう破滅だ! さっさと降参しやがれ!』
 『ちょ、ちょっと待ち! アンタの魂、身体に引き寄せられとるで!』
 『嘘だろ!?』

 さねるの言うとおり、外へ弾き出されたつかさの魂がつかさの身体へと引き寄せられつつあった。

 『ど、どうなって!?』
 『身体が完全に意識を取り戻そうとしておるのじゃ!おぬしは元通りじゃぞ!』
 『ま、待ってくれ、まだゲームは終わってねえ!』
 『もう、自分の力でどうにか――』

 さねるが言い終わる前につかさの魂は身体へと戻り、さねるたちはもう留まることができず――

 「はっ!? お、おい、ガキども!」
 「な、なんだ急に!?」
 「こ、これは……」

 意識を取り戻したつかさは自分の身体に戻ってきたことを再確認する。
 目隠しに、手足には枷。
 間違いなく、これは自分の身体だった。

 「このタイミングで……」

 最後の一発。
 その有無をつかさは確認していない。
 つまり、本当に全てを賭けた一発なのだ。

 「つかささん、どうしますか?」

 店員が語りかけてくる。
 どういう意味かはわかっている。
 もうゲームの続行は宣言してしまった。
 有りか、無しか。
 つかさには選択肢が2つある。
 正解すれば、借金は帳消しどころか大金が残る。
 逆に失敗すれば、すべてご破算だ。
 いずれにせよ、この一回ですべてが決まる。
 今、破滅の弾丸は、つかさと近藤の両者に向けられているのだ。

 「あ、アタシは……!」

 つかさは答えようとするが次の言葉が出てこない。
 緊張から汗と涙が止まらず、目隠しも仕事着も水浸しになっていた。
 永遠とも思える一瞬。
 ついに、つかさは答えを口にする。

 「アタシが選ぶのは――!」

 有りと言いかけた瞬間、ドサリと何かが倒れる音がした。
 目隠しで見えないつかさは必死に何があったのか確認しようとする。

 「少々お待ちを」

 そう店員の声がしたかと思うと、すっとつかさの視界が明るくなる。
 目隠しを取られたのだ。

 「なんで急に目隠しを……」

 そう言いながら周りを確認するつかさの目にリボルバーを握りしめたまま、泡を吹いて倒れている近藤の姿が映った。

 「あなたがなかなか答えないものだから、緊張感に耐えられず、気絶してしまったようですね」
 「はっ……?」

 近藤の身体を起こして、様子を確認している店員が小さなため息をつく。

 「完全に意識を失ってます。これではゲームは続けられないでしょう」
 「じゃ、じゃあ?」
 「おめでとうございます。このゲーム、あなたの勝利です」

 突然の勝利宣言。
 あまりの展開に頭がついてこないつかさ。
 だが、立合人である店員の言葉の意味を少しずつ理解していく。

 「や、やったあああああっ!」

 流れる大粒の涙。
 両手を上げる気力もなく、その場に座り込むがそれでもつかさは大きな声を上げる。

 「アタシ、勝ったぞ! 見てたか、ガキども!」

 今はもう聞こえない頭の中の小さな住人たちにその勝利を高らかに宣言した。

 ――数日後。
 つかさはいつものアノ店に来ていた。

 「だああ、またハズレんのかよ! 信頼度とか本当に飾りだな!」

 遊技機の前で悪態をつきながらも、ハンドルからは手を離さず、次々と紙幣を投入する。

 「また来ているんですね。昨日も散々に負けたじゃないですか」
 「バカ! 昨日は負けたかも知れねえけど、今日は勝つかもしれねえだろ!」
 「はぁ……」

 小さなため息をつく女性店員の視線は自然とあのとき、ペイント弾を受けた彼女の腹に向いていた。
 それを察したのかつかさはお腹をポンポンと叩いてみせる。

 「なんか変な模様みたいなアザになっちまったけど、
もう痛みはないぞ」
 「女性の身体なんですから、痛みよりもアザのほうが問題でしょう……」
 「まあ、その分の落とし前はつけてもらったしな」

 つかさのいう落とし前とは近藤のこと。
 彼は店員の立会いもあって、逃げることはできず、あらゆる財産をつかさに支払った。
 そのためカジノ経営も立ち行かなくなり、結果、今は露頭に迷っているのだという。
 そして、その金はというと――

 「私に預けてしまって良かったんですか?」
 「あんな大金、持ってても怖いって。あんたが管理すりゃ、アタシも好きに遊べるしな」
 「無駄遣いはほどほどにしてください」
 「わかってるって」

 そう言いながらも、つかさの遊技機への紙幣投入は止まらない。

 「それよりも、そろそろ仕事では?」
 「ああ、そうだった! 今日も勝たせてもらわないとな!」

 つかさは慌てて店を出て、原付ベスタに乗り込む。
 彼女にとっての平穏な日常。
 彼女は、刺激を求めて走りだした。

 ――宮崎に凄腕の女性ディーラーがいるらしい。
 その噂は瞬く間に広まった。つかさを取り巻く環境は激変し、世界へと羽ばたくことになるのだが……それはまたいつか彼女の物語で語られることだろう。



■ 楽曲
┗ 全曲一覧(1 / 2) / ジャンル別 / 追加日順 / 定数順 / Lv順
WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧


コメント

  • 葛葉ツカサ(言ノ葉1st)の新たなライバル…?? -- 『つかさ』違い? 2022-12-23 (金) 18:05:57
  • 何気にバニースーツの角度がエグいな… -- 2022-12-26 (月) 02:48:56
  • dlsiteで見た -- 2023-01-18 (水) 23:18:08
  • ポスターで見てからずっと実装待ってた、もちろん即日回収。今後グッズで出ないかなあ… -- 2023-03-13 (月) 12:43:41
  • ストーリーがギャンブルなのも相まってmommyさんの88Dの娘っぽく見える -- 2023-07-27 (木) 20:00:54
  • 名前だけは某バーチャル債務者のほうがベースだよなぁ一文字違いだし -- 2023-07-31 (月) 17:49:34

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