小仏 凪／波瀾の新入生編

　イロドリミドリのキーボード担当。
　普段は丁寧な物腰だけど、バンドでは歯に衣着せぬ物言いでメンバーを引き締める、イロドリミドリのサブリーダー！
　小さな頃から続けているクラシックピアノで培った音感や音楽理論の知識はバンド内では随一で、バンドでの曲作りには欠かせない、小さな立役者。

　成績もよくしっかり者の女の子だが、バンドに入ってからは個性的なメンバーとの出来事が盛りだくさん。
　去年は尊敬する演奏家・那知との演奏や、その那知になぜか勉強を教えるなど、慌ただしい日々を過ごした。
　そんなバンドに誘ってくれたなずなへの感謝は深く、また同級生のなる・白奈との関係も、人見知りだった凪の性格に良い影響を与えた、とか。

　新入生を迎えて賑やかな４月の舞ヶ原では、この時期恒例である、部活動の新入生勧誘週間が始まる。
　玄関を行き来する新入生に対して各部員たちがチラシの配布や声かけなどを行い、部員ゲットを目指してワイワイ賑やかに奮闘するわけだ。

　イロドリミドリの部活事情はなずなが手芸部所属なくらいだが、もちろん校内には多くの部活動がある。
　体育系も元気に活動しているが、音大付属高校だけあってか、吹奏楽部などといった音楽系の部活動は特に盛んで、それ以外にも規模の大小を問わずいくつかの部が活動している。
　中にはごく少数で運営するマニアックな部や同好会もあるのだが、自由な校風の舞ヶ原のこと、とやかく言わずの放任主義的に、各々の活動が奨励されている様子。

　イロドリミドリと撫子は新しい軽音部のアピールのためにわざわざ楽器を持ち出して演奏を始めたようだが、舞ヶ原の賑やかな春は、今年はますます騒がしいことになりそうだ。

　放課後のリハ時、スタジオへ来訪者あり。
　新入生で、名前は五十嵐撫子さん。
　先輩たちを軽音部と勘違いし、入部希望に来たとか。
　なるちゃんが芹菜先輩を紹介したことで、先輩が、その…やる気を出してしまい、私たちも協力して部活を作ろうか、ということで合意。
　…書いていて、すごいスピード感だな、とも思う。

　部活に関する校則を確認してみたところ、あまり大掛かりな手続きが必要なわけではなく、先生の協力が得られれば届出などの準備も自分たちでできそう。
　うん、これならやれる、かな。
　…なんだかいつもなし崩し的に協力してる気はするけど、既にすっかり慣れっこな自分にも、やや驚く。

　ふと思えば、今まで部活動に入ったことはないし、学校で直接の後輩ができる機会は、なかった気がする。
　イロドリミドリも部活ではなかったし、こういうこともないかと思っていたが…
　ちょっと、嬉しいかも。

　先日なるちゃんの提案で集まってはみたものの、なんだか先輩のお店ではちゃんとしたお話をする雰囲気にはならず…
　結局、夕方までお茶を飲んでおしゃべりをする会になってしまった。
　やはりミーティングの場合は然るべき場所でやらないと、あっという間にだらけてしまうことを痛感。
　先輩のお店がちゃんとしてないわけではないが…

　とはいえ、今日の会議ではちゃんと完成させることができた。
　あいにく先生は帰られていたようで、今日の提出は叶わなかったが、後日改めて設立届を提出するつもりである。

　気がかりなのは明坂先輩がかなり危ない角度でドアにぶつかっていたこと。
　スタジオのドアは重くて危ないので、撫子ちゃんにはもう少し配慮して行動してもらうようにしないと…
　先輩として撫子ちゃんには、高校生らしい節度ある行動をとるよう、指導していこうと思う。

　掲題の件に興味があり、休み時間を利用して調査。
　図書室で、学校行事や部の活動記録を探した。

　軽音部の記録は思いの外各所に見つかり、４年ほど前までの記録には、新入生歓迎会、三送会などといった生徒主催系イベントへの参加記録が存在。
　が、３年前の資料からは、軽音部が参加した形跡自体もなくなっており、先生の言う通り、この時期に事実上消滅した、と考えるのが自然と思われる。

　そして、過去の学園フェスに関する資料。
　吹奏楽部や有志の楽団などといった音楽系の発表は開かれていたが、撫子ちゃんが言うようなライブ的な催しの記録は、少なくとも公式の資料に記載なし。
　ただ私たちが出演したような、記念講堂のステージで私たちのようなバンドが演奏するようになったのは意外と最近、２年前（先輩たちが１年生の時）からと判明。
　３年前、学園フェスと軽音部には同時期に何らかの問題があり、それが今の状況の原因になっている…？
　推測の域を出ないが、とすればこの二つに何が…？