ニア・バテシバ

Last-modified: 2024-05-03 (金) 12:13:22

【キャラ一覧( 無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE / NEW / SUN / LUMINOUS )】【マップ一覧( SUN / LUMINOUS )】


s_5_4.png
Illustrator:MIYA*KI


名前ニア=バテシバ
年齢20歳(再生後7年)
職業世界に素敵な明日をもたらすもの

バテシバニアを依代として復活した存在。
彼女は自らの願いを果たすべく、再び動き出す。

バテシバ【 アヒトフェル / ニア・バテシバ / メタヴァース異体

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1オーバージャッジ【SUN】×5
5×1
10×5
15×1


オーバージャッジ【SUN】 [JUDGE+]

  • 高い上昇率の代わりに、強制終了のリスクを負うスキル。ジャッジメント【SUN】と比べて、上昇率+20%の代わりにMISS許容-10回となっている。
  • GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.3%→+0.2%)する。
  • SUN初回プレイ時に入手できるスキルシードは、NEW PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
  • スキルシードは200個以上入手できるが、GRADE200で上昇率増加が打ち止めとなる
効果
ゲージ上昇UP (???.??%)
MISS判定10回で強制終了
GRADE上昇率
▼ゲージ8本可能(220%)
1230.00%
2230.30%
3230.60%
35240.20%
68250.10%
101259.90%
▲NEW PLUS引継ぎ上限
▼ゲージ9本可能(260%)
102260.10%
152270.10%
200~279.70%
推定データ
n
(1~100)
229.70%
+(n x 0.30%)
シード+10.30%
シード+51.50%
n
(101~200)
239.70%
+(n x 0.20%)
シード+1+0.20%
シード+5+1.00%
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期所有キャラ数最大GRADE上昇率
2023/4/13時点
SUN16193278.30% (9本)
~NEW+0293279.70% (9本)


所有キャラ

所有キャラ

  • CHUNITHMマップで入手できるキャラクター
    Verマップエリア
    (マス数)
    累計*1
    (短縮)
    キャラクター
    SUNep.Ⅲ2
    (215マス)
    310マス
    (-10マス)
    ナディン・ナタナエル

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 私と私「なんだかとても温かい……まるでメーネに抱きしめられているみたい。もう、何も苦しまなくていいのね」


 「ここは……一体、どこなの……」

 私(わたくし)は、何もない白い空間の中にいた。
 ここには、地面を踏みしめているというような感覚がない。かといって、宙に浮いてるわけでもない。
 ただぼんやりと私という“個”が在るだけ。

 どうしてこんな所にいるのだろう。
 いったい、いつからこうしていたのか……。
 それすらも曖昧だった。

 思い返せる最後の記憶は……たしか、あの時。
 私はカスピ大地溝帯にいた。
 そして、谷底の都市で戦いになり……ミスラと一緒に行動していた真人の王子を……。

 「――っ!?」

 赤い何かがチカチカと瞬いた。
 そうだ。私とその真人の王子は、赤い何かにさらわれて――

 「ぅ、くぁっ……!!」

 唐突に辺り一面が色づいていく。
 その光景は、私が私を見ている不思議な光景だった。
 私は船の中で拘束されていて、真人の兵士たちが遠巻きに私を眺めている。
 そして、彼らの前で私は、真紅の髪の真人に――

 「ぁ、あぁっ……! 身の毛がよだつ……! 私が、あんな、あんな惨めな……っ!」

 憎んでいる真人に、みっともなく許しを乞うだなんて……! それにあの男は、私の前にアイザック様の……頭を――

 「許せない……あの真人……いえ、真人なんて! ひとり残らず滅ぼしてしまえばいいのよ!!」

 そうよ、そうだわ。
 真人なんてこの世界に必要ない。
 人類が帰還する地上を整備するための、ただの消耗品――
 そう思った次の瞬間、私の前に広がっていた光景がピタリと静止した。

 「ど、どういう事……?」

 ――ふふ。

 「えっ?」

 私ではない女の声が聞こえる。
 笑っている? 誰が、どこで?

 ――心が痛くて、仕方なかったわよね?

 耳元で、女の囁くような声がした。
 振り返ってみても、そこには何もない。
 ただ、頭の中を直接なでられたような、得体の知れない気持ち悪さだけがあった。

 「どこ、どこにいるのよ!!」
 「本当は純粋で、とてもワガママ。だけど、その心を檻の中に閉じ込めているのね」
 「知った風な口を聞かないで! 早く姿を見せなさい!」
 「私(わたくし)は、ずっとここにいるわ」
 「……え?」

 不意に、私の身体から仄かな光が滲み出てきた。
 その塊はひとつの場所へと集まり……やがて人の形へと変わっていく。
 不気味な光景を目の当たりにしているのに、私は目を逸らす事ができなかった。
 視線の先でハッキリとしていく輪郭。なぞるようにそれを眺めていると――いつの間にかそれの顔が私とよく似た顔をしている事に気づく。
 これはきっと、私のような――ナニカ。
 鮮やかな紅色の瞳だけが、私と違っていた。

 「……ふふ」

 女が、私の身体にそっと触れる。

 「“貴女”を見たわ。この身体も、考えも――貴女と真人である私に、いったいなんの違いがあるのかしら?」
 「真人!?」

 女の手を払いのけ、突き飛ばす。
 けれど、乱暴に払った私の手は、女の身体の中へと飲みこまれただけだった。

 「ひっ!?」
 「拒絶する必要なんてないわ。貴女はただ、私を受け入れるだけでいい」
 「受け入れる? この私が!?」
 「真人がいない世界を……作りたいのよね? その願いは、私も同じよ」

 女が微笑んだ。
 私の身体は少しずつ女の中へと飲みこまれている。
 足掻いても無駄だった。抗いようのない何かが、私をつかんで離さない。
 女の顔はもう目前にまで迫っていた。

 「私の中には、人の業のすべてがある。それを貴女に見せてあげる……」

 ――そう囁かれた刹那。

 「ひっ……嫌ぁぁぁぁぁぁああああああ!!」

 女の言う業――彼女が真人たちから受けたありとあらゆる行いが、すべて“同時”に私の中を駆け巡った。

 「あっ、いやっ……嫌ぁ……っ! 来ないで……!」

 この記憶は、彼女の記憶でしかない。
 なのに、直接肌に触れられた感覚が、弄くり回された不快さが、あたかも自分の身体で味わっているかのように再生される。

 「もう……やだっ、やめて…………っ」

 延々と繰り返される痛みと苦しみ。
 どれだけ抗っても、それが止む事はない。
 一瞬にも、永遠にも感じられる地獄。
 消えたい。逃げたい。死にたい。
 ここから、私を解放して――

 「大丈夫よ」

 穏やかな声とともに、痛みと苦しみが消え去った。
 気づけば私は、女の腕に抱きしめられていた。
 それは、とても温かくて。
 なぜかわからないけど、懐かしい匂いがした。
 まるで、私の地獄に光が射したかのよう。

 「真人がいない世界を望む気持ちは私も同じ」
 「おな……じ?」
 「受け入れて。そうすれば、貴女を檻に閉じこめるものはなくなるわ」
 「わたくし……は……」
 「おやすみなさい」

 ――沈む。沈んでいく。

 「貴女の大切な人とも、そこで会えるから」

 ――彼女の中に、私が溶けていく。

 「一緒に、素敵な明日を迎えましょう?」

 まどろみの中で私は彼女――バテシバの声に、ただ一言「うん」と頷いた。


EPISODE2 白ずくめの人形たち「真人でもない兵士が、次々と襲ってくる。ニアをさらった奴らは、ここで何をしようとしてるんだ」


 ニアがバテシバの意識と溶け合いつつある中。
 サマラカンダの都市区画で戦闘を繰り広げている者たちがいた。
 彼らの目的はただひとつ。
 紺青の都市サマラカンダへと連れ去られた帰還種――ニア・ユーディットを奪還する事。

 「クソッ! なんなんだよこいつら! 真人ですらないぞ!」

 だが、都市へと侵入したソロ、ミスラ、ゼファー、ヨアキムの4人を待っていたのは、正体不明の一団だった。
 都市の中枢にそびえる構造体から湧き出てきたソレは、白一色で塗りたくられていて、異様な空気をまとっている。
 真っ白な仮面をつけているかに見えた頭部は、仮面などではなく、本来顔にあるはずのパーツをひとつも有していないだけだった。

 「こんな気味の悪い人形を抱えているとはなぁ!」
 『――!』
 「げっ、一斉に振り返りやがった!? もしかして俺の言葉がわかるってのか?」
 「こっちに来るわよ!」

 ゼファーが遮蔽物から身を乗り出して人形たちを迎撃する。だが、頭部に狙いを定めた攻撃は当たる直前で人形の腕に弾かれてしまった。
 着弾の衝撃で人形の腕は砕かれ、バランスを崩して地面に転がっていく。しかし、頭部以外のダメージでは停止しないのか、人形はすぐさま立ちあがりゼファー目掛けて突撃する。

 「バラキエル!」

 目の前を、切り裂くような閃光と轟音が駆け抜けていく。迫りくる人形たちはソロの銃「バラキエル」によって、跡形もなく粉砕された。
 
 「やっと止まった……」
 「安心してる場合じゃねぇ! 次だ!」

 人形たちは後方で銃撃する部隊と突撃する部隊に別れていて、それを忠実にこなしている。
 死を恐れずに迫りくる人形たちの行動は、普通なら自我を持つ者に恐怖の感情を抱かせるには十分だ。
 それに飲みこまれてしまえば、一瞬で瓦解する。
 だが、それはあくまでも相手が“普通”だった場合に限られる。

 「ミトロン!」

 敵の位置と数を瞬時に把握したミスラが放った光の矢が、激しく動き回る人形の頭部を正確に射貫く。
 そして、その矢の勢いは衰えないまま、後方の人形を何体も巻きこんで吹き飛ばした。

 「うん、これで大丈夫!」
 「相変わらずイカした威力だぜ、嬢ちゃんの矢は!」
 「ソロ、今のうちに前進しましょう」
 「ああ」

 視認できる人形たちをすべて破壊した事で、攻撃の手が止んだ。
 一行はヨアキムとミスラを先頭にして、周囲を警戒しながら構造体への距離を縮めていく。

 「……」

 ソロが後方をカバーしながら進んでいると、ふとノイズ混じりの機械的な声が響いた。

 『ソロ……モー、ニア』
 「ッ?」

 ソロは足を止めて周囲に目を向ける。
 残骸の中で佇む一体の人形と目が合った気がした。

 『ソロ・モーニア』
 「なんで、俺の名前を……」
 『私は知っている。お前の生まれも、共にしている女も――』

 ――
 ――――

 ソロの少し前を歩いていたゼファーは、いつの間にかソロの足音がしない事に気づき、後ろを振り返った。
 そこには、一体の白い人形と向き合うソロの姿が。
 どちらにも戦う気配は見られないが、それがかえってゼファーには異様な光景に映って見えた。

 「ソロ! しゃがんで!」
 「――!」

 咄嗟にソロが身を屈めてしゃがんだ瞬間、ゼファーは人形の頭部目掛けて発砲した。
 頭部を破壊され、人形は「ガシャッ」と派手な音を立ててその場に倒れ伏す。
 
 「大丈夫? 怪我はなかった?」
 「ゼファー……」

 人形に何かされたのか、ソロの表情はどこか虚ろだ。
 そして、ゼファーをはっきりと認識したその時――

 「く、来るなッ!」
 「ソロ……?」

 ソロがゼファーを拒絶した。
 不安と不審。そして、ほんのわずかな敵意。
 負の感情をない交ぜにしたかのようなその顔に、ゼファーは何も言い返す事ができなかった。


EPISODE3 心のありか「あいつもなんだかんだ言って、まだまだ子供ってこったなぁ」  


 「来るなッ!」
 「ソロ……?」

 急変したソロの態度に、ゼファーは戸惑いの色を隠せなかった。

 「ねえソロ、どうしたの?」
 「どうしたはこっちの台詞だよ! どうして、どうして黙ってたんだ。ゼファーが……母さんのクローンだった事をッ!」
 「ど……どうして…………っ」
 「黙ってないで答えてくれよ!」

 ソロの声がどこか遠くに聞こえる。
 ゼファーの脳裏をよぎるのは、いつかの記憶。

 『私は……バテシバ様の……クローン、ということですか?』

 オリンピアスコロニーに身を寄せていた頃、ゼファーは自身の創造主であるカイナンにそう問うた。
 他の真人と違い、帰還種のように成長する身体は、聖女バテシバの生体情報に近しい。
 しかし、彼女を完全に再現する事はできず、彼女に限りなく近いナニカにしかなれなかったのだ。

 ゼファーはこの秘密を死ぬまで打ち明けずにいよう。ソロをむやみに傷つける事だけは、絶対にしたくない。そう考えていた。
 だが、その考えがいま、思わぬ形でゼファーに牙を剥いたのだ。
 そして、その秘密を知る人物は今――。

 「カイナン様が、ここにいる……?」
 「答えてくれないんだな。ねえ、ゼファーにとって俺はどうでもいい存在だった?」
 「そんなわけない! 違うのよ、ソロ。私は、ソロに傷ついてほしくなくて……」

 ゼファーは、ソロとの間に深い溝が形成されていく事に恐怖した。
 早くなんとかしないと。そう考えれば考えるほど、ゼファーの表情に暗い影を落としていく。
 そして、そんなゼファーの表情に負の側面を見てしまったソロは、今にも泣きそうな顔で叫んだ。

 「あいつは……ゼファーが倒したあの人形は! 俺の事まで知ってたんだ! 俺の父親が……誰かって!ゼファーも、知ってたんじゃないのか!?」

 その告白にゼファーは息を飲んだまま何も返せなかった。
 人形の言葉に惑わされ、ソロはいま非常に不安定な状態にある。答えを間違ってはいけない。もし間違ってしまったら、ソロが離れてしまうから――。

 「わ、私……」

 追及する視線から逃れるように、ゼファーはわずかに視線を逸らしてしまう。

 「っ……ッ!」
 「ぁ……、ソロ……ッ!」

 ゼファーの伸ばした手を弾き、ソロはゼファーから離れるように反対方向へと走り出した。
 ソロの声を聞きつけてミスラとヨアキムが戻って来たころには、既に彼の姿は見えなくなっていた。

 「ソロを追わないと……!」
 「ゼファー、いったいどうしちまったんだ!?」
 「それが……」

 ゼファーは今起きた事を掻い摘んで説明した。

 「――まさか、旦那がここにいるとはなぁ……なーんかきな臭くなってきたぜ」
 「カイナンの事、ヨアキムは知ってるの?」
 「ま、大人の事情ってやつさ。そんでもって、今は時間が惜しい。ソロの事は俺に任せて、ふたりは先に行っててくれねぇか」
 「えっ、でもこんな広い場所で……」
 「非効率で危険、と思うだろ? でもなぁ、こういう状況で全員散らばると、集合する時にもリスクを背負っちまう。だが、それで固まって動けば非効率。だから、ここは“専門家”の俺に任せて欲しいのさ」

 ヨアキム・イヤムルは、督戦隊の隊員だった。
 その役割は、戦場で逃亡した兵を探し出し“殺す”事。
 つまり、こういった場所での人探しに特化していると言える。

 「……」

 ミスラは何か聞きたそうな顔をしていたが、ヨアキムの真剣な目を見て、あっさりとすべてを委ねる事にした。

 「じゃあ、あとで集合ね! ゼファーもそれでいい?」
 「ええ、そうね……きっと、今のソロは私と顔を合わせたくないだろうし……」
 「決まりだな。じゃ、行ってくるぜ!」

 戦闘で乱れた髪を整え、ヨアキムは自慢げに親指を立てた。
 そして、あっという間にその場から姿を消す。

 「ソロ……どうか無事でいて」

 ソロが消えた方角に祈りを捧げると、ゼファーはミスラとともに構造体の内部へと向かうのだった。


EPISODE4 見えざる意思「私たちはバテシバの幻影をずっと追いかけている……こんな事、いつまで続ければいいの?」


 サマラカンダの中心にそびえ立つ構造体に突入したゼファーとミスラ。
 入口付近に転がる人形たちの残骸を避けながら進んで行った先では、すでに何者かが侵入した形跡があった。

 「空にいた部隊が、突入した……?」

 周囲の状況から、戦闘の状況や敵の数を推察するゼファー。そんな彼女を他所に、ミスラは奥へと続く通路を眺めながら、どこか弾むように言った。

 「ここってなんだか迷路みたい!」
 「ミ、ミスラ!? まだ敵がいるかもしれないのよ?あまり大きな声は――」

 ミスラが「しーっ」と指を立てると、ゼファーにこちらへ来るよう手招きをする。
 通路の奥を訝しげに見つめるミスラの後ろから、ゼファーも様子を伺った。

 「うーん……薄暗くて、あまりよく見えないわ」
 「さっきね、何か聞こえたの」
 「聞こえた?」

 そう言われてゼファーは通路へ向かって耳をそばだてる。
 だが、特に気になるような音は感じられない。

 「多分、ここを進めばニアの所に行けるわ」
 「あっ……もう、ミスラったら」

 すたすたと通路を進んでいくミスラを追いかけ、ゼファーも薄暗い通路の中へと踏み入るのだった。
 通路の半ば辺りに差し掛かったころ、ふとゼファーは通路の奥から漂ってきた何かに顔をしかめる。

 「この臭い……まさか」

 間違えようがない。これは血の臭いだ。
 ゼファーはミスラに止まるよう指示すると、目を凝らして奥の方を見やる。
 盛り上がっているように見えたそれらは、真人の亡骸と頭を破壊された白ずくめの人形たちの残骸だったのだ。

 (ミスラ、ここは私が先行するわ。援護をお願い)
 (うん、まかせて)

 小声でやり取りをしたあと、ゼファーが先頭となり、生きている者がいないか確認する。

 (え……?)

 調べていくうちに、彼らの服装に既視感を覚えた。

 (ソロとオリンピアスコロニーへ移送される時に、こんな出立の兵士たちを見たはず……そう、たしかあれは……ヴォイドの――)
 「…………バ、まぁぁ……ぁぁあ!」

 静寂を切り裂くかのように、ゼファーが調べていた兵士が突然目を覚まし、ゼファーに飛びついたのだ。

 「きゃあぁぁぁぁぁああああああああっ!?」

 亡者の如くゼファーにのしかかろうとした血塗れの男を、ゼファーはありったけの力で突き飛ばす。
 男にもう一度飛びつく力はなかったのか、壁にぶつかるとそのままズルズルと床に座り込んでしまう。
 そして、ゼファーを見据えながらただうわ言のように「バテシバ」の名を繰り返した。

 「この人、まさか私を……」

 どうやら男は、バテシバの面影を持つゼファーをバテシバと勘違いしているようだ。
 男は辛うじて生きている。
 だが、頭部の損傷具合からして、あと数分もすれば死に至るだろう。
 その時だった。
 不意に男は、自分の頭をトン、トンとたたき、ゼファーに懇願した。

 「慈……悲……を、どう、か……」

 男はこう言っているのだ。
 自分の頭をその銃で撃って、終わらせて欲しいと。

 「そんな……」
 「……」

 戸惑うゼファーに、ミスラが一歩前に踏み出す。
 その姿に慌てて彼女を制止したゼファーは、首を左右に振った。

 「ミスラ、貴女にお願いするわけにはいかないわ。これは、私があの人の複製として造られた因果のひとつ……だから、私が彼の嘆きを取り払わないといけない」
 「……うん」

 ゼファーは男が求める女の面影にそえるよう、できる限り優しい口調で語り掛ける。
 カタカタと鳴る銃口を、男へと向けながら。

 「あぁ、バテシバ……さま……」
 「ここまでよく頑張りましたね。どうか、安らかに」
 「あり……、とう……」

 銃声が一発、鳴り響いた。

 「――彼らは、ヴォイドの親衛隊ね」

 男の目蓋を閉じたあと、ゼファーはそう言った。
 そして、ここに集まりつつある者たちの姿を思う。
 カイナンにヴォイド。
 加えて、自分やソロまで来てしまった。
 バテシバに縁のある者たちが、偶然にもこの都市に集結しているのだ。

 (私たちは、バテシバという幻に導かれている?ここに来てから、私はそう思わずにはいられない……)

 あまた渦巻く因縁。
 その果てに何が待っているのか。
 ゼファーはふと、かつて夢に見ていた女の姿を思い浮かべる。

 (もし、私自身も無意識のうちに彼女の思い通りに動かされていたとしたら……私は……)

 ふつふつと湧き上がる不安を押し殺すように、ゼファーは首を左右に振った。

 「行きましょう、ミスラ」

 ミスラは頷き、ゼファーとともに二股に別れた道を進んでいく。
 答えは、きっとこの中枢にある。
 秘めたる想いを胸に、ゼファーは中枢へと向かうのだった。


EPISODE5 この矢に、想いを乗せて「聞こえてる、ニア? わたしはここにいるよ――」  


 ニアを助けに中枢へと向かったふたりを待っていたのは、ニアではない誰かだった。
 ニアの顔、ニアの声で友の想い出を語る女――ニア=バテシバ。
 そんな彼女の願いは、ただひとつ。

 「みんなで同じ明日を迎えるの。痛みも苦しみもない素敵な世界に」

 その純粋なる願いは、人々を祝福するもの。
 だが、その願いが行き着く先は――がらんどうだ。
 静寂に満ち、調和が取れた新世界に生きている者は誰もいないのだから。

 「ダメよ。ぜったい行かせない」
 「それは、私を殺してでも……かしら?」
 「ううん。だって、わたしの願いが先に叶うから」
 「ふふ……そうだったわ。貴方、ワガママだものね」

 旧知の友にそう語り掛けたバテシバは、足取り軽く部屋の中央に立てかけられた十字形の構造物へと向かい――そっと手を伸ばす。

 「リベルタス」
 『――駆動要請承認』

 主の呼びかけに応じたのは、十字形の大型銃――リベルタス。
 「自由」の名を持つその白亜の銃は、幼い頃からニアとともに同じ時を過ごした少女ミスラを、あらゆる危機から護るために手にしたもの。
 だが、その気高き使命を背負った白き刃は、護るべきはずの彼女を傷つけるために使われようとしていた。

 ニアの武器を手にするバテシバに、ミスラは過去を振り返るように穏やかに語り掛ける。
 
 「ニアは、いつもそうだったよね。わたしがワガママ言うと怒るんだから。――――ミトロン」
 『――駆動要請承認』
 「勝った方が正しい。それでいいのよね?」
 「うん。だってそれが、わたしたちのママが決めたルールだもの!」

 その言葉が、戦いの合図だった。
 機先を制したのは、ミスラが放つ光の矢。
 最小限までそぎ落とされた挙動から繰り出される最速の攻撃が、一直線にバテシバへと迫った。
 
 「……ふふ」

 だがバテシバはすでに反応していて、真正面にリベルタスを構える。
 直後、リベルタスに光の矢が着弾し、衝撃が背面に駆け抜けていくが――それだけだった。
 着弾と同時に弾け霧散した光の矢の粒子が、霧のような輝きを放つ。
 その光のヴェールの中に浮かび上がったリベルタスに傷はなかった。
 驚異的な威力を誇るミトロン。
 だが、それと同じ力を防衛力に回すリベルタスの前では無力も同然だったのだ。
 リベルタスから顔を覗かせたバテシバが問いかける。

 「光も、私(わたくし)たちを祝福しているのかしら?」

 その問いかけへの答えは、円を描くように移動しながら立て続けに放たれた矢だった。
 その矢の中には細かな軌道修正が加えられていて、放物線を描くように曲がる矢が紛れ込んでいる。
 矢継ぎ早に繰り出される変幻自在の攻撃ならば、リベルタスを掻い潜ってバテシバへと届く――そのはずだった。
 矢はまたしても的確に防がれてしまう。
 次も、次も、そのまた次も。
 バテシバはあたかも最初から“わかって”いるかのようにリベルタスを構え、すべて受けきってみせたのだ。

 「その癖、まだ直してないのね? あれだけメーネに言われてたのに」
 「あはは、そういうとこばっかり覚えてるんだから」

 明るく振る舞ってはいるが、どこかミスラの笑顔には力がない。
 彼女が今まで放ってきた攻撃は、すべてニアとのトレーニングで培われ、ともに磨きあげてきたもの。
 だからこそ、矢は届かない。
 それでもミスラは、矢を放つ。
 ありったけの想いを乗せて。

 「ふふ、いじらしいわ。とても……」

 バテシバはリベルタスを水平に構え直し、アームの先端をミスラへと向ける。

 「そろそろ、変わってもらえるかしら?」
 「ううん。まだエネルギーは十分だもの」

 ――部屋の中央で両者がぶつかり合う一方。
 その光景を遠巻きに見ていたゼファーは、ふたりに何が起きているのか理解できずにいた。

 「なぜ戦っているの……?」

 超常的な武器を扱うふたりの間に、ゼファーが割って入る余地はない。ましてやミスラと旧知の仲である彼女を傷つけるわけにもいかなかった。

 「何か、私にできる事は――」

 せめて状況を正しく認識しようと辺りに目を向ける。
 バテシバの遺骸に機械種の残骸、そして床で倒れたまま動かないヴォイド。
 状況を整理しようにも、余りにも様々な情報が散乱していて直ぐに理解できそうにない。
 そうこうしているうちに、ゼファーは部屋の隅にいる人物に気がついた。

 「えっ……カ、カイナン様!?」


EPISODE6 感情の発露「今の私があるのは、カイナン様のお陰。私の中で育まれたこの感情を、造り物だなんて言わせないわ」


 「カイナン様……カイナン様!」
 「……」

 ゼファーは自身の創造主であるカイナンの名を叫ぶ。
 深手を負っているにも関わらず、大した処置もしていなかったカイナンの身体は、すでに冷たくなり始めていた。
 できる限りの処置を施しながら、ゼファーは何度も呼びかける。
 それから反応が返ってくるようになったのは、幾度目だっただろうか。
 何度も何度も呼ぶうちに次第に小さな反応を示す。そして、虚ろな目の焦点が合い――ゼファーの姿を捉えた。
 彼の表情に変化は見られないが、その瞳はあり得ないものを目にしたかのように、大きく見開かれた。

 「バテシバ、様……? いや、ちがう。バテシバ様はすでに器に……」
 「カイナン様、私はゼファーです。貴方に造られたゼファー・ニアルデです! 私を忘れてしまったのですか?」

 その瞬間、カイナンはどこか痛むのか、堪えるように何もない空間を睨みつける。

 「……成程。コレが私の支配に抗えた要因か。お前は存外に俗物なのだな、カイナンよ」
 「……さて、どうだろうな」
 「えっ? いったい、何が……」

 カイナンが自分自身を罵倒する。
 そんな不思議な光景を前に、ゼファーは増々混乱してしまった。

 「どうしてしまったのですか、カイナン様! それにこの怪我……もっとちゃんとした処置を施さないと!」
 「人形がひとつ無くなろうが、私には関係のない事」
 「な、何を言って……!」
 「その顔で……さえずるな、紛い物が」

 紛い物。そう呼ばれたゼファーの脳裏に、カイナンとの想い出が蘇る。
 普通の真人とは違い、成長する身体に思い悩んでいたあの日の事を。

 ――あのカイナン様には、私を気遣うような雰囲気があった。どうでもいいと思う者に対して、あんな態度を取るはずがないわ――

 ゼファーは改めてカイナンを見やる。
 見た目は完全にカイナンだが、鋭く憎しみのこもったその眼差しは、彼が見せるものとは到底思えないのだ。

 「貴方は、いったい誰!? 本当のカイナン様をどこへやったの!?」
 「カイナン。お前がそう呼ぶ男は、この私セロ・ダーウィーズの器でしかない。お前たちは、揃いも揃って――」

 その時、ゼファーたちの直ぐ近くを、何かが通り過ぎていった。
 激しい音と小さな悲鳴。
 それは、バテシバとの戦闘で弾き飛ばされたミスラだった。
 太い蛇腹のケーブルがクッション代わりになったようで、派手な音がした割りにミスラは平然とした様子で立ち上がる。

 「いたた……」
 「ミスラ、大丈夫!?」
 「うん。全然へいき」

 そう言ったミスラの表情は、どこか精彩に欠けていて余裕がない。巨大な船にも機械種にも物怖じしなかった少女がここまで追いこまれている姿を、ゼファーは見た事がなかった。

 「ねえミスラ、どうしてふたりが戦うの?」
 「まだ話せてないから。ニアと――バテシバと」
 「え?」

 そう言うとミスラはミトロンを持ち、再びバテシバに向かっていく。
 手を交わし合えば、いつかは届くはず。
 そんな彼女の行いは、傍から見れば無策に近かった。

 「あの子の中に、バテシバが……」

 疑問の解消につながる糸口は無いに等しい。
 だが、同じような状況に陥っている人物が、ゼファーの直ぐ近くにいる。
 ゼファーはカイナンの下へと急ぎ、問いただす。

 「答えて、セロ・ダーウィーズ。あの子の中に本当にバテシバがいるの?」
 「それはお前が知る必要のない事だ」

 取りつく島もない。だがそれでもゼファーは、ひとかけらの手掛かりを得ようと迫る。

 「何度問おうが無駄な事。それを理解できない無知蒙昧さ、愚鈍さ。実に嘆かわしい。主が主ならば、その僕もまた同じか?」
 「~~~っ!」

 ――パン!

 室内に乾いた音が響く。
 ゼファーが、カイナンの頬を思い切りはたいたのだ。

 「き、きさ、ま――ッ!?」

 返す手が再びカイナンの頬をはたく。

 「貴方なんかに用はないわ! カイナン様の中から出ていって!!」
 「こ……ぐ……ッ」

 肉体に取り憑いた死神がカイナンを連れ去ろうとするのを拒むように、ゼファーは彼の頬をはたく。

 「この……、ッ出来、損ない、が……ッ」
 「そう断じられるほど、貴方は優れているの? カイナン様は、貴方が好きにしていいような人形なんかじゃないわ!」

 ゼファーの右腕が大きく振りかぶられた。
 だが、渾身の一発はカイナンに届く直前で遮られた。
 ゼファーの手首をつかんだカイナンは、あらん限りの力でゼファーの腕を握り締める。

 「ただの道具に感情など。我が理想の前には不要だ」
 「ヒトを模して造られた私たちの感情を否定するなんて、馬鹿げているわ」
 「その感情が、ただの造り物だとしてもか」
 「だとしてもよ! 始まりがそうだったとしても、私が生きてきた結果は、造り物なんかじゃない! それが今の私を形作っているの。私は、バテシバの代用品にもなれなかった失敗作よ。でも、彼女が得られなかった感情が私にはある!」
 「それは、何だ?」
 「愛よ!」

 一途な想いを、カイナンへと注ぐ。
 自分が生きる理由、自己を得るきっかけをくれた彼に、この想いが届くと信じて――。


EPISODE7 初期衝動「あの邂逅が、私の中に願いを育んだ。余りにも身勝手な、この私の願いを――」


 堰を切ってあふれ出したゼファーの想いが、初めてカイナンに変化をもたらした。
 揺れる瞳を真っ直ぐに見据えたまま、想いを綴る。

 「ソロと生きてきたかけがえのない日々。みんなと旅した想い出。私たちが互いを大切に想うその心は、私たちが得たもの。ここに芽生えた感情は、すべて本物だわ!」

 カイナンは何も答えない。
 互いに見つめ合うだけの時間が流れていく。
 それでも構わずにゼファーは続けた。

 「カイナン様にも、芽生えていたのではないのですか? 誰かを想い、大切にしたいと願う感情が! そうでなければ……どうして私を……」

 声が震えて、最後の方は消え入るようにか細い。
 カイナンが答えないまま、どれほどの時が経ったのだろう。
 こんな自分では、彼を取り戻す事はできない。
 そう思いかけた時だった。

 「…………ゼファー」

 名を呼ぶカイナンの声は、死の淵にありながらもどこか穏やかで温かった。
 その声色は、ゼファーが知るカイナンのもの。
 彼女の願いが届いたのか、主導権がカイナンへと移っていたのだ。

 「はい、私はここにいます!」

 もはや彼は目がほとんど見えていないのだろう。
 ゼファーの手に自分の手を重ね合わせ、とつとつと言葉を紡ぐ。

 「……研究室で、初めて君を見た時だった。きっと私は……あの時、願ってしまったんだ」

 それは、彼がひた隠しにしてきたもの。
 カイナンの中に芽生えた名前のない感情、それこそがセロの浸食に抗い続けていた要因。

 「彼女が選べなかった未来を、君に――」

 バテシバの願いが地に満ちるまでの間、ほんのひと時でもゼファーに平穏な日々を過ごして欲しい。
 余りにも身勝手な理由。
 だが、それこそが、カイナンの偽らざる願い。

 「あぁ……カイナンさま――」

 その瞬間、ゼファーはカイナンの身体から力が抜けていくのを感じた。
 カイナン・メルヴィアスは、幸せを願った者に抱き留められたまま――死んだ。
 力なくうなだれるゼファー。
 だが、悲しみに打ちひしがれている時間はない。

 「――そう、それが貴方の本当の願いだったのね?」

 不意の声にゼファーが振り返ると、そこには悠然とたたずむ女――バテシバが、小さな笑みを浮かべながら立っていた。
 頬を伝う血を拭おうともせず、まるで懐かしいものを見るような目つきでゼファーを眺めている。
 バテシバ・アヒトフェルによく似た面影を残す彼女を。

 「バ、バテシバ……!」

 ゼファーは負けじと見つめ返す。
 少しでも気が緩んだら心が飲みこまれてしまう。そう思わせるほどに、バテシバの瞳は昏く底が知れない。
 神経をすり減らすような沈黙が広がる中、最初に口を開いたのはバテシバだった。

 「ふふ……とても、不思議な気分ね」
 「私みたいな複製を見ても、驚きもしないのね」
 「ええ。私にとって、肉体に意味はないもの」
 「だったら、どうしてニアの身体を器になんか! 帰還種の身体を使ってまで蘇って、そんなに戦争を続けたいの?」
 「いいえ。戦争を経ても、世界が変われるほど人類は賢くなる事はできないわ……」
 「それでも、私たちは変わっていける。小さくても今より少しでも変われるなら、より良い道を選べるはずよ」
 「世界が変わったと思えるまでに、あと何回同じ事を繰り返すのかしら?」
 「何回でもよ」

 真剣にそう言ったゼファーの眼差しに、バテシバは嘲るでも否定するでもなく、ただ微笑みを返す。

 「ふふ……貴女、とてもきれいな瞳をしているわ。きっと……幸せな日々を送ってきたのね?」
 「私がそうだったように、貴女も幸せな日々を送れるはずよ。だから争いなんて――」
 「だから、これから私がみなさんに幸せを分け与えようと思っているの」
 「分け与える……? 何を言って……」
 「私は……みなさんを連れていきたい。痛みも苦しみもない世界へと」

 そう語るバテシバの顔は、幸せをうたう聖女そのもの。
 だが、その瞳に光はなく、どこまでも昏い。
 ゼファーには、彼女がとても幸せを願っているように見えなかった。むしろ彼女が見ている世界には――

 「まさか、この世界そのものを……」

 バテシバは微笑むだけで何も答えない。
 だが、その笑みがすべてを語っていた。

 「貴女の独りよがりな考えで、未来を閉ざさせるわけにはいかない。みんなの……ソロの未来は私が護るわ!」
 
 高らかに叫び、ゼファーは腰に佩(は)いた剣を抜き放つ。

 「それが、貴女の答えかしら」
 「そんなに死にたいなら、貴女ひとりで死ねばいい。貴女の勝手に私たちを巻きこまないで」
 「ええ、これは私のワガママなの。そうしないと、みんなで素敵な明日を迎えられないでしょう?」
 「……ッ!」

 この女を、必ず止めなくては。
 そう考えたゼファーはバテシバを牽制しつつミスラの姿を目で追った。
 だが、ついさっきまでバテシバと戦っていたはずのミスラがどこにも見当たらない。
 あれだけの力を持つ彼女が、そう簡単にバテシバの手にかかるとは思えなかった。

 「あの子なら夢を見ているわ」

 ゼファーの意図に気づいたバテシバは、ある場所を指先で示す。
 ミスラは、台座の上に寝かされたまま微動だにしていなかった。

 「ミスラに何をしたの!?」
 「私はただ願いを叶えてあげただけよ。彼女は私の気持ちを知りたがっていたから」


EPISODE8 貴女に、素敵な夢を「ふふ……これは貴女が望んだ事。夢から醒めたその時に、もう一度会いましょう?」


 ――時は少し遡る。
 ミスラとバテシバの戦いは、中距離での戦いから近距離戦へと移っていた。
 戦いの余波がゼファーへと及ばないという事はもちろん、光の矢を消滅させるリベルタスを攻略するために、ミスラは近接戦を選んだのだ。
 養母のメーネに近接戦を教えこまれたミスラは、弓を使わなくとも優れた体術で戦う力がある。
 だがそれは、ニアにとっても同じ事。
 手の内を知り尽くすふたりの戦いは五分と五分。
 だが、カンダールにいたあの頃とは違う事があった。
 それは、体格差だ。
 いくら素早く動き回れるミスラであっても、背丈も手足もミスラより成長しているニアとの間には、明確な差が生まれていたのだ。
 もうひとつは、ニアがリベルタスを盾として、そしてもう一本の手足として扱う戦術を遊撃隊で磨き上げてきた事。
 経験に裏打ちされたニアの戦闘法は、中距離戦以上にミスラにとって不利なものとなった。

 「は――ッ!」

 ミスラの隙を突き、リベルタスの全体重を乗せた一振りがミスラを襲う。
 ミトロンを盾にして衝撃を和らげるミスラだったが、勢いを殺しきれずに後方へと弾き飛ばされた。

 蛇腹のチューブの上に落下した事で、ダメージが最小限に済んだミスラは、再びバテシバの前へと躍り出る。

 彼女を上回るには、彼女が持つニアの記憶にない戦いをするしかない。
 そんな戦いは――

 「そうだわ!」
 「ふふ……まだ諦めていないのね?」
 「わたしは、わたしが納得するまで続けるわ!」

 ミスラは、矢を連続で発射したあと、全力でバテシバ目掛けてダッシュした。

 「何度やっても、結果は変わらないわ」

 矢によって動きを止められたバテシバがすべての矢を消滅させたその時、激しい衝撃がバテシバを襲う。
 最初、バテシバはそれが矢の着弾によるものだと思った。
 だが、身体に伝わる感触はまるで別物だ。
 衝撃の正体、それは――ミスラ自身だった。

 「――!?」

 バテシバとの戦いの中でミスラが見出したのは、“全力で体当たり”という無謀にも程がある作戦とも呼べない作戦だった。
 全力で加速したミスラの身体は、見事にリベルタスごとバテシバの身体を吹き飛ばしたのだ。

 「…………くっ」

 派手に吹き飛ばされ、身体は激しく転がりながら冷たい床に打ちつけられた。
 バテシバの身に、長らく味わっていなかった痛みが全身を駆け巡る。
 ままならない呼吸を繰り返し、どうにか身を起こそうとしたその時。
 腹部に重みを感じた。
 それは、仰向けの身体にまたがったミスラだった。
 ミトロンを構えながら、勝ち誇るように笑みを浮かべる。

 「これで……わたしの勝ちね!」
 「ふ……ふふ。満足、できたかしら?」
 「うん。だから教えて、ニアと“あなた”のこと」
 「ええ、もちろん。教えてあげるわ……“好きなだけ”」

 突然、「プシュ」と何かが抜けるような音がした。
 ミスラは自分の脚に違和感を覚え、音の正体を探る。
 視線の先では、バテシバが握りしめた筒状の何かがミスラの脚に突き刺さっていたのだ。

 「え? なに……これ……」

 異変は、瞬く間に起き始めた。

 「貴女は、彼女の事を何もわかっていないのね。あぁ、かわいそうな私……」
 「ぁ……れ……」
 「これは、あの子が用意していたの」

 ミスラはその場で立ち上がろうとするが、それが余計に体内に入った異物の巡りを早くしてしまう。
 平衡感覚に狂いが生じ、ミスラは糸が切れた操り人形のようにバテシバの腕の中へと倒れこんだ。

 「……ぃ……にあ……?」

 ミスラはまだ諦めていないのか、何度も何度も立ちあがろうともがいている。
 だが、これっぽっちも力を入れていないバテシバの腕の中から抜け出せず――抱きかかえられたかと思うと、そのままどこかへと運ばれていく。

 「貴女がそう望むなら……すべて教えてあげるわ。
“私”の事を」

 するとバテシバは、コントロールユニットに控えていた人形――セロに、何か指示を出した。
 続けて、ミスラを空いている台座の上へと降ろし、身体を器具で拘束すると、頭に大型のヘッドギアを被せた。

 「あ……ぅ……ぅぅっ!」

 上手く回らない舌で抵抗するミスラに、バテシバはどこまでも穏やかな口調でそっと耳打ちする。

 「貴女にとって、幸せな夢になるといいわね」

 そう言う間にも、装置は緩やかに起動し始めていた。
 振動を肌で感じ、ミスラが最大限に抵抗する。だが、身体はまだ言う事を聞いてくれない。

 「おやすみなさい、ミスラ」
 「ぁ――――」

 ヘッドギアの内側で、ほんの一瞬だけ強い光が瞬いた。この装置は、製造した真人に疑似記憶を転写する機能を備えている。
 そして、いまミスラが見させられているのは――人の業のすべて。
 すなわち、バテシバ・アヒトフェルの記憶だ。

 「私の願いが叶うまで、そこで待っていてね?」
 「ぁ――、――――にあっ」

 もがき苦しみながら、なおも友の名を呼ぶミスラ。
 切なる声に、ふとバテシバの頬から一筋の涙が伝い落ちる。

 「大丈夫よ、ニア。ミスラは強い子だもの」

 唄うように、あやすように。
 バテシバは涙に濡れた頬を愛おしそうに撫でるのだった。




■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
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