エリシャ・ムルシア

Last-modified: 2024-03-05 (火) 08:33:59

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Illustrator:せんむ


名前エリシャ・ムルシア
年齢素体年齢18歳(製造後4年)
職業強硬派一般兵

ムルシア出身の田舎娘。
退屈な日常を変える何かを求めていた彼女は、街から出るために兵士になることを志願したが……。

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1ジャッジメント【SUN】×5
5×1
10×5
15×1

ジャッジメント【SUN】 [JUDGE]

  • 高い上昇率の代わりに、強制終了のリスクを負うスキル。オーバージャッジ【SUN】と比べて、上昇率-20%の代わりにMISS許容+10回となっている。
  • 初期値からゲージ7本が可能。
  • GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.3%→+0.2%)する。
  • SUN初回プレイ時に入手できるスキルシードは、NEW PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
  • スキルシードは200個以上入手できるが、GRADE200で上昇率増加が打ち止めとなる。
効果
ゲージ上昇UP (???.??%)
MISS判定20回で強制終了
GRADE上昇率
▼ゲージ7本可能(190%)
1210.00%
2210.30%
3210.60%
▼ゲージ8本可能(220%)
35220.20%
68230.10%
101239.90%
▲NEW PLUS引継ぎ上限
102240.10%
152250.10%
200~259.70%
推定データ
n
(1~100)
209.70%
+(n x 0.30%)
シード+10.30%
シード+51.50%
n
(101~200)
219.70%
+(n x 0.20%)
シード+1+0.20%
シード+5+1.00%
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期所有キャラ数最大GRADE上昇率
2023/2/9時点
SUN15171253.90% (8本)
~NEW+0271259.70% (8本)


所有キャラ

所有キャラ

  • CHUNITHMマップで入手できるキャラクター
    Verマップエリア
    (マス数)
    累計*1
    (短縮)
    キャラクター
    SUNep.Ⅰ5
    (105マス)
    375マス
    (-40マス)
    チキ&ウリシュ
    ep.Ⅲ1
    (105マス)
    105マス
    (ー)
    エリシャ・ムルシア
    SUN+ep.Ⅳ5
    (455マス)
    1650マス
    (ー)
    エステル・ヤグルーシュ※1 ※2
    ※1:初期状態ではロックされている。
    ※2:該当マップ進行度1の全てのエリアをクリアする必要がある。

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 田舎娘は東を目指す 「わたしにとっては、故郷から出られれば何が理由でも構わなかったんです。それがたまたま戦争だっただけ」


 アナトリア半島の中心部に広がる砂漠地帯。
 その砂漠を縦断するように敷かれたレールの上を、大型の兵員輸送車両が疾走している。
 ガタガタと激しく揺れるソレの中には、武装した真人の男女が互いに向かい合うように座っていた。

 「…………」

 彼らの間に交わされる言葉はなく、皆一様に険しい顔つきをしていた。まるで、重た苦しい空気を維持することそれ自体が役目であるかのように。
 列車が東に向かってから幾ばくかの時間が経過した頃、かすかに聞こえる呼吸音と車両に伝わる振動だけが支配する空間に、金属のこすれる音が響いた。
 瞬間、微動だにしなかった彼らの視線が、連絡通路に続く扉へと注がれる。
 そこから現れたのは、彼らを束ねる大隊長だった。

 「間もなく我々は中継基地へと到着する。そこで追加の物資を積み込んだのち、晴れてお前たちは戦士となる」
 「ハイ!」
 「この戦いは我ら真人の、いや、この大地の命運を決する聖戦だ! お前たちに“個”などない。“全”のために、死力を――」
 「エリシャ・ムルシアぁ~~突撃~~!」

 突如、大隊長の言葉を遮るほどのひときわ大きい声が室内に木霊した。

 「ほう……私の邪魔をするとはいい度胸だな!」

 大隊長は声の主のいる方へとわざとらしく靴音を響かせながら向かっていく。

 「衛士エリシャ・ムルシア」

 問いかけた先――車両の最後尾にあたる座席の下で、水色の髪の少女がよだれを垂らしたまま眠っている。
 その表情は歳相応の少女にしか見えず、これから戦地に赴く軍人だとは微塵も感じられなかった。

 「エリシャ・ムルシアァァ!!」
 「……ンぎゃああああああ!!」

 大隊長の怒りの丈を一身に受けて、彼女は反射的に天井にぶつかりそうなほどにまで飛び上がる。
 そのままやけにうまい着地を決めると、エリシャは流れるように辺りを見回した。

 「なになになに? 事故? 爆撃? 空襲?」
 「疲れは取れたかね、エリシャ・ムルシア殿?」
 「あっ、ハイ! 気力も体力も万全であります!」
 「ふむ、ではそれを遺憾なく発揮してもらおうか」
 「ハイ! 大隊長殿!」
 「では貴様に特別な任務を与える!」
 「ハイ! ……はえ?」
 「中継基地到着までに、物資とリストの照合作業を行いたまえ。無論、貴様ひとりでな」
 「はぁ? どーしてわたしがそんな……ていうか、ひとりで終わるわけないじゃ――」
 「ほう?」

 これ以上はまずい。
 鋭さを増す眼光に本能的な危機を察知したエリシャは大慌てで車両を飛び出していった。

 「わ、わっかりましたぁ~~!」
 「まったく、これだから徴兵組は……田舎娘がひとりいたところで、なんの足しにもならんだろうに」

 大隊長は大きなため息をつくと背後を振り返る。
 エリシャとの一件で場の雰囲気はすっかりゆるんでしまった。大隊長はわざとらしく大きく咳きこむと、忍び笑いしている兵たちを叱りつけるのだった。


EPISODE2 田舎娘は故郷を出たい 「その音色は、わたしの平穏で退屈な日常を打ち壊す、祝砲のようでした」


 わたしの故郷ムルシアは、一言で言えばなんにもないド田舎だ。昔は反逆のルーツがある都市として栄えてたみたいだけど、それは過去の話。しょーじき興味もない。
 そんなわたしにとっての最大の関心事は、寿命が尽きるまでの間、ず~っとここで暮らさなくちゃいけないっていう退屈な日々を、どうやって回避するかということだ。
 ベッドに仰向けに寝転んだまま、わたしは天井に手を伸ばすと、手を飛行船に見立てて適当に動かす。

 「ハァ~~、明日も明後日も何も起こらないド田舎。みんなはよく平気でいられるよね……」

 どこか遠くに行きたい。知らない街、知らない土地。
 そういう心がワクワクするものを、わたしはしょもーしているのだ……。
 決められた役割を毎日こなすことだけが良き市民の条件だとみんなは言うけど、それって本当にシアワセ?
 そんなの、こっちから願い下げだ。

 「退屈な日常を変える何か……プリーズ……」
 「――――」
 「ん……?」

 なんだろう。外から大きな音が聞こえた気がする。
 ここは大きな物音すらほとんどしない。そんなことが起これば間違いなく事件になる……。
 わたしは、開きっぱなしにしていた窓から身を乗り出すと、音のした方角へと耳をすました。
 風に乗って聞こえてくるのは規則的で甲高い音。
 これは、衛士の訓練とか区画清掃の作業音じゃない。
 わたしには分かる、そう、これは――

 「事件の匂いだ!」

 わたしは街へと駆けだした。

 ――
 ――――

 音に導かれるまま向かった都市の中心部は、沢山の市民であふれかえっていた。
 そのせいで中で何が起きてるか分からない。人だかりをかきわけて中へと突き進む。
 そして、ようやく音の正体がなんなのか判明した。

 『これは、我々が生きるための戦いである! 誇り高きムルシアの民よ、今こそ起ち上がれ!』

 頑丈そうな車両に乗った軍人が、何度も同じ言葉を繰り返しながら叫んでいる。
 でもそれ以上に気になったのは、軍人の隣で存在感を放っている大きな立体映像だった。
 そこに描かれている白髪の男の人は、わたしたちを見下ろすように立っている。

 「誰だろ……あれ……」

 凛々しく見えるんだけど、わたしには何故か背筋が冷たくなるものを感じた。チクチク、ハラハラするっていうか……。

 『性別不問! 職分不問! 命を賭す時は今だ! 同胞たちよ!』
 「聖戦……つまりこれって……街から出られるってコト!?!?」

 戦闘経験なんてゼロ。でも、今このチャンスを逃したら二度とここから出られないかもしれない。
 だったら――!

 「ハイハイハイ!! わたし、志願します!!」
 「ッ!? これはまたずいぶんと威勢がいいお嬢さんだ。君は衛士に属する階級なのかね?」
 「いえ! 一般市民です!」

 そのとき、大声でアピールしたわたしをからかうような笑い声が響いた。

 「誰かと思えば、なんにもしない“ぐうたらエリシャ”じゃないか」
 「は? わたしはあ・え・て、なんにもしないことを選択してるんです」

 わたしにちょっかいをかけてきたのは、この街の警護の役割を持って生まれた衛士の男。わたしよりも頭2つ3つ大きい男は、わざとらしく自分の両肩を抱いてみせる。

 「お前じゃ弾避けにもならんだろ。なあ?」
 「そうだそうだ!」「弾避けにも失礼だぜ!」

 取り巻きの衛士たちも、笑いながら口々に煽ってくる。

 「失礼ですね! わたしにだってできることくらいありますよ!」
 「ほう、何ができるんだ?」
 「言葉を話せます!」

 笑い声がピタリと止んだ。

 「に、逃げるのも得意なんですよ!」
 「……悪いことは言わん、市民階級のお前はここに残って祈りを捧げた方がいい。死ぬと分かっていて、無駄に命を捨てるのは愚か者の所業だぞ」
 「わたしは……ただ無為に過ごすだけの毎日に嫌気がさしたから志願するんです! 街から出られるなら、愚か者にでも、弾避けにでもなってみせますよ!」

 言ってやった。わたしの気持ちを、全部。
 これでダメなら、その時は――

 「フム。その威勢のよさ、市民階級のままにしておくには勿体ない。君の志願を受け入れよう」
 「おいおい……」「死んだな、こいつは」
 「い、良いんですか?」
 「構わないさ。それに、数は多いに越したことはないのだからね」
 「まあ、徴兵官殿がそう言うならいいが……」
 「じゃあわたし、ここを出られるんですね! 徴兵官さん、ありがとうございます!」
 「諸君らはムルシア小隊として組みこまれることになっている。君は隊長としてしっかりと部隊を率いるのだぞ」

 徴兵官さんが男の肩をぽんと叩く。

 「お、俺が隊長!? こいつの面倒を見ながら?」
 「よろしくお願いします! 隊長殿!」
 「いきなりお先真っ暗だぜ……」
 「ああそれと、諸君らにはムルシアの名を与えよう。この栄光ある都市の名に恥じぬ活躍を期待する」
 「ありがとうございます! わたし、頑張ります!」
 「おい、エリシャ」

 はりきって敬礼するわたしのところに、隊長がのっそりと歩いてくると、目の前に大きな握り拳を突き出してきた。

 「な、なんですか?」
 「受け取れ」

 そう言って開かれた手から何かが落ちる。
 両手で受け取ると、そこには小さな四角い機械があった。

 「えっと……?」
 「追跡装置だ。これがあれば、お前が迷子になってもすぐに探せるだろ? ワハハハ!」
 「「ワハハハハ!」」
 「こ、子供あつかいしないでくださいーー!!」

 こうして、ムルシア出身のわたしたちは遠い遠い東の地へと旅立つことになったのだ!


EPISODE3 田舎娘、疫病神に絡まれる 「わたしの前に突然現れた眼帯男。思えば、あれがわたしたちの最初の分岐点だったのかもしれません」


 オリンピアスコロニーに着いたわたしたちムルシア小隊は、軍事演習基地で訓練を受けることに。
 本格的な訓練を受けるみんなと違い、素人のわたしは基礎的な訓練からスタート。
 遠くの人や会話ができないときに相手へ伝えるハンドサインを覚えたり、真っ白い光のビームを発射する銃の扱い方、配給された薄味な携帯食糧(レーション)を食べるのはとても新鮮で、ありとあらゆる物事が特別に感じられた。
 そして、いよいよ東の戦地に向けて出発する当日。
 わたしは他の辺境都市出身の隊員たちと合流すると、大型の兵員輸送車両に押しこめられるように搭乗してコロニーを出発した。

 ――
 ――――

 車両は現在、アナトリアの砂漠地帯を通過中。
 この目で砂漠を見てみたかったけど、勝手に車両の中を移動すると大隊長に怒られてしまう。それでも諦めきれなかったわたしは、どうにかして見られないかと考えているうちに居眠りしてしまった。
 その結果……メチャクチャ怒られた。
 でもでもでも、そのお陰でわたしは車両から出られて貨物車両に向かうまでの間、広大な砂漠を目の当たりにできたのだ。
 うん、これはこれでラッキーだったね!
 結局、貨物の検品はアナトリア東端の基地に着くまでに終わらなかった。加えて、大隊長からはそのまま追加物資の搬入と検品を手伝わされるハメになって散々だ。

 「ハァ……みんな、少しぐらい手伝ってくれたっていいじゃん……なーにが岩場の監視任務よ。あの図体デカ男めー」

 切り立った崖や瓦礫でいっぱいの基地周辺は、ムルシアとはまた違った殺風景さがあった。
 これが、大地の修復が完了したムルシアと途中で放棄されたままになっている所との差なんだろう。
 汚染が酷いとこは立ち入り禁止だって言われてるし。

 「好き勝手に汚しといて、その責任をわたしたちに負わせちゃうんだもんなー。大昔に大地を支配してた人間が害悪って言われてたのも分かる気がするー」
 「アハハ、ほんとほんと! 俺たちの何倍も長生きだったくせしてさ、後はヨロ! だもんねー。大地の修復とかどうでもよくなっちゃう♪」
 「っえ!?」

 ずっとわたしひとりだと思ってたのに、いつの間にか隣には、赤髪に眼帯をした背の高い男が立っていた。

 「い、いつからそこに……?」
 「んーどうでもよくない? 俺様は、ただキミの監視任務をしてるだけ♪」
 「んな――ぁ」

 それ、最初からいるって言ってるのと同じだから!

 「わたしの任務を邪魔しないでください!」
 「アッハ、ごめんごめーん」

 そう謝ってる間も、眼帯の人はずっとヘラヘラ笑っている。その態度にすごい温度差を感じて、文句のひとつでも言ってやろうと思い――つい目をそらしてしまった。

 「どーしたの? 俺様の顔に、何かついてた?」
 「い、いえ! なんでもないであります!」

 お兄さんの顔についてる赤いものにビビったとかそういうのじゃない。少しだけ開かれていた瞳――その奥にあるものを見るのが怖くなってしまったんだ。

 「そんな反応されたら気になっちゃうなー。監視任務ぞっこーう!」

 顔をのぞこうとしてくるお兄さんと目が合わないよう何度も首をひねっていたそのとき、勢いがつきすぎて「グギッ」と変な音が鳴り響いた。

 「あだ、あだだだだだッ!?」
 「ハ、アッハハハハハ!」
 「ぜ、全っ然、笑いごとじゃ……!」
 「苦しんでるのを見てるのってさ、楽しいよね~♪」
 「ぴやぁあぁぁぁ!」

 目! 目がまったく笑ってない!
 こっちは全然楽しくないよ!
 もしかしなくても、わたしの命を狙ってる?
 このままじゃ――戦場に出る前に死んだ女として、ド田舎で語り継がれてしまう!
 すると騒ぎを聞きつけてきたのか、周囲にいくつも人の気配が感じられた。なのに誰も近づこうとしない。
 見てるんだったら誰か助けて~!

 「ねえ……キミさ、うちの部隊に来ない? きっと、もっと楽しくなると思うんだよね~」
 「そ、それは……」

 あなた“が”、楽しいの間違いでしょ~~!?
 思わず出かかった文句を飲みこんで、わたしは作業を放棄して猛ダッシュで逃げ出した。

 ――
 ――――

 「……なんてことがあったんです」

 ムルシア小隊のみんなに眼帯お兄さんの話をしたら、みんなは目をまん丸くして素っ頓狂な声をあげて、

 「バッカ野郎……! よくそんな態度取れたな!」
 「その特徴、絶対にロト様だぞ! 無事でいられるなんて、只者じゃないなお前!」

 口々にわたしを褒めたたえてきたのだ。

 「あの……そんなにすごい人だったんですか?」
 「元・一般市民じゃ知らなくても当然か。ドックに赤いカラーリングが施された船が何隻かあるだろ?」
 「はぁ」
 「あれはな、オリンピアスから来た特殊部隊専用の船なんだ。俺たちも噂程度にしか知らないが、赤髪に眼帯の男はその部隊の隊長だって話だぜ。エリシャなんかその気になれば、指一本で仕留められちまうぞ」
 「指どころか触れられてもいないのに、体バッキバキですけどね……」

 まさか、そんなすごい人だとは思わなかった。
 あのとき、変な対応を取っていたらどうなっていたか……想像するだけでも背筋が凍る。
 とにかく、あの人のお誘いを断れてよかったのは間違いない。
 あの人は絶対に、わたしなんかが関わっていい人じゃないんだから。

 「ま、大事なのは終わった話より今だ。その荷物を積みこまないと俺たちまで怒られちまう。手分けして片付けるぞ」
 「へいへい」「了解」
 「もー、最初から手伝ってくれてたら良かったんですからねー」

 お兄さんに遭遇した場所に戻ってみると、そこにあったはずの物資は……ひとつも残っていなかった。

 「え……なんで!?」

 室内を見たら、壁には一枚の紙がナイフで固定され、「全部もらってく、あとはヨロ♪」と文字が書き添えられていた。
 ……何がすごい人だ。あんなの、ただの疫病神だよ!

 そのあと、わたしたちの部隊は散々叱られ、罰として前線からは程遠い後方支援につくことになるのだった。


EPISODE4 田舎娘と扇動者 「えらい人たちはいいですよね。机の上から指示を出すだけで、怪我することも死ぬこともないんですから」


 わたしたちは、最前線に展開する部隊を支援する後方支援部隊に組みこまれることになった。

 「……せっかく田舎から出て来たのに、周囲を見張ってるばかりで退屈ですね……」
 「後方支援は大事なんだ。戦線を長期にわたって維持するような戦いになれば尚更重要になる。それを軽んじた方が負けると言ってもいい」
 「武器とかレーションがなくなるからですよね?」
 「そうだ。他にも大切な役割は色々あるが……まあ、後方を潰されたら、前線はもたないと思っていればそれでいい」
 「なるほどー、戦争って、こういう地道なことも大切なんですね。支給された銃があれば敵なんてすぐにやっつけられると思ってました」
 「おいおい、演習場の座学で習わなかったのか? 頼むぜ~」
 「すみません! 半分くらい寝てました!」
 「お前を連れて前線に向かわなくてホッとしてるぜ」

 今日の任務も無事に終了し、前線からの定時連絡が入ってきた。機械種は着実に後退しているらしい。
 小さな戦いでも、勝ったと聞くだけでこっちまで気分が良くなるような気がした。

 「わたしたちを支配してる機械種って、思ってたより弱いんですね」
 「エイハヴ様が俺たちに変革をもたらしたのさ。奴らを研究してきた結果が、今につながってるってわけだな!」
 「わたしたちの進化は、機械種にも推し量れなかったわけですね。これって、もしかして人間なんかよりもよっぽどすごいんじゃないですか?」
 「――当然である! 我々は旧き人類を超越した、真なる人なのだ。機械種すらも容易に超える定めにあるのだよ。エリシャ・ムルシア隊員」
 「げ!」

 その声は……大隊長!?

 「ど、どどどどうしてここに?」
 「諸君らは大至急、駐屯地へと向かうように」
 「ええ? まさかこれから訓練ですか?」
 「誰が口を聞いていいと言った! 話しかけられたとき以外は口を開くんじゃない! さっさと行け!」
 「ひぃぃぃ!」

 大急ぎで駐屯地の広場に向かうと、そこにはたくさんの小隊が集まっていた。
 駐屯地の中心は物々しい装備をした衛士が何人も控えていて、誰かを護衛しているようだ。
 その誰かさんはよほど重要な人物らしい。
 そして、ざわつく広場が静まりかえるのを待っていたのか、衛士の後ろにいた人物が壇上に上がる。
 壇上の下の衛士が、大きな声で叫んだ。

 「同志諸君、よくぞ集まってくれた! このお方こそが、我らの総司令にして、オリンピアスコロニー最高指導者ヴォイド閣下である!」

 「「「オオオオ!!」」」

 ムルシアに居た頃に立体映像で見たあの宰相様がただ姿を現しただけなのに、地面が揺れるぐらい大きな振動が走った。
 その宰相様本人は、口元にほほ笑みを浮かべながら広場を見渡している。本物は、ムルシアで見た映像の宰相様とは全く違う印象を受ける人だった。
 わたしの中では、もっと圧が強いイメージがあったんだけど……目の前にいる宰相様からは理知的な印象を強く感じる。
 宰相様は会場の興奮が完全に静まるのを待ってから、穏やかに、そして淡々と語った。みんなへと言葉が染み渡るようにゆっくりと。

 「まずは、此度の戦いによって機械種の一大防衛網を後退させられたこと、誠に見事であった。諸君らの支援があってこそ、前線の戦士たちは最大の戦果をあげることができるのだ」

 ずっと哨戒任務をこなしてるだけのわたしにとって、その言葉はいまいちピンと来るものじゃなかった。でも、静寂に包まれている周囲からは誰かのすすり泣く声が風に乗って届いて来る。

 「畜生ぉ……俺たちも、頑張らねえとな……」

 って、隊長~~~!?
 わたしは無言で、隊長にハンカチを渡してあげた。

 「気が利くじゃねえか……」

 そう言うと、隊長はものすごい音を立てて鼻をかみ始めた。
 ……あのハンカチはもう捨てるしかないだろう。

 「この大地に産み落とされ、真に大地の再生に寄与してきた我々を廃棄しようとする機械種と、厚かましくも後継者を名乗る帰還種たち。奴らは十数年にも及ぶ戦いで、己の無能ぶりを晒してきたのである。では、その結果はどうか?」

 宰相様はじっくりわたしたち後方支援部隊の顔を眺めるように見渡し、言葉をつむぐ。

 「諸君らだ。諸君らの怒りだ。諸君らの憎しみだ。奴らの手ぬるい選択が、今日までの状況を作りあげてきたのだ。奴らの歪められた選民思想が、世界の歯車を狂わせ、大地の更なる汚染を引き起こしたのだ!」

 だんだんと強くなっていく言葉と熱に、周りの空気が変化していく。この広場そのものが、ひとつの意志にまとまるような……遠くにいるはずの宰相様の声が、自分自身に直接語りかけてくるようだ。

 「前指導者であるエイハヴ、そして我らが母たる聖女バテシバ。偉大なる先人らの戦いから、十数年の歳月が流れた。そして今! 彼らの意志を受け継いだ我々が、機械種を、帰還種を討ち滅ぼす時がきたのである!」

 拳を高く掲げて、宰相様は叫ぶ。

 「大地の運命は、我々と共にある! 奴らを滅ぼし、真の勝利を掴み取るのだ!」
 「「「オオオオオォォォ!!!!」」」

 雷のような雄叫びのうねりが、広場全体を激しく揺らす。宰相様の言葉は、ここにいる真人たちの心を一瞬でまとめあげてしまった。
 そうやって熱狂的に盛り上がるみんなを見ていた宰相様は、最後にみんなの声援に応えるように手を振ると、戦闘艇に乗りこんで飛び去っていった。

 「あれが……ヴォイド様……」

 ああいう振舞をするのは確かにトップに立っている人っぽい。
 ああやって各駐屯地を激励して回ることでやる気を高めているんだ。
 でも、わたしにはひとつ引っ掛るものがあって。

 「お前、エリシャァァ、なんで泣いてないんだよ」
 「俺たちも頑張らないとダメなんだぞ!」
 「功績をあげて、英雄にならねえと!」
 「は、はぁ……」

 みんな、大切なことを忘れてない?
 戦争に行くのも、戦場で命を張るのも、わたしたち兵隊なんだっていうことを……。


EPISODE5 田舎娘が見たせんそう 「空を走る無数の光に、わたしたちの何十倍も大きい兵器の群れ……わたしは命の軽さを知りました」


 宰相様の演説から数日、更に機械種の防衛網を後退させた結果を見て、上の人たちは一気に前線を押し進める判断を下した。
 勢力図が色分けされて記されている端末越しに、色が一色に染まっていく光景は確かに気分がいい。
 でも、足場が悪い現場を連日のように移動するのは、さすがに勘弁して欲しかった。
 そして、そんな状態で戦場を通過するのがどれだけ心に負担をかけるのか、そのときが来るまでわたしは気づきもしなかったんだ……。

 「ええ? また前進ですか!? もう身体が動かないですよ……」

 移動先で陣地を形成し始めたわたしたちに、今の位置よりもっと防衛網に近い場所に形成するよう命令が出された。
 どれだけ文句を言っても命令が変わるわけない。
 諦めて陣地を解体し、辺りにまだ煙が立ちこめている荒地についたわたしを待っていたのは……凄惨な戦場の爪痕。

 「ぅ……、……ぁ……っ!」

 最初に感じたのは、ツンと来る鋭い痛み。焼け焦げた匂いとうめき声。今すぐにでも目と鼻を塞いでしまいたかった。でも、何かがわたしの意志を拒むように、その光景に目を釘付けにしようとする。
 抗えないのなら、何か考えなくちゃって、真っ白な頭の中で必死に意識をかき混ぜた。
 ――――レーション。
 そうだ、今日はまだレーションを食べていなかった。
 今すぐ口に入れないと。そうしないと、わ、わたし、わた――

 「バカ野郎! レーションなんか食ってる場合か!」

 視界にバチンと火花が散った。
 遠くの空を駆け抜けていく砲台の光が、どこかに着弾したのかと思ったけど、直後にほっぺたに感じた熱で自分が誰かにぶたれていたと分かった。

 「し……小隊長……?」
 「目をこらせ」
 「へ?」
 「今ここにあるモノ全部、目に焼きつけておけ。立ち向かわないで尻尾巻いて逃げたら、こいつらはずっとお前の頭ン中に巣食い続けるぞ。お前が……“仲間”になるまでな」

 小隊長の指さす方に目を向ける。仰向けで倒れたまま動かなくなった真人だったものが、わたしに笑いかけている気がした。

 「うっ! ……んぐ……ぇ……」
 「お、吐くか?」
 「ぐ……っ、ぁぁぁぁああ! 吐きません!」
 「「「おー」」」

 みんながわざとらしくパチパチと手を叩いて、祝福してくる。わたしは息を止めたまま両手を上げて、ガッツポーズを返してやった。

 「ハァハァ……こんなの見て、皆さんよく平気でいられますね。メンタル強すぎですよ」
 「俺たちは衛士の役目を負ったその時から、ずっと戦いの記録を刷りこまれてきたからな。いくらすげえ武器で武装したところで、てめぇの運命を左右するのは結局“ここ”なのさ」

 自分の胸をドンと叩いて、小隊長はふんぞり返る。
 わたしが知らないところで、ずっとムルシアを護ってきたみんな。傷だらけの大きな身体。
 わたしは……初めて彼らのことを心の底から頼もしいと思った。

 「てなわけで」

 小隊長は、自分の大きな右手をわたしに向けるように差し出してくる。

 「それ、なんのハンドサインですか? マニュアルに載ってましたっけ?」
 「ワハハ、違う違う! これはなぁ、エリシャを真の仲間だって認めた証だ。ホラ、目一杯パンチしろ」
 「良かったなあエリシャ! これで弾除けにされる心配はなくなったぜ?」
 「ッ! たいちょォォォォぉ~~~!」

 煽りに乗せられて、思い切り力をこめたパンチ。
 小隊長の手のひらは、鉄のように硬かった。


EPISODE6 田舎娘とヒステリー男 「迷いこんだ通路の先で、わたしは上層部の人の本当の顔を知りました」


 「え、総攻撃ですか?」

 本格化した戦争は、とんでもない速さで進行していた。最前線の部隊と機械種の部隊が激突する戦場に、大型のドクロ頭の兵器が現れて機械種の防衛網を突破してしまったらしい。

 「無茶苦茶だ、こんなの……」

 というか、そもそも機械種が手に負えない兵器があるなら、どうして最初から投入しなかったの?
 大勢の死者を出す必要もなかったはずなのに。
 所詮わたしたちは、司令部の人たちにとって都合のいい駒にすぎないんだろう。
 そんな考えが頭の片隅に浮かんだ途端、足取りは重たくなっていく。

 「何やってるんだエリシャ! 急げ!」
 「は……はい!」

 死んでもいないのに自分の死を強く意識しながら、せめて死ぬときは一瞬で死なせてほしいと思った。

 ――
 ――――

 「どうなってるんだ……こりゃ……」
 「みんな……死んでるんでしょうか……」

 ペルセスコロニーに到着すると、そこには無数の亡骸の山が築かれていた。
 けど、不思議と恐怖を感じなかったのは、慣れというよりも、どの死体も人の形を保ったまま亡くなっているからだ。

 「小隊長、いったい何が……」
 「俺たちは遺体分析の専門家じゃないからな。ただ、どれもこれも同じような死に方をしてるとしか言えん」

 小隊長の足元に横たわる真人の亡骸は、全身から血を垂れ流していた。

 「突入した人たちは全員死んじゃったんですか?」
 「後方にいた奴らの中には生存者もいたが……都市の中心に近い奴らは全滅だろうな」
 「そんなの……勝ち目ないじゃないですか……」

 得体の知れない恐怖と不安で、隊の雰囲気が重くなりかけたそのとき、小隊長の携帯している端末が鳴り響いた。
 端末から聞こえてきたのは女性の声。

 『こちら司令部所属のエステル・ヤグルーシュだ。そちらの所属は?』
 「こちらはムルシア小隊。我々は今ペルセスコロニー外殻部で生存者の確認中であります」
 『そうか、では可能な限り生存者を回収したのち、コロニーから撤退してくれ』

 しばらくやり取りを繰り返したあと、状況報告が終わった。小隊長はコロニーの中にそびえる銀色の都市から視線を外すと、わたしたちの方に振り返り隊員全員を招集する。

 「生存者を回収し次第、ムルシア小隊はコロニーから撤退する」
 「じゃあ、わたしたち死ななくて済むんですね!」
 「寝言は寝て言え。ただの戦略的撤退にすぎん。作戦の方針が決まり次第、コロニーに再突入するに決まっているだろう」
 「で、ですよねー……」

 小隊長の体で隠れている銀色の都市をのぞく。
 完璧に計算され尽くしたような街並みはどこまでも静かで、わたしたちの侵入を拒んでいるような冷たさに満ちていた。

 「エリシャ!」
 「ふぎゃっ!?」
 「変な声を出すな、戻るぞ」
 「ふぁい……」

 わたしたちは、ペルセスコロニーの遥か後方で待機する旗艦へと急いだ。

 「モタモタするな、置いてっちまうぞ!」
 「ま、待ってください~!」

 巨大な車輪がついた要塞のような船の中に入ったわたしたちは、そのまま司令室へと向かう。
 細い通路に加え、扉の多い船の中はまるで迷路の中に迷いこんでしまったかのような感覚があった。

 「ペルセスコロニーとは真逆だなー。薄暗いし、配管もびっしりで息苦しい……」

 天井から視線を戻す。
 ……みんながどこにも見当たらなかった。

 「や、やってしまった……」

 通信端末を押してもうんともすんとも言わない。
 途方に暮れたわたしは、手当たり次第に部屋を探すことにした。

 「こういうときは、とりあえず進む方向を決めてしまえば大丈夫なはず。うん、すぐに合流できる!」

 階段を昇り、ひたすら右に曲がる通路を進む。
 また階段を昇り、右側に――
 しばらくそうしていると、ふと視界にぼんやりと明かりが漏れている部屋があることに気づいた。
 その部屋からは誰かが話している声が聞こえる。

 「やった! 中の人に助けてもらおう!」

 部屋へ向かって一歩ふみこんだ瞬間――

 「クソァ! 何故攻めこまぬ! コロニー内の動力反応を見れば、アレが連射できる代物ではないと分かるだろう! さっさと部隊を突入させろ!」
 「ひぇっ!」

 ひどい怒声を浴びて、硬い床の上にすっ転んでしまった。
 そ~っと扉の隙間から部屋の様子を確認する。
 めちゃくちゃキレ散らかしていたのは、わたしたちの総司令――宰相のヴォイド様だった。

 「何アレ……演説してたときと別人すぎる……ただのヒステリー男じゃん……こんな人にわたしたちは……」
 「――貴様ァッ!」
 「ひええ! ごめんなさいごめんなさーい!」
 「……アァ!? 少し待て。そこにいるのは誰だ!」

 し、しまった……。
 さっきの声は、わたしに向けたものじゃなかったんだ……。
 わたしは覚悟を決めた。
 キレられないように、申し訳ない気持ちを前に出す。

 「盗み聞きしてしまい、申し訳ございませんでした」
 「女、何処の所属だ」
 「あ、えっと……ムルシア小隊所属のエリシャ・ムルシアであります」
 「名前などどうでもいい。ムルシア方面はレアの管轄だったな……既に突撃部隊の再編が始まっている。すぐ向かえ」
 「あの……じ、実は! 道に迷ってしまって……」
 「アァ? まったく、とんだ役立たずがいたものだ」

 そう言ってヴォイド様は、さっきまで怒鳴りつけてた手元の端末でどこかに連絡すると、衛士を呼びつけた。

 「そいつをさっさと摘み出せ!」
 「ハッ!」
 「おい女、次に私の手を煩わせでもしたら、極刑にしてやるからな!」
 「はい……」

 衛士に連れられて船を出る。
 そして、戦闘車両の前に集まる突撃部隊に加わることになり――わたしはもう一度、あの銀の都市に乗りこまないといけなくなってしまった……。


EPISODE7 田舎娘は誓いを立てる 「今思い返せば、わたしたちはずっと運が良かった。このまま無事に戦争を終えられると信じてたんです」


 部隊の再編中に、わたしはムルシア小隊のみんなと合流することができた。散々叱られたけど、何故かそれさえも嬉しくて、ついついにやけてしまった。

 そうしている間にも部隊の再編は順調に進み……。
 整列するわたしたちの前にある戦闘車両のところへ、誰かがやってくる。

 「人数は……これで全部か。さて諸君、俺はこの突入部隊を指揮することになったナディン・ナタナエルだ。気軽にナディンとでも呼んでくれ」

 そう言いながら、ナディンと名乗った褐色肌の男の人はからっとした笑顔を浮かべていた。やわらかい感じがして、あのヒステリー男とは正反対だ。

 装備の確認と任務の共有が済んで、いよいよ二度目のペルセスコロニー突入。
 ずっとバタバタとしていたけど、最初の突入からまだそんなに時間も経っていない。
 わたしたちがやらなくちゃいけないことは、都市の中枢へ侵入することと、連絡がつかなくなったという指揮官クラスの人の生死を確認することだ。
 いくら再攻撃の可能性が低いって言われても、突入部隊を全滅させた兵器にいつ攻撃されるか分からない。そんな状況で死の空気が満ちた銀の街の中を進むのは、生きた心地がしなかった。

 どれだけ進んだだろう。
 時折現れるヒトの形だけ真似したような機械仕掛けの兵隊をやり過ごしながら、わたしたちは都市深くへと侵入する。
 その途中、動きがおかしな機械兵がいることに気づいたナディン隊長が何か考え事をしていると、

 「ナディン隊長、こちらへ来てください」
 「どうした?」

 ナディン隊長の部下の人が何か見つけたらしい。
 ナディン隊長がそこへ向かう。部下の人との話が終わると、わたしたちも来るようにと手を振られる。
 なんだか……ヤな予感しかしない。
 とりあえず向かってみると、そこには地下に続く大きな道がある。
 ナディン隊長は言った。

 「諸君らには、ここから内部に潜入してもらう」
 「ええっ!? わたしたちだけで突入するなんて正気ですか!?」
 「不満か? ならば別の隊に……」
 「お、お待ちください、ナディン隊長!」
 「ふぎゃっ!」

 わたしは、小隊長に突き飛ばされた。

 「その任務、必ずややり遂げてみせましょう!」
 「あ、ああ、そうか。なら任せるとしよう」
 「ハッ! お任せください!」

 反論する前に、とんとん拍子で話が決まっていた。
 ナディン隊長たちは、あっという間に都市の奥へと進んで行ってしまう。
 取り残されたわたしたち。

 「……本当に大丈夫なんですか? 地下に敵がわんさかいたら、わたしたち、けちょんけちょんにされちゃいますよ!?」
 「これはチャンスなんだ、エリシャ」
 「チャンス? 本気ですか?」
 「ああ、これまで俺たちは手柄という手柄をあげていない。だが、ここで俺たちの手で中枢区画を制圧できたとしたら……分かるだろ?」
 「小隊長たちは……命と手柄、どっちが大切なんですか!?」

 答えは、わざわざ聞くまでもなかった。

 ――
 ――――

 慎重に地下へと続く道を進む。
 薄暗い通路が延々と続いているけど、まだ一度も敵と遭遇しない。
 このまま何事もなく中枢を制圧できるんじゃ――そんな考えが頭に浮かび始めたころ、曲がり角の先が淡い光に照らされていることに気づく。
 ようやくゴールだと近づこうとした矢先、パン、と何かが破裂するような音が響いた。

 銃声。そう判断したときには、ムルシア小隊のみんなは武器を手に曲がり角から様子を伺っていた。
 みんなの後ろから、わたしも恐る恐る確認する。
 その先には開けた場所があって、一機の戦闘艇が停まっていた。その船の向こうには別の通路が続き、バリケード越しに真人と機械兵が銃撃戦をしている。

 「行方不明の将校でしょうか?」
 「かもしれん。援護に回るぞ!」
 「了解!」

 部屋に突入したわたしたちは、左右に別れて船を援護するように接近。船を攻撃する機械兵たちを一体、また一体と破壊していき、バリケードの裏で動けない真人たちを助けた。

 「よし、今のうちに出航しろ!」

 すると、その真人たちは何も言わずにそそくさと船の方に向かってしまう。

 「待て! お前たちは何処の所属だ!」

 小隊長が機械兵への攻撃を止めて、真人のひとり――黒髪の男の人に銃を向け威嚇する。
 その直後、男を睨む小隊長の表情が、驚きに変わった。

 「な……貴方は、カイナン様? ご無事だったのですか?」
 「ああ、運よく機械種の攻撃から逃れられてね。さて、私にはやることがある。残りの機械兵は諸君らに……」
 「お待ちください、その後ろにあるのは機械種ですね。一体、どこに連れて行こうと言うんです?」

 小隊長の指摘は、黒髪の男の人にとって突っついちゃいけないものだったのだろう。
 一瞬で空気が張り詰めたのが分かる。
 そして、その空気を破ったのは――

 バン。

 一発の銃声だった。
 男の撃った弾が、隊長の肩を貫いていた。

 「た、隊長ォ! この……ッ!!」

 仲間の隊員が男を攻撃しようとしたけど、すぐに船のハッチが閉じられてしまう。
 このままじゃ、隊長を撃った男に逃げられる!

 「わああぁぁぁぁぁ!!」

 わたしは、無我夢中で船を撃った。何度も何度も。
 でも、どうにもならない。弾も一瞬で尽きた。
 船が少しずつ動き始めてる。

 「待てぇぇぇぇ!!」

 何か、何かしないと!
 わたしは、ポケットにしまってる物を手当たり次第に船へと投げつけた。
 でも、そんな子供みたいな攻撃でどうにかできるわけもなく……船は飛び去ってしまった。

 「エリシャ……無事だったか……」
 「小隊長ぉ! い、いま、止血しますっ!」

 小隊長の肩に空いた穴をハンカチで強く押さえつける。
 血がぐじゅぐじゅと溢れ出し、ハンカチはすぐに真っ赤に染まってしまう。

 「クソ! 敵が増えて来たぞ!」
 「こんなところで、死ぬわけにはいかないな……応戦するぞ!」
 「小隊長、その肩で戦うつもりですか!?」
 「当たり前だ! 部下を戦場から生還させるのも、隊長の役目なんだからな!」

 そう言うと、小隊長は力いっぱいに傷口を縛って、すぐに機械兵に向けて発砲した。

 「お前ら! 絶対に生き残って、英雄になるぞ!」
 「「応よ!」」
 「小隊長ぉ……みんな……」

 そうだ、こんなとこでうじうじしてる場合じゃない。
 生きる。わたしたちは、絶対に生き残るんだ!


EPISODE8 田舎娘は故郷に帰りたい 「褒美も手柄も名声も、欲しい人にあげちゃえばいいんです。だから、ムルシアに帰らせてください!」


 死に物狂いで機械兵の群れと戦ったわたしたちは、あの場所から無事に生還した。
 どうやって生き残ったのか、なんで今、ヴォイド様の船の一室に押しこめられているのか、ぜんぜん記憶にない。
 小隊の仲間もバラバラに隔離されてしまって、どうなってるのかわからない。
 カチャリ、と金属でできた手枷が鳴る。

 「これからどうなるのかな……もうムルシアに帰りたい……」

 あのとき、ヴォイド様は役立たずなわたしに言ってたよね。極刑にしてやるって……。
 きっと、あのカイナンって人を見逃しちゃったせきにんを取らされるんだ。八つ裂きだ。

 「はぁ…………」

 何度目かの大きな溜息がこぼれたとき、ふと閉じた扉の向こうから規則的な音が響いた。返事をする前に、扉が開くと――長銃を背中に背負った衛士たちが、ずかずかと部屋に入ってくる。

 「ひぇ! あ、あの、やっぱりわたし、処刑されちゃうんですか!?」
 「何を言っている? 我々は君を殺しにきたわけではない。エリシャ・ムルシア、我々と来てもらおう」

 わたしの返事も待たずに、衛士たちはわたしを部屋から連れ出すと、そのまま見覚えのある部屋の前に立つよう指示した。

 「うわうわうわ! ここって……まさか……」

 わたしの予想は的中した。

 「只今重要参考人を連れて参りました!」
 「入れ」
 「ハッ!」

 もうどこにも逃げられない。わたしは意を決して、ヴォイド様の部屋に飛びこんだ。

 「し、失礼しまぁす……」
 「ようこそ、エリシャ・ムルシア隊員」
 「ひえっ……」

 扉の真ん前にある机の向こうに、宰相ヴォイド様はいた。眉間にしわを寄せたまま、すごい顔でこっちを睨んでいる。しかも、部屋にいたのはヴォイド様だけじゃなかった。
 ナディン隊長や聖女レア様、体に包帯を巻いた赤髪で筋肉ムキムキな男の人……その他大勢。
 わたしからすると、雲の上の存在な人たちが一斉にわたしを見た。

 「さあ、コロニーで何を見たか話してもらおうか」
 「じ、実は……わたし、あのときの出来事はほとんど思い出せ――」
 「私は話せと言っているのだ! この役立たずが!」
 「ヒィぃぃぃ!」
 「ヴォイド、皆が落胆するようなことはやめてちょうだい。ごめんなさい、エリシャ・ムルシア。ゆっくりで良いのよ? 目を閉じて突入時のことを少しずつ思い出せばいいの」

 やさしく話しかけてくれるレア様の穏やかな声。
 その声のおかげで、わたしはどうにか正気でいられた。

 「わ、分かりました。やってみます……」

 変なことを言って、たびたびヴォイド様に怒鳴られて気が遠くなりそうになったけど、わたしはモヤがかかる曖昧な記憶を必死にたぐりよせるのだった。

 ――
 ――――

 「すぅぅ……はぁぁ……外の空気はおいしいなぁ」

 尋問から解放されたわたしは、ようやく外に出られた。これで晴れて故郷に帰れる。早く、隔離されてるみんなのところに行こう!
 なんて、そう思った矢先――

 「エリシャ・ムルシア特級執行官殿」

 ん? いまわたしを呼んだ? なんか聞きなれない単語がくっついてた気がするんだけど……。
 おそるおそる後ろを振り返る。
 目の前には、何故かわたしに向かってビシっと音が鳴りそうなくらいきれいな敬礼をする人たちが並んでいた。

 「え、えっと……人違いでは……?」

 「いいえ」と、先頭の人が答える。すると、懐から端末を取り出して、わたしに見せてきた。
 命令書だろうか。そこには、わたしの名前が大きく一番上に書かれていて、その下に名前が続いている。
 それも――たくさん。
 あっ、これ、やばい。

 「あ、あはは、まさか、こ、これってぇ……」
 「司令部からの通達を受け、我々は只今をもって“エリシャ小隊”に配属されることになりました!」

 ぇ……ええ……エリシャ小隊ぃぃ……っ!?

 「あの、言ってる意味が分からないんですけど? わ、わたしはムルシア小隊なんですけど!?」
 「あなた様は、本日付けで特別な役職を与えられ、独立部隊の隊長に任命されたのです」
 「あなたの下で戦えて光栄であります!」
 「よろしくお願いします! エリシャ隊長!」

 なんにもしてない。わたしなんにもしてないよ!?
 自称、わたしの部下の人たちの熱い視線が、わたしに注がれる。

 「あ、あは……あははは――かえり~た~いな~、む~るし~あに~~」

 どうやら、ムルシアにはまだ帰れないらしい。



■ 楽曲
┗ 全曲一覧(1 / 2) / ジャンル別 / 追加日順 / 定数順 / Lv順
WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧


コメント

  • EP3急にナナチ化したんかと思ったらダッシュ記号だった -- 2023-02-23 (木) 20:08:15
  • デカすぎてリアルで声出た -- 2023-02-27 (月) 18:27:05

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