オメガ・クィントゥス

　オメガ・クィントゥスは『ゴッドフィスト』と
呼ばれる５つの人格を持つ創造神である。

　すなわち『叡智を司る神・ジガクセン』
『正義を司る神・メズーサ』
『節制を司る神・マキュータイカ』
『慈愛を司る神・ジャーコウ』
そして『暴虐を司る神・オオリトゥリ』……
この５つの人格によってオメガ・クィントゥスは神として最も公平で正しい判断を下すことが可能となる。

　かつてこの地に栄えていた旧人類は姿を消していた。僅かに残った知的生命体は、過去の『人間』とは比べられないほど退化しており、荒野で原始的な生活を強いられていた。

　オメガ・クィントゥス、荒廃した世界に現れた創造神。
　大地を作り、生命を産むこと……破壊神が去った後、地上を理想郷に変えることがオメガ・クィントゥスに与えられた使命なのだ。

　世界は暗黒の塵によって満たされていた。

　地は荒れ果て、真っ暗な世界であった。

　そこで神は光を作り、昼と夜を創造した。

　光に包まれた世界を『昼』と呼ばれ、暗黒は『夜』と呼ばれた。

　神の作りし昼は、眩く熱すぎて地上の猿の目はことごとく潰れた。

　神の作りし夜は、すべてを覆い塞ぎ、以前より深い暗黒に襲われ、地上の猿は闇に惑うこととなった。

　神は溜息をつかれた。

　～新世界構築『バシンクテゥによる福音の書』聖録第１節『天地創造の起源　－暁光－』より抜粋～

　神は空（天）を創った。

　大空を創るため、神は己が息吹によって暗黒の塵を全て吹き飛ばした。

　神の息吹により、暗黒の塵は無くなったが、これにより地上の猿たちも吹き飛んだ。

　さらに、その息吹は大地を震わせ、地上は永く嵐によって支配された。

　神は溜息をつかれた。

　～新世界構築『バシンクテゥによる福音の書』聖録第２節『天地創造の起源　－蒼穹－』より抜粋～

　神は大地を創った。

　神が視線をやると、大きな岩が砕け、細かな礫となって次々に空から降り注いだ。

　地上の猿たちは、その礫に打ちのめされ、悶え苦しんだ。

　猿に当たった礫は砕け散り、砂となって地上を覆った。

　砂の大地は猿たちを飲み込んだ。

　神は溜息をつかれた。

　～新世界構築『バシンクテゥによる福音の書』聖録第３節『天地創造の起源　－地維－』より抜粋～

　神は大きな水を創った。大きな水は『海』と呼ばれた。

　神は地上の穢れを全て海に流し込み、海は黒く染まった。

　こうして神は地上を浄化させた。

　だが黒い海からは黒雲が生まれ、黒雲は酸の雨をもたらした。

　これによって地上の猿たちの肌は溶けた。

　神は溜息をつかれた。

　～新世界構築『バシンクテゥによる福音の書』聖録第４節『天地創造の起源　－溟海－』より抜粋～

　神は浄化された大地に種を撒かれた。

　幼い大地で植物は力強く育つ必要があった。

　ゆえに神は『自分で餌を捕らえるように』と命じ、芽生えた植物は地上の猿を捕らえて糧とするようになった。

　猿を糧とした植物は、速やかに地表を包んだ。

　神は溜息をつかれた。

　～新世界構築『バシンクテゥによる福音の書』聖録第５節『天地創造の起源　－播種－』より抜粋～

　地表に芽生えた植物をさらに生い茂らせるため、昼の力をもっと強めるよう神は考えた。

　そして地上の昼を司らせるために、神は空に太陽を求めるようになった。

　神は彼方天空に大きな穴を開け、より強烈な日輪の光が地上へと届くようになった。

　地上の猿たちは、強き日輪の光を浴びて焦がれ、焼き爛れた。

　神は溜息をつかれた。

　～新世界構築『バシンクテゥによる福音の書』聖録第６節『天地創造の起源　－天日－』より抜粋～

　地表を包んだ植物を休ませるため、夜の力をもっと強めるよう神は考えた。

　そこで神は地上の夜を司らせるために、空に『月』を、夜に明りをもたらすために『星』を求めるようになった。

　神の力によって、夜空には次々に星が煌めくようになった。

　増え続けた星は、やがて空から零れ落ち、地上へと降り注いで大きな穴を開けた。

　地上の猿たちは、天から零れる無数の星々から逃げ惑った。

　神は溜息をつかれた。

　～新世界構築『バシンクテゥによる福音の書』聖録第７節『天地創造の起源　－星辰－』より抜粋～

　神は魚と鳥を創った。

　神はそれらが愚かな地上の猿に狩り尽されぬよう、こう祝福した。

　『産めよ、増やせよ、水や地に満ちよ。そして猿に狩られる前に狩れ』

　こうして荒ぶる魚や鳥は地上の猿を追い回し、その身を啄み頬張るようになった。

　神は溜息をつかれた。

　～新世界構築『バシンクテゥによる福音の書』聖録第８節『天地創造の起源　－摂食－』より抜粋～

　神は獣と家畜を創った。
　そして最後に自身に似せた真人を創った。

　神は真人を祝福してこう言った。

『産めよ。増やせよ。地に満ちて、地を従わせ、猿を跪かせよ。全ての生き物を支配せよ』

　神の創りし真人の働きにより、地上から猿は姿を消した。

　ようやく神の望まれる世界は完成した。

　神は安堵の溜息をつかれた。

　～新世界構築『バシンクテゥによる福音の書』聖録第９節『天地創造の起源　－万象－』より抜粋～

　神は全てを終え仕事を離れ休んだ。

　神と神の作りし真人の子によって、いまや地上は理想郷と相成った。

　神はそのことに満足されると眠りにつかれるために宇宙（そら）へと還り、遥か彼方より真人の子を見守るようになる。

　神により聖別された大地は、真人の子の手によって、緑の大地と清らかな水が流れる豊かな楽園へと進化していったのだった。

　これより久遠なる真人楽土の歴史が始まる。

　～新世界構築『バシンクテゥによる福音の書』聖録第１０節『天地創造の起源　－創世－』より抜粋～