【SS】オルシオ電磁国の長い長い一日

Last-modified: 2023-07-31 (月) 15:05:44

プロローグ

オルシオ電磁国────『電波』と呼ばれる不思議な能力を持つ女性が中枢となる国。
ネネという少女は毎日自堕落な生活を送っていたところ、イルカという女性にスカウトされる。だが、その仕事は────

登場キャラ

  • ネネ
    後に第26代聖女となる少女。首都マテリアルに住み、太い両親の下自堕落な生活を送っている。自己肯定感がとんでもなく低いが、判断力の高さや周囲を圧する程の電波等といった才能の片鱗を既に見せ始めている。
  • イルカ
    ネネを図書館のトイレまでストーカーするという変人の女性。一応魔女らしいが、発する電波はかなり微弱である。だが喧嘩は異様に強い。常に魔女帽を被っており、表情が若干読みにくい。

    実は、この女性こそが第25代聖女イルカなのである。過去の聖女と比べても圧倒的に電波が弱く、魔女帽に内蔵された『電波を遠くまで届ける装置』のおかげで国家機能を首の皮一枚で賄っているという状態。そのため自分に代わって聖女の役目を果たしてくれる人材を探していた。美少女趣味のレズ。

  • エクロア
    イルカに仕える執事。よく女性に間違えられる。(提供キャラ)


本編

前置き

オルシオ電磁国には、『聖女』と『魔女』がいます。前者は国家の実質的元首であり、後者はいわゆる首長や公務員、軍人等といった役付けの女性達です。
このお話を見に来ているということは、『電波』についてはもうご存知でしょう。なので説明は割愛します。
何故女性だけが『電波』を持つのか······そういう話をしたらキリがないのでこれも割愛します。今ここで私かしたい話とはほとんど関係がありません。
前置きが長くなりました。
今から私が話すのは、第26代聖女────ネネの事についてです。と言っても、聖女としての彼女の話ではありません。一般市民『だった』頃のネネとして、の話です。


前置き2

ある朝、一人の少女が街を歩いていました。
髪色はやや青みがかった、絵の具で塗られたかのような白。瞳はなんとオッドアイです。
どこに行くのだろう、と彼女の事を知らない人は思うかもしれません。そもそもこの少女────ネネがあまり外出しないことを知らなければ、ちょっと見当がつかないでしょう。
彼女の額には早くも汗が浮いてきました。普段から全く運動していないことの証です。面倒くさいのか、何か他の理由があるのか······恐らく前者でしょう。
それでも何とかネネは目指していた建物にたどり着きます。そこは図書館でした。オルシオ電磁国民、ひいては人類の叡智たる本が有益無益を問わず大量に納められており、意図しなくても時間がつぶせる場所です。
ここで彼女は周囲を見回しました。······すると、魔法帽を被った女性の姿が見えます。それだけなら特に気に留める事も無いでしょうが······なんとネネはら今日だけで彼女を数十回は見たのです。 これは明らかに異常です。
一瞬だけ、このまま本棚の群れの中に入って逃げてしまおうかという思考が生まれました。とはいえそれは、浮かんできたのと同じくらい一瞬で消え去りました。自分ですら迷う可能性を捨てきれなかったのです。
結果として彼女がとった作戦は、トイレに逃げて通報するということでした。────しかし彼女は考えるべきでした。自分の足でも追いかけっこじみた事ができるという不可解さを。いくらストーキングが目的だったとしても、痺れを切らして襲ってきても疑問はないという運動神経なのです。
あるいは、まだ喋ってもいいエリアである玄関エリアを歩いているうちに通報すればまだ勝ち目はあったでしょう。トイレに行くには、一度お喋り禁止の書架エリアを通る必要があったのです。
ネネはシャトルランを走った後の高校生のような疲労に耐えて、トイレまで駆け込みました。誰もいません。なので、ここでもう通報が出来るという状態です。······しかし、彼女はもう一段念を入れて、個室に入りました。
するとどうでしょう。
今まで後ろに居た筈の女性が、そこに居たのです。


本編1

ネネは悲鳴をあげる代わりに飛び退きました。これは彼女の運動神経から考えてありえない事のように思えますが、ゴキブリに直面した時もこのような反応をするのです。つまり、今目の前にいる女性はゴキブリ並の存在ということになります。
「ちょっとまって」
真っ先に声を発したのはこの女性でした。
恐らくネネが何か行動を起こす事を恐れたのでしょう、反応が返ってくる前に俊敏な動きで個室から出、出口を遮るというおまけ付きでした。
これでもうネネには打つ手がなくなってしまいました。数回深呼吸した後、彼女は口を開きました。
「······何なんですか······?」
それを待っていたとでも言うかのように女性は答えます。
「まあまあ。その前に認識を改めてよ。······私は別に怪しい者じゃない」
「怪しいです」
見事な一刀両断でした。女性は殴られた時よりも応えたような顔をします。
「······························」
そのまま彼女が黙っていると、ネネは脇を通り抜けて、扉からトイレの外に出ようとしていました。それすらも見逃しかけた女性でしたが、ふと我に返ると、
「まってまって。······いや聞かないか······仕方ないなぁ」
そう言って、まさに外に出ようとしたネネを引っ掴みます。ものすごい力です。いくら運動神経がないとは言っても、いざとなればすぐに抵抗するつもりだった彼女は全く抵抗できませんでした。
そのまま米俵の如く担がれます。
「え、ちょ······離してください!?」
じたばたします。ですがまあ、女性はその声には耳を貸さず、悠々と魔法を唱えます。
「『リミットスルー』」
······その直後、偶然そのトイレに入ってきた人は、以下の光景を目にしました。
少女を米俵に抱えた女性が、青い光を散らしながら虚空へと消えていきます。······そしてなんと、その女性は────
ここで、停電が発生しました。トイレどころか、図書館全体が真っ暗になります。······その人は色々と考えようとしましたが、ふとそれによって意識を逸らされ────もう思い出すことはありませんでした。


本編2

ネネが再び我を取り戻したのは、それから数分経ってのことでした。別に危害という危害を加えられた訳ではないため、単純に意識が別の場所に行っていたのでしょう。
まず彼女は今の自分の状態を確認します。······身体のどこにも違和感はありません。縛られていたりする訳でもなく。ただただ単純に、椅子に座らされていただけでした。
しかし、その気になれば何時でも立ち上がれそうなものなのに、何故か彼女はそうしませんでした。謎の誘拐犯に心を許したのか、それとももう諦めてしまったのか。······でも、確かに誘拐した筈の人を縛っておかないあたり、犯人の悪意を疑います。それとも、もしかしたら······
「お、気が付いた。ぼーっとしてたねぇ」
色々な思考が、そんな声で中断されました。
ネネはその声に聞き覚えがありました。というか覚えてしまいました。そうです。先程彼女を誘拐したあの女性です。
声の方向に顔を向けると、やはりあの魔法帽を被った女性がいました。雰囲気も服装もそのままです。
「······」
ネネは何か言おうとしましたが、詰まってしまいました。そもそもこの状況において何を言えば良いのでしょうか。沈黙は金なりです。
「······聞いてる?······まあ聞いてる体で話を進めるけど。まずは名前を聞かせてもらえないかな?」
口調がどう見ても幼女誘拐の手口のそれです。
「······」
ネネは黙ります。混乱している、と捉えかねられませんが、これは至極当然の反応です。
事実彼女の頭脳はすでに混乱状態から抜け出して、思考を始めていました。
「あー······」
何を聞いても反応しないネネに、早くも女性は苦笑しはじめました。
「······繰り返すけど、私は別に怪しい者じゃない。身代金も取ろうと思ってないし······そもそも誘拐しに来た訳じゃない。結果的に誘拐みたいになったのは謝るよ。」
「······」
ネネはまだ黙っています。その脳内では様々な計算が渦巻いていることでしょう。
「実は、ちょっと頼みたいことがあるんだ。無理にとは言わないけどね」
女性は続けます。ネネはそれに対して少しだけ意外な感を覚えました。
何しろ自分は徹底的に無能ニートだと思っていたのです。ニートと言うにはまだ若いですが、とりあえずそんな感じで、ひたすら自分のことを卑下していたのです。
ですが······どういう理由かは分かりませんが、この目の前の女性は自分を買ってくれている、かもしれない。······天秤がやや傾きました。
「······どう?······いや、ちょっと······何か言って······」
流石の女性も石のように押し黙る相手には降参のようです。ほんの少しだけ涙目になります。
······ただ、その時ちょうど、ネネの方も覚悟ができました。話してみる覚悟が、です。
「聞きますけど────」
んん、と軽く咳払いをします。女性の瞳が少し輝きました。
「聞きますけど、······どうして私なんですか?」


本編3 駄文

女性は魔法帽の下から微笑みます。······それだけで、特に何も言いません。
「え······?」
ネネが少し困惑するような呟きを漏らしても、そのままです。
しかし何も言わないのもどうかと思ったのでしょうか、30秒するかしないかの時にこう言いました。
「言えない。······けど、相応の理由はちゃんとあるよ」
曖昧です。曖昧ですが、なぜか力強い言葉でした。
ネネもそれには閉口してしまいました。
「そう、······ですか。頼み事というのは?」
「とりあえずまずはついてきて。大丈夫。怪しい所じゃないから」
女性はそう言ってネネを立たせました。そしてその腕を引いて、建物の外へと連れていきます。
ものすごい力です。少しでも抵抗したら腕が折れそうです。······ネネは音を上げました。
「ちょっと緩めてください······!」
女性の反応はありませんでした。
······聞き入れられないかと思いましたが、2秒ほどすると腕の力が多少緩んでいることに気付きます。勿論逃がさない程度にですが、血管がだいぶ楽になりました。
そんな感じに、半ば引きずられるような形でネネが女性についていくと、後ろの方から誰かが走ってきていることに気が付きました。
その足音はネネだけでなく女性にも届いたようで、一旦歩みを止めて後ろを振り返ります。それにつられてネネも改めて後ろをしっかりと確認しました。
······当然の事ですが、人です。そして、執事服を着てはいますが、女性······でしょうか。
「······あの人は······」
思わず彼女がそう質問すると、意外なことに、今までネネを引っ張っていた女性は明快な答えを与えました。
「エクロアさん。······私の執事だよ。多分この状況について色々と言われるんじゃないかな······」
「執事······って、女性の方じゃないんですか······?」
苦笑するような表情をした彼女に、ネネはそんなことを問います。
「うん。男の人。······そんな風には見えないかも知れないけど······間違えられると不機嫌になるから」
そう言い終わったかどうかのタイミングで、エクロアが2人に追い付きました。


まだ

「なにやってるんですか」
エクロアは開口一番、息を切らしながらも2人に言いました。尋ねる、という雰囲気ではありません。
「ちょっとスカウトをね······」
女性がそう答えます。······スカウト。初耳です。ネネの顔に驚きの感情がもろに浮かびましたが、幸か不幸かエクロアはまずは女性を詰めることを重視したらしく、ネネの方には見向きもしません。
「あのですね。そもそも聖······むぐっ」
「しー。まだ私は······」
女性が力ずくでエクロアの口を押さえたことにより、ネネを掴んでいた手が離れます。······そう、全てを掴んで離さないかのような、圧倒される何かを持っていたあの手が。
つい今まで、これは無理だと半ば諦めていたネネは、意外な所で降って湧いてきたこの好機を前に脳内会議を始めます。
混乱している風を装ってここに留まるか、それとも一思いに逃げ出してしまうか。────実の所、彼女は前者を貫こうとは思っていませんでした。このままだと色々と怖いからです。
ということで、逃げる派の不戦勝となった脳内会議を終え、ネネは動きます。女性の背後に回り────そのまま回れ右して、全速力で駆け出しました。
足音を聞かれていたとしても*1、両手が塞がっている女性はすぐに動けません。エクロアもまた、動きが封じられているためすぐには動けません。その一瞬さえあれば、切羽詰まった人間にとっては十分です。
植え込みを一つ飛び越え、何処とも知れない方向へと向かってひたすらに走ります。
ここの街並みは、マテリアル育ちのネネにとっては見慣れないものでした。ひょっとしたら、歩きでは帰れないかもしれません。······図書館に寄るだけだから、と財布を持ってこなかった影響がここに来て出始めています。

コメント

  • あ~······えっと。キャラクターを出して欲しい人はこのコメント欄に、どんな役割をして欲しいのか書いてほしいです。場合によっては許可したりしなかったりしますので······ -- 水色瞳 2022-08-17 (水) 17:36:57
  • エクロア作った人です。エクロアの立ち絵が完成したので出演させて頂けないでしょうか。設定通りの執事キャラクターです。 -- 2022-10-03 (月) 17:43:16
  • ふぁっ!
    気付くのが遅れて大変申し訳ございません······
    執事キャラ了解しました。これから書く部分に登場させますが、どのような役回りがいいか希望はありますか······? -- 水色瞳 2022-10-21 (金) 19:27:04
  • 特に考えてはいませんでしたが、彼の性格上はネネを何とか安心させる事に善処したり、事情の解説やネネのサポートに回るような存在がイメージですかね。(他には女と疑われるとちょっと不機嫌そうに訂正を求めたり…) -- エクロア作った人? 2022-10-22 (土) 22:59:17
  • 了解です。ちょっと難しそうな所に来ちゃいましたが何とかねじ込んでみます······ -- 水色瞳 2022-10-23 (日) 08:12:03
  • ものすっごく進めましたが消えました 今日は不幸です -- 水色瞳 2023-04-11 (火) 01:00:52

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*1 十中八九聞かれているとは思いますが